呪霊ですが、何か?   作:なゆさん

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5話

――受肉してから2ヶ月後

 

「……できた」

 

よ、ようやく………ようやく首の傷を治せたぞー!!

長かった…! 実に長かった…!

何度やってもできないし、流れ出る血のせいでいっつも気持ち悪いわ、血の匂いで熊やら野犬やら狼やらが寄ってくるわ、異常を聞きつけた術師もやってくるわで大変だった。

特別コーチがいなければ、今もまだいつ来るか分からない敵に怯えながらがむしゃらに首元に呪力を流し込んでいたかもしれない。

………まぁ、その特別コーチも胡散臭いことこの上ないし、絶対に信用しちゃいけないタイプなんだけど。

 

「おや、できたのかい? 良かったね、()()

「……羂索」

 

そう、特別コーチとはこの羂索とかいう危ない奴だ。私を追ってきた術師に紛れてやってきて、術師を片付けた私に、

 

『反転術式、教えて欲しいかい?』

 

なんて耳元で囁いてきたのだ。気持ち悪すぎて思いっきり殴りそうになってしまった。なんなら殴りかかった。避けられたけど。

ちなみに白織っていうのは呪術師が私に勝手につけた名前である。知らん名前で呼ばれた時は止めさせようとしたけど、もう定着してしまっているらしく、今更前世の名前名乗ってもあれなのでもうそれが名前ってことにしている。

 

「いやぁ、早かったねぇ。半年ぐらいはかかると予想していたんだけど」

「………。」

(いやあんたが『領域展開って技を先に覚えないと反転術式は覚えられないよ?』だの、『他人に反転術式を使って、慣れてから自分に使ってみると早いよ』だの、大法螺吹きまくるからでしょうが!!)

 

抗議の視線を送るが華麗に無視される。ぐっ、こんな時にビシッと言えるコミュ力があれば…!

 

「さてと、これで君の望みは叶ったろう? これからも、私とは()()()()で居てくれるかい?」

 

そう、こいつが私に反転術式を教えると言ってきた時、交換条件として、反転術式を習得した後も友好的な関係を続けることになったのだ。

正直、こんな胡散臭くてどう考えてもサイコパスみたいな奴にあんまり関わりたくはないのだが、縛りとして契約してしまった以上、破ったらどうなるかも分からない。

 

「……縛り通り、敵対はしない」

「まったく、冷たいねぇ。別にいいけど」

 

肩を竦める羂索。その芝居がかった態度が更に胡散臭さを加速させている。もしかしてわざとか? わざとなんか?

 

「さて、反転術式も習得したことだし、行こうか!」

(ん? 行くって何処に?)

「……何処に?」

 

何処かに行くなんて聞いてないけど。

 

「行けば分かるさ」

 

羂索はそう言ってニヤリと笑った。

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

羂索に指示された所に転移すると、そこは謎の建物の正面だった。

 

「……ここ、何――」

 

疑問を羂索に投げかけようとして、言葉が止まる。問いの答えが建物から出てきたから。

覚えのある感覚。まるで心臓をいつでも潰せるように鷲掴みにされているような、あの感覚。

 

「宿儺、いい土産を持ってきたよ」

「――あぁ、そのようだな」

 

男か女か分からん中性的な容貌の美人を従え、両面宿儺がニヤリと笑みを浮かべながら現れた。

 

(いや可笑しいでしよ!! 再登場早いって!! まだ前話で戦ったばっかよ!? ……いや前話って何!?)

 

ヤバいヤバいヤバい。頭ん中パニックになってる。

とにかく! とにかくなんとかしないと――

 

「――【暗黒槍】!!」

 

咄嗟に暗黒槍を放つ。

宿儺は顔色一つ変えず、腕を一本前に突き出し、受け止める姿勢をとった。――が、

 

『ガッ』

 

「何…?」

(よし!)

