ネテロとの戦闘から二日が経った。リンとレオリオは、東ゴルドーの西部山奥に潜伏しつつ状況を把握していた。
ネテロと戦った時は精神的にも弱い面を見せていたリンだったが、以降は憑き物が落ちたようにスッキリとした表情をしている。己の本当にやりたい事、やるべき事をはっきりさせたのだろうとレオリオは理解していた。
山奥にあるのは農村地帯ばかり。だが、どれもこれもが襲撃に遭ったのをかなり雑に隠蔽している。五百万人を一斉に選別するよりも合理的だからと、宮殿から離れた場所から徐々に選別を開始しているのだろうというのがリン達の見解だ。
行動は起こさず、把握に徹する。状況が変わったのは、そこから二日後だった。
「うわ、なんだこりゃ」
徐々に西部から宮殿にかけて、選別の進行具合を探る。あくまで(生きていたとしても)住民には接触しないよう細心の注意を払っていたリンとレオリオだったが、あまりの惨状に村の中へ足を踏み入れていた。
「キメラアントの死体……それもかなりの手練れに殺されてるわね」
やはり住民は居ない。既に殺されたのか。……にしては埋められているであろう数が少ない。
そして、キメラアントの死体がゴロゴロと転がっている。国民にキメラアントに対抗する力がない以上、襲撃中に誰か第三勢力からの襲撃が起こったと考えるのが自然だ。
「王側でクーデターが起こってるとかか?」
レオリオが指摘したのは、王について行ったキメラアントの中で反乱が起こっている可能性。直接王に反乱を加えるのでは返り討ちに遭うからと、少しずつ牙を削ぎにかかっている可能性だ。
「いや、もっと納得いく仮説があるわよ」
だが、リンの仮説は全く違う。もっとシンプル、かつ身内のやらかしというやつだ。
「あのアホがやらかしたわね」
危惧していた通り、五百万人を犠牲にする事を見て見ぬふりできなかったゴンが、キメラアントを倒して回っているのだろう。あれだけ言っていたのにとリンも思わず眉間に指を押し付ける。
(……でも、このキメラアントを殺したのはたぶんキルアね。斬り口が鮮やか過ぎる)
リン達が見ているのは、鋭利な刃物でズタズタに引き裂かれたようなキメラアントの死骸。ゴンもオーラを剣状にする能力は持っているが、それではこのような断面にはならない。
恐らくは、ゴンの言うことに仕方なく付き合ってやっているキルアのものだ。そもそもこれらの騒動を起こしているのがゴン達であるという証拠はないのだが、リンの中では完全に愚弟がやらかしたと確信している。
(言わんこっちゃないな、あのクソバカタレ……)
仕方ない、前科があり過ぎるのだ。そしてリン達はまだ知らないが、実際にこの騒動はゴンが発端である。目の前の死骸も、助けると言い張るゴンに仕方なく乗ったキルアが作ったものなので、リンの予想は大当たりだ。
「取り敢えずモラウさんに報告ね。もう知ってるかもだけど」
近くに敵の気配がないのを確認した後、メイメイのポケットからスマホを取り出す。ワンコールで繋がったあたり、もしかするとモラウもリン達に連絡しようとしていたのかもしれない。
「モラウさん? ごめんなさい、たぶんだけどゴンがやらかしたわ」
『ああ、丁度ニュースで見たところだ。何者かが嘘の情報吹いて反乱を起こしてるって、総帥が必死に言ってやがるよ。国民は家から出ねぇようにってな』
(命令違反してるのに、えらく嬉しそうね)
ペイジンで情報収集とパームの潜入経路を作り出しているモラウ達は、宮殿から発せられるニュースもリアルタイムで確認している。どうやら、既にキメラアント陣営も気づいていたようだ。
そして、妙に嬉しそうな口調のモラウ。口元が少しにやけているのが簡単にイメージできるくらいには、喜んでいるのが分かる。自分の立場では進んでできないことをゴン達がやらかしてくれたので、内心大喜びというところなのだろう。
「で、どうする? 私達の存在もバレたし、下手すれば選別決行日も警戒されてるかもしれないけど」
『当日の作戦はそのままだ。けど、それまで潜伏ってのは変更だな。会長はああ言ってたが、俺も本心はあいつらに同意だよ。やっぱ五百万人を見捨てられねえ』
「つまり潜伏せずに、キメラアント見つけ次第ぶっ殺せばいいってことね。了解」
どうやらモラウは、ここぞとばかりにゴン達の独断行動に乗っかる気のようだ。あまりにも作戦を不利にしかねない行動だが、もうやってしまっているものは仕方ない精神である。どうせ討伐隊側が潜伏しているのは既にバレているので、リンとしても異論はない。
