一方、ゴンがバラと攻防を巡らせる中、キルアはゴンよりも善戦をしていた。
キルアの戦闘スタイルが、フェイントを多く入れる戦略的なものであるのが一つ。そして、
加えて、自身の勝利を確信しているキルアは、リン相手では本気でできなかった……つまり殺すための能力のテストまでもを実行しようとしていた。
「……っと、やっぱ堅いな。これ50 kgはあんだけど」
フェイントを何度も交えつつ、背後から岩を経由させてサブの後頭部にぶつけたヨーヨー。それは(ミルキ特注……つまりミルキの能力によって作られた)合金製で、電気も通しやすく、鈍器としても優秀な役割を果たす。
しかし、不意打ちの一撃を受けたにもかかわらず、サブはぴんぴんしている。制約と誓約で得られたオーラ総量や筋力は、伊達ではないらしい。
「こっちだって、本気でオーラ練ってんだ。それくらいで、どうこうなるわきゃねーだろ!」
もちろん、バラだけでなくサブも【闇のヒスイ】を所持している。しかし、ここではその効力を発揮することはなかった。
理由は簡単、【闇のヒスイ】は持ち主に脅威が降りかかろうとした時に発動するアイテムである。つまり、キルアのヨーヨーは、サブには脅威でもなんでもなかったということだ。
(やっぱ、ヨーヨーは一定以上の防御力持ってる相手には効かねーか)
あくまで
「戦闘モードじゃどうにもなんねーか。……
「あ? 何スカしてんだよ」
「……いや、やっぱやめ。俺はもう殺し屋じゃねー」
そうしてぶつぶつと考え事をしていた時に、リンの腕に異変が起こったのだった。
キルアも一瞬戦闘を中断し、バラの会話に耳を傾けて【闇のヒスイ】の効果を認識する。サブはこの隙に攻撃をすることはなく、ニヤニヤと勝利を確信した笑みで笑うのみだ。自身に危険が及ぶことがないとわかっているからだろう。
「何だァ、怖いのか? お姉ちゃんの助けが期待できなくなっちまったもんな」
「いや、むしろホッとしてたんだよ。俺が本気の攻撃を仕掛けた時にあれが発動してたら、ダチを死なせちまってたかもしれねえし」
ヨーヨーならば、それほど恐れはない。仮にリン達にその攻撃が移されようと、全員が十分に耐えることができるだろう。
だが、これからキルアがやろうとしている攻撃は、下手すれば相手を死に至らしめる、それだけ繊細な技術を使用するものだ。キルアの言葉は負け惜しみでも強がりでもなく、本心だった。
「つっても、まずは邪魔なモンを排除するのが先だよな」
「ぐぁっ!?」
これまで、電光石火を使用するのは回避のみに徹していたキルアが、初めてサブとの接触に能力を使用した。
全身がスタンガンのような状態になったキルアに触れられ、一瞬だけだがサブの動きが止まる。どうやら、電気耐性はないらしい。そこから更に、念を使った高速移動で視界をくらませる。
「どんだけ凄ぇオーラだってさ、追いつけなきゃ意味ねーよな」
身体能力は、どれだけ鍛えようとオーラで底上げしようと、生来の素質が大きく関与する。それは、動体視力においても同じだ。
念能力者になって経歴も長く一般人とは比較にならないだけのものを持っているサブでさえ、キルアの瞬足を目視することは難しかった。サブの懐から小さな袋を、そしてゴンと対峙しているバラの懐からも、同様に小袋……【闇のヒスイ】を抜き取る。
「盗りぃ」
ニヤリと笑い、一瞬でリン達の下へ走ってクラピカに二つの巾着を預ける。そして、再びサブの下へ戻った。
ようやく電撃から回復したサブは、キルアの表情から形勢が完全に逆転していることを悟る。これまでオーラ任せに暴力の限りを尽くしていた自身の力を簡単に覆された、驚愕と怒りが滲む。キルアはその表情に、自分の勝利を確信した。
「くっ……!」
「んじゃ、戦闘続行な。今度は本気で行くぜ?」
それは、一時的にではあるが格上の相手とも十分に渡り合えるようになる、優秀極まりない能力だ。リンやビスケでも、素の状態では追いつくのが難しい。それだけのスピードを発揮する相手に、サブはまったくもって無力だった。
『硬』
キルアとて、まだまだ発展途上。戦闘中に流動的かつ瞬間的な『硬』を行うのは困難。そのため、
