リン=フリークスの冒険   作:夜桜百花

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城下町リーメイロ【4】

『優勝は……プレイヤー名、モクバ選手です!』

 

 99問に渡る、指定ポケットカードに関連したクイズ大会。プレイヤーの一人一人が真剣に回答していたが、優勝したのは94点を獲得したモクバことトルイだ。

 

「うわ、負けた……!」

「意外とちゃんとプレイしてたんだな」

「俺が殺したのは、喧嘩売って来た奴だけだしねぇ。カードはわりかし自分でとってたぜ」

「それは感心だわさ」

 

 これまでせっせとカードを集めてきたゴンやキルアも良い点は取っていたものの、自力で入手したカードの枚数が違う。トルイが一位になったのはそうおかしいことでもない。

 ちなみにリンは、普通にイベントの詳細を忘れていたので、それほど高い点数にはならなかった。情けない順位と点数を映し出すバインダー、前回は一位プレイヤーのみ得点が発表されるシステムだったのに、アップデートによって地味に変更された仕様に父親の悪意を感じ取る。

 

「やっぱ、中途参戦じゃ厳しいわなぁ~」

「リンはどうだったんだ? 前回クリアしたのならば容易いと思っていたが」

「……私だって、あの時は貰ったのが大半だったし。3年も前なんて細部まで憶えてないし」

 

 クラピカやキルアに馬鹿にされたくもないので、画面に表示された得点を見なかった事にしてそっとバインダーを仕舞ったわけだが。

 何処からか鳥の羽音が聴こえてきて、リン達は上空を見上げた。梟が手紙を加えて、トルイの下まで飛んでくる。そして手紙を落とすと、再び何処かへと飛び去ってしまった。

 ひらひらとうまい具合に、その手紙はトルイの手元まで落ちてくる。それはボウンと音を立てて、一枚のカードになった。トルイはカードを手に、ぴらぴらと振って見せる。

 

「【支配者からの招待】だって」

「ふーん。GMが待ってて、そこでカードを貰えるって感じぃ?」

「……」

 

 明らかに重要なカードを、トルイが入手した。つまり、またしてもそのカードを賭けて戦わなければいけないのではないか。一瞬そう危惧したキルアだったが、トルイはあっさりとそれをゴンに手渡す。

 

「……ほら、お前らにやるよ」

「え、いいの?」

 

 キルアとは反対に、そこまで深くは考えていなかったゴン。なんとなく悪いような気がしてまじまじとトルイを見つめる。キルアの「いいの? じゃねーよ」だとか「あいつの気が変わらねーうちにさっさとバインダーに入れろ」の視線には、気づかなそうだ。

 だが、トルイはそんな気配を全く見せない。手を引っ込める様子もなく、早くしろと言わんばかりにカードをひらひらとさせている。

 

「俺、これでもお兄ちゃんだからさぁ。それくらい譲ってやるよ」

 

 どうやら、自分達をハメる意図はないらしい。どういう心変わりなのかわからないが、素直に受け取っても良さそうだ。

 仮にも実の兄にここまでしてもらうのだから、何も言わず受け取るのも少し気が引ける。ゴンと対照的に疑っていただけに、キルアは少し居心地が悪い心持ちになる。

 

「……サンキュ、トル兄」

 

 そんなキルアが渋々ながらも礼を言うと、トルイは驚いた様に目を見開いた。それは、キルアの表情とよく似ているものだ。

 

「……結構悪くねーな、それ。俺も、もうちょい早く弟が生まれてたら違ったのかな~」

 

 一瞬だけ泣きそうな表情を見せた後、照れを隠すように、鼻の下を擦りながら笑って見せる。キルアのなんでもない一言は、トルイにとっては無意識に欲しくて仕方なかった言葉だったのだろう。

 

(転生云々よりも、弟相手にする(こっちの)気持ちの方がよっぽど理解できるわ。……こいつも、ただの兄貴らしい面があったのね)

 

 大好きだった登場人物との、心からの関わり。そしてそれ以上に家族との何気ない会話を、トルイは心底欲していた。その気持ちを一番理解できるのは、皮肉なことにリンだ。

 