「宿儺様!」

 

前回は宿儺に少しもダメージを与えられなかった暗黒槍だが、今回は受肉により前回よりも速度も、込められた呪力も、私自身の出力も違う。更には特別コーチに死ぬほど呪力操作を鍛え上げられた。

――その結果、私の放った暗黒槍は、受け止めた宿儺の腕に、皮膚が破け、通常ならば大怪我だと言えるだけの負傷を負わせたのだ。

 

(まあ結局、反転術式で秒で元通りなんだけど)

 

思った通り、瞬く間に宿儺は負傷を完治させた。

 

「貴様ぁ!! 宿儺様に向かって!!」

 

あ、側近らしき美人さんがブチギレてる。

 

「あーあ、裏梅が怒っちゃったか。こうなった裏梅は私の言葉じゃ止まらないから、頑張ってね」

 

羂索は呑気にそんな事を言っている。

 

(コイツ他人事だと思って―――っ!!)

 

何か来る!!

 

「【霜凪(しもなぎ)】!!」

 

瞬間、私は上空に跳んだ。同時に、先程まで立っていた場所が氷に覆われる。

 

「チッ!」

 

躱されたのが気に食わないようで、舌打ちしながらこちらを睨んでくる裏梅とかいう術師。

かなりの出力の攻撃だったにも関わらずまだ余裕があるようだ。宿儺の側に仕えるだけあって相応に強い。

――けど、見た感じ別に特別強い相手でもないな。普通に勝てそうだ。宿儺もいることだし、早めに方をつけるか。

 

「……ふっ」

 

数々の術師を喰らって得てきた戦闘技術を元に編み出した私オリジナルの歩法。それによって、裏梅が次の一撃を放つ前に懐の内へ入り込む。

 

「――なっ!?」

「はっ!」

「ごぁ…!」

 

よっし、鳩尾に一発イイのが入った。コレは勝ったな。

堪らず倒れ込む裏梅を横目に、最大限警戒しつつ宿儺を見る。

 

「――面白い。先の戯れよりは楽しめそうだな」

「【土壁】」

 

 

瞬間、見えない斬撃が土で造られた防壁によって受け止められる。

羂索に鍛えられた精密な呪力操作による術式の高速発動。ムカつくことに、しっかり役に立っている。

 

「相変わらず勘がいいねぇ」

 

その羂索はニヤニヤしながらこちらを観ている。縛りがなければまっさきに暗黒槍をぶち込んでいただろう。

 

「やはり【解】では決め手にはならんか。だが、()()()()()()()()?」

「チッ…!」

 

思わず舌打ちが漏れる。

気づかれないようにこっそり糸を張ってたっていうのに…!

 

「今度は簡単にやられてくれるなよ、蜘蛛!!」

(蜘蛛って言うなぁー!! 結構気にしてんだよ!! 白織の方がマシだわ!! 白織って呼べ!!)

「………。」

 

心の中で喚きながらも、接近してくる宿儺に向かって構える。

相変わらずとんでもないスピードだが、前回よりもしっかりと目で追えている。

 

「ハッ!!」

 

一直線に突貫してくる宿儺に拳を突き出し、迎撃。腕一本で受けようとした宿儺を腕ごと殴り飛ばす。

 

「む…!」

 

少し目を見開いたまま吹き飛ぶ宿儺に瞬時に追いつき、追撃を叩き込む。

 

「ぐっ…!」

 

少し表情を歪める宿儺。

 

(よし! コレいける!! そのまま連撃で終わらせる!! 1発! 2発! 3発! 4発!―――5発!!)

 

『バギィ』

 

(ん? 何か光った?)

「へぇ…! ここでキメるのか」

 

5発目の拳が当たった瞬間、黒い何かが光った。

 

(確か食べた術師数人の記憶にもあったなコレ。名前は確か……黒閃だっけ? 凄く威力が上がってたとこから考えてゲームでいうクリティカル演出みたいなもんかな? なんかすっごい調子上がったし)

 

何故かいつもの何倍も呪力操作がしやすい。なんというか、自分の呪力の核心を掴めた感じ?

 

(このまま――)

「【暗黒槍】!!」

 

ゼロ距離の暗黒槍。

初撃でもだいぶ効いてたし、この距離じゃただじゃすまないでしょ!

二ヶ月前に散々ボコボコにされた分、こっちも思う存分やってやる。グヘヘヘへ! 恨むんなら昔の自分を恨みな!