『あと、パームの潜入が決まった。十二時間後には宮殿に到着する』
「……そう。パームならきっとやってくれるわ」
『ああ。俺はこの後ナックル達に連絡する』
「了解。こっちもまた連絡するわ」
通話を切断し、ホッとする。ポーズだけでも叱られるかと思っていたが、モラウは全くそのようなことは言わなかった。どうやら相当、今回の命令違反を喜んでいるらしい。
「モラウさん、やたら嬉しそうだったしセーフってとこかしら」
「それで良いのかよ……」
「良くはない。でも時間は巻き戻せないしね」
暫くすると、一斉送信でリン達にパームの写真が送られてきた。この姿で潜入しているから、把握しておいてくれということだろう。レオリオも自身のスマホが震えたので一緒に確認する。
「……誰だ?」
「パームでしょ。そう書かれてるんだから」
「あのねーちゃん、本気出しゃ化けるだろーとは思ってたけどここまでか……。女は怖えーな」
写真に写っているのは、肩程の長さの茶髪を緩く巻いたパームの姿。メンヘラオーラは微塵もなく、そこに居るのは仕事のできる受付嬢といった雰囲気の美女だ。確かに、事前に情報共有されていなければ誰だかわからなかったかもしれない。
「確かに、これなら向こうも簡単に釣られたでしょうね」
「狙ってるのはビゼフ長官だっけか? 俺がそいつなら百パー釣られてるね」
「それは知ってる」
ただでさえ自他ともに認める女好きのレオリオだ。もしもレオリオがビゼフ長官の立場なら、いやそうじゃなくても簡単に引っ掛かっていたであろうことは想像がつく。半分冗談のつもりで言ったのに一切の否定をしてもらえなかったレオリオは、軽く咳払いをして誤魔化した。
「ともかく、こっちも動きを変えることになるわね」
「こっからはキメラアント討伐もやってくってことか?」
「そうね。作戦決行まではキメラアントを見つけ次第排除。私がやるからレオリオはその時は下がってて」
女性に護られることに、レオリオはムッとして言い返した。あくまで今回のレオリオの役割は、後衛で救護に回る事。だが、仲間が戦っているのを指をくわえて見ていられる性分ではない。
「いや、俺だってやれるぜ」
「レオリオの護衛も私の任務の内でしょ? ……まあでも、じゃあ任せるか。実戦経験も積まないとね」
カイトと同行していた際、ゴンとキルアは師団長クラスを苦にせず戦っていたと本人達から聞いている。実際にラモットと戦ったリンから見ても、恐らくレオリオも同等の蟻なら十分に戦えると踏んでいた。難しければ、その時は手助けすればいい。
「この近辺は(たぶん)ゴンとキルアが通った可能性が高い。私達はもう少し迂回して別ルートからキメラアントを探すわよ」
「応!」
◇◇◇
そして、仲間が通っていないであろう道を選び進む。やはり予想通り、リン達が行くある程度の道のりには所々にキメラアントの死骸が転がっていた。しかし迂回して暫く進んだ頃から戦いの形跡は見られなくなる。数時間が経過し、リンとレオリオは東ゴルドーの中部を移動しているところだった。
「ちょっと待って。……たぶん、キメラアントね。十数人分の足音が聴こえる」
「おめー、本当人間離れしてるよな……」
「ゴンには負けるけどね」
リンが聴き取ったのは、おおよそ百メートル先を人間大の生物が進む気配。風が強く気づくのに遅れたが、それでもレオリオからすればドン引きレベルだと顔を引きつらせる。
だが、見つけた以上は駆除対象。これから自分達は、敵の一個小隊に攻撃を仕掛けることになる。
「たぶん任務に向かう途中の連中ね。奇襲で突っ込むけど準備は良い?」
「いつでもオッケーだ」
両手をコキコキと鳴らすレオリオも、どうやらやる気十分らしい。リンはニッと笑うと、気配を消してキメラアントに近づく。
「ほっ!」
警戒もせずに淡々と山の中を歩いていた蟻達は、リンの奇襲に反応できずに身体を硬直させた。大事にし過ぎないようにと最低限纏ったオーラは、十数匹居るキメラアントの一匹に命中する。砂糖菓子のように簡単に身体が崩壊すると同時に、大量の液体が中から飛び散った。
「ん? うわっ!」
リンが殺したキメラアントは、人間とツチハンミョウの性質を併せ持っていたようだ。仲間の飛沫を浴びたキメラアントの数体が、痛みに悶え叫ぶ。
