アークエンジェルがアラスカの近くまで来た訳ですし、僕は勝負に出る事にしました。
僕の影響力を使って補給と増援を兼ねた部隊を送り込んで、追撃を繰り返しているザフト――クルーゼ隊のザラ分隊、とでも言えばいいんでしょうか?――を撃退し、キラ・ヤマトを無事に辿り着かせる様にしたのです。
そして僕も適当な名目を用意して増援部隊に着いて行って、キラ君に粉をかける機会が得られました。
「その、アズラエルさんはどうしてこんな所まで……?」
キラ君は当然の事ながら緊張・警戒している様です。
「そうですね、一番は『君をスカウトしに来た』といった所でしょうか」
キラ君は『ブルーコスモスなんかに?』と言わんがばかりにぎょっとした表情を浮かべます。
「ああ、君に兵士をして欲しいみたいな話じゃあありませんよ。君には『ザフトには正当性が無い』とアピールして欲しいんです」
『ザフトの連中なんて一人残らず殺してやりたい』みたいな動機だったら好き放題戦わせる方がいいのかもしれないですけど、そういう動機じゃあないでしょう?
「この戦争はザフトが居なくならない事には落としどころがない戦争でしょうけどね、ザフトを一人残らず殺して回ろうとしても戦った事でザフトになる人が増えてったんじゃキリがないって思いません?」
キラ君は僕が『ザフトが居なくならない事には』と言った所で表情を曇らせました。
「そりゃあ現役のザフトと戦うのは止められないでしょうけど、『もうザフトじゃあない誰か』とまで戦う必要はないと思うんですよ、僕は」
「今ザフトに居る人に『ザフトに居るのってどうなの?』、これからザフトに入るかもしれない人に『ザフトなんかに入るのってどうなの?』って思ってもらって『ザフトなんてやーめた』となれば楽だし、やめた人たちとは争わなければコストも被害も小さく済むじゃないですか」
希望を取り戻せたのか、キラ君の表情は少しだけ和らいだものになりました。
「……それにね、僕もこんな
「アズラエルさんはその、ブルーコスモスの盟主って言われてますけど、いいんですか? 僕はコーディネイターですよ?」
「そうですね、僕は君がコーディネイターだから必要としています」
「そして確かに僕はブルーコスモスです。
それからは『エンデュミオンの鷹』ムウ・ラ・フラガと、『裏切られたコーディネイター』キラ・ヤマトを連れて遊説の日々です。
ムウ・ラ・フラガにキラ・ヤマトがストライクで避難民を守った人間だとアピールさせ、キラ君にザフトに奪われたものと守りたい相手の話をさせる事で連合の側の人間と印象付けてから、コーディネイターとプラント・ザフトは一体の存在ではなく、むしろザフトこそがプラント以外のコーディネイターを脅かすコーディネイターの敵でもあるのだと話を進めます。
コーディネイターの為の楽園であるプラントとコーディネイターの自由と正義の為の組織であるザフトという幻想を否定する事でプラント・ザフトを弱体化させ、プラント外のコーディネイターを取り込む事で連合各国を強化する為の戦いですよ、これは。
しかしキラ・ヤマトの存在にしろ、それを支援する僕の存在にしろ好ましく思わない人というのは居るものです。
「地獄に落ちろ! 裏切者のアズラエル!」
そう、ブルーコスモス系の招かれざる客が銃を持って乱入、乱射。よくある話です。
大抵は護衛が処理して終わりなんですけども今回は客の数や運もあってか護衛は討ち死に、逃げ惑う聴衆が退路を塞いでしまってはもう自力で解決するしかありません。
「優しいですね、祝福してくれるなんてっ……!」
銃弾が数発僕の胴体を掠めますが、僕を狙っていた乱入者の銃はそれだけの成果で弾切れ。
「ええ、君も。地獄で会いましょうね」
下手糞なリロードの隙を突いて僕は懐に忍ばせていた拳銃で射殺します。
キラ君の方を見ると二人が向かっていた様でしたが、一人には舞台のセットを投げつけて怯ませ、もう一人は自分の手で抑え込んでいます。
でも怯ませた方はあくまで怯んだだけです。死んだり動けなくなったりしてる訳じゃあありません。
僕はキラ君の方へ向かいながらキラ君を撃とうとしている奴に銃を撃ちますが、距離もあってか上手く当たりません。クソ、牽制にはなっているので時間は稼げてますが、僕の銃が弾切れになる前に殺せなければキラ君が殺されかねません。キラ君も自衛の為の拳銃は渡したんですから、撃てばいいものを……!
