『ん……あれ? いけるかも』
時は遡り、昨日の夜。
『初めにゴンが
一人が先に町へ行って、あとから追いかけて
ジンの下へ行く場合でも、タネさえ知っていれば簡単に思いつく……が、そもそもタネを知っている人間が限られるため、ほぼ行われる可能性はない手段である。
『本当だ!』
『でも、ビスケが選ぶ分のカードが無くなっちまうな』
『くっ……良いわよ。このゲームはあんた達のハントした成果だもの』
本当は【ブループラネット】を狙っていたビスケだが、この流れで欲しいとは言いづらい。流石のビスケも空気を読むというものだ。
今回はあくまでゴンとキルアの修行をするという依頼で入ってきている。口惜しいが宝石ちゃんはまたの機会でも良いだろうと、大人のやせ我慢をするビスケ。幸いにも、ゴン達は気づいていないらしい。
『なら! 全員で行けるね! 俺、皆のことをジンに紹介したいんだ!』
『俺達はついて行く前提か……』
『そろそろ戻らないとやべーけど……ま、一日くらいなら変わんねーか!』
呆れ顔のクラピカとレオリオ。だが、悪い気はしないというもの。
……というわけで、ジンの前には息子と娘含め、6人の青年達がぞろぞろと現れたというわけだ。戦犯は主にリンだと言える。
「……マジかよ」
「ぷっ」
流石のジンも、予想外の展開に少し顔をひきつらせた。そもそも
当然、併せ技でぞろぞろ引き連れてくるところまでは想定していない。そして、後ろでニヤついている娘が引き起こした展開だと目が合った瞬間に悟った。ジンの表情に堪えきれず吹き出すリン。
「ジン、俺ゲームクリアしたよ。グリードアイランド」
「……おう」
「ハンターにもなった。ジンに会いたくて、ここまで来たんだ」
「お、おう……」
そして、【人生図鑑】や周囲の仲間からの報告で、ゴンの現状はすべて把握しているジン。改めて言われずともわかっているが、ゴンからの全力かついじらしい『褒めてオーラ』に、たじたじしている。ギャラリーがやたらと多いのも、理由の一つだろう。
長女であるリンはもちろん、ジン自身の幼少期にもなかったゴンの光属性オーラ。それは初見にはあまりにも眩し過ぎて、下手したら灰になってしまう破壊力を持っている……とリンは思う。
(可哀想なおっさんにフォロー入れてやるか)
ここは姉として娘として、良い感じにフォローしてやらなければいけない。(元凶であるのは棚に上げて)そう思ったリンだったが、残念ながらそういうことには絶望的に向いていない。というか、対・ジン関係の全ての物事に向いていないので、当然フォローは失敗に終わる。
「そこは頑張った息子を褒める流れでしょ、なに照れてんのよキモい」
「るせぇ! 大体テメーなんでいるんだよ! さてはゴンにネタバレしやがったな!?」
ジンは途端にイラっとしてリンに食ってかかった。ようやく見知った人間から絡まれて、少しホッとしているのは内緒だ。そんなジンに、リンも条件反射で噛みつきにかかる。
「しょーもない理由でトラップかましてるしょーもない親父なんて裏かいてナンボでしょーが! 生憎、私はぁ? 小汚い親父より愛しいキュートな弟の味方を全面的にするもんでぇ?」
「んだとコラ!」
「やんのかハゲ!」
「ね、姉さんもジンも落ち着いて……」
喧嘩上等の体勢で、ガルガルと互いに威嚇をし合う親子。ゴンは早速、会ったばかりの父親が姉と喧嘩する様を仲裁する羽目になった。(なんか、思ってた再会と違う……)と、その顔に書かれている。
「なんというか……想像とは少し違うな」
念能力者限定のハイクオリティのゲームを生み出し、大統領クラスの権力を持つ。そして子ども二人をハンターにするほどの父親なのだから、どれほどの人物なのか……と緊張していたクラピカ。予想を大幅に裏切られ、呆気にとられる。
「いや、正直俺は予想通り……」
「クラピカ、今のうちに仲良くなっておいた方が良いんじゃねえの?」