ツチハンミョウは、潰れた時に出る体液が毒性を持つ。皮膚炎を誘発し、水脹れを起こす効果のあるそれは、リンが
「あっっっぶな……」
キメラアントとの戦闘は、ある種念能力者同士の戦闘よりも警戒する点が多い。念能力は師団長クラス以外はまだまだ未熟な兵士が多いものの、どの個体もキメラ化した生物特有の特徴を備えているからだ。
(やっぱ、森の中の生物を取り込んだだけあるわね。野生動物だけじゃなくて、昆虫の特徴を持ってる奴も多い。知ってるから問題ないけど、初見殺しもいいトコだわ)
蟻達が臨戦態勢に入る前に、また一匹。軽く振るった拳を頭部に直撃させると、蜂のような見た目を持つキメラアントは胴体だけになって倒れた。キメラアントの特性についても調べ直してからこのミッションに挑んだが、やはり頭部を狙うのは有効らしい。
続いて他の蟻も倒そうかと振り向いた瞬間、リンの傍をドンッ! と大きな音と共に拳が突き抜けた。その攻撃によって背後からリンを狙っていたキメラアントの一匹が、臓物のみを撒き散らし跡形もなく崩れる。レオリオのあまりにもオーバーキル過ぎる攻撃に、リンは引き気味に顔を顰めた。
(オーラの鳴動でバレバレよ! ったく、ゲリラ戦のやり方も教えなきゃね……)
今回の討伐は、あくまで敵に動きがばれないように消していくのが重要だ。こんな派手な攻撃を仕掛けていてはすぐに気づかれてしまう。近くに居た蟻の頭部をオーラで破裂させ、同様の攻撃を続けるレオリオを呆れて軽く睨む。
「レオリオ、やり過ぎよ。派手にやったら他の蟻にも異変に気付かれやすいでしょうが!」
「うぉ、そうなのか。悪ぃ悪ぃ!」
しかし、下っ端蟻相手と言えどここまで圧倒できるとは思わなかった。力を抑えるようにと叱れるのは贅沢な悩みでもある。
「諜報タイプの蟻が居る可能性もあるんだから。能力の使用は極力抑えて。そしてできるだけ静かに、確実に」
「了解、師匠!」
(まー、これは先に忠告し忘れた私にも非がある)
自分にも師匠として責任の一端はあるが、黙っておくことにする。レオリオが襲い掛かって来たキメラアントをまた返り討ちにし、リンも噛みつきにかかって来た下っ端蟻を蹴り飛ばした。
「うぇ、なんだこりゃ」
暫くは互いに背中を預けながら何匹かを倒していたが、レオリオの声にリンも振り向いた。長い手足には粘性の高い赤黒い何かが纏わりつき、動きの邪魔をしている。
「触れてる場所に痺れや痛みがないなら、一旦引いて。後は私がやるわ」
「ああ。無害ではあると思う」
レオリオが攻撃されたのは、所謂内臓だ。ナマコは、敵に襲われた際に内臓を吐き出す習性を持つ。この内臓は粘性が高く、敵の攻撃を妨害する効果がある。
幸いにして毒性はないようで、レオリオはリンの陰に隠れ、残りの兵隊蟻をリンがテンポ良く倒していく。邂逅からまだ数十秒。キメラアントからすればあまりにも青天の霹靂だった。
(嘘だろ? 俺の部隊が、一瞬にして……)
なぜ自分達は攻撃されている? 師団長は、部下がみるみるうちに倒されていくのを呆然として見つめていた。
この師団長、リザルドに非があるわけではない。ただ、リンとレオリオが攻撃を仕掛けてから蟻が殺されていくまでが、あまりに早過ぎただけだ。そしてリザルドは、自身の戦闘経験があまりにも少なかった。それでも師団長をしていられたのは、仲間から一目置かれるだけの理由があったから。
「残りはあんただけね。振る舞いからしてこの隊のリーダーかしら」
「……へっ、あんな雑魚ども殺しただけで、粋がってて良いのかよ?」
それは、戦闘経験の少なさを覆すだけの『強さ』。巨大な身体を持っているのに加え、念能力者になったことで得た途方もないまでのオーラ総量。護衛軍の次には強いのではないかと思わせる……
リザルドは、ヒトとエリマキトカゲの性質を併せ持つ生物だ。そして、エリマキトカゲは威嚇の際にエリマキを広げて自身を強く見せかける特徴を持つ。その性質と人間であった頃の性格を色濃く受け継いだ念能力は、
「おいリン、やべーぞ……」
「へへ……。お前らの負けだな」
ネフェルピトーを彷彿させる邪悪なオーラの質と量。並大抵の能力者ならば、戦意喪失してもおかしくないものだ。内臓に巻き付かれたままのレオリオは、少なくとも心臓が大きく音を立てるのを抑えられないでいた。
「レオリオ、よく見て。あいつ、ヒソカよりでかいオーラだけどヒソカより怖い?」
