リン=フリークスの冒険   作:夜桜百花

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欲望の共依存【4】

(ゴン達はカイトと合流できた、か。何かあった時には引き留めてくれると良いんだけど……)

 

 メッセージアプリを閉じるとメイメイにスマホを預けた。そしてヨークシン、トルイから指定された場所へとリンは向かう。

 事前に睡眠や栄養補給を行い、コンディションはそこそこ。前回のような人任せの回復手段もない以上、同じ轍は絶対に踏めない。戦闘になった際に勝利を収めるだけの力が、今のリンには要る。

 

(目的は何かしら。もっかい再戦しよーよ★ とか? それか転生者同士の話し合い……はしたがるタイプには見えないし)

 

 トルイの目的は全く分からない。戦闘が目的ではない可能性も、僅かだがなくはないだろう。

 だが、リンには目的がある。そしてそれは、確実に戦闘になるだけの目的だ。

 

 トルイの身に着けている緋の眼。あれは、元々クラピカの仲間のものだ。同時にクラピカが心血を注いで探し集めているものでもある。

 ゴン達の前で眼球を抉り出すわけにもいかないのであの場では我慢してくれていたようだが、クラピカはトルイの所持している緋の眼をなんとしても取り戻したいだろう。そう遠くない将来、トルイへの攻撃を仕掛けることが予想される。

 しかし、トルイはクラピカが敵う相手ではない。なんとかして、クラピカが手を出す前にリンの方で解決しておきたい。トルイの誘いに応じることにしたのは、そのような経緯だった。それはG・Iでメモを渡された、その時点で決めていた事だ。

 

(放っといたら確実に返り討ちで殺られるとはいえ、我ながらかなりクラピカに肩入れしてるわね。……もしかして、これが意識してるってやつ? ……ないない)

 

 ホテルのフロントでハンターライセンスを提示し、建物内の全員を一時的に追い出す。罠を仕掛けられるのを防ぐため、そして共犯者を排除するためだ。

 流石は伝家の宝刀、ハンターライセンス。人払いはあっという間に済んでしまった。ホテルを出ていく利用者達の物珍しそうな、あるいは迷惑そうな視線をフル無視し、上等そうなソファに腰かける。

 

(爆弾の類は……火薬の匂いもしないし大丈夫かな。そんなチンケなことやるタイプでもないだろうし)

 

 脱走したとはいえ、相手は暗殺一家の人間。先回りされている可能性も考慮していたが、どうやら杞憂だったらしい。

 リンの能力で利己的な殺人を止めさせたものの、安心はできない。あの指示だけでは抜け穴はいくらでもある。警戒しながら待ち合わせ時刻までじっと待って過ごす。次の瞬間には攻撃されているかもしれないと覚悟しながら。

 

 だが相手はかなりルーズな性格らしく、一向に現れない。イライラしつつも警戒は怠らない。だが、あまり意味はなかったようだ。

 

(……遅い)

 

 結局トルイは、約束の時間よりも更に20分程遅れてやって来た。おまけに奇襲のきの字もなく、堂々と正面入口から入って来る。それも、缶ビール片手に。

 

「……久しぶり、トルイ」

 

 いつ殺し合いが始まってもおかしくないとピリピリしていただけに、普通に遅刻をされて少し苛立つリン。立ち上がり仁王立ちすると、ジトッと責める視線を向ける。だが、トルイのヘラつき具合からしてあまり効果はなさそうだ。

 無駄に神経をすり減らされてしまった。ライセンスを使ってまで人払いしていたのが馬鹿馬鹿しくなってくる。

 

「よお、リン。来てくれなかったらどうしようって、内心心配してたぜ?」

「それはこっちの台詞よ、遅刻魔」

 

 誰も居ないホテルで待ち受けていたリンにさして驚きもせず、トルイはからからと笑った。ぐびりと美味しそうにビールを飲む。見た目に似合わず、酒が好きらしい。

 

(一応身体は未成年らしいけど……まあ、身体を人形にしてるとか言ってたし今更か)

 

 態度といい身なりといい、休みの日に待ち合わせをしていた友達のような軽さだ。あの頃と違ってカジュアルなリュックを背負っているのもそう見える理由だろう。

 

