あれから、夏油とかいうやつと結んだ縛りは、
・私は、私が気が向かない限り非術師を殺さず、そのことについて夏油傑は一切の意見を言わないこと
・夏油傑は私が気の乗らないことに対して強制したり、しつこく頼んだりしないこと
・以上二つを条件として、私は夏油傑の本人が死亡するまで、夏油傑とその仲間に対して危害を加えず、また私も術師相手の場合はある程度は協力すること
この3つである。
正直、私は夏油の非術師皆殺し計画には賛同していない。そりゃそうだ。だってこれから発売される予定の前世で好きだったゲーム達や、マイソウルフードのカップ麺、そして私が一番気に入っていたコンビニオリジナルのスイーツも、ぜーんぶ非術師が作っていたものだ。夏油の計画が成就してしまえば、それらがどうなってしまうか分からない。
ぶっちゃけ失敗した方が私にとっては得だ。
……それでもアイツの仲間になったのは、一つは単純に断ったら粘着してきそうで嫌だったからだが、もう一つは、あの
だから、私はあの目をしている人間には敬意を払うと決めているのだ。
………まあ、だからといって働くとは言ってないけどね! 私、働いたら負けだと思う。
縛りを結んだ後は、また後日改めてメンバーを集めて私の下に来るという約束をして夏油は帰っていった。
……せっかくゲーム2台も出したのに無駄になってしまった。なんか悲しい。――ち、違うからね! 別に久々に誰かとゲームしたかったとか、そんなんじゃないから! こちとら呪術界に悪名を轟かせている白織さんやぞ!! 孤高の美女やぞ!!
だから、その、とにかく違うからなぁ!!!
◆◇◆◇◆
――数日後
私は、何か新しいゲーム、特に複数人でできるものを求めて結界の外に出ていた。
理由は……なんとなくだ。――うん、なんとなくだ。別に仲間ができたんならいっしょにゲームしたいとか、そんな理由では断じてない。私はボッチを極めた女。仲間ができた程度でそんな浮足立ったりしない。しないったらしない。
そして、無事いくつかのゲームと、新しいゲーム機を買った、その帰り道。
「そういえば、最後に戦ったのっていつだったっけ?」
ふと思った。随分と結界に籠もっていたから、結界を抜けて入ってきた奴としか戦っていない。
「たしか………江戸時代あたりのイカれたジジイが最後だったかな」
アレを最後に、戦った記憶はない。どのくらい前かは覚えていないけど、少なくとも200年以上前のことだ。つまり、私は200年以上のブランクがあることになる。
「――ヤッバ…! ちょっと、身体動かしたほうが良いかも!」
この身体は太ったりなまったりすることはないが、戦闘の勘とか戦闘技術というものは、放っておくと錆びていくものだ。一応、暇つぶしに、食った人間の記憶に従って技の練習を毎日一通りやってるけど、やはり実戦と練習は違う。
夏油程度なら技術なんて使わなくても勝てる。怖くもない。しかし、もし羂索の計画が今始まってしまったら。宿儺と殺し合うことになったら。
「ぜ、絶対に煽られる…! 羂索にも、宿儺にも」
私をバカにする2人の姿が目に浮かぶ。裏梅すら便乗してここぞとばかりに笑ってくるかもしれない。
――ヤバい。想像だけでめちゃくちゃイラつく。イラつきすぎて辺り一帯吹き飛ばしてしまいそうだ。
「――やるしかない。リハビリを!」
あいつらにバカにされないために!
と、いうことで、呪霊狩りを始めたのだが、
(弱すぎる…!)
単純に呪霊が弱すぎるのだ。一発で死ぬし、トロいし、術式もしょーもない。これじゃリハビリにもならない。
(お? また反応。……弱そー)
あんまり期待できないが、呪霊の反応があったほうに向かう。
そこにいたのは、数人の子供と呪力量の低いザコ呪霊。
「……ハァ、やっぱりか」
子供がいるのでコミュ障を発動しながらも、愚痴を抑えきれず言葉が漏れる。私を騙せる程質の良い呪力操作をしている可能性もあると思ってたんだけど。これだけ探して弱いやつしかいないのは、現在はもう強い呪霊なんていないのか、それとも私がたまたま見つけられてないだけなのか。
「……ハァ、ないわ~」
またため息混じりに言葉が漏れた。
――するとそれに反応したのか、
「ゔぁ、ァアア!」
気持ち悪い声をあげながら向かってくる呪霊。特徴的な巨大な顔面を歪めて走ってくる様は普通にキモい。
(仕方ない。とりあえず、呪力込めなければすぐ死んだりはしないでしょ)
向かってくる呪霊の足を蹴り壊し初動を抑え、バランスを崩し前のめりになるそのデカい顔面に左拳で3発叩き込む。
「ゔぉ、ごぁぁ…!」
ほんの少ししか呪力を込めてない打撃だったので辛うじて耐えた呪霊。しかし、戦意が喪失したのか、踵を返し逃げようと試みるも、先程壊された足を再生していなかったせいで無様に倒れ込む。
(手加減してもこの程度か)
もう戦えそうもないので、さっさと術式で消し飛ばす。
「ァア――」
断末魔すらあげられず、呪霊は消滅した。
呪力を使わなければ結構技術を使った戦闘はできたけど、結局は相手が弱いと一瞬で終わってしまう。
少しは勘は戻ったが、これでは……
「……む?」
服を引かれた。振り返ると先程の呪霊といっしょにいた子供達が私の後ろについてきていて、服を引っ張っている。
「……あっち行って」
私は今忙しいの! ていうか子供とはいえ流石に初対面で気の利いた会話なんて無理なの! コミュ障なの! 私じゃなくて他の人頼れよ! 外出ればいくらでもいるから!