「クラピカ、もうトルイの拘束を解いて良いと思う」

「まだ油断はできないと思うが……」

 

 リンの言葉には少し賛同しかねるという態度のクラピカ。当然だ、ここでトルイを解放するのは、感情論以外のなにものでもないのだから。

 

「念で操作もかましてるし、今見てる感じだとこれ以上の危険はないわ」

「けど、大丈夫かぁ? 何かあったら冗談じゃ済まねえぞ」

「トルイの気持ちもね、ちょっとだけわかるからさ。こいつもブラコンの素質あ……」

 

 しんみりした空気で話すリンを遮り、空からまたしてもプレイヤーがやって来た。ドスンと着地し、土埃が舞う。取り敢えず、その場の雰囲気も一緒に吹き飛んだ。

 今までに出会った事があると記憶しているプレイヤーでもなければ、リン達に友好的な雰囲気で接しようというわけでもない、2人の男達だ。文字通り、年若いチームに対して舐め腐ったような表情を向けてくる。

 

「へへへ……お前らを倒せば俺らが楽してゲームクr「あーもう! 今いい感じのところなんだから邪魔すんなハゲ!」

「えぶっ!」

 

 良い感じのところに水を差されて、リンが苛立ち紛れに蹴りを繰り出した。当然だが、大したプレイヤーでは無かったので一発K.O.となる。お約束というやつだ。ついでにもう一人もグーで倒しておいた。伸びた状態の男が二人、即席で出来上がる。

 

「……コホン。仕切り直して……、『油断できない』ことが起こったら、その時は私がもっかい捕まえるわよ。次は容赦しない。……それで良いわね? トルイ」

 

 これまでのギャグめいた邪魔をなかったことにして無理やり話を進めるリン。非現実的なやり取りを現実にやって見せるリンに、トルイはなんだかおかしくなって笑ってしまった。別世界から転生してきたくせに、それも知っている漫画の世界にやって来たくせに、なんて違和感のない言動をする奴だと。

 でも、それはこうして話しかけられている自分も同じかもしれない。不幸な環境で絶望して自暴自棄に悪の道を突っ走っていた奴が、主人公達の言葉によって立ち直る。よくある展開じゃないか。

 リンの言う通り、今この世界の自分が全てなのだろう。残酷でくそったれな世界だが、それでも自分はこうして生きている。生まれも育ちもどうでもいい、今ここに居る自分が全てだ。

 

「はぁ〜、……ツメが甘いとこまでジンそっくりなのな」

「あんた、もうそれわざとやってるでしょ」

「やっぱわかるぅ?」

 

 鼻の下を軽く擦り、いたずらっ子のように笑ってみせる。その顔は、今まで見たトルイのどの表情よりも無邪気なものだった。

 

「そんなら、俺はお暇するわ」

「どこ行くんだ?」

「取り敢えずゲームの外。クリアできないし、目玉を奪う気もなんか失せた。ここに居る意味はないからな」

 

 そう言うと、バインダーに残されていたカードを漁り、【離脱】(リーブ)を取り出す。ここまでカードを集めてきたコアプレイヤーにしては、あっけらかんとした反応だ。元々ゲームクリアは二の次程度に考えていたからか、それともリンが【浅はかな催眠術】(メズマライザー)を使用したからか。真実はわからない。

 

「あ……それと、これな」

「はぁ?」

 

 思い出したようにリュックから紙切れを取り出すと、ささっと何かを書き込んでリンに渡す。渡す際に四つ折りにされたそれは、今全員の前で開いても良いものなのか、いまいちわからない。

 

「んじゃ、またなー! 【離脱】発動(リーブ・オン)!」

「あ、ちょっと!」

 

 特に何も言われず、少し笑いながらトルイはゲームを出て行った。何かイタチの最後っ屁のようなものなのではないかと、レオリオが警戒で軽く『凝』をしつつメモ用紙を見つめる。

 

「爆弾とかじゃねーだろーな……」

「レオリオ、爆弾魔(ボマー)に引っ張られてるわよ。トルイはそういうタイプじゃないわよ(たぶん)」

「じゃあ、ラブレターとか?」

「もっと違うでしょ、色んな意味で」

 

