現在地を知りたいところだが、ゴン、キルア、カイトの誰とも連絡がつかない。取り敢えず最後にメッセージが送られて来た時に伝えられていた居場所、NGL自治国周辺へと空路を向ける。
ピトーとの邂逅、そしてカイトの行方不明を知らされたのは、それから5日後。もうすぐ東ゴルドーの上空を通過する頃のことだった。
『落ち着いて聞いてくれ。カイトがやられたかもしれない』
キルアにしては珍しく、冷静ではないのを無理やり押し殺して平静を装っているような、そんな声。言葉の意味を理解するよりも先に最悪の事態が起きたのだと想起させるその声音に、リンの心臓はどくりと音を立てた。
(やられた……殺られた? カイトが、本当に?)
なぜ連絡がなかったのか? それはNGLに電子機器を持ち込めないからだったのだろう。どのような経緯で何を探しに行ったのか、きっとキメラアントの件だ。
なぜそんなことになっているのかと怒鳴りたいのを必死に堪える。わかっていて行かざるを得なかったのは、恐らくゴン達も一緒だから。代わりに深呼吸をして、自分でも不気味なほどに冷静な声を返した。
「……詳しく話して」
『俺ら、カイトと合流してから色々あって、キメラアントの調査に行ってたんだ。先発の部隊がどんどん消息を絶って、カイトレベルの手練れが出ないと、情報すら得られなかった。先発から送られてきた地図を辿って、巣まで向かおうとした』
冷静に聞いていたが、身体中の血が冷たくなっていくのを感じていた。目の前が暗くなり、頭がぐわんぐわんと音を立てる。
(事前にわかっていたとはいえ、カイトが死んだ……かもしれない)
トルイの言っていた『原作』という抗えない運命が、カイトの死と重なり合って脳内で捻じれる。もしも自分がカイトの代わりに向かっていたとしたら、どうなっていたのだろうか?
いや、カイトが負ける程の相手に自信をもって勝てるとは言えない。ならば、どちらにせよ『原作』の流れは変えられなかった。
『巣には馬鹿でかいオーラがあって、その時点で退避の判断をした。でも、目が合っちまった』
「……」
『電気も残量がなくて使う余裕がなくて。カイトが時間を稼いでる間にゴンを連れて逃げるので手一杯で……』
(何をすれば正解だった? キメラアント編というものを収束させる方法はあったの?)
心なしか、キルアは饒舌にその時の状況を語る。動揺や後悔が、言い訳染みたその言葉に隠れているのだろう。
考えても無駄だ。全ては結果論なのだから。必要なのは、現状の把握。そして冷静かつ合理的な次なる手の対処。わかってはいる。
「……二人は、大丈夫だったのね? アルカは?」
『アルカはカイトの仲間に預けてた。俺達も無事だ』
「よかった。私もそっちに向かってる。今の居場所を送って」
『ああ。今は国境沿いのロベリオに居る』
暫くして、現在地が世界地図で送られてくる。それを見ながら、航路を変更する。元々そちらへ向かっていたので、微調整で済みそうだ。近くには空港もあるし、あと数日あれば難なく合流できるだろう。
わかっている。これは現実だ。必要とされるのは、ハンターとしての判断だ。自身の行動一つで、運命が変わる。
しかし同時に、自分達は原作という大きな運命の中にも居る。この矛盾の恐ろしさに、気づいてしまった。
(ゴンが……主人公すらも、死んでたかもしれない?)