「お母さん…?」
「……違う」
こんな大人数産んだ覚えないわ! こちとらボッチぞ? 男性経験ゼロに決まってんだろぉ!
クソ、私は早く次の呪霊を探しに行きたいのだが、どうにも子供達は私の服を離してくれない。どうしようか? あんまり目立つのもアレなんだけど……
「……ん?」
私の呪力探知に反応があった。見ると、そこには大型の白い犬がいた。額には、何かの文様がある。術師の式神だ。見覚えがある。昔戦った術師の術式だ。確か名前は、玉犬。
「……あの犬についていけばいい」
術師の式神なのだから、子供達を見捨てたりはしないだろうから、あれについていけば安心だ。多分。
じゃ、そういうことで――
「……? あの犬について行って」
何故かその場から動こうとしない子供達。意味が分からん。もしかして、このパーフェクト美少女な白織ちゃんの魅力に離れられなくなっちゃったのだろうか?
――『少女って歳じゃないだろ』って? うるせぇぶっ○すぞ!
「……いっしょに行こうか」
結局、私が折れていっしょに玉犬についていくことになった。
玉犬は、バス停のようなところで止まった。ここなら人が通るから保護されるということだろう。私は人に見られないうちに子供達の手を離し、その場から逃げた。
「ふぅ。やっぱりコミュニケーションは疲れる――」
帰ろうと踵を返した瞬間、呪力の反応を察知した。恐らくは先程の玉犬の主とその仲間だろう。
「ちょっと見てみるか」
もし使い手がロリコンだったら天誅下してやる。
術師は、顔はいいけど目付きの悪い子供と長身の白髪サングラスイケメンの2人だった。
長身の方は、見た瞬間『顔がいい!』って言っちゃいそうなくらい整った顔立ちをしている。女子校とかに行ったらアイドルみたいな扱いされそうだ。夏油を見たときも思ったが、現代の術師って皆イケメンなんだろうか?
しばらくその2人を眺めてたんだけど、不意にイケメンとサングラスごしに目があった。
『ドクン』
心臓が大きくはねた。言っとくが、別に恋に落ちたわけじゃない。これは――
(あいつ……強い!)
呪力量はまあまあ。そんなに多いわけじゃない。普通ならそこまで気にするほどの存在じゃない。
しかし、その雰囲気。宿儺を思い出させるような、圧倒的強者特有の雰囲気があった。
その上、探知系の術式を使って分かったが、あの男は常に自分の周りに術式を展開したうえで、頭に反転術式も回していた。めちゃくちゃな精度の呪力操作だ。ぶっちゃけキモい。私の知る中で同じことができるのなんて私か宿儺くらいのものだろう。間違いなく猛者だ。
「へぇ…!」
目があっていたイケメンが、サングラスを外してニヤリと好戦的な笑みを浮かべた。その青い瞳が私を映す。どうやらこちらの実力を見抜かれたらしい。美形だからいいものを、顔が違ったら軽くホラーである。
(―――逃げよ)
相手が今にも襲いかかってきそうだったので、転移で逃げた。
あのまま戦闘になれば、せっかく助けた子供達にまで余波がいきそうだったし、そもそもあんな猛者とやりあうのは勘を取り戻してからがいい。今のままでも勝てるだろうけど、万が一がある。――とはいえ、
「……退屈しなさそう」
口から思わずそんな言葉が漏れた。平安の頃ならめんどくせぇとか思ってただろうに、私も1000年という長い暇のせいでずいぶん変わったものだ。
