リン=フリークスの冒険   作:夜桜百花

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かくれんぼは楽し

「リンちゃん、こっちにビール、瓶でちょうだい!」

「またぁ?ホイルさん、そろそろやめとかないと明日に響くよ?」

 

 そう言ってリンがどんと乱雑に瓶を置くが、男たちは子どもに叱られても気を悪くした風はなく楽しそうに笑う。

 

「お、減らず口が上手くなってきたな!気の強い女はモテねぇぞ~?」

「そうそう。気を付けないと、ミトちゃんみたいに行き遅れるぞ~?」

 

 店の手伝いをするリンにそう野次るのは島の常連おっさん衆。おっさんと言っても全員30前半で、比較的若い。

 にしても全く、失礼な事を言う奴だとリンは思う。家族のような間柄とはいえ、あまりにも遠慮がない。

 

(ミトさんが私たちの世話のために見合いをしてないだけで、実はめっちゃモテてるの知ってるくせに。ていうか、ぶっちゃけ狙ってるくせに)

 

「ミトさんは美人過ぎてこの島に釣り合う男が居ないだけなの!ヨークシンとかに出たりしたもんなら、その日のうちに10回は求婚されるね!」

 

 実際、ミトは島一番の美人だと評判だ。にもかかわらずリンとゴンの母親代わりになると豪語したせいで、初めの頃はあちこちで噂になっていた事をリンは思い出す。

 リンが(コミュ障ゆえに)大人しく良い子である事、ゴンが純粋で素直な良い子である事から、いつの間にか島全体がリンたちに友好的になっていたが。

 

 実際リンもその点に関しては感謝している。コミュ障な自分がここまで素で話せるようになったのは彼らが気さくに話し続けたおかげだからだ。

 

「おー!えらく大きく出たな!言われてるぜミトちゃん!」

「もう!リンに変な事吹きこまないで!」

 

 ミトさんに叱られると嬉しそうにデレデレするホイル。

 良い年したおっさんが海仕事で焼けた頬を赤く染める姿は少し見苦しい…が、根が良い人なのは話していたら分かる。オーラも綺麗な黄色だし、ぜひミトさんと上手くいってほしいと思うリンである。

 

「でもリンちゃん、お前勉強はいいのか?最近昼はゴンと森に行って、夜は店手伝ってばっかりじゃねえか」

 

 そう言って少し心配そうにしているのは別の席に座っていた50過ぎたばっかのベテラン漁師、クワイ。心配そうにしながらもビールグラスを飲む手は休まらないアル中だが。

 

「勉強?」

「ああ、お前の年頃なら通信教育受けてるだろ。子どもの本分は勉強だぜ?」

 

 10歳になったリンは、本来なら通信教育を受けている年齢だ。しかし当の本人はそんな気配もなく、余裕そうな表情をしている。周囲が気になるのも無理はないだろう。

 

 当のリンはふふーんと得意気に身体を反らせながら、ちっちっと指を振りつつ言った。

 

「実はね、義務教育はもう終わったの」

 

 「はぁ!?」とお喋りに興じていた全員がこちらに目を向ける。誰もが目を丸くしている事が面白くてしょうがない。そして店の奥でミトも密かに得意気な表情を浮かべている。

 

「飛び級でジュニアの通信教育まで終わらせた。もう卒業証明も持ってるよ」

「そりゃすげえや!将来は学者にでもなんのか?」

「どーしよっかなーって感じ!金持ち捕まえてセレブにでもなっちゃおうかな?」

 

 流石にハンターを志している事は言いふらす気にはならない。冗談めかしてそういうと、「じゃあ気が強いの直さねぇとな!」と言われた。憤慨するリンだ。

 おまけに「リンちゃん卒業記念にカンパーイ!」と乾杯の出汁にされる始末。「自分が飲みたいだけでしょうが」とじろり睨むが、その程度気にもしないのが海の男たちだ。

 

 実際、リンは10歳になって間もない頃にはジュニアハイスクールの卒業資格を得ていた。ミトは更に上の教育を受けさせる事も考えていたが、リンが断ったのだった。

 

(最低限の卒業資格持っておかないとハンターになった時勉強と両立するの面倒だからって取っただけだしね)

 

 もはやリンの中ではハンターになる事は確定事項になっている。まだ二年も先の皮算用をして肝心のハンター試験に不合格になんてなろうものなら赤っ恥だが、その時はその時でアマチュアとして活動しながら合格するまで受験するつもりだ。

 

 つまり、どちらにせよリンは12歳でくじら島を出る事になる。…ゴンを置いて。

 

