欲望の共依存【1】
10日後。リン達は集落へと小型飛行船を手配し、ゾルディック家へと空路を辿っていた。基本は自動操縦だが、リンとキルアが、交代で操縦席に座っている。
今は、キルアが操縦席に座る時間。操縦席のすぐ後ろに設置されたソファで仮眠をとっていたがあまり寝付けず、気づけば考え事をしていた。
隣では、ゴンがすうすうと熟睡している。ビスケの修行の甲斐あって神経の一部をぴりつかせているからか、以前よりも寝相が良くなったようだ。
『リン、クラピカの事、ちっとは意識してやれよ?』
思い出すのは、別れ際のレオリオの言葉。クラピカの目を盗んでこっそりと言われたそれは、半分揶揄うような、それでいて半分気遣うような口調だった。
『これ以上ないくらい意識してるけど。じゃなきゃ、ここまで緋の眼集める手伝い、しないわよ』
『そうじゃなくてよぉ……男女的な、こう、あるだろ?』
言葉では言いたくないらしく、身振り手振りで必死にわきわきと手を動かすレオリオ。ようやくレオリオの意図が伝わったリンは、『なーんかそれ、レオリオのドッペルゲンガーにも言われたのよね』と、呆れたように返した。
『仲間に色目使うのって違う気がするんだけど。友達ってだけじゃなくて、背中を預けることもある仕事仲間よ?』
『……お前、とことんハンターなのな』
『は? 当然ですけど』
『いやそういう意味じゃねーよ』
レオリオは残念なものを見たかのように大きくため息をつき、そこにクラピカ達が近づいてきたために話は中断されたのだが。
(あれって、クラピカとくっ付けって言ってるわよね?)
流石に何を求めているかはわかる。だが、理由が分からない。ハンター試験からこの間別れるまではほぼずっと一緒に居たが、だからといって恋愛をしろなんて、短絡的も良いところだ。
レオリオが短絡的かどうか? 二択で答えろと言われると、間違いなく短絡的な部類だろう。考えるだけ無駄だったようだ。
(……ダメダメ、そんなこと考えてる場合じゃないわ)
どうでもいい方へ思考が流れていると気づき、むくりと身体を起こす。そして、まだ眠っているメイメイのポケットから、がさがさとメモ用紙を取り出した。ここからおおよそ一年ほどの間、ヨークシンの時を上回るレベルの困難が待ち受けている可能性が高い。
原作、もとい可能性のある未来を書き込んだそれは、過去最高に最も重要な情報が書かれている。ただし、例の如く詳細については書かれていない。
『キメラアント、カイト死亡、ポックル脳くちゅ、ゴンさん』
(記憶が薄れてから書いたとはいえ、ざっくりし過ぎている……)
G・Iをクリアしてから一週間、リンはずっとこれに頭を悩ませていた。ひらひらと紙を振れば何か裏メッセージが現れるのではないかと期待してみるも、当然そんな高性能ではない。無意識にメモを見た時のクロロと同じことをしている自分に気づき、無言で腕を降ろした。
メモの周辺には、『グリードアイランドに行ってから1年以内?』とか、『猫型の奴、名前忘れた』などと書きなぐられている。確か、このメモを書いてから更に数か月後、思い出そうにも思い出せずイライラして記憶を手繰り寄せていた気がする。
(そもそもキメラアントが名前を書かれるレベルでヤバいなんて、考えづらいのよね~)
キメラアントは、蟻の一種だ。肉食で獰猛な種ではあるが、人を食べるレベルではない。あまりにも体長が小さすぎるからだ。
だが、それが原因でカイトが、恐らくポックルも死ぬと書かれている。G・Iでの出来事メモがある程度的中したことを加味すると、キメラアントが脅威となる可能性がかなり高い。そして、ゴンが関わる可能性も。
(つーかゴンさんって何よ? ゴンがさん付けされる状況になるって事?)