背筋がぞくりと冷えた。原作というものの筋書きに沿ってこの世界が動いているのならば、恐らく本来ゴンとキルアはカイトの下に居るのが正しかった。
それを歪ませたのは自分の行動。十中八九、G・I後にジンの下へ向かうようにリンが仕向けたことだ。しかし同時に、キルアにゴンと同行するよう頼んだのも、リンが仕向けた事だった。
ゴンがカイトを置いて逃げる選択を取れるとは思えない。仮にゴンが一人でカイトの下へ向かっていたとすれば。同じ展開になった際にカイトが敗北する様を見て逆上、キメラアントに攻撃を仕掛けて死んでいただろう。
大きな流れは変えられないのに、自身の行動一つで本来生きているはずの人間すらも死なせるかもしれない。それも、大切な弟達を。このアンバランス感が酷く恐ろしい。
「……キルア、ゴンを助けてくれてありがと。二人が無事で本当に良かった」
声が震えないように努め、なんとかそれだけを絞り出した。キルアも一言小さな声で返答し、そこで通話は終了した。
この世界は最早、どうなるかわからない。自身の行動すら、原作改変に影響するのか、それとも物語の歪みを正すための一端の歯車として働くのかわからない。
一挙手一投足が未来に影響を与える、当然のことだ。しかし、自分の何気ない行動が弟達の命を脅かし同時に救ったことが、心臓を握られた気持ちにさせた。
(……今はそれどころじゃないわ)
ゴンとキルアは助かった。だが、カイトはやられた。恐らく、原作通りに。
大きく息を吐き、座席にもたれて空を仰ぐ。気持ちと姿勢がそぐわないのが気持ち悪くて、そのまま項垂れた。膝の上に降りたメイメイが心配そうにリンを見上げる。
(カイトが、死んだかもしれない)
いや、キルアはよっぽどのことがなければ、そんな表現は使わない。死んだと判断するべきだろう。
リンにとっても、カイトは大切な人だった。同業者の仲間であり、弟の命の恩人であり、そして母親同然の人が大切にしている人だった。
(……ミトさんになんて言えばいいのよ)
恋人が死に、息子と娘もこれから死地に向かう。全てが、ハンターであるがために。
ジンに始まり、ここまで最も不利益を被って来たのはミトだ。狩人という存在に全てを狂わされている。
(……この考えは止め! 私もゴンも、死ぬ気はないわ。それにカイトもきっと……可能性はある)
可能性はある。決して嘘でも自分を騙すための都合のいい言葉でもない。確固たる根拠のあるものだ。ごく僅かな、激流の中で藁に縋るようなものだが。
死後の念。ある程度経験を積んだ念能力者であれば、誰もが耳にした事のある言葉。
それは、一般人であっても発生させることができる程に強力なもの。更に熟達した能力者になれば、これを視野に入れて戦闘することも決して少なくはない。死後の念によって敗北した人間を知っている者であれば、余計に。
そして、死後の念も能力者が設定できる。大抵は死の直前に感じた恨みや対象への攻撃性が念となって表れるが、自身を護る手段にも応用可能なはずだ。
すなわち死後の念とは、死を前にした時に発動する切り札とも言える。生きるための切り札とは別に、死を回避するための切り札として。それを手持ちに加えている念能力者は、決して多くはないだろうが。
だが、カイトの師匠であるジンは、その少ない一人であるはずだ。
本来ならばここで自己完結をして、何も行動は起こさなかっただろう。わざわざスマホの連絡先を開き直して電話をかけたのは、リンなりに動揺しているものがあったからだ。
『……よお、珍しいじゃねえか』
着信拒否を解除して自ら連絡を取った相手。実の父親は、特に興味もなさそうなぶっきらぼうな声音でリンの着信に応答した。そのトーンからは何の感情も読み取れない。
「親父よね? カイトに念を教えたのって」
碌な挨拶もなしに単刀直入にぶつけられた言葉。珍しくジンは一瞬口籠ったが、それは教えることを拒否しているからではなく、その一瞬でリンが置かれた状況や知らされたばかりであろう情報を把握していたからだ。そのため、リンへの返答によどみはなかった。
『ああ。そうだ』
「カイトのこと、聞いてる?」
『何が言いてーんだよさっきから。……まあわかってるけど。お前が言わねーなら、言わねーぞ』
