陽炎の立つ頃に-陽炎型ミステリーゲーム-   作:遠野静

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昨日よりは変則的な運びになります。
仕方ないね。


2日目・第二の事件・現場検証

野分「さて、包丁が散らばっていますが……これは全てキッチンにあった物ですか?」

 

陽炎「多分そうだと思うわよ。……まあ、出刃包丁やナイフくらいしか使ってないから、本当に有ったかなんて聞かれても困るけどさ」

 

野分「そこまでは求めませんよ……一つずつ収納場所に収めていけば分かるでしょう。包丁はどこに仕舞われていたんでしたっけ?」

 

陽炎「下にある棚の中ね。ほら、刺すところがあるけど……うわ、見事に全部抜かれてるわねぇ」

 

浜風「ここに散らばっている包丁が凶器、ということなのでしょうか」

 

野分「かもしれませんし、そうでないかもしれません。……まあ、十中八九切り傷が死因ですから、包丁だとは思いますが」

 

陽炎「ん? なんでこの場で包丁? 鍋で煮られてるのに?」

 

野分「磯風の状態ですよ。切断面の状態から考えれば、煮込んだ後でわざわざ磯風の死体を取り出して切断したとは考えにくい。時間もかかりますしね。

 ……まあ焼死か溺死みたいな可能性もありえますけど、どちらも即死とはいきません。磯風が抵抗すれば、キッチンの状況や磯風の死体にもっと跡が残るでしょう。

 ――ちなみに、即死で無かった場合はどうなりますか? 『GM』」

 

秋雲「もちろんそんなこともあるわな。そういう場合は『犯人』と『死者』が口頭で状況を言い合うよ。ま、『犯人』に殺害対象として任命された人は基本的にどう抵抗しても死ぬけどね」

 

野分「……とのことなので、磯風は即死でしょう」

 

陽炎「でも、キッチンに暴れた跡が残ってるわよ?」

 

野分「だから、猶更ですよ。そもそもどうして犯人は、現場をこのままにしておいたと思います?」

 

浜風「片付ける時間が無かったからでは?」

 

野分「磯風を煮る時間があったのに?」

 

野分「磯風の死体は柔らかくなっています。それこそ浜風姉さんの言ったとおり、弱火でコトコト煮込んだのでしょう。更には熱湯が水に冷める程の時間もあった。人が入れるほどの寸胴鍋です。いくら秋でも、冷めきるには相応の時間がかかるでしょう」

 

野分「犯行時刻と死亡時刻がイコールかは別としても、磯風が鍋に入れられたのはそれだけで数時間は前だと分かります。……それだけの時間があったのに、現場の片付けもせずにひたすら磯風を煮ていたんですか?」

 

浜風「む……確かに」

 

野分「だから、私はこう推理します。これらは『探偵』を混乱させるために、犯人があえてバラまいたのだと。

 仮に磯風が抵抗した結果だとしても、包丁が全部抜かれていると言うのは、やり過ぎでしょう」

 

陽炎「んー……じゃあ、逆手にとって隠ぺい工作の可能性は? キッチンに残った証拠を隠すために、色々フェイクをバラまいたとか」

 

野分「ここまでするなら、普通に隠した方が早いと思いません?」

 

陽炎「むっ……」

 

野分「隠ぺい出来ない物……例えばキッチンから持ち出せない物や、紛失したらすぐ気づかれる物であれば分かります。

 ……ただ、この中でそれを指定するならこの血と包丁ぐらいでしょう。皿は元々用意されていた数量的に、一つ無くなった程度では誰も気付かない」

 

陽炎「だから、野分は包丁って考えるのね?」

 

野分「はい。まだ検証が終わってないので、後で掌を返す可能性はありますけど。暫定ではそれが有力です」

 

浜風「ふむ……では、他の計器はどうですか? お玉……は無理として、フライパンや鍋で撲殺とか、そういう可能性は……」

 

野分「その場合も包丁と同様ですよ。検証が終わらないと分からない……と言うか」

 

浜風「と言うか?」

 

野分「……なんでもないです。とりあえず検証を続けましょう……ううん、包丁は使いますよね? 洗いますよね?」

 

陽炎「まあね……ってか、全体的に血糊が散らばっているから、一度全員叩き起こして一気に清掃するつもりだけど」

 

野分「なら、収納してみるのもその後か。血糊が死亡時のものだとすれば、血糊の跡から死亡前後に何が有って何が無くなったのかを推測出来る……。

 その為には事件発生前のキッチンの状況を知らないと……でも、私はそれを知らないから、姉さんたちに……」

 

浜風「……本物の探偵のようですね」

 

 浜風姉さんが感心したように呟いた。

 確かに正当な探偵なら、このように思考して、情報を整理して、真相を暴いていくのだろう。

 しかし…………。

 

野分「そうですね、これは陽炎姉さんの思考を模倣した物ですから」

 

陽炎「あたし?」

 

野分「ええ、姉さんならどう考えるかを想像して推理を組み立てました。おおよそ真に迫っている……とは思いますが」

 

 ……しかし、それは私の推理ではない。

 

野分「私に探偵の素質はありませんからね。先ほどの推理も、あるいは根底から覆す可能性だってある。そもそも今のは仮定と心理が前提にある物ですから。固執することなく、別の方面も考えます」

 

野分「まあ、それはともかく……陽炎姉さん。質問があります」

 

陽炎「なによ?」

 

野分「昨夜、最後までこの場にいた人物は、陽炎姉さんと浜風姉さんの二人だけですか?」

 

陽炎「そうね。あと、浦風も」

 

野分「浦風?」

 

浜風「はい。浦風にも手伝ってもらいました」

 

野分「では、浦風には後で話を聞くとして……一人ずつ、昨夜の現場の状況を聞きたいと思います。

 まずは浜風姉さんから」

 

浜風「私からですか?」

 

野分「はい。陽炎姉さんはしばらく黙っていてください」

 

陽炎「……なるほどね。りょーかい」

 

野分「……では、お願いします」

 

浜風「お願いされるほどの内容でもないのですが……」




次頁は浜風・陽炎の証言です。
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