取り敢えず、キメラアントが関わっている事、カイトとポックルの死亡可能性がある事、そしてゴンがなんかヤバいことになっていそうな事は確実だろう。
ゴンさんと聞いてリンが思い出すのは、G・Iで【一坪の密林】イベントをこなした時に、レオリオがぼやいていたことくらいだ。
確かに、あの謎にいかつすぎる体格と長すぎる髪は『ゴンさん』という雰囲気だった。そう思う自分の思考回路が100点満点の回答を叩きだしていることにも、もう気づけない。
(注意喚起くらいはしておくべきね。……あとでカイトとポックルに連絡してみるか)
場所や時期が分からない。これは致命的な問題だ。あとで電話をしようと決めたところで、キルアが操縦席から身を乗り出してこちらに顔を向けた。
「リン。そろそろアルカの件、詳しく詰めておきたいんだけど」
「そうね、ここなら誰かに聞かれる心配もない。そこまで気を遣うってことは、かなりヤバい類なのね」
「ああ。はっきり言って、世界がひっくり返る。当然だけど他言無用だぜ。……おらゴン、いい加減に起きろ」
「むにゃ……」
目的地のパドキア共和国空港まで、まだかなり時間がある。今のうちに情報共有をし、そこから策を練っておきたいところだ。
船は雲の上を飛行しており、青い空の下に真っ白な雲海が広がっている。だが、そんな景色の爽快感を打ち消すほどには、キルアの話は重々しいものだった。
「なるほどね。……そりゃあヤバいわ。言語力が落ちるレベル」
『おねがい』と『おねだり』。等価さえ払えば、文字通りどんな願いでも叶えてくれる、魔法のような能力。だが、それ以上にリスクが大き過ぎる。淡々と説明するキルアに、リンは窓の外を眺めながらも視界の一点を睨みつけた。美しい景色を眺めても気分の下降は中和できない。
気分を変えるために、冷蔵庫のサンドイッチを取り出して頬張る。ゴンとキルアに手渡し、飛行船の操縦をキルアと交代した。
「そんな能力があるんだ……」
「能力っていうより、先天性のものなんじゃない?」
「たぶんそうだ。だけど、本人も制御できてない。あいつ自身が念能力でできた道具みたいなもんになってるし、だからこそ親父達も危険視してる。同時に、制御したいと思ってるんだと思う」
サンドイッチを食べながら、ハッとゴンが思い出した。どこか聞き覚えがあると思ったら、キルアが以前ノアに話していた内容と被るものがある。あの時は何のことか全くわからなかったが、今思えばアルカのことをぼかして伝えていたのだろう。
「ノアさんに聞いてた『妹』って……」
「アルカのことだ。あの女も人外染みてたし、何か知ってるんじゃないかって」
「知ってるかもね。たぶん、暗黒大陸に由来してる」
ノアははっきりとは言わなかったが、十中八九暗黒大陸から来た存在だ。アルカを連れ出す事が出来たら、ノアに会いに行くのが良いかもしれない。
「この世界の外側にある、未知の大陸よ。危険過ぎて存在すら秘匿されてる。その世界に、ナニカと似た存在が居るってされてる」
「あ……ジンが言ってた……」
「ハンターとしてはいつか行ってみたい夢の土地。だけど、リスクのレベルが並じゃないのよ。……まあ、それはいいわ。今は、こっちの世界の厄介どころが相手になりそうだからね」
暗黒大陸もキメラアントも難関だが、目の前に迫るハントもかなりの難易度だ。なんせ、ゾルディック家に喧嘩を売りに行くのだから。眼前に広がる雲海を見つめながら、リンはきっぱりと言い切った。
「インナーミッションね」
ゴンが「?」と首を傾げる中、キルアが忌々し気に解説する。どれだけ自分が常識はずれの家庭に育ってきたのかわかっているつもりだったが、ゴンの反応を見ていると改めて理解させられる。
「うちの風習。家族内で意見が合わなかったら、無理に擦り合わせずに各々で動く。今回は、俺が反発する形だから、真っ向からぶつかることになる」
当主として執事達を動かすシルバやゼノはもちろん、イルミもかなりの強敵だ。可能ならば穏便に済ませたいが、今回はそうはいかないだろう。
「シンプルに、今回の対立はシルバさんかしら。でも、正直なところイルミも怖いわね。何しでかすかわからないし」
「何か情報があったのか?」
リンとイルミは幼馴染だ。どこかから情報を掴んだイルミがリンに宣戦布告をしている、もしくはアルカのことを知っているリンに対して釘を刺していた可能性は十分にある。そう警戒するキルアに、リンはつまらなそうに軽く手を振った。
「別に。ある程度推測してヤマを張っただけ。当然、外れる可能性もあるけど」
