リン=フリークスの冒険   作:夜桜百花

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復讐者の谷【前編】

「レオリオ、あと2週間だっけ? なんとかそれまでにクリアしなくちゃね」

 

 ちょっとした騒動もあったが、この短期間でどんどんカードを集めているゴン達。レオリオの滞在可能期間が残り2週間を切っていることもあり、ゴンはなんとか、レオリオも居るうちにクリアできないかと考えていた。言うまでもないが、それはかなり無謀な試みだ。

 

「お前、正気かよ」

「慌てる必要ねえぜゴン。俺はお前らとゲームできるってだけで、十分楽しんでるよ」

「でも、どうせなら全員でクリアイベント見たいもん!」

 

 アイアイ近場の荒原で日課のトレーニングをする傍ら、次のターゲットについて話し合う。駄々をこねながらも、次々と石を枝で砕いていくゴン。今日のゴンの系統別修行メニューは、強化系だ。

 こうなると、ゴンが言うことを聞かないのはレオリオもよくわかっているので、まいったなと頬を掻く。しかしその気持ちは嬉しいので、困っているような態度を取りつつも目が笑っているのは仕方ないだろう。

 

「皆でクリアしたいって気持ちはわかるけど落ち着きなさい。あくまでレオリオは、レイザー戦の助っ人で呼んだんだし。そもそも、私とクラピカも別の目的で来てるのよ?」

「そうだけど……」

 

 最近カード集めに熱を入れ過ぎてうっかり主旨を忘れそうになるが、リンとクラピカは緋の眼を求めてG・I(ここ)に来ている。クリアを目指すのは、道中で目ぼしきプレイヤーを探すための手段でしかない。

 そうでなくとも、プレイヤーキラーとの戦闘やそれに伴う事前の情報収集が必要な以上、すぐにクリアイベントまで達成するのは難しいだろう。なんせ、ランキング上位に入っている『モクバ』も『バラ』も、リン達の接触したプレイヤー一覧には入っていない。

 

「カードを集めていれば『緋眼のプレイヤーキラー』からの接触もあるかと思っていたが……今のところその気配はないな」

「ま、クリアまでには絶対何かしらのアクションがあるだろ。プレイヤーを殺してまで、ゲームを進めてるわけなんだし」

 

 ゴンとキルアだけでなくクラピカ、レオリオもそれぞれの系統別修行を行いながら会話は進む。クラピカの頭上では、アチーブメントのパンダが呑気に昼寝中だ。

 彼らの修行をチェックしながらもやっぱり少し手持無沙汰なので、ついでに自分の修行をしておくことにするリン。そんなリンの肩にも、いつもの如くメイメイが腰かけてうたた寝をしている。

 

(ん~、今日は変化系にでもするか)

 

 両手でオーラを形状変化させ、ここまでの会話を作ってみる。ゲームのテキスト画面のような文字列が空中に浮かび、ゴンとキルアが「「おおっ」」と感嘆の声を小さくあげた。

 この様子からして、まだまだ、姉の威厳は保てそうだ。うねうねと追加の文字を作りながら、ビスケに顔を向ける。

 

「そういえば話に聞いてたプレイヤーキラーだけど、名前もわかってないのよね?」

「まーったく、よ。『眼が緋い』って噂だけが独り歩きしてるんだわさ」

「プレイヤー同士ならバインダーで名前確認、できないかしら?」

「NPCの間で流行り始めた噂だから難しいわね。会ったプレイヤーは皆死んでるし」

「あ、なるほど」

 

 一方で、ゴン達の修行を確認しながらも、鏡越しに自分のヘアスタイルを丹念にチェックするビスケ。ビスケの修行とは真の姿で行うものなので、皆の前では意地でもやらないと決めているらしい。

 

「じゃ、やっぱカードを集めていくしかできることはなさそうね」

「まー、プレイヤー総当たりよか、効率は良いんじゃないかしら」

 

 接触したことがあるプレイヤー一人ひとりに【同行】(アカンパニー)【磁力】(マグネティックフォース)を使用して瞳の色を確認していたのでは、キリがないだろう。

 おまけに全員と出会っているわけではないので、やっぱり目的の人物に会うことができる確証はない。クロロをはじめとして道中で出会ったプレイヤーにも聞き込みはしているが、返答はどれも芳しくないものだった。