「……あれ、イメチェンでもした?」

「ん? まーな。よく気づくなお前」

「何が変わったかまではわからないけど……なんとなくね」

 

 トルイがホテルに入ってくるまでは全く気付かなかったが、明るい場所で対峙すると、以前とは何かが違う気がする。といっても、精々これまでに二度会っただけなので、具体的に何が違うのかイマイチはっきりしないが。

 思わずトルイのテンポに乗せられていることに気づき、軽く頭を振った。心理戦はとうに始まっている、はずだ。たぶん。コホンと咳払いをして、自分のペースを立て直す。

 

「わざわざ私をピンで呼び出した以上、何か大事な話があるのよね。それとも殺し合いのお誘い?」

「正当防衛ならやぶさかでもないけどねぇ。今日はふっつーにオハナシしたくって」

「で、話っていうのは?」

 

 とことん意図が読めない。今この瞬間にでも能力を発動して殺しにかかってくるのではないかと警戒しているリン。それなのに、トルイは以前に比べると随分とのんびりした様子だ。

 鼻歌を歌いながら、背負っていたリュックを地面に降ろす。戦闘の合図かと身構えたが、そうではないらしい。

 

「ふ~ん~ふ~ふ~ふ~ふふふん、ふふっふん~」

(……マジで何がしたいの?)

 

 残酷な天使のテーゼを鼻歌で歌いながら、のほほんとリュックを漁るトルイ。中から小脇に抱える程の大きさの円柱型ケースを2つ取り出す。そして、「ほらよ」と雑にリンに向けて投げ渡した。

 反射的に2つのケースを器用に受け取るリン。透明ながらも頑丈そうなケースだ。そして中には、緋色の目玉が1つずつ浮いている。どう見ても、作り物には見えない。

 

「これは……緋の眼? もしかして、あんたの目玉?」

「そゆこと。正確には俺が今までつけてた目玉、な」

 

 そう言われて、ようやく違和感の正体に思い当たった。瞳の色だ。

 以前のトルイは鳶色の瞳、戦闘時には鮮やかな緋色になっていた。クルタ族の特徴と完全に一致するそれは、緋の眼を能力によって装着しているためだとトルイは語っていた。

 それが、今は少し暗めの赤色になっている。キルアの瞳と同程度の明度と彩度を持つ赤だ。赤の印象が強かったために気づかなかったが、確かに緋の眼とは別物の眼球を使っているように見える。

 

「どういう風の吹き回し? そんな殊勝なことするタイプには見えなかったけど」

「ひっで~。こんないたいけな青少年捉まえてそんなこと言う?」

「おっさんでしょあんた。自重しなさいよ」

 

 リンの言葉にもトルイはさして傷ついていないようだ。むしろツッコミ待ちだったのだろう、ケラケラと明るく笑って見せる。人払いした広いラウンジには、トルイの声が良く響き渡った。

 

「クラピカ、思ってた以上に執念深そうだし。つけ回される前に外しとこーと思ってさぁ」

「ま、それは間違いないわね。私もそのつもりでここに来たし」

「やだ怖ぁい」

 

 あっさりと目的のものが手に入った。あまりにも肩透かしだけれど。だが、ここまで来て今更自分を殺そうとしているようにも見えず、リンもようやく警戒心を解いた。

 

「……なぁんだ。やる気満々で来た私が馬鹿みたい」

「お、やるか?」

「遠慮する。死にたくないし」

「しつけぇな~。殺したりしねーよ」

「わかっててもトラウマなのよ」

 

 リンの能力の影響なのか、それともトルイの心境の変化なのか。とにかく、ここで争う必要はなさそうだ。メイメイのポケットに緋の眼を入れると、再びソファに座り直す。正面にトルイもどっかりと腰かけた。

 

「こっから、どうすんの?」

「どうするって?」

「今後の方向性よ。ハンター業にでも戻るの?」

「うんにゃ。この身体の影響かな、転生者の記憶があった昔ほどはハントに興味ねーんだわ。たまに仕事の依頼受けつつ、気ままな一人旅ってとこ。ずっとそうしてきたし」

「そう。ハンターなんてなんでもありだと思うけどね。あんたのやってる事も、意外とハントの一種なんじゃない?」

 

