その後、疲労困憊のリンを担ぎながらも、ビスケ達と合流したゴン&キルア。しかし、苦労した甲斐あって、短時間で複数の指定ポケットカードを収集することに成功した。
一方のビスケチームも、
「お、リン大丈夫だったか?」
「なんとかね……。オーラ切れなんて久々よ。当分はあの能力使わない」
一夜明け、なんとかオーラも回復したリン。やるべきことは引き続きカード集めだ。
できれば、他のプレイヤーと接触する前に、可能な限りの収集可能カードは集めてしまいたいところ。あっさりと昨日の目標をクリアしてしまった面々は、再び次なる目標を立てるために作戦会議を執り行う。
「むしろ使った方が良いわさ。練度の低さ故にペース配分見誤ったんでしょ?」
「……押忍」
場所は談話室。リン以外は既に朝食をとったらしい。渋々ビスケに返事をすると、リンもその輪に入った。
とはいえ、まだ会議は始まったばかりだったようだ。残っていたサンドイッチをもさつきながら、やり取りを聞く。
(お、卵サンド)
少し上機嫌になりながら。そんなリンをよそに、キルアがゴンのバインダーを確認しつつ、満更でもない表情を見せる。
「ビスケ達が余った金で
「ま、そうじゃなくても
潤沢な資金で買えるだけの
ゴンのバインダーは、最早鉄壁同然。そうでなくとも、面と向かってならば呪文を唱える前にカードを奪取するなど、簡単なことだ。サンドイッチを食べ終わったリンも、ゴンのバインダーを覗き込んだ。
「結構集まったわね。次はどこ狙う予定してんの?」
「ん~。ちょっと気になるのが、ヒソカの言ってたAランクカードなんだよね。ほら、アイアイの」
「あ、あれね」
「たぶん俺達まだ取ってないもんな」
「うん。ていうか、結局あの町には殆ど滞在してなかったし」
ゴンの言葉にビスケとキルアも同調する。ヒソカによれば、お姫様と付き合うことでAランクのカードが手に入るとのことだ。どこで聞いたのかも定かではない情報だが、やってみる価値はあるだろう。
間違いなく、挑戦してみるべき内容だ。しかし、ぶらぶらと足を揺らしながらそう言ったゴンに、リンの表情は自然と渋いものになる。
「……確かに、あの町で収集できるカードは多かった気がするわ」
「嫌そうだな」
「だって私にはフラグ立たないしぃ。つまんないのよ」
クラピカの言葉に、悪びれもなくそう答えたリン。そんな個人の私情は、当然無視される。次の目標はアイアイで確定だ。
宿を出てアイアイへと移動する。相変わらず真っ先に待ち受けていたのは、どこか特殊な目的の商業ホテルを思わせる城に、馬鹿でかいハート型の風船である。
初めてこの光景を目にしたレオリオは、なんとなく気まずそうな表情を浮かべた。下手に下ネタ混じりで言及すると、弟セコムのリンにどつかれそうなので、本題の方へ意識を向ける。
「確か、お姫様と付き合うのが条件だっけか?」
「ギャルゲーかあ。面倒そうだな」
「そういえば、ヒソカが言ってた『孤独を恐れる町』って何だったんだろ?」
「ん~、該当イベントはパッと思い出せないわ……」
レオリオとキルア、ゴンとリンの会話を聞き流しながら、クラピカが情報収集のため近くの掲示板に目を向けた。中央には大きく『ダンスパーティー開催』との張り紙がされており、明日開催されるようだ。
「城絡みのイベントならば、これを利用するのが最も得策だろう」
「ていうか、どうやってオトすのかしらね」
「Aランのイベントっていっても、経路はいくつかあるはずよ。でもダンスパーティーが一番オーソドックスなんじゃないかしら」
そう言いながら思い返すのは、かつてノワールにこの町でカードの荒稼ぎをさせた時の事。確か、お姫様イベントにも無理やり投入していた。ノワールはモテすぎるあまり街中で姫を口説くハメになっていたが、本来ならダンスパーティーが最も攻略しやすいスポットだろう。
(あの時はノワールが……いや、メンチもか。私だけぼっちでやることなかったから、よく憶えてる)
「んじゃ~誰がお姫様をオトすかねっと」
「やっぱゴンかクラピカじゃねーの?」
「いや、俺が大人の魅力ってやつでバチッと……」