 

 そうなれば、リンとクラピカが今できることはゴン達とカード集めをすることしかなさそうだ。方針変わらず、というところで、本題に戻る。

 

「リン、お前一度クリアしてんだし、狙いどころのカードとか知らねーの?」

 

 キルアがオーラを一つのハンター文字に変化させながらリンに眼を向けた。あまり綺麗とは言い難い文字だが、ちゃんと『る』の文字になっている。

 

「今更狙いどころもクソもないわよ。でもまあ、定石は誰も持ってないカードよね」

「あー、まあコピーして独占すれば、交換交渉でも優位に立てるしな」

「独占なら【一坪の海岸線】を持ってるじゃねーか。交渉には十分使えねえか?」

「材料は多いに越したことないのよ。それに、他のプレイヤーも独占してるカードがある以上、どうせ最後は奪い合いになるわ。それまでに取れるカードは全部取っときたい」

 

 最も争いの少ないルートは、集められるだけのカードを集めてから最後にプレイヤーとカードを奪い合う(あるいは不可能だろうが交換交渉をする)方法だ。

 仮にこの順序を逆にしてしまったら、誰も持っていないカードを集めようとする時間で他のプレイヤーに付け入る隙を与えることになってしまう。先回りして未取得のカードを入手されてしまうなり、急に攻撃されて奪われるなり、可能性は沢山あるだろう。

 

「あんまり目立ちすぎるのもって思ってたけど……ま、今更か」

「なんで目立ちすぎると駄目なの?」

「過度な注目は、格好の的にもなり得る。そういうことだろう」

「そゆこと」

 

 つまり、理想的なのはプレイヤーとカード争奪戦をして勝利し、その直後にクリアイベントをこなしてしまうことだろう。

 言い換えれば、ランキング上位に入っていたプレイヤーキラーとの争いは、可能な限り後回しにしたい。そうでなくとも、それ以外のプレイヤーにもそろそろ目を付けられるはずだから。

 

「アプデ終わって再稼働してから、2年ちょい。残りカード半分切ってるって奴は結構いると思うのよ」

「モクバとかバラって人の下にも、カズスールさんとかアスタさんとか並んでたもんね」

「あいつら程度はそろそろ俺達が追い越してそうだけど、……確かにな」

 

 嫌なことを思い出したというように、キルアが顔を顰める。その中に薄っすら小物へ向ける感情が見て取れるのは、実力でもカード枚数でも自分が優位に立ったと思えているからだろう。「だろ?」と言わんばかりに、リンはピッとキルアに指を向けた。

 

「でしょ? そんな中、誰も手に入れてないカードをバンバン入手するチームが現れる。潰しをかけてクリアを目指すには、格好の餌だわ。ティーンばっかの若いチームだと、猶更ね」

「1人ババアは居るけどな」

 

 今日も今日とて、キルアは懲りない。何度女性の地雷を踏んだらわかるのかと周囲が思うくらいには、案の定ビスケからの強力な一撃を貰って撃沈する。当初はわたわたと心配していたゴンでさえ、今や慣れたものでスルーしている。

 

「やっぱそーだよね……。【一坪の密林】とか、どう? 【一坪の海岸線】と同じで、誰も持ってないカードだよ」

「アリだけど、私それ入手方法知らないのよ。昔そのカードをゲットした時は人から貰った上に、その人も貰ったもの。最初の所有主は【宝籤】(ロトリー)で偶然引いたらしくて」

「豪運だな」

「それに、ランクSSならば恐らく、レイザーのようなゲームマスターが控えているだろう」

「けどまあ……狙うならそれが良さそうね」

 

 プレイヤー同士のバトルもしくはトレードで全カードを集めきるならば、誰も所持していないカードを先に入手しておくのは必須条件だ。キルアをボコってスッキリしたビスケも会話に加わる。キルアも、ようやっと倒れていたところから起き上がったようだ。

 

「そうね。……あ、あと【大天使の息吹】も取っておきたいわ」

「何それ?」

「簡単に言うと、どんな怪我も一瞬で治せるカード」

 

 さらりと口にされたいかにもチートな性能。レオリオが微妙に落ち込む。

 

