望まれて生まれた。望まず生まれた。   作:杉鋸

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05_戦争犯罪人 #1

 クルーゼ隊による開発中のナチュラル用モビルスーツ(G A T - X)5機の奪取を目的としたヘリオポリス襲撃は順調に進んだと思われました。

 実際、GAT-X群の母艦となる新造の大型艦アークエンジェルは破壊工作を受けて瓦礫の下へと消え、GAT-X105 ストライクを除く4機――X102 デュエル・X103 バスター・X207 ブリッツ・X303 イージス――の奪取には成功したというのですから。

 

 しかしストライクへと偶発的に乗り込む事になった学生キラ・ヤマトがコーディネイターであり、OSが不完全なストライクを十全に運用できた事でクルーゼ隊は撃退され、瓦礫の下へと消えたアークエンジェルは――少なくともその艦そのものは――無事な状態で姿を現し、教官として着任する予定であったムウ・ラ・フラガがモビルアーマーで支援した事もあって、ストライクだけは奪取する事も撃破する事もできませんでした。

 アークエンジェルが沈んでいればストライクもどうしようもなかったでしょう。アークエンジェルが無事でもメビウス・ゼロ(モビルアーマー)が無ければ手数が足りなかったでしょう。その二つがあったとしても奇跡的と言う他ありませんが。

 

 とはいえクルーゼ隊が奪取した機体のデータは予定通り十全な状態で入手できていましたし、ストライクのそれもアークエンジェルらがGAT-X開発を主導した自身らの上司(デュエイン・ハルバートン)率いる第8艦隊へと引き渡し指向性通信によって月基地へと送信されていたいくつかのデータや事前に入手したデータなどによってそれなりのデータは入手できました。

 

 クルーゼ隊による一方的な奪取に終わらずアークエンジェルとストライクによる抵抗の場となったヘリオポリスが崩壊するに至ったのも悪い話ではありません。

 中立国への襲撃とそのコロニーの破壊という汚点を増やしたザフトと、オーブとの協力という前例が表沙汰になった連合。僕の利益には適う結果です。

 ですがクルーゼにとっては新兵器の奪取という成果こそ上げたとはいえ、『独断専行で中立を破った』という汚点と『部下を死なせ・度重なる追撃戦を行ってなお新型艦とモビルスーツ1機を逃し続けた』という失態でもあります。

 

 クルーゼ隊は最終的に第8艦隊を壊滅させ、僕にとっては政敵で・ザフトにとっては怨敵であったデュエイン・ハルバートンを戦死させる事には成功しましたが、第8艦隊が身を挺した事でアークエンジェルは――地球連合本部のあるアラスカに降りるはずがザフトの勢力圏ど真ん中のアフリカへ降りる事となったとはいえ――地球へと逃げ延びるに至ったのですから、メンツは大きく傷ついたと言わざるを得ません。

 

 貧乏くじばかり引かせる事になったクルーゼに『こちらの被害が大きすぎる・利益を寄越せ』とでも怒られるんじゃあないかとも思いましたが、彼から求められたのは一人の少年の情報です。

 その少年の名はキラ。キラ・ヤマト。ストライクのパイロットとなり・連合の志願兵となっていた事にされた、オーブの学生であったコーディネイター。

 気になる点と言えば母がカリダ・ヤマト――遺伝子操作研究の聖地とまで呼ばれたコロニー・メンデルの著名な研究員であったヒビキ夫妻の妻の方、ヴィア・ヒビキの妹という事と、キラが生まれるまではオーブ本土に居たというのに、その直後に月面の中立都市・コペルニクスへと移住、情勢悪化に伴っての再移住先もコロニーであるヘリオポリス。明らかにオーブ本土を避ける様に行動しているという事。

 ……オーブ本土を避けたくなる様な事情が家の方にあるのかもしれませんが、キラという少年の方に関してはストライクに乗るまでは取り立てて優れた結果を挙げているという訳ではない様です。

 もちろん僕がどうにかして集められる様な情報としての話なので『実は伝説のスーパーハッカーの正体』などという可能性を否定できる訳ではありませんが、少なくとも大会で何位になっただのニュースになる様な犯罪が明るみに出ただのという事はないはずです。