そしてビキビキと指先を変形させ、首筋に刺した。『硬』によって強化された指先は、サブの強固なオーラで覆われた皮膚を簡単に貫き頸髄に達する。
「あ……ぐ……?」
突如訪れた痛みに、サブは大きく目を見開いた。身体がぐしゃりと地面に倒れる。肉体どころか、念能力までも満足に使用できない。指先一つ、ぴくりとも動かない。
頚髄損傷。文字通り、首から下を動かせなくするそれは、正確に狙った部位のみの麻痺を引き起こした。キルアの天才的なセンスと技術によって、ようやく実現可能となるものだ。
「安心しろよ、こっちには治癒能力者も居るんだ」
殺す手段はいくらでもあった。イルミの針を抜いた今、自身の脅威となる力量を持つ相手だろうが、キルアが容赦することは一切ない。
しかし、敢えて殺す手段を選ばなかったのは、キルアが自身をハンターとして認めたいがためだ。
目的は駆除や排除ではなく、捕縛。破壊ではなく、可能な限り無傷な状態での捕獲だ。無事に達成したキルアは、満更でもない表情で倒れ伏すサブを見下ろした。
「おっさんさ、オーラやその使用技術はすげえけど、戦闘技術自体は素人に毛が生えた程度だろ。脚運びで簡単に分かったぜ、チンピラレベル」
「ぐ……、て、めえ……!」
純粋な戦闘技術。それが、キルアがサブとの勝負で勝ちを疑わなかった理由だ。
サブのオーラそのものはリンと比肩するレベル。その使用技術も一流のものであり、恐らく『発』も強力なものを所持しているのだろう。
だが、それだけならばキルアの
更に、初めに見せた能力から、サブはリモコンを使用して相手を爆発させる能力を持つ操作系である可能性が高い。操作系の多くは能力発動までに特定の条件を達成する必要があり、能力が分かっている以上、その前にリモコンを奪い取ってしまえば良いだけ。よって、『発』で搦め手を取られる可能性はあまり考慮する必要がない。
これらに加えて基礎的な戦闘技術が未熟。それは、対人戦闘においてフェイントに引っ掛かりやすかったり急所の保護が遅れたりすることを意味する。
もちろん念能力者、それも殺しを厭わない人間である以上、対人戦闘経験は豊富なのだろう。しかし、生まれた頃から人を殺す技術を磨き、ビスケ仕込みの心源流を一から学んだキルアの比ではない。
「おっさんの敗因は修行不足。基礎からみっちりやっとけば、もうちょい俺の攻撃に反応できたかもな」
13歳にもならない少年に完敗し、決め台詞を吐かれた。それを最後に、サブは昏倒したのだった。
そしてそのままサブを引き摺り、リン達の下へ帰還する。本当ならばここでドヤ顔の一つでも見せたいところだが、生憎相棒はかなり苦戦しているらしく、それどころではなさそうだ。
キルアがリン達の下へ到着するのと、ゴンとバラが戦闘している場所で地雷が爆発したような衝撃が響きわたったのは、同時だった。爆風が髪を揺らし、土煙を巻き起こす。キルアは思わず顔を顰めた。
「……ゴン!」
思わず叫ぶリン。爆発という表現が使用されるような状況になっている時点で、それは
「かかったな。その脚はもう使い物にならねーだろ」
「うっ……」
煙が晴れた先には、左脚を庇うように立つゴンの姿。肉がえぐれている様は、致命傷は避けたものの、回避しきれなかったことを如実に示していた。
恐らく、脚はほぼちぎれかけている。今立っていられるのは、オーラで支えているだけに過ぎない。腕も酷く爛れ、それでもガードしきれなかった顔は火傷で痛々しい。なんとか粘膜である目元のガードはできたようだが、顔中が煤だらけで黒ずんでいる。
「俺の能力、
「リン、流石にゴンの助けに入れ。あいつ相当苦戦してるぞ」
一瞬サブを人質に取る手段も頭に浮かんだキルアだったが、どう考えてもリンが介入する方が、話が早い。自分と似たような能力を持つリンならば確実に倒せるだろうというのが、キルアの公算だ。
キルアが思うに、ここからゴンがバラに勝つのは不可能に近い。このままでは、あっけなく殺されるのは目に見えていた。
「助けっていうより選手交代の方が正しいけどね……!」
それはリンもまったくの同意見。更にキルアが【闇のヒスイ】を奪い取ってくれたため、リン達が近づくのはもはや何の問題もない。
リンをはじめとして、ゴンの下に走り寄ろうとするキルア達。しかし、それは怒鳴り声によって遮られた。
