何の変哲もないとある独身男性の日常の話   作:泡沫幻想黒衣の人

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33符 天狗裁きの話

 メリーが来てから4日目

 

 甘味処にて串団子を食べていたら、メリーに面白い話をと言われて、話をしだした日和見。

 

 その話始めた日和見の様子に少々瞠目する少女。雰囲気が先の温厚少年とは似ても似つかないものになったからだろう。

 

 さて、ここで俺こと日和見が話すのは天狗裁きと言われる話の現代版アレンジ…まぁ、面白くバージョンアップしている自信はないが、話していく。

 

 

 

 

 ある日、とあるマンションにて、仲睦まじい夫婦がおりました。夫の方は所謂根無草で、つい半年前までヒモ、つまりは妻の収入に頼ってニートをしていたのです。

 

 しかし妻はそんな夫をその優しさから好いており、仕事の方もいつか三年寝太郎のようにやる気を出すことを信じて、気長に待っていました。

 

 そしてそう信じて結婚して5年経ったある日…彼はめでたく就職した。とある石工会社の事務平社員だったが、手取りは多かった。

 

 そして、就職して半年、彼は有給を取り、平日の真昼間っからうたた寝を決め込もうとして、本格的にリビングのソファで寝入ってしまったのである。

 

 その様子を慈しむかのように見つめる妻…。

 

妻「あらあら、有給を取ったと思ったらただ寝ることに使うだなんて…折角だからデートにでも誘ってくれれば…まぁ、こんな幸せそうな寝顔を見ていると、そんな考えもどっかいっちゃうわね」

 

メリー「!?!?!?」

 

 またも話者、つまりは日和見の雰囲気が変わったので目をしぱしぱさせるメリー。その発する声も完全に妙齢な女性のものであることに彼女はただただ感心をする。

 

妻「あら、ふふ、笑った。なんて楽しそうな顔なんでしょう。きっと良い夢を見てるのね…どんな夢を見ているのか気になって来たわ、起こして聞いてみましょ」

 

 そういうや否や徐に寝入っている夫の肩を揺する妻。すると次第に閉じられていた夫の目が開いていく。

 

夫「っ!………夢か?」

 

妻「あら、おはよう。余程良い夢を見ていたのか、それはそれは楽しそうな寝顔でしたよ、一体どんな夢を見ていたのか、教えてくださらない?」

 

夫「………夢、夢?うーん、夢…そんなものは見てない」

 

妻「嘘おっしゃい、あんなに楽しそうな寝顔、きっと、絶対、楽しい夢を見ていたんだわ、一体どんな夢だったのか、私にも教えてくれない?」

 

夫「だから、そんなものは見てないって!」

 

妻「ははーん、分かったわ、隠したくなるような夢だったのね、イヤらしい」

 

夫「だーかーら、見てないっての!」

 

妻「いい加減に教えなさいったら!」

 

 ピンポーン♪

 

 喧嘩になりそうだったところでその部屋のチャイムが鳴る。

 

同僚「やぁやぁ、どうしたんです、奥さん」

 

メリー「!?!?!?(また雰囲気が…)」

 

妻「この人がそれはそれは楽しそうな寝顔でいたのに、起こしたら夢なんて見てないって言い張るから、私に知られたらまずい夢だったのかと問い詰めようとしていたところでして…」

 

同僚「はーん、でもですよ、奥さんなら夫の言うことぐらい信じてもいいんじゃないですか?そうですよね」

 

夫「うんうん、そうだそうだ、夢なんて見てないったら見てない!」

 

同僚「ほら、彼もこう言っていることですし、ここは信じてみては?」

 

妻「………そうね、例え見ていたとしても夢は夢、こんなことで喧嘩だなんて、子供すぎるわね。ちょっと買い物にでも行って、頭を冷やしてくるわ、留守は宜しくね」

 

夫「(客人の前で特に用も無い買い物に行くかな?普通)おう、いってら」

 