 

 

 さて、地球に降りてからのアークエンジェルとストライクも中々に派手な事をやっています。

 アフリカではアンドリュー・バルトフェルド(砂漠の虎)、洋上ではマルコ・モラシム(紅海の鯱)という大物、それとそれぞれの部下達を蹴散らしてアラスカまでの道のりも中程、オーブの近くまで来たのでしたか。

 このまま無事にアークエンジェルがたどり着いたとしても一般的なブルーコスモスなら『コーディネイターに汚された船だ!』とでも騒ぐ所ですが、僕の見解は違います。

 

『コーディネイターの為だと騙るザフトに裏切られた・友情に篤いコーディネイター、キラ・ヤマト』

『民間人を守る為に戦った船、アークエンジェル』

 

 『ヘリオポリスに暮らしていた少年が自身の住むコロニーを襲撃したザフトから人々を守る為に連合へと志願し、彼を受け入れたアークエンジェルは人々を守る為に戦い続けた』のですよ。

 そして『コーディネイターの為に戦っているのだと主張するザフトこそがコーディネイターである少年とその仲間や家族を危険に晒す裏切りを行った』のですよ。

 『コーディネイターにとってもザフトには正当性が無い』そういう形に持っていくのに良い材料だと思いません?

 

 まだどう転ぶかも分からない以上すぐに口出しする訳にも行かないですし、口を出したが最後失敗すれば一巻の終わりですけど、リスクを負うだけの価値のある勝負ですよ。これは。

 まあキラ・ヤマトがたどり着けなかったなら口出しする価値もないですから、その時にはアークエンジェルにはブルーコスモスの連中が留飲を下げる為の生贄にでもなってもらうだけですけど。

 

 

 

 "Oppose Militancy & Neutralize Invasion" 国連の代替組織として誕生した地球における最大の集団安全保障機構の正式名称だ。その名に込められた意としては「好戦的なザフトの活動を阻み、その侵略行為を無力化する」と言った所だろうか。

 そしてその略称は"O.M.N.I." 頭に付ける事で「全ての」を意味する言葉となる組織であり、この組織こそが地球の総意の表象であると主張したいのだろう。

 その意図を知ってか知らずか、多くの人間はこの組織を単に『地球連合』と呼んでいる。

 

 なんと尊大な名前を持つ組織だろう。地球に多くの敵を残し、あるいは中立国をも残したまま自分達こそが地球の代表であると名乗っているのだから。

 ザフトはそれ(OMNI)へと唾を吐きかけ打破するべくオペレーション・スピットブレイクを発動した。

 

 その目的は表向きは月基地への物資輸送を大きく担うマスドライバーを狙ってのパナマ攻略として伝えておき、その実アラスカの地球連合本部を強襲する首狩り作戦。

 私を含めて極めて少数の人間しか本来の目標を知らない状態で発動された一大作戦だ。

 

 『ザフトも評議会も殆ど全ての人間が知らないのだから情報が漏れるはずもない』徹底的な奇襲によって地球連合を打ち砕くはずのそれは、しかしその投入戦力の多くを地下へと敷設されていたサイクロプスによる自爆で失うという結果に終わった。

 サイクロプス――本来は月におけるレアメタル採掘用のマイクロ波式加熱装置――による加熱はモビルスーツをも破壊する。マイクロ波は金属によって反射されるとはいえモビルスーツには多種多様な穴があり、また少なくともザフトのそれにおいては電磁波を反射しない素材も使用されている。十分に近距離であれば細かい穴から入り込んだ比率的には極めて少量のマイクロ波でもパイロットは焼死に至るし、少々離れていようと機体内部の様々な物が加熱されて気化・膨張しようものなら爆死する。焼死や爆死を避けられたとしてもマイクロ波によって引き起こされた放電などで電子機器類が壊れてしまえばモビルスーツは金属製の棺桶に早変わりだ。

