リン=フリークスの冒険   作:夜桜百花

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欲望の共依存【2】

 家系の壷。それは、ゾルディック家に伝わる念具の一種だ。リンが初めてその壷の存在を知ったのは、ゴンやキルアが生まれるよりも前まで遡る。

 ゾルディック家に預けられてかなり経ち、キルアが生まれたばかりの頃だろうか。イルミとミルキと共にその日の訓練を終えたリンは、屋敷の地下から出てくるマハと遭遇した。

 

『あ、マハさんこんにちは』

『……』

 

 預けられている小娘からの挨拶はともかく、玄孫が二人も傍にいるのに、それでも一切話さない。マハの行動原理は、リンにとって全く理解できないものだった。それは今も変わらないのだが。

 

『相変わらずマハさん、無口だね』

『マハ爺はあんま話さねーからなー』

『あっちの方の部屋には行ったことないけど。何があるの?』

『……リンには関係ないよ。知る必要もない』

 

 この頃はまだ(比較的)無邪気さも残っていたリン。今よりは裏表を感じさせない素直さで尋ねたが、イルミの返答は素っ気ないものだった。

 思えば、イルミは同じ家に住んでいたとしても、リンを明確に『よそ者』扱いしていたのだろう。代わりにリンの視線はミルキへと向けられる。

 

『……』

『あーもーわかったよ! そんな目で俺を見んな!』

『じゃあ教えてくれる?』

『教えるも何も、お前そうしなけりゃずっと俺の後ついて回るだろ』

『うん』

『お前、マジで一回殺すぞ?』

 

 一方、ミルキはイルミに比べれば比較的リンに友好的だった。丁度漫画の趣味で意気投合していたせいもあるのだろう。渋々ながらも教えられたそれが13年後に活かされるとは、この時はリンも思っていなかったが。

 

『家系の壷だよ。つっても、俺も見た事ねーけど』

『家系の壷……?』

『正式な名称はない。便宜上俺達はそう呼んでる。初代が暗殺稼業を立ち上げた時、一族の身を護るために壷に念を込めたんだと』

『念具みたいなもんかな……』

『もっと強力でタチのわりーもんだよ。一族の繁栄を保証する代わりに、暗殺稼業を継ぐ後継者を30年に一度はすげ替える。そういう制約があるんだよ……他にも色々あるみたいだけどな』

 

 それは、ミルキの言う通り呪いに近いものだろう。念具は呪具と言い換えられる事もあるが、どう考えてもこのケースは呪具と呼んだ方が差し障りがない。

 

『あー、だから皆暗殺を止めないの?』

『破れば一族全員が死ぬって誓約があるらしい。ま、そのおかげでいい暮らしさせて貰えてるんだから、俺はいいけどな』

『へぇ。それを聞くと、イルミの殺し命な感じもわからないでもないかも』

『文字通り、殺しを止めたら命に関わるからな。キルが継ぐだろーとかいって俺達誰も暗殺やらなきゃ、キルが脱走した時に一族共倒れだ』

 

 キルア含め、ゾルディック家の人間は因果によって死にづらい。かつてリンはクラピカにそう言った事があった。それもまた、呪いだとも。

 それは、この壷の存在に起因する。最低限の情報と存在だけ知らされ、家の人間ですら見るに見られない呪具。いつしかゾルディック家が呪われた一族と呼ばれるようになったのは、もしかするとこの壷の噂があったからかもしれない。

 そんな壷を、リンは盗み出そうとしている。それがどれだけリスキーなことか、キルアが言うまでもなくリンはよくわかっていた。重要なのは、それが歩みを止める理由にはならないということだ。

 

(……確かこの向こうだったと思うけど)

 

 執事達の目を搔い潜り、かつてマハが出てきていた通路へと侵入する。この先にどのような空間があるのかは、想像もつかない。

 薄暗い屋敷は、家長しか入れないというゾーンに足を踏み入れると、更に明るさを失っていった。何回か角を曲がった先には地下へと続く階段があり、牢獄を思わせるような空気が漂っている。反響しやすいその空間で一切の物音をさせないようにしながら歩く。

 

(本当に、ここにあるの?)

