そう啖呵を切ったリン。同時に、周囲に電気が迸った。キルアのように応用力のあるものではないが、リンの重厚なオーラを変化させただけあって、その輝きは鮮やかだ。
『雷』
ただでさえ念能力者は少ない。その上、リンはキルアとはオーラ系統も異なる。そんな状況で自分とまったく同じ(ように見える)能力を発動させられたら、流石のキルアも少しばかり驚いた。
(電気!? あいつも電気の『発』を使うのか……いや、違う!)
しかし、それと同じタイミングで豊かすぎる程の才能が直感をもたらした。即ち、リンの能力はキルアの『発』とは根本的な性質からして異なるものだと。
相手の念をコピーする能力? 自然物質をランダムで放出させる能力? 様々な憶測が脳内で飛び交うが、それを解明したところで意味はない。二つある理由の一つは、それがキルアの『発』同様に対策ができないタイプのものだからだ。
「お返しさせてもらうわよ!」
両の手に電気を纏わせ、リンがキルアに向かって走る。組手に使う程度の力で腹部に拳を入れられたが、キルアは何とかその攻撃を受け止めた。
もう一つの理由は、キルアに電気耐性があるため、リンのこの能力はキルアに意味を成さないから。そのため純粋な拳だけを受け止めたに等しいキルアだったが、手加減をしていると言えど重い一発に両手で受け止めざるを得なかった。踏ん張りがきかず、ずりずりと僅かに足が地面を滑る。
「凄い! 電気ウナギが二匹!」
二種類の電気がバチバチと爆ぜ、興奮したゴンが微妙に的外れな感想を叫ぶ。うっかり力が抜けてずっこけそうになるがなんとか踏みとどまり、キルアの顔を正面から見据えた。
「くそっ! やっぱ重てぇな……!」
「まだまだ序の口!」
立て続けに蹴りを入れるリンに、こればかりは回避も受け止めることも叶わずキルアは大きく吹っ飛んだ。修行してもなお計り知れないリンとの力量差を悟ると同時に、このまま戦ったのでは勝ち目がないと眉間にしわを寄せる。
(まだテスト段階だから使うのはちょっと怖えーけど……逆に丁度良いか?)
戦闘用の『発』は他にもいくつか作っている。だが、今使おうとしている能力は、あくまで二回ほど試してみた程度のもの。しかしリン相手だからこそテストにもなるかと思い直し、キルアは能力を発動させた。
―電光石火!
追撃に走るリンを目にも止まらぬスピードで回避し、背後から蹴りを入れる。当然、回避する間もなく、蹴りはリンの背中に直撃した。
「ぐっ!」
咄嗟に背中へオーラを回したリンだったが、キルアも手加減しては負けると思ったのだろう。思ったよりも力強い蹴りだ。
つんのめりかけたところを追撃されないように、そのまま前方へ跳んで体勢を整える。空中で方向転換すると、再びキルアと対峙する形になった。
「効くわね……雷撃の破壊力とスピード、駄目でもヨーヨーがある。遠隔攻撃も可能……最高じゃん!」
キラキラと瞳を輝かせるリンに少し引きながらも、心から称賛されて満更でもないキルアだ。しかしリンが素直に相手を褒めただけで戦いを終えるとは思えず、警戒を解ききれない。
「流石にあの速さで動かれると私も対応できないか……」
一方でリンは、距離を取ったことで少し余裕を取り戻しつつある。
本気になれば、素のリンでも
これはあくまで組手だ。相手の能力を見極めさせるのも修行の内と考えたリンは、肩に乗っていたメイメイに目配せをして能力を発動させた。
「じゃあ……いくわよ!」
―瞬発力強化
軽い調子で自身と匹敵させるスピードを発揮されたキルア。目にも止まらぬまでの攻撃に、狼狽えつつも天才的な反射神経で何とか受け流す。
瞬きの間に何十手も交わされる攻防。ゴンやクラピカは既に目で追えない程度の領域にまで達したその攻防は、『軽い組手』をとうに超えている。
「能力を二つ同時に……マジかよ」
「ちょっとハズレ。そうとなったらどこがハズレか、戦いながら考えてみる!」
そう言いながらも攻撃の手を緩めないリン。目先のフェイクを作り出す余裕もなく、キルアは必死にリンの動きを追う。
「ゴン、リンの凄いところがどこか、わかる?」
一方、動きが見えなくなってしまったからといって考えるのをやめては、せっかくの時間がもったいない。