 ハンターの定義なんて、曖昧なものだ。ライセンス持ちのプロであるほど、その傾向は強い。自分の欲しいものを全力で手に入れようとしていれば、それはハンターだと言えるだろう。

 トルイもリンの言葉に「確かに」と言う。そして暫く笑った後、にやりとこれまでとは違う笑みを見せた。

 

「ま、でもそーだな……実家にちょっかいかけに行くのも一興かな~とか思ったり?」

「あんた、偽装してまで逃げたんじゃなかったの?」

「ガキの時の話だしぃ。今は向こうが捕まえに来たって、余裕で逃げれるしぃ」

 

「他の弟どもにもちょっと会ってみたいしな」と照れ臭そうに笑うトルイ。キルアの姿を見て、何か感じるものがあったらしい。そして、恐らくリンとゴンの姉弟としての姿にも。

 

(転生者だの暗殺者だのハンターだのって拘ってたけど、結局はこいつもお兄ちゃんってことね)

 

 弟妹溺愛の会に入れてやらないでもない、と上から目線な事を考えるリン。アルカの話もしようかと思ったが、そこで丁度別のことを思い出した。

 

「なら、コレ返しといてくれない?」

 

 そう言ってメイメイのポケットから壷を取り出す。流石に放り投げるのは憚られたので、机に置いて見せる形で渡すことにした。あまりに見せられたものが予想外過ぎて、流石のトルイも少し顔を引きつらせる。

 

「うわ、家系の壷じゃん。なんでこんな所にあんだよ?」

「こないだ、ゾルディック家に行ったのよ。言うこと聞かなかったら壊してやるって脅して、そのまま持ってきちゃった。返すタイミングがなくて」

「……殺し屋一家によくやるよ、お前。頭おかしいんじゃねえの?」

「ノリで身体を人形にしてショタぶってる奴に言われたくないわ」

 

 互いに嫌味を言い合ったところで、思わずといった感じで互いに少しばかり笑ってしまう。似た者同士というやつだ。それ故に相容れないと思っていたが、和解してしまえば目の前の相手はかなり気の合う存在らしい。

 

「ま、気が向いたら返しとくわ。こんなモンあったって俺には損しかねーし、壊しても良いんだけどよ」

「それは好きにして。ま、里帰り楽しみな」

「あんがと」

 

 トルイの目的は、緋の眼を返す事だったようだ。リンも家系の壷を手放せたし、これ以上は何も言うことはない。

 本来ならばそうだ。だが、リンとトルイにはもう一つ重要な共通点がある。

 

「……そういえば、かなり正確にゴン達の移動時期を把握してたわよね。あんた、原作の記憶はどれくらい持ってる?」

 

 それは、『転生者』であること。特にトルイは、ゴンが2000年初期にG・Iに居ることを把握していた。カードの集め具合からして、ヨークシン編直後にはG・Iに入って待ち伏せていたはずだ。リンの言葉に、トルイは言いたい事が理解できないというように肩を竦めた。

 

「今は欠片もねーよ。かろうじて登場人物の顔と名前だけってとこ。原作知識はガキの頃にメモしてたんだよ」

「どの程度?」

「イベント発生の時期と場所、程度だぜ? そんな大したもんじゃねーよ」

 

 リンが起こる内容を記録していたのに対して、トルイは日時と場所を記録していたということか。それは今のリンにとって、喉から手が出るほど欲しい情報だ。

 

「かなり重要よ。こっから、何が起きるか知りたいの。キメラアントのことも」

「わりーけどそれはムズいわ。ハンター試験編からG・I編まではそれなりにはっきりと時期が書いてあったんだけどさぁ、キメラアント編から先はざっくりとしか時期が書かれてないんだよ」

 

 淡々とした口調ながらもリンの必死さが伝わったのだろう。トルイはそれなりに申し訳なさそうな表情で頭を掻いた。といっても、実際はそこまで悪いと思っていないだろうが。

 

