リン=フリークスの冒険   作:夜桜百花

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幼少期編
転生したら主人公の姉だった件


 私の初めの記憶は、まだ視力も十分でないであろう頃のものだと思う。

 視界いっぱいにぼんやりした白と黒が映っていた。ゆらゆらと抱かれ、ふわふわと心地が良い。心のどこかに漠然とした違和感はあるものの…。

 白と黒のふわふわは、柔らかく私の事を抱いていた。時折、何かの笑い声が聴こえた。その声を聴くとなんだかうれしい気持ちになって、私も笑っていたと思う。

 何かが違う、何が違うのかはわからないが、それでも心は満たされていて、とても幸せだった。

 

 次の記憶はカラフルな髪色の女性たちが笑顔で話しかけてくれるというもの。

 愛情をその瞳に湛え、私の一挙手一投足を見守っている。おそらく彼女たちのおかげで、私は言葉や生活の仕方を身に着けたのだろう。

 白と黒の正体はパンダだった。体温と自我を持つパンダは、せっせと甲斐甲斐しく世話を焼いた。周囲にはそれに違和感を持っている人は誰も居ない。これが『普通』らしい。

 その頃から徐々に前世の記憶を思い出し、自我も芽生えつつあった。違和感の正体は生活形態や文化、生き物たちだった。この辺で、この世界は自分の知っている世界とは異なるのではと思い始めた。だって、私の知っている世界ではパンダは人の世話をしないし、人の髪はカラフルじゃない。なのに、渡される絵本に書かれた文字は、妙に見覚えがあるものだった。それが何かまではわからなかったが。

 

 そして現在、脳が十分に発達し、前世の事も今世の事も把握できるようになった私、ことリン=フリークス(4歳)は悟った。

 

 これ、ハンターハンターの世界じゃね??

 

 

 

 うそやんんんんんんん!

 

 オタクの夢である異世界転生してしまった!しかも大好きだったハンターハンターの世界ですよ!だがしかし、逆に言おう。ハンターハンターの世界に来てしまった(絶望)!

 

 歩けば死に、家に籠っていても死に、戦えば当然死ぬあのハンターハンターですよ!!つまり死!確定!

 

 もんどりうってのたうち回り、幼い頃から面倒を見てくれていたパンダを一通り困らせた所で、天才的な考えが頭をよぎり私は思わずぴたりと動きを止めた。のたうち回っていたと思ったら急に動きを止める4歳児、パンダじゃなくても反応に困ると思う。だが今はいい。

 

 私、リン=フリークス。つまり十中八九主人公の血縁者。ていうか父親の顔、今思えばどう見てもジンだったわ。

 

 傍にあった姿見に顔を映す。どこかゴンにも似ているけれど違う。ゴンの顔をジン寄りにして女の子にした顔立ちが鏡には映っていた。つまり、整っている。

そして瞳の色と言い、髪色と言い、オールバックの生え際と言い、完全にフリークスの血縁者である事を示している。これはもう確定でいいと思う。

 

 ゴンが見当たらないところから推察するに、私、たぶんゴンの姉。つまり、主人公の姉。そしてジンの娘。なら、死ににくいんじゃね?

 

 もちろん油断はできない。カイトを殺し人気旅団メンバーを殺すあの冨樫が神の世界なのだから。原作が終わる時にはレギュラーキャラ全員死んでいる可能性もあるんじゃないかと睨んでいる。もう確かめようがないけど。

 

 だけど、我、フリークスの人間。すなわち我、才能の塊。この世界では数億人に1人の才能ある説濃厚。上手くやれば死なずにこの世界エンジョイできるんじゃね?聖地巡礼できるんじゃね?念能力覚えて俺つえーできるんじゃね???

 

 そして私は前世から引き継いだもう一つの属性があった。それすなわち、腐女子。あっ、石投げないで!ちゃんと騒がずに慎ましく見守るタイプの腐女子だから!お願い、その銃しまって!

 

 ハンターハンターの世界は野郎が多い。女の子が少ない画面に華を持たせるため、美形も多い。そんな彼らの絡みを間近で眺めたい。あわよくば恋のお膳立てしちゃったりしちゃったりして~??いいじゃん!私天才!