 それだけが唯一リンの気がかりだった。自分たちを置いて行ったジンの様に、自分もゴンを置いていく事に罪悪感があるから。…かといって、島に残るつもりもさらさらないのだが。

 

「ミト、リン…ゴンを見なかったかい?」

 

 曾祖母がそう言いながら階段を降りてきたところで、リンの思考は中断された。少し慌てた様子で店の中を見渡しており、家の中に居なかったからここまで探しに来たというのは容易に想像がついた。

 

「ゴン?知らないわよ?」

「私も知らない」

「そうかい、また森かねぇ…」

 

 最近ゴンはリンを誘わず一人で森に行く事も多い。リンも止めるのだが、勉強していたり店の手伝いをしている隙を見逃さずに家を出るのだ。子どもが静かな時は碌な事をしていない、という言葉を身に染みて実感するリンである。

 

(もう夜だし真っ暗なのに…)

 

 リンたちの話す様子を聞いていたらしい男たちが、酒のグラスを置いて口々に言った。

 

「まさか森の中で迷子に…?」

「はぁ~またかぁ?」

「ともかく、何かあったら大変だ。島の奴らに伝えろ!探しに行くぞ!」

 

 何だかんだ言って、彼らもまた島を支える頼れる人々だ。そして数少ない島の子どもであるリンたちを自分の子どものようにかわいがってくれる。

 ゴンの事も勿論可愛がっている彼らは酒で酔った頭を軽く振り、一斉に立ち上がった。

 

(まったくまたかゴン…)

 

 ゴンが森の中に入って帰ってこないのは、今日が初めてではない。むしろ今年に入ってもう四回目だ。

 そしていつもリンが見つけてくるため二人のいたずらではないかと囁く住人がいるのもリンは知っている。…冤罪もいいところなのだが。

 

 ともかく、ゴンが迷子である以上リンも探さなければならない。エプロンを外し、ミトにひと声かけてから森の中に入っていく。

 

 暫くは普通の子どもレベルの速度で走り、人目がなくなったところで大きく地面を踏んだ。一気に森の中を走り抜けて中央の大池まで来る。ぴゅいと軽く指笛を吹くと、全長3メートルはありそうなキツネグマが現れた。

 

「シン!ゴン見てない?また迷子みたいなの」

「グマっ」

「そっか…ありがと!こっちで探してみるよ」

 

 昔ゴンと一緒に助けたキツネグマだ。森の長になったシンでも、ゴンの行方は分からないらしい。少しだけならば動物と意思疎通できるようになったのも、くじら島で過ごした事でリンが身に着けた技能であった。

 

 更に森の中を走り抜け、崖を登りながらずっと肩に乗っていたメイメイに話しかける。

 

「メイメイ、二十メートル限界の範囲でゴンを探してくれる?」

「キュウ!」

 

 くじら島に来て約三年。リンとて、何もせずに推し活を満喫していたわけでは無い。

 

 通信教育の飛び級は勿論、オーラ総量を増やす修行やシャドーによる対人格闘の修行(ちなみにイメージでタコ殴りにする相手はいつもジンである)、念能力の応用技術を極める修行も欠かさなかった。

 

 そんなリンが、幼かったかつての自分が無意識に発現した能力を分析しているのは当然の流れだ。

 

 まずメイメイ。これは明らかに『メイドパンダ』を連れて行きたいと思った事から生まれた能力だろうとリンは考察している。

 サイズは縮んだし昔のように子育てを進んで行いたがるわけでは無いが、その分リンの肩に乗りやすく空も飛べるようになった。そして人語を理解しているようで、リンとの意思疎通も可能である。

 

 しかし、そもそも念獣が術者であるリンとは別個で意思を持っているのが珍しいケースだ。

 しかも具現化の有無は念獣の方に優先権があるらしく、メイメイの意思で勝手に具現化を解除したり、逆に勝手に具現化されたりする事もあった。

 

 おまけに二十メートル以上は離れられないらしく、離れた場合はメイメイの現在地が優先される。つまり極端な話、メイメイに勝手に何処かへ行かれたらリンは引きずられるしかない。

 

 やっかいな制約がついているが、元々無意識で作り出したという成り立ちともう一つのメリットを考えると、仕方ない事だとリンは思っている。

 

 メイメイ自身は能力を有していないが、他の二つの能力を統制する役割にあった。それが【私の代わりに眠って】(睡眠パンダ)【何でも叶える不思議なポッケ】(四次元パンダ)である。ちなみに念能力名や制約と誓約は、検証を終えたリンが後付けで定義した。定義をする事で能力が安定するからだ。