 サイクロプスはその手の施設としてはそれなりに素早く敷設できる代物ではあるが、それは決して襲撃を受けてから準備して間に合うという様なスケールでの早さではない。情報が漏れていなければありえない結果だ。

 

 地球連合軍(O M N I Enforcer)にも被害は出ている様ではあったが、そもそもが絶対的に少数な上に乾坤一擲の作戦に精鋭を投じたザフトと、圧倒的多数であり事前に自爆すると分かっていて戦力を配置した地球連合軍ではその被害の質が違う。

 精鋭部隊の兵はもちろん、育つのにより長い時間の掛かる指揮官をも多数失ったザフト。

 絵図を描いた大西洋連邦にとって潜在的な敵であるユーラシア連邦の兵を主として被害を受け持たせ、スピットブレイクが狙っていた軍上層部は被害無く脱出した地球連合。

 兵士も指揮官も多くが失われた今のザフトでは地球での戦線を維持し続ける事は叶わないだろうが、地球連合は主導権争いができなくなった分だけむしろ強力になっている可能性すらある。

 

 全ては私が意図した通りの事だ。

 

 オペレーション・スピットブレイクが完全な形で成功したのならば地球連合は崩壊し、地球はザフトによって征服されていただろう。

 そうなったのならそれはそれでいいのだが、それはつまらない結果だ。

 素晴らしき技術によって誕生した新たな種たるコーディネイターが旧人類を滅ぼす。その後にコーディネイターが存続し続けられるのかはさておき、ザラ派の成果によってプラントが勝利を得たのならばその結末は不可避のものであり奴の思い上がりは揺るがされる事すらないままになるだろうさ。

 

 真のスピットブレイクを事前に知っていた人間が限られる中漏れたこの時に、これを主導した――現在では最高評議会議長をも務めている――パトリック・ザラは何を信じるのか。コーディネイターの優越性を説き、だというのに私を手駒として使ってきたつもりの男は、私を疑う事ができるのだろうか。

 

 

 

 スピットブレイクの失敗によってザフトの戦力が失われ地球上の戦線を維持できないであろう事から、ザフトが地球上で活動できる内に地球連合が持つ宇宙への輸送能力を削減する為にパナマのマスドライバー(ポルタ・パナマ)を破壊する為の攻撃が行われた。

 地球連合は――事前にアラスカから逃がされていた――モビルスーツ部隊を投入する事でザフトを撃退しようとするも、ザフトのEMP兵器・グングニールによって一帯のマスドライバーと地球連合軍の兵器は電子機器を破壊されて戦闘は終わった。……戦闘はとうに終わったが、銃声は未だに止まない。

 機能停止した地球連合のモビルスーツや戦車から兵士を引きずり出しては銃殺し、あるいは引きずり出さずにモビルスーツ用の機関銃でコクピットなどを撃って殺し、弾薬が足りないのならモビルスーツで重斬刀を振るって、あるいは踏みつぶして殺す。これまでにもままあった事ではあるが、ここまで大規模に行われたのは初めてだろう。

 

「動けない敵を撃って何が面白い……」

 

 それに加わっていないのはデュエルへと乗っている――大きく数を減らした"赤"を着る私の部下の――イザークだ。

 私の元に来た当初はナチュラル蔑視と自身らの全能感に満ち溢れたステレオタイプのザフト兵でしかなかったイザークは、仲間を何人も殺し・自身にも手傷を負わせたストライクがアスランの手で討ち果たされた事とニコルの死にディアッカのMIA、そしてアラスカでの戦いに現れた謎のモビルスーツがあえて己らを殺さずに済ませた事や敵味方無くサイクロプスの危険を周知した事によって大きく変わりつつある様だった。

 仇が死んだからといって最早何が解決するという訳でもないのだ。憎しみ深いストライクが撃墜された事でようやく頭が冷え始めた時に常識を疑う様な行動に出た謎のモビルスーツにあえて生かして帰されたのだから、考えの一つも変わってもおかしくはない。

 

 しかし多くのザフト兵は違う。件のモビルスーツと出会いもせず、その声も聞く事はなく、ただ遠方に居たから死ななかっただけだ。アラスカの仇をパナマで討たんと、血に血で報いようとする。仇を討った空虚さを更なる仇を討つ事で埋めようとし続けているのか?

