リン=フリークスの冒険   作:夜桜百花

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旅人の湖【後編】

 そんなこんなで微妙な空気を脱し、軽く事情を説明したゴン。クロロやヒソカが意外と耳を傾けてくれることに内心驚くキルアとクラピカである。

 

「……ってわけなんだけど」

「つーか、何でお前らG・I(こんなところ)に居るんだよ」

「とある事情でヨークシンでの一件から旅をしている。俺も意図したわけではないがな。その流れでここまで来ただけだ」

 

 どこの誰が、A級盗賊のリーダーがいきなり放浪の旅人になったと言われてそのまま納得するだろうか。当然の如く怪しむキルア。渋い表情をしているのがわかる。

 

(ん~、見事に肝心なところは隠してるって感じね)

 

 だが、恐らく嘘はついていないだけに性質が悪い。リンもそうだが、クロロは基本的に言葉を操って嘘をつくのを避け、本当のことを隠す。だからこそ、下手な嘘つきよりも見破りにくい。

 

「除念を狙ってんじゃねーのかよ」

「そうしたいのは山々だが、俺が除念師を探せば間接的に掟の制約に触れかねんからな」

「で、僕はただのガードマン♥ 彼、今襲われたら反抗できないからね♦」

(あんたが一番襲いそうだけどね。二つの意味で)

 

 明らかに胡散臭い言い分だ。特に、ヒソカがタイマンできない相手を健気に護るとはとても思えない。それはキルアも同じように感じているらしいのが表情で見て取れる。

 だが、クロロとヒソカは必要以上にこちらに敵対する感情はないらしい。そして「カードは別にいらないケド、暇だから良いんじゃない♣」と、リンへの嫌悪感よりも果実の尻を優先したヒソカに後押しされ、クロロもゴン達の協力要請を承諾した。

 かくして、2人ものメンバーが加わったことになる。これはゴン達からすれば嬉しい誤算だ。

 

 そして現在。ヒソカの提案により、一行は湖から仲間ができる可能性があるという町へ向けて歩いている。方角的には恐らく、恋愛都市・アイアイだ。

 

(本当にアイアイなんかに仲間が居るのかしら?)

 

 彼らについて歩きながらも、リンの胸中は不信感でいっぱいだ。そもそもリンだけに適用されるアイアイの謎仕様からして、リンはあまりアイアイが好きではない。

 ついでに言えば、クロロやヒソカにまともな友人がいるとは思えないリンだ。それは完全にブーメランなのだが、ここでは深く突っ込まないことにする。

 

「あんた……盗賊相手にいつもあんな感じなわけ?」

 

 ゴン達から少し離れた最後方で、彼らと適度に距離を保ちながらビスケはリンにそう尋ねた。A級盗賊のリーダーを出会い頭にタイキックするとは流石の心源流師範も思わなかったと、リンを呆れ顔で見つめている。

 

「否定はしないけど、今回はクラピカのため。先にクロロ蹴っ飛ばしといたらちょっと毒気抜かれてくれるかなと思って。やっぱ一触即発の雰囲気(ムード)ってあるじゃん?」

 

 ついでにクロロのスカしたセリフと顔を見て蹴り飛ばさずにはいられなかったという本心もあるのだが、ここでは黙っておくことにした。

 

 一行はゴン・キルア・クラピカを先頭に、ヒソカ・クロロ、そして少し離れてリンとビスケが歩いている。

 町の上に浮かんでいる風船との距離からして、じきにアイアイに到着しそうだ。聞き耳を心配しなくても良さそうなタイミングだからと、リンとビスケはついでに今のうちにできそうな話もしておく。

 

「そういえば、ミルキの家族ってかなりやばい奴だったのね」

「そーよ? あ、ビスケはミルキ以外の家族に会った事なかったっけ」

「今後も会わずに済むのを祈るわさ。リン相手でも反応しちゃうみたいだしねぇ~、どんな教育したんだか」

「キルアの?」

「そ~」

 

 ビスケが言っているのは、先程リンとキルアが組手をした時の話。キルアの退避行動が本人の意図するところではなかったのは、長年拳法の師範を務めたビスケには明らかだった。

 そして修行を見ている中でも、キルアが受けた教育の異常性は簡単に見て取れる。ミルキ越しにゾルディックの家庭環境を知っているのも大きいだろう。

 

「教育もえっぐいモンだったみたいだけど、一番はイルミの能力。……あ、あいつらの長兄ね。キルアがやってた最後の回避行動、あれ念で操作されてるのよ」

「なるほどねぇ。解除方法はないの?」

「解除っていうか、針を頭に刺されてるだけだからそれを抜けばいいんだけどさ。本人かイルミにしか抜けないみたいなのよね。しかもキルアが自分で抜く場合には針が抵抗するから、相当の精神力が要るみたい」

 

 そう言いながら思い出すのは、ヨークシンに向かう前に天空闘技場近くのバーで共に飲んだ時のこと。

 あの時、当然キルアのことも話題に出ていた。スマホを開いてキルアの写真集を見せびらかすイルミにダメ元で尋ねたリンだったが、意外にもあっさり教えてもらえたのだった。

 キルアに教えたら殺すという脅し付きだったが、当然リンが正直に言うことを聞くわけもない。機会を見てチクるつもりだ。

 

「ただ、キルアは針が刺さってるのすら知らないわ。だから教えればすぐにでも抜こうとすると思うけど……」

「心配なのね」

「イルミの気持ちもわかるのよ。イルミが針に込めた命令は主に格上の相手に対して回避行動を優先するもの。……命を護るための念だから」

「なら、なんであんたはゴンを【浅はかな催眠術】(メズマライザー)で操作しないのよ?」

「う……」

 

 この能力を見たことがないにもかかわらずビスケが知っているのは、数年前のコミハン打ち上げの際に洗脳モノBLの話題で盛り上がっていたからだ。酒の勢いで「今すぐイイ男を洗脳してこい」と弟子に命令した五十路の心源流師範が居たとか居ないとか、それはまた別の話。

 しかしそんな爛れた背景はさておき、ここで言うビスケの表情は真剣そのものだった。厳しい師匠の視線に言い訳もきかず、正直に白状する。

 

「大事だからこそ操り人形みたいにしたくないから。よねぇ」

「あんたの気持ちもわかるけど、言わないのは悪手だわさ。今のまま相棒としてあの二人を共に行動させたら、いつかキルアはゴンを死なせる」

 

 ビスケの言い分は至極真っ当だ。複数戦などいざという時にキルアが退避行動ばかりで戦えないのでは、戦力は半減確実。下手をすればゴンを置いて逃亡する可能性もあるだろう。

 

「この島を出るまでにはキルアに言うわよ。取り敢えずはショタコンピエロから愛する弟達を救わなきゃね」

「……あんた、筋金入りのブラコンよね。そろそろ弟離れしないと苦労するわよ」

「わかってはいる。わかってはいるのよ……! そういうビスケもそろそろ情が移ってきた頃でしょ? 可愛いでしょうちの弟達。放っておけないからそんな厳しい事を言ってるんでしょ」

 

 呆れ顔のビスケに弁解しつつも、ここぞとばかりに熱弁するリン。それはビスケの図星を突いたらしく、ビスケも先程のリンのような表情になった。

 

