スパイクで強力な一撃を放つレイザー。
狙われたのはレオリオだ。再び訪れた仲間の危機に、反射的にゴンが叫ぶ。
「レオリオ!」
(逃げるのもガラじゃねえし、俺にはここで使える念もねえ。やってやるよ!)
ここに来て、レオリオは初めてボールを真正面から受け止める選択を取った。攻防力を大きめに割り振った『凝』でオーラを中央に集め、捕球をする。
「くっ……!」
恵まれたオーラ総量と体格によって、僅かに床を擦ったもののボールに吹き飛ばされることはなかった。しかし、ヒソカですら
このままではアウトになると誰もが思った時、クラピカの投げた鎖が空中でボールに絡みついた。ボールはぴんと張った鎖によって軌道を修正され、クラピカの下へ飛んでくる。
「かなり重い球だ。バウンドしてなおこの威力か……!」
手元に戻って来たボールを受け止め、クラピカはその重さに驚く。ただのボールにもかかわらず、鉛のような重さだ。
「助かったぜクラピカ……」
クラピカのファインプレーにより、レオリオのアウトは免れた。
だが、その両腕は無事では済まなかった。レオリオの掌からは血が滲み、衝撃で震えている。下手すれば受け止めた際に肋骨や腕の骨も折れているだろう。口からも僅かに血を流している。
「治癒能力があるだろう。早く回復しておけ」
「そんな余裕はねーよ。俺達が勝ってからだ」
「……そうだな」
信頼関係を露わにする美男子達に腐女子が反応しないわけがない。外野ではこそこそと下世話なやり取りがされている。
「ちなみにあちらが当方の推しておりますレオクラでございますわ」
「あらあら、確かに熟年夫婦のような組み合わせですわね」
お嬢様言葉になったからといって、話している内容が品良くなるわけではない。しかし周囲に聴こえないように話しているので、TPOは一応弁えていると言えるのだろうか。いや、言えないだろう(反語)。
そんなやり取りの間に、ボールはクラピカからゴンへと移る。
「クラピカ、鎖でボールを支えておくことってできる? 俺がグーでボールを打ち出すまでの支えを作ってほしいんだ」
「問題ない」
球体を固定するのは至難の業だ。しかし、クラピカはそれを見事にやってのけた。
固定砲台のようにゴンの側でボールを構えるクラピカ。あまりの手際の良さに思わず邪推してしまうリン。
(器用ね。やっぱり緊縛の練習してたのでは?)
「断っておくが、このようなこと練習していないからな」
「私何も言ってないわよ!」
最近、リンの言いたい事が読めるようになってきたクラピカである。
「さい、しょは、グー!」
ゴンが『練』で力を溜める。そして『硬』によって全てのオーラが拳へと集約された。
光り輝くゴンの全生命エネルギーに、全員の視線が集中する。初めて目にする弟の『発』に、リンも目を奪われる。
(じゃんけん……ってちらっと言ってたけど、本当にじゃんけんね。隙がかなりデカいけど、3パターンの読めない攻撃は意外と強いかも……)
「じゃん、けん、グー!」
拳によって打ち出されたボールは、弾丸のようにレイザーへと向かって行く。受け止められるか、それとも回避されるかと思われたボールは、威力を殺しつつ上空へと受け流された。
「レシーブで上空へ……!」
見上げながら呟いたクラピカ。ここからキャッチするのか、それともアタックで更に強力になってこちらへ返ってくるのか。緊張しながら場を見据える中、場の空気を読まずにヒソカが
「レイザー選手、アウトです!」
「んーダメダメ♦ ボールはしっかり握らなきゃ♥」
「何か卑猥に聞こえるの、私だけ?」
「丁度同じ事思ってたわさ」
こんな所ばかり、息がぴったりな師弟。しかし、こればかりは他のメンツも同じような感想を抱いたので、ヒソカに原因があると言える。日頃の行いというやつだ。