 

 私は接触回線でイザークに語り掛ける。

 

「大義名分というのは大切だよ。ユニウスセブンの悲劇がなければ彼らもこうはしなかった……いや、それ以前にここまで戦い続ける事もなかっただろう」

 

 ユニウスセブンで殺され、エンデュミオン・クレーターで殺され、アラスカで殺され……自分達こそがどうしようもなく被害者で、悲劇のヒロイン、あるいは仇を取るヒーローなのだと酔っている。L1コロニー・世界樹で殺し、地球全土で殺し、L4コロニー群で殺しているだろうに。なんならそもそもが理事国の駐留艦隊を殺して始めた戦いだ。命は命で贖われるべきだというのなら、我々とて命で贖わねばならないだろう。

 

「しかし君はどんな大義名分があって殺さない? 彼らが納得する理由もないというのに殺していないというのはよろしくないだろう。これからずっと後ろ弾に気を使うつもりかね?」

 

 前線においては感情こそが優先される事が多い。仲間に信じてもらう事が出来なくなれば戦い続けられる訳もないからだ。

 気に食わない相手を殺す手段が手元にあり、誰であろうといつ死んでも不思議ではなく、誤射は尽きる事がないというのに、自分を信じていない相手に背中を預ける事ができるだろうか?

 あるいは人道や社会正義という魔法が銃弾を逸らしてくれるというのならば他者の感情を無視してもいいのかもしれないが。

 

 ……イザークは答えず、抵抗できない敵に銃を向けようともしない。

 

「……まあいい。それが君の選択だというのなら」

 

 『賢い選択をしろ』などと言うつもりはないが、しかし上手な立ち回りというものを考えてみるべきだろう。世界の流れに逆らおうというのならば。

 私は通常回線に切り替えてイザークに告げる。

 

「イザーク、周囲の警戒に回ってくれるか? その機体はここに転がっている無数の敵を処理して回るのに向くとは言い難いが、被害を受けずに襲撃者を撃退するのには向く機体だ」

 

 

 

 僕は結局勝負する事はありませんでした。

 アラスカの防空圏まであと少しという所でストライクとキラ・ヤマトはMIA――状況から考えるとたぶん死んだんでしょうね。

 それでもアークエンジェルだけはアラスカに辿り着きましたがブルーコスモスの腹いせとそれまでの戦果でのザフト寄せとが半々でアラスカに残されて、本部と一緒にサイクロプスでボカン、と行くはずだったんですけどね。連合もザフトもなく『ここはサイクロプスで自爆するぞ』と触れ回る謎のモビルスーツと一緒になって沈まずに逃げ出しちゃいました。

 

 そうして幸運にも沈まなかったアークエンジェルは、結局また死地に居ます。

 アークエンジェルが連合から脱走して逃げ込んだのはオーブ連合首長国。ポルタ・パナマを無くした僕達がマスドライバーを分捕りに行く先、その一方です。

 

 

 この戦争において多くのコーディネイターを擁するオーブが進んで地球連合へと味方したのならば、コーディネイターにとって一部でしかないプラント・ザフトというテロリストを討つ事はそれ以外のコーディネイターも支持する行いだと、プラント・ザフトが異常な存在なだけでコーディネイター全てが異常な存在という訳ではないと多くの人が認めた事でしょう。

 でもオーブが連合に味方をしないのでは『コーディネイターはエイプリルフールクライシスという地球に対するテロ行為を容認する人でなしだ』と後ろ指を指されるのもしょうがない事です。コーディネイターが力を持つ国であるオーブの取った振る舞いが現実のものとしてそれを肯定しているのですから。

 

 エイプリルフールクライシスによって最初に多くの被害を引き起こしたのは電波障害です。これによって多くの航空機が事故を起こし、多くの船は自身の位置を見失い・他者からその位置が分からなくなりました。