反対にキルアとレオリオは、ヨークシンでリンがジンの話をしていたので、わりかし予想通りだ。顔を見られるのが恥ずかしいだの、いい年して遺跡追いかけ回してるだの言われて植え付けられていたイメージ通り、二人の父親は子どもっぽい性格らしい。そして、小声で茶化したレオリオが肘鉄を喰らったのは、言うまでもない。
「ほら親父、ゴンが褒められたがってるんですけど?」
「あー……。まあ、色々話は聞いてる。頑張ったな」
「……! うん!」
軽く咳払いし、照れ臭そうに頬を掻きながらもゴンの頭に軽く手を乗せるジン。目も合わせずに小声で言われたものだったが、ゴンは嬉しそうに笑った。そして、
「そうだ、紹介させて! 俺の友達!」
真っ先にキルアの背中を押して、ジンの前に立たせる。クラピカ達にも手招きをし、宝物を見せびらかす犬のようにジンに顔を向けた。これから始まる流れを予測して、ジンがマジかよと言いたげな表情を見せる。
「こっちがキルア。俺の最高の相棒なんだ! それで、クラピカとレオリオ! 皆、ハンター試験で出会った大事な仲間!」
「そ、そうか……」
「姉さんも潜入試験官でハンター試験に参加してて、キルア達とはここまで殆ど一緒に旅してたんだよ。で、こっちはビスケ。俺の師匠なんだ」
「おー、噂は聞いたことある……。ガキが世話になったな……」
(気まずそうに父親としての対応をさせられる親父……ウケる。ざまあ~)
内心笑いを堪えるリン。これだけでも良いものが見られたというものだ。本当はゲタゲタ指を差して笑いたいが、自重しておく。
更に欲を言えばこの姿を写真に残しておきたいが、そんな事をすればジンにスマホごとデータを消されかねない。また今度、ノアにジンの【人生図鑑】をじっくり見せてもらうことにしようと、心に決めておいた。
「ゴン、俺らは近くの町で待ってるから。親父さんとゆっくり話してこい」
「うん。ありがと!」
「お前、紹介するためだけにぞろぞろ引き連れてきたのかよ……」
ゴンがどれだけ我が儘を言ったのかを察したジンが、呆れ顔でゴンを見る。ゴンは「へへ……」と笑いながらも、初めて会う父親に自分の友人を紹介できて大満足したようだ。流石のジンも、(リンはどうでもいいが)ゴンの仲間メンバーに少し申し訳ない気持ちになった。
「うちの馬鹿共が面倒かけたな。ここの飯がうめぇから、寄ってみろ」
「馬鹿……『共』?」
「お前の入れ知恵でもあるだろーが」
そう言って軽くリンの頭をはたくと、メモに住所を書きつけて最も近くに居たレオリオに手渡す。通常のジンには中々見られない行為だ。はたかれてムカッとしつつも、それ以上にそのやり取りが気になってしまうリン。
(親父、そんな甲斐性あるんだ)
渡す相手にレオリオを選んだジンのチョイスは最適解。初対面でも物怖じしないコミュ強レオリオは、メモを確認すると軽く手を挙げて礼を言う。
「俺らも親父さんに興味あったからな。会えてよかったぜ」
メモを見るに、郷土料理の店らしい。見下ろしてわかる範囲だが町の規模からして、探せば宿もあるだろう。ゴンが父親と過ごす時間を待つのに、不便はしなさそうだ。今後の方針を決めるのにも、丁度良い。
軽く会釈をしつつ、クラピカはリンに顔を向けた。てっきりゴンと共に残るのだと思っていたが、リンは一緒に町の方に向かうらしい。少し予想外だ、と。
「リンは良いのか? 家族水入らずだろう」
「今回はいいわ。ずっと会いたがってたのはゴンだし。……あ、でも親父に喧嘩売っとこうかな。どつかれてムカつくし」
最後の言葉だけは、クラピカにのみ聴こえるように小声で言った。リンの表情に、クラピカはやれやれとため息をつく。リンはうっかり忘れものをしたような顔をして、ジンの方に向き直った。
「そういえば親父。この前ホルモンクッキー使ったんだけどさ、私って男だと身長パリストンさん並みだったわ」
「……何が言いてえ」
「親父の遺伝子、割かし弱いのね」