 妻は出かけた手を納め、買い物に出かけていった。

 

同僚「ふー、さて、これで奥さんに聞かれてまずいことでも話せるぞ、どんな夢を見たのか係長の私に聞かせてみな」

 

夫「は?お前な…夢なんて俺は見てないんだってば」

 

同僚「ほほう、私にまで秘密にするってことは、相当な夢だったんだろう、俄然内容が気になって来た」

 

夫「し、信じてくれ、俺は夢なんて見てないんだってば!」

 

同僚「まぁまぁ、お前、ちょっと落ち着こうぜ。もし私だけじゃあ聞き手役に役不足だってんなら、課長、部長、社長まで呼ぶが?」

 

夫「話を大きくするな!?俺の見ていない夢のことで!!」

 

同僚「はぁ…お前とは個人的に親友(以上)のつもりだったんだが、そこまで信頼関係は築けていなかったか…」

 

夫「あのなーーーー…本当に夢なんて見てないんだってば」

 

 思わず同僚の女に殴りかかる五年寝太郎。これは周りから密かに呼ばれている男の渾名である。略してゴネ太郎。

 

同僚「あーあー、そこまで隠すか、なら呼んじゃおうかなー、呼ぼう」

 

 そこまでいうと同僚はスマホを取り出して…110番をした。

 

夫「!?お前、なんで通報したし!?」

 

同僚「だってこれは傷害事件だぞ?呼ぶでしょう普通。あと、裁判まで行くように色々と手を回す、私はそのくらい出来る人脈がある。諦めて、そこで今回の事件の動機として隠そうとしているその夢の内容を話してもらうぜ」

 

夫「勘弁してくれ」

 

 そのうち警察が来て、パトカーに乗せられ留置場までの道のりの間、隣の刑事だという偏屈そうな女とゴネ太郎は会話をする。

 

刑事「いやー、普通こういう事件にまで駆り出される身分じゃないんだがね」

 

メリー「…(もう慣れた)」

 

夫「そっちも人手不足ですか、奇遇ですね、こちらも事務員が足りていなくて」

 

刑事「ま、そんなとこ。サボりとも言えるんだけど、こっちの場合」

 

夫「サボり…」

 

刑事「で、なんでお前さんは夢の内容を話さないんだ?」

 

夫「それなんですけど、絶対に夢なんて見てないのに、やけに寝顔が楽しそうだったからって夢の内容を教えろと言われてて…」

 

刑事「絶対って、絶対の絶対?もしよかったらちょーっとだけでいいから私にだけ教えてくれよ夢の内容。仏さん相手の小話としてしか話さないからさ」

 

夫「ちょっとちょっと、話聞いてました?俺は夢なんて見てないんですって!」

 

刑事「はぁ?仮にも国家権力の私にも言えないって、本当にどんな夢見てたんだい、気になる〜〜」

 

夫「気になさらないで、本当に夢なんて見てないんですから」

 

刑事「んじゃ、話の続きは裁判所で、そこでなら否が応でも話さなければならないからね、傾聴席で聞いてるから嘘偽り無く喋るんだね、夢の内容をさ」

 

夫「傍聴席ね、それと…夢 は 見 て な い 」

 

 それから拘留中一応、ずっと見ていた夢を思い出そうとして、やっぱり夢なんて見ていないことに確信をして、そのまま裁判の日を迎える。

 

裁判長「ではこれより、開廷します。被告人は前へ」

 

夫「はぁ…それで、何か俺は悪いことしましたか?」

 

裁判長「静かに、被告人。被告人の発言を許可した覚えはありません。それよりも、事件記録から読み取れるように、被告人が度々主張しているように、夢など見ていないというのに、問い詰め続けた被害者側に問題があったと私は判断します」

 

裁判長「故に私は此度の件は裁判を通さず個人間で解決なさるのが最良と考え、私の裁量でこの裁判を起こした被害者の申し立てを棄却、閉廷致します」

 