 これに核反応の停止による大規模停電の影響が続き、事故に対応しようにも通信もできず・通信ができたとしても救急隊が乗り物を出せる回数すら大きく限られた事で初期の混乱とその被害はとても大きなものとなったのです。

 『プラントに味方した国であればエネルギーの供給を受けられる』? エネルギーが届くまでに何人が死んだのでしょうか。エネルギーが届いてからも何人死んだのでしょう。プラントに味方した国の国民であっても、この凶行の被害にあった人は少なくありません。そういった人の中には連合各国へと来てザフトとの戦いに参加している人も居る程です。

 

 エネルギーに恵まれた土地に住んでいる事でNジャマーという『エネルギー不足とザフトのどちらに殺されるか』を選ばせる兵器の残虐さを体験していないオーブには、今の戦争を理解できていないのでしょうか?

 ザフトは地球全土を対象としたNジャマーの投下というテロで敵味方を恫喝し、自身に味方した国々すらプラントに依存しないエネルギーを制限する事で属国化を進めています。ザフトが勝てば良くても地球に済む人類全てがプラントの奴隷に変えられ、悪ければ滅ぼされかねない戦争です。それはもう『地球の存亡を賭けた戦争』とでも呼ぶしかない戦争ですよ。

 そりゃあもう既にプラントと組んでいきなりのエイプリルフールクライシスに付き合わされた事で後に引けなくなった国も多いでしょうけどもね、オーブにはそんな事情もないのにザフトの所業を看過し続けている。これを地球人類に対する犯罪と呼ばずして何が犯罪になりますか!

 

 この戦いで我々はオーブ市民をも犠牲にしてしまうかもしれません。しかしこれは地球人類を滅ぼそうとする恐ろしい犯罪者からオーブを解放し、地球人類を救う為の戦いです。

 地球上に存在する全ての人類の生命に対し、力ある者としての責任をどうか果たしてください。

 

 

 ……自分でも『よくもまあ口が回ったものだ』と思いますよ。それでも、少々口を回すだけで能率が上がるんならやって損はないでしょう?

 

 

 オーブでの戦いは戦力差から考えればすぐに終わると思っていましたが、反乱艦の――僕にとってはとことん邪魔しかしなかった――アークエンジェルや未確認の高性能な飛行・重武装モビルスーツ――片方はアラスカで敵味方無く自爆を触れ回った奴でしょう――なども加わった事で想定よりも長く戦いは続きましたが、最後にオーブが御姫様(カガリ・ユラ・アスハ)を付けてアークエンジェルと輸送艦を宇宙に上げてからマスドライバーと工場を自爆させたという形で実質としては勝者なく決着しました。

 ああいえ、マスドライバーと工場の自爆に関しては『トチ狂った前代表が勝手にやった事』でしたっけ? まったく、オーブらしい物事を有耶無耶に終わらせるイヤなやり口です。

 

 開戦してからもオーブはしつこく交渉を求めていましたが『地球連合と敵対しても簡単に講和できる』なんてあんまりな前例を作るのも望ましくはなかったですし、後知恵でものを言えば『プラントとの前線になる気もない』のであれば連合にマスドライバーや工業力を提供できる訳もないという所で他の決着はオーブ首脳部の速やかな排除でしか達成できなかったでしょう。

 

 モビルスーツの実戦テストという点においてはオーソドックスな対モビルスーツ戦闘を想定した――何ならバズーカ状の発射器でも持たせてミサイルや魚雷でも打てる様にすれば対空・対艦・対潜もそれなりにやれるでしょうけど――M1アストレイとの戦いは、今後ザフトがビーム兵器を標準装備した対モビルスーツ用モビルスーツを出してきた時に活きるであろう情報です。ザフトとの決戦がまだ遠い今のうちに得られた事が大切なものであり、戦略的に得る物が全くなかったとまでは言いません。

 強いて言えば水中用や飛行型・砲戦型などのモビルスーツの集団との本格的な戦いを経験できなかったのは残念ではありますが、そちらは既存の兵器で代替できるという点で用意されてないのもしょうがない事です。

 

 