「それに俺、このメモをした時は原作の記憶が消えると思ってなかったみたいで、内容は一切書かれてない。主人公の時系列と居場所だけ。……たぶん当時は聖地巡礼しようと思ってたんだろな」

「それでも良いわ。記憶のすり合わせがしたい」

「キメラアント編と選挙編が年内に来る、それだけだ。選挙編はキメラアント編直後にシームレスで入る。あとは、王位継承編が来年ハンター試験直後に入ってくる。途中で天空闘技場でのイベントも挟むみたいだけど、これの時期はわかんねー。……俺のメモはそれで終わり」

 

 リンのメモは、キメラアント編以降、クロロとヒソカの戦いやクラピカとツェリードニヒの名前、念能力を得ることなどが雑に書きつけられているのみ。選挙や王位継承といったキーワードには全く覚えがなく、怪訝そうにトルイの言葉を反芻した。

 

「選挙? 王位継承?」

「俺も詳しくはわかんね。場所は~、選挙編はハンター協会本部、王位継承編はB・W号だってよ」

 

 うろ覚えだったのだろう。リュックから古びたメモを取り出し、つまらなそうに読み上げる。眉間にはやや皺が寄っており、あまり原作の話をする事は嬉しくないらしい。

 

(協会本部で選挙ってことは、会長選挙よね? ジジイが会長を辞めるってこと……?)

 

 嫌な予感がする。だが、今は考えても仕方なさそうだ。リンもトルイも詳細は憶えていないし、なにより本来、未来は見通せるものではない。

 

「その先はないの?」

「そもそも原作がそこまでだったんじゃねーの。連載中に俺が死んだか、それともそこで作品が終わったかはわかんねー」

「予測可能な未来の終点がそこまで。……ってことか」

 

 そう言うと、トルイは深くため息をついた。どうやら、これがトルイの表情を曇らせていた本当の理由のようだ。

 

「もっと言うなら、『原作が途切れた時点(物語の終わり)』が現実世界(この世界)の終わりにならねーとも限らねーって思ってる。俺はそれが怖ぇ」

「この世界は現実よ? 流石にそれは……」

「『ない』って、なんで言い切れる?」

 

 リンもトルイも、原作という世界の細部までは憶えていない。だが、それでもこの世界が不思議なくらいに原作に沿って動いているのはわかる。

 主人公の姉、主人公の相棒の兄。どちらも強大な力を有し、重要人物と幾度となく関わりを持って来た。物語のターニングポイントにも、何度も変化を加えてきている。

 なのに、どれだけやっても原作の主軸は変わらない。このまま原作の終着点に辿り着いた時、何が起こるのか。それは誰にもわからない。

 

「だから俺は、原作を捻じ曲げようと思ってたんだよ。ぶっちゃけると、G・Iで『主人公』(ゴン達)を待ち伏せてたのはそれも理由。いっそ主人公を殺しちまえば、確実に原作改変ができると思ってさ」

「……言いたい事は山ほどあるけど、ハンター試験の時やヨークシンなんかを狙わなかった理由は? そっちのが時期ははっきりわかってたでしょ」

「ハンター試験はあちこちに移動するだろうから、流石にピンポイントを当てるのは難しかった。ヨークシンは単純、旅団と絡んだらメンドそうだから」

「あんたなら嬉々として殺しまわると思ってた」

「そりゃあ、一人二人なら良い娯楽になるぜ? けど、A級賞金首(あんなの)が十何人も血眼で殺しに来るのは流石に勘弁。流星街の人間はねちっこいしよぉ」

 

 幻影旅団は流星街の人間だ。奪われた報復は、地獄の果てまでも、何十人の同胞を犠牲にしてでも果たすだろう。クロロ達に、常にどこかから狙われ続ける緊張感。想像しただけでも吐き気がしてくる。

 

「……ま、英断かも」

 

 だが、リンだってこの世界に幾度となく干渉してきた。特にヨークシンでは確実に原作を変えたことが、クロロの占いと読み取られた能力からわかっている。

 話し込んでいるせいで喉が渇いてきた。メイメイのポケットからパックのオレンジジュースを取り出し、1本はトルイに投げる。ストローを加えながらリンは改めてトルイの顔を見た。

