ここは人間たちがエルフの里と呼ぶ場所。
深い深い森の中にあるからか、外の人間がやってくることは滅多にない。
けれど絶対にないわけではなく、時々外から人が迷い込んできたりすることもある。
ウィリアムはそんな外から迷い込んできた人間だ。
長い旅の途中で森の中へと迷い込み、今のままでは帰るのも難しいからという理由からとあるエルフの家に居候している元旅人である。
厳密には今も旅人なのかもしれないが、旅を中断している以上、元旅人である。
「なあ」
「なに?」
今は食事時。
先日と同じようにまたウィリアムが話しかけてきた。
今日は冷たい果物が多いから別に構わないが、食事の際に会話するのはあまり好ましくないが、声をかけられたなら答えないと失礼だから返事はする。
「エルフのイメージって、肉付きの少ないスレンダーな感じだったんだが」
「それは偏見というやつじゃないか」
「他意はない。人間の世界の本に書かれているエルフの姿ってのはそういう感じなんだ」
どうやらエルフの外見的特徴について記された本が外の世界にはあるらしい。
ウィリアム曰く、その耳は神の声を聞き漏らすことがないよう天を衝くが如き鋭さを誇り、陽の光を浴びた髪はまるで太陽のきらめきのように黄金色に輝いている。
全ての余分を取り払ったかのように無駄のない肉体は女神の化身とすら言えるほどの美しく、男女ともに美男美女しかいない、のだとか。
「……それはまたなんというか、盛りに盛った表現だね。」
「人間の詩人は少しばかり誇張することが多いから半信半疑ではあったが……」
ウィリアムはそういって再び口を閉ざす。
窓の方へと視線を向ければ、遠くを歩く何人かのエルフの姿を見つめているようだった。
「思っていたものとは違った、ということかな」
「まあ、そうだな。思っていた通りのエルフもいたけど、こう……なんというか、とても肉付きの良いやつもいたのは驚いた」
ウィリアムの視線の先に歩いていたのは、ウィリアムの想像していた通りに肉付きの少ないやつと……こう、肉付きがいいとしか表現が出来ないやつが並んで歩いていた。
間を取ったような体型のやつもいるが、今はたまたま歩いていなかった。
「親譲りなこともあれば、食生活で変わることもある……ま、それこそ人それぞれというやつだ」
「そのあたりは人間と同じってことか」
ウィリアムは納得したように「なるほど」と呟きながら頷いていた。
ちなみにウィリアムが口にしていた本の内容について、髪の色については半分くらいは当たっている。
エルフの髪は長く浴びた光によって色が変わってくるのだ。
陽の光を長く浴び続けたエルフの髪は太陽のそれと同じように金色に輝く。
逆に月の光を長く浴び続けたエルフの髪は穏やかな月のそれと同じように白く、あるいは銀に輝くのだとか。
この里のエルフは昼に活動するものしかいないため金の髪を持つものしかいない。
夜に活動するものが多い地域では銀の髪を持つエルフしかいないのだとか。
……しかし、本か。
覚えている限りでは自分が生まれてから外の世界へ出たエルフはいないし、外から迷い込んできた人間はウィリアムだけだ。
外に出たエルフを見た人間が本に書き記したのか、それとも遥か昔に迷い込んできた人間が書き留めていたものが広まったのか。
「……案外、初めてエルフの特徴を広めた人間の好みの体型が瘦せ型で細身というやつだったのかもしれないよ」
思い付いただけのことを口にしたら、ウィリアムはとても複雑そうな表情を浮かべて「……もしそうだったら嫌だなぁ」と一言だけ呟いて黙ってしまった。
……他人の性的な嗜好が垣間見えてしまったような気がして嫌になったのだろう。
自分に置き換えて考えてみると、エルフの間でもやっぱり嫌だな。
変なことを言ってしまった。
反省するように私も食事に戻った。
甘い果物を口に含めば嫌な気持ちもすぐに治っていった。