リン=フリークスの冒険   作:夜桜百花

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魔法都市マサドラ【2】

 目標地にしていたらしいフランクリンの正面に降り立つと、二人のうちの一人……クロロは、ちらりとリンに眼を向けた。あからさまに顔には出さないまでも、少し面倒な状況であると察したらしく、眉だけが一瞬ピクリと動く。

 後ろにはノブナガも付いている。髭を捻じりながら満更でもない表情で笑い、「ようやっと除念が終わってるのが確認できたとこだ」と機嫌良さげに口を開いた。

 

「マチはどうした?」

「そのままアジトに除念師を連れてってる。ウボォーの除念もしてやらなきゃな。……んで、これはどういう状況だ?」

「丁度交渉決裂寸前ってとこ。ゲーム内(故郷)で治安悪い真似は止めてほしいんだけど、聞いてくれないからドンパチ一歩手前」

 

 リンの簡潔かつバイオレンスな説明に、クロロは今度こそあからさまに表情で「面倒くさい」と示した。どうやら、リンの前では団長の仮面がやや正確に機能しないらしい。ヨークシンでの諸々も要因の一つだろう。

 そこまで顔に出されると、流石に少しだけ傷つくリンである。だが、面倒なことを押し付けている自覚もあるので開き直ろうと心に決めた。リンの表情でそれも察したらしく、クロロは深~くため息をつく。

 

「……団長命令だ、この島からは手を引いてやれ」

(計画通り……ってとこね。プランBでクロロに丸投げって考えてたけど、こうもタイミング良く来てくれるとは思わなかったわ)

 

 クロロは、あくまで冷静かつ合理的に団長としての判断を下す。ここでリンと殺し合いをするメリットの一切の無さ、そして自分達が受ける被害の大きさを考えると、止めに入るだろうとリンは読んでいた。プランというには投げやり過ぎる面はあるが、それが最も成功確率が高かったのだから仕方ない。

 

「マジかよ団長。ちょっとリンに甘すぎんじゃねえ?」

「あのUSBはリンから渡されたものだ。借りを返す」

「……なるほどね。それは確かに借り1だ」

 

 一斉送信でアニメ吹替のデータを唐突に送り付けてきていたクロロだったが、そんな事情があったのかと団員達もざわつく。彼らのリンへの態度が多少柔らかくなったあたり、それなりに思うところはあったらしい。

 これもまた、リンが押し付け半分な賭けに出ることができる根拠だった。幻影旅団とは、意外に義理堅い面があると知ってもいるから。

 

(……取り敢えず、ベストに持ち込めたか。翻訳しといてよかったわ)

 

 除念師は見つかり、クロロの除念も完了した。G・Iのお宝さえ一旦諦めれば、彼らがこの場所に居るメリットは一切ない。リンの望み通り、ここから出て行ってくれるだろう。

 これで、クラピカ達と衝突することも、これ以上のプレイヤーキルも避けられる。取り敢えずは一件落着だ。問題さえなくなれば、リンも以前のようにクロロに気さくに話しかける。

 

「あれ、そういえばヒソカは? 除念したらタイマンとか言ってたけど、もう終わったの?」

【離脱】(リーブ)は一人ずつしか使えないからな。待ち合わせ場所を指定したら、嬉々として先に行った」

「クロロは今ここに居るけど」

「つまりそういうことだ」

 

 ヒソカを利用するだけ利用して、あっさりトンズラかましたらしい。今頃待ち合わせ場所で一人クロロを待っているであろうヒソカを想像すると、同情せずにはいられない。

 

「ヒソカ可哀そ~。もう駄目ね、これは世界中追ってくるやつだわ」

「まあ……どこかで殺しはするさ。あのレベルになると、確実に殺すのには多少準備が要るからな」

「……油断してたら、因果でパックリやられるわよ」

「わかっている」

 

 3年以内に、ヒソカによって(恐らく)旅団全員が殺される因果。それを断ち切るには、殺しに来る本人を返り討ちにしてしまうのが最も良いと判断したらしい。

 だが、それもそう上手くいくのだろうか? ヒソカ自身が簡単に殺される人間でない上に、因果なんて不確定な運の神がヒソカの味方に付く。真面目なトーンで言ったリンの言葉には団員達はピンと来ていないが、クロロだけが真剣に返した。

