ここは人間たちがエルフの里と呼ぶ場所。
深い深い森の中にある、文字通りエルフだけが暮らす集落である。
その集落には一人だけ人間が住んでいた。
彼の名前はウィリアム。
旅の途中でエルフの里へと迷い込んで以来、とあるエルフの家に居候している元旅人である。
「なあ」
「なに?」
今は食事時。
食事の際には黙って食べるのがエルフの作法だが、ウィリアムは特に気にすることなく食事の合間合間に声をかけてくる。
それが人間の作法なのかもしれないけれど、食事に集中できないしあまりしないでほしい。
とはいえ声をかけられて答えないのも失礼であるため返事はする。
「この里にハーフエルフはいるのか」
「ハーフエルフ?」
「ほら、エルフと異種族の混血の存在」
「ああ、いるよ。ハーフエルフ」
「……いるのか」
それだけ答えるとウィリアムは考え込むように黙ってしまった。
ハーフエルフ。
人間たちはエルフと異種族の混血児のことをそう呼ぶらしい。
エルフの間では特にそういう決まった呼び方はないから取り立てて意識したことはなかった。
「その、エルフ的にはどうなんだ」
「どう、とは」
「昔、物語で読んだことがあるんだ。ハーフエルフは人間からもエルフからも迫害されるって」
「野蛮な話だな、人間の描く物語は。珍しくはあるが別に迫害することなんてないよ」
「そうなのか」
「物好きもいたもんだなってくらい」
「物好き?」
「そう、物好き」
エルフと異種族の混血児のことを特に変わった呼び方をすることはないが、その親のエルフのことを物好き扱いはする。
どうやらエルフは他の種族に比べて長生きらしい。
詳しくは知らないが、エルフの時間の感覚を人間の尺度で例えると、人間の一生とはエルフにとって一か月と少しくらいなのだとか。
実際のところはどうなのかは知らないが。
子供を作ったということは相手のことをそれくらい好きになったということなのだろうが、残りの寿命が一か月あるかどうかすらわからない相手と子作りするなんて、今後の人生を考えると物好きなんだなとしか思えない、というのがエルフの共通認識である。
この里以外にもエルフはいるのかもしれないが、少なくともこの里に住むエルフにとって異種族と子供を作るというのは物好きのやることだという認識だった。
まあ、そもそも外の人間が迷い込むことなんて時々あるかないか程度の話だからそう滅多にあることではないが。
この里にもハーフエルフは三人しかいない程度だ。
ウィリアムの問いかけにそう答えてやれば「んー」だとか「んんむ」だとか唸りながら手で目元を覆って天を仰いでいた。
なんなんだいったいその反応は。
「……たしかにそういう、種族間の寿命の差を考えたらそういう考えになりやすいのかもしれないけど、好きになった相手ならそういうことなんて気にしなくなるものなんじゃないのか?」
ウィリアムは真剣な目をして問いかけてくる。
そこには何か特別な感情が含まれていることを感じた。
「……たしかに、誰を好きになり、愛して子を産みたくなるか、というのは人それぞれかもしれない」
「そうだろう」
「だが、だからこそ物好きだ、という話だ。一般論から外れたものを好むというのは外の世界でも同じだろう」
「……まあ、そうだなぁ……」
ウィリアムはそれ以降は特に返事をすることなく、黙々と食事をとっていった。
私も食事を続ける。
長々とした話をしてしまったせいでスープがぬるくなってしまった。
温め直すとまずくなるから我慢するしかない。
だから食事の時に話をするのは嫌なんだ。