リン=フリークスの冒険   作:夜桜百花

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作戦【5】

 仲間達と合流したリンとレオリオ! しかしそこにはカメレオン男の姿もあったのだった!

 明らかにキメラアントだ! どう見てもキメラアントだ! リンの口元がひくりと引き攣る。

 

(あの馬鹿、指示違反に飽き足らずキメラアントまで仲間に入れてる……!)

 

 今、該当のキメラアントと会話をしているのはナックルだが、こんなことをしでかすのはゴンだろう。姉の偏見は経験に基づいているものであるため、正解率はかなり高い。肩の上でメイメイがため息をついた。

 

「リンとレオリオが来たぞ」

「おせーぞコラ!」

 

 シュートがリン達に気づき、ナックルも立ち上がって軽く手をあげる。レオリオはそれに応じたが、リンはずかずかとゴンに近づくのを優先させた。ゴンはリンの顔を見て、嬉しそうに表情を緩める。

 

「姉さん聞いて! 仲間が……」

「ドアホ!!!」

 

 単独行動中に出会った仲間であるメレオロンを紹介しようとするゴン。だが、それよりも先にリンの拳がゴンの頭上へ振り下ろされた。

 

「痛い!!!」

「おいリン、何もいきなり殴る事は……」

 

 痛みに頭を抱える。いきなり仲間割れ(しかも肉体言語からのスタート)が起こり、シュートはびくりと肩を振るわせ、ナックルは流石にゴンが可哀想だとフォローを入れる。リンはそれをギロリと睨み返した。

 

「じゃあ聞きますけど? そこに座ってる人型カメレオンなGuyを引き連れてきたのは誰? 本命ゴン、次点でナックルと踏んでるんですけど」

「ゴンです……」

 

 くいっと親指でメレオロンを差したリン。その剣幕にナックルは思わず正直に白状した。うっかり庇ったら、次にあの鉄拳を受けるのは自分だと悟ったのだ。

 

「なに敵を簡単に仲間にしてるの! 言ったでしょ! 簡単に隙を見せるな、情を持つな、暴れるなって!」

「あう……」

 

 完全に説教モードに入ってるリン。ガミガミと一言一言、言われるたびにゴンは小さくなっていく。いつもならある程度のところで終わるが、今日はなかなか終わらない。

 

「こっちだって敵情視察やってんのよ? 相手も同じことしてる可能性あるじゃない!」

「ぇう……ごめんなさい……」

「完全に尻に敷かれてるな」

「ゴン、あの状態のリンには弱ぇからな」

 

 自分が叱られている気分になって小さくなるシュートに、小声で解説するレオリオ。リンがギッと睨むと、こちらも小さくなった。巻き添えは喰らいたくないのだ。ナックルに至ってはノリノリで意気投合していたのだが、決して口には出さない。

 

「……まあ、そりゃそうなるわな」

 

 当事者であるメレオロンは気まずそうに頬をかいた。自分がリンの立場でも同じように思うだろうという自覚はある。むしろ今までの男達が気安過ぎたのだ。

 

「あ~、血圧上がった……」

「うう……」

 

 言うだけ言い切ったリンは、大きくため息をつく。ゴンをリンに売り飛ばした男達は、ようやく終わったとほっとした。何のために合流したのかわからなくなってきている。

 

「てか、キルアは?」

 

 二人一組で行動をしていたのだからてっきりキルアもゴンの傍に居ると思っていたが、見回しても銀髪が居ない。リンの言葉に、ゴンがぎくりと肩を震わせた。

 この後の展開を即座に予測したゴンが、姉から視線を逸らしながら小声で言う。更なる雷が落ちると悟ってしまったからだ。

 

「その……、村の人の救助と蟻の攪乱に……」

「あ゛?」

 

 しかし、ここで嘘やそれっぽい方便を使える性格ではない。馬鹿正直強化系の弟が言うそれが事実だと悟ったリンのこめかみに、ぴきりと皺が寄る。そういえば命令違反の説教はまだだった。

 

「……へぇ~? キルアが自分からやるとは思えないんだけど、提案したのは誰ですか?」

「俺、です……」

「こンのバカタレ!」

「うぐっ! 凄く痛い!」

 

 念の為に確認するが、やはり発案はこの弟だった。返答から間髪入れず、追加で更に大きな拳骨が落ちた。ゴンの力量が上がっているが故に幼少期よりも手加減されなくなったそれは、トン単位の力が働いている。ぷくりと焼き餅のようなたんこぶが膨らんだ。

