『第一の事件・夕食。共犯者』
『第一の事件・23時』
『第一の事件・深夜・推理』
『第一の事件・現場検証2』
野分「さて……ってわぁっ!?」
谷風「おおん? なにを驚いてるん。あたしが生きててびっくりしたかい?」
野分「いや、さっきまでジャージ姿で一緒にご飯を食べていたでしょう……驚いたのは、何故この部屋にいるのかということです」
谷風「だってここ、谷風の部屋だし」
野分「それはそうなのですが……」
別の部屋を用意とかはしてくれないのか……。
野分「……まあ、『死者』がいるなら都合がいい。現場検証の続きをしたいのですが、秋雲が捕まらなかったので」
谷風「む? 検証なら朝終わらせたんじゃなかったの?」
野分「今朝の検証だけでは不十分です。一つ確認したいことがあったのですが、あの場だと『犯人』も聞いていると思ったので、控えました」
野分「なので、ここで谷風に問いかけます。死体の状況は、『死者』に聞いても問題ない……でしたよね?」
谷風「そう聞いてるねえ。一応、谷風はゲームから外れてるからさ? 『GM』の補佐みたいなこともするみたいよ。で、何が聞きたいんだい?」
野分「死後硬直、死斑の状態。つまり、殺害時刻」
谷風「…………む、むむむ。確かにそれは、犯人が聞いていたら証言を誤魔化しそうではあるけど……」
谷風「でもさあ、野分はそれを確認出来るんかい? 技能があるならある程度目星はつけられると思うけど」
野分「一応、軍属ですから……医者程詳しく確認することは出来ないでしょうが」
谷風「ふうむ……ちょっと待って! ルールブック確認するから!」
野分「そんなものがあるのですか……」
谷風「ええと……うん。それなら誤差1、2時間程度で確認出来るかな。で、確認したいって話?」
野分「ええ、お願いします。……なにしろ、昨夜の時点で貴女を見たと言う証言が得られなかったので」
谷風「おけおけ。じゃあそうだねえ……死体から話せることっていやぁ……」
谷風「『日付が変わる前には死んでいると思われる』かな。
少なくとも0時頃には、谷風は死んでいるよ」
野分「……では、死亡時刻は概算して、20時~0時、といった感じでしょうか?」
谷風「そんな感じだねぃ」
野分「ありがとうございます、谷風。これまでの証言とアリバイから、おおよそ制限は出来ました」
谷風「いやぁ……でもさあ、その証言って本当に信じられるの?
陽炎姉が言ってたんじゃなかったっけ。口裏を合わせた共犯者がいるかもしれないって……」
谷風「……あ、こりゃ死体が聞いてはいけないことかね?」
野分「……いえ、貴女から私に問いを投げる分にはかまわないでしょう。ここで私が推理を答えても、貴女から別の人に洩れることはないのでしょうし」
野分「それに、聞かれたところで大した話でもありませんからね」
谷風「ほほう?」
野分「その上で、問いに答えるのですが……。
確かに共犯者の可能性を考えるのなら、二、三人でのアリバイを信じれなくなりますね。
そうなると、推理の難易度が跳ねあがります」
野分「ですが、私はそうした口裏合わせの可能性は少ない……というか、無いと思います」
谷風「なして?」
野分「簡単ですよ。『うま味が無い』から」
谷風「んん……? それって『プレイヤー』にとって? でも、それは陽炎姉さんも……」
野分「いいえ、『犯人』にとってです。うま味が無いと言うより、ハイリスクと言った方が正しいかもしれません。
……だって、考えてもみてください。
確かに共犯者がいるなら『犯人』は行動範囲が広がるかもしれません。
ですが、『プレイヤー』の行動はあくまでも自由なんです。作った共犯者が『探偵』――つまり私に密告する可能性だって十分に有り得る」
野分「陽炎姉さんは、『これはあくまでゲームだから、プリンを奢るといった軽い理由で犯人側に着く人もいるかもしれない』と言いました。でも、それは逆もまた然りなんです。
別に命を賭けているわけではない。遊びなのだから、例えば私が食堂に皆を集めて『犯人を知っている人にはビフテキを奢りますよ』と言えば、簡単に裏切る――この言い方は悪いですが――可能性も十分に有り得る」
野分「なので『犯人』が積極的に共犯者を――それも複数作る可能性は、非常に薄い。単純に証拠を増やしているようなものなので。