夫「あ、ありがとうございます!(話が分かる人でよかった…)」

 

裁判長「…話は変わりますが、貴方は本当に夢は見ていないので?」

 

夫「裁判長…貴女まで何をおっしゃいます、私めは夢など見ていないのです、神に誓って」

 

裁判長「ここでは神聖なる法廷に誓ってください。本当は夢を見たんでしょう?どんな夢でした?夢の内容を嘘、偽りなくおっしゃってください」

 

夫「夢を見ていたとして、何故貴女に言わなくてはならないのです?」

 

裁判長「やはり見ていたのですね!?では後程個室にてその夢の内容をですね…」

 

夫「いや、夢なんて見てないんですけど…?」

 

裁判長「……………馬鹿にしていませんか?」

 

夫「はい?」

 

裁判長「先程嘘偽り無くと言ったのに嘘を…よろしい、法廷侮辱罪を適応し、今ここでその罪に関する裁判を私の裁量で始めます、そしてこの場で絶対に吐かせてみせます、夢の、内容を…」

 

夫「裁判長ー!?ですから、わた、私めは夢など!?」

 

 ゴネ太郎がそう言った瞬間、建物が大きく揺れて天井が割れ、黒い影がゴネ太郎を瞬く間も無いほどの僅かな瞬間に攫っていった。

 

夫「一体何が?」

 

天狗「あややややや、全て見ていましたよ、災難でしたね」

 

 ゴネ太郎の前には眼下に広がる街並みと黒髪靡かせ艶やかな羽毛を見せる謎の女が立っていた。

 

天狗「全く、麓の人間達ときたら、貴方が見ていないと言っているのに夢の内容をしつこく聞いてばかり、挙句に司法の長まで…」

 

夫「おー、天狗様でしたか?助けてくださり有り難うございます」

 

天狗「そう思うのでしたら麓の人間達には聞かせられないその夢の内容を私にだけ教えてください、天狗間で発行している新聞のネタとして書かせていただきますが、宜しいですか?」

 

夫「おっと………そう来ましたかー。………実はですね、本当の本当に私めは夢なんて見てないんですよ、天狗様」

 

天狗「…はい?麓の人間共ならいざ知らず、私にも隠し通そうとするその夢の内容たるや、さぞいいネタになるでしょう。死んでも吐いてもらいますからね?その夢の内容…」

 

夫「………巫山戯るな!どいつもこいつも俺が、俺の見ていない夢の内容を知りたがりやがって!ついには天狗様まで!いい加減にしてくれー!」

 

天狗「…巫山戯てるのはどちらですか、夢の内容をおっしゃってくださらないのならば此方にも考えがあります。麓まで風と一緒に飛んで行きなさい、その間に言いたくなったらいつでも風を止めますので」

 

 天狗はそういうと、巨大な団扇を取り出して振るう。すると男の体は浮き、山を半周した後、麓に向かって吹き下ろす風と一体となった。

 

夫「だ、誰か助けてくれ〜〜っ!!?」

 

 そう言いながらも、団扇が振り下ろされ、視界が明滅する前に見た天狗様の可憐な姿に心焼かれていた男であった。

 

夫「っ!………夢か?(いや、俺は夢なんて………)」

 

妻「あら、おはよう。余程良い夢を見ていたのか、それはそれは楽しそうな寝顔でしたよ、一体どんな夢を見ていたのか、教えてくださらない?」

 

日和見「ここでこのお話はお終い、ご清聴有難うございました。面白かったかな?」

 

メリー「声と雰囲気がころころ変わってまるで落語でも聴いてたかのようだったわ、天狗様が出てきたところが1番面白かったわね」

 

日和見「それは…何より、ちなみにこの話の元ネタは天狗裁きという古典落語なんですけど…」

 

メリー「そうだったの?後で聴いてみようかしら」

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