 

「そもそも二人一組で動けって指示だったわよね? 危機的状況ならまだしも、なんでバラバラに行動してるのよ!」

「それはキルアが、俺が居たら潜伏の邪魔になるから任せろって……いだっ!」

「確かにそれはキルアが正しいわね。元々本職だし、一人の方が上手く動けるわ。でもなんで丸ごと任せてるの!」

「え、それは理不z……いでぇ!」

 

 周辺に人や敵が居ないのが幸いした。東ゴルドーの森の中に、姉弟の叫び声が響く。いうまでもなく、一方的な蹂躙だ。

 

「あんたの感情任せな我儘を! キルアは命懸けで遂行してるのよ! なのにテメーは吞気にお喋りかコラ!!」

 

 たんこぶができた所に、ゲシゲシと追加でチョップを何度も入れながら説教をするリン。たんこぶがアイスクリームのように連なり、シュートが小声でナックルに声をかける。

 

「リンの口調、少しお前に触発されてきてないか?」

「……悪ぃ」

 

 リンの前でコラコラ言い過ぎたかと、流石のナックルも反省する。物心ついた頃にはこの口調だったナックルに謝らせるのだ。リンの剣幕がいかに激しいものだったかがわかる。

 暫くするとリンの怒り(第二波)もようやく落ち着いた。更に血圧を上げさせられてゼエゼエと息を切らしているリン。ゴンの顔にはやっぱり『完敗』と書かれている。

 

「俺、何回このやり取り見てきたんだろ……」

 

 やらかすゴンとキレるリン。この姉弟に出会ってからもう何度も見てきた気がするが、今回は特に酷かった。ゴンのやらかしが酷いので当然ではあるのだが。

 だが、当のリンは言うだけ言ってある程度スッキリしたらしい。軽く眉間を揉むと、ぐっと両腕をくんで頭上に伸ばした。

 

「あーもー、いいや。こうなっちったもんは仕方ないわ」

「えらくあっさりだな」

「正直このアホがアホするのも、可能性としては考えてたからね。流石にカメレオン仲間にしてるとは思わなかったけど」

 

 ぶっちゃけ、リンとしてはハナからゴンが五百万人を犠牲にできるとは微塵も思っていない。キルアが止めるだろうと口では言っていたが、キルアもキルアでゴンに甘い。最終的にはゴンに乗っかるだろうとも考えていた。

 モラウもノヴもそれを望んでいそうだったし、リンも本心では(ネテロの言う通りにするかバーカ)とか思っていたので、放っておいて今に至る。ミッションの成功率を上げるためにはよろしくないが、攪乱によって外に眼が向きパームのミッションは成功率が上がるので、悪いことばかりでもない。自分からはやり始めないのに、先陣が切られると何食わぬ顔で参加する。大人とは卑怯なものだ。

 

「まあでも、こいつ良い奴だぜ? 俺らにも協力してくれる」

 

 ナックルがそう言ってメレオロンを顎で示す。ようやく自己紹介するタイミングが来たという気持ちと、こんな揉めているのを目の当たりにした後で自己紹介するのは気まずいの気持ちが同時に来るメレオロン。だが、ここで名乗るのが大人というものだ。

 

「メレオロンという。お前の気持ちはよくわかるぜ。俺が信用できないだろうが……」

「あー、それはいいわ。信用する」

 

 あっさりとそう言われ、思わず聞き返すメレオロン。リンは先程までの剣幕はどこへやら、あっけらかんとした態度だ。

 

「は??」

 

 今までのやりとりで、目の前の女性がゴンの姉であることは察していた。だが、明らかに先程の言い分は、キメラアントである自分に対して否定的なものだ。それなのに、こんなあっさり敵の種族を信用するらしい。ゴンに似ているのは顔だけだと思っていたが、変な所が似ていると頭を抱える。

 

「いやいや、絶対に許さない流れだっただろ! ただ一人、俺のことを仲間として認めず、そっから何らかのイベントによって心開くパターンだろ!」

「ンなもん、うちのゴンが信用してるなら全幅の信頼もんでしょ。え、むしろオタク、うちの可愛い弟信頼してない的な?」

「さっきその可愛い弟、タコ殴りにしてたよな」

 

 完全に地雷だが、突っ込まずにはいられなかったらしいナックル。リンは耳を塞いで聞こえないふりをした。

 

「なんなんだよもー! お前らピュアか!」

 