 

「でも、私はヨークシンやG・Iでそれなりに干渉したわ。なら、もうとっくに原作からは外れてそうじゃない?」

「まだ足りねーよ。現に、お前らは俺の知っている時期にG・Iに来てたじゃねーか。大筋は変わってないはずだ」

「……確かにね」

 

 そう言われると、何も言い返せない。トルイの仮説が正しいのではないかと、本気で思えてくる。放置すれば、スーパーハイリスクのローリターン。対策は考えておいた方が良いかもしれない。

 

「死にたくねーから趣味半分、けれどほぼ仕方なしに動いてた。まあでも、お前の方が主人公共と絡みでかいし、あとはお前に任すわ。俺、本来こーゆーの向いてねーの」

 

 そう言うとストローを挿しながら、トルイは今までとは別人のような、真剣な表情を見せた。程度にかなりの差はあるが、普段と真剣な時のギャップはリンとトルイの共通点でもある。だがトルイのそれは、リンとは比べ物にならない。

 

「リン、この世界の未来を変えろ。『転生者』だろ?」

 

 タイムリミットはおおよそ1年弱。それまでに原作主軸の流れを根本から覆さなければならない。だが、頼まれずともこんな話をされた以上、リンはそうするつもりだった。

 

「言われなくてもやるわよ。死ぬのはまっぴら、死ぬくらいなら死んだ方がマシだわ」

「それ俺と同じ思考回路だぜ?」

「じゃあこの考えやめるわ」

 

 前言をあっさり撤回したリンにトルイは「……え、そんなに嫌?」と泣きそうな表情を見せた。それもポーズなのだろうが……。どこまで本気でどこまで冗談か、わからない相手だ。

 

(私はまだ、この世界で生き足りない。人生謳歌するついでに未来歪ませるくらい、やってやるわよ)

 

 話はこれくらいだろう。リンは「こんなところかしら」と腰を上げた。いい加減、ホテルの人間も呼び戻してやった方が良いだろう。スマホを取り出し、先程入れたばかりのホテル支配人のホームコードを開く。

 

「……あ、そうだ。言い忘れてた」

 

 トルイに別れを告げてホテルを出ようとしたが、ふと思い出してその足を止めた。これだけは絶対に言っておかないといけないからだ。

 

「ゴンを殺すなら、その前に私があんたを殺すわよ」

 

 殺意を湛えてトルイをぎろりと睨みつけた眼。あれだけ戦いたくないだの死にたくないだの話していた直後に口にされた、あまりにも向こう見ずな発言。

 それが相当の覚悟と共に発せられているものだということを、トルイは直感した。同時に思わず喉から笑いが込み上げる。

 

「……くくっ、立派にオネーチャンしてんじゃん」

「あんただってこれから初対面の弟に会いに帰省でしょうが」

 

 そして同時にニヤリと笑った。やはり、自分達は似た者同士だ。生来の気質が似ているのか、それとも同じ『転生者』だからか。それはもうどうでもいいことだが。

 

「じゃーな、『ジンの娘』」

「機会があったら連絡するわ。『ゾルディックの長男』」

 

 スマホに耳を当てながらホテルを出るリンを、トルイは軽く手を挙げて見送った。そしてごろりとソファに寝転んだのだった。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

『入金を確認した、まいどあり。……トルイ=ゾルディックの肉体は、ブラックマーケットでカキンマフィアに購入された時点で足取りが途絶えてるぜ。あとは……』

(カキン……雇い主が裏に居る可能性もあるけど、そっから先は調べても出てこないだろーな)

 

 トルイと別れた後、手持ちのスマホを使ってハンターサイトの検索をかけていたリン。トルイの肉体はやはり足取りが途絶えているようで、捜査は難航しそうだ。

 マフィアの愛玩品になったのか、それともそこから真の雇い主に流れたか。唯一良かったのは、予想通りにトルイの肉体は人工措置で生かされたままに流れていた事。手に入りさえすれば、ナニカの器に使うことはできそうだ。

 

(一旦、情報収集はオッケー。後はキメラアント編だけど……これはもう、普通に最善を尽くすしかなさそうね)