「痛いとこ突くわね……とんだ人タラシよあの子達。ホント、油断したら親みたいな気持ちになっちゃうわさ」

 

「祖母の間違いでは?」と言いそうになったがすんでのところで飲み込む。リンはこれでも合理主義なのだ。無意味に命を捨てる必要はない。

 辛気臭い話題にも疲れてきたので、気持ちを切り替えるためにゴホンと軽く咳払いをした。

 

「そうでございましょ? ところで……前方でそんなゴン達が変態ピエロにケツを狙われてますのよ」

「あら、じっとりと舐めるように見つめておりますわね」

 

 謎にお嬢様言葉になるリンと、それに乗っかるビスケ。特質系と変化系の相性はそれなりに良いというのを如実に示している。普段は冷静なのにたまに謎テンションになる特質系と、気まぐれ故に意外と付き合ってくれる変化系だ。

 視線の先には、青少年のケツをじっくりと見つめて愉悦するヒソカの姿がある。同類と思われたくないクロロがヒソカから少し距離を取った。

 

「あまりにも生々し過ぎる公開プレイですわ。天誅を下さねばなりません」

「HENTAIがTPOを弁えるのは社会的義務ですものね」

 

 かくして、尻を見つめられてぞわぞわと総毛立っているゴン達を救うため、正義の腐女子達はヒソカに近づくのだった。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 ヒソカは道中も少なからず興奮を隠せずにいた。たった1年で驚くほどに成長した青い果実。しかもそれが3人も目の前に現れたのだから、当然だ。

 まだ発達途中の体躯、子どもっぽさを残しつつもしなやかかつ筋肉質な手足、中性的な顔立ちのなかに収まった可愛らしい唇、そして何より小さく引き締まった尻。全てがヒソカの下半身に熱を送る。これでたちあがらず(意味深)にいられるだろうか。いや、不可能だ。

 

「……君達、何を見ているんだい?」

 

 背後から突き刺さるこの視線が無ければ。

 

 ギギギ、と後ろを振り返る。そこにはどこぞの研究者のように真剣な顔つきでヒソカの臀部を観察するリンとビスケの姿があった。

 

「敢えて言語化されるのが好み?」

「なかなか良い尻してるわさ」

 

 変態をもって変態を制す。視線だけでここまでヒソカを萎えさせられる人間はそう居ないだろう。

 本来ならば唾棄すべき人物。しかし二人とも、実力だけはヒソカ好みというのがまたジレンマなところ。そんな様子にヒソカがリンとビスケを苦手としているのを敏感に察したキルアが、被害者仲間の袖を引く。

 

「ゴン、クラピカ、リン達のとこへ移動しようぜ。何か知らねーけど、あいつあの二人が苦手みたいだし」

「そうだね……」

「妙だな。リン程の実力があればヒソカの『お気に入り』になりそうなものだが」

 

 そういえば今までもヒソカとリンが関わっているところを見たことがない。ニアの姿の時はあれ程付きまとっていたのに妙だ、と、クラピカが無駄に良い勘を発揮する。あまり考察をさせてはいけないと、リンも慌ててゴン達を呼んだ。

 

「あんたら来るなら早く来なさい」

「うん!」

 

 ゴンが嬉しそうにリンに駆け寄り、キルアとクラピカも続いてこちらへと歩いてくる。なんとか気を逸らすことに成功した、とリンはほっと胸をなでおろした。これだから勘の良いガキは嫌いなのだ。

 

 リンの意図を察したらしいクロロがじーっとリンを見つめる。ビスケはまたしても猫かぶりを始めているので、必死なリンの心境を察しているのはクロロくらいのものだ。

 

「……」

「……」

 

 もしかしたらついうっかり、クロロの口が滑って、自分が腐女子であるとバレてしまうのではないだろうか。クロロの表情にはそんな危うさを感じさせるものがある。

 この盗賊は見た目の割にはお茶目なところがあるのだ。統領の仮面を被らなくていい場所では、それが如実に表れる。

 

(言ったら殺す)

 

 ちらりと視線を向けてピッと首を掻き切る仕草を見せると、クロロはニヤリと笑った。顔に『どうしよっかな~』と書いてあるのが見える気がする。

 全員がそのやり取りを見ていたが、幸いにして彼らの意図まで伝わることはなかった。ゴンを筆頭に、不思議そうな表情を見せる。

 

 誰を先頭……もとい悪魔(リンとビスケ)の視界に入れるか。押し合いへし合いしながらも、先ほどまでと違い団子になって歩く。そんな事をしている間に、アイアイは目前だ。それにしても、本当にアイアイにヒソカの言う『助っ人のメド』があるというのだろうか。

 

(もし助っ人の話がガセだったらどうしよ。ヒソカにカンチョーするくらいは許されるかしら?)

 

 穏やかではないが、それを見たゴンとキルアの表情を想像して、やめておくことにした。20歳手前の姉が男子幼稚園児のような真似をしていたら、ドン引き間違いなしだ。

 

「姉さん……ヨークシンでは、迷惑かけてごめんなさい」

 

 そんな事を考えているリンの隣を歩くゴンが、不意に呟いた。どうやら、ずっと言うタイミングを逃し続けてこの微妙な時に言うことになったようだ。

 じゃないと、あまりにも唐突過ぎるだろう。しかも、よりによってカンチョーのことを考えている時に。そしてリンとしては何に謝られているのか全く分からない。

 

「何の話?」

 

 ついでに言うならば、リンとしては自分もヨークシン編でやらかしている一人なので、あまり触れてほしくないところ。ビスケ以外全員が関係者で、宿敵同士までが対峙しているのだから余計に。

 

「俺、ビスケに修行つけてもらって思ったんだ……今まで格の違いをわかってなかった。いつ旅団に殺されてもおかしくなかった。姉さんが止めてくれてたんだ」

 

 しょんぼりと謝るゴン。そこに悪意は一切ない。だが、今ここで言うかという気持ちが拭いきれないリン。

 

(その旅団が目の前にいるわけですが? え、見えてない? もしかしてこれ私の幻覚?)

「ハンター試験の時だって、もしかしたらヒソカに殺されてたかもしれない。でも姉さんが護ってくれてた」

 

 もしかしたらリンの斜め後ろを歩いているクロロとヒソカは、自分が生み出したイマジナリーフレンドだったのだろうか。思わずそんな事を考える一方、しゅんとしたゴンはすらすらと具体的エピソードを挙げていく。そのどれもが間違っていないだけに性質が悪い。

 

「一次試験ではクラピカやレオリオをヒソカから護ってたんだよね? それに、四次試験で俺を木の洞に運んでくれたのも姉さんでしょ? 知らないだけで、きっと俺達は姉さんに何度も助けてもらってる」

(ヤメテ! ビスケやクロロの『こいつそんな一面あったんだー』みたいな視線が痒い!!)