 なんか思っていた展開と違う、とメレオロンは思った。ゴンといいリンといい、まったくよくわからない。我ながら怪しい自覚はあったのに、こんなにトントン拍子に物事が進んでしまっていいのだろうか。

 

「こんな怪しいカメレオン捕まえてなに信用しようとしてんだよ! もっと疑え!」

「信用してくれっつったのあんたでしょ」

「それはそうなんだけどよ!」

 

 メレオロンは、元来それなりに繊細な性格だ。うがーっ! と頭を掻きむしり、気持ちを落ち着かせるために煙草を吸うことにする。

 ヤニを肺いっぱいに吸い込んでゆっくりと吐き出す。パカリと開いた口からはもわんと煙が形を持って出てきた。なんだか、一服するとどうでもよくなったようだ。

 

「まーいっか。ダチのダチはマブダチっつーしな。SAY、HO?」

「YEAH! SAY、HO!」

「あ、乗るんだ姉さん……」

 

 数刻前、全く同じことをされた時のことを思い出すゴン。思わず引いてしまい「ノリ悪い」だの「ダチにはなれねー」だの好き放題言われ、こっちのセリフだと内心思ったのはナイショの話だ。

 ところが正反対なことにノリノリのリン。メレオロンと瞬時に「こいつわかってんじゃねえか」の目配せをした後、息ぴったりにハイタッチした。

 

「「いぇーい!」」

 

 パチンと音が響く。少なくとも、ゴンとメレオロンの組み合わせよりはよっぽどダチになれそうらしい。その光景を見て、さっきまでの剣幕との落差にドン引きするシュート達。

 

「え、何こいつら。怖……」

「メレオロンって特質系だよな。リンもそうだし」

「あー、そういうやつ?」

「特質系って、そういうとこあるよな」

 

 冷静で合理的な一面も持ち合わせていながら、唐突に謎テンションの時が訪れる。一言で言うと、『なんか変な奴』である。変な奴に変な奴と言われたくないリンとメレオロンは、やっぱり聞こえないふりをした。

 

「……で、話を戻すけどキルアから連絡が来なくなったのはいつから?」

「三日前からかな」

「……」

 

 そんなに連絡が途絶えているなら流石に心配しろよと言いたくなるリンだが、キルアを信用しているのだろう、ゴンは平然としている。ゴンの携帯が振動したのは、丁度その時だった。

 わたわたと携帯を取るゴン。そしてパアッと表情を明るくさせた。キルアからだと示す意味も込めて、スピーカーモードにする。電話口からは存外に元気そうなキルアの声が聴こえて来た。

 

「姉さんとレオリオ、ナックルとシュートも居るよ! あと、メレオロンって仲間も」

『そっか。こっちにも仲間ができた。後で紹介する』

(仲間……?)

 

 このミッションで仲間にするという時点で、一般人ではないだろう。だが、用心深いキルアが簡単に仲間に入れるとは思えない。不穏な言葉に、リンは少しばかり考え込む。電話越しのキルアはリンの様子には気づかず、話を進める。

 

『急で悪ぃんだけど、俺今闇医者の所に居てよ。治療費請求されてんだけど誰か立替頼めねー?』

「あ、……私が払うわ。口座教えて」

 

 この場で確実に金銭を持っていてすぐに動かせるのは、自分だ。スマホをメイメイのポケットから取り出すと、キルアの言う口座を入力して即座に送金する。数百万ジェニーはコンビニの募金箱に入る小銭のように、あっさりと送金された。

 

「ん、できた。確認して」

『んじゃ、すぐ行く』

 

 リンを信頼しているのだろう。特に確認の時間も取らず、さっさと電話は切られた。あとは待ち合わせ場所にて、ということらしい。

 

「そんじゃ、俺らも向かうか」

「言ってる間にミッションまで数日だもんなー。緊張してきたぜ」

「俺は今から胃が痛い……」

 

 自分達の足ならばそうかかる距離でもない。夜中にコンビニへと連れ立って向かう友人のようなテンションで合流地点に向かう男達。それに続こうとするゴンを、リンは小声で引き留めた。

 

「ゴン。大事な話、しとくわ」

 

 それは、仲間内でもできるだけしたくなかった本当に大切な説教。一対一でないと伝わらない真剣さで、リンはゴンと向き合った。

 

「さっきのキルアの件よ」

「それはごめんって……」

「いや、わかってないわ」

 

 リンの言葉の意味をまだ理解していないゴン。リンは更に、少しだけ言葉を強める。

 