久々に会った娘から暗に『お前チービ』と言われ、ジンは少なからずイラっとした。
トルイ戦の後に着替えていつもの服装に戻ったので、今のリンはショートブーツを履いている。高めのヒールとはいえ、そんな今のリンでさえ、ジンと身長はそう変わらない。
ピキピキと喧嘩を買いたい欲が増幅するジン。パリストンと比較されたのも絶妙にツボを刺激している。だが、ほぼ初対面の息子とその友人達の手前、必死に怒りを堪える。所詮は小娘の戯言だ。……今更だが。
「……生憎、俺は大人だからな。その程度の挑発にゃ乗らねぇぞ」
「プライド保つのに必死かチビ親父。童顔隠しの無精ひげが切なさ物語ってるわよ坊ちゃん」
「そんな喧嘩売りてぇなら買ってやるよゴラ!」
前言撤回、短気のジンがそんなことできるわけがない。プークスクスとリンにやられて、ずかずかと拳にオーラを溜めながらリンに殴り掛かろうとする。
「リン、親父さんに会ってから喧嘩売りっぱなしだな」
「たぶん、一種のコミュニケーションだわさ。喧嘩する程仲が良いってやつよ」
「難儀な親子だな」
クラピカとビスケのやり取りが聴こえて、キルアもまたため息をついた。そして、「姉さんもジンも落ち着いてー!」と、再びリンとジンの仲裁に回るゴン。何をしに来たのか、目的を忘れそうになる。
ゴンがジンを羽交い締めにし、リンはやーいやーいとあっかんべぇをしながら中指を立てて見せた。だが、そこはゴンも
「思い出した! 俺、ジンに会ったら殴るつもりだったんだ!」
「は?」
そこにはもちろん理由がある。かつて、リンはゴンに、父親を見つけ出したら初めにぶん殴る予定だとうっかり言ってしまっていた。その理由を問われ、『むかつくから』と言うのは憚られて『自分の力量を証明するため』とかそれっぽい理由を付けて弁解していたのだった。
そんなリンを憧れの眼差しで見つめていたゴン。いつか自分も同じようにしようと心に決めていた。それはおおよそ5年ほど前の話だが、子どもとは憶えていてほしくない物事程憶えているものなのだ。
思い出したら即実行。憧れの姉のように、憧れの父親に力量を証明して見せたい。「ちゃんと受けてね! ジン!」とオーラを練る息子に、ジンは少なからず焦った。
「待て待て待て、落ち着けよ、な? 準備しようぜ、心の準備! そう俺の準備!」
「さい、しょは、グー!」
誰が、ハンターになってまで自分を探し当ててきたほぼ初対面の息子が、いきなり殴ろうとすると思うだろうか。しかも笑顔で、だ。我が息子ながら、サイコパス味があって怖い。
「さ、行きましょっか」
「いいのか……あれ放っておいて」
しっかりとジンが殴られる様を見届けた後、リン達は町へ降りる。弟の雄姿と嫌がる父親の姿、リンとしては二倍美味しい光景だった。
◇◇◇
ジンの紹介してくれた店に入り、のんびりと郷土料理に舌鼓を打つリン達。ゴンのワクワク具合、そしてジンがなんだかんだゴンとの会話を楽しむであろう事を加味すると、数時間は見ておいた方が良いかもしれない。この後は、宿も探す予定だ。
「今回はありがと、助かったわ。しかも、ゲームまで一緒にやってもらったし」
「こっちこそありがと。良い仕事させてもらったわさ。……この魚、なかなかね。ロブスターソースもかかってるわさ」
リンの言葉に、ビスケは嘘偽りない本心として、そう言った。あれ程の才能の原石には、そうそう会えるものではない。そして、共に旅をしていて楽しい存在にも。
本当に親の気持ちになりそうだと、離れるのを寂しく思いながら独特の味付けが施された魚を一口食べる。弟子なんて数多くとってきたが、珍しく教え子に感情移入してしまっている自分が居るのを感じていた。
「あんた達はこっからどうするわけ?」
「俺は故郷に戻るぜ。さっきマップを調べたが、こっから割と近いわ。助かったぜ」