「……バック!」
完全に予想外だったのだろう。冷や汗を流しながら宣言したレイザーは、そのまま内野に居ることを許される。バックを消費できただけでも、ラッキーだ。
ヒソカの盗ったボールは、ゴンに受け渡された。ゴンは、ボールを握りしめながら叫ぶ。それはレイザーではなく、外野のキルアに向けられたものだった。
「キルア! バックして!」
予想外の言葉に、キルアも思わず顔を上げた。ゴンは真っすぐにキルアを見つめている。
「え……?」
「俺、キルアと一緒に勝ちたいんだ! レイザーを負かそう!」
「駄目だ、ゴン……俺……」
「キル、あんな言葉に耳を貸さなくていい。命の危険を冒すメリットは何もない」
すかさず口を挟み、洗脳にかかるイルミ。弟を愛してはいるが、イルミの愛情はあくまで歪なもの。針の呪いが発動しているのならば、それを利用しない手はないと囁く。
一方で、もう一人のブラコン・リンは全面的にゴンの味方だ。キルアの針もなんとかしたいと思っていたため、ここぞとばかりに叫ぶ。
「キルア、頭の針抜きなさい! 額の中央にイルミの針が刺さってんのよ!」
「リン、余計なこと言うなって前に言ったよね?」
「私はイルミがキルアを操作してるのを言うなって言われただけだしー! 針が刺さってるのを言うなとは言われてないしぃー!」
「それも今言ったけどな」
バーで会った際に、イルミの話をリンと共に聞いていたクロロ。リンの言葉に苦笑しつつ、冷静にツッコミを入れた。レオリオがゴンからボールを受け取り、叫ぶ。
「キルアァ! お前の力で立ち上がれ! それまでに決戦の準備を整えといてやるから、よ!!」
レオリオの一撃に、難敵だったNo.13が倒れた。バウンドして、No.2にも当たる。ボールは、ころころと転がってレイザーの足元で止まった。再びレイザーチームのボールだ。
だが、内野は最早レイザー一人。バックも使えない状況で、外野に念獣を出しておくメリットはない。審判を除く全ての念獣のオーラを回収し、レイザーから立ち昇るオーラは倍増した。
「恐ろしいオーラね」
「普通に受け止めるのは、厳しいわね。レオリオは肋骨と両腕、ヒソカは指。クロロは指に加えて腕も傷んでそうだし。クラピカは折れてこそないけど、鎖を通して手がかなり痛んでるだろうし、具現化した鎖もそろそろ限界のはずよ」
「おまけに、ゴンもオーラ切れが近い、か。さあ、どうするのかしらね」
戦況は一見ゴン達が優勢に見えるが、その実は全くの真逆。そもそも数合わせに念獣を出していただけに過ぎず、むしろここからが真骨頂だ。
「そろそろ本気で行くぞ。ゴン、受け止められるか?」
リンとビスケの見立て通り、本気のレイザーのスパイクを無傷で受け止められる者は居ない。あのヒソカやクロロでさえ、だ。
この場は、レイザーに最も有利な形で整えられたフィールド。所謂相手十分な条件で勝つには、レイザーはあまりにも強すぎる。
「皆、俺に協力してほしいんだ。レオリオが取れないくらいのボールなら、俺は『硬』で受け止めても絶対に吹っ飛ばされる」
そう言って、ゴンが即席の作戦会議を開く。レイザーも、全力のゴン達を相手取りたいからこそ、不意を突いたりせずに待つ。
暫くして作戦が決定し、各々が持ち場についた。それはリンからしても、そしてゴン以外の当事者からしても予想だにしなかった策だ。
正面にゴン。最後方でヒソカがボールを逃がさないように
あまりにも腐女子に美味し過ぎる展開に、わなわなと震えるリン。作戦だから仕方ないが、否応なく宿敵と密着させられ、クラピカが舌打ちを打つ。
「野郎三人で密着か……」
「おい、俺に近づくな」
「近づくなと言われてもな。これが作戦だろう?」
(密着レオクラ&クロクラぁぁくぁwせdrftgyふじこlp!!!!)