「突拍子ないこと言うのはいいの。気を衒うのも、ハンターには必要だから。でも、それは自分の力だけで実現可能なことにとどめときなさい。今回みたいに周りを巻き込むのはやめなさい」

 

 それは、自分自身がやってしまった失敗。一生消えない後悔を孕んだ、過去の自分への言葉だ。自分自身の安易な感情で、友人を危険に晒す。当時のリンと今のゴンの状況は、皮肉なほどによく似ていた。

 

「自分が民衆を救おうって言ったせいで、キルアが死んでたかもしれない。その可能性は考えた?」

「……あっ……」

「結果論で言えば今回は最高かもね。モラウさん達も方針を変えたし、仲間もできた。でも、そうじゃない可能性も十分にあった。その時、後悔しないって言える?」

 

 そう言われて、ようやくゴンも気づいた。自分の感情に任せた善人的発言によって、キルアが死んでいたかもしれない可能性に。

 自分の相棒は強い。どんなことがあっても帰ってくる。それは、悪意のない信頼と残酷な期待によって構成された言葉だったのだと。

 

「さっきも言ったけど、キルアはあんたの我儘に付き合って命賭けた。死んでてもおかしくなかった」

「……」

「自分の悪意ない言動がどれだけ周りに影響を与えるか、考えておきなさい。じゃないと、取り返しがつかないことになる」

 

 ゴンはそれには何も言えず、黙り込んだ。そして一言小さく「……うん」と呟き、それを聞いたリンもナックル達に続くのだった。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 仲間が増えたと同時に、ノヴがミッションをリタイアすることが道中でモラウからの連絡により知らされた。数日前に上手く宮殿内に出入口を設置できたが、そこまでが限界。以降、ノヴはミッションには関われないという。

 

(正直、少し納得いかないところはあるけどね)

 

 パームには身を犠牲にしてまで、しかもネフェルピトーのオーラに包まれながら王を直接視るような危険な任務をさせておいて、自分はそのオーラを目の当たりにしただけで離脱。パームの件以降、若干のノヴへのヘイトが溜まっているリンとしては、少しちくりと言いたい気持ちにもなる。

 だが、それは今はいい。今は必要な作戦会議、そしてキルアの言う新たな仲間との対面だ。

 

 電話をしてからは十数時間ぶり。合流地点に設定した農村の廃屋へ先に到着していたキルアは、食事をしているところだった。どこからか取って来たであろう木の実を齧るキルアの隣には、タコのようなキメラアントが座っている。

 

「よ。おせーよ」

「キルア! 心配したんだよ!」

 

 信じているとはいえ、やはりずっと連絡がないのは心配だったのだろう。ゴンが嬉しそうにキルアに駆け寄り、キルアも満更でもなさそうな顔をする。ゴン達に続いて向かいに座りながら、リンはキルアの隣に座る『仲間』とやらを軽く指差した。

 

「そんなことより、状況説明をして。主にそこのタコについて」

 

 一応、最低限の変装はしているが、どう見てもキメラアントだ。ビーンズのような人外に近い人間も多く居る世界といえど、明らかにその見てくれはタコである。

 

「リン。ゴンも心配してたんだよ」

「ミッション優先、心配より把握の方が先よ。ったく、どいつもこいつも。カメレオンの次はタコか……」

「タコって言うなー!!」

 

 タコタコと連呼され、タコ……ではなくイカルゴは堪忍袋の緒が切れた。ぷしゅー!と音がしそうなくらいに頬を上気させ(ただし顔が赤いのであまりわからない)、リンに怒鳴る。地雷ど真ん中だったらしい。

 

「え、どう見ても……」

「コンプレックスなんだってよ。イカに憧れてる」

 

 木の実をもぐつきながら、キルアが軽く説明をした。気持ちはわかるとメレオロンが頷く傍ら、いまいちタコとイカの違いが理解できない人間達である。特にリンは、某ゲームではイカよりタコの方がキャラデザは好きなので、余計によくわからない。

 

「ふうん。私はタコ好きだけど。刺身とか美味いし」

「それ、あんまこいつの前で言ってやらねえ方が良いんじゃねえ?」

 

 まあ、人間だってよくわからないこだわりを持っているものだ。タコがイカに憧れていようがそんなにおかしいことではないと納得する。なにより、キルアが信頼できると言っているのだから、彼は信用していいのだろう。

 