 そしてこの戦いでよく分かったのはモビルスーツという兵器はジンが出た時点で既に一度完成されていたという事です。

 ジンとは、戦闘艦には運動性で勝り、重宇宙戦闘機(モビルアーマー)には装甲と小回りで勝り、戦車には小ささ以外のだいたいで勝る。そしてまともな戦闘においては活動時間を気にする必要はない兵器です。

 Nジャマー環境下では電波探知・通信が可能な距離が極端に縮まっている事もあって射線を手軽に調整できる事も明確な強みになっていますし、何なら電波的な目を掻い潜って近づいて重斬刀で戦車の群れを叩き潰していく事すらあり得るというのですから敵いません。

 対するこの戦いにおいて投入されたストライクダガーもアストレイもモビルスーツとの戦いを想定して『フェイズシフト装甲を持つモビルスーツだろうと撃破できるビーム兵器』と『ビーム兵器を躱す為の高い運動性』『モビルスーツの白兵攻撃に対抗する為の白兵武器』を持つモビルスーツです。

 攻撃面で採用しているビーム兵器はエネルギーをドカ食いするのでそれを常用するこれらのモビルスーツは活動時間がとても限られていますし、防御面ではビーム兵器を受けるとなると――様々な理由から本体装甲には採用し難い方式なので――対ビームの盾を持たせていますが、どうせ対面のモビルスーツの攻撃は受けられないという事で本体装甲はだいぶケチられてもいます。

 在来のリニアガン・タンクの攻撃をジンなら――"受け身"は必要かもしれませんが――それなりに受け止められる可能性があるのに対して、ストライクダガーやアストレイが受けるのはだいぶ厳しいものがある様です。

 

 あー、つまり、在来兵器を全て喰う為に作られたジンと、ジンハンターであり・ジンハンター同士で戦う事も前提としているストライクダガーやアストレイは別種の兵器だという事ですよ。

 

 例えば両軍のモビルスーツが75mmもの巨砲であるイーゲルシュテルンを頭に張っ付けてるのだってCIWSってのもあるにしろ、ジンハンターとしてジンの装甲をぶち抜きうるだけの貫通力を期待しての事です。当然そんな貫通力はストライクダガーやアストレイに対してぶっ放すなら過剰です。貫通力が半分になっても十分ぶち抜けるでしょうし、小さくして弾を多く積める様にする方がジン以外と戦うのには有用でしょう。

 あるいはリニアガン・タンクを『ビームライフル・タンク』辺りのモビルスーツにも十分通用する火器を持ったものへと更新するだけじゃなくてモビルスーツで対抗しようとしてるのは飛び出してきたモビルスーツに叩き切られて終わりじゃあ困るからですけど、重斬刀みたいな機体の質量を乗せての突進攻撃ができる様なのじゃあなくてビームサーベルという小型で軽量で対艦とかじゃ決め手になり辛い武器が標準装備なのはあくまで敵に接近戦(モビルスーツの本懐)を躊躇させるのが一番だからです。

 

 ジンに近いのはこっちなら僕の持ち込んだ後期GAT-Xの3機、あっちならあの2機の飛行モビルスーツです。フェイズシフトによって在来兵器による攻撃の大半を無効化し、ビーム兵器で蹂躙していく。でもビーム兵器はもちろんフェイズシフトもエネルギーをドカ食いしますからね、他のモビルスーツよりも活動時間は更に縮みます……縮むはずです。

 更に言えばモビルスーツを飛ばすのだってエネルギーをドカ食いします。例えばザフトの飛行モビルスーツ・ディンは実弾銃しか使ってませんが活動時間と飛行速度を確保する為に防御力を完全に捨てる羽目になっています。ビームにフェイズシフトに飛行とエネルギーをドカ食いさせてれば活動時間はだいぶ縮むでしょう。

 こっちの後期GAT-Xシリーズは必要な時だけフェイズシフトするトランスフェイズ装甲でフェイズシフトしてる時間そのものもケチってもなお、強襲の為に無理に飛ばしてるフォビドゥンにしろ本格的に飛ぶ為に空力的にマシな状態にしてるレイダーにしろ活動時間は限られています。