 

 【私の代わりに眠って】(睡眠パンダ)は、カードの『睡眠少女』をメイメイに置き換えたような能力。ただし、術者であるリンだけでなく他の人間にも有効である事が、ゴンに使用した際にわかった。メイメイが能力を使って眠っている間、ゴンは昼夜問わず遊び続けたのだ。

 ゴンが病気になって気が狂ったと思い込んだミトが大騒ぎしたため、二度とやらないと固く誓ったリンである。

 

 この能力があれば七日七晩寝ずに動き回る事も可能だ。といってもリンは寝るのも好きなので、必要でない限りは【私の代わりに眠って】(睡眠パンダ)は使用しないが。

 

 そしてもう一つの能力である【何でも叶える不思議なポッケ】(四次元パンダ)が特に凄い。簡単に言えば四次元ポケットだ。メイメイの意思なしに発動できない上にいくつか制約があるものの、半永久的に保管が可能、しかも盗まれる心配もないときた。

 

 これが分かった時、オタク趣味のあるリンは大歓喜した。ハンター試験に合格してゾルディック家から漫画を回収したら全て【何でも叶える不思議なポッケ】(四次元パンダ)に収納しようと心に決めているリンである。

 

 念能力者も居ない平和な島で能力を使う事は基本的には無いが、少なくともメイメイの存在は日常でも役に立つ。ゴンをあやしてくれたり、今のように手分けして探し物を手伝ってくれたり。

 

 しかし、手分けして探してもゴンの気配はなかった。途中で雨が降ったせいもあり匂いも辿りづらい。

 

「ゴン~!迎えに来たよ~!」

 

 声を上げるも反応は無し。リンはいよいよ心配になってきた。

 

(シンが長だからそうそう野生動物がゴンに襲い掛かる事は無いけど…最近対抗勢力も出来てきてるみたいだしな…)

 

 森は戦場だ。シンが治めている森だが、他の動物がその位置を狙おうと画策する事も珍しくない。人間と同じだとリンは思う。もっとも、動物の方がよほどフェアで見ていて気持ちいいが。

 

(円をしても今の私ではしっかり判別するなら二メートルが限界だし、頑張って数十メートル伸ばしても森じゃ木や生き物が多すぎて小さなゴンは区別付けられないし…)

 

 単純にオーラを広げるだけなら簡単だが、そこから情報を読み取るのが難しい。オーラを広げるのはともかく、情報整理が苦手なリンは円があまり得意ではない。

 

 念を使って探すのは諦め、おとなしく五感を駆使する事にする。目を閉じて辺りの物音に集中すると、風の音や木の葉が落ちる音まで鮮明にわかるようになる。

 

 研ぎ澄まされたリンの聴覚がヤツメシジュウカラの鳴き声を数百メートル先に聴いたのは、集中するために立ち止まって数分した頃だった。

 

(月の方向、崖の上、か…シン、ちゃんと他の動物たちにも声かけてくれてたんだ)

 

 ありがと、と小さく呟き走り出す。リンの動きを察するようにメイメイも肩に乗った。森の木々を飛び移り、特に大きくせり出している崖を目指していく。

 

 暫く走ると、大きな崖が見えた。そのてっぺんを見上げるとゴンがしゃがみこんでいる。

 ゴンが崖を直接登ったとは思えない。どうやらリンが丁度立っている洞窟が、あの崖に繋がっているようだった。

 

 よかったと胸を撫でおろし、洞窟を通るのも面倒なので直接登る事にする。ふと、ミルキやシルバと共にビル登りした時の事を思い出した。ビルと違い突起の多い崖だから、そのままでも簡単に登れるが。

 

「ゴン、見ーつけた」

「…ねえちゃん」

 

 よほど泣いたのか、ゴンの顔は涙と鼻水で見れたものではない。そんなゴンを叱り飛ばす気にもなれず、自分の服の袖でそれを拭ってやりながらリンは優しく諭した。

 

「まったく…一人で抜け出して帰れなくなるなんて馬鹿でしょ」

「うん…ごめんなさい…」

 

 大げさなんじゃないかというくらいしょげるゴン。再び涙が溢れ出してきたため、リンはゴンを思い切り抱きしめて顔を隠してやる事にした。ゴンも黙って抱きしめられる。ひっくひっくとしゃくりあげながら。

 

「なんでこんな遠くまで来たの?」

 