「来るな!!」
「……!?」
「おい、ゴン!」
「お願い、姉さん来ないで! 俺にやらせて!」
一瞬聞き間違いかと思いつつもびくりと身体が反応したリンだったが、聞き間違いでもなんでもなくゴンの叫びそのものだった。
レオリオの咎める声も無視して、ゴンはボロボロの姿を隠さずに、それでもリンを睨みつけている。絶対に、この頼みを聞いてくれなかったら、一生根に持つと言わんばかりに。それは、これまでもゴンが度々見せてきた、力強くそれでいて我儘を押し出す時の表情だ。
「ここで姉さんと代わったら、俺はまだ護られる弟のままだ! 俺だって一人前のハンターだ!」
「へっ、強情なガキだな。嫌いじゃねえぜ」
バラの言葉は本心だ。だが、それが口だけで実際にここから形勢逆転をするのは不可能だとも確信していた。それはキルア達も全く同じ気持ちだ。
いや、リンだけは少し違った。リンの心配は別のところにある。すなわち、こうやって人の話を聞かない時のゴンは、何かしら大問題を起こす、と。
「……頼むから、ヤバい事だけはしないでよ……」
「痛て……。本当に、凄い力だね」
先程までの荒々しい叫びとは対照的に、ゴンは静かにバラを見据えた。今が戦闘中であることを忘れるほどに。煤で黒くなった肌の中に、明るい瞳だけが煌々と輝いている。
「言っただろうが。制約と誓約で能力を最大限に引き上げた。テメーなんざ相手になんねえよ」
「本当に凄いや。とんでもない覚悟なんだね」
「……ったりめえだろ……全部、大事な仲間を取り戻すためだよ。あのアマ共が奪ったなぁ!!」
話しているうちに感情が高ぶったらしく、バラの声は尻上がりに強まった。それは、彼らにとってゲンスルーが大切な人間だということを、言外にも伝えるものだ。
だが、それに対してゴンのトーンは、平常時と変わらない淡々としたもの。それは、生死をかけたこんな戦いの場では、かえって不気味に映った。
「大事な、人なんだよね」
「そうさ! 俺らにとってゲンはそれだけ大事な、昔馴染みのダチなんだよ。絶対に許さねえ……!」
「俺にとってもそうだよ」
静かな、オレンジ色の瞳。その色は怒りでも悲しみでも憎しみでもない、それどころか一切の負の感情を映し出さず、ただ純粋な決意の色だけを見せていた。
「あ?」
「俺にとっての姉さんも……大事な人なんだ。追いつきたくて、隣に並びたくて。護られるだけでは、満足したくないんだ」
この世で最も恐ろしいのは純粋な人間だと言ったのは、どこの誰だったか。ざわりと感じる寒気に、リンは自分の経験則と直感が正しいのだと本能的に理解した。
「……何が言いてえ」
「ここでお前を倒さなきゃ、姉さんの隣に並べない。そんな気がするんだ。だから……全力を出す!」
ゴンの言う『全力』。それはレイザー戦で見せたような全身全霊のオーラではなく、全身全霊の『決死の念』だ。
「ゴン!! 止めなさい!!」
『バラを倒して姉を護る。できなければ、自分の命を失う』
ここまで決意した人間を止められるわけがない。特に、言い出したら聞かないこの頑固な弟は。
そうわかっていても、叫ぶのを止められなかった。同時に爆発的なオーラがゴンから噴き出す。それはリンの、そしてサブやバラの出すようなオーラをも超えるものだった。
誓約は、リスクが大きいほど、そして覚悟の気持ちが大きいほどその威力を増大させる。
その場の思い付きにしては、明らかに重すぎるリスク。そして、幼い頃からずっと願い続けてきた『姉と肩を並べたい、姉を護れる人間になりたい』という想いは、才能溢れる少年に一時的といえど爆発的な力をもたらした。
「おい、こんなことってあるかよ……!」
外見は一切変化がないが、その小さな身体から溢れる強さが自分を遥かに上回るものだと、バラは悟った。
「あれって……念、だよな? 何をしたんだ?」
「……クラピカと同じよ。あんなレベルのオーラ、誓約に命懸けないと出せないわ」
「ああなっちゃったら、ゴンは止まらないわね。せいぜいおかしな誓約をかけていないのを願うしかないわさ」