 

 ゲーム内に居る団員はこれで全員かと思っていたが、まだだったらしい。リン達がそう話していると、森の奥から何者かがこちらに近づいてきた。そしてなぜかリンが親しく話している状況に、戸惑った声を上げる。しかし旅団メンバーにしては、覚えの無い声だ。

 

「……これって、どういう状況?」

 

 リン含め全員がそちらに顔を向ける。そして声の主が誰かわかると、リンは思わず声を上げた。

 

「カルト?」

「……気さくに話しかけるな」

「ん? なんだ知り合いか?」

 

 ひたすらに渋い顔をするカルト。前回会ったのは、暗殺を邪魔された挙句イルミが居なければ完敗していた場なのだから、仕方ない。

 そんなカルトとリンの様子を見て、ノブナガが腕組みをしながら不思議そうに言った。そして(……誰?)といった表情をしているクロロを見て、まだカルトを紹介をしていなかったのを思い出す。

 

「悪いが、こっちでヒソカの抜け番勝手に探したぜ。除念師見つけたのもこいつだ」

「なるほどな」

「カルト、旅団に入ったの? イルミやシルバさん、よく許可したわね」

「黙れ。許可は貰ってる」

 

 カルトの塩対応に心が削られるリン。だが、これくらいではめげない。アルカともカルトとも仲良くなりたくて、隙あらば機会を探っているからだ。

 

「キルアもここ来てるわよ。知ってた?」

「……! 今は仕事中だから」

 

 キルアのことになると、一瞬妹らしい表情を見せた。(ツンデレ属性なのね……)と内心思ったリンだったが、悪態をつかれたくないので口には出さない。

 この手のタイプの対応はミルキやキルアでよく心得ている。そして弄りまくるにはまだ友好度が足りていないのだ。

 

(にしても、なんでまた旅団なんて……ああ、トルイって奴の身体探すためか。盗賊ならお宝探しも効率的にできるだろうし)

 

 裏組織に流れてる『兄貴の身体』とやらを探すなら、確かに盗賊団に入るのは理に適っていると言えるだろう。情報収集も入手も、難易度が下がる。

 以前会った時のやり取りを思い出し、カルトの裏の目的をおおよそ察する。別で目的があって旅団に入ったとはいえ、やるべきことはこなすだろう。旅団としても特に問題はない筈だ。

 

「ふうん。まあ、キルアにも教えといてやるわ。……そういえばクロロ、『緋眼のプレイヤーキラー』の噂、あの後何か聞いたりした?」

「なにも。NPCからそういう存在が居ると多少聞いただけだ」

「やっぱそうよね。私とほぼ同時期にプレイし始めたみたいだし」

 

 レイザー戦以降は会っていなかったため一応尋ねてみるが、やはり回答は芳しくないものだった。元々期待はしていなかったが、どうしたものかと眼を閉じて考え込む。だが、今ここで考えても仕方なさそうだ。

 ならば、さっさとゴン達の下へ戻ろう。そう思い口を開きかけたリンだったが、予想外にも有力過ぎる程の情報がフィンクスの口から飛び出した。

 

「ん? そりゃあ、あのガキのことじゃねえか?」

 

 名前や存在どころか、実際に会ったという。リンが続きを促すように強い眼でフィンクスを見上げると、戦う必要がなくなったからかフィンクスはあっさりと教えてくれた。

 

「ニヤニヤ笑いながら、眼を真っ赤にしてやがったぜ」

「クソ生意気なガキだったな。クルタ族の類かとも思ったが、あんなガキ居なかったよな」

「知らね。よく覚えてんのな、お前」

「覚えてねーよ。でもあんな派手な見た目のガキ、居たら目立ってたはずだろ」

「ま、どっちにせよ鎖野郎以外、俺らが皆殺ししたしな」

 