ビスケは難しい表情をしながらも視線を動かせずにいる弟子に、姉弟子であり姉でもあるリンの考察をするという授業を施していた。少し雰囲気が変わったビスケの姿に、ゴンだけではなくクラピカも軽く視線を向ける。
「え? うーん……身体能力は間違いなく凄いけど……そういうことじゃないんだよね?」
「そう、でも半分正解。一つは身体能力とオーラ総量の高さ。ハンターの中ではかなり対人戦を重視しているとはいえ、リンの努力の賜物だわさ。そしてもう一つは、誰にでも対応できる念能力」
リンの身体能力とオーラは、世界屈指のレベルだ。そしてリン自身の能力は、『コピー及び改変した能力を自分のものにする能力』。ゴンはまだそのことを知らないが、既にリンの能力を知っているクラピカは、それだけで合点がいった。
いくら自分に合った能力を作り練度を上げていても、それを使うには自身の身体能力やオーラ総量が重要となる。
逆に、リンは相手の能力に近く、かつ自分に合った能力をその場で作り出せる。その場で作り出したものなので練度は相手より低くなりがちだが、それを余りある身体能力とオーラで補うことができるわけだ。
よって、近い能力同士の条件で対峙するならば、大抵の場合はリンの方が優位に立つことができる。更にリンは他の能力も継続して所持しているため、搦め手への対応力も高い。
「本人は『中途半端』なんて言ってたけど、裏を返せば誰にでもそれなりについていける能力なのよ。そこにあの子個人の体術やオーラ技術の高さが加われば、大体のタイマンには負けないわね」
「それって、どうすれば勝てるの?」
「そうねぇ……ゴンみたいな強化系なら、シンプルにリン以上の身体能力で押し切るのがベターかしら。あんたならいつかそれができるようになるわ。でもあの子、搦め手系の能力も持ってるだろうから難しいわよ?」
「なるほど……そしてそれができなければ、知能戦を強いて罠にかけるのが最も勝率が高そうだな」
「そういうこと。あんたなかなか考える……じゃな……」
考察をしながらふむ、と呟くクラピカ。それに何気なく返事をしながら、ビスケは思わずぴしりと固まった。どうやら、師匠モードに入っていたせいでクラピカの存在を忘れていたらしい。
「……り、リンもキルアも凄いです♥ でも、かなり激しくて少し怖い……♥」
思い出したならすかさず猫かぶりだ。そしてクラピカがそれを黙殺したのは当然と言えるだろう。ゴンも半笑いしながらリンとキルアの戦いに視線を戻す。丁度その時、戦況が変わったところだった。
リン本人は決して認めないが、リンの戦い方はジンに近いところがある。つまり、テンションの向上で尻上がりに威力が増していくのだ。そしてキルアという才能の塊でもある弟分との組手。本気で戦うのは避けたとはいえ、リンは無意識にギアが上がってきていた。
もちろん、これはあくまで修行の一環であり、ただの組手だ。そのためギアが上がったとはいっても、リンが手加減を忘れたというわけではない。ただ、内包するオーラを少し強く出し過ぎてしまったと言うだけのものだ。
「―!?」
しかしそれはキルアに、何よりも強い脅威として判断させた。正確には、キルアの中に埋め込まれたイルミの針に。
対峙している相手が命を脅かすに十分なだけのオーラを纏って向かってくる。これを察知した針は、キルアの脳に退避命令を出した。唐突な動きの変化に、ゴン達の視線は強くキルアへと注がれる。
「(急な退避行動? ……イルミの念が発動したか)おっと……この辺にしとこっか。私の勝ちってことで」
予想外の動きに一瞬驚いたリンだったが、それが針のせいだと察するとすぐに組手の終了を宣言した。ちゃっかり自分の勝利も宣言しているが、キルアがいつものように噛みついてくることはない。不自然なほどに足が震え、冷や汗が額から流れ出している。
それがハンター試験でイルミと対峙した時やヨークシンで旅団の下に迎えに行った時と同様のものであると直感したリンは、キルアの頬を両手でぺちりと叩いた。そのまま両手でぐにぐにと顔を弄ぶ。
「勝者特典~変顔キルア~」
「……何すんだよ!」
くしゃくしゃになったキルアが一瞬ポカンとリンを見つめ、そして軽く手を振り払う。タンクトップの裾で汗を拭い、不貞腐れた表情でリンを見上げた。