レオリオは宣言通り、ここからは故郷で大学に通うことになる。入学式にもかなり余裕をもって間に合わせることができそうだと、レオリオはからからと笑った。
「キルアはゴンと旅を続けるのよね?」
「俺は、こっからはゴンと別行動かな」
キルアの一言にリン以外の全員の視線が、一斉にそちらへと向けられた。てっきり、キルアはゴンと共に旅を続けるのだと思っていたからだ。特に根拠はないが、これまでもずっとそうだったから。
「マジかよ、なんかやりたい事ができたのか?」
「……妹を、迎えに行きたいんだ」
「アルカ、よね」
唯一、アルカの存在を知っているリンは、静かに呟いた。
キルアは針によって、行動原理と共に記憶も操作されていた。むしろここまでアルカのことを一言も話さなかったのが不思議なくらいだ。キルアもまた、リンが知っていることに驚いた。
「そこまで知ってんのかよ」
「アルカ?」
「『アンタッチャブル』になった、ゾルディック家の子供よ」
「アンタッチャブル……うちでは、内外問わずに触れるなって意味。名前を出すのも暗黙の了解で禁じられて、家の奥深くに幽閉された」
だが、リンはアルカが幽閉された理由までは記憶していない。アルカの中にナニカという存在が居て、それが強力な能力を持っている。憶えているのは、それだけだ。アンタッチャブルになる以上、ゾルディック家を脅かすレベルの何かがあるのだろうとは思っているが、詳細な記憶は成長過程で消えてしまっている。
「あの家、そんなことまですんのかよ……」
「事情があんのよ。でも、キルアはそのアンタッチャブルすら破りたい。……そうよね?」
リンの問いかけに、キルアは静かに頷いた。その眼には決意の色が灯っている。何があっても、家族全員を敵に回したって、妹を助け出すと。
「キルアもやりたい事、見つけたのね。んじゃ、ゴンはどうするのかしら」
これまでは、やりたい事……つまり父親捜しをするゴンに、キルアが同行する旅路だった。だが、ゴンは目標だった父親に会い、そしてキルアはやりたい事ができた。立場が逆転したわけだ。
今度はゴンがキルアに同行する旅路になるのかと、ビスケが首を捻る。ゴンのことだから心配はしていないが、それでも年若い少年が次に何を目指すのかは、師匠として気になるところだ。
「親父さんと会えたんだ。一緒に旅するんじゃねーのか?」
「ゴンはずっと、親父を探し出したらリンと冒険したいって言ってたぜ。小さい頃、約束したって」
「そういえば、言っていたな」
レオリオの言葉に、クラピカもゴンの言っていた事を思い出した。そういえば、一次試験の最中にそんなことを言っていた気がする。そして、隣でニアがやたらと感動した表情だったとも。今ならば、その理由もよくわかる。
リンは現在、クラピカの目的に同行している。そういえば、G・Iに来たのもその一環だった。ゴンと共に旅に出るのかと問いたげなレオリオの視線に、リンは軽く手を振る。
「やるって決めたことを投げ出す気はないわ。ゴンとの冒険は緋の眼を全部探してから、ね。……てか、ゴンも緋の眼探しに協力してもらうか」
「その必要はない。契約は、ここで解除するつもりだった」
「はぁ?」
クラピカの言葉に、リンだけでなくキルア達も怪訝そうな表情を見せる。クラピカは一枚の紙を取り出すと全員に見せた。
「【死者への往復はがき】で同胞達から聞いた、自分の眼の所有者だ。あくまであの時点の、だが。調べる手間も省け、あとは交渉のみだ」
かつての同胞全員に葉書を送ったクラピカは、個人個人への言葉に加え、それぞれに現在の緋の眼の場所を教えてほしいと書き加えていた。ダメ元の策ではあったがそれは見事に成功し、クラピカは全ての緋の眼の在り処を把握している。
「あとは、俺のみでどうにでもなる。リンに助けてもらう必要はない」
「おいおい、クラピカよぉ……」
