第一の事件・不知火の証言
不知火「不知火は夕食を食べた後、黒潮の部屋で話をしていました」
野分「それは何時から何時までですか?」
不知火「昨夜の19時から今日の1時までです。ずっと黒潮の部屋にいましたが、シャワーを浴びる時間があったので、その時だけは黒潮から目を離していました。22時~22半までです」
野分「なるほど。部屋に戻る際に変わったことはありましたか?」
不知火「陽炎に会いました」
野分「陽炎姉さん?」
不知火「はい。キッチンから戻ってくるところでした。時刻は1時頃でした」
野分「手ぶらでしたか?」
不知火「凶器の類は隠し持っていない……少なくとも、犯行現場に落ちていた刃物を隠す場所は無かったかと。
何をしていたかと聞くと、明日の仕込みをしていたとのことでした」
野分「姉さんらしいですね」
不知火「部屋に戻った後はすぐ就寝しました。後のアリバイは無いですね。
朝になって、秋雲や他の皆が集まっていたので11号室を確認すると、谷風が死んでいました」
野分「……黒潮の部屋から出た時、不審な人影等は目撃しましたか?」
不知火「していません」
野分「ありがとうございました」
第一の事件・黒潮の証言
黒潮「大体は不知火と被ると思うけど、ウチの部屋で話をしとったで。時間は19時から……ええと、日付変わった後くらいまでかなぁ。
シャワーは不知火に先に使ってもらったんで、22時半~23時半まで、ウチは不知火から目を逸らしとった」
野分「黒潮姉さんは部屋を出たりはしてないんですね」
黒潮「まあうちの部屋やしね。不知火が自室に帰った後は、そのまま就寝したかな。
就寝時間は……1時過ぎくらい?
後のアリバイは無いってことになるんやろな。谷風が見つかって騒ぎになるまで、そのまま寝てたって感じやし」
野分「ありがとうございました」
第一の事件・初風の証言
初風「……あんたも大変ね。
あたしは、そうね……夕食を終えてからはずっと雪風の部屋にいたわ。一人でいるより三人でいるほうが狙われずに済みそうだもの。
……そ、三人。私、雪風、天津風ね。……シャワーを浴びた時間? そうねえ。
あたしが21時頃。雪風が22時頃。天津風が23時頃だったかしら」
野分「部屋に戻ったのは」
初風「0時ちょうど。時計は確認したから覚えてるわよ。廊下は真っ暗だったから、何も見えなかったけど。別に部屋の明かりが漏れているなんてことも無かったわね」
野分「今朝はどうでした?」
初風「今朝? ……あたし、あんまり寝つきが良くないから朝は弱いのよ。確か、あたしが目を覚まして谷風の部屋に来たときには、全員揃ってたと思うわ」
第一の事件・雪風の証言
雪風「夕食の後は、雪風の部屋で初風、天津風の三人でいました。
……シャワーを浴びた時間ですか? 詳しくは覚えてないですが、初風が一番、雪風が二番、天津風が最後でした。
天津風がお風呂を上がった辺りで、ちょうど0時になったので、天津風と初風は自分の部屋に戻っていきましたね」
野分「ふむ……雪風姉さんは部屋から出ていないんですね」
雪風「はい。後はすぐ就寝しました。一応寝る前に中庭も確認しましたけど……」
野分「中庭……ああ、窓が面しているんでしたっけ……」
雪風「今朝はみなさんと同じです。陽炎姉さんと浜風、秋雲が騒いでいたので確認したら、谷風が死んでいました」
野分「……一応聞きたいのですが、例えば雪風姉さんが窓から包丁を投げて、それが風や突風にあおられて谷風の部屋に向かった、とか」
雪風「すんごい変化球投げてきますね……た、確かに雪風の幸運の女神なら、100回に1回くらいはそんな奇跡が起きるかもしれないですが……」
秋雲「はいはい『GM』さんだよー。
そういう幸運的要素が入るところは考えなくていいよ。ピタゴラ殺人は扱いに困るし。
……ていうか、それがOKならどんな不可能犯罪も可能になっちゃうでしょ? 雪風姉なら」
野分「言ってみただけです。それに一度投げただけで凶器も一つなら、複数個所の刺し傷を証明出来ない。
この辺りの定義をちゃんと確認したかっただけですよ」
雪風「はは……野分、頑張ってくださいね?」
