何の変哲もないとある独身男性の日常の話 作:泡沫幻想黒衣の人
底無しトンネルの謎は謎ではなかった。
ただ階層が3つに別れていただけのこと…それを誰かが底無しと勘違いした。
分かってみれば簡単なものだった。
その後初めて自分で調べて、初めて1人で行った七夕坂での不思議事…今回も底無しトンネルのような、分かってみればつまらない、簡単なものだったはずなのに…謎の悪寒。
扉の向こう…そこで私を見ているのはだれ?
観賞は干渉に入るか否か?…通常でいえば否。
ただ、観賞する側は常に観賞している世界にいつのまにか引き摺り込まれている可能性に憂慮しなければならない。
そのことは私も常に頭に置いていたはずなんだけど…。
扉の先を見たのが不味かった?
今の私は半身を失ったも同然の状態。
ここから戻る術はあるの?誰か教えて。
…そう問いかけても返ってくる返事なんてない。
当たり前だけど。
見慣れたいつものように人々が行き交う繁華街…のはずなんだけど何処か違和感を感じる。
その違和感の正体が分かれば戻れるのかな?
………まって、戻るって、何処へ???
私の家?………何処だったかしら。
まさかの記憶喪失!?いえ、落ち着け私、………うん、自分の家が何処にあったかってこと以外は全部覚えてる、大丈夫………なのか?
自分の家のこと思い出さないと戻るに戻れない………。
「こういう時は人に聞いて…」
駄目だ、さっきまで人が行き交っていた歩道を見ると人っ子1人いなくなっている。
まるでさっきまで歩いていた全員が一斉に神隠しにでもあったかのように…。
ううん、そう見えてるだけで、探してみれば1人くらい…
・・・、
いない、いくら探しても外に人がいない。
何故?いくらなんでもみんながみんな家に篭ってるはずなんてないはず。
途中神社にも寄ったけど、そこにも人の気配はなかった。
神社の名前は宇佐美。
さて、取り敢えずもっと、もっとこの都会の外に行こう。
そこでも外に人がいなかったら、いよいよおかしい。
…みんな何かを恐れて家に篭ってしまったのだろうか?
・・・、
古き良き田園風景を通り過ぎ、建物もぽつぽつとしか見当たらなくなってきた辺りで、日が大分傾いてきていることにはたと気付く。
不味い、もう少しで日没だ。
知らない土地で暗闇に包まれれば土地勘の無い私には野宿をするほかどうしようもなくなるかもしれない。
せめて端末か何か通信機器を持つべきだった。
…私が普段からそんなもの持ち歩いていたら珍しい方なんだけど。
とにもかくにも、もうそこらの家の住人に声をかけるしかないかな?
今時道に迷うなんて変な子と思われるかもしれないが、こっちは緊急事態だ、早く自分の家に帰って…そこからまた人探しを始めればいい。
あれだ、あの凸型の家の住人に声をかけてみようか?
「ごめんください!少し話を聞いてくれませんか?」
そう声をかけて相手方の反応をみる。
………返事がない、留守なのだろうか?
そこに、足音が近づいてくる…それも複数。
「あれ?誰かいる………」
そう声を発した後、固まったかと思うと目を白黒させた後恐る恐る此方に近づいてくる女の子。
歳は私と変わらないくらいか?バングル型のそれなりに高級な端末を身に付けているところを見るに本物のお嬢様だろうか?
それにしても、そんなに恐る恐る近づいてこなくても…私が怖い存在に見えるのだろうか?
それとも結構な人見知り…の割には数人に囲まれているし、違うかな。
「あのー…」
そう声を発したのは果たしてどちらだったか?
そんなことも気に留める事が出来ないくらい私は内心焦っていた。
なにせ、日没間近で帰る場所が分からないし、相方は残念ながらはぐれてしまったようだから…今度は出来るだけ早く見つけてあげたい。
「コ、コスプレじゃあ…?」
コスプレ?今コスプレと言ったのかな、この子は…。
会場もないこんな場所でコスプレに興じている酔狂な人がいるだろうか?
普段からコスプレしているような人種はもはや自身のアイデンティティを着ているようなものだけど…私はそういった人種では無い。
というか…何らかのコスプレをしているつもりはない、今着ているこれは普段着のひとつでそんなにおかしくはない服装のはず…。
いや、そう決め付けるには早い、目の前の女の子にとって普通ではない服装だからコスプレ呼ばわりされているわけで…。
ここらではこの服装の私の方がおかしいのかもしれない。
この服装は…さて?誰かの真似をしたんだったかなー?家以外のことは全部覚えてるとはいったが、流石に細々とした記憶は当然曖昧だ。
「何か…用ですか?」
次に声を発したのは人形のような…いや実際人形なんだろう、綺麗な女性型ロボットが声を発した。
私が何をもって彼女をロボットと判断したのかは…肌の感じなどを見てだ。
いくら人間にそっくりに作ってあるとはいっても流石に新陳代謝などの人間本来の機能なんかは完全再現とはいかないものだからね。
「貴女は、まさか___」
と、気づかれない程度につぶさにロボットの彼女を観察していると紫髪の何処か浮世離れした雰囲気の女の子が声をあげる。
続いて紫髪の彼女から溢れた言に私は些か面食らった。
それは…その子が知っている筈のないものだったから。
しかし知っているのならば彼女は一体何処でそれを知ったのか…。
彼女にはそれを知るに至った子細を聞かなければ。
もしかしたら私が何処かで名乗った場面を見られていただけなのかも知れないが…。
そう、私は大学生 宇佐美 蓮子、オカルトサークル秘封倶楽部のメンバーだ。
ただ…自分の家の記憶を失った今、どうにも自分が確かに蓮子であった記憶にも自信がないが、そこらは追々はっきりしていくだろう、家の記憶とともに。
そう信じよう、信じる。
!!!