 

 後ろからぐさぐさと刺さる視線に居た堪れない気持ちになるリン。顔を見ずとも面白半分で彼らが聞き耳を立てているのが分かる。仕事友達や趣味友達に姉としての姿を見られるのがこんなに恥ずかしいとは思わなかった。

 

「……まあ、正直お前の力を侮ってたところはあるよ」

 

 キルアがリンの力量をはっきりと理解したのは、ヨークシン事件の時だ。ニアの時は少し暗殺技術を齧った一般人程度にしか思っていなかったし、最終試験でリンがイルミと対峙しているのを見ても、心のどこかで『ゾルディック家(自分と同じ環境)で教育を受けたのならば自分でも敵う相手だ』と舐めているところがあった。

 修行をして力をつけたことで周囲との力量差がはっきりとわかるようになったのはキルアも同じ。珍しく自分の至らなさを認めたキルア。周りの視線やら弟からの感謝やらと混じって、リンはもうどう反応したらいいのかわからない。

 

「だから、姉さんに今まで助けられてきたなってちゃんと謝らなきゃって……」

「……殊勝なことを言いながらもちょっと前まで『クロロに頼んだらどうかな?』とかほざいてたのはこのお口かなぁ~??」

「むぇ! でも姉さんクロロの事兄さんみたいって言ってたし! じゃあ俺にとっても兄さんみたいなm……」

「ちょっと黙ってなさい!」

「いーひゃんクロロも同ひ事言っへ……いひゃいいひゃい!」

 

 更に本人に聞かれたら恥ずかしいポイントを的確に指摘するキラーマシン・ゴン。リンの恥ずかしさと力が強まり、引っ張られていたゴンの頬が更に伸びる。

 

「着いたよ♦ アイアイ♥」

「お前、そのほっぺ大丈夫かよ」

「……ふぁいほうふ」

 

 そんなやり取りもあったが、暫く歩くと無事にアイアイに到着した。

 

 あいーん、あいーんと喋る巨大風船が浮かぶ下、呆れるほどにベタベタな恋愛フラグが立ち並ぶ。しかしリンにとっては自分だけフラグが一切立たないため、正直面白みのない町だ。

 それは今回も同じで、リン以外にはバンバンとフラグが襲い掛かる。クラピカが食パンを加えた少女と街角でぶつかったり、

 

「いった~い! ちょっと気を付けてよお兄さん!」

「……ぶつかったことで転ばせたのは謝罪しよう。しかし死角から突然飛び出してきたお前にも相応に責任があると思うのだが? それよりも不快なのは自分から謝罪する態度を見せず一方的に相手をh……」

「あ、行っちゃったね」

「クラピカ、あんまり反論が長いとタイムオーバーだよ♣」

 

 キルアがほろほろと泣いている少女を素通りしたり、

 

「……キルア、あんたに人の心はないの?」

「つってもどーせNPCじゃん。今は構ってる余裕ないだろ」

「でもゴンはそうじゃないみたいだよ♦」

 

 ゴンが小悪党に言い寄られている女性を助けに走ってビスケとキルアにどつかれたり、

 

「よりによってあんなベタベタな出会い選んでんじゃないわさ!」

「あの女の人、ちょっとミトさんに似てるわね。私が行ってくるわ」

「お前が行こうとした瞬間、女性が返り討ちにしたぞ。要らない世話だったようだな」

「……笑ってんじゃないわよクロロ」

 

 あちこちからフラグが生えてくるというのに、リンにだけは一切のフラグが立たない。それどころか、リンが参加しようとした瞬間にイベントキャンセルされる始末だ。流石のリンも少しむくれる。

 

「にしても、リンだけ面白れーくらいにフラグが立たねぇな」

「どういうわけか、私には殆どフラグが立たないのよねこの街。前来た時もこんな感じだったわ」

「ふぅん」

 

 キルアはありきたりながらも意味深なトーンで相槌を打つ。リンが不思議そうにキルアの顔を見返すと、隣に居たビスケが面白いと言わんばかりに笑った。

 

「ジンって奴、意外と親バカね」

「どういう事?」

「つまり、ゲームでも変な虫を付けたくないって事だろ?」

 

 ビスケに代わって簡潔に説明するキルア。その言葉を理解すると、リンは即座に近くにあった壁に手をついた。もう片方の手で口元を押さえ、必死に逆流しそうな胃を押さえつける。

 

「……ちょっと待って、吐きそう」

「は? なんだよ急に」

「クソ親父が真っ当な父親らしい感性を持ってるって思ったら気持ち悪くなってきた……」

「……あんたら、難儀な親子だわね」

「姉さん、ジンに対してちょっと変わってるとこあるから……」

「お前もだよ。親父を呼び捨てにしてるのは十分変わってるって」

 

 姉が姉なら弟も弟。というか元凶は全て父親だと、この場に居た全員が口にしないまでもぼんやりと理解する。

 だが、一向に仲間に会える気配はない。少し吐き気が収まってきたところで、こんな所にいつまでも居てはメンタルが持たないとヒソカを八つ当たり半分に睨みつけた。

 

「ヒソカ……本当にこの町に仲間の伝手があるんでしょうね?」

「ここなら沢山の出会いがあるだろ? アイアイは孤独を恐れる町でもあるらしいから♣」

「何それ」

「さあ♠ 前にNPCが言ってたんだ♦」

 

 一応、必要な会話ならばリンとも受け答えをしてくれるヒソカである。彼は変態殺人鬼なだけであって、コミュ障というわけではない。そしてそれを聞いたキルアが大声で話を遮る。

 

「はぁ?もしかしてそれがお前の言う『当て』かよ!?」

「そうだけど♥」

「はぁ~、期待して損した」

「でも、そうなるとまた仲間探しだね。あと何人だっけ?」

 

 ゴンの言葉に再び猫を被ったビスケが、可愛らしく指を折り曲げながら全員の顔を見回す。もうここまでバレてしまって今更かわいこぶる必要は皆無のはずなのだが、そこはビスケも気まぐれな変化系なのだ。

 

「私、ゴン、キルア、リン、クラピカさん、クロロさんにヒソカさん。……あと8人ですね」

「俺達が全勝して、あとはもう一人勝てばいいんだから大丈夫じゃね?テキトーに【離脱】(リーブ)と交換で数合わせを探せばいいだろ」

「あー……ズルになるから言わないでおこうって思ってたけど、いっか。人数がポイントになるドッジボールで、最終的に相手が全勝できるシステムになってんのよ。だからできればもーちょい欲しいかな」

 

 黙っておこうと思っていたが、人数的には微妙なところ。というか、できれば今回のリンは見る専に徹したいので、やっぱり助っ人は欲しいところだ。弟の成長を確かめられる舞台にあまり出しゃばりたくもない。

 

(レイザーってめっちゃ強いし、パワーバランスが難しいのよね。あんまりクロロクラスを集めてもヌルゲーになるし、下手な奴だと普通に負けるし……ってか多分死ぬし)

 

 クロロは念で暴力行為を全面的に禁止されているとはいえ、同レベルのヒソカも居る。そこにリンやビスケまで入ってしまえば、この4人でメインの捕球をすることになってしまうだろう。

 かといって、自分たちが抜けて弱い人間を入れても、死にかねない。ゴンが、リンが先程戦ったキルアと同じ程度の実力だと考えるならば、正直なところレイザー戦はかなりハードルが高い。

 