「マジかよ、俺要らねーじゃん……」

「基本はレオリオの能力で十分過ぎるくらいよ。入手コストも高いし。でも、この先必要になる可能性はある」

「……プレイヤー同士の戦闘で死にかける可能性か」

 

 クラピカの言う通り、運が悪ければ今後の戦闘で大きく負傷する可能性も十二分にある。いくらゴン達が優れた師匠に教えを請い、力をつけたとはいえ、何が起こるかわからないのが念能力者の殺し合いだ。

 レオリオの能力は、あくまで自然界のエネルギーを利用して対象の治癒力を引き上げるもの。四肢欠損などの自然回復不可能なダメージには効果がない。そしてこの先、そのような怪我を負わないとは限らないだろう。

 

「そう。他のプレイヤーキラーにはもう会った?」

「今のところは会ってないわね」

「良かった。ま、そもそもプレイヤーキラーが存在しないのが、一番良いんだけどね」

 

 最近では、また新たなプレイヤーキラーが現れたとかいう噂も出ている。何人も現れては堪ったものではない。この場所は、リンにとっては大事な故郷なのだから。

 

 そんな会話をするリン達に、急激に接近する影があった。男達は、目的の人物がそこに居るのを確認し、にやりと口の端を吊り上げる。

 

「ちょっと待て。なんか聴こえねーか?」

 

 不自然に風を切る音が、徐々に近づいてくる。明らかに、自然界では聴こえることのない類の音だ。不審な顔で周囲を見回す中、ゴンが叫んだ。

 

「上、上だよ!」

 

 それは唐突に、そして趣味の悪い形で訪れた。黒髪長髪の男と、金髪糸目の男。そして彼らに明らかに本意ではない形で従っている気弱な男。

 気弱な男の顔は腫れあがっていているうえ、前者二人の男は明らかに自分達に友好的な雰囲気ではない。金髪の男は気弱な男の腕を離すと、リン達に声をかける前に気弱な男に雑に言い放った。

 

「よし、お前もういいぞ」

「た、助けて、助けてくれるんですか……」

「おーう、助けてやるよ」

 

 明らかに脅されていたであろう雰囲気にリン達が顔を顰める中、当の脅されていた男は解放宣言に表情を明るくさせる。まさに、九死に一生を得たと言わんばかりに。

 しかし、その望みが敵うことはなかった。金髪の男は懐からリモコンを取り出すと、男を容赦なく蹴り飛ばす。十数メートル吹っ飛んだところで男はリモコンを押した。

 

「うわっ!」

「!!」

 

 瞬間、オーラの揺らぎが生じ、念能力が発動したことを全員が察知する。同時に、男は内部から爆発して吹き飛んだ。

 

「マジかよ……」

 

 レオリオが思わず呟く。破壊された男の残骸は、周辺数十メートルにわたって飛び散った。血と火薬、臓物が入り混じった不快な臭いが鼻につく。

 

「この世からの解放ってやつだけどな。ありがたく思え!」

「あの能力、殺すためだけのものね。噂をすればプレイヤーキラー……ついてないわさ」

 

 それを意にも介せず、「ひゃはははは!」と笑う男達。いきなり現れてはとんでもないものを見せつけられて、リンをはじめとする全員が臨戦態勢に入った。キルアが代表して、男達に声をかける。

 

「おっさん達、カードの交換(トレード)目当てではなさそーだけど。何か用かよ?」

「そこの黒髪のガキに用があってな。お前がゴンか?」

「……そうだけど」

 

 理不尽な殺戮を目にして、怒りを露にゴンが返事をした。一触即発と言わんばかりにチリ、とした空気が漂う。

 しかし男達はゴンの姿に不思議そうな表情を見せる。まるで、会いに来た人物が思っていた見た目ではなかったというような。

 

「ん? サブ、こいつ男じゃねえかよ」

「あん? マジかよ。まあでも身内の可能性は十分あるだろ」

「……女の俺を探してたの? なんで?」

 

 どうやら男達は、女であるゴンを期待してここに来ていたらしい。リン達も怪訝そうにその様子を見守る。

 

(……そういえば、この間のアイドルフェスでゴン達、記者にめっちゃ写真撮られてたわね)

 