リンが泣きたいのか怒りたいのかよくわからない表情でヘアバンド越しに額を押さえる。ゴンの性格からいつかはこういったこと……つまりその場の思い付きで命を懸ける真似をやりかねないと悟っていたビスケは、呆れながらも彼らの中では比較的冷静だ。
「こんな、やべー力を持てるモンなのかよ……」
キルアとレオリオは、クラピカがルーキーでありながら旅団の一人を倒していたのを思い出した。それが如何に危険な綱渡りであるかを再認識させられると同時に、目の前でもう一人の友人が全く同じ、むしろそれよりも危険な賭けをしようとしているのを見て冷や汗を流す。
「……」
そしてクラピカは、……自分の行いがどれだけ友人を心配させていたか、逆の立場になって改めて思い知った。
「じゃん、けん」
だが、ここまでの圧倒的な力量差が生まれたならば、盤面はひっくり返ったも同然だ。瞬きをした次の瞬間には目の前に迫っていたゴンに、バラは憎しみを恐怖が上回るのを感じた。
「グー!!!」
ゴンの拳がバラのオーラをも打ち破り、顔面を打ち付ける。何本もの歯が一気に吹っ飛び、骨が砕ける。脳が潰れなかったのは不幸中の幸いと言えるだろう。
そして勝負は、終わった。
◇◇◇
一撃ではるか後方へ吹っ飛ぶバラ。当然起き上がる気力も体力もないようで、動く気配はない。
それを見て、ゴンは自身の勝利だと感じたのだろう。誓約によって一時的な増強をされたオーラは、収束して元の状態にまで戻った。
バラの脅威もゴンの誓約による危険も過ぎ去ったのだと理解したリン達。バラの回収に向かったビスケを除き、全員が一斉にゴンに駆け寄る。
「ゴン!!」
「へへ、いたた……」
リンがほっと胸を撫でおろし、レオリオが慌てて回復をする中、ゴンはあっけらかんと笑っていた。先程まで生死をかけた戦闘をしていたとは思えないくらいに、さっぱりと。これにはリン達も毒気を抜かれてしまう。
「呆れた。よくもまあ、あんなことやるぜ」
「売り言葉に買い言葉というか……」
「お前が売ってるし、お前が買ってるぞ。どんな誓約にしたんだ?」
キルアは呆れ顔だ。数カ月前、リンがクラピカに説教するところも、制約と誓約を軽く考えることに対して怒鳴るほどに怒っていた事も憶えているはずなのに、よくまあこんなことができたなと、明らかにその顔が言っている。
「『あいつを倒して姉さんを守れなかったら死ぬ』って念じた」
「こンの馬鹿たれ! アホ!」
「ぐぇっ!」
以前よりも回復時間の短縮化と回復量の増量が進んでいるレオリオによって、ゴンの肌は皮膚が形成され、足も繋がり始めていた。最低限の回復がなされてそろそろ説教に入っていいかと思っていたところに爆弾発言が投下され、リンがゴンに拳骨を落としたのは仕方ないだろう。
ぷくりと膨れたたんこぶがすぐさまレオリオの能力によって治癒されていくのは、なかなかにシュールな光景だ。キルアが「お、引っ込んだ」と呟き、バラを回収したビスケが戻って来た。案の定、バラは気絶しているらしい。
「ね、姉さん……ごめんなさい」
「ごめんと思ってるなら、なんでするわけ? はじめっから私がやるって言ってたわよね? 途中で戦いも交代しようとしたわよね?」
「う……」
「それを拒否ったわよね? 結果として死にかけてるわよね?」
「うう……でもでも、俺なりn「制約と誓約は危ないものだって散々言ったのにやったわけだけど、それも『俺なりに』考えてたわけ? その場の思い付きじゃなくて?」
「ごめんなさいぃぃ……」
ゴンは昔から、このモードの姉には頭が上がらない。鉄拳制裁と、単調な罵倒の後に並べられる正論の嵐。言い返そうとするも、年長者の圧力と正当性で押しつぶされる。
弟とは、姉の前にかくも無力な存在だ。それは、普段こそ姉がデレデレにブラコンをしているフリークス姉弟においても、例外ではない。
「なーんかデジャヴだな」
「アレだろ。ゴンがライセンスを質に入れた時の」
「あ~」
しゅんとした表情で、ひたすら平謝りするゴン。こそこそとされるキルアとレオリオの会話は、確かに的を射ている。
しかし、リンの言葉に反論の余地はなく、また巻き込まれたくもないため敢えて何も口出しはしない。これもあの時と同じだ。クラピカでさえ、若干自分も当事者なので静観している始末である。
「……ハァ。命懸けると命捨てるは違うんだから、馬鹿」