(認めたくはないが)父親譲りの先見力。それはハンターとしての歴を重ねた経験と交友関係の広がりによって、年々的中率が上がってきている。
だが、今回はそんな真剣に考えるまでもなく簡単に予想ができた。それは幼馴染故にゾルディック家の内情を理解しているところに起因する。
「まずシルバさんとゼノさん。家長だし、基本的方針の権限を握ってると考えるのが妥当。つまり、『アルカの存在をアンタッチャブルとして幽閉する』のが方針ね。ここで重要なのが、ミルキ。ミルキは多少兄貴としての情があるみたいで、アルカの部屋に大量の漫画を置いてやってるのよ」
「私と昔ハッキングしてダウンロードした漫画を書籍化したやつ」とリンが言い、キルアはミルキの部屋にある溢れんばかりの漫画の山を思い出した。幼い頃から漫画を読むために時折ミルキの部屋に遊びに行っていたのが、キルアとミルキが口喧嘩をしつつも比較的仲が良い理由だ。
あの量の漫画と同じものがあるのなら妹も退屈はしなかっただろう。自分が存在すら忘れていた間の妹の生活を想像し、少し胸を撫でおろす。
「つまり、シルバさんとゼノさんはそれを許容してる。キルアの言う通り『アルカの力を脅威として見なすと同時に、制御したい、家族としても接したい』と考えている可能性が高い」
「……本当に俺んちに住んでたんだな」
当たり前のようにキルアも知りえなかった情報を話すリン。ゾルディック家の内情に想像以上に深く関わっているリンに、改めてかつて本当に自分の家で暮らしていたのだと再認識するキルアだ。
「キキョウさんは文句を言うだけで殆どシルバさんの方針に従うし、カルトは家出中。そしてマハさんは基本不干渉。そうなると、残るはイルミになるわけだけど……」
そこまで言うとリンは一旦言葉を切った。がしがしと頭を掻いて気まずそうにため息をつくあたり、キルアでなくともリンがあまり言いたくなさげにしているのがわかる。
だが、今はそうも言っていられない状況なわけで。キルアが促すよりも先に、リンは仕方なく口を開いた。
「イルミは基本、家絶対主義。だから、大抵の場合はシルバさんの方針に従うの。……ただ、イルミが独自の判断で行動するトリガーが一つだけあってね。キルア、わかる?」
「……ゾルディック家、か」
「正確には、兄弟。あいつ、度を越したブラコンだからね。特に跡取り息子でもあるキルアへの執着は、ぶっちゃけキモいレベル。気持ちは凄くわかるけど」
「あんなのの気持ちがわかんのかよお前」とキルアは言いたくなったが、黙っておくことにした。リンがブラコンなのはもちろん知っているし、それでいながらイルミと違って弟に支配的な態度を取らないことも知っているからだ。
「アルカが幽閉されているのを黙認しているイルミは、はっきり言ってアルカを『家族』ではなく『脅威』として認識してる可能性が高いわ」
「それだけで家族と思ってないまで言い切れるか?」
「あいつの愛情って、『操作』とか『服従』って形で表れるのよ。特に、自分の意向に沿わない相手に対してはね。恋愛漫画のヤンデレキャラムーブそのまま。キッショいわ~」
妹が当然の如く家族と思われていないと言われて思わず反発したが、リンの言い分に反論しきれず、口を噤む。自分自身がその対象だったのだから、猶更だ。そして、最後に付け加えられたシンプルな暴言にも同感しかない。
長年暗殺稼業に専念してきたゾルディック家の人間は、家族内での仲間内意識が異常に強い。それはシルバでも、ゼノでも同様だ。なんせ、キルアにいつか絶対破るであろう約束を強いているくらいなのだから。
「自分の兄貴ながら、気色悪いのは同意だわ」
「でしょ? そんなキショイルミが、『超絶大事な弟』と『脅威』が継続的に関わり続ける可能性を、どう判断するか。これが判断つかない」
だが、イルミのそれはそんなゾルディック家の中でも一線を画している。針でキルアを操作していたのは、シルバの許可があってだろう。だが、イルミ自身がキルア達に対してどの程度の支配欲を持っているかは、リンも想像がつかない。あまり考えたくないともいう。
「でも、キルアの話なら簡単な『おねがい』なら平気なんだよね? リスクがあることを願わないって決めててアルカちゃんを絶対守るだけの強さがあるなら、シルバさんを説得できない?」
「……言いたい事はわかるけど、それお前が言うか?」
ぺろりと食べ終えた指を軽く舐めながら言ったゴンに、キルアとリンは何とも言えない表情を向ける。お前、自覚ないのかよと言いたげな。
確かにアルカの能力を隠しながらアルカを危険から護り、かつ自分自身がリスクある能力の行使をしなければ、それは可能だろう。だが、この少なくともこの三人の中で最もそれができなさそうなのはゴンだ。