 先日のアイドルフェスの際、優勝したゴン達は女体化姿のまま写真を撮られていた。それは次の日にはアイアイ新聞の号外見出しを飾っていたが、恐らく彼らもその写真を見たのだろう。それでゴンが女性だと勘違いした、というわけだ。

 

「街中で見た顔写真が、あんまり俺らが探してる女にそっくりだったもんでな」

「おまけにファミリーネームは『フリークス』。お前……『リン=フリークス』って女知らねえか?」

「リン……って……」

 

 ゴンが言葉に詰まって思わず視線を姉に投げかける。カードを奪いに来たのかと思いきや、予想外の発言に戸惑っているのだ。

 つまり、男達は女体化したゴンがあまりにもかつてのリンの姿に似ていて、情報を求めてここまで来たということだろう。即ち、リンの情報を。

 

 彼らが……サブとバラが何をしに来たのかをおおよそ察したリンは、ゴンを軽く制して前に進み出た。突如しゃしゃり出てきた女に、サブ達の視線は自然とそちらへ向けられる。

 

「口挟んで悪いけど、あんたらが探してるのって私じゃない?」

「姉さん……」

「……なるほどな。ガキの成長ってのは早いもんだ」

 

 彼らが知っているリンの姿は、数年前のもので止まっていたらしい。身長も伸び顔つきも変化したリンに、一瞬驚いたような表情を見せる。

 しかし、次の瞬間には嬉しそうに口元を歪めた。探していた人物と思わぬところで再会できたと言わんばかりに。

 

「お前だな。ゲンを捕縛したガキってのは……」

「やっぱ、ゲンスルー関係ね。正確には『捕縛したうちの一人』ってとこかしら」

「十分だよ。他の奴らもターゲットだ」

「……サブにバラよね。こっちも名前だけは知ってるわ」

「はン、光栄だな」

 

 直接会った事もないし、原作の記憶もほぼ消えている。だが、ゲンスルーを捕縛した時にサブとバラについてもハンターサイトで調べたため、把握だけはしている。結局かつてG・Iをプレイした時に会うことはなかったが、思わぬところで邂逅したものだ。

 

(やっぱ、プレイヤー上位ランキングに入っていたバラって爆弾魔(ボマー)のバラだったのね)

「バラ? 俺達会った事なんかねーぜ。なんでここまで来れたんだよ」

「さっき殺された男だろう。ゴンの名前が名簿に載っているプレイヤーを探して脅し、【同行】(アカンパニー)を使用させる。更にカードを略奪できれば一石二鳥。……下劣な行為だ」

「……思いついてもそんな事やるかよ」

 

 クラピカの言葉に、レオリオは改めて目の前の男達が非情な人間であると認識する。人の命を何とも思っていない奴らが、リンを探してきた。これがどれほど不吉な意味をもたらすか、考えるまでもなかった。

 

「正直ラッキーだったぜ。他の二人と違って、お前の所在地は掴み辛かったからな。こんなところで会えるとは思ってなかった」

「メンチとノワールに……何かしたの?」

「いや、まだ準備段階さ。その一環でここに来てたが、順番が狂っちまったな」

 

 他の二人という言葉に一瞬ひやりとしたが、まだ危害を加えられていないと知り、内心ほっとする。つまり、ここで食い止めれば、仲間達が攻撃されることはないということだ。

 あくまでポーカーフェイスを崩さず、ゴン達に危害を加えられないように一定の距離感を保ちながら情報を引き出す。どうせ戦闘を避けられないのなら、その前に可能な限りの弱点は見つけておきたい。

 

「カード目当てね。目的は、復讐とゲンスルーの脱獄ってとこ?」

「よくわかってるじゃねえか」

「(確かに、ここのカードを使えば念能力者専用刑務所でも脱獄は可能かも)因果応報だと思うけどね。復讐なんてお門違いじゃない?」

 

 G・I《この世界》には、一般常識では考えられないアイテムが数多存在する。そしてクリア報酬は、それらのカードを現実世界へ持ち帰ることができる特典だ。

 指定ポケットカード内という制限はあるが、それすら抜け道はいくらでも存在する。文字通り、なんでもできるようになるだろう。例えば、念能力者専用刑務所に居る仲間を脱獄させることも、あるいはプロハンターに復讐をする事も。

 