 何がどうなればそんな発想になるんだ。レオリオの考えは常識的なのか非常識的なのか、時々わからなくなるリンだ。

 折りたたんだ状態のまま光に透かして中身を軽く確認すると、ポケットに仕舞う。このメモについては後で考える、でよさそうだ。

 

(トルイの持つ緋の眼もどう奪取するか考えておかないとね。クラピカもゴン達の前で奪う気はなかったみたいだけど、いつかはまた殺し合いになるわ)

 

 ゴン達の手前、クラピカもここでの行動は憚られたらしい。だが、トルイは緋の眼の所持者だ。いずれ非道な手を使おうと、強奪すべき対象である。クラピカの複雑そうな表情が、それを如実に語っていた。

 

「……そんな事より、招待状よ! リーメイロじゃない?」

「うん。……証を持ってる者のみって書かれてる。一人しか行けないのかな?」

「俺らは城の前で待ってるよ。ゴン、行ってこい」

「うん!」

「リーメイロは私が行ったことあるわ。【再来】(リターン)使って、先に待ってるわね」

 

 そう言ったリンが一足先にリーメイロへ向かう。数分後にゴン達も【同行】(アカンパニー)を使用し、同じくリーメイロへ。向かう先は城だ。

 

 前回クリアした時は、リンが代表としてドゥーンとリストに会いに行った。だが、今回はゴンに譲り、リンはキルア達とのお留守番。城の前にあった小さな広場でぼんやりと空を眺めて時間を潰す。傍らでは、メイメイが蝶を追いかけている。

 

「……あ、そうだ。カルトに報告しなきゃ。幻影旅団って今もゲーム内に居るかな」

「あー、今思えばカルトが探してたのって、トル兄のことだったんだな。死んだって勘違いしてんのか」

 

 とっくに蜘蛛全員がゲームから出ている可能性が高いが、念のためバインダーを確認しておく。喜ぶべきかさっさと旅団は出て行けと怒るべきなのかわからないが、カルトの名前はまだ色が濃い状態でバインダーに登録されていた。

 忘れないうちに、と【交信】(コンタクト)を使用し、カルトとの接触を図る。そんな二人の様子に、クラピカ達も何をしているのか気になったらしく集まってくる。

 

『……なんだ』

 

 最悪無視される可能性も考えていたが、カルトは意外とあっさりリンの着信に応えてくれた。かなり不機嫌そうではあるが。

 

「ちょっと聞きたい事があるんだけど、いい?」

『嫌だ』

「リンが喋ったらカルト話してくれねーだろ。俺がやる」

『キルア兄さん?』

「……」

 

 口に頬張っていたチョコレートを飲み込むと、さっさとリンに戦力外通告をするキルア。何も言い返せないので黙ってバインダーを預けるが、納得できないと顔に浮き出ているリン。

 キルアが代わると、カルトはわかりやすく嬉しそうな声を出す。簡単にこちらの状況を説明すると、息を呑みながらもカルトは真剣に話を聞いてくれた。リンが話すよりは間違いなくスムーズに事が運んでいる。

 

「……ってなわけで、トルイに会ったんだけど。俺は上にもう一人兄貴が居たなんて知らなかった。カルトはなんで知ってたんだ?」

『トルイ兄さんの存在を知ったのは偶然。ある時他の兄弟がいる可能性を知って、母さんに問いただした。そしたら、イルミ兄さんの上にもう一人居たことがわかった』

 

 カルトがぼかした言い方を選んだためにリン達は気づくことがないが、それはカルトの紙占いによるものだ。当時、兄弟達を対象に念で紙占いをして遊んでいたが、まったく知らない反応が出た。

 訝しんだカルトだったが、ゾルディック家の人間ならば何か予想外のことをしている可能性もあると思った。そして、独自の捜索を続けていたのだった。

 

『それから調べていく中で、トルイ兄さんが生きてることがわかった。それで、探してた。遺体を探してるのも嘘じゃない。ブラックマーケットで流れてるって噂があるから』

「なんでそんなことを……?」

『兄弟、皆で居たいと思ったから。トルイ兄さんが従わなくても、操れば良い』

「怖っ」

 

