陽炎の立つ頃に-陽炎型ミステリーゲーム-   作:遠野静

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というわけで、第二の事件です。


2日目・第二の事件

 その日もまた、焦りを含んだ浜風姉さんの声で呼び起された。

 眠たい眼を押さえながら、私は浜風姉さんに連れられて食堂に向かう。

 更にその先――食堂の向かい。つまるところキッチンまで入ったところで、私の脳は完全に覚醒した。

 

野分「事件、ですか」

 

 一面、血の海。

 昨日の谷風の部屋よりも、更に凄惨。かつ、モノが散乱した跡。

 これは……酷い、としか言えない。

 ……言えないが、その前に、本来は見当たるべき『モノ』が見当たらない。

 

野分「浜風。犠牲者は何処で、誰ですか?」

 

浜風「ええ、それはその……」

 

陽炎「あ、野分。こっちこっち。……ほら、寸胴の中」

 

野分「寸胴の……中?」

 

 いやな予感に首筋がチリチリする感覚を覚えながらも、恐る恐る、寸胴の中を覗き込む。

 そこには――

 

磯風「……ふふ。焼き魚すら上手く出来ない私なんて、むしろ食材になった方がお似合いだろうさ……。焼き秋刀魚ならぬ、焼磯風か……」

 

 ――磯風姉さんが寸胴の中で体育座りで落ち込んでいた。

 

陽炎「焼磯風って新鮮ね」

 

浜風「磯の香が漂いそうですね」

 

磯風「そうだろう……私で出汁を取ってみてもいいんじゃないか?」

 

陽炎「生臭そうだしイヤ」

 

磯風「……私は食材にもなれないのか」

 

野分「いやあの……そういう話は後にしてくれませんか」

 

野分「というか、良くまあこんな鍋の中にいましたね……血糊と……水? お湯ですか?」

 

陽炎「とりあえず、秋雲を呼んだ方がいいんじゃない? 状況説明だとかそういうのはあの子の役目でしょ」

 

野分「そうですね……すいません浜風姉さん、秋雲を起こしてきてくれますか?」

 

浜風「いいですけど……」

 

~~~

 

秋雲「はいはい……第二の事件が起きたってねえ……ふぁあ……」

 

陽炎「しゃきっとしなさいよ……」

 

秋雲「しょうがないじゃん。昨日はネタをまとめたりしてるうちに夜更かししちゃったんだよ。そんでぇ、死者第二号は誰かな?」

 

磯風「うむ、私だ……」

 

秋雲「これはまたいい感じにスプラッタな……じゃあとりあえず『GM』の私が状況を磯風から聞くから、みなさんは食堂の方に出ておくか、耳を塞いでくださいな」

 

陽炎「『探偵』以外も?」

 

秋雲「もちろんよー。ていうか、その辺りは姉御なら分かってるっしょ? はいはい、出てった出てった!」

 

陽炎「わわ、ちょっと、押さないでよ!」

 

~~~

 

秋雲「というわけで、第二の事件の状況が纏まりましたー。どんどんぱふぱふー」

 

秋雲「今回、現場の状態は比較的見たままだけど、死体の状態がかなり違うので、死体状態に関してはかなり詳細に説明するよぉ!」

 

磯風「うむ、よろしく頼む」

 

陽炎「……シュールね」

 

野分「言わないでください……」

 

秋雲「では『探偵』殿? まずは何から聞きたい?」

 

野分「では……『GM』に説明を求めます」

 

秋雲「あいよ、なんだい?」

 

 まずは――

 

野分「まずは現場の状態から知りたい。現実で見えているまま、物が散乱しているということでしょうか」

 

秋雲「うん。そして床や壁に血がどばー。皿なんかも割れてぐしゃり。包丁もばたばたばたー! ……みたいな?」

 

野分「了解。では次に、寸胴と死体の状況を教えてください」

 

秋雲「おっ、セットで聞いちゃうの?」

 

野分「セットでしょう? 私の予想の通りなら」

 