 

 そう言いたげなゴンの視線に、リンは最小限の薄いオーラ文字で返して見せた。自分の視線に対して一本指を立てた姉を、ゴンは無言で確認する。

 

『ぶっちゃけると、わからん。でも、キルアの話でもここにあるって言ってた。私の記憶とも一致してる』

 

 なら、進むしかない。リンの言外に伝える意図を読み取ったゴンは、無言で頷いた。

 5階分ほどの階段を降りた先にある曲がり角。そこでようやく、扉が顔を見せた。ここまで深い場所に部屋を用意しているあたり、家系の壷でなくとも重要なものがあるだろうことは間違いない。

 

(ここまで来れば、多少は安心かな? にしても、ごつい扉……)

 

 重厚な扉だ。相当に硬い貴金属でできているだけでなく、暗証番号式のロックが何重にもかけられている。少なくとも、3つの6ケタキーを入力しなければ扉は開かないようだ。扉そのものも、何十センチもの厚みでできており、相当強力な爆弾でも効果はないだろう。

 

「やっぱ暗証キーがあるか。でも、所詮は物理防御ね」

 

 だが、リンは念能力者だ。メイメイを具現化して【透明な反射鏡】(ミラーミラージュ)で扉に正方形の切れ込みを入れると、隙間に指を差しこんで引き抜いた。どんな防御だって、位置座標を指定して物体を出現すればそれは瓦解する。

 ずず……と音を立てて抜かれたそれは、脇に可能な限り静かに置かれる。音がしないせいで勘違いしそうだが、引き抜いた分だけでも何トンはあるだろう。

 

「あとでちゃんと修理費は払うからさ。……イルミの時はぶっちしたけど」

 

 できるだけ音を立てないようにしたし、ここはゾルディック家立ち入り禁止区域の地下深くだ。執事達も気づかないだろうし、仮に気づいても今ここにシルバが居る以上は家長に報告するのが先になるだろう。

 だが、油断はできない。先程よりも早足で、先へと進む。同じような扉が、あといくつかはありそうだ。

 

「そういえば、壷って念具なんだよね。素手で壊せるものなの? ジンのカセットテープの時は、念でガードされてて殴っても壊せなかったんだ」

「たぶん大丈夫。年代物の念具ってそこまで手が回ってないことが多いし、それにシルバさん達だって実際に壊れないかを確かめたことはないでしょ。十分脅しにはなるわ」

「そっか。……姉さん、本当に良かったんだよね?」

「無断侵入かましてる時点で今更よ。脅しや扉の器物破損くらい平気」

 

 ゴンが小声で言いながらも、リンの方を見た。身長が伸びたゴンは、今やリンと目線もそう変わらない。リンの返答に、ゴンは「じゃなくて……」と軽く首を振る。

 

「シルバさんと仲良いんでしょ? イルミやミルキさんとも、幼馴染だって」

「……前々から気になってはいたからね。一蓮托生よ」

 

 元々、ずっと気になってはいた。見て見ぬふりをしていたが。

 リンは、ゾルディック家の中ではよそ者だ。会った事もないアルカを屋敷から連れ出すには、リンは資格も権利もなかった。だから、何も言わずにここまで来た。

 だが、今は違う。キルアが妹を助けたいと言っている。それだけで、リンにとってこのミッションは十分に意味があるものだ。今や、リンの中でのキルアの優先順位はゴンに次いで高い。

 

「……あった」

 

 初めの扉から更に2つ破壊した先に、その壷はあった。分厚いクッションを挟んで展示台に置かれている以外は、落下対策や盗難対策のようなものは施されていない。周囲には申し訳程度の椅子や棚、そして棚には手入れ用品らしきものが置かれている。

 黄土色と赤茶色の入り混じった、古そうな壷だ。中を覗き込むと神字がびっしりと書かれており、念具であることが分かる。ここの他に部屋がない以上、これが家系の壷で間違いないだろう。

 

「これが家系の壷……」

「確かに、えっぐいオーラが込められてるわね」

 

 壷そのものに宿るオーラ。それは神字によって込められたものだ。壷そのものだけでなくそこに歴代継承者のオーラも加わり、禍々しいオーラを放っている。はっきり言って、気持ち的な意味であまり触りたくない。

 ゴンが壷を持ち、リンが先頭となって、来た道を戻ろうとする。一刻も早くキルアと合流しなければと、ゴンが先を促す。だが、リンは応じられなかった。

 

「早く行こう、姉さん」

「……そうはいかなそうよ」

 

 リンの陰に隠れて見えなかったが、視線をずらしてゴンもようやく気付く。今目の前に居る相手は、それだけステルス能力に長けていた。

 

「マハさん……!」

 