「そんな顔しなくても、凄く成長してるわ。ハンター試験の頃とは見違えるくらい。ミルキは言うまでもないけど、同じ年頃のイルミも超えてるわよ」
キルアの様子からビスケは何かを察したらしく顔を顰めているが、クラピカは疑問符を浮かべながらもあくまで静観の構えだ。そして、キルアの状況をよく理解していなかったゴンは、素直に組手とリンの力量に眼を向けていた。
「……姉さんって、すっげぇんだ!!」
キラキラとした尊敬の眼差しでリンを見つめるゴン。この瞬間、リンは生まれてきて良かったと心の底から思った。
◇◇◇
組手が終われば、リンとクラピカはゴン達からの状況説明会だ。
ゴンによれば、集めた指定ポケットカードは52種類。コンプリートにはまだまだだが、ゲームを始めてから修行を含めて、おおよそ半年だ。十分すぎるくらいのスピードだろう。それなりの見栄えになってきているゴンのバインダーに、弟の成長を感じるリン。
G・Iは、ジンたちの趣味が大部分ではあるが、そのシステムは明らかにハンター育成要素を含んでいる。それはリンもそうだろうが、いずれ来るであろうゴンを強く育てるためのもの。心血注いだゲームを楽しみながら息子が成長したのなら、父親としても開発者としても冥利だろう。
「あ……そういえばバッテラさんにも会ったよ。凄く綺麗な奥さんも一緒に」
「そりゃあ、じゃなきゃここに居ないでしょ」
「まあね! 奥さん、凄く姉さんに感謝してた。姉さんが居なかったら自分は死んでたかもしれないって」
「おっさんの方はなんか複雑な表情だったけどな」
バッテラ夫妻とはリンも面識がある。特に除念師を紹介して命を救われたバッテラ夫人からは、かなりの好感度を得ている自負があるリンだ。
資産を処分せず時折奴隷……もといリンのパシりになっているバッテラ氏(若返り済み)がリンに微妙な感情を抱くのは当然だが、幸いにもゴン達はその理由を知らないらしい。
「それにしても二人とも強くなったみたいねー。ビスケのおかげもあるけど、かなりゲームを楽しんでるみたいね」
ジンが喜ぶのは少し腹が立つが、ゴンの成長は姉としてもハンターとしても素直に嬉しい。リンがそう言うと、ゴンは天使のような輝く笑顔をリンに向けた。
「うん! それに、ここに居るとジンがこのゲームを作ったんだって、なんだかジンを近くに感じるんだ。それに、姉さんのことも」
「ん? 私は一緒に暮らしてたじゃない」
ぷらぷらと足を揺らしながら座るリンに、ゴンは立ち上がって熱弁の構えを見せた。このようなゴンには既に慣れているらしく、ビスケとキルアがどこから出したのか『ずず……』とお茶を啜る。いつの間にか傍らには水筒と5つの湯呑が並べられていた。
「それでもだよ! 俺が知らない小さい頃の姉さんを知れた気がする。それが嬉しいんだ」
「……相っ変わらず歯の浮く事を平然と言うんだから」
弟ながら恐るべしと顔を手で覆いながら赤面するリン。こうして数多の人間をオトしてきたのか。
話が脱線しそうになるのを防ぐのは、大抵の場合キルアの役割だ。もしくはクラピカ。今回はキルアが動く気がないため、クラピカが疑問を口にすることになった。
「今は何か目標のようなものはあるのか?」
「ああ……二組ほどクリアが迫ってるやつが居てさ、今はそれを阻止するために指定ポケットの独占を狙ってる。【一坪の海岸線】ってカードがまだ所有者0だからそこを狙ってんだけどよ。人数制限があって15人手練れを集める必要があるんだよな」
クラピカの助け舟(?)に待っていましたとキルアが説明を入れる。弟の可愛さにノックアウトされていたリンも、ようやく我に返った。
キルアの言うイベントは、リンも約4年前にこなしたものだ。いわゆる『レイザーと14人の悪魔』。ゲームマスターとのドッジボールイベントである。
「ふぅん……で、今は人集めをしてるってところか」
「ほんと骨のねー奴ばっかでさ。あんなのと組むなら居ない方がマシだっての」
「でも、ルール上そうもいかないですわ……」
「……まだそのキャラやってんのかよ、ビスケ」
会話をしつつ、状況の考察をする。仲間集めと言いながらもゴン達以外のプレイヤーがここに居る気配はない以上、大方テキトーに集まった仲間で一度行ってはみたものの、戦力不足と判断したのだろう。