「姉さん、こいつらと何があったの?」

「昔、こいつらの仲間をハントしたのよ。悪質な爆弾魔(ボマー)だったから」

「にしては、えらく怒ってる気がするぜ?」

「たぶん、痴漢冤罪吹っ掛けて逮捕したからね」

「……そりゃあ怒るわな」

 

 しれっと言ったリンに、キルアが少し引いた表情になる。自分は絶対そんな目に遭いたくないとその表情が語っているが、生憎目の前の爆弾魔(ボマー)達は笑い話で終わらせてくれなさそうだ。

 

「雑魚どもがワラワラとうるせえよ!」

 

 叫んだバラの身体から、とてつもない量のオーラが噴き出した。相棒の激高する様を見て、サブも同様に『練』をする。それらは明らかにレイザークラス。いや、それすらも凌駕する水準のものだ。

 リン達が居る荒野一帯の土埃が、一気に吹き飛ぶ。脆い岩程度は砕けてパラパラと欠片を落とし、大気全体の流れが変わった。

 

「なにこのオーラ……! ゲンスルーだって、ここまでのオーラじゃなかったわよ!?」

「修行したんだよ……って言いてぇところだが、違う」

「修行もちっとはしたけどな」

 

 予測を遥かに上回るサブとバラのオーラ。かつてのゲンスルーは精々が念能力者の中で上の下といったところであり、その一味が持つオーラとしては明らかに異常なまでのオーラ総量だ。

 決して、復讐の鬼と化した彼らを侮っていたわけではない。傲りと侮りは、念能力者間では最も自らを危険に晒すものだから。

 しかし、覚悟の念とて限界はある。目の前の男達のそれは、明らかに制約と誓約にまで手を出している。

 

「制約と誓約だよ。俺達は覚悟を決めたんだ。本当の、本気でな」

「5年以内にゲンに会えなければ、俺とバラは三人で作った能力、【命の音】(カウントダウン)で命を落とす」

「……!」

 

 サブとバラが手を出したのは、クラピカと同じもの。文字通り邪道な手段だ。そしてそれが無謀かつ命を捨てる手段であることは、言うまでもないだろう。特に、彼らの場合は。

 

「ゲンスルーは超長期死刑囚。それもミザイさんの管轄だから、雇われて表に出ることもないでしょうね。一生会えない、無駄死によ(カードがあればできるかもしれないけど絶対言わねー)」

「それをひっくり返すためにカード集めしてんだろうが。それに俺達は3人で一つなんだよ。テメーにはわからねえだろうがな」

「成功したら次はお礼参り、失敗したら俺達はドカン。そこにお前が現れた。……ちっと早いが前哨戦と行こうや」

 

 とっくに理解していたのだろう。リンの言葉に彼らが動揺を見せることはなかった。それすらも覚悟の上だからか、それともリンが心の中でだけ呟いた言葉のように、彼らがカードでゲンスルーを救えると本気で信じているからかはわからない。

 だが、確実に言えることがある。彼らが命懸けの覚悟を背負っているという事。そして、自分達のためには、ここでこの二人を潰さなければいけないということだ。

 

「……しゃーないわね。後始末し損ねた私の落ち度だわ」

 

 可能であればゴン達を避難させたいところだが、彼らはそれを許してくれないだろう。

 覚悟を決めて更に一歩前に進み出ようとする。しかし、それを遮るように小さな影が一つ、リンの前に出た。自らとそっくりの黒髪を持つ弟に、リンは低い声で問いかける。

 

「ゴン、何してるの」

「俺がやる」

「はぁ?」

 

 敵のオーラは、明らかに姉である自分と同格。それはゴンも分かっているはずだ。

 にもかかわらずリンの前からどく気配のないゴンは、顔だけ振り返ると決意を感じさせる強い瞳でリンを見上げた。

 

「言ったでしょ? 姉さんを一人で戦わせないって」

「確かに言ったけど、駄目。オーラ見れば強敵だってわかるでしょ」

「嫌だ!」

「おいおいマジかよ……」

「ああなったゴンは聞かないな。だが、無謀な試みであるのに変わりはない」

 

 ゴンをよく知っているクラピカ、レオリオは、もうゴンが絶対に意見を曲げないのをよくわかっていた。それはリンも同じだ。

 だが、我が儘だけで通用する相手ではない。なんせ、目の前の男達はプレイヤーキラーでもある爆弾魔(ボマー)。それも復讐に燃え、リンを本気で殺そうとしている。自身に覚悟の念までかけて。

