僕に早期更新は無理かもしれない。
あれからしばらく経った。
人間を食って得たのは糸を生み出し操る術式。それは、蜘蛛として私に足りなかった能力を補ってくれた。
それは、蜘蛛の巣―即ちマイホームである。マイホーム建設のお陰でやっと洞窟暮らしの時よりまともで快適な生活を送ることができるようになったゼ。引きこもりサイコー!
……ただ、あの人間から手に入れた記憶から、このままでは私に未来がない事も分かっている。なんせ私は呪術師に見つかれば即討伐される呪霊であり、その上弱い。そのうち見つかって祓われる運命だ。
呪霊である私が自由に呪術師に怯えずに生きるには、強くなり、呪術師達に『こいつの討伐は割に合わない』と思わせるしか道はない。……まあ他にもあるかもしれないけど、私にはコレしか分からん。
『あくまで人間を攻撃するのは先に手を出された時のみで、その上強すぎる呪霊』とあっては、呪術師達も手を出す事は少なくなる、筈だ。もし手を出してきても返り討ちにできれば同じだしね。
だいぶ厳しい道のりだけど、この術式とあらゆるゲームを極め神と呼ばれたこの私の根性が合わされば、きっとできる。
「よーし、やるぞー!!」
「お"お"お"ー」
おお!
随分と気合の入った返事じゃない…か……
「……ん?」
振り返ると、首が変な方向に曲がった人間のような形の呪霊と目があった。
「……。」
「あ"ー」
「………。」
「あ"ー?」
「――【闇黒槍】!!」
呪力で創られた黒い槍が呪霊の身体を貫く。
「ガブッ」
そしてそのまま頭をブチッと食い千切った。
「……できるだけ気は抜かないようにしよう。」
私はその決意を呪霊の不味い味とともに心に誓った。
◆◇◆◇◆
「……私、ちょっと太った?」
私が人間を食べてから約10年。色々な事があった。それはもう色々あった。
各地を巡っては呪霊を食い、襲ってきた術師から逃げ、呪霊を食い、勝てそうな術師に挑んで死にそうになって逃げ、呪霊を食い、強そうな呪霊に挑んで逃げ、呪霊を食い、呪霊を食い、呪霊を食い……そんな生活だった。
まぁ、その間のことはおいおい話すとして今は置いておこう。
なんだかんだあって先程私の生まれ故郷に帰ってきたのだが………明らかに以前より視点が高い。そして以前より狭い。
「やっぱり呪霊ばかりでは栄養バランスが……呪霊の栄養素って何?」
いやいやいや、そんな馬鹿なこと言ってる場合ではない。確かに最近強くなった影響か前足が鎌になったり身体の模様が変わったりなど、少し変化してる所はあった。
だけど、大きさ自体が変わってるのには気が付かなかったよ! 私元ピチピチのJKなんですけど! 太るのとかNGなんですけど! 前世ではカップ麺&お菓子生活でも太らなかったのになんで蜘蛛になってから太らないといけないわけ!?
「はぁ。ホント、ないわー」
私がため息をついた――その時、
『ゾクリ』
私の身体が、全身で危険信号を発した。
最近手に入れた感知系の術式に、デカい呪力反応がある。――ただ、それだけではない。
「この、気配は……」
そう、私は今私に近づいてくるこの気配を知っている。いや、この気配を感じたことがある者を知っている。その記憶を持っている。10年前、私が食べた数少ない人間の最初の一人、あの男の記憶に深く深く刻まれていた憎悪と恐怖。私は、この気配の持ち主を知っている。
「
「へぇ~、気づいてたのかい?」
草むらからその術師は現れた。
「久しぶりだね。いや、君にははじめましてと言うべきかな? 最近話題の蜘蛛の呪霊――どうして私の名前を知っている?」
その瞳が私を写す。
……私そんなにジロジロ見られると困っちゃう〜。
まぁJKの時に感じてたようなものではなく、単純な私への興味の視線だけど。それはそれとしてなんかいやなんだよお前の視線!! こっち見んな!!