「何でそんな事知ってんだよ?」

「そりゃ、一回クリアしてるし」

「なるほどな。マジかよ俺相撲やる気満々だったのによ~」

「じゃあ姉さんはSSランクのイベントをクリアしたんだ!」

 

「凄い!」と瞳を輝かせるゴンに、どのような戦法で勝ったかは言わないでおこうと心に決めたリンである。

 

「それにこのイベント、たぶんゴンの腕試しを意識して作られてるのよね。それを思うとできれば私は観戦に回りたいんだけど……」

「しかしそうも言ってられないだろう」

「ん~でもなぁ……うん、人呼ぼっか」

 

 クラピカの言葉に暫く考えていたがこれが一番早そうだと、決断する。思い立ったなら即行動。リンが「ちょっと電話したいから、島の外に行ってくるわ」とコンビニにでも行くようなノリで言うと、ゴンとキルアはハッと気づいたような表情になった。

 

 島の中に適した人物がいないのならば、外部から呼んでしまえばいい。バッテラの厚意でプレイさせてもらっているゴン達には難しいが、自分用にソフトを持っているリンならばそれも難しくないだろう。

 話の流れを汲んだクロロがうんざりしたようにリンに顔を向ける。ここまでの会話の間にもフラグに引っ掛かりまくり、女性陣に囲まれまくっていたクロロ。流石に少し嫌気がさしてきたようだ。

 

「しばらくかかりそうか?」

「んー合流まで少なくとも2時間くらいかな」

「じゃ、俺は酒場で待ってる」

(……占いに出てた酒場で出会う仲間って、クロロだったのね)

 

 今更だが占いが当たったことに気づき驚くリン。口にはしないもののクラピカも察したようで、苦々しい表情を浮かべる。G・Iに来た時点で、クロロとの邂逅は避けられなかったということになる。

 

「ゴン、【挫折の弓】って持ってる?」

「持ってるよ。【離脱】(リーブ)だよね」

「ちょっとそれ使わせて。呪文(スペル)カードよりも入手しやすいし融通利くし。後で取り直して返すから」

「わかった。入手方法は知ってる?」

「弓射ちに勝つやつでしょ?」

「そうそう!俺が投げたのは弓じゃないけど」

「あいつめっちゃ挫折してたよな」

(何投げたのよ)

 

【離脱】(リーブ)のイベントを思い返し、思わずNPCに同情するリンだ。同時に、どのようにしてゴンとキルアがあのイベントをクリアしたのかは気になるところ。

 

「何人くらい呼べそうだ?」

「確実なのは3人ってとこかしら。あんま強い奴集めすぎてもゴンのためにならないし、それくらいで抑えとくわ」

「そんだけしか呼ぶダチが居ないんじゃなくて?」

「キルア! 後でボコすから覚えときなさいよ!」

 

 そう言いながらも「【離脱】発動(リーブ・オン)!」と唱えると、リンの身体は瞬く間にイータの下へと飛ぶのだった。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「んじゃ、待ってるから! ……と、次はこっちね」

 

 ところ変わってくじら島にある自室のゲーム前。さっそく電話をかけてまずは1人目、予想していたとはいえ快い返事を貰えてホッとしたリンだ。

 そのまま残る2人に連絡をするため、ホームコード一覧を開く。こちらは簡単に受けてくれるはずだ。

 

『……何だよリン。俺忙しいんだけど』

「ミルキ? イルミも居る?」

 

 電話の向こうからは不機嫌そうなミルキの声が聴こえてくる。しかし、基本的に作業中のミルキはいつもこんな感じなので、リンとしては一切気にしていない。

 

『おー、居るぞ。てかホームコード知ってるだろ』

「二人ともに用があるの。ちょっと呼んで」

 

 そう言うと『待ってろ』と保留にされておおよそ2分。ゾルディック家には似合わない平和な音楽が途切れると、イルミの声が聴こえてきた。こちらは淡々とした口調ながら、少しリンに苛ついているのが察せられるトーンだ。

 

『何、リン。早く代金払ってほしいんだけど』

「代金代わりになるものを用意したんだけど、それで手打ちにしてくれないかしら」

『590億に匹敵するもの? そうそうないと思うけどね』

「本当にぼってくるとは思わないでしょ。てかマジで減額する気ないのね」

『もちろん』

 

 ヨークシンでヒソカの足止めを依頼した結果、思った以上のぼったくり金額を請求されたリン。日常生活をする分には桃鉄でしか見ないような金額だ。余談だがリンがゾルディック家に預けられていた時代、この二人は桃鉄がきっかけで殺し合いにまで発展した経緯がある。

 ともかく、そのあまりの法外さに流石にイラっと来たため、なんだかんだとキルアの写真を餌に延滞しまくっていたのであった。どっちもどっちだが、イルミが苛立つのも仕方ない話ではある。

 

「キルアと仲良く楽しく至近距離でゲームできる権利でも?」

 

 しれっとそう言うと、イルミの反応が明らかに変わる。リンも大概だが、弟が絡んだ時のイルミはかなりチョロいのだ。

 

『それ、嘘じゃないよね?』

「ガチ。G・Iってゲームに居るんだけどさ、イベントで腕の立つ奴が必要なのよ。キルアが仲間を必死に探してるところよ」

『マジ? G・I?』

 

 夏にキルアと電話した後、目まぐるしいほどの忙しさにG・Iのことはすっぽり忘れていたミルキだ。後日思い出しはしたものの、事後処理やオンライン販売に追われて結局オークションには参加できなかったのであった。つまりは、当然棚ぼたな提案に食いつくというわけである。

 

「昔話してたやつ。所有者に口利きするからタダでプレイできるわよ」

『最高かよ、やるやる! イル兄はどうすんの?』

『やろうかな。キルも居るみたいだし』

(計画通り)

 

 腕の立つメンツ(ミルキは若干不安だが)を招集することができ、イルミに吹っ掛けられた依頼料金もチャラになる。まさしく一石二鳥だ。キルアが交渉した方が早かったのだろうが、わざわざリン自身が交渉に出てきたのにはこんな理由があったわけである。

 ちなみにイルミとミルキには、バッテラ邸にあるソフトから入ってきてもらう予定だ。その方がパドキアからも近いし、ミトに暗殺者を会わせたら失神してしまうかもしれない。

 

「んじゃ、場所は後で送るわ。1週間後のこの時刻、ゲームで待ってるわよ」

『りょ』

『キルによろしく』

 

 これで3人、ミッションコンプリートだ。首尾よく言って鼻歌混じりにリビングに向かうリン。来客の予定を伝えておかなければミトを驚かせてしまう。

 

(メンチやノワールは忙しいし、もうクリアした事のあるゲームをやらせるのも申し訳ないしね~。そこんとこゾルディックは融通利くからありがたいわ)

 

 暗殺一家をゲームのメンバーとして数えようとするのはリンくらいのものなのだが、そこは置いておこう。ミトはリビングには居らず、階段を降りると店の準備をしている姿があった。

 

「ミトさん!」

「うわ、リン!? ゲームしてたんじゃなかったの?」

 

 唐突にゲームから帰って来たリンに、驚きのあまりグラスを取り落としそうになるミト。そして珍しく子どもっぽい機嫌の良さを出しているリンに、少し目を丸くする。

 