 原作崩壊?ちがう。描かれていないだけでこれが原作なのだよ。描かれていない幕間にはこんなロマンチックシーンがあった、そう思うだけで胸が熱くならないかい?え、ならない?そう。

 

 ゴンキルか?レオクラか?いや、クロクラも捨てがたい…。まだ見ぬ弟をBLの出汁にする最悪な姉である。

 

 やろう、聖地巡礼。見届けよう、推しの恋路。生きねば。

 

 よし、と意気込んでいると、男の影が現れた。この気配からして父親であるジンだろう。

ちなみにこの親父、パンダと仲間に育児を任せて自分は殆ど娘に構わない育児放棄親父だ。今回会いに来たのも数か月ぶり。児相に訴えるぞぼけが。

 

「おー、ひさしぶりだなリン」

「とうさん!」

 

 色々悪態ついたけど、それでも子どもな精神が父親に会える事を喜んでいる。前世の記憶を取り戻す前から、『私』はかなり父さんが好きだった。我ながら健気な娘だと思う。

 

 それにしても、改めて見ると顔が良い父親だ。ゴンが大人になったらこんな感じになるのだろうか。まだ20歳行くか行かないかくらい?これがあの無精ひげおじさんになるのは悲しい。

 

「…お~」

 

 娘として、自我が殆ど無かった今までもそうしていたように、風来坊スタイルな身体目掛けてぴょいと抱き着いた。ジンはこうするといつも、そっぽを向きつつも優しく抱き上げてくれる。

 ほんと、なんでネグレクトかましてるわけこの人?思春期?思春期のツンデレなの?

 

(…あれ)

 

 いつものように抱き上げられ、短い手足の自分では味わえない景色を堪能していると、ふとある事に気づいた。ジンから何かもやもやしたものが出ている。

 

「とうさん、からだがもやもやしてるよ」

 

 今までも薄々感じていたが、肉体と精神は繋がっているらしい。前世の記憶を思い出せなかったのも、前世の記憶のおかげで思考力が大人に近くなって『もやもや』の正体に考えが及んでいても上手く言葉に繋げられないのも恐らくそのためだ。

 しかし、私の幼い言葉でも意図は伝わったようだ。ジンが驚いたように目を丸くした。

 

「…お前、オーラが見えてるのか」

「おーら?」

 

 やっぱりオーラ?念能力?

 あれか、ジンみたいな念能力者と生まれた頃から接していたから、持て余したデカすぎる才能が開いた的な?今まで瞑想なんか一切した事無かったのに。大方環境が原因だろうけど、私凄いな。

 

 ジンは面白いおもちゃを見つけた時のような笑顔で叫んだ。

 

「こいつぁすげえ!おいドゥーン!こっち来てみろ!」

 

 あ、そういえば私を可愛がってくれるおじさんの中にドゥーンって人いたわ。

聞き覚えのある名前が呼ばれ、私は更に悟った。

 

 ここ、グリードアイランド(仮)だ、と。

 

「ねぇ、私は何色?」

「んー、みどり!」

「へぇ!僕は何色なの?」

「きいろとみずいろ、かなぁ」

 

 あれからジンが大騒ぎし、恐らくグリードアイランド創設メンバーであろう人々が集まってきた。見世物よろしく、囲まれては吹き出し始めている私のオーラを興味深く観察している。

 

 そして周りの会話から気づいたのだが、私だけがオーラに色がついて見えているようだ。アニメでは色付きだったが、基本的にオーラは白っぽい湯気の様に見えるらしい。

 つまり、ただの才能ってやつだな。利益はなさそうだけど学校で人気者にはなりそうな才能だ。統計取って性格診断とかできそう。

 

 今はイータさんとリストさんのオーラを見ていたところ。あと、試しに『纏』ができるか試してみたら、なんかあっさりとできた。フリークスの血すげえ。

 

「流石は俺のガキだ!」

「ドヤるなジン、お前殆ど面倒見てねぇだろうが」

 

 ジン…こと父さんが、ドレッドヘアの男にどやされてる。ショウユウっていうらしい。おそらく原作に出ていなかったG・Iメンバーだ。結構頻繁に面倒を見てくれる優しいおじさんである。確か担当は町の具現化だったか。

 

「でも、念能力者になったのなら、ちゃんと訓練させた方がいいわね。何かあったら危ないし」

 

 前世知識が無い時に見聞きしたメンバーの情報を原作知識に当てはめて分析していると、私を抱き上げながらエレナさんが心配そうに言った。このメンバーの中でエレナさんはストッパーというか、常識人枠らしい。

 

「だな。俺もそれは考えてた。だから四大行を終えたらモンスターのテストプレイをさせる」

「「「「「えっ」」」」」

 

 ジンの言葉に、その場にいた全員が思わずハモッた。勿論私も。G・I、モンスター、テストプレイ。原作履修者でなくても嫌な予感しかしない言葉の羅列だ。

 

 ねえマイファザー、テストプレイの意味知ってる?テストってね、安全性を確かめるためのものなんだよ?安全じゃなかったらあなたの娘死んじゃうよ???