 キルアはもちろん、リン達は寒気が走るのを感じた。平然と操る発言が出てくるあたり、カルトもカルトでかなりの感性の持ち主だ。その異常性に、思わずレオリオが本音を溢す。カルトは何も言わなかったが、バインダー越しでも殺気が飛んでくるのが分かった。

 

(操る……あれ? 操作系は早い者勝ち、トルイってもう【浅はかな催眠術】(メズマライザー)で操ってる状態だから、操作は無理かも……)

『耐えるのは慣れてる。何年かかっても、兄さんを取り戻す』

 

『じゃあ、またねキルア兄さん』と声がして、通信は切断された。うっかり気づいてしまった事実は、リンの胸の内だけに仕舞っておくことにする。バレたら更にカルトに嫌われそうだ。

 

「……やっぱ、あんた以外大概皆ズレてるわよ、ゾルディック兄弟」

「そうだけど……兄貴達に言ったら文句言うだろうな。お前に言われたくねーって」

 

 ゾルディック家と別のベクトルではあるが、フリークス家も十分にズレている。レオリオは『どっちもどっちだ』と言いたくなったが、面倒なのでやめておくことにした。

 クラピカとビスケも全く同じことを思っているのが表情で伝わり、互いに黙って頷き合っておく。リンがじとっと疑わし気に彼らを睨みつけていると、ゴンが戻って来たのだった。

 

 とうとう、ゴン達がG・Iをクリアした。

 花の首飾りをかけられ、高級そうな車に乗せられて凱旋する。各町の全ての住民たちがリーメイロに集まり、クリアプレイヤーを称賛する。花びらや紙吹雪が空を舞い、リン達の視界を彩った。

 そして、式典の後に城で開かれた大規模なパーティー。ゲーム内の一流シェフキャラたちが作った、絵にかいたようなご馳走を振舞われる。

 高難易度のゲームをクリアしたプレイヤーを、心からもてなすためにつくられたシステム。それは、ゲーム開発者からの感謝と祝福の証だ。リン達はそれを心から楽しんだのだった。

 

 クリア特典は、指定ポケットカードを3枚だけ、現実世界に持ち出せる権利だ。当然リンやクラピカ、レオリオはその権利を辞退し、ゴンに譲っている。

 そんなわけで、城の宿泊部屋にてゴン、キルア、そしてビスケが報酬の話をしている間、リンは一足先に風呂に入っていた。さっと汗を流すと部屋着に着替え、ペタペタとサンダルでゴンの部屋へと向かう。ゴン達のカードのチョイスも気になるところだ。

 

(ドゥーンったら、開口一番に「ジンにますます似て来たな!」ってほんとにノンデリなんだから……。ここ来てからそれ言われるの、何回目かしら……)

 

 思い出すのは城のパーティーでドゥーンやリストと数年ぶりの再会をした時の事。腹が立つ反面、ノアの映像で観たジンは確かにリンによく似ていた。トルイの指摘通り、顔立ちそのものはゴンに似ているが、雰囲気や目元はリンと瓜二つ。否定もできないので、忌々しいことこの上ない。

 

「私も混ぜなさいー!」

「……」

 

 扉を開けて部屋に戻る。……や否や、ビスケにぶっ飛ばされて天井にめり込むゴンとキルアの姿が視界に入った。パラパラと欠片が地面に落ち、二人の身体はプラプラと揺れている。直ぐに天井から抜け出していたが、かなり痛そうだった。

 

「どうしたのよ急に」

「この子達が、わけわかんない話ばっかりで混ぜてくれないのよ!」

「大人げねーよ、ババアなのに……」

 

 ビスケの剛腕によって、キルアが再び天井にめり込む。高級な城なのに、一晩のうちに穴が三つもできてしまった。修復は大変そうだ。

 

「この光景見られるのも、今日が最後かもね」

「確かに」

 

 丁度、リン同様に部屋に戻って来たクラピカとそう頷き合う。部屋のキッチンでは、コーヒーを入れながら三人のやり取りを眺めていたらしいレオリオが苦笑いしていた。

 

「で、何の話をしてたのよ」

「このカードを外の世界に持ち出したくて」

 