鼻の奥から血が流れ出る気配を察知し、オーラを使って意地で止める。
ここで失血気絶してしまえば、これから始まる神展開を見逃してしまう。隣では、ビスケが膝から崩れ落ちていた。
ギラギラと血走った眼で見つめているリン達を、ここ一番の山場だからと解釈したレイザーとゴンチーム(クロロとヒソカ除く)。レイザーの投げたボールは空中へ浮かぶ。そして、直後スパイクによって今までとは比べ物にならない威力になり、ゴン達に襲い掛かった。
全員の力によって、ダメージを最小限に抑える。更に、ヒソカの
レイザーの全力投球を、ゴン達が受け止めたのだ。
ギュルギュルと回転していたボールを正面から受け止めて額や両手から血を流しながら、それでも希望を信じた眼でゴンが叫ぶ。それは震えながらもゴンの一挙手一投足から目を逸らせないでいた、キルアへと向けて。
「キルア!! 俺は今からレイザーに向けて全力で打つ! キルアにも一緒に居てほしい!」
成長と共に強くなる、ゴンの輝きと求心力。それに父親の面影を感じながらも、リンは姉としてゴンに止血用の真っ白なスカーフを投げた。
「ゴン、額の血。前が見えにくいでしょ」
「ありがと姉さん!」
リンに笑いかけると、迷わず額にきつく結びつけるゴン。その姿はレイザーだけでなく、リンにとってもかつてのジンと重なるものがあった。
(……いつの間にか、親父に似てきたわね)
思い出すのは、幼少期に接した父親の姿。普段は馬鹿で我が儘なのに、ここぞという時に見せたあの眼は、ゴンが今見せているものと同じ輝きを放っていた。
「キル、お前にあの声を聞く必要はない。あれは所詮、俺達とは別の世界に住む人間だ。俺達には関係ない」
「さい、しょは、グー……」
「キルア! 今のあんたなら針に勝てる!」
イルミの言葉を遮るように、リンも叫んだ。今のキルアは、もう殺し屋ではない。ハンターだ。住む世界なんてどうでもいい。自分で選んだ道こそが全てだ。
―眩しさも闇も関係ない、なりたい自分になればいいの―
何かと戦うかのように俯くキルア。『硬』をしたゴンの手が、鎖で支えられたボールへとぶつけられる。
「じゃん、けん、グー!!」
その時、キルアの手が自身の頭部へと伸びた。
(恐ろしい一撃……上空へのレシーブはボールを盗られてしまうが、レシーブの方向次第ではその威力を殺さずに攻撃に転じることができる!)
ゴンの一撃を、レシーブによって正面へと打ち返したレイザー。クッション制を採用していたのはこの戦法を使うためだったのだと、回避することもできない状況下で全員が気づいた。
再び合体をする時間はない。そして攻撃直後の今、再び先程のような『硬』をする余裕も無ければ、オーラを練る余裕もない。
「ゴン避けて!!」
即ち、受け止めたところでそこに待っているのは、死。そしてレイザー相手にゴンが素直にボールを避けるとは思えず、リンは悲鳴のように叫んだ。
「嫌だ!!」
そう叫び返して、再び額の前でボールを受け止める構えを見せるゴン。それは作戦でも何でもなく、ただの駄々だ。
「ゴン、退け!」
リンがあれだけ焦る状況、そして自分自身も、ゴンが無事で済むとは思えない。隣に居たクラピカはそう判断し、ゴンの腕をひいて半ば無理やり回避させた。
ボールはゴンの居た場所を通り過ぎ、外野へと飛んでいく。
「そう上手くいくと思うか?」
誰もがそう思った時、ボールが再び直角に曲がった。それは直近に居たクロロを襲う。
「……!」
「あの状況下でこんな変化をつけた!?」
完全に、予想外の角度からの攻撃。念を発動する間もなく、回避したもののそれはクロロの肩を大きく抉った。衣服はファーごと擦り切れ、血が滲み肉も軽く削げた肩が露になる。
それはクロロだけでなく、近くのレオリオも狙ったものだ。顔面に向けられたボールを受け止めることは今の自分には不可能と判断し、何とか半身を逸らして回避する。しかしサングラスが掠り、砕け散った。
「クロロ選手、レオリオ選手、アウトです!」
「だ……っから、動きやすい服で挑めって言ってたのに、あのファッショニスタ共……!」
動きにくいコートやサングラスを着用せずに挑んでいたら、また結果は変わったかもしれない。民族衣装を脱いだクラピカ以外は、全員が普段着のまま参加していたのが、ここで仇になった。これではもう合体戦法を使用するのは難しいだろう。
これで内野はゴン、クラピカ、ヒソカの3人だ。ボールはバウンドして、クラピカの手元に来る。
「クラピカ、何で避けさせたの!? それじゃあ完璧に勝ったことにならない!」