「今は平気でも、いつかキルアが『おねがい』を使わなければいけない状況が必ず来る。その時、キルアは性格上、自分が『おねだり』を受けるわよね」
「……だろうな」
「それを加味したイルミが、アルカとキルアを接触させないって言いだす可能性は十分あるわよ」
渋々肯定したキルアに、ゴンが不思議そうな表情を見せる。やはり、そのような状況が起こるという可能性をイマイチイメージできないようだ。
「そんな状況、あるの?」
「G・Iでも、修羅場が何回かあったでしょ?」
「でもあれは俺達の力でなんとかなったじゃん」
「人間ってのは欲深いの。もしも私が死にかけたあの時、【大天使の息吹】がなかったら。そんでその時、アルカが隣に居たら、ゴンは何も『おねがい』しないでいられる?」
「あ……」
言われた可能性に思い当たり、ゴンはその時自分がどのような行動をとるか想像して絶句した。間違いなく自分は、キルアやレオリオ達に姉の復活を望み、そのリスクを自分自身で引き受けると言い出していただろう。
誰だって、愛する人を失いたくはない。育ちの環境からゴンは特にその傾向が強く、本人の気質も相まってそんな時に冷静な判断が取れないであろう事は明白だ。
「ハンターとして生きていくことは、死と隣り合わせの世界で生きていく事。いつか必ず、願わずにはいられない。それはイルミも分かってる……からこそ、どう動くかわからない。下手したら、アルカを殺すとか言い出すかも」
「以上、リンちゃんの推測でしたぁ~」と、真顔かつ冗談交じりに言うリン。うへぇとなんとも言えない嫌悪感と憎しみと僅かながらの兄弟への情を交えたキルアに、だから今まで言わなかったんだとリンも苦い顔をする。
ここまでのやり取りで、シルバとイルミが対抗として参加してくるであろうことがはっきりした。可能であれば彼らが仕事で家を空けている時にどうにかしてしまいたいところ。だが、シルバの許可がなければそもそもアルカと会うことすらできないだろう。
「……キルア、アルカの能力って、これで全部?」
「いや……誰にも言っていない能力が、まだある」
「当然、誰にも言わない。お願い教えて。内容次第で、立てる作戦に変更が出る」
ここからは、どのように対策するか作戦を立てるフェイズ。可能な限り情報を集めておきたいとダメ元で言ったリンに、キルアは暫く無言で思案する。
念能力者は、多くの場合複数の能力を所持している。それは自然発現型の場合でも同様だ。アルカも例外に漏れず、『おねがい』と『おねだり』だけではなく複数の条件を持っている。
「俺だけは、『命令』でナニカを動かすことができる。『おねだり』も要らない、ノーリスクだ」
リンとゴンならば言っても問題はない。これまでの付き合いでそう判断したキルアは、端的に、誰にも言った事のない条件を離した。
本当はこれに加えて、回復のみならば『おねがい』でもノーリスクという条件もある。だが、キルアはここでは口を噤んだ。可能であるならば、言わないで問題なさそうな能力は伏せておくに越したことはない。
「凄い……」
「凄いっていうより、ヤバいわね。それが知られたら、キルアを無理やり操作してでもナニカを操縦しようとする可能性が高いわ」
「そう。だから、誰にも言った事はない。特にイルミは、絶対にアルカを道具として支配する。今のリンの話を聞いて、猶更そう思った」
キルアの言う通りだ。イルミがそんな降って湧いたような好条件を利用しないわけがない。いや、シルバ達でさえきっとそうなる。むしろ、願い事が無条件で何でも叶うと言われて、何もしないでいられる人間の方が少ないだろう。
「つまり、私達以外には絶対に『命令』しているところを知られちゃいけない、か」
「それが大前提。加えて言うなら、正直『命令』もしたくない。無理やり、従わせるような真似はしたくないんだ」
「……そうよね。大事な妹だもんね」
リンがゴンやキルアに向けるような愛情を、キルアもアルカに向けている。それは、キルアを見ていれば痛いほどにわかった。改めて、アルカをゾルディック家から解放してやろうと決意する。
「アルカを連れ出す。それさえすれば、コンプリートよ。一回だけ、本当に一回だけ、『命令』を使ってほしいけど……」
リンが初めにそう前置きしたあと、話した案。それは突拍子もなく、それでいてかなりリスキーな策だった。だが、それ以上に成功確率が高い。
「いいのかよ。そんなことしたら、リンがうちの家族に喧嘩売ることになるんじゃねえの?」