「電話する必要があったからちょっとだけ出てきたの! あのさ、数日したら長身のグラサン男が訪ねてくると思うから、私の部屋に通しておいて! 一緒にゲームに誘ったの。あと『ゲームの前で『練』をしろ』って伝えといて!」

「長身の……ああ、ゴンのはがきに写ってた子か。『レンをしろ』ね? わかったわ」

「ありがと! じゃあまたゲームしてくる!」

「あっ……ご飯くらい食べて行けばいいのに、もう」

 

 現れるのも突然なら、去るのも突然だ。家の中に突如竜巻でも発生したかのような衝撃に、ミトは呆れながらも伝言をメモしておくのだった。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 1週間後。それなりに自由に過ごしていたリン達は昼下がり始まりの草原にて、改めて顔を合わせていた。

 いっそ笑いが込み上げてくる謎メンバー。ここから更にメンバーがカオスになるのだが、誰を呼んだのか頑なに言おうとしないリンにより、その事を知る人間はリン以外には誰も居ない。サプライズゲストというやつだ。

 何もやることがない場で、リン達は呼んだ人物たちがやってくるのを待つ。

 

(こうして見ると、本当に謎なメンバーが揃ってるわね……)

 

 暇を持て余したあまり、叩いてかぶってじゃんけんぽんを始めたゴンとキルア(道具はリン提供)。そして、ゴンのバインダーを借りてカードの効果や名称の勉強をするクラピカと、クラピカのパンダを愛でるビスケ。クロロは木陰で読書を始めているし、ヒソカはトランプ遊びをしている。

 一見マイペースな人間が緩く集っているだけの集まりに見えなくもないが、つい半年前まで殺し合いに発展していたメンバーが大半だ。胡坐をかいて彼らの様子をぼんやりと眺めながらも、不思議な光景につい笑いそうになってしまう。

 

「ん? ……あ、誰か来たよ!」

「待て、俺らが待ってる奴とは限らないだろ」

 

 いち早くコツコツという足音を聞きつけたゴンがパッと顔を上げる。それを窘めつつも、キルアの視線も小さな塔から降りてきた人物に注目していた。

 

 降りてきた人物はリン達の期待通りの人間だった。高身長にパリっとしたスーツを着こなし、オシャレサングラスを着用した男。

 その顔立ちとファッションセンスのせいで歳相応に見られない彼は、ゴン達に顔を向けるとピッと指で挨拶を投げた。

 

「レオリオ!」

「おーう、久しぶりじゃねえか! ゴンお前デカくなったな!」

 

 リンが呼んだ三人のうちの一人はレオリオだ。暗殺一家の二人と違ってくじら島からゲームにログインさせてもらったレオリオは、ついさっきミトと初対面の挨拶を済ませたばかり。基本的にコミュ力の塊かつ、必要ならば意外と礼儀正しくもできる彼がミトから好印象を獲得したのは言うまでもない。

 

「助っ人ってレオリオだったのかよ」

「まあな。キルアもデカくなったな~。クラピカとリンは……まあ、な」

「俺はこれでも平均身長を超えているが。その憐れむような眼を止めろ」

「私も平均だから。あんたがバスケ選手ばりにデカすぎるだけだから」

 

 レオリオならばレイザー戦にも丁度良いくらいの戦力だ。クロロやヒソカ程強すぎず、かといってレイザーの攻撃も耐えられるほどの強さ。

 その上暫くは時間に余裕もあるらしいので、この後のゲーム攻略も一緒にやってくれるという。

 

「レオリオは私の弟子よ、十分に腕も立つ。もちろん修行はサボってないわよね?」

「おうよ! 試験勉強中も『纏』や『凝』くらいはできたしな。それに頭に『凝』すると集中力上がるんだよ。おかげで医学部も無事に受かったぜ!」

「本当!? おめでとうレオリオー!」

「サンキューゴン!」

 

 わちゃわちゃとスキンシップを取るレオリオとゴン。男同士だがこの二人が絡むとどこか微笑ましいのはなぜだろうか。

 

「それに、この時期はまだ大学入学前だから時間に余裕もあるかなーって思ってさ。電話してみたらビンゴ!」

 

 そんなレオリオにピッと両手の指を向けながら、ドヤ顔でキルアとクラピカに説明をするリン。ひとしきりゴンともみくちゃしたレオリオも機嫌良く宣言した。

 

「1カ月くらいはこっちに居られるぜ。お前らだけで楽しそうなことさせるかよ」

「どうせあっちに居たって、右手と仲良くするしかないもんねー?」

「そりゃあ俺の右手は長年連れ添った……って何言わせんだよ!」

 

 今日も今日とて、レオリオのノリツッコミが冴えわたる。レオリオは笑いながらもバシバシとリンの背中を叩いた。

 そんなリンとレオリオを、呆れた表情で見やるクラピカ。ため息をついた後、いつものように煽りにかかる。だがクラピカもレオリオに会えたことが嬉しいのか、煽りの程度は心持ち柔らかめだ。

 

「やめろ、お前たちに恥じらいというものはないのか」

「なんならお前にもくれてやろうか? 俺の秘蔵のオ・カ・ズ♥」

 

 対して、内ポケットからぴらりとエロ本を見せつけるレオリオ。途端にクラピカの顔が呆れ顔から蔑むそれへと変わる。

 

「あ、ちょっとやめてよレオリオ。ゴンにも見えちゃうでしょ」

 

 これには流石のリンも苦言を呈するが、そもそも今までもレオリオは堂々とエロ本を持ち歩いては読んでいるので、今更だ。

 ゴンは大人なので、アダルトな本が目の前に現れても苦笑いだけで興味を示そうとしない。むしろキルアの方が見ないふりをしつつ必死でチラ見している。年齢連番トリオのいつもの掛け合いが始まろうとしていた。

 

「生憎だがお前達とは違ってそのような卑猥なものに興味はない」

「堂々と鎖じゃらつかせてる緊縛趣味でしょうが。少なくとも私は公衆の面前で緊縛器具やエロ本持ち歩いたり見せつけたりしませんし?」

 

 ちなみに、かつてミルキと共にシルバに親子モノBLのエロ本を見せつけたことがあるが、リンの中ではノーカン扱いである。

 

「誤解だしそれを今言うな! 少なくとも蜘蛛の前で言うな!!」

「あれ、俺今、間接的にdisられた?」

 

 クロロの前で緊縛趣味だと大声で言われ、流石のクラピカも慌てる。誤解で宿敵に『おかしな性癖保持者』と思われたのではたまらない。そして間接的も何も、割と直接的だ。

 今回の構図はレオリオも交えてのバトルロワイヤル。年上のみっともない姿にアホらしくなってきたキルア。逆に、自分もキルアとしょっちゅう喧嘩する割に周りの喧嘩には敏感なゴンが、慌ててフォローに回る。

 

「で、でも、クラピカが鎖を持ってても違和感ないよ? むしろオシャレっていうか!」

「くっ、腹立つことにそれはそうなのよね。明らかに厨二臭いアクセなのに、なんでこんなに違和感ないのかしら」

「ルックスが良いからだろうな」

「……私、こいつのこーいうとこ嫌い」

「気が合うな、俺もだ」

 