 話の流れが分からなかったのはビスケだけではなく、レオリオもだったようだ(ビスケと違って大人なので、ぶん殴りはしなかったが)。リンが話を戻すと、レオリオも人数分のコーヒーを持って全員の輪に加わる。

 リンとクラピカはゴンのバインダーを覗き込んだが、ゴンが開いていたのは指定ポケットカードのページではなかった。それはフリーポケットのページで、呪文(スペル)カードやダブりのカードが雑多に収納されている。

 

【同行】(アカンパニー)……呪文(スペル)カードを持ち出すのか?」

「ああ。で、指定ポケットカードしか持ち出せねーから、【贋作】(フェイク)にして持ち出す必要があるんだよ。それを解除するのに【聖騎士の首飾り】も要るよなって話してたわけ」

 

 どうやら、そのあたりでビスケの鉄拳が入ったようだ。ゲームに弱いビスケは【同行】(アカンパニー)の意図どころか、【贋作】(フェイク)と【聖騎士の首飾り】による偽装も分かっているか怪しいだろう。ゴンの目的が読めたリンは、何も言わずに黙ってゴンの話を聞く。

 

「理解はできた。だが、それを使って誰のところに行くんだ?」

「まさか親父さん、か? バインダーに名前、あるのかよ?」

「うん。俺のバインダー、姉さんの名前が二番目に入ってるんだ。それで一番目は、『ニッグ』。GINGのアナグラム……そうだよね、姉さん?」

「正解よ、流石ねゴン」

 

 大正解。父親がアナグラムで名前を登録する様子を見ていた当時を思い出しながら、リンはニヤッと笑った。そんな裏技があったか、とレオリオとクラピカが感心したように声を漏らす。

 

「お前らの親父さん、やるなあ……そんな手があったのか」

「だな。一見情報が無いように見せかけて、活路を残していたのだな」

 

 息子がゲームクリアする前提で、更に一見思いつかないような攻略法を残しておくなんて、ハンターとして見習うべき思考回路だ。だが、父親の嫌らしさはこれだけにはとどまらない。ここまでわかったのならいいかと、リンは更に付け加えた。

 

「そこまで自力でわかったのなら、教えてもいっか。【同行】(アカンパニー)は親父のところには行かないわよ」

「え!?」

「昔、親父がエレナさん……GMの一人に指示するのを聞いてたのよ。赤ん坊のあんたを抱えながらね。【同行】(アカンパニー)だとカイトのところに向かうようになってる。親父の方へ行くのは、【磁力】(マグネティックフォース)だけよ」

「そっか。やっぱ俺、姉さんとジンと、ここに来てたんだね……」

 

 ゴンが少し嬉しそうにそう呟いた。幼少期から父親と関わりがなかったゴンにとっては、憶えていなくても父親が自分と共に居たのだとわかるだけでも嬉しいのだろう。

 だが、当初の目論見が外れてしまった。ゴンは【同行】《アカンパニー》で、それも可能ならば友人全員でジンの下に行きたかったが、【磁力】(マグネティックフォース)は一人しか移動できない。

 

「二重トラップかよ……」

「てか、そんなことネタバレしていいのか?」

「どうせ【同行】《アカンパニー》で友達いっぱい連れて来られたら恥ずかしいからとか、しょーもない理由だから良いのよ。三十路のおっさんの照れのせいでゴンの努力が無駄になったら可哀そうでしょ」

 

 そう、リンがわざわざ教えたのは、これが理由だ。今となっては恥ずかしさの陰に隠れたジンの意図も少しだけわからないでもないが、それ以上にリンはブラコンなので、ジンの照れよりも当然ゴンを優先する。キルアが少し残念そうにゴンに顔を向けた。

 

「んじゃ、お前ひとりで行くしかねーな」

「皆の事、紹介したかったのに……」

「そういう奴が親父なのよ、諦めなさい」

 

 リンがそう言うと、ゴンは残念そうにしながらも少し笑って頷いた。明日、父親に会える。何年も夢見てきた、ハンターである父親に。

 

 そして次の日。各自【離脱】(リーブ)を使用し、予め決めていた行先はドーレ港。久しぶりの外の世界の空気を堪能するゴン達。

 