リンの時はノワールの反則に近い念能力で何とかなったが、そもそもレイザーの強さは規格外だ。それはレイザーから手ほどきを受けたリン自身が誰よりもよく知っている。
(せっかくゴンの成長できる機会なんだから、あんまり茶々入れるのもなぁ……)
ノワール程レイザーとの能力相性は良くないが、リンの
だが、キルアと組手をしてよくわかった。2人はビスケの修行で飛躍的に強くなっている。それならば変に手助けをして『レイザーとの対戦』という成長のきっかけを摘み取りたくない。そろそろ弟離れしなければという気持ちもある。
「俺達が加わっても5人……あと10人の手練れを集めるのはかなり骨が折れるな」
「でも、リンとクラピカさんが居てくれれば心強いですわ!」
相も変わらずクラピカの前で猫を被り続けるビスケ。どうせ師匠モードになったら化けの皮がすぐ剥がれるというのに……と白けた眼で師匠を見つめるリン達である。
「クラピカ達は良いのか?俺達に付き合ってて」
「構わない。例の緋目の人間がこの世界に居るのなら、ゲームを進めているプレイヤーの方が何かしらかの接触がある可能性が高いからな」
「そか。じゃあこれで5人だな。あと10人……」
カードの交渉をせずとも仲間になってくれるプレイヤー、それも可能であればレイザーと戦えるレベルの手練れとなると、10人捜すのはかなり難しい。
温かいお茶を飲みながら、リンも何か良い方法はないかと考える。そこに、ゴンが思い出したように口を開いた。
「あ……俺、協力してくれそうな強いプレイヤー、心当たりあるよ」
「マジか!誰だよそれ!」
「クロロ=ルシルフル」
「ゴフッ」
あっけらかんと言われた盗賊グループリーダーの名前に、思わず飲みかけていたお茶を噴き出したリン。幸いにも人にかかることはなく、それよりも各々がゴンの言葉を理解する方にリソースを費やしている。
(あいつゲームなんて興味あったの?)
「はぁ!? お前クラピカの前で何言ってんだ!」
「でも、強くて協力してくれそうな人それ以外思いつかないし」
確かに、クラピカの前で『クロロを仲間にしよう!』はかなりノンデリ発言と言えるだろう。ちらりとクラピカの顔を見ると、案の定眉間に深い皺が刻まれている。
ゴンだからよかったものの、相手が相手なら喧嘩勃発だったというところだろうか。唯一ビスケだけが頭に『?』マークを浮かべている。
ここでメタ発言になるが、原作と異なり本作でのキルアはハンター試験で離脱した時期がない。つまり、バインダーにクロロの名前があると知らなかったのだ。ゴンも気づいたのは本当につい最近であり、今まで言いそびれていたのだった。閑話休題。
「つーかわざわざ
「ううん、何でか知らないけど、クロロもここに居るみたいなんだ。バインダーの名簿にあったんだけど……カードもったいないな」
「バインダーに嵌め込んだ後、そのまま抜けば未使用扱いになるわよ」
「え? あ、本当だ」
そう言いながらゴンが
どういう意図かはわからないが、クロロもリンと電話した後G・Iに来たらしい。G・Iは登録時に自由に名前を決められるため、旅団の誰かがクロロの名を使っている可能性もなくはないが、クロロがゲームに入っている可能性の方が高いだろう。
「クロロかぁ~」
「どうしたの姉さん」
「いや分かるでしょ……。これでもヨークシンでクロロを裏切ってんのよ私。……そこにこのメンツで行くのは流石に気まずいわ」
互いに優先順位がある、もっと大切なものがあるとわかってはいる。しかし明らかに敵意を見せたのは事実だ。本来ならば決別しても仕方ない出来事だろう。最後にヨークシンの路地裏で会った時はアドレナリンも出ていたが、今素知らぬ顔で直接会うのは流石のリンも少し思うところはある。
実のところを言うと、クロロに電話した時に雑に会話を終わらせたのは気まずかったからというところが大きい。そこに事案が起こったメンバー(+イケメンハンター)で行くのは、かなり勇気のいる行為といえるだろう。
「大丈夫だよ! クロロもきっと姉さんのことわかってる!」
(なんでそんな自信満々に言えるのゴン……。お前はクロロの何を知っているというの……)