……もちろんそれを逆手にも取れるかもしれませんが」
谷風「なるほどねえ」
野分「……ああ、それともう一つ。最初に秋雲が語ったルールの中に、
『7.『犯人』は2日に1人殺害することを求められる。また『犯人』は自白出来ない。』と言う物があります。
これがある限り、『犯人』は自発的に犯行に関わるような発言、自白と見なされるような発言は出来ない」
野分「その上で『犯人』が意図的に共犯者を作るつもりなら、非常に面倒な口裏合わせが必要になります。そこまでリスクを冒すのは、正直割に合いません」
谷風「お、おおう……」
野分「……なので、複数名でアリバイを立証している発言は、ある程度信用出来る……と言うのが、今の私の推理です……が、どうしましたか谷風?」
谷風「ちょっとビビった。思ったより本気だねえ、野分」
野分「む……」
谷風「ま、あたしゃもうゲームから抜けた身なんでねえ。観覧席で楽しむよ」
『第一の事件・夕食。共犯者』
磯風「むう……やはり姉さまたちのご飯は上手いな」
浜風「貴女も軽く練習してみましょうか。……せめて簡単な料理くらいは出来るように」
磯風「む……失敬だな、焼き魚くらいならば作れるぞ」
陽炎「あんた焦がすじゃない……」
磯風「く……だが折角、姉妹だけというこの状況。今の内に修行をしておくほうがいいか?」
陽炎「せめて、誰にも迷惑かけないようにね」
磯風「あい分かった」
浜風「本当に分かっているのか……」
野分「……何の話をしているのでしょう」
呆れて話を聞きながら、夕食に口を付けている私の隣に誰かが座った。
――それは。
秋雲「やあ探偵殿。午後はどうだったい?」
野分「貴女こそ午後はどうしていたんですか」
秋雲「『GM』だからねぇ。何人かからルールの説明やらを求められててねぇ」
野分「ふむ」
秋雲「まあ、野分が一番ルールを参照してくるだろうから、野分に貼り付いてるのが良いんだろうけどさ。初日だし、勘弁してちょーだい」
野分「構いませんよ。しかし何人かということは、『犯人』以外も参照したということですね?」
秋雲「『犯人』が一人である以上、他『プレイヤー』も混ざってるかもしれないし、そうでないこともあるかもね?」
野分「貴女にルールを聞いた人物を聞いても?」
秋雲「システム外を推理に持ち込むのはダメだよん?」
野分「……分かっていますよ。ただの確認です。谷風は危うかったので、やはり貴女が一番ゲームルールを守っている」
秋雲「ほほう? そういや谷風と話をしたんだったねぇ?」
野分「いくつか。しかし、あれは危険ですね……危うく谷風の着眼点を聞くところでした。死者の声で解決するのは、ミステリーとしてはフェアではないでしょう?」
秋雲「ほう」
野分「これがゲームなら、可能な限りゲーム外の知識やメタ的な思考は排除しなければならない。
『死者』である谷風は、本来思考も発言も出来ない筈だから、『探偵』である私は彼女の推理を聞くことは出来ない」
野分「もちろん『GM』が知っている知識やシステムを参照することはあれど、それはゲームの内側で――特に推理に関わる部分に使用してはならない。私はこのゲームの中の『野分という探偵』を演じているのだから」
秋雲「ふむ。さすがに野分は分かってるね……そんじゃあ、これは秋雲さんの興味本意な問いかけなんだけど」
野分「構いませんよ。なんですか?」
秋雲「陽炎姉は『共犯者の可能性』を話した。野分は谷風に対して『それはない』と答えた。…………で、実際野分は、現状どう思ってんの? 共犯者がいる可能性って」
野分「…………2,3割ですかね。もちろんハイリスクであり、普通取りにくい手段だとは思います。
…………でも、それは一般論ですし、個々人の性格に目をつけるなら――」
秋雲「まあ、リスクを承知で仕掛けてくる人も何人かはいるかもねぇ」
野分「具体的には、陽炎姉さん、黒潮姉さん、辺りでしょうか。
ただ、陽炎姉さんと共にいた浜風姉さんが共犯者という発想に至ることは無いと思います。よしんば到っても、先にリスクを考えるでしょう。
……なのでこのペアが共犯の場合、どちらが『犯人』であれ注意すべきは陽炎姉さんです。……なにしろ、既に仕掛けてきてますからね」