 状況一転、クラピカVS非モテのリンとレオリオの構図になる連番トリオである。

 頬っぺたを引っ張ったりクラピカの民族衣装のぴらぴらを捲ったり、「やめろ服を捲るな!」とキレたクラピカから始まって軽い取っ組み合いになったり。

 今回はいつも仲裁に回っていたレオリオまで参戦しているので、収拾がつかない。彼らなりのコミュニケーションというやつだ。たぶん。

 

 ぎゃーすかと騒ぐ姉と年の離れた友人達に内心(駄目だこりゃ)と思ったゴンは、巻き添えを避けるためキルアと共にビスケやクロロの下へ退避する。クロロは少し驚いたような表情でリン達のやり取りを見つめていた。

 

「どうしたの? クロロ」

「少し意外でな。リンはお前らと居ると、あんなに幼い態度になるのか」

「? 姉さんはいつも通りだけど……」

 

 クロロの言葉の意味が分からずに首をひねるゴン。キルアすらも何のことかわからず、表情は変えないもののクロロの顔を見る。

 クロロからすれば、普段のリンはもう少し大人びていて勝気な態度だ。やや喧嘩腰だったり揶揄うような事はあれど、今のクラピカやレオリオ相手の時のようにムキになったり軽い喧嘩になったりということはない。

 

「クロロさんの前でリンが大人ぶってただけですよ。素のあの子はあんなもんです」

 

 当然といった口調でそう言ったビスケに、ゴン達の視線が向けられる。いつの間にかヒートアップして念有りの軽い殴り合いに発展している三人や、可能な限りリンとビスケを視界に入れないように努力しているヒソカ以外の、全員がその言葉の意味を探っていた。

 

「一回り年上の盗賊相手に子どもっぽい仕草を見せると舐められるでしょう?」

「あ~」

「なるほどな」

「?」

 

 キルアとクロロはあっさりと理解したが、未だスッキリした表情になれないゴン。相手によって対応を変えるという経験がないため、いまいちピンと来ないのだ。

 

「お前みたく誰が相手でも素でいられる奴は珍しいんだよ」

「特にリンは、幼い頃から大人に囲まれてハンターの道を歩んできましたから」

「うちの教育も受けてたしな。大人にならざるを得なかったってことか。つかいつまでやるんだそのキャラ」

「……まあそれも含めて、あの子の性格ですね」

 

 キルアのツッコミを華麗に無視するビスケ。人に言われて止めたのでは、ぶりっ子の名が廃るというものなのだ。

 リンとビスケは師弟であり趣味友達であり、会社を興した仲間だ。おまけにミルキも仲間ともなれば、ビスケはリンがゾルディック家に預けられた経緯もよく知っていた。念能力からリンの過去までを含めて把握しているビスケは、ある意味ジンよりもリンの理解者かもしれない。

 

「お、ようやく収まったみたいだぜ」

 

 そんな会話をしている間に、リン達の軽い喧嘩はようやく収束の兆しを見せていた。

 落ち着いたレオリオがようやくヒソカとクロロの存在に気づき、ギョッと眼を剥く。ちらりと眼を向けた先に恐ろしい殺人鬼と数カ月前殺し合いになった盗賊の頭が居たら、誰でも驚くだろう。

 

「……ってうぉい! クロロとヒソカじゃねえか! なんでこいつらもここに居るんだよ!」

「今更気づいたのか」

「色々あってこいつらにも協力してもらうことになったの」

「どんな色々があったらそうなるんだよ……」

 

 言いたい事は色々あるが、喧嘩直後で疲れているので何も言わないレオリオ。思い出したように「ブック」と言ってはバインダーが出現するか確かめてみる。

 

「まあでも、レオリオが居れば戦力にはなるな。少なくともG・Iで雑魚集めるよりよっぽど良い」

「まあまあ、まだ他に誘った奴が来る予定だから、そう焦んないの」

「そういえば、あと二人って誰?」

「そろそろ来ると思ってたんだけどな~」

 

 キルアとゴンに言葉を返しながらもゲーム初めの小屋を見つめるリン。レオリオとは別の場所からゲームに入るため、ほぼ同時とはいかないと思っていたが、なかなか来ない。

 

 そんなリン達の様子を見計らったかのように、突如人の気配が現れた。

 視線が集中した先からは、細身で長身の男がやって来る。運動不足で既にバテているのではと心配していたリンだったが、幸い今のところは大丈夫そうだ。

 

「ミル兄!?」

「よ、1年ぶり」

「ありゃ、ミルキじゃないの。久しぶりね」

「おーう。……やっべ、これがG・Iかよ!テンション上がるな!」

 

 キルア、ビスケに軽く挨拶をしつつ、そんなのどうでも良いと言わんばかりに「ブック!」と言ってバインダーが出現するのを確認する。

 助っ人というより本当にゲーム目当てで入って来たんだなと、ミルキと親交の深い数人はすぐに察した。

 

「お、出た出た! すげー!」

「やあキル、久しぶり」

 

 騒ぐミルキをよそに、続いて最後の一人が出口から出てくる。こちらはバインダーには興味を示さず、真っ先にキルアの近くまで歩み寄った。

 

「会いたかったよ。随分強くなったみたいだね」

「イル兄まで……」

 

 リンが呼んだのはイルミ、ミルキ、そしてレオリオだ。ミルキは若干心配だが、このメンツならばリンが居なくても十分ドッジボールで戦えるだろう。

 キルアを背に回しながらガルガルとイルミを威嚇するゴンをよそに、リンの隣に立ったクロロが苦笑しながらリンに声をかける。

 

「お前、とんでもないメンツを揃えたな」

「これでクロロも、死の恐怖やケツの恐怖やゴン達身内ノリの気まずさに震えなくて済むでしょ?」

「いや、正直そこまで変わらん」

 

 イルミという共通の友人を呼ぶことで僅かに、ほ~……んの僅かにクロロへの気も回していたリン。だが、相手が天上天下唯我独尊男(イルミ)なのであまり意味はないだろうなと思うクロロだ。依頼したってどうせ自分よりもヒソカやリンの方を優先されるし……と、ヨークシンでの出来事をやや根に持っているのもある。

 そんなクロロの下からゴンとキルアのところへ歩いて行くリン。二人の弟の頭にポンと両手を乗せると、イルミとミルキにずいっと身を乗り出した。

 

「ゾルディックの良いところは意外と融通利かせてくれるとこよね」

「言っとくけどお前だからだぜ? つーか、うちを顎で使う人間なんてお前くらいだっつーの」

「持つべきは友達ね」

「友達じゃねーって言ってるだろ」

 

 暗殺一家に気軽に「ゲームしようぜ!」と言える人間はかなり限られる。特に「弟とゲームさせてやるからこの間の数百億チャラにしてくれよ!」と言える人間はリンくらいだろう。

 それに乗っかるイルミもイルミだが……と思いつつ、自分としてはずっと気になっていたゲームができるので、持つべきものは利用価値のある人間との繋がりだと思っているミルキ。

 

