ここは人間たちがエルフの里の呼ぶ場所。
人間の生存圏からは遠く離れた場所にあり、隠れ里といっても過言ではない。
そんな人跡未踏の深い深い森の奥にあるエルフの隠れ里と言えど、夢を追い続ける冒険者ならば足を踏み入れることはある。
ウィリアムはそんな冒険者の一人だそうだ。
世界中のほとんどを見て回ったと豪語していたが、何のために冒険者になったのかについてはまだ聞いたことがない。
「なあ」
「なに?」
今は食事時。
最近はウィリアムとこうして食事の最中に会話をはさむことが増えているからか、食事の内容も温かくても冷めていても美味しいものにしようと工夫している。
それはそれとして食事は落ち着いて食べたい派なので、出来れば話すなら食事を終えてからにしたいのだが、まあ今日は冷めても美味しい料理としても自信作だから許す。
「エルフって草食なイメージがあったんだけど」
ウィリアムはそう言いながら自分の前に置かれた皿にのっているものを見る。
今日の料理は川で釣った魚を捌いて軽く炙ったものだ。
よく脂がのった魚で、炙られたそれを食べると口の中でほろほろと蕩けるような触感が楽しめる。
冷めたら冷めたで美味しくて、我ながらよくできていると思う。
「結構雑食だよね」
「口に合わなかった?」
「いや、めちゃくちゃおいしい。ただイメージと違って驚いたってだけ」
「人間たちはエルフにどんなイメージを持ってるというんだ」
「こう、木の実を食べて花の蜜を啜ってる感じだ」
「虫か何かだと思っていないかそれは」
「いや、これも本に書いてあったんだ。エルフの食生活はそんな感じだって」
また本か。
その本を書いた人間はいったいエルフに対してどんなイメージを持っていたというんだ。
あるいはそんなエルフが本当にいたのか?
まあ個人の趣向で植物しか食べないやつっていうのもいないことにはないだろうが……
「……あ、もしかしたらあれか」
「あれ?」
「どれくらい前の話だったかは忘れたが、そういうのが流行った時期があったんだ。健康や美容にいいから植物由来のものだけを食べようってやつ」
実際そういう食生活をしたことで健康が改善されたやつもいたが、逆に必要な栄養が足りなくなって不健康になったやつも出てくるってことがわかったことで体に合うやつだけ続けていけばいいんじゃないかって話になったっけ。
私も実践したことがあったな、そういえば。
懐かしい話だ。
「エルフにもそういう流行り廃りってのがあるんだな。人間の間でもそういうのは時々流行ってる」
「ウィリアムの読んだ本の作者は、もしかしたらその頃のエルフと会ったのかもしれないな」
「なるほどな、それなら納得だ」
「しかし、エルフの間ではほんの少しの間だけ流行っていたものだったけど、人間には長かったのかな」
「どれくらい続いたんだ?」
「えーっと、今から数えてあれくらいの時期に始まって、廃れてきたのがあの時あたりだから……ざっくりいうと、百四十年くらい?」
「人の寿命の二倍くらいじゃないか……」
「そんなに?」
「ああ、人はだいたい六十から七十くらいで死ぬ。冒険者ならもっと早い」
「なるほど。それじゃあそんな勘違いが起こっても不思議ではない、か」