その日もまた、焦りを含んだ浜風姉さんの声で呼び起された。
眠たい眼を押さえながら、私は浜風姉さんに連れられて食堂に向かう。
更にその先――食堂の向かい。つまるところキッチンまで入ったところで、私の脳は完全に覚醒した。
野分「事件、ですか」
一面、血の海。
昨日の谷風の部屋よりも、更に凄惨。かつ、モノが散乱した跡。
これは……酷い、としか言えない。
……言えないが、その前に、本来は見当たるべき『モノ』が見当たらない。
野分「浜風。犠牲者は何処で、誰ですか?」
浜風「ええ、それはその……」
陽炎「あ、野分。こっちこっち。……ほら、寸胴の中」
野分「寸胴の……中?」
いやな予感に首筋がチリチリする感覚を覚えながらも、恐る恐る、寸胴の中を覗き込む。
そこには――
磯風「……ふふ。焼き魚すら上手く出来ない私なんて、むしろ食材になった方がお似合いだろうさ……。焼き秋刀魚ならぬ、焼磯風か……」
――磯風姉さんが寸胴の中で体育座りで落ち込んでいた。
陽炎「焼磯風って新鮮ね」
浜風「磯の香が漂いそうですね」
磯風「そうだろう……私で出汁を取ってみてもいいんじゃないか?」
陽炎「生臭そうだしイヤ」
磯風「……私は食材にもなれないのか」
野分「いやあの……そういう話は後にしてくれませんか」
野分「というか、良くまあこんな鍋の中にいましたね……血糊と……水? お湯ですか?」
陽炎「とりあえず、秋雲を呼んだ方がいいんじゃない? 状況説明だとかそういうのはあの子の役目でしょ」
野分「そうですね……すいません浜風姉さん、秋雲を起こしてきてくれますか?」
浜風「いいですけど……」
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秋雲「はいはい……第二の事件が起きたってねえ……ふぁあ……」
陽炎「しゃきっとしなさいよ……」
秋雲「しょうがないじゃん。昨日はネタをまとめたりしてるうちに夜更かししちゃったんだよ。そんでぇ、死者第二号は誰かな?」
磯風「うむ、私だ……」
秋雲「これはまたいい感じにスプラッタな……じゃあとりあえず『GM』の私が状況を磯風から聞くから、みなさんは食堂の方に出ておくか、耳を塞いでくださいな」
陽炎「『探偵』以外も?」
秋雲「もちろんよー。ていうか、その辺りは姉御なら分かってるっしょ? はいはい、出てった出てった!」
陽炎「わわ、ちょっと、押さないでよ!」
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秋雲「というわけで、第二の事件の状況が纏まりましたー。どんどんぱふぱふー」
秋雲「今回、現場の状態は比較的見たままだけど、死体の状態がかなり違うので、死体状態に関してはかなり詳細に説明するよぉ!」
磯風「うむ、よろしく頼む」
陽炎「……シュールね」
野分「言わないでください……」
秋雲「では『探偵』殿? まずは何から聞きたい?」
野分「では……『GM』に説明を求めます」
秋雲「あいよ、なんだい?」
まずは――
野分「まずは現場の状態から知りたい。現実で見えているまま、物が散乱しているということでしょうか」
秋雲「うん。そして床や壁に血がどばー。皿なんかも割れてぐしゃり。包丁もばたばたばたー! ……みたいな?」
野分「了解。では次に、寸胴と死体の状況を教えてください」
秋雲「おっ、セットで聞いちゃうの?」
野分「セットでしょう? 私の予想の通りなら」
秋雲「まあその通りだね。ええと……寸胴の中には今回の『死者』である磯風の死体の部位が入っている。
磯風の死体は幾つかに分かれていて、水に浸されて火を焚かれ、まるっと磯風煮が出来上がっているね」
磯風「なんだ……焼きではなく煮られていたか……いや、出汁を取られているのか?」
野分「死体の状態を詳しく教えてください……磯風姉さんはちょっと黙っててください」
秋雲「タンパク質が白くなっていて、細胞が壊れて柔らかくなってる……いわゆる『煮た』状態になっているよ。
もちろん、破損した部位なんかも膨れているね」
浜風「……弱火でコトコト」
陽炎「ぐふっ……」
野分「ええと……では、寸胴の中の水――いえ、お湯だったのでしょうか? 今はどうなっていますか?」
秋雲「血が混ざった水は、今は冷え切っているね。磯風の出汁は出てるかもしれないけど」
浜風「……一度火を止めて鍋を冷まします」
陽炎「ち、ちょっと……浜風、やめて……っ!」
野分「つまり……磯風の死体が煮汁を吸ってる感じですか?」
浜風「完成品がここに……」
陽炎「やめ……やめて……っ! 笑いが……っ!」
磯風「……いいんだ。料理の出来ない私が、せめて道化として楽しませられるなら」
野分「ちょっと黙っててください……ええと、何処まで確認したんでしたか……」
野分「そうですね……磯風の部位と言いましたね? 磯風の身体は、現在欠損しているということですか?」
秋雲「イエース」
野分「では切断面は……いえ、現在どのような状態ですか?」
秋雲「完全にバラバラ死体だねぇ。両腕、両足、胴体、頭に分けられているし、切断面は煮たせいでぐしゃぐしゃ」
野分「……では、もう一つ確認です。磯風の死体は、全て鍋の中にありますか?」
秋雲「…………」
陽炎「…………」
浜風「…………?」
磯風「え、なにそれこわい」
秋雲「……なーんて、残念っ! 全部中にあるように見えるよ。というか現場にもよるけど、腕とか無くなってんならちゃんと分かりやすく説明するよ」
野分「ありがとう。大体状態は理解しました」
磯風「私はもう出ていいのか? このまま鍋の中にいると食卓に並びそうだ」
陽炎「並べないわよ……でも、ゴメンね野分。現場を残しておきたい気持ちは分かるんだけど、出来れば早めに清掃したい。出ないと、今後食事が作れないわ」
野分「…………ふむ」
私は口に手を当てて思考してから、秋雲を見た。
野分「『GM』に質問です。現場を清掃した場合、ゲーム内での状態はどうなりますか?」
秋雲「『プレイヤー』が清掃した場合、当然それに即する形でゲームにも反映するよ。死体に『プレイヤー』が手を加えた場合もそのまま反映されるし、血糊を掃除した場合も同様」
野分「つまり、その後はもう現場の検証は出来ない。『GM』に聞いても『もう検証出来ない』という結果しか残らない?」
秋雲「これは仕方ないよね? 『犯人』が証拠隠滅する事もあるし、死体や現場の状況だって、時間経過で変わるしさ」
野分「……そうですね。分かりました。ただ、もう少しだけ現場検証を続けさせてください」
陽炎「そりゃそうよね。いいわよ」
あるいは、『犯人』は最初からそれを狙っていたのかもしれない。
最初の殺人の現場――谷風の部屋は、まだ発見時のままで保存されている。
だが、キッチンという恒常的に使う必要のある場所なら、どうしたって掃除しないといけない。
証拠は残らない。残っていても検証には骨が掛かるんだ。
野分(……『犯人』も発想が上手くなっていますね。いや、あるいは……?)
秋雲「つーわけで、磯風姉はもうしばらく我慢してね。片付けるのに人形を持ってくるのも面倒だし」
磯風「……早くシャワーを浴びたい」
野分「……どの道時間も迫っています。検証を続けましょう」
詳しい現場検証は、次頁から。