「リンのせいで変な空気になったけど、こいつはイカルゴ。蟻側を裏切って俺のダチになった。信用できる奴だよ」

「おっけ。私はリン、よろしく」

「い、イカルゴだ……」

 

 ゴンやレオリオもそれぞれ自己紹介をする。キルアに続きどんどん増える新たな『仲間』という存在に、緊張気味のイカルゴ。リンは喋りながらもメイメイのポケットから人数分の弁当を取り出した。

 

「私の能力で時間経過の腐敗はないから食べて大丈夫よ。事前に買いだめしといた」

「サンキュー。最近まともなモン食ってねえや」

 

 時間的に腹も減っていたのだろう。実だけでは足りなかったらしく、キルアとイカルゴも弁当に手を伸ばした。キルアは育ちざかりらしくハンバーグ弁当を取っている。そしてイカルゴは、海鮮丼。

 

(タコもイカも入ってるけど、共食い? 共食いにはならないの? セーフ?)

 

 まあ、ベースに人間も入っているのだからセーフなのだろうと思い直す。ここでツッコむとまた話がややこしくなりそうだ。

 

「モラウさんはなんて言ってた?」

「呆れ気味だったけど、お前が信頼できる仲間なら信頼するって」

「やっぱそうか。信頼できる仲間が信頼する仲間は、自分も信頼するってのが業界のルールだからね」

 

 モラウはハンター歴が長いだけあって、かなり『ハンターらしい』ハンターだ。本人の気質も相まって、業界の風習や暗黙の了解をかなり大切にしている。ナックルが顎を触りながら新たな仲間へのフォローを挟んだ。

 

「むしろ蟻側から出た奴なら歓迎されてるだろーな。まだ蟻側には、二人が裏切った事バレてねーんだろ?」

「ま、確証はねーし時間の問題だけどな」

 

 メレオロンもそうだが、イカルゴもまた、自分が簡単に受け入れられるとは思っていなかった。それが簡単に親し気に話しかけてくるリン達に、驚かざるを得ない。思った事は正直に行った方が良いだろうと、少し緊張気味に手を挙げる。

 

「その……俺が言うのもなんだけど、そんなあっさり信用してくれるのか?」

「昨日も同じこと言ったけど、うちの弟が信用してるのよ。それだけで全幅の信頼案件」

「お前らも姉弟なのか? 似てねえな」

「ちげーよ、こいつが勝手に姉貴ヅラしてるだけ」

 

 初めてキルアに会ったメレオロンが驚いて口を挟み、キルアがぐさりとそれに答える。地味に傷ついたリンは「オムツ替えてたんだから実質姉貴でしょ」と言い返しておいた。キルアにもダメージが入ったので、今回は痛み分けというところ。

 

 この一週間で、かなり状況は変わった。作戦の急遽変更、仲間の離脱。それは予測不可能な出来事が起こる可能性を大幅に上げる。

 だが、悪いことばかりではない。少なからず救えた命もあったのだから。そして、仲間も増えた。作戦を新たに組み直す必要がある。

 

「明後日にはスタート。残り時間はあまり動きすぎない方が良いわね」

「メレオロンとイカルゴはどう動くよ? ノヴさんが抜けるなら、シャウアプフか?」

「メレオロンはナックルと、かな。二人の能力、凄く相性が良いと思うんだ」

 

 そう言ってゴンが誘導すると、メレオロンは簡単に自身の能力を説明する。【神の不在証明】(パーフェクトプラン)と【神の共犯者】。メレオロンが息を止めている間は、どのような相手にも存在を感知されないというものだ。ナックル達は既に聞いていたがリン、レオリオ、そしてキルアとイカルゴは初めて聞くそれに興味深く耳を傾ける。

 

「確かに……それなら確実に【天上天下唯我独損】(ハコワレ)を発動させられるな」

 

 仲間達の能力は全員が把握している。即座にナックルの能力と結び付けたキルアは、チートコンボを見つけたとニヤリ笑った。

 王と護衛軍の分断がミッションクリアの最低ライン。だが、その後自分達は護衛軍を倒さなければならない。地力では明らかに勝てない相手に。

 だが、ここにきて勝ち筋が見えてきたかもしれない。ナックルの能力の利点は、ある程度離れていてもポットクリンがカウントを続けることができる点。そして『絶』になった後、その状態が継続する点。上手くいけば、『絶』状態の敵を遠隔で仕留められるかもしれない。

 

 少しずつ、だが確実に勝利を掴めるかもしれない。勝率は可能な限り上げたい。希望が見えてきた。

 