 

 ハンターサイトには未だ一切の情報なし。クロロに頼んで未来を占ってもらうことも考えたが、あれは回避可能な未来を警告するものだ。カイトが死ぬレベルの敵を相手に、逃亡以外の助言がされるとは思えない。

 もう一つの策として、リンの記憶をクロロに読み取らせるというものもある。だが、クロロが原作のこの時期に死んでいた場合、記憶を読み取ったクロロも死んでしまうことになる。恐らく天空闘技場で行われるクロロとヒソカの戦いは、キメラアント編以降だと考えられるが、それでもあまりにもリスキーだ。

 

 即ち、未来を読み解く術はない。それそのものもあまりにも邪道すぎる手段、いつも通り、ハンターとしてのベストな仕事をこなすだけだ。……これで、誰が死んだとしても。

 

(……ノストラード家からそう離れてないし、ついでに緋の眼も渡しとくか)

 

 寄り道したところで、さして苦でもない。そのままリンが向かったのは、新しく移転したノストラードファミリーの事務所。

 クラピカとG・Iに入っている間に移転は済んでいるらしく、別個でネオンの屋敷も構えているようだ。以前の豪邸とは違い、ネオンと最低限の使用人がゆったりと暮らせる程度の小さなものだが、それでも十分すぎるくらいの敷地が用意されているらしい。

 

 事前にセンリツから聞いていた事務所へと向かう。以前の屋敷とは大違いで、到着した場所はいかにもヤクザの事務所と言わんばかりの治安の悪そうな空気が漂っていた。

 

「すいませーん」

 

 軽くノックをしてから入ると、中には筋骨隆々のいかにもな外見をした男達がたむろしていた。リンとは面識のない面々で、唐突に入って来た小娘に全員が威嚇をして見せる。特に身体の大きなスキンヘッドの男が、リンの正面まで近づいてきて凄んだ。

 

「あぁ!? てめえ、ここが何処かわかってんのか!?」

「そっちこそ誰にモノ言ってんのかわかってる? リン=フリークス、おたくの若頭の友達で元関係者よ」

「テキトーこいてんじゃねえぞ!」

「ガチだっつーの。とっととボス呼びなさいよ、ボス。ほれほれ」

 

 ちょいちょい、と指を曲げながら挑発的に言い返すリンに、怒りのボルテージが上がる構成員達。面白くなって来たので、更に煽ることにする。本家クラピカには負けるが、自分だってそれなりに煽りスキルはある。

 

「ああ!?」

「すぐに凄むのやめろっての。つーかマフィアに必ず一人はハゲが居るの、マジで何なの? 男性ホルモン誇張してるの?」

「んだとゴラァ!!」

 

 リンも、クラピカが来て自分の話が本当だとわかった時にこいつらはどんな反応をするんだろうとワクワクしながら煽っている節はある。いやはや、楽しみで仕方ない。

 

「怒鳴り声が奥まで聴こえているぞ。何の騒ぎだ」

「や、クラピカ。2カ月弱の間に、随分また人相が悪くなったわね」

 

 スキンヘッド男がリンの胸倉を掴んだところで、タイミング良くクラピカが入って来た。少しばかり驚いたように目を見開くクラピカに、リンは胸倉を掴まれて軽く宙に浮いたままひらひらと手を振って見せる。あまりにもシュールな光景だ。

 

「リン……」

「え、ま、まさか本当に……」

「……状況は分かった。手を放してやれ」

「す、すんませんっしたぁ!!」

 

 大慌てでリンを解放する男達。全員がぴしりと姿勢を正し、リンとクラピカに頭を下げた。リンの意図も、内心(掌返しウケる~!)とニヤついているのも見抜いているクラピカは、無言でため息をつく。これで組員を叱りつけるのはあまりにも可哀そうだ。

 

「リン、こっちに来い。お前らは仕事に戻れ」

「え~。クラピカ、組員に優し過ぎじゃない? もっと厳しくいきなさいよ若頭」

「どうせ、お前が意図的に挑発したのだろうが」

 

 部屋を出るクラピカに続いて、ケラケラと笑いながら部屋を出る。クラピカはもう一度ため息をついた。心持ち、先程より大きく。心底呆れているのが伝わるようにとついてみたが、リンは華麗に無視をした。

 

(……ん?)