腹立たしいことに、この父親は自分が思っている事や言いたい事を全て理解している。それなのにわざわざ言わせようとしてくるところはいつも通りだが、声音はいつもよりも心なしか優しい気がしなくもない。リンの心境を気遣っているのではないかと思わせるほどには。
「カイトが死んでない可能性は、ないわけ?」
『……はっきり言うと、ある』
互いに理解の早い父娘は、これだけで互いの伝えたい意思を理解した。否、理解していなくても良かった。少なくともリンは、口にされた言葉のみを理解してさえいれば知りたい事を知ることができたから。
「そう、望みはあるわけね」
『あんま期待はし過ぎんなよ』
「可能性があるなら、いくらでもやりようはあるわよ」
リンの言葉にジンは『……そうか』とだけ返した。後に一言二言のやり取りをして、通話を切る。これもまた腹立たしいことだが、ジンの声を聞くことでリンの心は幾ばくか落ち着いた。
気持ちを落ち着かせることができたならば、次に必要となるのは今後の方針を決める事。今ならば、冷静に思考を巡らせることができる。
(……さて、まずは何をするべきかしら)
カイトがやられた。それだけのレベルの相手は、十分にハント対象だ。恐らくキルアが、もしかしたらそれよりも先に他の誰かが、ハンター協会に援助申請の連絡をしているだろう。
人間の知能を持ち合わせた超大型キメラアント、現時点での推定難易度は最低でもCというところだろうか。状況によっては更に難易度が上がるし、むしろその可能性の方が高いが。
(このレベルになってくると、たぶん十二支んクラスは出張ってくるわね。なら、確実に状況を把握してるのは……)
十二支ん、ひいてはハンター協会そのものを統括する存在、ネテロだ。パリストンが副会長という不確定要素はあるものの、場合によっては本人が出てくる可能性もある。
ならば、やるべきことは一つだけだ。
◇◇◇
3日後。ロカリオ共和国にて飛行船を返却し、リンはNGL内部に居た。
服装制限も持ち物制限も、ストック系能力を持っているリンには何の脅威でもない。体裁だけ真面目な入国者を気取った後は、メイメイを具現化していつも通りの服装や持ち物を手に取る。予測したいくつかのスポットの内、3カ所目に仕事仲間達はたむろしていた。
「どーも。リン=フリークスです」
「お、よくこの場所がわかったな」
「でっかい蟻塚を程良く見張れる場所なんて限られてくるでしょ」
大柄な上に謎のキセルを担いでいる。いかにもハンターという風貌の変わり者具合な男だ。特徴的な鼻と、その上にサングラスを乗せているのが、印象に残る。
その男、モラウは、リンを見ると少しだけ驚いたように笑った。といっても、予測の範囲内なのだろうが。
カイトの件を知った後、ジンに連絡したリンは直後にネテロに電話をかけていた。会長との連絡手段を持っている以上、即座に確認するのが良いと考えたからだ。
「キメラアントの話、当然聞いてるわよね。討伐隊が組まれると思うんだけど」
『丁度今、現場に到着したとこじゃ』
「……随分早いわね。つーか、あんた自身が出てくるわけね」
『まだまだ現役じゃからの。して、何の用じゃ?』
(……相変わらず、わかってるくせに言わせにかかるわね)
情報の言語化は齟齬を生まないために必要とされるものだが、ネテロの場合はただの嫌がらせだ。ついでにジンの場合も。
だが、言葉にすることに抵抗はない。むしろ、さっさと言わせてくれて助かるというもの。
「私も討伐部隊に入れてくれない? 足を引っ張らない自信はあるわ」
『ふむ……おぬしの力量は十分に把握しておる。能力も討伐向きじゃ。渡りに船、といったところかのう』
(なんで私の能力知ってんのよこのジジイ)
確かにリンの能力は汎用性が高く、キメラアントの討伐にも柔軟に対応できるだろう。それをネテロに言われるのは納得がいかないが。
既に討伐隊を組んでいるというだけあり、ネテロの傍らには他のハンターも居るらしかった。声からして、今目の前に居る男がその一人だったのだろう。
『おいおい会長、そんなずらずらと増やして良いのか?』
『確かに疑問ですね。ただでさえ、未熟な弟子を抱えているのに』