「ん? ……え?」
だが、リンはそうでないらしい。師匠から諭されて冷静にリザルドを見つめるレオリオ。すると、違和感に気づいたようだった。
「それが本気? じゃあその喧嘩、買ってあげる」
そう言うと、リンもオーラを練る。敵が戦意を喪失するだけの殺意を込めて、オーラを全て相手にぶつけてやるというまでの意思を込めて。
(嘘だろ……なんだよこのオーラ!!)
それはリザルドとは根本的に異なる、実戦経験があるからこそのオーラ。どれだけ見せかけのオーラを生み出そうと、熟練の使い手には見抜かれてしまう。王や護衛軍がリザルドを重要視しなかった理由でもある。
すなわち、見抜かれた時点で敗北だった。
(敗北、逃げなければ死……!)
エリマキトカゲはエリマキを広げて威嚇する。しかし、効果がなかった場合には即座に逃走する性質を持つ。これもまた、人間の頃の性格とエリマキトカゲの性質を併せ持つリザルドには必然の行動だった。しかし、何もかもが遅かった。
「逃すかボケ」
敵に背を見せていたリザルドが、接近してくるリンを視界に入れることはなかった。そのまま意識が途切れ、永久に目覚めることのない暗闇に落とされる。破裂音と共に頭部は消え失せ、ばたつく胴体からは空しく血液が噴出していた。
「口ほどにもなかったわね」
「なあリン、派手にやっちゃ駄目だったんじゃなかったのか?」
「……相手があんなオーラ発した時点でもう遅いかなーって思って」
かなり言い訳染みているが、間違ってはいない。実際、リザルドのオーラに反応して異常事態を察知したウェルフィン部隊が接近していた。息つく間もない連戦、このようなミッションに参加した経験のないレオリオには、少々負担と言える。
「レオリオ、別の蟻が近づいてるみたいなんだけど戦える? 難しければ私がやっとくけど」
「だいぶねばねばして気色悪ぃけど、大丈夫だ」
「そこに川あるし、洗えばちょっとは落ちるでしょ」
レオリオが川でナマコの内臓を取り除いている間に、ウェルフィン部隊は到着していた。リーダーであるウェルフィンの性格に基づいて、一定の距離を伴い対峙する。
(狼、かしら。こいつがこっちの部隊のリーダーね。念能力も見掛け倒しじゃなさそう)
「お前らはまだ手を出すな。俺が先に質問する」
そう言ってウェルフィンは
(十中八九、具現化ね)
具現化系の能力は、特殊な性質のものが多い。ただしある程度傾向はある。例えば、具現化直後に特定の指示を出し始めた場合、順守を強いる能力である可能性が高い。クラピカがいい例だろう。
そして、ウェルフィンは「質問する」と言った。考えられるのは、質問をした後に応えなかった場合、攻撃が加えられる能力。後手に回らざるを得ない能力であるがゆえに、発動した場合は詰みが確定する可能性が高い。
「お前ら、何が目的d……」
すなわち、対策は一つ。言い切る前に殺すか動きを封じること。従って、ウェルフィンが能力を発動しようとした時、既にその首と胴体は離れ離れになっていた。
(モラウさんなら「互いに能力出し合うのが漢の闘いだー」とか言いそうだけどね。生きるか死ぬかの時に、ンなことやってられるかっての)
「ウェルフィン殿!!」
生前の性格も相まって、ウェルフィンは部下を信じていなかった。それもまた能力に反映されていたわけだが。敗因は、共に戦おうとしなかったことだろう。皮肉なことに、部下である蟻達が心配して駆け寄る姿が最後に目にした光景となった。
「レオリオ、気を付けてよ。こいつら、さっきの部隊よりかは念能力を使いこなしてるみたい」
「ああ。発動条件クリアしてたら、やられるのはこっちだったか……」
リーダーを殺され、完全にリン達を敵と認識したキメラアントが襲い掛かってくる。こちらの部隊は、似たような見た目のキメラアントが数匹で一つのチームを組んでいるらしい。
「わっ!」
「うぉ!」
蟻の内の一体が発動させた能力によって、辺りが水流で飲み込まれる。偶然にもこの部隊の戦闘員はウェルフィンを除く全てのキメラアントが水生生物を基としており、能力発動において不利とする蟻は居ない。それは純粋にリンとレオリオのみを攻撃する矛として仕掛けられた。
先ほどまでレオリオが居た川を押しつぶすほどの激流。それはリンとレオリオを容易く巻き込み、分断した。
(やべぇ! このままじゃ息も出来ねえし、リンとも引き離された!)
