「着いたわよ」
「おー、やっとか……」
海賊の女頭領の呼び声を受けて気怠げに海賊船の一室からデッキへ出てきたのは一人の青年。つい先程まで寝ていたのか、ボサボサの茶髪を掻いて雑に整えている。
彼は海賊ではない。そんな彼が海賊の船に乗っているのは、正規の運賃を払いたくないというただそれだけの理由だった。
「本ッ当に――あなた、一回も部屋から出てこなかったわね?」
「まあ、船旅も初めてじゃないしな……」
せっかくの海を楽しまないなどもったいない、とでも言いたげな女海賊を一瞥して、青年は特に感情のこもってない声で返す。
「いや、悪いな。本当にタダで乗せてもらって。その上部屋まで用意してもらってさ」
「そうよ!だったら、あなたの言う通りに物置にでも押し込んでおけばよかったわ!」
青年が何故無料で海賊の船を旅客船代わりにできたのか。それは、彼が強かったからだ。もちろん、女海賊らもそう名乗る以上は面子の生き物である。彼の只人ではない雰囲気に気圧されたわけではない。海賊相手に「安く乗せてくれ」とあまりにも堂々と申し出てきた彼を面白がって金は取らずに部屋まで用意したというわけだ。
「俺はそれでもよかったんだがな。お陰でストレスのない快適な移動ができて助かったよ。ありがとな」
「まあ、感謝されるのは悪くないわね。また都合が合えば、あなたなら次もタダで乗せてあげるわよ」
「そいつは助かるよ」
下船の準備を進めている海賊たちを横目に、青年は港――タイクーン港の様子を眺めている。海賊船が着港しているというのに、怯える様子も物珍しい目を向ける人間も殆どいない。今この状況は彼らにとって慣れ親しんだものであるということだ――さすがにその船に海賊ではない人間が乗っているというのはレアケースだが。
そもそも、青年がこの海賊船に目をつけたのは、船体にタイクーン国の国章が刻まれていたからに他ならない。つまり、彼らは海賊を名乗ってはいるものの、タイクーン国に正式にその活動を認められている組織だということだ。
「海賊って言っても、色々いるんだな?」
「ええ。私達はタイクーン国と契約関係にあるのよ。今の私達の活動は、海賊のそれとはかけ離れてるけど――まあ、その辺の事情をあなたに語ったところで…ね?」
「興味がないわけじゃないが、長くなりそうなら聞かないでおくよ」
「別にそんな大した話でもないのだけれどね」
青年の視線の先で相棒――大型の走鳥『チョコボ』が積荷と共に船から降ろされるの見ていると、男の海賊が声を張って青年を呼ぶ。
「じゃ、世話になったな――あ、そうだ。折角だし、名前を教えてくれよ。あー、俺の名前はバッツだ」
「ファリスよ。ふふっ、じゃあ次にあなたに会えるのを楽しみにしてるわ」
バッツはファリスと名乗った女海賊と軽く握手を交わすと、船を降りて相棒と共にタイクーン港の雑踏に姿を消した。
「ファリス、ね」
バッツは中々面白い女海賊に出会えたな、と特徴的な桃色の髪と共に彼女の名前を記憶に刻んで――