 けれどあっちの無理矢理飛ばしてる形状な飛行モビルスーツ2機はこっちよりもバカスカ攻撃しても活動時間的な問題はなさそうでした。

 

 まあオーブは技術立国です。バッテリーの改良にしろ、フェイズシフトや兵装の省エネルギー化にしろやってはいるのかもしれません。ですがその程度で補えるのならあっちのアストレイはストライクダガーとは隔絶した性能を発揮したのではないでしょうか? 数を用意できない程に作り辛い何かを持っている機体なのかもしれませんが……その"何か"ってのに一つ心当たりがあります。

 そもそもエネルギーが足りないっていうんならバッテリーよりも良いエネルギー源を使えばいいんですよ。そして今の世界で何かにつけてエネルギーが問題になっているのは兎にも角にも核が使えないからです。じゃあ核を復活させてモビルスーツの動力に使ったら? ……僕はあの2機みたいになるんじゃないかと思います。

 

 

 それにしても『理念に固執して連合の侵攻を許したオーブの現体制に対するクーデターによって親連合政権が興った』とでもしたのなら現体制の象徴としてのオーブの獅子(ウズミ・ナラ・アスハ)が生贄になって事を納めるだけの価値はあったかもしれないですけどもね、今日の戦火を避ける程度の事の為にマスドライバーと工場を吹き飛ばして、コーディネイター系の住人も馬鹿正直に逃がし、その力の源泉を捨てるなんて馬鹿馬鹿しい真似をするなんて思ってもみませんでしたよ。

 別に僕が後について気にするべき国でもないですけれどもね、理念だの信念だのにでも狂ってたんでしょうか。

 

「工場もマスドライバーも無いオーブなんて無価値ですから、しっかりと"取り締まり"をしてプラントに味方する国がどうなるか見せしめにしましょう」

「何を言ってるんですか、無価値どころかマイナスですよ。ええ。だから"特別な取り締まり"なんて馬鹿な真似はしないでくださいよ」

 

 ブルーコスモスだかブルーコスモス系だかの将兵で何を期待してだかお飾りの僕の太鼓持ちをしようとする馬鹿は多いですが、戦いの結果をまともに理解もできない馬鹿がどうして軍のお偉いさんなんてやってるんでしょうね。

 

「は? あ、あの、マイナスであるのならなおの事見せしめにして少しでも役立てたいのではありませんか?」

「あいつらが何の為にオーブの御姫様と残党軍を共に宙に上げたと思ってるんですか? あれらは我々がオーブで下手な真似をした時に攻撃してくる可能性を残す為の布石ですよ。直接殴りかかってもいいし、プラントでオーブ亡命政府を立ててオーブからの難民をプラント側に付けてもいい。あいつらが生きている限り我々は紳士的に振る舞わなければいけない」

 

 御姫様達が死ぬなりなんなりで退場したからって、わざわざ野蛮にやるべきかはまた別の話ですが。

 

「だから占領し続けても大した物を得られる訳でもありませんが、占領し続けたら残党軍が殴りかかってくる可能性がある。戦場になる事を回避すると共に独立国としてのオーブを復活の可能性を残すという部分だけを考えるならオーブの獅子は上手くやったものだと思いますよ」

「『だけ』ですか?」

 

 強みも捨てて、勝った側への貢献もない。そんな状態で戦後を迎えた国に何が残るでしょうか。残った国民も困窮していくだけでは?

 

「オーブという国はどちらかに着いて国民に優しい戦後を目指す代わりに、理念と独立の為に戦後に後遺症を残す毒を飲んだのですよ」

 

 そういうブランディングで食ってこうってのも無理じゃあないでしょうしブランドとはそういうものでしょうけども、コストとリターンを考えたら本当に馬鹿馬鹿しいと思いますよ。

 理念も信念も一時の平和も全部売り払って(銀貨30枚にして)、この戦争の戦後を謳歌できる状態を作る事こそが国の希求するべき利益だったでしょうに。

 

 

 