 身長は小学校中学年の子供程度だろうか、かなり小柄な老人だ。顔もしわくちゃで、念能力者であることを加味してもネテロと同等かそれより年上であると思われた。

 だが、その眼付は明らかに一般人のものではない。闇の深淵を見ているような大きな目玉は、どこかイルミを思い出させるものがある。ゾルディック家の人間だと判断するには十分すぎる程に。

 

「キルアのひいひいお爺ちゃん……」

 

 ゴンは完全なる初対面。話でしか聞いたことのないキルアの高祖父を、まじまじと見つめる。まったくもってオーラを発していないのに、それでもわかる強者の風格に恐れを抱きながら。

 そしてリンが会うのは、おおよそ12年ぶり。あの頃とまったく変わらない姿だが、それ以上に今ここで出会ってしまった絶望をどのように挽回するかで頭がいっぱいだった。

 

(やっばい……マハさんの能力は完全に未知数! ネテロ(ジジイ)と同い年でゾルディック家の人間とか、常識はずれの強さに決まってる……!)

 

【幻入手の必須技】(黒い眼差し)を使用して足止めするか? だが、これを使ってしまえばその後1時間は他の能力を使用できない。

 それに、マハがここに居るということは屋敷の使用人にもバレている可能性がある。そんな中をゴンだけでシルバの下へ行かせるのは不安が残る。かといって袋小路になっているこの部屋で、マハから二人とも逃げおおせることができる自信はあまりない。

 

(ダメ元で【幻入手の必須技】(黒い眼差し)を使って私も猛ダッシュするか……!)

 

 ならば先手必勝、そう思い能力を発動しかけたリンだったが、それより先にマハが口を開いた。

 リンやゴンほどの聴覚でも油断したら聞き逃しそうな声だ。しわがれたそれは、予想外にも感謝の言葉だった。

 

「……孫達が、世話になってる」

「へ?」

「喋った……」

「こらゴン失礼!」

 

 思わず言ってしまったというノリのゴンを叱責するも、今の自分達は殺されても仕方がないことをしているはずだ。マハの意図が全く分からず、リンは目の前の人物が何を言おうとしているのか注視する。

 

「シルバとの交渉材料に……壷を欲しているのじゃろ?」

「……そこまでわかってたんですか」

 

 キルアは丁度今、シルバとその会話をしているはずだ。シルバやキルアの性格上、他の人間は関わらせずに一対一(サシ)で話をしているだろう。マハがどこでそれを知ったのか、まったく予想がつかない。

 

(それに、私とゴンはかなり隠密に気を遣ってここまで来た。扉を壊したタイミングで気づいたとしても、どうやって私達やキルアの目的まで知ったのよ……)

 

 念の力か、それともマハ個人の能力か、あるいはただの偶然なのか。目の前の老人からは何も読み取れない。だがマハは、ゴンの抱えている壷を見つめながら、淡々と言った。

 

「持っていけ。家族のためにと、代々守って来た。じゃがそれも、潮時なのかもしれん」

「……」

 

 やはり、そこから感情は読み取れない。クロロともまた違う、オーラの色を読み取らせない何かがそこにはある。

 

「姉さん……行こう」

「……そうね」

 

 今ここで考えるのは無意味。リンとゴンはそう判断した。ぺこりと無言でマハに頭を下げ、通路を駆け抜ける。シルバの部屋を目指して。

 

 マハの協力があったならば問題ないかと思ったが、それでも用心をしておくに越したことはない。『絶』をした状態で、シルバの部屋へ向かって走る。部屋がどこにあるかは、リンがよく覚えている。

 だが、家長の部屋付近、それも息子との面会中ともなれば、使用人が何人も居る。彼らを気絶させながら進むが、目的地の直前に居たのは一筋縄ではいかない相手だった。

 

「あら、リン様……」

 

 そこに居たのは、ツボネ。ゾルディック家使用人の中でも歴が長く、主であるはずのキルアですら『ちゃん』付けで呼べる唯一の存在。リン自身も幼少期からよく知る存在であり、だからこそその脅威はよく理解している。

 そして、傍らに控えるのはその孫であるアマネ。生まれた時からゾルディック家の使用人となるために生きて来た。もっとも、リンはアマネとの面識はあまりないのだが。

 

「……お久しぶりです」

「さっきの音はやはり、あなた達だったのですね……」

 