『まあそういうでない。こやつの力量はわしもよく把握しておる。弟子達の刺激にもなるじゃろ』
「ま、駄目って言われても乱入するけどね。んじゃ、そっちに向かうわよ、ボス」
そのような経緯があり、今に至る。
ネテロから情報として提示されたのは、キメラアントの巣がある地点のみ。他の情報は自分で収集してここまで来いという嫌らしさ満点のものだったが、さして不都合はない。事前の下調べなんてハンター業の基礎の基礎だ。
キルアからは連絡のあった次の日に、簡単な現状も聞いている。刺客と戦い、勝った方が討伐部隊に入るというもの。ならば、弟子達の居る場所からそう離れ過ぎることもないだろう。
キメラアントの巣から近い、ロカリオ共和国側の見晴らしの良い場所。かつキメラアントからは視認されづらい場所となると、スポットは限られてくる。あとは、ハンター特有のオーラや気配を探せば良いだけだ。
「最低限はクリアってとこだな」
「随分舐められてるみたいね。一応、シングルハンターなんだけど」
会長とのコネを利用して討伐部隊に入れてもらったとはいえ、随分と不躾な態度だ。リンもイラっとして言い返す。モラウは、それを鼻で笑って返した。
「星なんざ、モノサシにすらならねえよ。それでも念能力者か?」
「ま、それもそうね。わかりやすく念で示した方がいいかしら? 念能力者として」
「おやめなさい、モラウさん。余計な不和を生むのは、後々に響きます」
流石にストップをかけた方が良いと思ったのだろう。眼鏡にスーツの男が横入りして仲裁にかかった。
外見だけ見るとノワールとも似た風体ではあるが、印象が全く違う。穏やかな瞳のノワールに対し、ノヴのそれはひたすらに冷たいものだ。恐らくは、過去の経験に起因するのだろう。自分自身に絶対的な信頼を置いているのが目を見ればわかった。
揶揄い過ぎたと思ったのだろう。ノヴの咎める視線に、モラウは降参と言わんばかりに両手をあげる。リンも一旦はそれで矛を収めることにした。
「わりぃな、冗談だ」
「そうは見えなかったけどね」
「本当だよ。腕が立つのなんか、目を見ればわかる。十分使い物になる水準だ」
モラウとノヴがそれぞれ簡単に名乗り、リンも頭を下げた。出会い頭におちょくられたのは根に持っているが。
「こちらへ。会長がいらっしゃいます」とノヴに促され、念でできた異空間を潜る。その先にはキメラアントらしき大型生物の大量の死骸が転がり、中央にネテロが立っていた。
(……この部屋、換気機能あるのかしら。まあ念空間だし、無粋か)
昆虫とも魚とも、はたまた人間とも区別のつかない独特の死臭が漂い、密室空間を覆っている。多少の死臭は自然界でもままあるとはいえ、量と密度が酷い。
「ほ。リンか」
「随分ハッスルしてたみたいね」
「まだまだ、この程度では物足りんの」
ネテロはそう言いながら、コキコキと首や手足首を捻って見せる。思っていたよりも今回のミッションに乗り気のようだ。
無機質な床に腰を下ろし胡坐をかくと、作戦の打ち合わせをするためリンも口を開いた。
「で、こっからのスケジュールは?」
「暫くは偵察しつつ、兵の数を削る。王が生まれると推測されるのは2か月後。1か月後にゴン達討伐メンバーを選び、彼らを連れて護衛軍の討伐と女王の駆除に向かう」
「護衛軍はどれくらいの規模なの? 随分とでかい蟻塚だったけど」
「猫型の蟻が一匹、他にあと一匹か二匹ほど、強力な蟻が生まれると思われる。わしが一体、残りをモラウとノヴ、そして弟子達に任せる予定じゃ。おぬしには弟子達の担当分をフォローしてやってほしい」
カイトが簡単に倒されるレベルのキメラアントを相手に、かなり不安な戦力構成だ。下手に人数を増やして餌にさせるよりも少数精鋭の方が良いのは頷けるが、ゴンとキルア、もしくはその刺客になるような相手に一体を任せるのは不安が残る。
リンの表情を読んでいたのだろう。モラウが気まずそうにガシガシと頭を掻く。恐らくは同じことを考えているようだ。
「ゴンとキルアは力量不足、俺達の弟子はメンタル面にでかい不安があってな」
キルアから、対戦相手の名前は既に聞いている。ナックルという名前から自身の友人ではないかと思っていたが、モラウの弟子という言葉を聞いてそれが正しかったのだと悟った。