野分「次に、不知火姉さんと黒潮姉さんペア。この二人は、正直分かりません」
秋雲「分からんと来た。なして?」
野分「…………というより、不知火姉さんが読めないという感じでしょうか。
自分から共犯を提案する人ではないと思いますが……黒潮姉さんが提案すればリスクに関わらず乗ってくると思います。
なので、この場合主導は黒潮姉さんです」
秋雲「ほほーう。……じゃあ残り。初風、雪風、天津風の三人の場合は?」
野分「共犯者が二人になるので、単純にリスクが跳ね上がりますね。仮に裏切りがなくとも、口実を合わせるのも面倒になります。一つ矛盾が見つかれば、すぐにそこから折れていくでしょうし」
秋雲「にゃる。そこまで博打は打たんか」
野分「三人の場合は。……ですが、例えば一人がシャワーを浴びている間、もう一人と犯人が共犯関係を結んだというのは、有りうる線かもしれません」
秋雲「なるほどねぇ。 気持ち良く入浴してる隣で殺害計画かぁ。怖い怖い」
野分「それはそれで綱渡りのようなものですが……以上ですね」
秋雲「じゃあ結局、まだ目星はついてない感じ?」
野分「行動の制限は出来たが、犯人を確定出来るほどではない……といったところですかね。
後は、次の証拠待ちです」
秋雲「なるほど」
野分「どうです? 面白いネタになりそうですか?」
秋雲「そだね。野分がここまで本気でやってくれるとは思わなかったよ」
野分「それはどういたしまして」
舞風「むう……」
と、それとなく不機嫌そうな舞風が隣に座る。
野分「舞風? どうしました?」
舞風「野分、昨日から今日は秋雲とばっかり話してる」
野分「ばかりとは……午後はそうでも無かったと思いますが」
舞風「でも、午後もあんまり話してくんなかったじゃん」
野分「それはまあ……一応、調査や推理をしてましたし」
舞風「秋雲のことばかり考えてるー!」
野分「ええ……」
秋雲「はははー。野分は舞風の姉であると同時に、秋雲さんの姉でもあるのだー!」
野分「引っ付かないで……」
舞風「むー!」
野分「ちょっと、舞風も……」
舞風と秋雲のじゃれ合いに挟まれながらも、他の姉妹の様子をうかがう。
皆、事件のことなんて忘れているように……と言うか、実際死者である谷風もその輪に加わりながら、和気藹々と食事をしている。
……その様子をほほえましく思いつつも。
野分(ここでは、さすがに推理の続きは無理か……)
なんてことを考えていた。
『第一の事件・23時』
野分「うわ……ほんとうに真っ暗」
部屋を出て、外を確認する。
時刻は……ちょうど23時を過ぎたあたり。
私の部屋から右手側には舞風の部屋、秋雲の部屋、そして突き当り。
突き当りには中庭に繋がる扉と、90度折れ曲がって階段がある。
逆側――向かって左手には姉達の部屋が連なり、その先に談話室と食堂がある。
私の部屋である112号室からはかなりの距離があるため、遠くにぼんやり光が見えるくらいだ。
あれは……食堂の扉の明かりだろうか?
まだ誰かいるらしい。昨日と同じなら、陽炎姉さんと浜風姉さんか。
野分「…………」
――道中の廊下は完全な暗闇。
足元が少し見える程度で、闇に目が慣れない限り、隣の部屋の扉さえ見えないだろう。
野分「さて……」
中庭は私達の部屋の窓に面していて、食堂のすぐ真横くらいに倉庫がある。
位置関係上、倉庫から部屋を見る事は出来ない。
野分「このまま暗がりに潜んで、人の出入りを見る――というのは、まあ無しでしょうね」
可能か不可能かはともかく、それは、『結末としてつまらない』
ゲームは成立するものの、『面白い結末』とは呼べないだろう。
野分「昨日確認出来なかった、夜の廊下の様子を確認出来た。それで良しとしましょう」
野分「……一応、舞風が無事かどうか確認しておきますか」
私は隣の舞風の部屋に向かった。
こんこんと軽くノックをして、扉を開く。
舞風「うわっ! の、野分? どしたの?」
野分「すいません。びっくりさせましたか」
確かに、こんな夜中にいきなり入っては、犯人かとも思うだろう。
野分「とりあえず、無事かどうかの確認を……それだけです、すいません」
舞風「あはは、いいよ別にー」
野分「とりあえず、舞風は部屋にいると……一人ですか?」
舞風「…………」
野分「あ、あれ?」
なぜ舞風が不機嫌に?