 

 クラピカを追いかけて歩く中、ふわりと嗅いだことのない匂いが鼻腔をくすぐる。嗅ぎ慣れない匂いに不審に思って、思わず意識を集中させた。

 

(クラピカの匂い、なんていうか……)

 

 シャワーを浴びたらしくわかりづらいが、確かに香水が混じった女特有の匂いだ。クラピカのものであるとは到底考えられないが、それにしては強く香り過ぎている。かなり密着しないとここまで香ることはないであろうレベルで。

 突っ込むべきか、流しておくべきか。考えている間に目的地に到着したようだ。やはり、今の事務所はかなり小さいらしい。ボスの部屋ですらもそこまで距離が無いのだから。

 

 てっきり中には誰も居ないと思っていたが、部屋からは人の気配がする。クラピカが扉を開けると、リンも予想外の人物が待っていた。

 

「リン! 久しぶり~!」

「へ、ネオン? なんでここに?」

 

 マフィアとしてのノストラードファミリーからネオンを切り離した今、クラピカが自らネオンと関わる理由はない。大方、ボディーガード達に指示を出す以外は完全に締め出していることだろう。

 なのに、なぜかネオンが居る。後ろではエリザが少し疲れた顔を見せた。

 

「ネオン様が、新しい能力を若頭に披露したいと言い張って……」

「能力の内容を聞いて、有用性があると判断したところだった」

 

 洗脳を受けたネオンの意識の中では、クラピカは自身の保護者のような存在となっている。そのため、ネオン相手にもクラピカはもうへりくだることなく普段通りの対応をしていた。そもそもネオンも、そのような礼儀を気にする性格ではないのだが。

 

「なんかよくわからないけど、知らない間に能力が無くなっていたでしょ? でも小説をいっぱい書いてたら、また新しく能力ができてたの!」

 

 久しぶりに会えた友人に、ネオンは嬉しそうに笑いかける。どうやら新たな能力の話をしたくてしかたがないらしい。

 

「えーっと……それって人に見せても大丈夫なやつ?」

「こっちは大丈夫!」

「こっちは……」

 

 今では人体収集の代わりにBLなあれこれを買い漁っているネオン。『こっちは』には、色んな意味が含まれているらしい。

 思わず呟いたリンだったが、幸いなことにクラピカが口を挟んだ事によってこの話が深堀りされることはなかった。

 

「リンこそ、なぜここに居る? キルア達と旅をしているはずだろう」

「ああ……ちょっと用事があってね。まあでも、それは後で良いわ。ネオンが来てるなら、出直した方がいいかしら?」

「いや、構わない」

「リンにも会えるなんて、ラッキー! ……あ、そうそう。ミルキ君、紹介してくれてありがとね。すっごく趣味が合うから、たまに電話しながら一緒にお絵かきしてるんだ~!」

「ミルキ……君?」

 

 余談だが、G・Iクリアから一週間後にようやくミルキの存在を思い出したリンによって、ミルキの生存確認がされている。

 なんのことはない、原稿を書くために一時的に自宅に戻っていただけだったため、すぐに通話を切ったリンである。バッテラからゲームも一台半ば強奪のような形で持って帰って来たらしく(バッテラとしてはゲームを処分できてむしろありがたいのかもしれないが)、忘れていたとはいえ心配して損をしたと憤慨していたのは1カ月ほど前の話。

 

「あー、まあ気が合いそうで良かったわ。で、また書記系の能力?」

【天使の自動書記】(ラブリーゴーストライター)……は消えちゃったから、うーん……【悪魔が囁く自動書記】(サキュバスライター)ってトコかな? 未来は見られないけど、色々占えるよ!」

「例えば?」

「占われる人にとっての運命の相手とか~、好きな子の落とし方とか!」

「随分俗世的ね……」

 

 よく考えれば、先天性とはいえ念能力とは無関係な一般人が予知能力を持っていた方がおかしいのかもしれない。恋占いの方が随分ネオンには似合っている気がする。少し爛れた願望が見え隠れしている気もするが。