イベント詳細を思い返すリンをよそに、レオリオとキルアが人員配置の相談をする。といっても選択肢はほぼあってないようなもので、最近猫かぶりをする気も失せてきたらしいビスケの鶴の一声が高らかに響く。
「じゃ、ゴンで確定ね」
「クラピカは女オトすの無理だろーしな」
「おい無視すんな」
「……俺とて、不可能ではないが」
レオリオを無視しているのはともかく、あっさり選択肢から排除されたクラピカが少し不服そうに口を挟む。イベントに参加したいというわけではなく、単に戦力外通告されたのが癪だったようだ。
しかし、そこはドライなキルア。ちゃっかり自分がお姫様のご機嫌取りなどという嫌な役回りをしないでいいように立ちまわっているのはもちろん、クラピカにもあっさりと正論を突き付ける。
「じゃ、ストレス溜めずにできんのかよ?」
「……ゴン、頼む」
何も言い返せず、しぶしぶ白旗を上げるクラピカである。そのやり取りを聞き流しながらも、思い出したようにリンが口を挟んだ。
「あと、お姫様もだけど、王子様も考えないとね」
「王子?」
「おい、だから俺を無視すんなって!」
レオリオを華麗に無視して、段取りが進んでいく。姫攻略はゴンが行うとして、リンの言葉に全員の視線がそちらへ向けられた。流石のレオリオも文句は言いつつリンに顔を向けている。
数年前にリンがメンチ、ノワールとアイアイの攻略をした際には、城関連のイベントはノワールとメンチがこなしていた。それはメンチにもれっきとしたミッションがあったからに他ならない。つまり、姫だけではなく王子という攻略対象が。
「この町、ちょっとクセモノでね。男女両方の攻略対象が居るのよ。姫があるなら、王子もあるわよ」
「問題ねーじゃねえか」
「問題大アリよ」
単独プレーヤーや同性のみのプレイヤーでは、そもそも取得条件を満たせないイベント。これを達成するためのアイテムももちろんあるのだが、それはリン達異性混合チームには関係ない。
……と、ゴン達は思っている。ところがそう事態は甘くないのだ。
「ビスケは、乙女ゲーの選択肢全部外すレベルの恋愛音痴。私は、どういうわけかフラグすら立たない。これでは王子様攻略ができないのよね」
「ゲームですら非モテとか乙」
息を吐くように煽ったキルアが盛大な拳骨をふたつ喰らったのは、言うまでもない。
「んじゃ、どうすんだよ?
「そこで、これが役に立ちます」
G・Iでは、指定ポケットカードを収集するにあたって他の指定ポケットカードを使用しなければならないこともままある。今回もそのケースの一つだ。
該当のカードそのものはまだ所持していないが、前回のクリア特典をリンは持っている。ドヤ顔をしつつ、メイメイのポケットからホルモンクッキーを取り出した。
「なにこれ?」
「ホルモンクッキーっていうSランのアイテムよ。男女性転換できるの。前回、クリア報酬で現実世界に持ち出してたんだけど」
「男女逆転のためのアイテムって……あー!」
不思議そうにリンの取り出したクッキーの小箱を眺めていたゴンとキルアが、同時に気づいて大声をあげる。そして互いの顔を見合わせながら指を差した。
「「ニア!」」
「せーいかい。おかげで、潜入試験官もバレなかったわ」
「持ち出すカードの選出、クセ強すぎだろ」
レオリオが溢した感想は、正論だろう。なぜ、よりによってと言いたげだ。しかし、リンは気にしない。そのおかげで、試験官をしていても最後までバレなかったのだから。そして、(決して口にはしないが)クラピカやレオリオの逸物を観察できたのだから。
しかしこうなれば、後は話が早い。ゴン達の内、誰かが女性になって王子を口説けばいいだけだ。ビスケがにんまりと口元に手を添える。
「へえ……面白そうね」
「でしょ? どんなドレスで参加させようかしら」
「腕が鳴るわさ!」
主旨変わっているといえばそれまでだが、楽しめるものは全力で楽しむ気満々のリンとビスケ。キルアはぞわりと背筋に寒気が走るのを感じた。
「で、誰が女の子になるの? ゴン子、キル子、クラピ子、レオリ子。どれも良いわね」
「俺! 俺やりたい!」
「やめとけゴン! リンとビスケのあの顔を見ろ、着せ替え人形のおもちゃになるぞ! 男としての尊厳を失った上に陵辱までされるんだぞ!」