 

(はいドーン! ドーン! もう一発ドーン! そんでもって――ドーン!!)

 

何発も何発も高威力の術式をブチ込みまくる。

 

(ハァー、気持ちいい〜!)

「図に――」

(――へ?)

 

突如砂埃の中から腕が伸びてきて、私の顔を鷲掴みにした。

 

「――乗るな」

 

凄まじい力が私を抑え込み、私の後頭部は地面へと豪快にダイブした。

 

「痛ッ!」

「中々効いたぞ、虫けら」

 

称賛を述べながらも追撃を仕掛けてくる宿儺。

身体を捩ってその拳を避け、体勢を立て直す。立て続けに襲ってきた宿儺の足刀を両手で受け止め、地面に叩きつける。が、宿儺は2本の腕で地面にぶつかる衝撃を受け止め、そのままもう一本の足で私の顔面を蹴り飛ばした。

 

「ぐっ…!」

(乙女の顔面だって前回も言ったでしょうが――ヤバッ!)

 

迫っていた宿儺の掌をなんとか躱し、その身体を蹴って距離を取った。そして、先程の近接戦闘中に即席で地面に仕掛けていた糸を引き寄せる。

切断力を限界まで高めた糸が網目状に宿儺に迫る――

 

「【解】」

 

宿儺は分かっていたかのように糸の付け根を斬り、その包囲を解く。

 

「いいぞ、もっと、もっとだ!」

 

宿儺が獰猛な笑みを浮かべながら向かってくる。とんでもなく怖い。

 

(嫌だよ! もうやめたいよ!)

 

心の中では泣き叫んでいるが、コミュ障過ぎて表情が死んでいるマイボディは薄く目を細めるだけだ。

 

再びインファイト。

ただ、先程とは違い――

 

「ゴハッ!」

「どうした、もっと頑張れ虫けらぁ!」

 

一方的に私がボコられていた。先程は宿儺の油断に漬けこんだ不意打ちとその後の追撃、さらに黒閃による好調によってなんとか互角の勝負が成立していたが、今回は真っ向からの近接戦闘。いくら数人分の技術をモノにし、黒閃を経て強化されたとはいえ、腕2本と腕4本の純粋な手数の差に素のフィジカルの差、そして呪力出力の差は覆し難い。

 

「このッ――がっ!」

「先程の威勢はどこに行った?!」

(ヤバい! このままだと落とされる! こうなったら自分も痛いけどっ!!)

 

「【焦土】!!」

「む…! ほぅ、まだ術式を隠し持っていたか」

 

超高温の炎を繰り出し、宿儺に距離を取らせる。こちらも結構焼けるからどっちかって言うとこっちがダメージ多いんだけどね。

 

「虫けらにしては、中々に面白い見世物だった。

―――褒美だ」

 

宿儺が呪力を高め、2本の腕で手印を結ぶ。

 

(ここで領域展開! ガチで殺しに来た!)

 

こちらも呪力を練り上げ、手と手を合わせる。

 

「「【領域展――】」」

「はいストップ」

 

両者の領域が展開されるその刹那、先程まで見物を決め込んでいた羂索が突如として割って入ってきた。

 

「なんのつもりだ?」

「いやいや、ここ更地にする気? それに、ここで彼女を殺されるのはちょっと困るんだよね」

(キュン…!―――いやそもそもこいつがここに連れてきたんじゃん!! あっぶな! 惚れるとこだった! このサイコパス、乙女の純情弄ぶな!!)

「それに、君の遊び相手が務まる奴なんてそうそう居ないでしょ? ここで殺すのは勿体なくない?」

「そんなもの、都の術師連中で事足りる」

「まぁそうなんだけどね? ここは私の顔に免じて、見逃してくれないかい?」

「……蜘蛛一匹の命など、元々さしたる興味もない。いいだろう」

 

良かった。なんだかんだ丸く収まりそうだ。

 

「おい、蜘蛛。これからも俺を楽しませるがいい。俺の興が削がれぬ内は、その命見逃してやる」

 

おっと、これからも強くなり続けないと殺されるってこと?

………なんで私の命は毎度毎度崖っぷちギリギリなんだよ!!

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