海中に投げ出されたことにより、三次元的な動きを求められる上に孤立無援の状態に陥った。内心焦るレオリオには、自身がいつの間にか檻のような空間に居ることに気づく。
(捕まえた♥)
(これでもう、逃げられない。放っておいても死ぬだろうね)
ドウケツエビは、一生をカイロウドウケツと呼ばれる海綿動物の中で過ごす。小さいうちに番でカイロウドウケツ内に入るが、そのまま体が大きくなるため、出られなくなる。
それは夫の発動する海流具現化能力と、妻の発動する檻の具現化能力によって成り立つ。互いに一生、半径二十メートル以上離れられないという制約のもとに成り立つこの能力は、部隊の補助としても役立つ他、水生生物以外に対しての戦闘では確実な勝利をもたらす。
檻に閉じ込められたレオリオ、それを外部から見て嗤うキメラアント。何度か遠隔で拳を繰り出すも、水中では思うように動けない。
(ヤバいわね……このままじゃレオリオが酸欠で死ぬ!)
離れた場所、水中でぼやける視界の中、レオリオが閉じ込められているのを視認したリン。だが、リンもまた別な敵に狙われていた。
頭部がシャチで身体が人間に近い魚状のキメラアントが数匹、至るところからリンを攻撃する。
シャチは別名ホエール・ハンターとも呼ばれる。獰猛な性格で、世界最大の体長を持つシロナガスクジラでさえも屠る。それを可能にするのは、鋭い歯と泳ぎの素早さ。なにより、集団で獲物を襲うチームワークだ。
それらは強化系能力によって更に威力を増し、シンプルな攻撃としてリンを襲う。リン自身は海上に浮上できるが、レオリオのタイムリミットが迫っている以上早めに片付けてしまいたい。
(それぞれの能力の相性が良すぎる! かなり面倒なコンボ攻撃ね! でも……)
だが、水場はシャチだけの専売特許ではない。
(操作系は早い者勝ち……。具現化した水を生み出して元の水源を放置してたのがあんたらの敗因よ!)
「!?」
海流に血液が混じって一瞬赤に染まり、間もなくして能力者の死によって水が消えた。空中に投げ出される形になるが、リンとレオリオは難なく着地に成功する。リンは平然としていたがレオリオはやはり、それなりにスリリングな戦いだったらしい。
「これで終わりかな」
「死ぬかと思ったぜ……。あいつら、こんな戦いをずっとやってたのかよ」
これまでも死線は潜り抜けてきたが、レオリオにとっては初めての仁義なき戦い。それなりに緊張するものがあったらしい。しかも、リンが居なければ死んでいたかもしれない。
だが、生きて勝利することができた。これはレオリオの貴重な体験になっただろう。そう思いながら、メイメイが手渡したスマホを開く。防水加工済みの愛用携帯は、ナックルからのメッセージを受信していた。
「ナックルからメッセが来たわ。一旦集まらないかって」
◇◇◇
ミッション開始まで残り四日。ナックルやシュート、そしてゴンと連絡を取り合い、リンとレオリオは待ち合わせ場所に一日半かけて到着した。
あの後軽くやり取りしたところ、ナックル達は既にゴンと合流していたらしい。遅れて来たリン達の視界に入ったのは、ゴンとシュート、ナックル。そしてナックルと仲良く話すカメレオン男の姿だった。