 エレナさんとイータさんが口々にフォローを入れてくれる。この人たちの方が親っぽい態度してるよな。

 

「ジン、いくらなんでもそれは…」

「まだこの子5歳にもなってないのよ?」

「いや、できる。肉体づくりもしているし、横で誰かがついていればいい。レイザー、頼む」

 

 父さんは右から左に周りの引き留める声を受け流す。人の話をちゃんと聞きなさいって教わらなかったんだろうかこの人は。

 しかもお目付け役はレイザー。この時期のレイザーまだ荒れてるのに。

 

「へっ、殺しちまってもいいのかよ」

「舐めんなよ、俺のガキだぜ?」

 

 俺のガキに対する信頼度宇宙か??

 

 そんなこんなでリン=フリークスの規格外野生児生活がグレードアップして再開された。そう、再開だ。始まったのではない。

 

 このクソ親父のクソ親父たる所以は、育児放棄だけではない。教育方針にある。

 この家、荒野に建っているのだ。庭(荒野)付き一戸建てである。しかもシステムによって具現化された家。建築法ガン無視もいいところ。

 

 たぶん、知識と照らし合わせるならここは原作のモンスター大量発生地帯だと思う。開発途中なだけあって、まだモンスターは居ないけど。いや、これから投入される予定らしいけど。そしてテストプレイは私らしいけど。

 まあともかく、私は荒野で育てられているのだ。そして、毎日荒野をジョギングや崖のぼりしたりして過ごしている。パンダが頑として譲らなかったから通常教育もちゃんとされているけど。

 幼い頃から感じていた違和感はこれだったのだ。前世でも今世でも、普通の子どもは荒野で訓練しない。例外はピッコロさんや悟飯くらいだけど、あれは色んな意味で普通じゃない。

 

 パンダもだ。これ、たぶんメイドパンダだよね。G・Iのカードで見た事あるような気がするし。つまり、これもテストを兼ねていたのだろう。悲しくなるくらいに育児放棄だ。

 エレナさんたちもしょっちゅう面倒を見に来てくれているが、基本はこのパンダに育てられた。お母さんはパンダである。パンダコパンダ。猪に育てられた少年といい勝負できそう。

 

 閑話休題。

 

 なんやかんやで数か月が経ち、私は齢4歳ながら念能力の基礎をマスターしていた。凄いな私。史上最年少記録なんじゃないか?知らないけど。

 

 四大行はノアという女性が教えてくれた。これも原作で出てこなかった創設者だろう。

 青い髪と柔らかな笑顔、のんびりした口調が特徴の彼女は、主に操作系のシステムを担当しているらしい。聞いている感じだと、町の住人の操作とか。

 

 ノアさんのおかげで数か月と経たないうちに絶、練、凝はあっさりできるようになった。教え方が上手かったのもあるけど、これもまたしてもフリークスの血の凄さってやつだ。勿論まだ精度はイマイチだけど、感覚は何となく掴めたからあとは実践あるのみだと思う。

 

「ねーノアさん、とうさんってどんなひと?」

「…一言で言うと、と~んでもなく賢くてとんでもなく馬鹿な人かしら」

 

 最近の私は、ジン=フリークスについて色んなメンバーに質問する事が多い。実の父に興味を持っているのが半分、オタクとして原作キャラに興味を持っているのが半分と言ったところ。

 絶の練習をしながら聞いてみると、よくわからない答えが返ってきた。いやまあ、原作読んでいたからなんとなく伝わるけれども。

 

「でも…だから皆彼に惹かれるのかもね~」

「うーん?」

 

 のんびりした口調でそう言われると、そうなのかもしれないと思わないでもない。育児放棄親父だけど、グリードアイランドの件でもかなり無茶ぶりしているっぽいけど。…いや、悪い所しか浮かんでこないな。

 

 荒野で娘をぶん投げる親父、1か月振りに娘に会いに来たと思ったら真っ先にベッドへ直行してでかいいびきをかき始める親父、組手の見本だと言ってレイザーをぼこぼこにする親父…。

 

 首筋を冷たい汗が流れる。もし私に前世の記憶が無ければ、この環境とこの親父を普通だと思い込んでいたわけだよな。子どもに悪影響過ぎる。こんな親父に懐いていた私、可哀そう。そしてレイザー、可哀そう。

 …あれ、本当に、なんで皆父さんについてきてくれてるの?

