陽炎の立つ頃に-陽炎型ミステリーゲーム-   作:遠野静

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導入終了・談話室にて

導入終了・談話室にて]

 

野分「…………」

 

秋雲「さて探偵さん、満足したかい?」

 

 現状で見るべき物は、もう無いと判断し、私は首を縦に振った。

 ……そもそも、未だ最初の事件も起きていないのに、これから起こる事件の検証自体に無理があるのだ。

 

秋雲「おけおけ。それじゃあこれからは自由時間……ていうか、ゲームスタートかな。

 各員自由に過ごしてくれよー? もちろん『犯人』は事件を起こすのも自由だよ!」

 

陽炎「……自由にって言うけど、もう夕食時間よ?」

 

秋雲「あ、陽炎姉さんとその他料理得意組はオナシャス! ――いたいいたいいたい! いたいって!」

 

 姉妹のじゃれ合いを傍目で見ながら、私はソファに座って息を吐いた。

 

[newpage]

[chapter:問題編一日目。23時]

 

 夕食を食べ終え、姉妹達はそれぞれに割り当てられた部屋に戻った。

 私も考え事をしながら時計を眺めていると、23時を過ぎた頃、コンコンとノックの音がした。

 

 ……『犯人』の襲撃? かと思ったけれど、良く考えれば『探偵』である私は殺害対象にならない。

 それだけでも、他の姉妹より多少は優位に立てているのか……。

 そんなことを考えていると、僅かに扉が開いて、不安げな声が聞こえた。

 

舞風「野分~……今、いる~……?」

 

野分「舞風……? ええ、どうしたんですか?」

 

舞風「……」

 

 ガチャッと音がして現れたのは、舞風。

 舞風は私の部屋に入ると、暗い廊下をきょろきょろと見回して、そっと扉を閉めた。

 

舞風「はああ……なんか、怖かったぁ……」

 

野分「何が怖いんですか?」

 

舞風「だって、廊下真っ暗だよ? 本当に一寸先は闇って感じでさ。足元も良く見えないし……足音を消して近づかれたら、至近距離まで絶対に分かんないもん」

 

野分「……なるほど。それは有意義な情報ですね」

 

 舞風の言が真実だとすれば、廊下も殺害現場になりうる。

 開放的な空間だったので盲点だったが、扉を閉めてしまえば部屋から覗くことは出来ないし、防音なので音も響かない。

 そう言う意味では、窓から見える中庭よりも殺害現場になりうるだろう。

 

 ……いや、どうかな。

 

 誰が犯人かは分からないが、性格次第では、これ見よがしに中庭で犯行に及ぶ人もいそうだ。

 そうなった場合、無知故か挑発なのか分かりにくい。そうなると――

 

 ……いや、まだ起きてもいない事件を考察しても意味は無いか。

 

 ふと我に返ると、舞風が不安気に眉を寄せているのが目に入った。

 

野分「どうしました?」

 

舞風「野分、お疲れ?」

 

野分「……いいえ、まだ事件も起きてないですしね。単に現状を纏めているだけですよ」

 

舞風「ふうん……ま、気楽にやろ~よ?

 それに、野分なら事件が起きてもすぐに解けるよ。だって、野分って頭良いもん」

 

野分「……だといいですけどね」

 

 自分の思考に埋没すること自体は、好きな方だ。

 学習も嫌いじゃないので、知識に関しても相応の自負はある。

 

 ……ただ、だからとて私に探偵としての素養があるかどうかは、否だろう。

 私は理論に拘るあまり、柔軟な発想が出てこない時がある。

 

 例えば陽炎姉さんや黒潮姉さんなら、常識性と柔軟性で、正当な推理を立てられるのだろう。

 あるいは不知火姉さんなら、常識の埒外から真理を当てていたかもしれない。

 

 ……けれど私には柔軟な思考も無ければ、常識を凌駕する発想も出来ない。

 

野分(逆を言うと、姉さん達が犯人になっていたら、私は勝てる気がしないのですが……)

 

野分(――ただ、柔軟な発想が出来ないことを自覚し、多面的に攻めればあるいは……か)

 

 柔軟な発想が出来ないのなら、複数の角度から思考を掘り下げるしかない。

 可能な限り証拠を集め、あらゆる状況を想像し、浮かんだアイディアを矛盾なく繋げていく……。

 

 ――つまり、とにかく思い付いたことを言い続ければ、どれかは当たるだろうと言う考え。

 推理の絨毯爆撃だ。下手な鉄砲なんとやらだが、私個人としてはあまり好きな考えじゃない。

 

野分(とはいえ、私にそれ以外の推理が出来るとも思わない)

 

 問題は、タイミングだ。

 『探偵』が推理を披露出来るのは一回だけ。しかも、その場で犯人を当てられないのであれば、その時点で探偵の敗北が確定する。

 しかし、推理に時間を掛け過ぎるのも問題だ。

 

野分(過半数を殺害されても探偵の敗北になる……と)

 

 ……つくづく、私に探偵役は似合わないな。

 被害者が増えるのを理解しているのに、ギリギリまで推理をしたいと思っている。

 なんなら、被害者が増えた方が証拠が増えて助かる……なんて、不謹慎なことまで考えている。

 

 と、私が勝手に落ち込んでいると、隣に座った舞風がにへらっと微笑みを浮かべた。

 

舞風「なんか久しぶりに姉妹揃ってる感じするし……。

 ほら、野分が来てからだと、あんまりこういうこと無かったもん」

 

野分「む……確かに、私の着任は遅かったですが」

 

舞風「だから、野分や姉さんたちと一緒に休日を過ごせるの、ちょっと嬉しいな。理由はともあれ秋雲に感謝だよ」

 

野分「……しかし、ゲームが終了しても期日が残っていた場合は?」

 

舞風「だいじょーぶ。シルバーウィークが終わるまでは、この旧館を皆で使ってもいいって! だから野分は推理頑張ってね。ゲームなんだから、楽しまないとさ!」

 

野分「…………ええ、そうですね」

 

 舞風のおかげで、少しだけ気が楽になった。

 

 ――それからは、特に語ることもない。

 しばらく舞風と話して、日付が変わる前に舞風を部屋に戻した。

 彼女が自室に入るのを確認後、疲れからか、ベッドに横になると共に即座に就寝。

 夢すら見ない深い眠りの後――

 

 ――私は、血の跡をみた。




これにて導入は終了となります。予め言っておきますと、この時点での推理は不可能です。
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