「じゃ、ここで一旦解散だな」

 

 リンとクラピカがゲームに入ってから、おおよそ一カ月。長いようで短かったゴン達とのゲーム攻略も、終わりを迎える時が来た。

 【聖騎士の首飾り】で、カードを元の姿に戻す。カードは【磁力】(マグネティックフォース)に変化した。そしてゴンはリン達に軽く手を振り、最初で最後の現実世界での呪文(スペル)を元気よく叫ぶ。

 

【磁力】発動(マグネティックフォース・オン)! ニッグ!」

 

 身体が浮き上がり、ニッグ……即ちアナグラム元であるジンの下へと向かう。背中が見えなくなるまで手を振り、ビスケが感じ入るように呟いた。

 

「……行っちゃったわね」

「今頃、親父さんと会ってるのか」

「試験の頃から望んでいたからな」

 

 ゴンがハンターになった理由は、リンと共に冒険するため。そして、会った事のない父親を探すためだ。出会った頃からずっと目を輝かせながら夢見ていたゴンが、今それを叶えに行っている。友としては、感慨深い事この上ない。

 

「じゃ、私達も行きましょっか。我が儘きいてくれてありがとね。もう一日だけゴンに付き合ってあげて」

 

 そう言ってリンはニヤリと悪い笑みを見せた。手には、もう一枚の呪文(スペル)カードが握られている。

 

【同行】発動(アカンパニー・オン)、ゴン!」

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 ヨルビアン大陸北西部の、とある田舎町。遺跡調査の傍ら、ジンは気分転換に一人釣りに興じていた。

 ひとり旅は気楽でいい。好きなものを追いかけて、好きなように生きることができる。頭の片隅では『お前はもう少し責任感を持てよ、二児の親だろ』と言ってくる自分も僅かに、ごくごく僅か~に存在するのだが、そんなものは当の昔に開き直ってしまった。

 とはいっても、定期的にリンとゴンの【人生図鑑】を開いては二人の成長を確認しているのだから、ジンもまた一人の親らしい一面を実は持っているのかもしれない。あまりにも非常識的だし、かなりプライバシーを度外視した方法なのだが。

 

「……おっ」

 

 釣り糸は全く反応しないが、水面に不思議な飛行物体が映りこんだ。同時に呪文(スペル)カードによる飛行時特有の音も聴こえてくる。どうやら、ゴンが【磁力】(マグネティックフォース)でここまで飛んできたらしい。

 息子がゲームをクリアしたことは、昨日の夜ドゥーンから聞いていた。あの様子だと、こちらが仕組んだ自分に会いに来る裏技を発見できたようだ。【同行】《アカンパニー》ならばカイトに向かうようにと設定していたが、素直に一人でやって来たらしい。

 それならばまあ、会ってやらないでもない。上から目線にそう思いながら、物心ついてからは初めての対面となる息子が着地する様を見つめる。興味なさそうな顔はちゃんと作れているだろうか。

 

「……ジン?」

「……おう」

 

 ゴンは初めは恐る恐る、そしてジンが小さく返事をすると、ぱあっと顔を明るくさせた。そして嬉しそうに着地体勢から立ち上がり、ジンに駆け寄る。

 

「会いたかった! もうすぐ姉さん達も来るからね!」

「……は?」

 

 意味が全く分からない。が、ゴンの言う通り、飛行音がして空から複数の人影が飛んできた。リンを先頭にして、5人の男女がずらずらと着地する。

 こういうのが嫌だったからカイトの下へ向かうようエレナに仕組ませたのに、なぜこうなる。そう思った辺りで、リンの表情を見てジンは察した。

 

(こいつ……俺が一番嫌がる手段をゴンに教えやがったな!)

 

 クリア特典で【磁力】(マグネティックフォース)【同行】(アカンパニー)を両方持ち出すなんて、ジンの仕組んだ種を知っていなければそんな発想にならない。エレナには固く口止めしているので、それをネタバレするのはリンしか考えられない。というか、リンの悪い顔を見れば一発でわかる。

 

「久しぶり親父。友達いっぱい連れて、来ちゃった♥」

 

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