 

 だが、覚悟をしているのはサブとバラだけではない。ゴンもまた、これからは姉と共に肩を並べるのだと強く決心をしてここまで修行を続けてきた。易々と姉一人に危険な戦いを任せられない。

 

「俺だって強くなった、姉さんと戦えるようにって。それを証明する。……お願いだから、俺をもう置いてかないでよ」

「……」

 

 頭では『わざわざこんな危ない相手と戦う必要はない』とか、『自分を探してきているのだから自分が戦う』だとか、いくらでも反論する余地はあった。しかし、ゴンの言ったそれはリンにとっては殺し文句だ。ずっと負い目になっていたところを刺激され、思わず黙り込む。

 そんなリンの隙をつくように、ゴンはサブとバラを真っ向から見つめた。そしてその様子を静観していたキルアも、リンの脇をすり抜けてゴンの隣に立つ。

 

「しゃあねえな……。なら俺もやってやるよ」

「っ、キルアまで!」

 

 ゴンだけでなく、キルアまで戦おうとする。針を抜いたとはいえ格上の相手との戦闘では回避行動一択になっていたキルアを見ていたリンには、それは更に危ういものに見えた。なんとか思いとどまってくれと、無意識に声を荒げる。

 

「明らかに格上の相手よ! 不測の事態が起こったら……!」

「ドッジの時とか組手した時みたくならねーか心配してんだろ? 頭の針だって抜いたんだ。これまでの俺とは違う」

(いっそ二人とも気絶させて……)

「無理やり戦いから引き離そうとしたら、俺許さないからね」

「う……」

 

 こんな時ばかり聡い弟だ。梃子でも動かないという構えは崩さないのに、リンの心理は冷静に的確に読んでくる。

 そして、キルアはあくまでも冷静だ。感情に訴えてくるゴンと冷静に諭してくるキルアの二人がかりで説得されては、リンはもう言いくるめる手段が何もない。

 

「心配すんなよ、少なくとも俺は勝算があるからさ」

「駄目って言ってもやるよ。あいつらはプレイヤーキラーだし、どっちにしろいつかは戦わないといけない相手だったんだ」

「……わかった。絶対に勝ちなさい」

 

 確かに、リンが居なくてもいつかは戦わざるを得ない相手だった。ハンターになった以上いつかはこういう時が来ると思い直し、ため息をつきつつも弟達に白旗を上げる。リンの言葉を聞くと、ゴンとキルアは迷いなく敵に向き合った。

 

「俺達が相手だ。姉さん達を巻き込まないように離れるぞ」

「へっ、イイ度胸だな。お前を灰にしたら、あの女どんな顔するかね」

 

 キルアはサブ、ゴンはバラと対峙し、それぞれリン達と距離を取る。ポケットに手を突っ込みながら、キルアは挑発するように嗤った。

 

「俺の相手はお前か」

「オッサン、いかにも噛ませっぽい見た目してるのにあんなオーラ出せんだな。やっぱ念の効果ってすげえわ」

「ほざけ!」

「へっ……。いくぜ?」

 

 戦い前の膠着状態にある弟達を見つめるリンは、胸中穏やかではない。それはレオリオも同じで、レイザーとも比肩するレベルのオーラを持つ敵と、仲間がタイマンを図ることに焦りを覚えていた。

 

「リン! 俺達も加勢すりゃあいいじゃねえか! なんで黙って見てるんだよ!」

「拙い連携は足枷にしかならないからだろう」

「にしたってよクラピカ! 俺達なら連携だって……」

「念を使った連携はそう簡単なもんじゃないわさ」

 

 わざわざ一対一(サシ)の戦闘を選ばせるのは、ゴンの意地を尊重したからではない。事前に役割分担をしているならともかく、仲間の能力を把握していない状態でのチーム戦は念能力者同士の戦闘では最も避けるべきものだからだ。

 念能力のバリエーションは際限がない。そして自分以外の全てに効果を及ぼす能力や触れただけでアウトな能力などを持っていた場合は、仲間が居る事自体が足を引っ張ることになる。

 