 

(何も見えていない。そう、私のせいでネオンが変な方向に目覚めたとか、そんな事は決してない……)

 

 仮にあったとしても、原因は自分ではなくニアとクラピカだと思うことで脳内の責任転嫁を済ませておく。別に、誰に弁解するわけでもないのだが、こういうのは気の持ちようというやつだ。

 

「あとねえ、念能力の使い方とかも調べられるみたい。おすすめの『ハツ』? もわかるって、センリツが言ってた!」

「……それは、かなり凄いわね」

 

 能力は、能力者本人でも把握しきれていないことがままある。実力の向上に伴って能力の細部が上方修正されたり、そもそも自然発現型の場合は試行錯誤を繰り返すしかない。なにより、調べる手段が無いのが痛いところだ。

 それを補ってくれる能力。それは、能力者にかなりの需要があるだろう。未来予知でなくとも十二分に有用性のある能力だ。

 クラピカが興味を惹かれたのも無理はない。願ったり叶ったりな情報を提供してくれる能力と言える。

 

「リンのせいで制約と誓約が不明瞭だからな。丁度占ってもらおうとしていたところだ」

「聴こえませーん」

 

 エリザを下がらせ、リンとクラピカ、ネオンの三人になる。珍しく自分から頼みごとをするクラピカに、ネオンは機嫌良くペンを手に取った。

 

「良いよ! ここにフルネームと生年月日、血液型、あとは知りたい能力の名前を書いて!」

「取り敢えず、能力全部書いといたら?」

「ああ、そうだな」

「てか、私は居てオッケーなのよね?」

「今更だ。むしろ戦犯(俺に能力をかけた側)の視点が欲しい」

「ねえ、今、悪意感じたんだけど」

 

 サラサラとクラピカが書いたメモを片手に、ネオンはくるりと手の中でペンを一回転させた。【悪魔が囁く自動書記】(サキュバスライター)が発動し、ネオンの意識は念に乗っ取られる。

 

(前の能力は未来予知だったけど、今回は対象の情報収集って感じね。……キャラの深堀に役立つんだろうな)

 

 再び首をもたげる罪悪感。それを脳内から必死で追い出す間にも、ネオンの手はかなりのスピードで紙の上を走る。ピッと最後の一文を書き終え、ノートは破られてクラピカに渡された。

 

「はい! リンもやってみる?」

「いや、いいわ。自分で能力を調べるのも楽しみだし。それに、数が多過ぎてキリがないしね」

「ちぇー。じゃあさじゃあさ、恋占いしてあげよっか!」

「もっといらない!」

 

 なんとなく、レオリオの言葉やトルイに会う前の自分の思考回路を思い出し、クラピカが隣に居るのに照れを感じる。当のクラピカは、真剣な表情で紙を見つめるばかりだ。

 念の話であれば、占いをしたネオンの前と言えど簡単にするわけにはいかない。ネオンに礼を言うと、クラピカはネオンも下がらせた。二人で紙に書かれた文章を見つめる。

 

緋い瞳は貴方の心

心魂を引き換えに貴方は力を手に入れた

何者にだってなれるだろう

使う程に心は蝕まれていく

 

父なる指は、癒しの鎖

緋い瞳と引き換えに

貴方の肉体を癒すだろう

他者は癒せない、孤独の十字架

 

兄なる指は、束縛の鎖

緋い瞳と引き換えに

生命力を奪うだろう

隠れ偲ぶことを好む鎖だ

 

姉なる指は、探知の鎖

貴方に最も適した鎖

心の機敏に呼応して

理性の貴方を導くだろう

 

赤子の指は、契約の鎖

違反者の魂を鎖の檻に封じ込める

生きる屍になるだろう

憎しみは留まるところを知らないから

 

全ての鎖は貴方の魂に繋がる

貴方の掟は緋い瞳

違反の罰は愛する命

貴方にとってなによりの枷となるはずだ

 

残る母は、誰かのために使いなさい

孤独を選ぶ者は、孤独を恐れる者

繋がりを実感できるものが良いだろう

魂を引き換えにするのは勧めない

 

 

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