何の変哲もないとある独身男性の日常の話 作:泡沫幻想黒衣の人
歌舞伎の舞踊に出てくる台詞、いしくま、いしもち、とらくま、とらきす………この中のいしもちをお魚と見るか鬼と見るか………鬼と見た場合、暫定的に四天王と同列に扱えると思うんです。
とらきす?……………魚でしょう。
三月の決算に向けて精を出すサラリーマンが多い中、俺はいつものように鍵開けの仕事をする。
この時期多いんだよね、締め出しくらって開けてくれって依頼。
そういう依頼に対してだけは1万5千+タクシー料金で、そこまでの出費にはならないように配慮している。
それでも2万くらいは軽く飛ぶので、是非締め出しには気をつけてもらいたい。
今回はDMで直接依頼が来たので行ってみる…と、
埼玉県某所 ***団地
12号棟 5階 312号室
1人の女子高校生がドアの前で待っていた。
………詳しく事情を聞いてみる。
「貴方、文化祭の…痴漢…?…ですよね?」
………うん、これ鍵開けの依頼じゃないや。
直のDMの時点で何かあると疑うべきだったね、彼女は文化祭の時に手を執拗に、にぎにぎしてしまった子だ、逮捕が頭を過ぎる。
今更〜?と言って逃げてやるつもりだ、こっちは子供がいるんだ…見逃してくれぇ…。
………いつまで経っても彼女が通報する様子はない、ていうか無口キャラなのかさっき事情を聞いて以降は、殆ど喋らない。
と、通学カバンから名札を取り出して指し示す、読めってか?
浮世 久桜……………う、うきよ??読めるか〜っ!!
読み方教えてもらっていいですか?………ふむふむ、ふせ くおう ね………男の子の場合だとひさおって読みそう、女の子だったからこの読み方にしたのかもね、彼女の親。
ちなみに、この時点でも彼女は俺から一定以上距離を取り続けている。
久桜さんとの距離が遠い………。
………鍵開け依頼ではないようなので、俺はここでお暇………待て、タクシー料金分だけ貰おうか!
………駄目?ちょっと、おーい、………喋ってくれ、頼むから………。
取り敢えず………視k………人間観察。
薄桃色で長めのウルフヘアに、黄色いカチューシャ、瞳は…カッパーブラウンっていったっけ、その色?…いや、違うな、ミルクティーみたいな色だな。
カッパーブラウンだともっと明るいよね。
本物の美少女たちに混ざったら少し見劣りするかもしれないけど、しっかり美少女な部類だな、彼女。
と、喋り出す彼女、鍵開けの依頼は無人島?ふむふむ…無人島ね、何処の?今は悪いけど関東圏内陸に仕事場限定してるんです、ホームページにも書いてあるはずですよ。
………何々?四季の花が咲き乱れる無人島?名前は、荒らされた過去があるから明かせない、か………。
………魔法の桜がある島?それって何処かで………TVとかで見たことがあるような気がする、孤島に咲く不断桜、魔法の桜って………。
………思い出した、確か、その島は、数年前に一部で絶大な人気を誇っていた夏期キャンプ場を閉めちゃったんだっけか。
それからも花の手入れを欠かさず、育てている夫婦がいて…、温暖化も進み四季の花全て、そこでは咲かせることができるんだ、とかTVで…。
うんうん、あの全国の花屋さん御用達の島…だな、他にも御用達になるくらい花を咲かせまくっている場所は各地にあるみたいだけど、その島の夫婦が育ててる花々は特に有名だな。
…って待って、俺はその島の何処の鍵を開ければいいの?
っ、おいおい、メールで返答すな。
種子保管庫の鍵、新品のを頼んで、シリンダー、テンキー、ダイヤルの3段活用鍵で、新しい鍵が来るのが遅れて入れなくなった???
そういうのって普通セットでつけるよね?なんで錠前側だけ先に付けたかな…「鍵側を待てなかった」…あ、そう…。
それで入れなくなったら世話ない、開けるけど鍵が来るまでの防犯は出来るだけ自己責任で…って無人島にまで態々種とかを誰か盗みに来るかな。
「…ゴムボートで盗人、来るの」
……………暇 な や つ も い た も ん だ な ?!?!?!