「ジョイント型や完全連携型でもない限り、アドリブの共闘は悪手になるパターンが圧倒的に多いわ」

「ならせめてリンがキルアの加勢を……」

「私は良くても、キルアがそうじゃないでしょ。キルアは私の能力を知らないし、どう連携したらいいかも知らない。外野が入るのは邪魔になるのよ」

 

 ぶっちゃけ今回のケースならば、連携するくらいならリン一人で戦った方がマシだ。しかしゴンとキルアがそれを望んでいない以上、選択肢としては現在のところ静観するしかない。言い返す言葉もなく、レオリオは悔しそうに呟いた。

 

「くそ、俺達は何にも出来ねえのかよ……」

「まあ、レオリオとクラピカはそれ以前の問題だわさ」

 

 ビスケの言葉は決してクラピカとレオリオを軽視しているわけではない。純然たる事実だ。チーム戦以前に彼らの力量がサブとバラに追いついていなさすぎると言いたいのだ。

 

「あいつら、オーラ総量だけならリンと同レベルだわよ」

「オーラが全てじゃないけどね。キルアは勝算があるって言ってたけど、ゴンはどうなのかしら……」

「たぶん何も考えてないわさ」

 

 言葉だけならば気楽なものだが、リン達の表情はかなり真剣かつ深刻なものだ。リン達がそんな会話をしている頃、バラはゴンを睨みつつも不敵に笑っていた。

 

「見れば見る程、本当にそっくりだよ。あの時頭に叩き込んだ写真の姿とな……」

「そうなんだ。少し嬉しいな」

 

 姉とそっくりだと嫌味たっぷりに言った男の眼には、怨嗟の念がしっかりと見て取れる。負ければ無事で済まないのは確実だ。

 自身の何倍ものオーラを湛えるバラを相手に、ゴンはヒソカと対峙する時と似たような感情を覚えていた。確かに、本気で向かっても勝てはしないだろう。……正攻法ならば。

 

「ほざいてられるのも今のうちだ!」

 

 バラの足が地を蹴る。信じられないほどのスピードで接近され、ゴンは対応しきれない。幾度も回避しきれずに拳を受け、打撲で顔や腕が傷む。

 だが、格上の相手との戦闘におけるゴンの対応力と成長スピードは本物だ。一方的に殴打されているように見えて、少しずつ、少しずつバラの動きを読み解く。そして頃合いを見て、敢えて叫んだ。

 

「……! ちょっとは、スピードに慣れてきたぞ!」

「ああそうかよ! じゃあ死ね!」

 

 ゴンの挑発に苛立ったバラが、直線的な攻撃に走る。ただし、ゴンには見えないほどの超スピードで。

 咄嗟に感じた野生的な直感でオーラの攻防力を腹部に割り振る。運良くそれは成功し、肋骨を数本粉砕されながらもゴンはなんとか耐えきることに成功した。

 

 肉を切らせて骨を断つ。拳が打ち付けられた瞬間を狙い、全力でバラの腕を抱え込むゴン。初めから捨て身に近い攻防をする気だったのだとバラは悟った。

 なんとか拘束することはできた。しかしゴンの力では拘束できるのは腕一本が限界、それすらもバラが渾身の力で振りほどこうとすれば耐えることはできないだろう。少なくとも二人の間にはそれだけの力量差が生じている。

 

「おい! それじゃあサンドバッグにしてくれって言ってるようなもんだろ!!」

 

 レオリオの言う通りだ。確かにこの状態ならば能力で確実に格上の相手を仕留めることができる。しかしゴンの能力は『硬』であり、拳以外は攻防力が0になるハイリスクハイリターンの技。タメにも時間がかかるため、間違いなくそれまでに死に至る。しかし、ゴンの選択は『発』ではなかった。

 

「腕を、……折る!」

 

 相手はプレイヤーキラーである上に姉を殺そうとしている、ゴンにとっては邪悪極まりない人間。ならばゴンも容赦はしない。脚を引っ掛けつつ、バラの腕にしがみついて『練』をし、全身全霊の力で骨を砕きにかかる。

 

(ヨークシンで旅団が姉さんに使った手口! 手足を折れば攻撃手段は一気に減る!!)