念能力と言えど、所詮は人伝の情報。しかし、現在クラピカが所持している緋の眼の数とその持ち主だと名乗り出た同胞の数が一致している点、そして同胞の一人が『トルイ=ゾルディック』が所持していると返事をして、それが見事に当たっていた点から、信憑性は高い。従って、あとは持ち主に連絡をして入手するだけだ。……どんな手を使ってでも。
しかし、こんなあっさりと別れて良いのか。用済みと言わんばかりな言い方で。流石に咎めるようなレオリオ。リンは黙って思案する。
「リンも何か言ってやれよ」
「……」
「……リンが俺のために手を尽くしてくれているのは知っている。だが、これ以上心労を負わせるわけにはいかない。俺自身も思うところがあってな」
黙り込むリンに言うべき事のみを述べてから、今のは言い方があまり良くないと気づき言葉を付け加える。緋の眼絡みでは強情なクラピカが素直になったことに、レオリオは内心驚いた。
クルタの過去や旅団と向き合い、そしてプレイヤー達との戦いを経て、クラピカは自身の行いが如何にこの友人を心配させていたかに気づいた。もしかしたら、今回の旅で最も成長したのはクラピカかもしれない。
「同胞のためならば、この手を汚すことに何のためらいもない。だが、ここまで面倒な役割をリンに押し付けているのが現状だ。ここからは、俺の力でハントしたい」
言外に指すのは、暴力行為や組同士のドンパチにリンを巻き込んでいる事。何より、リン自身がクラピカに手を汚させないようにと積極的に動いていることだ。
ありがたい反面、自分の問題を人任せにしてもいいものかとクラピカはずっと葛藤していた。なにより、好意を持っている女の子が自分のために手を汚すことを、クラピカはもう耐えられそうにない。
リンは、クラピカが同胞のために自分を犠牲にするのが嫌だからこそ、このように行動してきた。クラピカもそれを分かっている。だが、それでも。いや、だからこそ、自分の手でハントしたい。しなければならないとさえ思っている。
「……本当に、大丈夫なのね?」
「俺だってハンターだ。もう心配はないよ」
リンの問いかけに、クラピカははっきりと頷いた。
自分の問題は、自分で解決して見せる。ヨークシンの頃ほど強情ではなく、しかし仲間に頼り過ぎる弱さもない。クラピカが手に入れた彼らしい決意と強さに、リンも静かに頷いた。
(……クラピカも、一人前のハンターね。とっくにわかってたけど)
リン自身は気づいていなかったが、無意識に寂しさが顔に出ていた。初めての弟子が、これからは一人でやっていくとはっきり言い切った。嬉しい反面、少し悲しい。これまでずっと相棒のようにともにやって来たのだから、余計に。
それをクラピカは悟った。本来は言うつもりもなかったが、クラピカもまた無意識に口を突いて出る。
「だが……最後の眼だけ、援助を求めたい」
「そんな面倒な持ち主なの?」
面倒なんてものではない。だが、この男からの奪取を諦めては、悲願達成とは言えないだろう。なんせ、友であるパイロが持ち主だと指定した相手なのだから。
黙ってスマホの画像をリンに見せる。リンだけでなくキルア達もその画像を覗き込んだが、全員が顔を知っている程の有名人物、かつその厄介さに、キルア達も表情を曇らせた。
「ツェリードニヒ=ホイコーロ。カキンの第四王子ね」
「間違いなく難航する。下手をすれば、国賊だ。無理ならば断わってくれて構わない……むしろその方が良いだろう」
そう。そこに写っていたのは、長髪を纏めて品良く撮影された、ツェリードニヒの姿だ。ナスビ=ホイコーロよりは知名度が低いものの、大抵の大人は知っている有名人物である。
(……ルカスが言ってたのは、このことか)
カキンを舞台にした大規模なハントになるだろう。ルカスの両親はカキンにいるし、頼むと言われるのも違和感はない。
だが、ルカスの両親は国王軍関係者とはいえ、一般人だ。彼らに被害が及ぶとは考えにくい。そして姫の意味もわからない。彼は、ルカスはなぜ、そのようなことを言ったのだろうか?