 ノブナガが口を挟み、クラピカが聞いていたら怒り狂いそうな会話が平然とされる。だが、今気にかけるべきはそこではなく、探していた人物と実際に出会っているというところだ。

 

「……つまり、一回会ったってこと?」

「ああ。軽くバチったが、あっさり逃げられたな」

「名前はわかる?」

 

 一度会っているならば、バインダーにプレイヤー名が登録されているはずだ。はっきりと名前も分かれば、【同行】(アカンパニー)でリンもそのプレイヤーに会うことができる。ノブナガは癖のように髭を弄りながら宙を見て、記憶の名前を手繰り寄せた。

 

「『モクバ』っつってたか?」

(……こんなところで繋がるとはね)

 

 モクバ。それは現在指定ポケットカード枚数トップのプレイヤーだ。そして、プレイヤーキラーであるという噂もある。カードを集めていればいずれ会えると思っていたが、まさしく正しかったわけだ。

 緋の眼を使用している念能力者の可能性だってあるだろう。大穴で、クラピカが把握していないクルタ族の一人か。どちらにせよ、油断はできない。

 

「あの子か。でもノブナガ、律義だよね。いちいち突っかかった奴に名前聞いてるんだから」

「次会ったら喧嘩する予定の相手だからな」

「いや、でもありゃあ偽名だろ。明らかに俺らを馬鹿にしてたしな」

「なるほどね。……ちょっと頼まれてほしいんだけど」

 

 そう言って、バインダーに名前を登録したいから連れて行ってほしい旨を簡単に説明する。敵対する必要がなくなったからか、あるいは恩義を感じているのか。流星街で出会った時程度の友好度には戻ったらしく、あっさりとそれは了承してもらえた。

 

「ん、別にいいよ。アニメ台本のお礼ってことで」

 

 どうやらシャルナークが代表してモクバの下へ連れて行ってくれるらしい。ピッとカードを取り出したあたり、今すぐにでも行動してくれるようだ。

 

「あ、そうだ。これあげるわ」

「何だこれ」

「【黄金天秤】。指定ポケットカードアイテム。まあ、一回アイテム化したやつだからもうカード化はできないけど、おもちゃにはなるかなって」

 

 ポケットに入れっぱなしだったのを思い出し、簡単にアイテムの使用方法を説明してノブナガに押し付ける。何か言いかけたノブナガを無視して、シャルナークはリンと共に距離を取り、【同行】(アカンパニー)を発動させた。

 

「あいつ?」

「うん、そうだよ」

 

 空中飛行をして降り立った先に居たのは、レトロゲームを熱心にやり込んでいる銀髪の少年の姿だった。テトリスをやっているらしい。

 ピコピコと、鮮やかに指を動かしては操作する。かなりの速度で落下してきているブロックを見るに、相当難易度を上げてプレイしているようだ。少年はリン達に気づくと、一瞬顔を上げた。

 

「ん? ……あ。あぁ~~~!!」

「俺達お邪魔だったみたいだね」

「あとちょっとでベストスコアだったのにもー!」

「あは、なんかごめんね~」

 

 リンもシャルナークもそれなりにゲーマーなので、こういう時の無力感はよくわかる。少しは悪いことをした気持ちになるというものだ。にしては、シャルナークの謝罪は軽薄なものだが。

 

「それ悪いと思ってないだろ!」

「いや、流石にちょっと思ってるわ。悪いわね」

 

 そう言いながらも、モクバを観察する。緋眼の少年と聞いていたはずなのに、ベストスコア更新を逃したと足をばたつかせる少年の瞳は鳶色だ。

 

(……これは本格的に、緋の眼説があるわね。あるいはクルタ族か)

 

 これで興奮時に緋色になるのなら、間違いない。クルタ族なのか、緋の眼を使用する念能力者なのか。一つ言えるのは、緋の眼になる以上その眼は道具や装飾品のように扱われているのではなく、少年の眼球として埋め込まれた瞳そのものであるということだ。

 テトリスをする気は失せたようだ。一通り悔しがったあと、少年は立ち上がりリン達をじろじろと見つめた。

 