そんなことを思いながら、私は買ったゲームを開いた。
◇◆◇◆◇
――その後、特に何も変わったことはないまま夏油の仲間になって8年の月日が流れ、
「……私の勝ち」
「あーもう! また負けたぁ!」
「菜々子…弱い…」
「ハァ? 美々子もボコボコにされてたじゃん!」
「んもう! ゲームで喧嘩しないの! 白もちょっとは手加減してよ。大人げないわよ?」
「……ハンデで最初に体力半分まで削らせてあげてる」
「ウルサイゾ、オ前タチ」
「ゲーム一番弱いミゲルは黙ってて!」
「ナンダト!」
「ほら! ミゲルにも飛び火しちゃったじゃない!」
「……分かった。次はダメージを食らったら負けでいい」
「マジ? それなら楽勝――」
「菜々子…次は私」
「ええ!? せっかく勝てそうなのに!」
私はすっかり夏油一派に馴染んだ。
夏油があちこちで呪霊やらお金やらを集めている間、私はアジトでひたすら食事とゲームを繰り返していたのだが、美々子と菜々子という女の子2人がいつからかいっしょにゲームをするようになった。そして、時々その2人といっしょにラルゥとかいう半裸にハートニプレスの変態と、最初夏油といっしょにいたミゲルという黒人も混じるようになり、最近は真奈美と利久というあんまりパッとしない奴らとも顔をあわせた。
とまあそんな感じで無事仲間として溶け込めたのだが、今の会話を聞いても分かるように私は今まで一度もコイツらに負けてない。ゲームでも、実戦でもだ。
夏油に頼まれて、時々仲間全員に稽古をつけてやるのだが、まあ普通に夏油、ミゲル、ラルゥ以外は弱い。
美々子と菜々子は私が幼い頃から鍛えてやったからそこそこできるようになってきたけどまだ弱いし、最近になってようやく会った真奈美と利久は論外だ。普通に弱い。術式が強いわけでもないのに応用もしてないし、呪力量や出力も微妙。フィジカルも弱い。できて雑魚狩りだけだ。あまり役に立つとは思えない。
ただ、そのかわり夏油、ミゲル、ラルゥは普通に強い。
ラルゥは術式がサポートとして優秀で厄介な上にフィジカルも強く、特に耐久力は私が今まで相手してきた中でも上の下くらいはありそうなレベルなのでチームを組まれたらかなりウザい。
ミゲルは術式で遠距離攻撃の術式をほぼ無力化できるし、接近戦は恵まれた体格とかなり高い呪力量と出力、それに術式効果も相まってそうそう負けることはないと言える程度に仕上がっている。さらに、黒縄とかいう特級呪具を持って戦えば、術式は使えなくなる代わりに相手の術式を乱すことが可能となり、彼の得意な術式なしの肉弾戦に持ち込めるのだ。
夏油は呪霊操術の手数の多さにそれをうまく扱うセンス。そして、術式関係なく強い近接戦闘能力。どれも一級品だ。どうやったらそんな動きにくそうな袈裟着てあんな動きができるのやら。
領域を使った勝負まではしたことがないが、今の術師は領域使えるやつがごく少数しかいないらしいし、ぶっちゃけこの二人がいれば今の術師なんて大抵はなんとかなるだろう。
――ま、当然この私には勝てないけどね! 戦うときは全員漏れなくボコるけどね
そしてゲームでも当然負けない。私はゲームにおいて、勝負を譲るなんてことはしない。元陰キャオタクJKのプライドにかけて、どんなゲームでも遅れを取るわけにはいかないのだ!