怒ったように言うゴンに、クラピカは冷静に返した。ゴンの方を見ずに言われた言葉だが、それは意図的に目を逸らしたわけではなく、別のところを見る必要があっただけだ。
「意地で死んでは、元も子もない。それに、バックは一度しか使えないんだ。お前は内野に居なければならない。……だろ?」
「バック」
クラピカの視線の先には、針を手にして額から血を流すキルアが居た。偶然にもゴンと同じ場所から血を流すキルアだが、その表情は晴れやかなものだ。
「キルア!」
「はぁ……解放されたって感じ。イル兄、よくもやってくれたな」
「親父や爺ちゃんと相談した上だ。お前を護るためだよ」
「まあ、さっきは針がなかったら死んでたからな。それでチャラにしといてやる」
キルアの
「ほら、キルアもこれ巻いときなさい」
「ああ。……リン、サンキュ」
そう言って、額にスカーフを巻きつけるキルア。「お揃いだね!」と笑いかけるゴンに、キルアもニッと笑う。無垢な少年の友情に、ビスケが心臓を押さえた。
「キルア」
ボールは、クラピカの手元にある。鎖で固定砲台の準備をする中、ゴンがキルアに耳打ちをした。それを聞いて、キルアもニヤリと笑う。
「確かに、それならいけるかもしんねーな」
「でしょ? 俺、キルアと一緒に勝ちたい」
「うっせ、恥ずいだろ」
「ビスケ、そろそろ帰ってきた方が良いわよ。たぶんこれが最後の一合だから」
「ハッ!!」
正気に戻るビスケ。一方で、弟達の愛しさと萌えに比較的耐性のあるリンは、腕組みをしながらも楽し気に笑った。まるで、レイザーに弟の実力を見せつけることができるのが、嬉しいと言うかのように。
「あの顔をする時のゴンは、何かしらでかいことをやるわよ」
「この攻撃に、全部の力を籠める。ありったけを」
『練』
ゴンが全力でオーラを噴き出させる。この一撃で全てのオーラを出し尽くせるくらいに、時間をかけてオーラで練り上げる。
「まだ足りない……こんなんじゃ駄目だ」
もっと力を……。
もっと!!
爆発的に増加する生命エネルギー。それは、近くに居たら吹き飛んでしまうのではと思わせるほどのもの。
その中心地でゴンはレイザーを見て、笑った。狂ったまでの勝利へのひたむきさとその実力に、レイザーも息をのむ。それはまさしく怪物そのものだ。かつて対峙したジンと、同じものだ。
「さい、しょは、グー」
「じゃん、けん、グー!!!」
全力を持って、ボールが打ち出される。同時に、クラピカの鎖が衝撃で砕け散った。
レイザーへ正面から向かって行くのは正真正銘、全身全霊の一撃、そこにキルアが最後の仕上げを加える。
ボールが、爆ぜる青い雷を纏った。それはスピードに相乗して更に威力を増し、正面から放たれた雷のようにレイザーへと吸い込まれていく。
「完璧に勝つ……か♦ やっぱりイイよ、ゴン♥」
電気の厄介なところは、触れた相手を硬直させるだけではなく、発生源から手を離れられなくするところだ。日常生活においても、感電した手が離れない人間を救助しようとして手を伸ばし、自分も感電して手が離れなくなる……、という二次被害がしばしば発生する。
それは、レイザーの腕に吸い付くようにぶつかり、そのまま離れなくなった。
「う、おおおぉぉおお!!!」
必死に踏ん張るものの、レイザーの身体は地面を擦り、内野のラインを超えた。靴はとっくに擦り切れ、足の裏から血を滲ませた軌跡が床にしっかりと刻まれている。
「ライン外での捕球によりレイザー選手アウト!ゴンチームの勝利です!!」
バグのように難易度の高い、SSランクカード入手イベント。ゴンのために用意されたそれは、見事達成されたのだった。
◇◇◇
「お前ら並べ。回復してやるから」
「レオリオも良い能力を作ったもんだね♥」
「……お前に言われると微妙な気持ちだわ。ほらさっさとやるぞ」
試合が終われば、心置きなく回復をすることができる。差別なくこの場で負傷した全員を治療しようとしているレオリオとヒソカが会話する中、一方ではキルアがクラピカの念を心配している。
「クラピカ、砕けた鎖は大丈夫か?」
「問題ない。1日インターバルが必要だが、また具現化できる」
誰しもが、ヒソカやクロロ、イルミでさえも一つの戦いを共にした連帯感を感じる中、レイザーはゴンに歩み寄った。約束を果たすために。
「ゴン、こっちへ。ジンの話をしてやろう」
体育館の端で、レイザーはゴンからの質問に答える。即ち『ジンはこの島に居るのか』という問いへの答えだが、その答えは『No』だ。それどころかどこに居るかもわからない。そう言ったレイザーに、ゴンは少し残念そうに微笑んだ。