「んで、誰? ……あ、片方はこの間会った兄ちゃんだな。もう片方の姉ちゃんは?」

(……いや、もしかしたら)

 

 身長はクラピカより上くらいか。年齢はゴンやキルアより少し上くらいに見える。リンよりは少し幼そうだ。しかし、その雰囲気は異質なものを感じさせる。

 その正体は、明らかに年相応の少年ではなさそうな、例えるならばビスケのようなちぐはぐ具合。念能力者においてはそう珍しいことではないとはいえ、見た目通りの年齢ではなさそうだ。

 

「ちょっと君に用があってね。……確認したいんだけど、クルタ族だったりする?」

「うん? ……違うけど」

(クルタ族じゃない。けれど、緋の眼になる。やっぱり……)

 

 リンは、電脳ネットワークに登録されている全ての民族を把握している。現存する民族だけでなく、クルタ族のように過去200年の間に絶滅したとされる民族さえもだ。

 しかし、緋眼になる民族はクルタ族以外に聞いたことがない。訝し気に考え込むリンに、モクバは不満そうに唇を尖らせた。

 

「来て早々に質問ってどうかと思うぜ? 姉ちゃん、何しに来たのさ。名前は?」

「……リン。今日はバインダーに名前を登録させてもらいたかっただけよ。その内また会いに来るわ」

 

 今日の目的は、あくまでバインダーに名前を登録するだけ。モクバとの交渉、もしくは決戦はまだ後に回しておいた方がいい。緋の眼の件にせよ、カード争奪戦にせよ。そして本格的に対峙するときはゴン達も一緒に、だ。

 

「ん? あ、もしかして。……ふぅん、なるほどねぇ」

 

 モクバは何かを考えるようにリンを見つめ続ける。そして合点がいったようにポンと手を打つ。

 しかし、それ以上は何も言うことなく、そこで会話を打ち切るのを了承してくれた。そして、良い玩具を見つけたと言わんばかりにニヤリと笑う。

 

「んじゃ、その時を楽しみにしてるわ」

 

 不穏な笑顔だ。それは例えるなら、ジンとパリストンを足して二で割ったようなもの。リン自身も持つ一面でありながら、それよりも不穏なものだ。狩人の匂いを感じさせると共に不気味さを感じさせる何かも滲み出ており、リンは無意識に父親を思い出していた。

 

(……同族の匂い? とはちょっと違う気もするけど……)

「もういい? じゃあ、行こうか」

 

 喧嘩なら買うのだろうが、可能ならばあまりモクバと関わりたくなかったのだろう。会話が打ち切られたのを判断すると、シャルナークによって【同行】(アカンパニー)が唱えられ、リンの身体はクロロ達の下へ運ばれる。モクバは笑いながら手を振っていた。

 

(……モクバ、ね)

 

 正直なところ、心当たりはある。だが確信がなく、そしてあまりにも突飛な推測だ。ここではまだ判断しきれないと、空を飛びながらリンは考えるのを止めた。

 

「だっはっは!! 良かったな団長、リンのお兄ちゃんやっててよ!」

「……」

 

 到着したリン達を出迎えたのは、野郎ども中心の笑い声だった。どうやら、クロロ達は黄金天秤で遊んでいたらしい。賑やかな爆笑の渦が湧いている。

 何を尋ねていたのかはわからないが、不服そうなクロロをよそにノブナガ達は大ウケだ。フランクリンでさえも笑いを堪えているあたり、相当面白い何かがあったらしい。

 

「……お、噂をすれば帰って来たか」

「助かったわ、シャルもありがと。とんでもない収穫だったし、お礼しなきゃね」

「どうせなら弾んでくれるんだよね? ウボォーの除念もじきに済むから、鎖野郎の命とかが良いな」

「それは流石に無理かな~」

 

 こんな所で緋眼のプレイヤーの正体がわかるとは思わなかったため、素直に感謝するリン。

 

「盗賊パシておいて礼も無しか。お里が知れるな」

「フェイ、それブーメランだぜ」

 

 フェイタンにはピキリと来たが、気にしないことにした。そして、流星街より治安の悪いお里は中々ないだろう。フランクリンが少しだけ笑いながら冷静にツッコむ。

 