僕の銃が弾切れになり、そして奴はキラ君に銃を向けます。僕は駆け出しました。
キラ・ヤマト、クルーゼに気にされてる凄いコーディネイターだなんて言ってもただの甘ちゃんじゃないですか。あれらとは似ても似つかない……。
銃声が響き、僕の腹に焼ける様な痛みがいくつも走ります。
僕も、本当に焼きが回りましたね。
利用するだけの道具のつもりだったのに、どうしてこんな事したんでしょう、僕は?
「なっ! ムルタ!?」
君が呼ぶのなら『アズラエル』でしょうに。
「どんな形であれ、戦場を共にしたからですか? クルーゼ……」
「クルーゼ?! 何でこんな時に?」
クルーゼの声かと思ったそれはムウ・ラ・フラガの声でした。ええ。クルーゼがここに居る訳もないですからね。
「昔馴染みですよ、僕が雇い主で、彼が傭兵で、あれらは、なんて……せんゆう…………」
「おい! クソ! しっかりしろ!」
◇
結局ザラ隊はストライクを討つ事はできず、ニコルやディアッカの仇も取れなければ考えを変える切っ掛けも無かったアスランもイザークもナチュラル憎しで凝り固まった模範的ザフト軍人でしかない。
ムルタ・アズラエルがその家とブルーコスモスを裏切る様な真似をして死のうと、世界は大して変わらない。
いやキラ・ヤマトというコーディネイターを利用し悪し様に言う事でザフトを揺らがそうとした結果、ザラ親子は更に強硬になっていると言ってもいいだろう。
コーディネイターの為の正義と自由を冠したモビルスーツを与えられたアスランとイザークに、神意と名付けられたモビルスーツを与えられた私はザフトの秘密兵器、ジェネシスの防衛隊とされている。
しかしアスランは特に変わった。ザフトの象徴となるべき2機をクライン派に奪われそうになったという理由あっての事とはいえ、元婚約者すら含めて全員をその手で処分したというのだから。その精神は正にザフトそのものと化してしまったのだろう。
鍵を渡す相手も機会も見つからず、ただパトリックがその気になる日が来るまでジェネシスを守るだけの日々。……私がどう動くにしろ、アスランとイザークを出し抜くのは厳しいものがある。
パトリックが勝利し、そして然る後にコーディネイターまでもが絶滅するのだろう。
コーディネイターとはナチュラルから進化した種ではなく、それのみで世代を重ね続けられるものではないのだから。
決め手の無い連合と動きもしないオーブに勝ちは無く、戦争の決め手のみを手にするザフトには未来がない。
私も彼らも徒花なのだ。精々思い上がり、好きに散って行けばいい。彼もそうした様に。
IF展開による変化
ストライク撃墜イベントが無いので
・アスランとカガリの再会が無い
・キラとラクスの再会とフリーダム奪取が無い
・アスランの特務隊栄転が無い
・アスランとイザークはストライクやキラへの憎しみを残したまま
キラを利用する都合上アークエンジェル捨て駒化が無いので
・アークエンジェルの離反・オーブ合流が無い
アズラエルが遊説に労力を使ってるので
・(アズラエル主導であった)オーブ侵攻が無い
・オーブ残党軍の宇宙行きが無い
ストライクのパイロット=キラがアズラエルの手による遊説で明かされてるので
・(パイロットが後方に居ると分かっているから)「あのストライクの撃墜」の為に追加で戦力を注ぎ込む事が無い
・アスランが「キラはナチュラルに利用されている」との思いを強める
・ザフトの正義をけなされてパトリックのプッツンゲージが高まる
その他諸々合わせて
・ジェネシス防衛の為の核動力モビルスーツ運用に宛がわれたのは(クルーゼ個人ではなく)クルーゼ隊全体
・Nジャマーキャンセラーが連合に渡る機会が無い
・ラクスは(本編とは別の形とはいえ)キラが戦争を終わらせる為に足掻いてるのを認識するので平和の歌を歌おうとするのは変わらない
・アスランがラクス殺害を躊躇する理由が無い(コーディネイターの正義と自由と命令ばかりが信じるものなザフトのアスラン・ザラ)
・エターナルに救援が来ない
・三隻同盟に相当するものが存在しない
・ジェネシス発射を妨げる要因がない
・パトリックはレノア死亡時点でナチュラルを絶滅させる事しか考えてないのは変わらない
詰みです。