好奇心旺盛なゴンが真っ先に手を挙げるが、キルアが慌ててそれを制す。その表情は、真剣そのものだ。
キルアの言う通り、リンとビスケの眼は、完全に玩具扱いする気満々だと言っている。どんなひらひらのドレスを着せられるのか、わかったものではない。意外とその辺のことには頓着しないレオリオが、うーむと難しい顔をして悩む。
「自前の乳ができるのは興味深いが……男をオトすのはなぁ……」
「お前が男の下心を一番理解していそうだがな」
キルアだけではなく、クラピカも断固拒否派だ。ただでさえ女性に見られがちなのがコンプレックスなのに、リンの前でリアル女体化だなんて、どんな羞恥プレイだというのだろうか。
「そんなこと言うか? このむっつり君がよぉ〜」
「なっ……! だから俺はむっつりではない!」
「リンも前に言ってただろ。俺のエロ本チラ見してんの、俺も知ってたぜ」
「口を閉じろ!!」
ずかずかとクラピカの地雷を踏みつけるレオリオに、ムキになるクラピカ。やいのやいのと言い合いするばかりで、まったく話が進む気配はない。そして痺れを切らし、クッキーを軽く振ってみせるリン。
「……で、誰がやんのよ。うだうだ言ってるなら全員投入するけど」
「一旦、テストしてみれば良いんじゃないかしら?」
「あ、それ名案~」
どうやら、方針は決まったらしい。ニヤリと二人の悪魔がゴン達を見つめる。
抵抗なく食べてくれる人間から狙っていくのは定石だろう。手始めにクッキーはゴンとレオリオに手渡された。クラピカが悲鳴のように叫ぶ。
「やめろゴン! 後悔することになるぞ!」
「別にいーじゃん。普段できないんだし」
「ゴン!」
「俺は無視かい!」
二人の制止もさして気にせず、あっさりとクッキーを口に放り込むゴン。そして一切心配されていないレオリオである。ぶすくれながらもやはり興味はあるらしく、ひょいとクッキーをつまんでゴンに続く。
瞬く間にゴンとレオリオに変化が起こる。身長が女性相応に縮み、胸に膨らみが出る。髪は伸び、ごつごつとした手も比較的柔らかいものへと変わる。
絶望の表情で見守るキルア達をよそに、変身は完了したようだ。ゴン……いや、ゴン子はきょとんとした表情で興味深げに自身の姿を確認している。
「昔のリン、純粋バージョンって感じね」
「私なんて比較にならないわよ。月とスッポン、もち私がスッポン。やっぱ、ゴンは女の子になっても可愛いわ~」
かつてのリンの姿を懐かしむビスケに、頬を緩ませてデレデレとにやけるリン。リンの目は完全にフィルターがかかっているが、ビスケの言う通りゴンの姿はかつてのリンそっくりだ。
肩に届くか届かないかのミディアムヘアに、成長期が来ていない控えめな胸元。ハンター試験を受けた頃のリンに、よく似ている姿だった。
唯一違うのは、ビスケが指摘したように純粋な瞳を湛えていること。そして髪質が固すぎるが故に、女体化しても一筋の前髪を残してオールバックになっていることだろうか。
妹になった弟の姿(不思議な文章だ)を堪能したところで、一拍遅れて変化し終わったレオリオに視線を向ける。こちらはこちらで、成人なのも相まって派手に変化していた。ビスケがほう、と品定めする眼で見る。
「こっちはある意味一番予想外かも」
柔らかなカールがかかったロングヘアに、恐ろしいまでのボンキュッボンのダイナマイトバディ。長い睫毛にサングラスが、またいい味を出している。グラマラスなお姉さんといった風貌だ。
「化けたわねレオリ子」
「ゴン、写メ撮ってくれ! このナイスバディ、俺の好みドンピシャだわ!」
「女体化の自分をオカズにして、あんたそれで幸せなの?」
誰よりも喜んでいるのが、レオリオ。思わず冷静になったリンがツッコミを入れたのは、仕方ないと言えるだろう。
「くそっ、これだから単純アホコンビは……!」
「キルア、連携するぞ。明らかにこちらが不利だ」
「ああ。言いなりになってたまるかよ」
ポージングするレオリオをゴンが携帯で写真を撮る傍ら、リンとビスケは残り二人のターゲットに眼を向けた。目の前で友人が女体化する様を見せつけられ、次は自分たちの番だと悟ったキルアとクラピカ。クッキー片手ににじり寄ってくる女性陣に、思わず一歩後ずさる。