「ま、でもお礼はするわ。ブック。………ゲイン」

 

 本当は、クラピカに渡すつもりでこっそり入手していたカードだったが。数も多いことだし、良いだろうとここでカードを取り出す。呪文を唱えると、カードはボウンという音と共に葉書の束に変化した。

 

「ンだこれ」

「【死者への往復はがき】。死んだ人にメッセージ書いて一晩経つと、ガチの本人から返事が書かれてる。……あ、そんなにいらないだろうし、私も少し分けて」

「殺した奴に懺悔しろってか? ンな暇な真似できるかよ」

 

 リンが旅団の過去を知っていることを知っているのは、クロロだけだ。フィンクスが勘違いしたらしく、少し苛ついたように文句を言う。そんな事を旅団がするとは思っていないので、リンも300枚程葉書を抱えると、サクッと訂正した。

 

「違うわよ。昔の友達に書いてやればって言ってるの。私も、サラサにファンレターでも送ろうかしら」

 

 当然のように口にされた旧友の名に、カルト以外の全員がざわりと表情を変えた。唯一フランクリンだけは、クロロがリンを墓参りに同行させていたのを知っていたため、無言で目を伏せる。

 

「お前、何を知って……!」

 

 どこでその名を聞いたのか、そう聞きたくてたまらないのだろう。そんなフィンクスの表情は、なかなかに見ものだ。このままにしておく方が面白いと、リンはいたずらっ子のようにニヤリと笑う。

 

「んじゃ、バイバーイ」

 

 クロロが何か言いたげな表情をしているのが見えたが、これはリンの完全な自己満足だ。【磁力】(マグネティックフォース)をゴンへ向けて発動させると、リンは再び空の旅へと向かうのだった。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 一切の傷もなく戻って来たリンを、その場で変わらず待機していたらしいゴン達は一斉に出迎えた。戦いにはならずに済んだと軽く事情を説明するも、本当かと疑わしい目で見られるリン。日頃の行いである。

 自分のことを棚に上げて(二つの意味で)過保護過ぎるゴンを宥めた後、丁度良い機会だからとクラピカに抱えていた葉書を渡す。ずしりと少し重みのある葉書の束を、クラピカは訝し気にしながらも素直に受け取った。

 

「あ、カルトに会ったわよ。幻影旅団に入ったみたい」

「はあ? なんで旅団なんかに」

「たぶんだけど、死んだ兄貴の身体を探してるみたい」

「兄貴?」

「イルミの上にも一人居たらしいわ。とっくに死んでるみたいだけど、その身体が裏マーケットで出回ってるとか」

 

 葉書を渡しながら、カルトのこともキルアに伝えておく。「マジかよ……」と驚くキルアだが、その長男も死んでいるのならば、今はそれ以上言うことはない。少し考える素振りをした後、クラピカの手の中に移された葉書に視線を戻す。

 本当はもう少ししてから渡すつもりだったが、これも流れというやつだ。サブ・バラとの戦いの後でもあるし、SSランクのカードを攻略する前にそんな時間があったって良いだろう。

 

「これ、【死者への往復はがき】。クラピカに渡したくて、こっそり入手してきちゃった。あ、保存用もあるわよ、はいゴン」

「Sランクだ……! ありがと姉さん」

「死者への……往復はがき……?」

「足りそう? ちょっと流れで、旅団にも配ってきちゃったのよね。あ、レオリオにも、ハイ」

 

 そう言って簡単にアイテムの説明をすると、クラピカはハッとした表情で顔を上げた。リンがクラピカに、両親や友人、同胞達へのメッセージを送れと言っているのはすぐにわかることだ。

 

「あいつらに書きたい相手なんか居るのか?」

「ま、居るかもしれないじゃない?」

 

 悪逆非道の幻影旅団が死者を想うなんてことをするのか? と首を傾げるレオリオ。リンとクロロのやり取りや、先程交渉をして生還してきたことから、意外と話が通じることはわかっているが、それでもそのような情緒があるのかは怪しいと思っているらしい。