微塵の疑いもないと言わんばかりに胸を張るゴンに、頭を抱えるリン。クロロの方はゴンの名前を憶えているかすらも定かではないのに、なぜそこまで言い切れるのだろうか。
余談だが、ヨークシンで誘拐した時にクロロからリンの話を聞いたゴンは、原作よりもクロロに対して親近感を覚えている。仲間にできないかと提案したのもそのためだ。しかし、その比較をできる人間はリン含めてこの場には居ない。
「だが、このゲームはハンティングゲームだ。暴力行為を禁じられているクロロが居るとは考えづらいが」
「じゃあ偽物か? 旅団が勝手に名前を使ってる可能性もあるな」
「ゲームで本名使わないって変じゃない? 本人だと思うけど」
「どっちでも同じだっつの。つーかフツーに考えてクロロが俺達に協力するわけねーだろ。クラピカも居るんだぞ」
「でもやってみなきゃわからないじゃん。クロロか偽者かも気になるし」
「はぁ? 調べる意味ねーよ馬鹿だろ」
幼い少年達の喧嘩は、始まるのが唐突だ。二人の脳内でゴングが鳴ったらしく、激しい取っ組み合いに発展する。これもリンとクラピカとは少し異なる点だろう。
突如始まった喧嘩に、リン達三人は慣れた様子で『ずず……』とお茶を啜る。互いに思うところはあれど、確かにクロロを仲間に入れるのは合理的だ。
「クラピカ、ゴンはああ言ってるけど大丈夫?」
「ああ。どちらにせよ、今の奴は蜘蛛として機能していない。我々への害もない筈だ」
「……あのぉ、何か事情があるのでしょうか?」
「敵対関係とだけ言っておく」
「クロロって奴、幻影旅団のリーダーなのよ」
それを聞いたビスケは即座にリンに眼で思念伝達をする。オタク技能をLucida設立者でもあるビスケが使いこなせないわけがないのだ。
(薄幸美人と悪の組織のリーダー……王道の組み合わせじゃないの!)
(しかも向こうも美形よ。あ、クラピカがクロロを緊縛してるツーショットあるけど、要る?)
律義に頼みを果たしてくれていたクロロ。あの事件の後、フォルダに入っていたツーショットにリンが狂喜乱舞したのは言うまでもない。リンの申し出にビスケは目を輝かせる。
(当然よ)
(即答かーい。ていうか、ビスケはクラピカを夢か腐どっちで見てるのよ)
(本能のまま……だわよ)
還暦手前なのに恐ろしいことだ。
クラピカが悪寒を感じ、それと同じタイミングでひとしきり取っ組み合いを終えたゴンとキルアがぶすくれた顔で戻って来た。ゴンの手にはカードがあり、どうやらゴンの意見を取る方で話(?)は纏まったらしい。
「行くぞ」
「あ、話纏まった?」
「聞かねーもんこいつ。馬鹿だから」
「どうせ俺は馬鹿ですよーだ!」
「わかったから行くわよ。喧嘩してる時間がもったいない」
「馬鹿」の部分を強調したキルアの言葉にまたしても喧嘩を買おうとしたゴンだったが、リンが制すると仕方なく矛を収める。しかしむすっとした表情はそのままだ。
「
少し切れ気味にゴンがそう叫ぶと、全員の身体が宙に浮かび上がり、北西へ向けて飛び立つ。ゴン達は慣れた様子だったが、初めての体験となるクラピカは驚いて上空からの景色を眺める。
一行はそのまま、『クロロ=ルシルフル』の下へ飛ぶのだった。
◇◇◇
川辺で水浴びをしていたヒソカ。木陰で読書をしていたクロロよりも先にゴン達に気づいたのは、そのためだ。
そう、プレイヤー名『クロロ=ルシルフル』は、正真正銘クロロその人。リン達は知る由もないが、原作とは大きく異なっている。
地面に降りたったゴン達が驚いたのも無理はないだろう。偶然か必然か、『ヒソカ』という名のプレイヤー名はゴンのバインダーには登録されていなかった。意図しない出会いに驚いたのはヒソカも同じだが、こちらは愉悦も含まれている。
「おやおや、これは予期せぬお客さんだ♥」
「「ヒソカ!!」」
恋して愛しくて仕方ない最高の獲物が、思った以上に美味しくなった姿で突如目の前に現れた。これで悦ばない変態は居ないだろう。戦闘の興奮がそのまま下半身の興奮へと繋がるタイプであるヒソカは、動物的部分が大きく持ち上がるのを感じながらも唇の端を持ち上げた。
「くくくくく、やっぱりそうだ♥ 臨戦態勢になるとよくわかる♣ 随分成長したみたい……」