 作戦会議が終了し、あとは決行日に合流するということで解散することになった。ここまでモラウがペイジンで敵を攪乱している。単独犯説を考えているであろう敵を、ナックルとシュートがペイジンで動くことで混乱させる作戦だ。

 ナックルとシュート、そして共に行動することになったメレオロンが先に出て行き、リン達は再び諜報に回りながら決行日まで待機することになる。その前に、リンがキルアを呼び止めた。

 

「……キルア、ちょっといい?」

「あ? ンだよ」

 

 ゴン達に聴こえないように、少し離れたところへ移動する。所謂、内緒話ができる程度の距離だ。訝し気にしながらもついてくるキルア。

 誰も自分達を見ていないのを確認すると、リンは拒否される前にばっ、とキルアの服を捲った。キルアは一気に顔を赤らめ、猫のようにリンから距離を取る。

 

「だっから、勝手に捲んなって! 前も言ったよな!」

「やっぱりね」

 

 だが、そんなことはリンにはどうでもよかった。予想通り、キルアの身体に怪我の跡を確認できたからだ。それも、治癒力が高いキルアである事を考えると、傷を受けた時は相当なダメージであったであろうと容易に想像がつくほどのものが。

 

「死にかけた、違う?」

「……」

「日単位で音信不通、そんでキメラアントを引き連れてる……。なんやかんやで死にかけたところを助けられたとかじゃないの?」

 

 髪に隠れて見えづらいが、頭部への裂傷が数カ所。そして、先程確認したのは腹部への多数の傷。例えるなら、槍で何度も刺されたのを無理やりオーラと筋肉で受け止めていたようなものだ。出血は免れなかっただろう。

 

ゴン(あのアホ)と違って、キルアは経験も豊富だし慎重だからね。よっぽど心許すエピソードがなければ、短期間で敵陣の奴をダチとは呼ばないわ」

「……対処できたし、生きてんだから問題はねーだろ」

 

 事実、対処はできた。【疾風迅雷】である程度のところまではダメージを最小限に防ぎ、対策を練る。そこからはおびき出すために死んだふりをし、さっくりと殺すことができた。

 だが、流した血の量が多すぎた。作戦の都合上、電気を切らさないように【疾風迅雷】の使用は最低限。皮膚に触れる瞬間具現化されるダーツは、あまりにも容易くキルアの肉を貫いた。臓器だっていくらか傷ついていただろう。

 

 だが、それらのことは口にはしなかった。すれば、リンがガミガミと叱りつけると思ったからだ。なぜ何日も単独行動をしたとか、リン達に協力を求めなかったとか。

 キルアからしても己の至らなかった点は自覚していた。命懸けの任務をゴンに軽いノリで頼まれたとか、他にも色々とむしゃくしゃしていたのが理由だったのだが。

 

「本当に、生きててよかった……」

 

 だが、リンの反応はキルアの予想とは全く違った。心底安心したように脱力すると、背丈がそう変わらなくなったキルアの肩に両手を乗せる。そのまま力を抜き、リンの体重はキルアにかかった。

 

「前も言ったでしょ、命を賭けると命を捨てるは違うわ。キルアならわかってるだろうけど」

「ンな事わかってるよ。舐めんな」

「舐めてないわよ。……ハンターである以上、こんな状況はこれからも訪れる。けど、覚えておいて。私はキルアに生きていてほしい」

「……」

 

 生まれてから今まで、『生きていて良かった』と言われたことは一度もない。何度死んだっておかしくないような環境に置かれていたのにもかかわらず。ずっと死ねば自己責任、そんな場所で生きて来た。キルアにとって、自分が生きていてほしいと願われること自体が新鮮なものだった。

 

「姉貴ヅラさせてほしいのよ。あんたは私にとって、友達で仲間で同業者で、大事な弟なの」

 

 皮肉なことに、リンのキルアへ向ける感情はキルアの知る人間の誰から向けられる者よりも、家族愛に溢れているものだった。ゾルディック家の家族よりも、悪意のない無自覚とはいえ平然と命を懸けて当然の頼みをしてきたゴンよりも。

 

「……恥ずいこと言うなっつーの」

 

 誰にぶつけることもできずにいたモヤモヤは、リンの言葉によってほんの少しだけ晴れた。それをまた言葉にするのも気恥ずかしく、キルアはそれだけを言ってゴン達の下へと向かう。リンもふっと笑うと、その後を追いかけた。

 

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