 リンも彼らの事情を深く話すつもりはない。それを察してじっと葉書を見つめると、レオリオは柔らかい表情で微笑んだ。

 

「ま、良いか。死んだダチにでも送ってみるかな。……ありがとよ、リン」

「いいなあ、俺も使ってみようかな」

 

 リン達のやり取りを見ていたゴンが、少し羨ましそうに言った。もちろん他意があるわけではなく、単純にせっかくだからアイテムを使ってみたい程度の感情だ。だが使いたくなる相手が居ないだろうと、リンは思わずツッコむ。

 

「知り合いで亡くなった人居ないのに、誰に使うの?」

「ん~…カストロさんとか?」

「誰それ」

「天空闘技場でヒソカに殺された奴。…お前に手紙貰っても、あいつそこまで嬉しくねえと思うぞ」

 

 キルアが呆れたように解説とツッコミを入れる。しかし自分も気になったようで、一枚だけクラピカから受け取った。誰に書くか、それが一番の問題だ。

 

「ビスケはいいの?」

「私はいいわさ。過去は振り返らない主義なのよ」

 

 リンとビスケのやり取りがされる中、クラピカは手の中の葉書をぎゅっと握りしめて小さく呟いた。その声はか細く、震えている。涙を堪えていたのだろう。

 

「……礼を言う」

 

 そんなクラピカを見たレオリオがニヤリと笑い、クラピカの頭をくしゃりとさせる。情けない顔をリンに見せないようにと、隠すように、強く。

 

 それから数時間後。本来ならばこのまま【一坪の密林】攻略に動いていたのだろうが、その前に小休憩を挟もうと提案したのはリンだ。クラピカが仲間達に葉書を送りたいであろうことは全員が察していたため、異論は出なかった。

【死者への往復はがき】をリンが保存用にもう一枚入手していた事もあり、意図せずゴンのバインダーにもう一枚のSランクカードが入って来たというのも大きい。これで88枚、残りは11枚だ。まだゴン達には伝えていないがモクバの所在も分かったことだし、少しくらいはホテルでゆっくりと過ごしても構わないだろう。

 

 ここまでゲームを進めていれば、指定ポケットカードのダブりも数多くある。使って楽しんだ方がいいと助言されたのもあり、ゴンとキルアはアイテム化させては色々試すという遊びを繰り返していた。部屋に籠って葉書を書いているクラピカは別として、ビスケもその様子を興味津々に眺めている。

 

「おおっ! ドラゴン!」

「こっちは少女シリーズ! やっぱ全員並べると雰囲気出るぜ!」

 

 片方には手乗りのドラゴンや人魚、もう片方にはキャバクラかと思わせる美少女達。ゴン達の興奮具合はかつてテストプレイしていた頃の自分を見ているようで、微笑ましい気持ちになる。弟達が愛し過ぎて、気づけば葉書を書くペンも止まるというものだ。

 

「リン、お前は誰に書くんだ?」

 

 ゴン達の様子を眺めながらも、ペンを耳に引っ掛けながらうーんと唸るレオリオ。ちらりとリンに向けられた眼は、少しばかりの好奇心と、当然の如く自分も葉書を持っているリンへの驚き、心配などが含まれている。

 

「レオリオと同じよ。友達」

「……そうか」

 

 それもそのはず、リンはこれまで自分の身の回りに死者が居た事など、一言も言っていない。この中で知っているのはビスケとキルア(後、リンは知らないがクラピカ)くらいだ。

 

「なんつーかよぉ、改めてこんな機会ができると、何書けばいいかわかんねーもんだな。言いたい事はいっぱいあるんだけどなぁ」

「わかるわ。足りなかったら、クラピカから少し貰ってきたら?」

「いや、一番伝えたい事があるのはあいつのはずだからな。……よーし、書くかぁ!」

 

 そう言うと、レオリオは気合いを入れて机に向かう。溢れ出す言葉の中で最も伝えたい事を、真剣に吟味しているようだ。

 

(……っと。私も書かなきゃね)

 