 

 明らかな力量差はあるといえど、ゴンは強化系だ。筋力も強く、全力を尽くせば強者の腕だって砕くことはできる。通常の反応ならば、ここは慌てて振りほどこうとするか地面に叩きつけるなどして攻撃にかかるべきところだろう。

 しかし、バラは慌てなかった。むしろやってみろと言わんばかりに何も行動を起こさずに笑って見せる。

 

 なぜここまで余裕の対応をするのか? リンの疑問はすぐに答えとなって表れた。自身の身体の異変によって。

 

「うぐっ!?」

「リン!? おい、ゴン止めろ!」

 

 まったく無関係な自身の骨が突如ミシリと音を立て、思わずリンは呻いた。押さえた部位がゴンが砕こうとしているバラの腕とまったく同じ箇所であるのを察知し、レオリオが直感的に叫ぶ。それを聞いたゴンが飛び退くと同時に、リンの腕に走る痛みは消えた。……既にヒビが入っている感覚はあるが。

 

(どういうこと……バラはダメージを受けている気配がない。ダメージを他者に押し付ける能力?)

「姉さん!?」

 

 だが、オーラの鳴動は一切感じなかった。そして戦闘中につき精孔を開いている眼でも、オーラを確認することはできなかった。それはつまり、リンの近辺で念能力は使用されていないことを意味する。

 

「驚いたって顔だな」

 

 そう言ったバラの懐から取り出されたのは、どこにでもある小さな巾着袋。中からは石のようなものがはいっているらしきじゃらじゃらとした音がする。

 

「ただの【闇のヒスイ】だよ。カード化限度枚数を独占した余りがアイテム化したやつだけどな」

「【闇のヒスイ】、指定ポケットカードの……?」

「そう、持ち主に危機が降り注ぎそうになると、他人にその災厄を渡してしまう石! これがある限り俺らを殺すなんて不可能だな!」

「……! ここから離れるわよ!」

 

 リンが反射的に叫び、その場の全員が戦闘している場から距離を取る。リンの剣幕から、そのアイテムが如何に脅威かを察したからだ。

 

「【闇のヒスイ】の効力は確か半径100メートル! 私達がここに居たら邪魔になるだけ!」

「ち、くしょう……!」

 

 厄介。その一言に尽きるだろう。同時に自分達が九死に一生を得ていたことに気づき、リンはゾッと背筋が凍るのを感じた。

 今はゴンが攻撃し、リンがその災厄を受け取っていたからよかった。だが、仮にリンが対峙していたら? そしてリンの放った本気の一撃を押し付けられたのが、ゴン達の誰かだったら?

 

(明らかに長年チームで動いているらしいサブとバラがタイマンに応じている時点で怪しむべきだった……! よく見れば互いにやたらと距離も取っている。爆弾能力で味方を巻き込まないためだと思っていたけど違ったのね!)

 

 リン達が距離を取ったことにより、仲間に怪我をさせる懸念は消えた。だが、同時にゴンの目論見もバラに看破されてしまった。もう同じ手は通用しない。ゴンもゴンで、本当の覚悟を決めようとしていた。

 

(……今まで考えるだけでやろうとは思わなかったけど、作戦が看破された以上やるしかない! 確実に勝つ手段を選ぶ……!)

 

 地力では圧倒的にバラの方が優位。しかし絶対に負けることはできない。ここで負ければ、自分はこの先きっと姉と共に戦うことはできない、そんな気がするからだ。ゴンはまたしても思い付きの手段に、命を懸けて試みることにした。

 




【命運は常に俺の中】リモートボム
操作系能力

相手の体内に爆弾を埋め込む能力。
一定以上のダメージを与えることで発動条件を満たす。
起爆スイッチはサブ愛用のリモコンでしか作動しない。
所持できるリモコンは、1年以上愛用しているもの一つのみ。

制約:リモコンを使用しないと爆発させることができない。
誓約:なし


【闇のヒスイ】 具体的効果(捏造)
他者から与えられる一定以上の痛みを『災厄』として考慮すし、他者に災厄を渡す効果がある(事故による怪我など含む)。
具体的には、半径100 m圏内に居る他者(人間限定)にその痛みを肩代わりさせる。
ちなみにカードの説明はあくまで『災厄』なので、一定金額以上の金銭の喪失や病気などの災厄も他者に渡すことができる。

セルフ夏祭り連続投稿でした~
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