「――まあそれはいい。今回の目的は
瞬間、私は【闇黒槍】を数本放った。私を狙ってきたのなら戦うしかない。逃げるにしても仕留めるにしても、相手に主導権を握られるわけにはいかないのだ。
「それはあの時の…! 速度も威力も以前とは桁違い――呪力出力自体が上がっているのか!」
分析をしながら楽々と躱される。FPSゲームで鍛えられた私の予測とエイムを活かした弾幕攻撃を完璧に躱すとは、やっぱ強いなこいつ!!
「さて、今度はこっちから行かせてもらう――よっ。」
その言葉と同時に一瞬で距離をつめられる。あの男の記憶で知ってたけど、生で見ると速い!
繰り出される蹴りを紙一重で躱し、鎌で首を狙う。
「! 速い…!」
一瞬驚いた表情を見せ、声をこぼした羂索だが、すぐに鎌の一撃を避け、カウンターを合わせていた。
「ぶへっ!」
顔に拳がめり込み、そのままぶっ飛ばされる。なんとか受け身をとって体勢を立て直す。
こんの…! よくも乙女の顔を――やばっ!!
まったく無駄のない追撃をギリギリ鎌で受け止め、弾く。
「へぇ…! これを受け止められるとはね。明らかに感じられる呪力や攻撃力よりも速度がずば抜けている。……面白いね」
こっちは面白くないんだよ!! はた迷惑過ぎるわ!!
ただ、ようやくこっちも体勢を立て直せた。ここからは私のターンだ。【操糸】!
「! それは彼の…! 私に似ている。いいねぇ、随分といい
流石にバレたか…! まあいい、バレたってあまり支障はない。――さて、仕込みは完了。蜘蛛の巣の完成だ!
「……なるほど。見えない糸で私の行動範囲を狭め、罠も張る。簡単だがよくできた技だ。」
私のした事は簡単。極細の糸を操り地面に粘性の強い糸や触れれば切断される糸を組み合わせた蜘蛛の巣のようなものを地面に張り巡らせただけだ。罠にかかっても羂索なら死なないだろうけど、私が逃げるくらいの隙はできるだろう。
この有利な状態ならば少なくとも勝負にはなる。たとえ罠が起動せずとも、うまく戦えば逃げられる隙を作ることはできる、筈だ。
「逃げの一手を常に視野に入れた戦法。呪霊のくせに賢いね。――ところで、私と会話してはくれないのかい? できないわけではないだろう?」
は? こちとら生粋のコミュ障引きこもり陰キャぞ? 大して親しくもない相手と会話できると思ってんの?
「無視とは悲しいね。こちらとしては、君とはいい関係を築いていきたいんだが。」
うるさい!! 胡散臭い事この上ないわ!!
羂索の戯言を無視し、また術式を発動させる。
「――おっと!! 次は大地に影響を与える術式か。ますます興味が湧くね。君はいったいいくつの術式を所持しているのかな?」
地面から槍が突き出るが、それも羂索は器用に躱す。
駄目だ、地力が違いすぎる…!
こちらと相手のスペック差に歯噛みしながらも、とりあえず牽制に闇黒槍を放ち続ける。
「迂闊に近づかないのは評価に値するが、いたずらに呪力を消耗しても有利になるのは私だよ? さて、どうする?」
んなもん言われんでも分かっとるわい!!
クソ! 遠距離でチクチク攻撃するくらいじゃ逃げる隙すら作れない。かと言って攻めるのは自殺行為。
……え? これなんて無理ゲー?
「……まあ単純な呪力量や出力に差がありすぎるからね。噂の呪霊と言ってもこんなものか。」
ん? もしかして見逃してくれ――
「期待外れだし、祓ってしまおうか。」
ノォ゙ーーーー!!! ―――逃げるんだよー!!
なりふり構わず背を向けて逃げ出す。速度を上げる術式と全力の呪力強化によって今まで出したことのないようなスピードで逃げ出した。
「そんな速度も出せるのか……。本当に面白いね…!また会う時が楽しみだよ」
蜘蛛が消えた森に心底愉快そうな声が響いた。
――だが、ビビって逃げるのに必死だった件の蜘蛛には聞こえなかった。