 

「あなたの事も、あいつなりに考えてるのよきっと?意地っ張りのくせに凄~く溺愛してるんだから」

「…よくわかんないや」

 

 考えていた事ど真ん中を指摘されたような気がして内心どきりとした。読心術の使い手だったりされますか?

 しかし、当のノアさんは気にするでもなくマイペースに話を変える。

 

「さあ、最後に『練』をやってみましょう。あなたの系統がわかるわ」

 

 6種類の系統がある事だけ簡単に言われ、どこから持ってきたのか、葉の浮いた水が入ったグラスを出して練をするよう促される。

 4歳相手だからか各系統の特徴なんかはあまり説明してもらえなかったけど、原作履修済みの私には問題ない。原作と全く変わらない設定に感動しながら水見式に手をかざし、練をする。

 

「…なんもおきてない?」

「味も変化していない…けど、グラスが…もう少し続けてみて~」

 

 自分に才能がないかもしれないと焦りつつ練を続ける。オーラが見えて基本をこなせるのに系統が無いなんてそんなバカな。

 そう思いながら続けていると、少ししたところで、ノアさんが再びグラスに触れ、少し驚いたように呟く。

 

「…やっぱり。グラスの形が変わってるわ。あなたは特質系みたいね」

「とくしつけい!」

 

 確かに、言われてみればグラスが少し丸みを帯びた気がする。丸みというか、妙にいびつな形をしているけど。洗いにくそう。

 それにしても特質系かー!ちょっと特別感のある特質系!どんな発にしようか、夢が広がりまくっちゃう!特質系の念能力って個人によってかなり違うけど、私はどうしようか?他の系統と違って、なんというか何でもありなイメージだよね。

 

「でも、能力はまだ作っちゃ駄目よ?大人になるまでの約束ね」

「うん!」

 

 おそらく子どもが能力を作ると大人になってから後悔しやすいからだろう。同意だ。基本の修行を続けつつ、『発』は当分作らないでおこうと思う。メモリを大事にしたいところだ。大人になるまでがいつまでかわからないけど、取り敢えずハンターライセンスを取るまでって事で。

 

 そう、私の夢はハンターです。というかこの世界で死の恐怖を感じず原作キャラと関わって聖地巡礼しようと思ったら、必然的にハンターになる必要が出てくるわけだ。ライセンス的な意味でも、能力的な意味でも。

 大丈夫と信じよう。今だって4歳とは思えない身体能力をしているんだから。というか、こんな生活させられてるんだからハンターくらいなれないと採算が取れないと思う。

 

「じゃあ、後は外に出て、レイザーにまかせましょ~」

「ありがとノアさん!」

 

 今日でノアさんの修行は終わりらしい。最近荒野に出てなかったから外の様子を知らないんだけど、モンスターはもう投入されているのだろうか。

 

 お礼を言って揚々と扉を開け、外の世界にとびだ…そうとしたが思わず扉をそっと閉めてしまった。目の前にモンスターとおっさんたちが乱闘する地獄絵図が広がっていたからだ。

 なんか堅気じゃなさそうなおっさんがおおよそ30人くらい。その誰もが、穴という穴から水を垂れ流しながらモンスターと戦ってる。我が家の庭に水を垂れ流すのはやめていただきたい。

 そしてそれを監督しているのはレイザー。何やらオーラをカードに込める作業をしているようだから、現場監督兼開発作業中といったところだろうか。ぴちぴちのTシャツから浮き出る筋肉が眩しい。そして金髪のモヒカンは似合っていないし正直怖い。

 

「お、来たかガキんちょ」

 

 命からがら逃げてきてへばっている男たちを容赦なくモンスターのもとへ蹴り返しながら、レイザーがこちらに顔を向けた。

 

「おら、こっちこい。死んでも知らねぇがな」

 

 死なんためにお前が居るんやろがい。…と思ったが口には出せない。なんせレイザー、元囚人で、現在はゴンと原作で出会った時とは大違いの荒れっぷりだから。

 …だけど、本当は優しい人なんだって何となくわかる。オーラの色は紺色。拒絶を感じるピリピリしたオーラをしているけど、その内側にほんのり柔らかなオレンジが見えているから。たぶん父さんも、無意識にそれを見抜いていたんだと思う。

 だから、言葉は選ぶけど臆する必要はないってわかってる。怖いけど。

 

「レイザー、よろしくおねがいします!」

「…へっ、ガキだからって容赦はしねぇぞ」

 

 そうして私とレイザーの修行は始まった。レイザーだけ原作イメージでうっかり呼び捨てにしてしまっているけど、それについてのお咎めは無いらしい。

 

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