「ナックル、流星街でもやらかしてたもんね~。今回も『キメラアントを討伐させたくない』とか、言ってるんじゃないの?」
「……あ~! お前、ナックルのダチか! なら話は早ぇ!」
一方のモラウもリンのことは多少聞いていたようで、それが目の前の本人だと合致したらしい。そしてナックルはかなりリンのことを好意的に説明していたらしく、モラウの口調は先程までよりもほんの少しだけ柔らかくなったように感じる。
「ナックルだけでなく、シュートって奴も居るんだが。こいつも度胸が足りねえ。そんでノヴの弟子のパームって女は非戦闘員なんだが、これまた何をするかわからねぇ不安がある。ま、こっちはノヴの指示に従うだろうけどな」
「今回のミッションは、あいつには重すぎる。そう言ったのですがね……」
「ゴンは私の弟なの。キルアも似たようなもん。これも一つの縁ね」
今回の討伐隊候補者は、今ここに居る3人の弟子、もしくは弟ということになる。リンが介入したことによって、ゴンとキルア、そしてナックル達には奇妙な共通点が生まれていた。
「……会長の言っていた事はこういうことですか。確かに、良い刺激になりそうだ」
「どーだかな。姉ちゃんに甘えて、まともにハントできねぇんじゃねーか?」
「その辺は安心していいわ。言い出したら聞かない、我が家自慢のとち狂った弟よ」
リンの言葉に嘘はない。現に、何をしでかすかわからないという観点においては、ゴンの行動力はジンやリンのそれを遥かに上回る。
直感や感情が先行するとはいえある程度先読みや思考も巡らせるジンと、土壇場においてはしっかりと考えたうえで馬鹿をするリン。この二人と違って、ゴンは本当に最初から最後まで何も考えない。だからこそ怖いのだが。
「ま、でも今の感じだと、私がすぐに動ける仕事はなさそうね。一旦はゴン達と合流しようかしら。ついでに軽くしごいてやるか……」
「その辺は任せるぜ。現に、今すぐやる事はないしな」
ネテロは肩慣らし。ノヴとモラウは念能力の協力によってネテロの下へキメラアントを送る。この時点では、リンにできる事は何もない。ならば、弟子達の戦力強化に当たる、もしくはNGL内ではできない情報収集をした方が効率が良いだろう。
ここに来たのは、単なる顔合わせと作戦の共有のため。用が済んだからにはと、リンは立ち上がった。
「にしても、二カ月か……それ、正しい情報?」
「専門家の見解です。早くて二カ月後、とのことで」
「なんだ、何か思うところあるのか?」
リン自身は今回、ネテロに雇われて討伐隊に参加した形になる。その時点で、今回の作戦のボスはネテロだ。リンよりも早く詳細な情報を入手しているであろう点からも、作戦立案に文句をつける気はない。ただ、気になっただけだ。嫌な予感と共に。
「……いや、考え過ぎかもしれないんだけどさ。ハンターもいくらか殺られてる。それが栄養になってるとしたら、王の成長速度に影響はないかなって思って」
「杞憂とは言い難い、か」
「しかし、それを言い出してはキリがないでしょう」
「ま、そうなんだけどね」
「じゃ」と手を振り、ノヴに続いて先程入って来た通路を抜ける。相変わらず外の世界にはキメラアントの蟻塚が鎮座していた。
入る時との相違点として、蟻塚の頂点には一匹のキメラアントが見張りとして座っているようだ。そこから数キロに渡って『円』を展開しているらしい。アメーバ状に広がる、初めて見るタイプのものだ。
数十キロ先であるため流石に細部まではわからないが、そいつを中心に禍々しいオーラを放っているのは嫌でもよく見える。ここまで来るときもオーラは視えていたが、中央の最もオーラが濃いところを見せつけられると、改めて脅威なのだと感じた。
(あれが、記憶の中の猫型キメラ……)
メイメイのポケットから双眼鏡を取り出し、眼を凝らして覗いてみる。数十キロ先ではあるがぼんやりと見えたその姿は、薄っすらと思い出せるものと一致していた。名前は思い出せないが、その冷徹な表情だけは記憶に焼き付いている。
見知っている人物と初対面だなんて、この世界で何度も経験してきた。だが、今までとは異なる感覚に、リンは何も言わず視線を外したのだった。