「にしても、今日もやたらとスケベな服着てるわねイルミ」

「ファッションって言うんだよ。知らないかもしれないけど」

「あんたのそれは大分尖ってんのよ! 知らないかもしれないけど!」

 

 胸元に謎の穴が開けられたチャイナ服のような不思議な衣服。お世辞にも一般には流通していなさそうだ。流れ弾で、コートの前を全開にして筋肉質な上半身を見せつけているクロロが少しダメージを受ける。

 イルミに対するリンの態度は、丁度クロロとクラピカへの対応の中間くらいのもの。歳は離れているが幼馴染という気安さ。一方でイルミ特有の性格とゾルディック家の人間という油断できない背景が起因している。クロロはそんなリンの姿を眺めながら、人とは不思議なものだと思案にふけるのだった。

 

 それはともかく。メンバーが揃ったところで、一旦【再来】(リターン)【同行】(アカンパニー)を使用して近場のアントキバへ移る。

 ハンターであるだけでも珍しいのにそこに加えて社長、殺人鬼、盗賊、暗殺者、更には医者の卵に同人作家、裏社会の若頭と謎に謎を重ねたメンバー10名は、近場の宿で会議を開いていた。

 

「で、誰がどの試合を担当する?」

「僕はリフティングかな。【伸縮自在の愛】(バンジーガム)があれば、まあ勝てるでしょ」

「私は卓球がやりたいです」

 

 最終的にドッジボールになるとしても、一旦は担当のスポーツを決めておくのが良いだろう。後程【離脱】(リーブ)を対価に引き入れる予定の数合わせ5人を、ドッジに投入するか普通にスポーツをさせるかは意見が割れる所だ。

 

 カヅスール達とソウフラビへ一度行ったゴン達がチェックしたスポーツは、ビーチバレー、ボクシング、卓球、リフティング、フリースロー、レスリング、相撲、ボウリング。

 もしかしたら変更もあるかもしれないが、加えてレイザーとの8対8によるドッジボールがあるのは間違いない。

 

「私はこの中ならボクシングかな。あ、あとさ、もし初っ端からドッジならその時は観戦するわ」

「一緒にやってくれないの?」

「言ったでしょ? 1回クリアしてるから、またやるのは少し気が引けるのよ」

 

「これはゴンのためのゲームよ?」と言うと、ゴンは少し残念そうな顔をしたがすぐに元気よく「うん!」と返した。

 

 一度クリアしているからまた試合をする気になれないというのは本心だ。ゴンのためのイベントなのだから変に出しゃばりたくないというのも。

 だが、本音を言うとドッジボールの狭い枠でひしめく男たちを見たいだけである。そのためにイルミやレオリオを呼んだのだから。ミルキはおまけだが。

 

「あら、それなら私もドッジボールの参加は遠慮しますわ」

「ビスケも?」

「じゃあ、リンとビスケを初めに回して、後はレイザーってボスキャラの出現を待つか」

「それが良さそうだな」

 

 ビスケがリンに乗っかる形でドッジボールを辞退し、ゴン、キルア、クラピカが中心となって種目と順番を決めていく。

 リンが居る以上、恐らくレイザーならいきなりドッジ戦に持ち込んでくれるのだろうが、そこは黙っておくことにする。リンとしても、あまりネタバレはしたくないのだ。

 それよりもゴン達とずっとゲームを進めてきていたのにいきなり離脱宣言したビスケの方が不思議で、こっそり小声で耳打ちをする。

 

「いいの? ドッジに参加しなくて」

「イイ男たちの絡み合いよ? あんただけに美味しい思いはさせないわさ」

 

 思ったよりもシンプルな理由だった。ついでに自分の企みも看破されていたのを悟り、頭が上がらないリン。そんな腐女子×2を置き去りにして、作戦会議は順調に進んでいく。

 

 暫くすれば話も纏まった。全員が一定の実力者でありその上念能力の使用も可となれば、ドッジボールまではそこまで難しい攻略でもない。担当種目のトレーニングと人数合わせのメンバー探しをしておき、決行日は1週間後。というところで、会議は終了した。

 

「じゃ、各自準備ということで。当日は動きやすい服着といた方が良いわよ」

「おーっす。俺モンスター狩りに行ってくるわ。一狩り行こうぜってな!」

「キル、今日は久しぶりに一緒に寝ない?」

「寝るか馬鹿!」

「残念。じゃあ俺もミルに付き合おうかな」

 

 各々が解散して自由行動を始める中、クラピカも席を立つ。あくまで平静を装ってはいるが、1週間ぶりに顔を合わせた宿敵の顔を見るその表情は憎悪に塗れている。

 

「……俺は先に休ませてもらう」

 

 だが、今ここで関わる気はなかったらしく、クラピカも部屋を後にする。姿が見えなくなると、クロロは独り言のように呟いて少し笑った。

 

「随分と嫌われているようだな」

「むしろなんで嫌われてないと思ったの?」

 

 頬杖をつきながら呆れ顔のリン。よっぽど仲が良いかよっぽど仲が悪くないと言えないタイプのツッコミを入れる。幸いにも、リンとクロロは前者だ。

 

「いや? 言ってみただけだ」

「性格悪っ」

「しかしよぉ、なんつーか……えらく自然に馴染んでやがるな」

 

 そんな二人のやり取りを初めて目にしたレオリオが驚くのも、無理はないだろう。ここで会話の中に入っていけるレオリオも、十分不思議な馴染み方をしている部類ではあるのだが。

 

「元々が珍メンバー過ぎるんだよ。ゴン、風呂入ろうぜ。ここの宿、大浴場があるんだってよ」

(一緒に入る……だと?)

「うん。じゃあ俺達行くね」

 

 水道代節約のために入れそうならば子どもは2人で入浴するべし、というビスケの爛れた教えを忠実に守るゴンとキルア。そして思わずがたり、と立ち上がりかけたリンと、それを憐れむような視線で見るクロロ。

 昔から時折見られた不思議な言動も、知ってしまえば非常にシンプルかつ欲求に忠実なものだ。今までよくバレずにやってこれたなとむしろ感心してしまうレベル。そして少年達に続いて、変態ピエロも立ち上がる。

 

「じゃあ僕も入浴してこようかな♥」

「クロロ、ヒソカを風呂に入れないようにして」

「俺じゃなければいけない理由はあるのか?」

「目的達成率が一番高いからよ」

 

 変態から弟を守る変態の図に巻き込まれたクロロ。しかし一時的とはいえ相棒が事案行為をしてしまうと自分にも被害が及ぶので、仕方なしに忠告する。

 

「今風呂に入ったら、もし除念してもお前とは戦わないからな」

「ちぇ、わかったよ♣」

 

 リンの予想通り、それは効果テキメンだったらしい。それならばとあっさり寝室に去ったヒソカを見送りつつ、クロロの言葉を聞き逃さなかったレオリオだ。

 

「やっぱり除念する気なのかよお前」

「あくまで俺は(・・)除念する気はない。ヒソカが勝手に動いているだけだ」

「っていう体にして、鎖の制約に引っ掛からないようにしながら除念師探してんのね。せこいわ~」

「ノーコメント」

 

 クロロが直接的に探せば、『蜘蛛としての活動を禁止する』という制約に反することになるかもしれない。そのため『本人はあくまで希望していない』という形で除念師を探すことにしたのだろう。