「行かないの?」
………行こうかな、同伴大丈夫?うち子供いるんで。
………大丈夫みたいだから小鈴と猫も連れて行こう、次の連休中でいいなら。
「…」
あぁっ!元々次の連休の依頼だったね?よくDM見てなかった!
・・・、
2月のとある日
某県某島
クルーザー上
M.5型ライカという骨董品を手に島に上陸、デジタル機器は持ち込み禁止というので、幻ともいわれる小数点付きの骨董品をあの廃研究所から持ち出した。
このMてん5がたライカは調べた限りではこの1点しか無いから、合うフィルムが中々無くて焦ったよ、そっちも廃研究所探したらあったから良かった…。
そしてこのカメラは…多分だけど、射命丸 文が良く使ってるカメラなんじゃないかと思ってる。
彼女は実在しないし、元ネタがこれだなんて分からないけどね。
あと、船…クルーザーだけど、あの日本の宇宙開発の父には知られざるアイデアマンがいた…って逸話で出てくる満月さんの親族の勤め先のものを借りました。
満月さん…あのあくるさんも勿論親族です。
あくるさんと久桜さんは親友でした、………それで、、、これ???
鍵が出来上がった折には、それもこのクルーザーで持ってってあげてよ?………そんなことを言ったら、出費が………と言われた。
………なら俺に対しても態々伝手使って出すものじゃなくない?………知らんけど(もう古い)。
小鈴と猫ははしゃいでいる…おいおい、あんまり暴れるなよ?
・・・、
四季島(島の別称として使用)
島にたどり着いた俺達は…まず鈴蘭畑に行く。
猫ちゃんが着いて早速そっちに走って行っちゃったからね、浮世さんの遠い親戚の管理者夫婦への挨拶は仕事終わってからでいいや、すぐ済むし。
取り敢えずそこで一枚パシャリ☆…と、少々煙が出て中身の心配をしたが、大丈夫、無事だ…。
小鈴もそのエモいカメラで撮ってとせがんでくる、次…ね。
次は…温度管理がしっかりされている、それでいて、冷たい地面でもきちんと育つ品種のひまわり畑だ。
ひまわり畑といえば、青空と太陽とひまわり畑と日傘をさした令嬢が描かれた絵が頭にこびりついている。
一体誰の…、何処で見た絵だっただろうか?
令嬢のさす傘はピンクの可愛らしいもので、それは上半身を隠し、令嬢の下半身しか、絵には描かれておらず、彼女の下は赤を基調としたチェック柄のスカートで…。
とと、また猫ちゃんが勝手に次の場所へ向かっていく。
迷子になっても知らんよー?…この島から出られないんだからすぐ見つかるか。
次は…黄色と白の彼岸花か、惜しいな、これが赤だったら完全に花映塚ルートだったのに…鈴蘭と向日葵…ときたら次は真っ赤な彼岸花でしょうよ。
………と思ったら赤い彼岸花だけ、ある程度茎の上まで行ったところが鎌で切り取られていた………こういう切り取り方だと持ちが悪いんだけど、そういう依頼があったのかな………出荷よ〜。
ここでまた一枚パシャリ☆今度は小鈴を咲いている彼岸花と共に写す。
あとで現像かけなきゃ。
最後に…保管庫に向かい合計1分くらいで全解錠完了、後は鍵が出来上がって持ってこられるまで、この度特別に用意したICカードキーを使うオートロック式のやつを30分かけて取り付ける。
多分ご夫婦は初めて使うタイプだろうから、挨拶がてら説明して、島を後にする。
………小鈴と猫ちゃんは2人でずーっと追いかけっこしていたから、疲れたのか帰りはほとんど寝ていた…、可愛い。
帰り際、窓から夫婦に見ていくように勧められたけど、早く帰ることを優先したため直に見ることはなかった桜を遠目に眺める。
それは枝垂れ桜と不断桜と言われる桜を掛け合わせたような御姿で、何処か西行妖を彷彿とさせた。
夫婦曰く、とある山中の神社で祀られている桜の昆孫だとかなんとか。
………その山中の神社の桜、個人的に気になったので、後で調べて行ってみようかな?
今回の話、桜が多いかも…?