「ふぅん、抵抗するのね」
「イイ度胸だわさ」
あっさり受け入れてくれた方が楽ではあるが、こういうのは嫌がる子を『良いではないか~』するのが楽しいのだ。生物学的には元から女性であるはずの二人の眼は、変態殿様とそう変わらない。街中であるにもかかわらず、キルアとクラピカは戦闘態勢を余儀なくされる。
相手はそれぞれの師匠。しかし勝てないではない、勝たないといけない。でなければ辱めを受けるのは、自分達だ。ここにきてキルアとクラピカは、未だかつてないほどに仲間意識が生まれていた。それこそ、ヨークシン事件の比ではないほどに。
不穏な気配を感じたのか、クラピカの連れているパンダはいつの間にかゴンの下へ避難している。パンダですら勝ち目薄だと察しているが、青少年達は諦めない。
「大人しく玩具になりなさい!」
「なってたまるかっつの!!」
「玩具って言った……」
「個人の趣味大半だな、ありゃ」
姉の下心全開な発言に苦笑いするゴンと、呆れ笑いのレオリオ。どうせ遅かれ早かれ捕まるのだから、さっさと降参すればいいのに……と思っている彼らは、単純に見えて意外と分を弁えていると言えるだろう。
……とまあ、長々とした茶番ではあったが、キルアとクラピカが負けないわけがないのだ。なんせ、相手は世界トップクラスの念能力者(かつ世界トップクラスの煩悩持ち)なのだから。
大人げないリンとビスケが本気を出したことにより、勝負は瞬殺だったとだけ言っておこう。回り込まれ、羽交い絞めにされてクッキーを口にぶち込まれ、30秒後には女体化するキル子とクラピ子の姿があった。
余談だが、無理やり口を開けさせるという、雑誌によっては十分エロ展開になりそうなことをしたリン。にもかかわらず、全然異性としての意識をされなかったクラピカである。
「……お前ら、後で憶えとけよ」
「あ~、睨みつけてくるのまで可愛いのは反則ね。この写メ絶対イルミに自慢してやろっと」
憎々し気に師匠達を見上げるキルアの姿は、マチのカラーリング違いという表現がしっくりくるだろうか。元々雰囲気が似ていると思っていたリンだったが、その印象は間違っていなかったようだ。あまりの可愛さに、バシバシと写真を撮りながら思わず顔がにやけてしまう。
一方のクラピカ。キルアと同じタイミングでクッキーを食べ(させられ)たはずなのに、見た目に一切の変化がない。唯一、身長はリンと同じくらいまで縮んでいるが、ビスケが不思議そうに首を傾げた。リンもスマホを仕舞って、クラピカに眼を向ける。
「……え、何か変わった?」
「顔立ちからつるペタ具合まで変化なし」
まじまじと見つめるが、まったく変化が分からない。まつ毛の長さも顔立ちも、何一つ変わらないままだ。ぐるぐると回りながら舐めまわす様に観察され、殴りたいのを必死で堪えるクラピカである。
「でも、微妙におっぱい膨らんでるかも」
女性同士ならノーカンだと、クラピカの胸に手を置いて軽く揉んでみる。見た目ではわからないが、微妙に女性特有の柔らかさがある、気がする。
「さっ……触るな!」
顔を真っ赤にしたクラピカに振り払われ、痴漢冤罪を受けたおじさんのように両手を軽く上にあげるリン。冤罪でなく、現行犯そのものだが。クラピカ……クラピ子は、両手で胸を抱き締めながら羞恥でぷるぷると震えていた。
(リアル男の娘の恥じらい……たまんないわね。親父も良い仕事するじゃん)
「姉さん、顔……」
「スケベオヤジかよ」
女体化はあくまで、BL展開のきっかけとしか捉えていなかったが、クラピ子の反応に新しい扉を開きそうになるリンである。ひた隠しにしているにもかかわらず、弟にまで表情を指摘されているのが良い証拠だ。
ともかく、全員女体化を済ませたので、次は服選びだ。ドレスを販売している店へ移動する一行。キルアとクラピカも女体化してしまった以上、渋々ついて行く。
ダンスパーティーイベントを考慮して建てられた店なのだろう。都市の規模に見合わないほどの大きさを持つ店内を、リンとビスケは大はしゃぎで見て回る。形だけでなくカラーバリエーションも豊富なドレスを手にとっては、ああでもない、こうでもないと相談している。当人たちは、完全に置いてけぼりだ。