(ま、考えても仕方ないわね。その時になりゃ、わかるでしょ)
ともかく、カキンの王子を相手に交渉をしなければならない、ということ。まともに会うことすら難しいだろう。
そして、クラピカはこう言いつつも、断られるのを前提に考えていた。リンにはリスクしかないからだ。
誰もが知る有名人。権力もあり、特に第四王子は天才だと噂されている。下手をすればハント失敗どころか、国際指名手配も免れないだろう。リンの表情もキルア達同様に渋いものになっているかと思ったが、その予想はハズレだ。
「……ふふん、やっぱクラピカってずるいわね」
「?」
むしろ、リンは嬉しそうだ。これだけ面倒な条件ならば『諦めろ』と言う可能性も加味していたが、リンの表情を見るにその様子はない。
「そんな事言われたら、断れるわけないじゃない。私がクラピカの手助けをしないと思ってる? 国潰し上等、むしろ私がカキン乗っ取って王国設立してやるわ!」
強気で勝気な言葉だが、リンが真剣にクラピカのことを考えていてくれるのが分かる。クラピカの誠意に対して「そっちの方がよっぽどプレッシャーだ」と言ってのけたヨークシンでのゴンを思い出し、思わず笑みがこぼれた。
「……ふふ、それが目的だからな」
「やっぱり! 悪い男ね~!」
つい、ゴンに対して言った言葉と同じ言葉を返してしまう。リンの表情は、その時ゴンが見せた笑顔とよく似ていた。
純粋無垢なゴンと違い、リンは闇の世界もよく知っている。アングラの世界で血濡れの経験もあるのに、それでも光を放っている。それはあまりにも、特に惚れている男にとっては、眩しいものだ。
「クラピカなら大丈夫よ。私の
「……」
子供っぽい純粋な笑顔でそう言い放ったリン。クラピカがぴしりと固まった。
「立ちそうになったフラグをことごとく折っていくよな、こいつ」
「フラグクラッシャー……。悪意一切ない、むしろ信頼しかないのがタチわりーぜ」
キルアとレオリオがひそひそやっているが、リンはクラピカが自分から頼ってくれたのが嬉しくて気づいていない。
「んじゃ、私はゴンと冒険かしら。私もアルカに会いたいし、途中までキルアについてくってことで」
「はぁ? 次は俺かよ」
「見栄張ってんじゃないわよ。アンタッチャブルを外に出すなんて、絶対シルバさん達と揉めるでしょ。特にイルミなんて、暴走確実ね」
「う……」
敢えてなんてことない風に言っていたが、見事に見透かされている。図星なので、言い返せずに黙り込むキルア。
ともかく、リンの行先も決まった。次の目的は、アルカ救出劇だ。
◇◇◇
次の日。ゴンと合流したところでレオリオ達とは別れた。後にはリンとキルア、ゴンのみが残る。
ゴンは嬉しさを嚙みしめた表情でうずうずと喜びを隠し切れずにいる。いよいよ念願だった姉との旅だ。大好きな姉と友達、二人と旅ができるなんて、最高だと。
「姉さん冒険だよぉ! どこ行く? 古い遺跡? それとも曰く付きの洞窟?」
「落ち着きなさい、ゴン。これからいくらでも時間はあるわよ」
「だってだって、やっと一緒に旅ができるんだよ!約束してから7年だよ!」
夢にまで見た姉との冒険、それがようやく叶うのが嬉しくて仕方ない。
ちなみに、ゴンを待っている間になされたリンとクラピカの契約の件や、キルアの次の行先はまだゴンは把握していない。なので、ゴン視点だとリンとクラピカは本来まだ同行するはずなのでは? と疑問に思うのが普通なのだが、7年越しの願いが叶った少年はそこまで気が回っていないようだ。
「実は、俺が行きたいところがあるんだ。ついてきてくれるか?」
「もちろん! キルア、やりたい事できたんだね」
「ああ。……サンキュ」
まだ詳しいことを何も言っていないのに、無条件に協力すると言ってくれるゴン。キルアはそんな親友に眩しさを覚えながらも、心が温かくなるのを感じた。
(もしかして、私の旅これから眼福の連続では?)
二人とも愛しい弟。そして、そんな弟達(推しカプ)の仲睦まじい友情を特等席で視放題の権利。リンもリンで、幸福を噛みしめている。
だが、これからの旅はそんな幸せだけでは済まないだろう。気を引き締め、リンは次の章への音頭をとったのだった。
「最初の冒険は、そうね……。『暗殺一族からのお嬢様救出劇』とでも名付けましょっか」
リン:フラグ立ってる男に「俺達マブだよな!」って言っちゃうタイプ(大切なことなので二回言いました)
GI編、完!!