「……そか。なんとなくわかってたけど」
「だが、昔の話ならできる。少し聞くか?」
「うん。ジンもそうだし……姉さんの話、聞きたいな。姉さん、俺が生まれる前の話はあまりしてくれないから」
そう言いながらゴンが見つめるのは、姉の姿。呪いを解いたキルアに抱き着いては、ウザがられているリン。
ゴンにありったけの愛情を注ぐ割には、自分のことを話してくれない。G・Iなど、ネタバレになる状況に起因していたのだろうが、ゴンはその事を寂しく思ってもいた。
「あいつは父親と接する機会が少なく、子どもの頃から念獣や俺達が面倒を見ていた」
「念獣?」
「リンが連れているパンダの原型だよ。あれらはここのテストプレイカードを基に、リンが能力化したものだ」
流石に、もう単なるペットとは思っていなかったが、そこまでは考えが及ばなかった。そして、それすらも知らなかったのだと、ゴンは少し気落ちする。
「知らなかった」
「その上、父親の方針で、物心ついた時から過酷な修行の日々だ。俺との修行でも何度も死にかけている」
レイザーにとっても、リンはいつしか変わってしまった存在だ。子どもの頃は、あれだけなんでも話してきたのに、今では全く知らない表情を見せる。
それが、子どもが大人になるということなのだろう。少し寂しさを覚えてしまうのは、レイザーがリンを娘として可愛がってきたからだ。たとえ、初めは望んでいたわけではなくても。
「悲惨な思い出だ。思い出したくないんだろう」
「それは違うよ! 姉さんがレイザーに向ける顔、ミトさん……俺達の育て親に向けるものと同じだもん。ううん、それ以上だよ」
食い気味に否定したゴンに、レイザーは驚いたようにゴンを見た。絶対に反論を受け付けない、と言わんばかりの頑固っぷりに姉や父の面影を感じ、少しばかり笑いが込み上げる。
「さっきも言ったが、俺は死刑囚だ……」
一方、ゴンとレイザーが話している間に、レオリオの治療は終了していた。雑談をして時間を潰していたリン達をよそに考え込んでいたイルミが、スッキリしたと言わんばかりにポンと手を打つ。
「あ、思い出した。レイザーって奴、クート盗賊団の長じゃん。15年くらい前に捕まったっていう」
「クート盗賊団!? 20年以上前に有名だった極悪盗賊だっけか。今でいう幻影旅団みたいな存在d……」
隣に幻影旅団の長が居るのを思い出したレオリオが慌てて口元を押さえる。リンの仲間がノンデリなのは今更なので、クロロはそれを咎めない。大人の余裕というやつだ。おっさんではなく、成熟した大人の余裕だ。
「そういえば、そんな記事を見かけたこともあったわね。捕まえたのが親父だって書いてたから、速攻燃やしたけど」
リンがレイザーの過去を知ったのは、クルタ族の過去同様にハンター協会の資料室。ジンの名前を見て、反射的に『焔』で燃やしたリンがビーンズから大目玉を喰らったのは、言うまでもない。
その時既に記憶を失い始めていたリンは、当然レイザーの過去に驚いた。しかし、身内が犯罪者だったことは全く気にしていない。レイザーの人間性を知っているからだ。
「全然見た目も違うから、今まで思い出せなかったよ。捕縛時の写真は金髪のモヒカンで、襟足も伸ばしてたし」
「リンの関係者、がら悪い奴多すぎだろ」
「関係者筆頭の暗殺一家が言うと説得力倍増するわね、ゾル3兄弟」
ミルキの指摘に正論で言い返すリン。ゾルディック3兄弟は、全員が『俺だけは違う』と言わんばかりの顔でリンを睨んだ。
「……死刑囚なのは否定しないけど、私にとってはミトさんの次に長い時間を一緒に過ごした親代わりなのよ。念を使った訓練は大体レイザーに見てもらってたわ」
そう言いながらも、リンは誇らしげにレイザーに眼を向けた。レイザーの昔話は、丁度終盤に向かう頃だ。
「お前の親父は頭がイカれてると思った。ガキみたいに何時間も自分が作るゲームの話をしたかと思ったら、死刑囚をそのゲームの仲間に呼ぶ。その上自分の娘の修行をつけさせて、挙句には息子の腕試しの相手をしろってんだからな」
「ジンが……」
「だが、何だろうな。ジンとゲーム作りをして、リンの修行を面倒見て……。そんな生活をしてるうちに、そんなのどうでもよくなっちまってた」
「……姉さん、もっとレイザーと喋りたいんじゃないかな。レイザーのこと大好きだから」
「……そうか」
ゴンと同じように、レイザーもリンの方へ眼を向ける。リンは嬉しそうに、大きく手を振って答えた。