 ツボネは当然、屋敷の地下で起こった異常に気づいていた。マハに行動を止められていたので待機していたが、この屋敷の最長老は一体何を考えているのだろうか。

 否、そのような感情は使用人には不要。自分達はただ、目の前の侵入者を排除するのみ。それはかつての居候であっても、同様だ。

 だが、リンも怯まない。今は家長すら従わせることができるであろう物品を手に入れたのだから。それも、長老のお墨付きで。

 

「ここを通して、ツボネさん。じゃないとコレ、壊すわよ」

「……!」

「アマネ、一旦下がりなさい」

 

 ツボネの声が静かに響いた。今のアマネの表情の変化に、リンも気づいただろう。気づかずとも、わかっていただろうが。

 この壷は壊されては困るもの。ゾルディック家の人間が、最も大切にしているものだから。家長とごくごく僅かな使用人以外は、家族ですらそのエリアへの侵入も許されず、壷をその眼で見る、ましてや触れるなど言語道断。そんなレベルのものだ。

 それを壊すと言い切った。そしていかに念具であれど、目の前の人物レベルであれば破壊は可能かもしれない。それに、物体の破壊を可能とするのはなにも物理的攻撃のみではない。

 ならば、最優先は家系の壷。ツボネは無言でシルバの部屋にノックをした。

 

「……入れ」

 

 シルバも、そこにリンとゴンが居ることはとっくに気づいている。『絶』を解きいつでもオーラを出せる状態にしたうえで、二人は頷き合ってシルバの部屋へと入る。

 リンの目線で言えば、悪趣味な部屋だ。言葉にするならば、中世のベゲロセ貴族が自らの殺戮趣味を反映させたような部屋。その中央では、真剣な表情のキルアとシルバがじっとこちらを見ていた。

 

「どこまで話は進んだ?」

「リンの予想通りだよ。アルカに会わせてくれないってとこ」

「じゃ、丁度良いか。……これを盾にとられても、平然としてられますか? 人質ならぬ、物質ってね」

 

 自分の言った言葉に微妙なデジャヴを覚える。それがナックルの言っていた『鳩質』と同じレベルだからだと気づき、心の中で苦笑した。今はそんな事を言っている場合ではないのだから、余計に。

 流石のシルバとて、リンの手にしている物に驚いたようだ。軽く眉を顰め、一族が守り抜いて来た物が奪われている事実に思考を巡らせる。そもそも、この壷の存在は誰でも知っているものではない。

 

「家系の壷……キルアが喋ったか。それとも、元々知っていたか?」

「ここに住んでた時から知ってました。ゾルディック家の人間の命を守る念具、ですよね?」

「お前達、その行為の意味をわかってるのか?」

 

 リンの行動は、明らかな敵対行動。それは、高名な暗殺一家ゾルディック家を敵に回すことを意味する。

 

「ゾルディック家と敵対したいわけじゃないわ。キルアの意思を尊重したいだけです」

 

 鋭く見据えられたが、その眼を真っすぐに見返す。ゴンから壷を受け取り、いつでも壊せると言わんばかりに拳にオーラを集めた。その気になればシルバが動くよりも早く、壷を攻撃できるようにと。

 

「今なら壷を返せば、ここまでの敵対行動は見なかった事にする。アルカに会わせることはできない。キルアでも、駄目だ」

「……っ!」

 

 有無を言わせない口調に、キルアが黙り込んだ。これまで何度も死線をくぐり抜けてきたが、だからこそわかる。今の自分は、父親の足元にも及ばないと。

 つまり、勝てない。自分の力では、アルカを護り切ることはできないだろう。今だけではない。きっとこの先も。

 だけど、諦めきれない。キルアが拳を震わせながら意を決して顔をあげようとした時、ゴンの怒鳴り声が響きわたった。

 

「……なんでだよ! おかしいよそんなの!」

 

 ゴンだって、シルバが如何に力を持っているかはわかっている。ただし、それが言いたい事を飲み込む理由にはならないというだけだ。純粋に相手を思いやり信じぬく、キルアが、闇の世界に生きる人間が『眩しい』と表現するゴンの美徳だ。

 

「キルアは、アルカちゃんに……妹に会いたいだけだ。記憶も消されて操られて、その上会うこともできないなんて、あんまりだ! シルバさん、それが『必要な事』なの!?」

 

 キルアが妹を大切に思う感情を、ゴンはゴンなりに解釈していた。それは、自分が姉に向ける愛情と似たようなものだと。だからこそ自然と、言葉には力が入る。

 自分がずっと言いたかった、叫びたかったことを、ゴンは何の躊躇もなく言ってみせてくれた。それはキルアにとって、間違いなく光そのものだ。

 