 オーブでの戦いへと介入した正体不明のモビルスーツ2機、フリーダムとジャスティスについての情報はクルーゼとはまた別の伝手から来ました。尤もそれで2機について分かったのは外見と名前、製造したのがザフトであるという事くらいでしたが。

 クルーゼの方はスピットブレイクのリークで無理をしたでしょうし連絡が取れる状況だったかと言われれば悩ましい所ですが、彼からの情報であればもっと必要な情報が入った事でしょう。

 

 そしてそのフリーダム・ジャスティス絡みでナスカ級が3隻もL4の廃コロニーへと向かっているのだとか。

 そのリークが正しいのであればまだマシな方です。ここで僕達が動かずナスカ級が目的を達成したとして、まあフリーダム・ジャスティスが手に届く場所から消えて動力の情報が手に入らなくなるのは悪い事ではありますが、手に入れば嬉しいとはいっても手に入らなくても当然の物が当然の事として手に入らないというだけですから。

 でも、もしナスカ級3隻がフリーダム・ジャスティスと共にいるはずのオーブ残党軍をプラント・ザフトへと迎え入れに来たのであったら? 色々と後に尾を引く、僕達の足場を揺らがしかねない亡命政権の完成じゃあないですか。

 

 すぐに投入出来る戦力として僕の手駒の後期GAT-X3機とその生体CPU3体に、サザーランドの用意した"コーディネイターに汚染されてない"アークエンジェル級の2番艦(ドミニオン)を加え、その艦長にアークエンジェル級についてよくよく知ってる元アークエンジェル副長のナタル・バジルール少佐を据えて編成した『試作機および新造艦の試験』の為として編成された部隊は反乱艦アークエンジェルの処分を目的として出撃し、L4――公式発表上はL4のコロニー群からは全て人が去った聞きます――の廃棄コロニー・メンデル近傍においてアークエンジェルと、共に行動しているオーブ軍イズモ級――輸送艦と聞いていましたが構造を活かして武装化したようです――のクサナギおよび艦型不明の推定ザフト艦の3隻と交戦しました。

 オーブ系企業のモルゲンレーテ製とはいえ連合の船だったアークエンジェルに、オーブ軍の残党のクサナギ、推定とはいえフリーダム・ジャスティス絡みであろうザフト艦。オーブこそ亡国とはいえ世界を三分する勢力の艦が一つの集団として纏まっているというのはまず見る事の出来ない貴重な光景なんでしょうね。

 

 開戦前にこっちの艦長さんは古巣のアークエンジェルに『弁護するから降伏を~』なーんて涙ぐましい事言い出すなんて、お堅いだけじゃあない所見せてくれる面白いイベントもありました。反乱艦というレッテルが機能してるのは喜ぶべき事でしょうけど、彼女も所詮は戦闘が本分の軍人さん止まりなんでしょうね。

 アークエンジェルは公的には地球連合軍の反乱艦として扱われているとはいえ、その実態はもうオーブ残党軍の一味ですよ。降る訳がない。

 

 僕個人としてはあの2機のモビルスーツの動力が気になっていますけどね、僕のわがままに付き合うという態でドミニオンやモビルスーツの宇宙での慣らし運転を兼ね、また反乱艦の処分という名目でオーブ残党軍を処理して後顧の憂いを断つ事でオーブを最大限利用できる状態にする。それが今の任務の本当の目的ですよ。

 

 

 戦闘そのものとしては慣熟訓練ついでのこっちはもちろん向こうも色々とごたついてたみたいですが、向こうが迫り来るザフトのナスカ級3隻に対する戦力を振り分けた事で戦闘はこっちに有利になった、と思ったんですけどね。

 『もう少し押したら勝てるんじゃないか』と聞いたら、艦長さんには『戦死されたいのですか?』なんて言われちゃいました。

 まあ餅は餅屋に、戦闘の状況は軍人さんの判断に任せますよ。

 

 

 ああ、死ぬ事は別に怖くないんです。

 僕は商人ですよ。自分の命だって最大限高く売りつけようじゃあありませんか。

 怖いのは勝利(最大の利益)を得られない事だけですよ。

 

 そして今はまだ売り時じゃあない。それだけの事です。

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