「……うん」
「生きててよかったわ。本当に……」
「うん。……ごめん姉さん。心配かけちゃって」
リンとしても、一通り説教を終えれば、少しは気持ちも落ち着いた。ゴンの肩に手を置き、無事なのを改めて確認すると、思わず脱力する。姉の心配を理解したゴンは、申し訳なさそうに眉を下げた。
「……でも、本当によくやったわ。戦闘考察もよくできてたし、確かに確実に勝利できる手段は選んでいた。それは認める」
だが、明らかに格上の相手との戦闘において、ゴンが勝利したのは事実。プロとしてはその成果を認めないといけないという気持ちにもなっている。
「キルアも」と言って、もう一人の弟のような存在に眼を向けると、完全にこの場において部外者だと思っていたキルアはきょとんと目を丸くした。ゴンだけでなくキルアも、リンにとってはハンターとしての後輩であり、弟だ。
「正直、あそこまであっさり勝てるとは思ってなかった。安心した」
「……へへ、まあな。俺、ちょっとはハンターっぽくなっただろ?」
「っぽくも何も、ずっとハンターだと思ってるわよ。でも、二人ともすっかり一人前ね」
ストレートに認められて、キルアは満更でもない表情で頬を掻いた。一方のゴンは素直に表情に喜びを表す。対照的な二人の少年の反応に、ひとまずは戦いが終わったことを改めて全員が認識した。
「さて……。リン、こいつらはどうするつもり? ただのプレイヤーキラーじゃない以上、放っておくと面倒よ」
師匠として、ビスケはリンに確認の眼を向ける。それは、ゴン達にリンの対応を見せる意味も含めての言葉だ。リンも軽く「うーん」と悩んだ後、さっと頭の中で考えを纏める。
「ミザイさんに連絡するわ。ここまでやってれば十分にハント対象だし。監獄はゲンスルーと同じ場所になるように取り計らう」
「随分融通してやるんだな」
「まあ……。ゲンスルーに会えなくて、周囲巻き込みながら自爆されても困るし」
ゲンスルーに会うことさえできれば、サブとバラが自身にかけた念能力は解除される。それに、ミザイストム管轄の刑務所ならば、脱獄やハンターに雇われて反乱を起こす危険因子になるといった可能性もない。ある種の最善策でもある。
「でも、これが私の最大の譲歩よ。プレイヤーキラーなんてものを野放しにしてられないし、メンチやノワールに復讐しに行く可能性もあるからね」
「決まりだな。……んじゃ、次」
リンの判断に異論は起こらない。方針が一つ確定したところで、キルアが少々悪い顔をしながらサブの隣にヤンキー座りをして見せる。先程目が覚めたらしいサブは、キルアが近くに来て思わず眉を顰めた。
「殺しにまで来たんだから、そっちもやられる覚悟はあっての上だよな? どうせゲームから外に出されるんだし、カードは貰うぜ。あと余った【闇のヒスイ】も売っとく」
プレイヤー同士の戦闘が終わった以上、勝者特典は貰えて然るべきだ。そしてゴンがそういったことに向いている性格ではない以上、キルアは自分が率先してやるべきだという責任感も持ち合わせている。【闇のヒスイ】が独占状態であるらしいため、強奪は避けて通れない。
「……クソが。好きにしやがれ」
「ま、引き渡す時に頚髄の傷は治療してやるよ。そっちの気絶してる男の顔も含めてな」
「やるのは俺だけどな……」
ある種ゲンスルーに再び会うという望みが叶うからか、それともここからの逆転は不可能だと悟ったからか。サブの反応は想像以上に殊勝なものだった。隣で気絶している相棒に声をかけて起こし、バインダーを出現させるよう指示する。
「聞きたい事がある。『緋眼のプレイヤーキラー』について知っていることはないか」
ゴン達がカードを移し替えている傍ら、クラピカは静かに二人に声をかけた。それはリンとクラピカ、本来の目的だ。
同じプレイヤーキラーということで多少の望みはあるかという期待。しかし、顔が潰れているバラに代わって口を開いたサブの返答は芳しくないものだった。
「知らねえよ。少なくとも俺達は関係ねえ。プレイヤーキラーなんざ、レアでもなんでもないからな」
「……否定はしないけど、プレイヤーキラーがまかり通るのはほんと勘弁してほしいわ」