――ちなみにこのメンバーで一番ゲームが上手いのはラルゥだ。意外も意外だが、謎にめちゃくちゃ上手い。どんなゲームでも数回やるだけでトップレベルのパフォーマンスを見せてくる。今や私でもラルゥにはかなり本気でやらないと負ける。そして次点は同率で美々子と菜々子。とは言っても他が下手すぎるだけで、ラルゥとは比べるべくもないぐらいには弱い。ハンデありでも普通に勝てる。その下の真奈美と利久は、まさにゲームやり慣れてない大人な感じのプレーしかしない。普通に弱い。小学生にも負けそうだ。そして最後にミゲル。可哀想なことに彼はそもそも説明を読むのに時間がかかりすぎるのである。その上、美々子と菜々子がさっさと練習の時間を終わらせてしまうので、まともに練習ができない。きっとちゃんとルールや操作がちゃんと分かればもっと強いんだろうけど……残念ながらクソザコナメクジである。
―――とまあこんな感じで、私は久々の長期間での人間との馴れ合いを、中々に楽しんでいた。
「ふぅ〜、ただいま。――またやってるのかい?」
ハンデ勝負でまた負けた美々子と菜々子がギャーギャー言って、騒がしくなっているところに、夏油が帰ってきた。
「「夏油様! おかえりなさい!」」
先程までうるさかった2人はすぐさま夏油の下に駆け寄る。相変わらずの心酔具合である。助けてもらったらしいが、余程のことがあったのだろう。詳しくは知らんし、興味ないから聞かんけど。
「――ドウダッタ?」
「ああ。特級過呪怨霊【折本里香】、すさまじい呪いだったよ。――アレを手に入れることができれば、私達の悲願も実行段階に移ることができるだろう」
「ナラ……ヤルンダナ?」
「――ああ。準備ができ次第呪術高専に宣戦布告する。決戦は近い! 皆各々準備していてくれ!」
どうやら、呪術師とついにやりあうようだ。私にとってはそこまで長い時間ではなかったけど、人間の感覚で言えば随分長くセコセコ準備してきたのだ。大きな動きをする以上、失敗などできないだろう。そんな気持ちの表れか、皆も顔つきが変わった。誰もが口を閉じ、夏油を見つめて頷いている。視線を合わせ、ナニカを伝え合っているのかもしれない。
私はコーラ飲みながらゲームしてる音がやけに響く。
……なんか恥ずかしいな。誰かなんか言えよ。こっち見んなよ。
「あー、ゴホン。……白織、君に頼みがある」
「……何?」
「君には私が乙骨と戦っている間、現代最強の術師、五条悟を抑えてもらいたい」
現代最強、か。
「……そいつ、宿儺より強い?」
「正直なところ、分からない。――だが正直、私は今のアイツが負けるところなんて想像できない」
夏油がそう言うってことは、少なくともここにいる私以外のメンツでは、全員で挑んでも倒しきれないんだろう。
「……分かった」
「危なくなったら逃げても構わない。そういう契約だしね」
私の強さを知っていながらそんなことを言うとは、余程強いのか、それとも術式の性能が凄まじいのか。
ふと、8年前に会った白髪のイケメンを思い出す。
「……そいつって、髪白い?」
「――え? あ、あぁ。会ったことあるのかい?」
「……うん」
あの男が最強なのか。まあ納得である。あの雰囲気に呪力操作。常時術式を周囲に展開していたから、めちゃくちゃ硬いバリアみたいなものを貼れるかもしれない。反転術式で脳を治していたことから恐らくかなり脳に負担がかかる術式なのだろう。とはいえ、それが分かったところで突破口は分からない。やはり領域を出すのが一番いいんだろうか。
でも、殺せとは言われてないし、夏油の言い草からして、夏油とアイツは浅からぬ関係だろうと思われる。できれば半殺しぐらいで済ませてやりたい。領域を出すのは控えたいところだ。
「悟の術式は【無下限呪術】。呪力で【無限】を具現化させてそれを操る術式だ。基本、アイツが無限を展開している限り、こちらの攻撃は当たらない」
「……無下限呪術? あの?」
存在は知っている。私が食べた術師にも同じ術式を持ってるやつがいた。……けど、
(アレって術式の発動が難すぎてロクに使えないゴミ術式だよね? え? アレ使えんの? キモ!)
無下限呪術の発動には原子レベルの緻密な呪力操作が必要だ。私でもそんなことできない。まあ練習すればできるかもしれんけど、別の術式ブッパした方が早い。アレを使いこなすのは、多分宿儺でも厳しいと思う。それを操るとは……もしかして私より強い?
「そう。そして、それを使いこなす呪力操作をもたらしているのが、【六眼】だ。あの目のお陰で、悟は精密な呪力操作と正確な呪力感知を手に入れている」
「……そう」
六眼……聞いたことはある。見ただけで相手の術式が分かるだの、呪力を殆どロスなく使いこなせるようになるだの、チートもいいところな性能してるって、羂索が愚痴っていた。まさか無下限呪術を使いこなせるレベルとは思わなかったけど。確かにそりゃチートだわ。羂索と珍しく意見があったね。
――まあ六眼のチートさは置いといて。とりあえず情報は揃った。確かに最強と言われるだけはあるが、やりようはある。
「……いける。任せて」
「フッ、頼もしいよ。――さて、決戦に向けて、皆んな白織にしごいてもらおうかな!」
目をギラギラさせて、夏油に続く仲間たち。今までにないほど表情に覇気がある。――よし、そんな顔されたら仕方ない。
「……やってあげるからゲーム終わるまで待って」
「「「「「「は?」」」」」」
その瞬間、全員の顔の表情が消えた。
余談だが、この後の戦闘訓練では、表情は消えたままで、めちゃくちゃ殺意のこもった攻撃がとんできた。
当たんなかったけど、正直皆の目がちょっと怖かった。