「アルカちゃんだって、きっとキルアに会いたがってるよ。キルアがこんなに大事に思ってる妹なんだもん。アルカちゃんもキルアが大好きに決まってる」

「さっきも言ったけど、私達はただキルアの助けになりたいだけです。アルカの能力なんて興味ないわ」

 

 家系の壷は確かに重要なものだ。だが、だからといって簡単に要求を呑めるほど、アルカの存在は単純なものではない。放っておけばこの先、因果を無視してゾルディック家が滅びかねないだけの危険性を孕んでいる。

 目を閉じて静かに考えこむシルバ。だが、答えを出す前に新たな来訪者が現れた。

 

「キルア達の言うことに従っておけ、シルバ」

「親父……」

 

 家長に進言できるのは、その者よりも更に上の存在だけ。ゼノはやれやれとため息をつきながら入って来た。「久しぶりじゃの」とキルアやリンに声をかけたところで、どっこいしょと傍らの椅子に腰かける。

 

「マハ爺がこやつらに味方したようじゃ。わしらには何もできんわい」

 

 最終的にはそれが、シルバの決断を後押しする形になった。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 アルカが居るのは、家系の壷があった場所とはまた異なるエリアらしい。シルバを先頭に、キルア、リン、ゴンが続いて歩く。暗い地下通路を歩きながら、キルアがシルバを見上げた。

 

「最後にした『おねがい』は?」

「数年前、ミルキが当時最新のパソコンを頼んでいる。対価はまだだ」

「パソコンなら、『おねだり』で目玉よこせとかは言われないかな」

 

 だが、簡単な『おねだり』でも済まないだろう。それを引き受けるならば、骨折程度の怪我は免れないはずだ。あくまでキルアから聞いた等価交換のケースから想定する範囲ではあるが、面倒なのは間違いない。

 

「……あんにゃろう、ボンボンの癖になにしょっぱいもの頼んでんだか」

「息子ながら同意だ」

 

 その気になれば億単位の金銭も動かせるのにと呆れる。数ケタのパスワードを入力しながら、シルバもぼそりと呟いた。

 いくつもの扉を開いた先、家系の壷と同じくらいに深い場所に、アルカの部屋はあった。不自然なくらいにぬいぐるみが大量に置かれ、壁一面には漫画がずらりと並んでいる。

 少女はぬいぐるみに囲まれて、そこに居た。真っ先に部屋に入ったキルアの姿を認めると、ぱあっと花が開くように表情を明るくさせて駆け寄ってくる。

 

「アルカ!」

「お兄ちゃん!」

「ごめんな、ずっと会いにこれなくて……」

「ううん、いいんだよ。お兄ちゃんに会えて嬉しい!」

 

 互いに固く抱きしめ合い、再会を喜ぶ兄妹。その場に入るのも憚られ、リンとゴンは部屋に入らずに入り口に控えておく。シルバは扉の脇で、その光景をじっと見つめていた。

 

(……シルバさん、こういう時の表情は『父親』してるのよね)

「そっちの人達は?」

 

 心行くまでキルアを抱き締めると、入り口付近に見知らぬ人間が居ることに気づいたアルカ。明らかに使用人とは異なる振る舞いをしていたのも大きいだろう。

 アルカと目が合ったのを受けて、ゴンは持ち前の人懐っこさで朗らかに手を振った。

 

「初めましてアルカちゃん! 俺はゴン、キルアの友達だよ」

「リンよ。ゴンの姉で、私もキルアの友達。キルアは弟みたいなもんよ」

「うるせーよ、余計な情報入れんな」

「私はアルカも妹として可愛がりたいのよ。重要な情報でしょうが!」

 

 そんなゴンとは対照的に、初対面のアルカの前でキルアに突っかかるリン(しかも謎の壷を抱えている)。初めの印象としてはあまり良くないが、それでも自分達に好意を持ってくれていることはアルカも分かった。

 

「行こう、アルカ。兄ちゃんがお前を外の世界に、連れ出してやる」

「うん!」

 

 キルアが差し出したその手を、アルカは一切の躊躇なく取った。

 




この二次創作の中では、
・アルカ&カルトは女性
・ただし、ゾルディック家の風習で子どもは全員男として扱う
という捏造により原作の台詞を解釈しています。
アルカ&カルトが妹として扱われているのに坊ちゃん呼びされているのはこのためです。
ちなみに、公なデータとしても男として登録されているとかいう裏捏造もあります。
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