「クラピカ、お疲れさん」
「……何も言うまい」
こうなれば、四人にできるのは会話しかない。自分の下へ戻って来たパンダを抱えながら、クラピカは疲れたようにため息をついた。
好きな女の子に、女体化させられた挙句胸を揉まれてドレスを選ばれるなんて、あんまりな仕打ちだろう。唯一外見が殆ど変化していないクラピカは、横で揺れる巨乳に更になんとも言えない気持ちになった。
「クラピカ、姉さんのことが好きなの?」
「馬ッ鹿! わかっててもンなはっきり言うなっての!」
一方純粋無垢な瞳で爆弾を落としたゴン。キルアが止めるが、火に油。そして見た目だけはガールズトークになっているが、全員中身が男のため、驚くほどきゃぴきゃぴした雰囲気がない。当人が頑なに認めないのも、原因の一端である。
「……意識していると、仲間に指摘されただけだ。俺は認めていない」
「上手くいくと嬉しいな。俺、姉さんもクラピカも大好きだから」
「ま、道のりは険しそうだな」
はっきりと認めてしまうと何かに負けた気がするので、頑なに認めないクラピカである。満面の笑みで大量の試着候補を持ってくるリンに眼を向けながら、レオリオが苦笑いする。どっちもどっちだが案外お似合いかもしれないと、少しばかり思いながら。
そしてリンとビスケにより、散々着せ替え人形にされた四人。3時間もすればようやく満足したようで、先天的女性二人は満足げな顔をして写真フォルダを確認していた。
クラピカは青いチャイナドレス、レオリオはボディラインを強調した赤いドレス。そしてゴンとキルアには、それぞれ淡いオレンジとピンクの少女らしさを押し出したドレス。これが、彼女達のセレクトした最高の一品らしい。
本人の意図は無視して、4着とも無事にお買い上げされることになった。この先使い道があるのかは、微妙なところだ。
「ん~、結局誰を王子様狙いにするかだけど」
満足したところでようやく本題に入る。ようやく地獄から解放されると元男性陣は口にしないまでも目配せした。流石に数時間着せ替え人形は疲れるというものだ。
ゴン達がホッとした表情でドレスから元々の服に着替えたところで、誰が適任かを話し合う二人。
「このラインナップなら、レオリオじゃないかしら? 男心も把握してそうだし」
「確かにね。んじゃ、お姫様はゴンが担当かな」
キルアのツンデレ属性は王子といささか相性が悪そうだし、クラピカはそもそも恋愛に不向きだろう。リンとビスケの独断と偏見(しかし割と的を射ている)によって、王子&姫の攻略メンバーが決められる。
無意味に女体化させられただけのキルアとクラピカは、不服そうな表情を隠せない。そもそもこんなあっさり決まるなら、ドレスを見繕われる時間は何だったというのだ。というか、性格で決まるのなら、女体化する意味はなかったのではないか、と。
「初めからレオリオでよかっただろ」
「まあまあ、貴重な体験できたじゃない」
「これはいつ戻るんだ?」
「24時間後」
リンによってあっさりと告げられた真実に、不服陣はギョッとして詰め寄る。せいぜい数時間だと思っていたのだ。
「はぁ!?」
「もう一度ホルモンクッキーを食べれば元に戻る、ということはないのか?」
「ないわね。ハンター試験の時、私ずっと男の姿だったでしょ? あれ、初めにドカ食いしてたから」
哀れ、キルアとクラピカ。がっくりと項垂れる一方で、ゴンとレオリオはあっさりとしたものだ。
「せっかくだし、他にも女性が必要なイベントがあれば、それをこなしておくのもいいね」
「掲示板には、何かないか?」
どうせなら、女性限定イベントはここでクリアしてしまった方が良いだろう。キルアとクラピカの精神衛生のためにも。
店を出て広場に向かうと、ダンスパーティーの掲示がされていた以外にも、女性限定、もしくはカップル限定の募集広告は沢山あった。流石恋愛都市だ。
「ちょっと君達! 良ければ、アイドルフェスに参加しないかい?」
「へ、俺ですか? ……キルア、これイベントかな?」
それぞれが掲示物をチェックしている中、ゴンがいかにも業界人といった男性に声をかけられた。隣で、女性限定スイーツバイキングの文字に眼を奪われていたキルアも、ゴンに呼ばれて渋々そちらに顔を向ける。どうやら、イベントが発生したらしい。