野分「ありがとうございます」
第一の事件・天津風の証言
天津風「……殆ど前二人と同じ内容だと思うし、せっかくだから事実だけ整理して伝えてあげる。
夕食を終えてから、私と初風と雪風の3人でずっと雪風の部屋にいた。
シャワーを浴びたのは初風が21時、雪風が22時、私が最後で23時……多少誤差はあっても、全員1時間前後ね。
部屋に戻ったのは0時前後。この間、少なくとも私が見ていた間は、誰も部屋を出ていないわ」
野分「……雪風姉さんが窓を開けたりとかは?」
天津風「……あんた、まだその可能性を考えてるの?」
野分「いえ、確率の関わる要素は無視しています。
……ただ、だからって窓から殺人が行われなかったとは言いきれない。
『GM』、糸や機械を使っての遠隔殺人なら可能ですよね?」
秋風「それを可能とする凶器があればね?」
天津風「なるほどね……でも、雪風も初風も、もちろん私も窓には触れてないはずよ。うろ覚えだけど」
野分「ありがとうございます」
第一の事件・時津風の証言
時津風「困ったことに、あたしずっと部屋に一人でいたんだよね~」
野分「……ずっと一人ですか」
時津風「そそ。だから他の人にアリバイを証明してもらうのって出来ないんだよ。明日のこととか考えてたら興奮で眠れなくてさー」
野分「それはまた難儀ですね……一度も部屋を出なかったんですか?」
時津風「結構遅くに一度部屋を出たよ! で、舞風とすれ違った!
確か23時前だったかな? 野分の部屋に行くって言ってたけど?」
野分「ああ、来てましたね……他に見たものはありますか?」
時津風「それがさ、真っ暗だから何も見えなかったんだよね。あの暗さだと2メートル先も見れないんじゃない?」
野分「なるほど……ありがとうございます」
時津風「もしかしてあたしって疑われてたりする? する?」
野分「さあ……とりあえず、全員のアリバイを聞いてからですね。ちなみに今朝は?」
時津風「うん! 寝てた! 気づいたのはほぼ最後だ!」
野分「ありがとうございます」
第一の事件・磯風の証言
磯風「うむ、一人で寝ていた」
野分「就寝時間は何時頃でしたか」
磯風「19時に夕食を終えて部屋に戻り、すぐにシャワーを浴びた。後は特になにもすることが無かったから、そのままベッドでぐっすりだ」
磯風「私は寝つきが良い方だからな、21時には寝ていたんじゃないか?」
野分「早いですね」
磯風「当然、これを立証出来る他者は居ないから、疑われても仕方ないが。
今朝は……普通に起きたな。秋雲、陽炎姉、浜風、舞風、野分が集まっているのを確認して、谷風を見に行った。
アレは今朝の6時頃、だったか?」
野分「ありがとうございました」
第一の事件・浦風の証言
浦風「うちも一人じゃったねえ。部屋で読書しちょったき」
野分「読書ですか……シャーロックホームズ?」
浦風「あまり探偵物とかは読んだことはないんじゃけど、勉強になるかと思っての」
野分「……ちなみに、部屋を出たりは?」
浦風「しとらんなぁ。でも寝たのは結構遅くて、0時過ぎじゃったかな」
野分「その間はアリバイ無しですか」
浦風「うん。で、目を覚ましたのが6時頃。確か浜風に呼ばれて、確認に行ったら谷風が死んどった」
野分「なるほど……ありがとうございます」
浦風「野分、探偵似合っとるねえ」
野分「……ありがとうございます」
第一の事件・浜風の証言
浜風「19時から0時まで、陽炎姉さんと一緒にキッチンにいました。
明日の献立を確認したくて……この事は、陽炎姉さんに聞いてもらえたら裏付けが取れると思います」
野分「……ふむ」
浜風「その後、部屋に戻ってシャワーを浴び、1時過ぎに就寝しました。
その間、廊下とキッチン、自室に違和感はありませんでした」
野分「……0時までキッチンに居たんですよね? その間に誰か人が入ってきたりはしませんでしたか?」
浜風「……私の記憶する限りでは、私と陽炎姉さん以外がキッチンに入ってきた覚えはありませんね」
0時までキッチンには誰も侵入していない……。
では、凶器の包丁が抜き取られたのは、その後になるのか?