舞風「だって、野分が忙しそうだもん」
野分「ああー……」
いえ、それはまあ……。
野分「舞風だって、早くゲームを終わらせたいでしょう?」
舞風「でも、なんか野分、それはそれとして楽しそうだし」
野分「…………」
それは否定しない。
楽しんでいるか、楽しんでいないかと言えば……まあ、楽しんでいるのだろう。
舞風「いいもんねー。私、その内殺されちゃうんだもんねー」
どうにも、舞風を拗ねさせてしまったようだ……。
さて、どうしたものかと頭を掻く。
野分「……舞風。私が、早めにゲームを終わらせます。だから、その後、遊びましょう」
言葉が足りないことは熟知しているものの、ただでさえこうした時に気を使う言葉が出せない自分が、更に推理に思考のリソースを使っているものだから、優しい言葉が出てきやしない。
舞風「……ほんと?」
野分「舞風に嘘は吐きません」
舞風「そっか。じゃあ、待ってる……」
ぽふっと頭を枕に乗っけて、舞風はそっぽを向いた。
機嫌がなおった、とは言えないが、ひとまずは納得してくれたようだ。
この口下手な自分が恨めしい。
野分「……それじゃあ。気を付けて……と言っても、無理か……。まあ、とにかくよろしくお願いします」
舞風「なにそれ……」
『第一の事件・深夜・推理』
部屋に戻り、私はベッドに腰掛けた。
それから、はあと軽く息を吐いて、思考を集中させる。
……残念ながら、私には最初から事件の概要を決め打ちで情報を整理し、具体的な道筋を推理するような、いわゆる正統派の探偵のような推理力はない。
だから、出てきた情報を、一つ一つ精査する。
それらがもたらす仮定を余すことなく検証する。
野分としての心理、感情、思考を外した、機械的な総当たり。
その上で――矛盾なく繋がる道筋が出来るなら、それが答えだ。
――さあ、推理を始めよう。
野分(おおよその犯行時刻と、その時の各姉妹の行動証言は確認出来た。
ただし、アリバイに関しては確度はともあれ全員に一考の余地がある)
野分(また、あの部屋に転がっていた包丁の理由は不明。凶器か否かも定かではない)
――では、今の時点で犯人を断定出来るか?
野分(ノーですね。現状では証拠が足りない)
――では、今夜の検証を続けるか。
野分(……これもノー。検証技能はどうやら現実の私達の性能に準じる。つまり、私が出来ないこと――指紋の検証は出来ない)
野分(あるいは、他の『プレイヤー』にそうした技能を持っている人もいるかもしれないけれど、その人物が『犯人』であれば詐称される可能性もある。それは信憑性が薄い)
――では、今夜検証すべき仮定は残存するか?
野分(……ノー)
――では、第一の事件の推理は。
野分(……ここまで、ということでしょうね)
無意味ではない。
少なくともゲームの概要は理解出来た。
検証も十分に終えた。
谷風には悪いが、今日はチュートリアルのような物だろう。
だから、ここまでだ。推理に必要な情報は未だに不足している。
ただし、明日――或いは、今夜か。
野分(次の被害者が出れば、また証拠は増えるはず――)
そこまで考えて、ため息を吐く。
これではまるで、私が事件を期待しているようではないかと、少し自嘲気味な笑みがこぼれた。
他の皆は、むしろ共同生活の方を楽しんでいるように見えるのに、私だけ『犯人捜し』に躍起になっているような……。
野分「まったく――恨みますよ、秋雲」
……でも、言うほど悪い気持ちはしなかった。
ゲームは楽しむものと姉さんは言っていたが、そういう意味では私はこのゲームに順応している。
実際――少々悪趣味であることを除けば、こうした頭脳ゲームは嫌いじゃない。
探偵役なのだから、なおのこと。
しかし――なら。
『犯人』の方は、今頃どんな想いをしているのだろうか――
これで1日目は終了です。現状で確定は出来ません。
続きは明日。