「予定していたアイドルがドタキャンしちゃって、人を探してたんだ!」
そう言って手渡されたのは、一枚のビラだった。リンも、女体化して少し身長が縮んだ弟の後ろから内容に目を通す。
そこに描かれていたのは、可愛らしい少年少女が軽やかにダンスしている姿とフェスの紹介文だった。優勝賞品は【秘密のマント】と書かれている。恐らく、指定ポケットカードだ。
「ま、せっかくだしやっとくか」
「私! 私もやりたいわさ!」
「あ……ビスケは駄目だ、年齢制限がある。24歳までだって」
実年齢57歳。還暦手前のビスケは、頭に岩が落ちてきたかのような衝撃を受ける。
ゴンが「【魔女の若返り薬】飲んだら?」とアドバイスしてみるも、ビスケはぶんぶんと激しく首を振った。てっきり喜んで飲むと思っていたのに(というか、むしろ今まで飲んでいなかった方に驚きだ)と、リン達は眼を丸くする。
「嫌よ! もし肉体が若返ったせいで鍛えた身体まで戻っちゃったら、43年分の努力が無駄になるわさ!」
「43年……。14歳になる気だぜ」
「嫌がってる割には、図々しいわね」
ひそひそと、失礼なことを言い合うキルアとリン。当の本人は、ショックで聴こえていないらしい。
ともかく、指定ポケットカードのイベントであるのならば、やらない手はない。しかし、準備もなしに急に優勝なんてできるものなのかと面々は不安げだ。
「でも、アイドルだろ? いきなりフェスなんか出てどうにかなるもんなのか?」
「これはカードコンボの攻略ね。【マッド博士のフェロモン剤】を使えば楽勝よ」
ドヤ顔で言いつつも、リンは別段出場する気はない。ゴン子達の雄姿をしっかりと動画に撮影すると決意しつつ、今から興奮が止まらない。スマホの充電をしっかりと確認しておく。
結論から言うと、フェスはゴンチームの圧勝だった。
練習時間僅か数時間でありながら、それなりにダンスパフォーマンスをきっちりと仕上げた四人の運動神経と記憶能力もさることながら、やはり【マッド博士のフェロモン剤】が強い。
優勝賞品として手に入れた【秘密のマント】は、Aランクのカードだった。Bランクのカード使用で楽に入手できることを考えると、それほど入手困難なカードではなかったのだろう。しかしこれでまた、新たなカードを入手できた。
衣装を脱いで私服に着替え、宿に戻る。道中で異性のストーカーが大量発生したのは、使用したアイテムの面倒な副作用だ。カード説明欄にも『ストーカー大量発生に注意』と書かれているだけあって、その効果はすさまじいものがある。
物陰からじっと見ているだけならまだマシ。プレイヤーNPC問わずに、時折襲ってくるのが始末に負えない。なぜか集中砲火を喰らうクラピカが本日48人目の男を撃退しながら、小さくため息をついた。
「流石に、ストーカーの数にはうんざりさせられるな」
(これもしかして、男の状態でカードを使わせてたら私らがゴン達を(性的な意味で)襲っちゃってた? 怖、なんてカード作ってんのよクソ親父……)
辟易するクラピカを眺めながら、地味にひやりとするリン。男女混合チームにおいて、このアイテムを使用することは、よくある同人誌的な展開を引き起こしかねない。そして、自分が襲われる側である想定は一切しないのが、リンクオリティーというものだ。
「シャワーすれば、フェロモン剤の効果も無くなるだろ。ちゃっちゃと風呂入ろーぜ」
「せっかく今女なんだし、一緒にお風呂も入っちゃう? パジャマパーティーもするわさ!」
「え、良いかも!」
それはそれとして、煩悩は抑えられないリン。数年前から恥ずかしがって一緒にお風呂に入ってくれなくなったゴンとの入浴が叶うのならば、なんでもするというものである。
「ビスケ、姉さん。俺達男なんだし、流石にお風呂は……」
「馬鹿ゴン黙ってろ!」
ベクトルは違えど、リンと同程度の煩悩を持つレオリオが、慌ててゴンを止めようとする。キルアとクラピカの冷ややかな視線を浴びながらも、そのスタンスは一切崩さない。
だが、他者からエロリオ全開にされると、逆に少し冷静になるリンとビスケ。見る趣味はあっても、見られる趣味はないのだ。