野分「……確認します。陽炎と浜風は同時にキッチンを出ましたか?」
浜風「はい」
野分「では、その際に包丁を持ち出したりは?」
浜風「野分……ゲームとはいえ直球すぎます。私も陽炎も手ぶらでした。
……そもそも、あの刃渡りある凶器を、誰かと一緒にバレずに持ち運ぶのは不可能でしょう」
浜風「ちなみに、私と陽炎は夕食後に食堂を出る人も確認していますが、刃物を持ち出した人物はいませんでしたよ」
野分「……今朝はどうでしたか?」
浜風「今朝は……私がキッチンに行った時には、既に陽炎が起きていましたね。朝食の準備をするから皆を起こしてと言われたので、順々に扉を叩いて反応を確認して……」
浜風「谷風だけ反応が無かったので、中を見たら……」
野分「つまり、浜風姉さんが第一発見者だったと……」
浜風「その後、事情を聞きつけた陽炎姉さんと秋雲がやってきて……少し遅れて野分や他の皆が起きてきた、という感じでしょうか」
野分「……ありがとうございました」
第一の事件・舞風の証言
舞風「舞風にも聞くの?」
野分「一応、聞いておく必要がありまして……すいません」
舞風「いやいや。だって野分は『探偵』だもんね!
舞風は、そうだなぁ……23時に野分の部屋に行ったよね? その前に、廊下でちょっと時津風と話をしたよ?」
野分「はい。時津風もそう言っていました」
舞風「廊下が暗かったから、急に時津風が出てきてびっくりしたよ。んーと……それまでは部屋にいたかな。ぼけーってしてても暇だから、野分の部屋に行こうと思って」
野分「ふむふむ……」
舞風「で、野分と1時間くらい話をして……日付が変わる前には部屋に戻ったよね?
あとは寝てたから……その間のアリバイは無いってことになるのかなぁ?」
野分「今朝は、野分が起こすまでは寝ていましたしね。
……分かりました。ありがとう、舞風」
舞風「えへへ。舞風、野分の役に立てたかな」
第一の事件・陽炎の証言
陽炎「遅かったじゃない」
野分「陽炎姉さん、キッチンで後片付けをしていたじゃないですか。
邪魔にならないよう、気を利かせたつもりだったのですが」
陽炎「それだけじゃないでしょう? ふむ……忠告通りに来たみたいね?」
野分「まず、陽炎姉さんのアリバイを教えてください」
陽炎「はいはい。
……そうねえ、夕食を食べ終わってあんたらが部屋に戻ったあと……つまり19時~ね。
しばらく浜風と一緒に後片付けと、明日の献立のことを話していたわ。軽く雑談もね。
それを0時まで続けて……あ、日付変わったなーと思ったから、浜風と別れて一度部屋に戻った。
……ここまではオーケー?」
野分「はい。浜風の証言とも一致します」
陽炎「で、部屋でシャワー浴びたんだけど……1時過ぎたくらいかな? キッチンに忘れ物をしたから取りに戻ったの。それで、キッチンから戻る時に不知火と話をしたわ」
野分「……不知火姉さんの証言と一致しますね。その後は?」
陽炎「お部屋に戻って就寝したからアリバイ無し。
……5時頃に目を覚まして、部屋を同じように起きてきた浜風と朝食の話をして……後は知ってるでしょ?」
野分「まあ、そうですね……つまり陽炎姉さんは19時~0時の間、1時の二回キッチンにいたんですよね。その際に変わったことはありましたか?」
陽炎「遠回しな言い方しなくて良いわよ。……言っておくけど、包丁なんてちゃんと見てないから分からないわよ?」
野分「分かりました」
陽炎「他に質問は?」
野分「あります。陽炎姉さんは、あの犯行現場を見て何かに気づいたようでした」
野分「それを教えてほしい。いいですか?」
陽炎「んー……あたしがそれを答えていいのかな?