 くるくるとペンを回しながら、リンも葉書を見つめる。暫く見つめていると、自然と頭の中で文章も纏まって来るもので。一度ペンを走らせ始めるとそこからは早かった。

 

 ルカス、久しぶり。また手紙が書けるとは思ってなかったから、正直ラッキーだったって思ってる。クラピカやクロロ達のためなんてイキってたけど、本当は自分のためだったのかも―

 

(……ん。こんなもんかしら)

 

 リンがルカスに手紙を送るのは二回目だ。本当に伝えたかったことはあの時伝えていたため、当時のような緊張もない。その日は期待と共に穏やかな気持ちで眠りについた。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 次の日。起床して真っ先に机に置いていた葉書を確認したリンは、返信欄に丁寧な文字がびっしりと埋まっているのを確認した。あの時と同じように、ルカスの性格をよく示している文字だ。

 

『よお、リン。久しぶりだな』

 

 あの時と同じく、一言目はなんて事の無い挨拶だった。実はルカスは死んでいるのではなく、たまたま会えていないだけではないかと錯覚するような文言だ。

 

『お前らを見てると、やっぱ楽しいわ。全員あちこちで面白いモン、ハントしまくってるんだもんな』

「……ふふん」

 

 空は広く、どこまでも果てしない。死んだ人は空に昇り、家族や友を見守るのだと言った人の言葉は、案外的を射ているのかもしれない。

 ルカスは今も、リン達の傍に居てくれるようだ。しかし、その後に続く言葉に少しだけ気持ちが暗くなった。

 

『でも、ちょっとだけ思ったりもする。もし俺がお前の隣に並んでたら、どんなハンターになってたんだろうって。お前の弟やそのダチを見てたら、余計にな』

「……」

 

 リンが、何度も思ってきたこと。特に、ゴンやキルアの姿を見ていると何度も想像させられたことを、ルカスは同様に思っていたらしい。【死者への往復はがき】のシステムを正確に理解しているわけではないが、この言葉がルカスの本心だということだけはわかった。

 死人を生き返らせる方法は、存在しない。ルカスは何年も前に死に、とっくに骨になった。生命エネルギーは大気に紛れて霧散し、リン達の傍に居ながらも、そこには存在しない。それはとても不思議な、それでいて酷く悲しい気持ちになる。

 

『……っつーのも変だな、悪ぃ。お前の地雷踏みたくもねーから訂正しとくけど、あれは俺の責任だしあの時の選択を後悔はしてねえ。それだけははっきり言っておく』

 

 だが、ルカスはリンがそんな気持ちになるのを望んでいないのも、この文面からよくわかった。気持ちを切り替えようとしているのがわかる文章に、ふとルカスの強い瞳で前を向いている時の横顔を思い出した。

 あの美少年は、成長すればかなりのイケメンになっていたんだろうなと思いつつ、返信の続きに眼を落す。

 

『ああ、そうだ。俺は死んだから成長しねーけど、それでもハンターらしい面があったんだぜって所、見せとくよ。お前の未来を予知しといてやる』

(未来……?)

『リン、お前は近いうち、囚われの姫を助ける王子様になる。……なんてな。もしよければ、ついでにうちの親父とお袋にも手を貸してやってほしい。意味はその時にわかるぜ』

 

 よくわからない未来予知だ。ゲーム内にはもうお城関係のイベントはないし、そもそもゲーム内のイベントを指しているのならば、カキン在住であるルカスの両親が話に出てくるはずがない。

 そもそも、リンはルカスの両親に会った事もない。当時会いに行こうと思った事もあるが、謝罪することで許されようとしている自分に気づき、嫌になったからだ。ルカスは一体、リンが何をすると思っているのだろう?

 

『なんて、これハンターっぽくねえか? 先読みスキルもハンターの手腕、だろ? 精々その時に崇め奉りやがれ。……じゃあな、頼んだぜ』

 

 文章はそこで終わっていた。不思議な言葉も添えられていたが、ルカスが言うにはいつかわかるらしい。それなら精々、こちらもどんな展開になるか推測しながらもその時を楽しみに待っておこう。

 

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