「……ま、それもそうだわね」
「レオリオは流石に問題か。他の三人は、別にいいんだけどね」
「なんで俺だけ!?」
明らかに、剥き出しにされた煩悩の有無だろう。リンは、当然といった様子でサクッと引導を渡す。主に(無意識ながら)二人に。
「ゴンとキルアは弟だし、クラピカは性別クラピカっていうか」
「性別クラピカって……」
「止めとけゴン。地雷だ」
「……」
「あ、私ちょっとトイレ行ってくる」
「あいよ~」
ショックを受けているレオリオとクラピカをよそに、丁度宿に到着したためあっさりトイレに向かうリン。ゴン達の慰めも空しく、クラピカはその後も終始機嫌が悪いのだった。
◇◇◇
レオリオのおかげというか戦犯というか、ともかく『ドキッ★少年誌ラブコメにありがちな不本意なる混浴劇』は回避されることとなった。
しかし、クラピカの機嫌はずっと悪いまま。全員がシャワーを終えて大部屋に集まっても、そのままお菓子パーティーを開始しても、無表情を崩さない。リン達は知っている。無表情に怒っている時のクラピカは、ある種一番手が付けられないのだと。
「あー、俺達ちょっと腹減ったし、買い出し行ってくる。ゴン、行くぞ」
「おっと、それなら俺も」
「なら私も」
とうとう、耐えられなくなったキルアがリンに助け舟を出した。わかりやすい状況づくりではあるが、クラピカは一切反応しない。ちびちびと舐めるようにお酒を飲むだけだ。
『いい加減仲直りしなさい』というビスケの念文字にトドメをさされ、冷蔵庫から新たな缶ジュースを取り出したリンは、クラピカの隣に腰かけた。
開け放した窓から、静かな風が入る。珍しいことに、今日の宿はジャポン形式だ。畳の匂いが風に乗って、リン達の周辺を踊る。
一方のクラピカは、苛立ちを覚えるとともにいよいよ自覚せざるを得ない恋心に、内心ため息をついていた。
今までは、バショウに言われたからという言い訳で見て見ぬふりをしていた。しかし、クロロの時といい、どうにも感情の制御がつかない。無意識に思考の海へと沈んでいく。
当初、ニアとして出会った時は、純粋に好ましい印象を抱いていた。理知的でありながら仲間思い、尊敬できる人間だと。しかし四次試験を終えて複雑な心境の中、再会の時は突然に訪れた。実は女でゴンの姉で、プロハンターの潜入試験官だったという特大の衝撃付きで。
初めこそ複雑な心境だったが、改めて友人として親しくなった。そして弟子入りし、厳しい修行を受ける中で、再三復讐を止めるようにと説得された。
「……カ」
これはリンとゴン達他の友人との大きな違いだ。ゴン達はクラピカの行動を止めようとはしない。尊重したうえで、時には協力してくれる。それはヨークシンでもそうだった。
だが、リンはクラピカが復讐に手を染めるのを酷く嫌った。蜘蛛との交友関係に起因するものだと思っていたが真逆で、クラピカが危険に晒されるのを恐れたからだった。少なくとも長年の付き合いであるクロロを、あれだけ親しく会話する関係の男を殺してでもクラピカを優先させるくらいには。
「……っ」
レイザー戦の準備期間に幾度となく見た、リンとクロロが会話する光景。あれだけ親しく話す男よりも自分が優先されたのだと思うと、ほの暗い喜びが湧き上がる。
それに気づいたクラピカは、自分で自分が恐ろしくなった。「惚れているのか?」と言ったクロロの声が、脳内で反芻される。
「……」
ゴン達には抱かないであろう感情が、確かにそこにはあった。同時に、リンを知りたいと思い始めたのもあの時からだったと思い出す。
独占欲、探求欲、これら双方が同時に向く相手は、リンしか居ない。どうにも見て見ぬふりはできなさそうだ。
「ク……ピカ」
だが、復讐と同胞のためにこの命を使うと決意した自分に、恋心など不要なものだ。そして、その淀んだ感情を大切な仲間に向けることにも、抵抗があった。
(この感情を向けるには、リンは眩し過ぎる)
リンは決して人格者ではない。殺しもしているし、自他ともに認める利己的な面は十分にある。
だが、それ以上に眩い輝きを放っている。全てを許容した上で、それでも抗えないだけの輝きを。それはリン自身の信念の強さから来る、ゴンともまた違う光だ。光は影を生む。自分はリンの影のようなものだと、ふと思った。
