プロローグ
タイクーンの港に着いたバッツはその後特に寄り道もせずにタイクーンの城下町に訪れていた。目的となるタイクーン城は街の入口からもよく見えるのだが、城に仕えているわけでもなければ、そもそもタイクーンの人間ですらないバッツがあの城に正当な手段で入ることは叶わない――通常であれば。
バッツの手には、とある物が握られている。
「あー、そこの兵士さん。ちょっといいかい?」
バッツは城下街を巡回している若いタイクーンの兵士に声を掛け、それを見せる。
「っ!何用でございましょうか!」
「王への謁見を求める」
バッツは用件を述べながら、それに刻まれた"001"の数字を見せる。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
バッツが先ほど兵士に見せたのは、タイクーン名誉騎士の証であった。
タイクーン名誉騎士とは、タイクーン軍に所属せずにタイクーン王国のために己の武を振るう者に与えられる称号である。
「それで、貴殿は一体何者だ?」
バッツに正体を問うのはタイクーン第一王女──サリサ=シュヴィール=タイクーン。とある事情により王が不在のタイクーン王国における最高権力者である。
サリサ王女の問いかけの意味するところは名誉騎士一人一人の顔と名を覚えていないということではない。何故バッツがその証を持っているのかということだ。
名誉騎士の証に刻まれている数字は、何番目の名誉騎士であるかをそのまま表している。タイクーンの名誉騎士制度の始まりは約30年ほど前まで遡る。その"1番目"の証を持つものが、どう見積もっても20前後の青年本人の物であるはずがないのはこの場にいる誰もが分かることだ。そして、他国では例を見ないこの制度にて、初めて騎士の称号を得るということは、つまりその者のために制度が作られたということである。その人物が誰であるかなど、タイクーンの要職に就く人間が知らぬはずはないのだ。
つまり、今この謁見の間にいる人間の中で、バッツが本物の名誉騎士ではないことを理解していない人間などいないのである。当然、バッツもそれは織り込み済みである。バッツは自らの身分を偽ってタイクーン城に乗り込んだわけではない。
バッツが持っている名誉騎士の証は、もはや始まりの名誉騎士のものではなく別の意味を持っていたのだった。
「発言には気をつけろ。別に、我々は貴様を今すぐ牢獄にぶち込んでも構わんのだからな」
バッツに明らかな殺気を向けながら警告するのは、カイン=ハイウインド。タイクーン王、アレクサンダー=ハイウインド=タイクーンの甥、サリサ王女の従兄に当たる人物だ。
「俺の名前はバッツ=クラウザー」
バッツが自分の名を告げると、辺りの空気が緊張する。パッツという名前はともかく、クラウザーという家名に聞き覚えのない人物は一人もいないからだ。
「俺の目的は」
バッツの名を聞いてこの場にいる全員が想起したのは、彼が持っている証の本来の持ち主。つまり、最初のタイクーン名誉騎士であり──
「父、ドルガン=クラウザーを殺すことだ」
タイクーン王を殺害した大罪人である。