あたしは『探偵』じゃないんだけど、推理を聞かせてもいいものか」
野分「どうなんですか? 『GM』」
秋雲「別に構わんよ~。基本的に『探偵』と『犯人』以外は何するも自由だしね。もちろん、探偵の推理に協力してもいい」
陽炎「なるほどね……じゃあ言うけど。谷風の死体の周り、床に血糊が飛び散ってたじゃない?」
野分「……そうですね。床に水たまりが出来ていましたが……」
陽炎「あれ、少なすぎない?」
野分「え?」
陽炎「ああっと……ごめん。少ないって言い方は違うか。地味すぎるって感じかな?」
野分「ええと……ああ、なるほど」
陽炎「そう。どこからぶっ刺したかは知らないけど。あの刺し傷って首もかっ切っていたんでしょ?
そうでなくても、あれだけザクザクブッ刺したなら、もっと血が壁や天井、家具に散らばっていてもいいと思うの」
野分「ふむ」
陽炎「でも、あの現場の血糊はあくまで谷風を中心に水たまりを作ってるだけだった。現場は見たままでいいんだよね?」
秋雲「谷風が死んでないこととか、怪我がないこと以外はね」
野分「なるほど……留意しておきます。さすがは陽炎姉さん」
陽炎「さすがねえ……うーん。それじゃあ、さすがついでにもう一つヒントね」
野分「はい?」
陽炎「このゲーム、『犯人』は一人だけど、それ以外の『プレイヤー』の言動も注意した方が良いと思うわよ」
野分「と、言うのは」
陽炎「だってこのゲームさ、『プレイヤー』にうま味がないじゃん?
『探偵』・『犯人』にはそれぞれに勝利条件と目的があるけど、他の『プレイヤー』は彼らの勝負に付き合わされてるだけ。
で、今秋雲が言ったみたいに『探偵の推理に協力するも、行動は自由』なわけ。
――あ、でも殺害は出来ないんだっけ?」
野分「ああ……つまり」
陽炎「そういうこと。そりゃあ本気で命が掛かった状況なら、そうも言ってられないだろうけど……これはあくまで『ゲーム』なの」
陽炎「ゲームなら、やっぱ自分が楽しめないと。でしょう?」
陽炎「ただの『プレイヤー』でも、『犯人』側に肩入れする奴もいるかもね。仲良しだからとか、そっちの方が楽しいとか……あるいは、手伝えばアイスを奢るとか。まあ理由はなんでもいいけど」
野分「……共犯者が出るかもしれないということですね。
殺害そのものは『犯人』にしか出来なくても、例えば口裏を合わせたりすることは出来るから……」
陽炎「そいうこと。だから、二・三人でアリバイを持ってる子達も疑って掛かった方が良いと思うわ。実は共犯者で、貴女の事を騙そうとしてるかもしれない」
野分「ふむ……」
確かに、陽炎姉さんのセリフは正しい。
陽炎姉さんのように『探偵』に協力する『プレイヤー』もいれば、『犯人』に協力する『プレイヤー』も居るかもしれない。
野分「……今の推理を聞いていると、やはり陽炎姉さんの方が探偵に向いていると思いました」
陽炎「あんまり褒めないでよ。一応『探偵』はあんたなんだから。それに――」
野分「――こんな風に『探偵』に協力しているように見える陽炎姉さんも、実は私の推理を誘導しようとしている『犯人』……あるいは共犯者かもしれないということですね」
陽炎姉さんが、二ヤリと笑った。
陽炎「……なんだ、分かってるじゃない。
その通り。あたしがどうかはさておき、あたしの言葉だからって信用していいわけじゃない」
陽炎「ヒント、必要無かったかもしれないわね。思ったより野分、推理向いてるじゃん。もっと硬いかと思ってたわ」
野分「そんなことはありませんが……むしろ、ガチガチで思考してるからといいますか」
陽炎「ま、そこまで分かってるならあたしからこれ以上言うことはないわ。あんまり助言しすぎて、すぐにゲームが終わってもつまらないし」
野分「つまらない……やはりそこですか?」
陽炎「そりゃそうよ。そりゃあちょっと趣味が悪いけどさ、ゲームなら楽しまないとね?
野分もそんな眉間に皺をよせなくてもいいのよ?」
野分「むう……いえ、これはこれで新しい自分を見つけられそうなので、試している最中です。
……それで、陽炎姉さんが楽しむ前にゲームが終わったら申し訳ありませんが」
陽炎「だは。これには引っかからないか。ま、あたしから言いたいのは以上。他に聞きたいことはある?」
野分「いいえ。大丈夫です。ありがとうございました」
テンションも大事かもしれません。乗り気か否かとか。
次回は再びの現場検証です。