噂だけでも、何人も聞いている。特に最近はそれらの動きが活発化しているのか、それともプレイヤーキラーの人数がここに来て急増したのか。バインダーに載っているプレイヤーの名前が暗く表記されているケースが急増しているのも事実だ。
名前が暗い薄文字で表記される……つまり、ゲーム外に出ているのか、死んだか。ゴンのバインダーに載っているプレイヤーの名前は、最早半分以上が暗く表記されるようになっていた。
「ま、いいわ。一旦ゲーム外に出てミザイさんに連絡取ってみる。本人は無理でも、誰かしら近くに居るハンターを手配してくれるでしょ」
そう言ってリンは【挫折の弓】の残りを使用し、一旦ゲーム外へと出るのだった。
◇◇◇
サブとバラのバインダーからカードを全て回収した後。ミザイストムに連絡を入れるために島を出たリンが帰還するまでの間、ゴン達はサブとバラを宿屋の一室に寝かせて自分達は談話室に待機していた。
サブだけでなく、バラもキルアが念入りに頚髄を損傷させ、身動きできない状態にしてある。念のため手足は縛ってあるが、逆襲は考えづらく、自分達も一旦の休息を取ろうと判断したためであった。
プレイヤーキラーを助ける人間は普通居ない。そして、もしものこと―例えばサブとバラに怨恨を持つ者の襲撃などがあれば、すぐに駆け付けることのできる距離に居る。そのため、彼らはまた別の可能性があることを見落としていた。
「お、まえは……?」
鍵がかかっていたはずなのに、どうやったのか音もなく窓から入って来た男。意識を取り戻していたサブとバラは、視線だけで確認をした。
どこかで見たような気はしないでもない。だが、名前も知らなければ、会ったこともないであろう男だ。男は器用にするりと身体を内部へと侵入させ、当然のように声をかけてきた。
「爆弾を自らに取り付けたのか? 随分と酔狂なんだな」
視線の先には、二人の上半身。そして、心臓の位置に取り付けられている爆弾がある。
爆弾の名前は
このままいけば、カウントが0になるのは1年と少しした頃だろう。それはサブとバラの覚悟の証。いわば、『常時発動している』サブとバラ、そしてゲンスルーの念だ。
「うるせぇ……お前に何が分かる」
「いや、気持ちはよくわかる」
何が分かるものかと、応じたサブは内心思った。その感情は顔にも出ていただろうが、男はさして気にした風もなく、むしろ何かを探るように「ふむ」と一人呟く。
「これでも鎖が発動しない……問題なく除念されているようだな。テストがてら、その能力貰うぞ」
そして右手に本を具現化し、動けないサブの腕を無理やり取った。中央の手形に押し付けられると、何かしらかの念が発動したのを感じる。
光り輝いたそれは一瞬で消え失せ、何事もなかったかのように元に戻る。そして……、サブとバラが数年間身に着けていた爆弾は、跡形もない。
「使えはしないだろうが、結構レアだな。面白いものが手に入った」
当然の如く男はそう言うと、再びするりと音もなく外へと出ていく。後には二人だけが残された。切り札となる発も無ければ、以前のようなオーラもない二人が。
「畜生、畜生!!」
サブの咆哮が響きわたる。それは復讐の炎すらかき消されたことを意味するものだった。
ここでは、【命の音】を術者によって常時発動している念と捉えています。
例えばネオンの【天使の自動書記】は書いた時点で能力の発動は終了して、能力が奪われてもそれまでに書いた占いは消えません。
一方で【命の音】は爆発させるか解除するまでは能力が発動し続けている状態で、そこに【盗賊の極意】が発動した場合は発動中の能力も解除されて丸ごと奪われるといった解釈です。
余談ですが、サブとバラはハンターライセンスを所持しています。
ゲンスルー居なくなる→失意の中決心→情報収集円滑化のためライセンス取得→G・Iでカード集め→現在
【大地の鼓動】テラ・ファイア
放出系能力
地中にオーラを埋め込み、半径20センチ以内で一定以上のオーラを感知すると爆発させる能力。
術者もオーラの感知対象になるため、注意が必要。
術者が『埋め込める』と認識する箇所なら、地面だけでなく壁面などにも使用できる。
制約:術者も起爆対象になる
誓約:なし
痴漢逮捕からこんなシリアスになるとはね……。