「ゾルディックに喧嘩売るんじゃないわ。キルアの味方をするためにちょっと手荒な手段を取るだけよ」
それっぽいことを言っているが、結局は同じ事だ。だが、振り返ってキルアに笑いかけたその表情に、キルアは何処か安心感を覚えた。
実家では、親はおろか兄弟にも安心感を覚えたことはなかった。ミルキと多少仲は良いが、結局は自分も兄も暗殺稼業の人間だったから。
これが、上の兄弟を信頼する感情というやつなのかもしれない。当たり前のようにそれを享受しているゴンに羨ましさを覚える一方、そんな笑顔が自分にも向けられることを、キルアは嬉しく思った。だが、気恥ずかしくてやはり口には出さないのだった。
◇◇◇
そんな作戦会議から数日経ち、パドキア共和国に到着した。あくまで今まで帰った時と同じように、執事を呼んでリムジンで帰宅する。ただし、それはキルア一人だけだ。
試しの門を4まで開いて帰宅し、急に息子が帰ってきたことに狂喜乱舞する母親を無視して、実の父親の部屋へと向かう。シルバはキルアの表情から何かを悟ったかのように、いつもに増して無表情で息子を出迎えた。
キルアが針を抜いたことは、既にイルミから報告を受けている。そのため、キルアがアルカの話を始めてもシルバは何も驚かなかった。そして、親子の重い会話は進む。
「俺も、あの状態の時のあいつのことをナニカって呼んでるんだよ」
別のどこかから来た何か。自分の娘でありながら、恐ろしい存在だとシルバは思う。だが、キルアがアルカを語る眼は、ただの兄のそれでしかない。
「会わせてくれ、アルカに。あいつを外の世界に出してやりたい」
「……駄目だ。お前に奴は、危険過ぎる」
(……リンの読み通り。やっぱ親父は、俺をアルカに会わせてくれねえ)
しかし、それはリスクを取る理由にはならない。はっきりと拒否の姿勢を示されたが、キルアはさして驚きもしなかった。それは自分自身も同じように思っていたのに加えて、作戦会議の際にリンの予測を聞いていたからだ。
『そもそも、シルバさんはアルカに会わせてくれないと思うわ』
『なんで?』
『それが一番ローリスクだから』
話が最も重要な場面に入ったからと自動操縦の監視もほっぽり出して、身体ごとキルアとゴンの方に向けたリンはそう言った。頭を使っていると糖分が欲しくなるからと、メイメイのポケットからチョコレートの袋を取り出して一つ食べ、残りをキルアにパスする。
『ゾルディック家の基本理念は、ローリスクハイリターン。そして、血族の生存を最優先させる。そんな中でキルアがアルカを連れ出したいって言うのは、あまりにもリスクしかない行為だからね』
『じゃあどうするの? 忍び込んで、無理に連れ出すとか?』
『かなりバイオレンスね。……ま、私の案もそうかわらないけど』
恐らくアルカは、屋敷の中でもかなり地下深いところに幽閉されているだろう。キルアは、家の中に家長しか入ることを許されない領域がいくつもあるのを知っている。
おまけにアルカが何処に幽閉されているのか、キルアは全く知らない。ゴンの案は確実ではあるが、失敗の可能性が高い。
『シルバさんに脅しをかける。アルカの部屋に入れなければ、これを壊すって』
『親父が動くほどの……。そんなもの、家族くらいしかねーぞ。リスクが高すぎる』
そもそも、ゾルディック家の人間全員が念能力者かつ暗殺術の使い手だ。嫁入りしてきたキキョウですら、無傷で捕縛するのはかなり難しい。リンの言った案は、ゴンの案以上に成功率が低いように思われた。だが、リンはニヤリと悪い笑みを浮かべて指を二本立てた。
『家族も良いけど、もう一つある。……家系の壷を盗む』
キルアがシルバと話していた頃、リンとゴンはゾルディックの屋敷裏手に居た。リムジンに乗るキルアより先回りして試しの門付近に隠れ、キルアが門を開いている隙にバレないよう中に滑り込む。
これらの行動は全て『絶』を伴なって行われていたが、屋敷に潜入するにあたって改めて自分達のオーラを確認していた。
「完璧な『絶』ね。これならいけそう」
「姉さんほどじゃないけどね」
自分はもちろん、ゴンの『絶』もまた完璧なものだ。野生で学んだ我流の気配の消し方も相まって、ゾルディックの執事であれど大抵の人間ならば気づくことすらできないだろう。
「イルミも家に居ないみたいだし、かなり風向きは良い。パパッと終わらせちゃいましょ」
「……うん!」
ここから、家系の壷を探しに屋敷へ潜入することになる。小声で呟き、ゴンと拳を軽くぶつけ合った。
「じゃあ……ミッションスタート!」
原作通りに行くならば会わせてくれるだけはしそうですが、今回は完全に考察交じりの捏造です。