予想以上に早すぎる少年たちの成長、いったいどこまで大きく、美味しく実るというのだろうか。刈り取る時を思うと、今から興奮してしまう。少年たちのドン引く顔も、ヒソカには料理のスパイスでしかない。
「僕の見込んだ通り、君達はどんどん美味しく……」
「ハァイ、ヒソカ♥」
持ち上がりかけていたヒソカのヒソカが、急に元気をなくした。恐らくリンと目が合ったからだろう。ビスケはビスケで、ヒソカのヒソカを、涎を垂らしつつしっかりと見つめている。
「……ちょっと待ってね、服着るから♣」
戦闘の天才でもあり驚異的な直観力と判断力を持つヒソカは、すぐさま服を着ることを選んだ。英断と言えるだろう。ハッと気づいて「いや~ん!」とビスケがトタトタ逃げていくが、当然今更だ。
あの少女も見たことがあるとふと嫌な記憶を思い出すヒソカ。こちらは全く年齢を経た感じがせず不気味ではあるが、念能力によるものなのだろう。
裸を見られるのは構わないのだが、苦手な相手に見られるのは良い気がしない。彼女がゴンとキルアの師匠であろう事実に、複雑な心境だ。
そんなわけでゴンとキルアの貞操の危機第1ウェーブは去った。ギャグめいたオチだったが、その分傍で対峙している二人の宿敵のシリアス感が倍増する。
クロロは本を閉じるとそれをコートに仕舞って立ち上がり、不敵な笑みを浮かべながらクラピカと向かい合った。クラピカは今にも憎しみでクロロに殴り掛かりそうだ。
「……久しぶりだな、鎖野郎。いや、クラピカ」
「まだ死んでいなかったのだな」
「まあな。それなりに堪えてはいるが」
ヒソカショックで忘れかけていた緊張感を取り戻し、ゴン達の視線は黒と金の2人へと向く。
一触即発。その言葉が最も似合う状況と言えるだろう。諫めようとゴンが口を開きかけたが、それよりもリンがクロロの尻をタイキック形式で蹴り飛ばす方が早かった。
「かっこつけてんじゃないわよ」
愛しのキルアとの組手に比べれば明らかに容赦のない蹴りが、クロロを襲う。転びはしなかったものの少しのけぞったクロロに、クラピカは思わず目を丸くした。そして背後のリンにようやく気付く。怒りでやや周りが見えていなかったようだ。
「痛……」
「どーせ、「盗賊としてのアイデンティティを失い、改めて自分とは何者か考えさせられたよ……」とか言うつもりだったんでしょ」
「……」
妙に似ている物真似でクロロの台詞を奪うリンである。手を顔に添えて厨二病感を出すのも忘れない。
対して、図星のクロロは何も言い返せずに黙り込んだ。少なくとも軽く蹴り飛ばされた分は仕返ししたい気持ちになるが、そんなことをすれば暴力罪でクラピカに刺された念が発動しかねない。それを良いことに、リンは更に兄貴分の恥部を刺激しまくる。
「ゴン、キルア、覚えときなさい。『発』みたいな一生モノになることを決めるときは、本当によく考えないといけないのよ。じゃないと『盗賊のシンボルを蜘蛛にしてそれをタトゥーにしよう! 団員番号も込みで!』みたいな厨二のノリで決めてそれを背負ったまま歳食ったこのオッサンみたいになるから」
「……俺、結構見た目若いって評判なんだけど」
オッサン呼ばわりされたクロロが不服そうに口を挟む。そんなオッサン定番の台詞を、ティーンエイジャーはばっさりと切り捨てた。若者は残酷だ。
「見た目年齢は誤魔化せても実年齢は誤魔化せないわよ」
意図せずして流れ弾に当たったビスケが木陰で思わず心臓を手で押さえる。リンの言葉を真に受けたゴンが少し不安そうに自分の手を見つめた。
「俺……じゃんけんを能力にしたの早まったかな。子どもっぽい?」
「少なくともイタくはねーから安心しろ」
「子どもっぽい?」という質問には答えられなかったキルアである。とどめにリンはそのままクラピカのところまで歩み寄り、ぽんと肩を叩いた。
「クラピカは……諦めな。あんたはもう一生でけぇシルバーのチェーン野郎だから。武藤遊戯もびっくりの厨二病から一生抜けられないわ」
「……」
リンの功労というべきか、それとも戦犯というべきか。ともかくクラピカとクロロの戦意は失せ、険悪なムードはどこかへと去った。代わりに少年たちがクロロを憐れむ、微妙な空気がその場に漂ったのだった。