秋雲「まあその通りだね。ええと……寸胴の中には今回の『死者』である磯風の死体の部位が入っている。

 磯風の死体は幾つかに分かれていて、水に浸されて火を焚かれ、まるっと磯風煮が出来上がっているね」

 

磯風「なんだ……焼きではなく煮られていたか……いや、出汁を取られているのか?」

 

野分「死体の状態を詳しく教えてください……磯風姉さんはちょっと黙っててください」

 

秋雲「タンパク質が白くなっていて、細胞が壊れて柔らかくなってる……いわゆる『煮た』状態になっているよ。

 もちろん、破損した部位なんかも膨れているね」

 

浜風「……弱火でコトコト」

 

陽炎「ぐふっ……」

 

野分「ええと……では、寸胴の中の水――いえ、お湯だったのでしょうか? 今はどうなっていますか?」

 

秋雲「血が混ざった水は、今は冷え切っているね。磯風の出汁は出てるかもしれないけど」

 

浜風「……一度火を止めて鍋を冷まします」

 

陽炎「ち、ちょっと……浜風、やめて……っ!」

 

野分「つまり……磯風の死体が煮汁を吸ってる感じですか?」

 

浜風「完成品がここに……」

 

陽炎「やめ……やめて……っ! 笑いが……っ!」

 

磯風「……いいんだ。料理の出来ない私が、せめて道化として楽しませられるなら」

 

野分「ちょっと黙っててください……ええと、何処まで確認したんでしたか……」

 

野分「そうですね……磯風の部位と言いましたね? 磯風の身体は、現在欠損しているということですか?」

 

秋雲「イエース」

 

野分「では切断面は……いえ、現在どのような状態ですか?」

 

秋雲「完全にバラバラ死体だねぇ。両腕、両足、胴体、頭に分けられているし、切断面は煮たせいでぐしゃぐしゃ」

 

野分「……では、もう一つ確認です。磯風の死体は、全て鍋の中にありますか?」

 

秋雲「…………」

 

陽炎「…………」

 

浜風「…………?」

 

磯風「え、なにそれこわい」

 

秋雲「……なーんて、残念っ! 全部中にあるように見えるよ。というか現場にもよるけど、腕とか無くなってんならちゃんと分かりやすく説明するよ」

 

野分「ありがとう。大体状態は理解しました」

 

磯風「私はもう出ていいのか? このまま鍋の中にいると食卓に並びそうだ」

 

陽炎「並べないわよ……でも、ゴメンね野分。現場を残しておきたい気持ちは分かるんだけど、出来れば早めに清掃したい。出ないと、今後食事が作れないわ」

 

野分「…………ふむ」

 

 私は口に手を当てて思考してから、秋雲を見た。

 

野分「『GM』に質問です。現場を清掃した場合、ゲーム内での状態はどうなりますか?」

 

秋雲「『プレイヤー』が清掃した場合、当然それに即する形でゲームにも反映するよ。死体に『プレイヤー』が手を加えた場合もそのまま反映されるし、血糊を掃除した場合も同様」

 

野分「つまり、その後はもう現場の検証は出来ない。『GM』に聞いても『もう検証出来ない』という結果しか残らない?」

 

秋雲「これは仕方ないよね? 『犯人』が証拠隠滅する事もあるし、死体や現場の状況だって、時間経過で変わるしさ」

 

野分「……そうですね。分かりました。ただ、もう少しだけ現場検証を続けさせてください」

 

陽炎「そりゃそうよね。いいわよ」

 

 あるいは、『犯人』は最初からそれを狙っていたのかもしれない。

 最初の殺人の現場――谷風の部屋は、まだ発見時のままで保存されている。

 だが、キッチンという恒常的に使う必要のある場所なら、どうしたって掃除しないといけない。

 証拠は残らない。残っていても検証には骨が掛かるんだ。

 

野分(……『犯人』も発想が上手くなっていますね。いや、あるいは……?)

 

秋雲「つーわけで、磯風姉はもうしばらく我慢してね。片付けるのに人形を持ってくるのも面倒だし」

 

磯風「……早くシャワーを浴びたい」

 

野分「……どの道時間も迫っています。検証を続けましょう」




詳しい現場検証は、次頁から。
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