 詭弁のような気もするが、念は思い込みや体裁が大きく作用する。少なくとも今クロロが元気に生きているということは、屁理屈のようなその理論は鎖の掟に通用したということだ。

 

「どーせ、ヒソカとタイマンなんてする気ないくせに」

「それも、ノーコメントだ」

 

 リン達のやり取りを聞きつつ、残ったメンバーにビスケが紅茶を入れる。カップを差し出しながらリンに視線で話しかけておくのも忘れない。

 

(なぁ~るほど。なんとなく把握したけど、かなり厄介な関係なのね)

(クラピカはもちろんだけど、ヒソカともね)

 

 談話室に残ったのはリン、クロロ、レオリオ、ビスケの4人。なんとなしに部屋に戻ったり入浴したりとする気にもならず、レオリオとビスケは紅茶を啜りながら小気味良く続く会話に耳を傾ける。

 

「そのせこい真似も、そこそこ命懸けでしょ? いい加減観念して足洗いなさいよ」

「ふ、そういうわけにはいかない」

「ノリノリでレッドの声入れてたくせに。カタヅケンジャーのアニメ」

「せっかく用意して貰ったからな。ただの暇つぶしだよ」

「カタヅケンジャー? お前が前に翻訳してたやつだよな?」

 

 テンポ良くラリーが続いていたが、不思議な発言に思わず口を挟んだレオリオ。アニメ声優とA級盗賊だなんて、かなりかけ離れた存在だ。

 

「流星街用に作ってた翻訳台本なんだけど、ネイティブが声入れるのが一番良いからね。依頼してたのよ」

 

 そう言って簡単に説明しておく。そして明らかに揶揄うような表情で再びクロロに顔を向けた。

 

「仕事がないなら、うちの会社で声優として雇おうか? 社員全員特殊な性癖持ちだけど」

「却下。飢え死にするとしても断る」

 

 それなりに喧嘩腰にも聞こえる会話だが、二人は楽しんでいるらしい。互いに分かりあっているかのような独特の連帯感だ。

 レオリオとしても、リンがここまで親しく話している相手を殺そうとしていたのが信じられないくらいだ。それだけにリンが、クラピカと旅団のどちらを優先させるかで葛藤していたであろうことを、身をもって実感した。

 

「昔からのダチとは聞いてたが、やっぱ仲良いのな、お前ら」

「お二人とも、お話していてとても楽しそうですものね」

 

 ビスケの言葉に少し気恥ずかしい気持ちになりながら、どう答えるべきかと逡巡するリン。一方、クロロの言葉は肯定でもなければ照れ隠しでもなかった。驚いた様に目を見開いた後、自嘲的な笑みで目を伏せる。

 

「楽しい、か」

「そこは嘘でも楽しいって言っときなさいよ。『可愛い妹分とお喋りできて幸せです』でも良いわよ」

「幸福なんてとうに諦めたさ。それでもなお楽しみを感じている自分に、少し驚いただけだ」

 

 質問に対して、妙に重い一言だ。確かに盗賊である以上まともな幸福は望めないだろうが、既に諦めたようなセリフ。

 

 クロロにとって、それは自分の人生を全て捨てて悪党として生きると決めたあの日からの覚悟だ。そして文字通り、諦めでもある。

 もちろん、クロロの覚悟や思いは知っている。だが敢えて、リンはきょとんとして聞き返した。

 

「なんで?」

「求められる立場じゃないだろ」

「求めていいでしょ。生きてるんだから」

 

 あっさりと答えたリンに、今度はクロロが伏せていた眼を向ける。順守するかどうかは別として、クロロにも常識や良識といったものは備わっているのだ。

 

「……クラピカとつるんでおきながらその発言はどうなんだ?」

「贔屓で言ってるわけじゃないわよ? むしろクロロの方が、極悪人やってるくせになんでそこだけ真面目なのかって感じだけど」

 

 勘違いされないように、自分の考えをきちんと説明しておく。クラピカに味方していたのに急にクロロに寝返った蝙蝠野郎だと思われるのはごめんだからだ。

 

「人間なんて皆、生きていく中で誰かを恨んだり恨まれたりしてる。それでも、誰もが自分の幸せを望む。自分の幸せを自分で望むくらい勝手じゃない?」

「あんたも語るようになったわね」

 

 紅茶を飲みながらビスケがしみじみと言った。考え方の賛否はあれど、自分の能力や生き方について悩んでいた少女は、いつの間にか自分の信念と価値観を備えた一人前のハンターになっている。師匠としては嬉しいことこの上ない。

 

「思ったことを言っただけよ。逆に、クラピカにも幸せになってほしいと思ってる。そもそも復讐手段が自分の精神や寿命を削るモンだったりしなければ、旅団緊ば……捕縛にも協力するつもりだったし」

 

 慌てて言い直すが、ここではあまり意味を持たない訂正だ。レオリオの前で堂々とクラピカは緊縛趣味と言い張っていたし、クロロとビスケはリンの爛れた趣味を知っている。

 

「むしろ邪魔をしていたがな」

「私にだって幸せを求める権利があんのよ。んで、あの時の私の願望はクラピカも旅団も生きてること。クラピカが辛い思いをしないこと」

 

 幸せを追求する形は人それぞれ。そして、それは時に対立を生むこともある。ヨークシンでは、クラピカが自分を犠牲にするのが気に入らなかったから邪魔をしたということだ。そして、旅団にも生きていてほしかった。

 クラピカが己の幸福を追求するためにしがらみと向き合うのならば、それは自然なことだとリンは思っている。そして、己の幸せのために旅団を捕縛するのならば、それもまた自然なことだとも。

 つまり、クロロが幸福を求めるのは良いことだが、それを自らの幸福を求める別の人間によって遮られるのも仕方ないと思っている。自分やクラピカも含めて。

 

「求めてもいい、か。年下に諭されるとは思わなかったな」

「ま、人一倍恨まれてるだろうし、実際に幸せになれるかは知らないわよ。幸せ求める道中でぽっくりやられる可能性の方が高いわね」

「……」

「いや、ぽっくりならまだマシか。ズタズタのグログロにやられる可能性大。むしろよく今生きてるわね?」

「……お前、俺をフォローしたいのか貶したいのかどっちだよ」

 

 しんみりとしていた気持ちを返せとクロロは思った。この妹分は、こうして上げておいていきなり急降下させるから油断ならない。

 だが、下げた後にはごくたまにまた上げたりするのだ。リンはクロロの方に身体を向けて、ニッと笑った。

 

「つまり私が言いたいのは、『不幸に酔ってるのはダサいわよ』ってこと。人からどう思われるかはさておき、自分くらい自分の幸せを願っていいじゃない」

 

 それはリンの本心だ。クロロにも、クラピカにも、幸せを追求して人生を生きていってほしいと思っている。ただでさえ対立する運命なのに、互いに自分を削る道を選んでいるなんて辛すぎるからだ。

 

「幸せになるのは生きている人間だけの権利なんだからさ」

「……それもそうか」

 

 もう一人の当事者が陰で聞いていた事には誰も気づかず、夜は更けていくのだった。

 

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