「クーラーピーカ!」
リンの声にハッとする。どうやら、相当深く思考の海に潜っていたらしい。
目の前には、心配そうにクラピカを除きこんでいるリンの顔があった。その距離は、(今のクラピカは女だが)男女とは思えないほどの近さだ。反射的にのけ反ったが、リンは更にずいとクラピカに一歩近づいた。
「……なんだ」
「もしかして、夕方の事で怒ってる?」
「理解しているのか」
「そりゃあ、流石にね」
あっさりと言ったリンに、これまた内心驚くクラピカ。クラピカのイメージの中のリンはこういう時、「何そんなに機嫌悪くしてんのよ。どうせ女になったんだから楽しみなさいよ、ほら!」とか言いながら浴衣をバサバサ捲ってくる。さながら小学生男児のように。
「私がクラピカを男として扱わなかったから、怒ったんでしょ? ごめん」
「わかっているなら、そのデリカシーのない言動は慎むことだな」
「正直……さ、ちょっと照れ隠しもあったっていうか」
だが、目の前のリンは薄っすらと頬を赤らめ、妙に艶めかしい手つきで自身の髪をかき上げる。浴衣姿と良く似合っており、思わずクラピカは目を奪われた。
「クラピカを男の人だって意識したら、ちょっと照れるのよね。だから無意識に中性的な扱いをしてたところ、あるわ」
「だってクラピカ、綺麗だからさ」と言って照れ臭そうにはにかむリン。内心クラピカは今の自分が女性で良かったと思った。男性の姿のままだったら、ここで完全に理性の糸が切れていたかもしれない。
同時に、言いようのない気持ちが込み上げる。今までだって二人きりの時は何度でもあったのに、なぜこのタイミングでそれを言うのかと。なぜ、自分の汚らしさを自覚したこのタイミングで。
「……俺が男性らしくない見た目である事は否定しないが……」
なぜ、今日に限ってこんなに男性の心に刺さる言葉ばかり紡がれるのか。それは誰にでも言っているのか。いったいリンは何を考えているのか。
むしゃくしゃとした気持ちばかりが先行し、気づけばクラピカは自らリンに近づいていた。淀んだ気持ちをぶつけるかのように。
「それでも、男性として扱われない事は気分が悪い」
軽く畳に押し倒し、唇を寄せる。リンの抵抗はない。少し恥ずかしそうに目を伏せるのみだ。
もうクラピカも止まれそうにない、このまま二人の唇が触れるかと思われた時。
突如ボウンと音がして、リンの姿が消えた。目の前にあった肉体が突如消え去り、クラピカはバランスを崩しかけて畳に手をつく。リンの居た場所には一枚のカードがあった。
「カード!? じゃあリンは……」
慌てて周囲を見回すが、リンの姿はどこにもない。いや、初めからこの空間に居なかったのだろう。いったい何が起こっているのかと、クラピカは焦りを堪えつつ思考を回すのだった。
偽物リン:思わせぶりにフラグ回収する、小悪魔系女
本物リン:フラグ立ってる男に「俺達マブだよな!」って言っちゃう系女
つまりは恋愛レベルの差異。
【秘密のマント】
イベント発生条件:
女性2名以上でアイアイの広場に訪れるとランダムで発生。
男のスカウトを受けることでイベントが進行する。
ただし、失敗しても同じ条件で何度でも挑戦できる。恋愛ゲームあるあるのご都合主義。
イベント内容:
事務所の男にスカウトされた後は、数時間後にフェスに参加することになる。
適切な衣装、ダンス、パフォーマンスで観客の眼を惹きつけ、優勝を目指す。
イベントストーリー:
10代の少女が集まるアイアイ屈指のアイドルフェス。
しかし、アイドルチームの一つが急病で参加できなくなってしまった。
プレイヤーに声をかけたのは、不参加になったアイドルに全てを託していたアイドル事務所の社長。
プレイヤーは代理のアイドルとしてフェスの優勝を目指すことになる。
達成条件:
アイドルフェスで優勝する事。
適切な衣装、ダンス、パフォーマンス等で一定の魅力値に到達すると優勝できる。
問われているのは身体能力の他、所謂ハンターとしての印象値のようなもの。
ただし【マッド博士のフェロモン剤】を使用すると、楽に攻略できる。