 少し落ち着いたのを見計らい、二人三角座りをして問いかけた。数時間前まで雨だったのが嘘のように、空は星が輝いている。

 

「ねえちゃんみたいに…もりをじゆうにかけまわれるようになりたかったんだ」

 

 ゴンはこれ以上叱られるのが嫌だというように小さな声でぼそぼそと言った。何となく予想していた答えと答え方だったため、リンも特にそれには何も言わない。

 

「私みたいに?」

「うん。がけのぼりとかかわおよぎとか、おれにまだできないこともねえちゃんはすいすいこなすでしょ?」

 

 ゴンとリンは6歳も年が離れている。リンができる事でもゴンができない事が沢山あるのは当たり前だ。それに4歳で崖を登るなんて、危なっかしくて仕方ない。

 …リンが4歳の頃、ジンはリンに崖のぼりをさせていたが、それはゴンに言う必要はないだろう。

 

「姉ちゃんがゴンよりできる事が多いのは当たり前でしょ?姉ちゃんの方が年上だもん」

「うん…でも、おれもやりたかったんだ」

 

 そう言ってむくれるゴンの横顔は、どこか父親の顔を思い出させた。エレナさんたちに叱られてむくれてた時の親父そっくりだ、と心の中で少し笑いがこみ上げる。

 

「帰ろうか」

 

 今は気の利いた言葉なんていらないと思った。ゴンが大きくなるにつれて自然に乗り越えていく、そういう壁なのだと。

 

 そう言ってリンが手を差し出した時、近くで獣の遠吠えが聴こえた。それに触発されたように、崖の足元一帯が崩れ始める。

 

(!?)

 

 リンの居る場所までは崩れなかったが、ゴンの足場が丸ごと崩れてしまった。

 

「ゴン!!」

 

 高さ数十メートル以上ある崖下へ向けて真っ逆さまに落ちていくゴン。迷うことなくその手を取り、リンの身体は浮遊感に包まれた。

 

(まずい!ちょっとこの高さはきつい!!)

 

 自分だけならともかく、ゴンに衝撃がいかないように着地する事は難しい。自分はシルバさんのようにはできない、と思った時の事だった。

 

 このまま自由落下していくのではと思われた身体が宙に浮く。一瞬の隙を逃さず、壁面にゴンを抱えたまましがみついた。

 

 ほっと一息ついて頭上を見上げると、崖の上でメイメイが笑っていた。その距離は丁度二十メートルほどだ。

 

(制約を利用して落ちないように助けてくれたのか…)

 

 目線でありがとうを伝え、腕の力で上まで戻る。何が起きたのかわからないらしいゴンは、目を白黒させていた。

 

「ねえちゃん、いま、うかなかった?」

「ん?いや気のせいじゃない?運良く掴まれてよかったよ」

 

 少し無理のある言い訳だが、ゴンはそれ以上何も追及してこなかった。疲れたらしく眠ってしまったゴンを背に、リンはメイメイと帰路についた。

 

 無事帰還したゴンは、二人にこっぴどく叱られた。

 リンは隣で黙ってそれを聞いていたが、曾祖母の言った「まったく、小さい時のジンとミトそっくりだね」という言葉が妙に耳に残った。




旧アニメのオリジナルシーンでゴンが叱られてやたらヘコむシーンとかあったけど、お姉ちゃんに甘えて育ったせいでそんな感じになってたらぐっとくる(強めの幻覚)


私の家族(メイメイ)
カードアイテム『メイドパンダ』をベースにリンが具現化して生み出した念獣。
術者とは別個の意思を持つ。

制約:念獣が術者から20メートル以上離れた際は、術者が念獣に引っ張られる
念獣に『隠』は使用できない
具現化は念獣の意思による
具現化している間、術者のオーラが減少していく
術者は念獣を家族として接する
誓約:なし


私の代わりに眠って(睡眠パンダ)
メイメイに付随する能力
カードアイテム『睡眠少女』をベースに生み出した能力。
念獣が対象の代わりに睡眠をとり、対象の疲労を回復する。
術者以外にも使用可。

制約:念獣が具現化されている事
術者と念獣の意思が合致しないと使用できない
誓約:なし


何でも叶える不思議なポッケ(四次元パンダ)
メイメイに付随する能力
カードアイテム『トラエモン』をベースにリンが生み出した能力。
四次元化した腹部のポケットの中に物品を収納できる。
術者と念獣しか触れる事が出来ない

制約:念獣が具現化されている事
術者と念獣の意思が合致しないと使用できない
術者が生物と認識しているものは入れられない
誓約:なし
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