リン=フリークスの冒険   作:夜桜百花

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決戦【3】

 ゴンから発せられた言葉は、あまりにも感情的、かつ心を抉るものだった。その言葉を真正面から受けても、なお冷静な態度を崩さないリン。レオリオもキルアも心配したが、その表情は何一つ変わらない。

 それは、プロだからこそ平静で居られるのだろうか? 命を懸けたハントの時間だからこそ、何も感じずにやるべきことに徹していられるのだろうか? ここでリンの心の声を見てみよう。

 

(ゴンに嫌われたゴンに嫌われたゴンに嫌われたゴンに嫌われたゴンに嫌われたゴンに嫌われたゴンに嫌われたゴンに嫌われたゴンに嫌われたゴンに嫌われたゴンに嫌われたゴンに嫌われたゴンに嫌われたゴンに嫌われたゴンに嫌われたゴンに嫌われたゴンに嫌われたゴンに嫌われたゴンに嫌われたゴンに嫌われたゴンに嫌われたゴンに嫌われたゴンに嫌われたゴンに嫌われたゴンに嫌われたゴンに嫌われたゴンに嫌われたゴンに嫌われたゴンに嫌われたゴンに嫌われたゴンに嫌われたゴンに嫌われたゴンに嫌われたゴンに嫌われたゴンに嫌われたゴンに嫌われたゴンに嫌われたゴンに嫌われたゴンに嫌われたゴンに嫌われたゴンに嫌われたゴンに嫌われたゴンに嫌われたゴンに嫌われたゴンに嫌われたゴンに嫌われたゴンに嫌われたゴンに嫌われたゴンに嫌われたゴンに嫌われたゴンに嫌われたゴンに嫌われたゴンに嫌われたゴンに嫌われたゴンに嫌われたゴンに嫌われたゴンに嫌われた)

 

 当然、そんなわけはない。生まれてからこれまで、ゴンがリンを嫌いだと言った事は一度もなかった。冗談で言われたってリンはショックを受ける自信があった。

 それが、これだ。ガチのやつだ。もう一生仲直りできないかもしれない。命懸けのミッションの最中だというのに、リンの頭はゴンの言葉をエンドレスリピートしていた。

 

 だが、感傷に耽っている暇はなかった。ピトーが死に、腹を開かれたまま放置されたコムギを慌ててレオリオが診にかかる。キルアがリンに何か言おうと口を開きかけた時。

 

 王の命を守るため、そしてコムギを護るため。ピトーの死後の念が、動く。

 リンは後ろを向いており、レオリオはコムギの治療中。その場で唯一ネフェルピトーの死体を視界に入れていたキルアは、いち早く異変に気付いた。

 

「リン!!」

 

 キルアの叫びが城に響き渡る。リンが振り向こうとした時、眼前に『ソレ』は迫っていた。今、この場で最もコムギと王に迫る脅威だと認識されたリンに向かって。

 人類の限界を簡単に凌駕するだけのスピード。そして死後強まる念によって強化された『強い未練』。意識が逸れていなくても避け切れたか怪しい至近距離のそれは、リンの本能とメイメイの意思によって反射的に発動した【王国の涙】(トライフォース)によるスピード強化をもってしても、即死を僅かに免れる程度の回避しか可能としなかった。

 

(は? もしかしてこれ、死ぬ?)

 

 刹那、所謂『走馬灯』がリンの脳裏を駆け巡る。とっくに記憶の奥底に埋もれていた転生直後の記憶、ハンター試験を通して初めてできた友の記憶、大切な弟、仲間達の記憶、父親の記憶。

 異様に回転を速める思考スピード。能力で瞬発力を引き上げた影響かと一瞬思ったが、このような現象は能力の範疇にない。この一瞬でそのような判断ができるのも、リンが元来並外れた戦闘思考力を持っているからこそではあるが、従って即座にその仮説を自ら切り捨てる羽目になった。すなわち、それが走馬灯であると自ら自覚することになる。

 

 首を跳ね飛ばされたネフェルピトーの胴体が、瞬きよりも早くリンの傍を通過した。一拍間を置き、切り裂かれた肉体から多量の血が迸る。

 電気信号を通じて身体に痛みが走るよりも早く。まるで噴水かと思う程に勢いよく胸から溢れ出るそれに、リンは自分の肉体がどの程度損傷したのかを悟った。それが修復不可能なレベルの損傷であると。

 

(こんなところで死んで……満足に成仏できるわけないでしょ!!)

 

 死にたくないと思う一方で、いつ死んでも悔いのないように生きてきた。そんなリンにとって、このような感情が湧く事自体が、自分でも意外で仕方なかった。

 それはタイマンで敗北した死でもなくハントに失敗した死でもない、蟻の悪あがきによるものだったからかもしれない。弟子であり友人でもある仲間達が、まだ独り立ちするには不安を感じていたからかもしれない。弟と喧嘩したままが嫌だったからかもしれない。

 いずれにせよ、それはリン自身も驚くほどの生への執着だった。

 

 だが、想いが強ければ傷が修復されるなんて都合の良い話は存在しない。数瞬後に訪れるであろう自身の死を前にして、リンの最期の力はピトーの亡霊を完全に滅ぼす方へと注がれる。

【透明な反射鏡】(ミラーミラージュ)を発動する。僅か一瞬でも早くと、【王国の涙】(トライフォース)も発動させたままで。二つの能力を同時に発動し、この後数十分は能力の変更をできない。リンの能力に治癒能力がない以上できる事はこれしかないのだが、文字通り捨て身の攻撃だ。

 全てのオーラを使い尽くす覚悟で、一瞬の行動に全てを込める。【透明な反射鏡】(ミラーミラージュ)を使うリンは、その一瞬だけ光速を超えるだけの動きを可能にした。

 追撃を加えんとするネフェルピトーの胴体。それは死後の念が発動したからこそのものだったが、その死体をリンの【透明な反射鏡】(ミラーミラージュ)は一瞬でブロック体の肉塊に変えた。

 

(ネフェルピトーは完全に殺した。これで死後の念でもキルアやレオリオに脅威が迫ることはない。あいつの亡霊だって私にこれだけ怪我させりゃ満足でしょ。……でも)

 

 この後に待っているのは、死。

 ネフェルピトーと同じ所へ、カイトと同じ所へ行きつくもの。それはとても我慢できない。絶対に嫌だ。だけど、避けることはできない。意地を張る駄々っ子のように生きたいと心の中で叫びながら、リンの意識は深い場所へと沈んでいった。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 キルアの叫びは、走っていたとはいえ聴覚の鋭いゴンの下まで当然の如く届いた。

 嫌いだなんて嘘だ。カイトを喪ったことを受け入れられなくて、ピトーが許せなくて、でも気持ちのやり場が見つからなくて。訳が分からなくてパニックになりキルアに当たった。

 本来はそれだけで終わっていたのかもしれない。その後は僅かでも冷静になれたのかもしれない。だが、リンに激しく叱咤されて矛先がそちらに向いてしまった。

 

(姉さんに何かあった……? いや、そんなわけはない)

 

 ゴンが誰よりも、下手すれば父親であるジンよりも尊敬している姉に、何かあるわけなんかない。あってはいけない。

 あの幻影旅団と正面衝突になった時だって、大立ち回りを見せてクラピカと旅団双方を助けた。G・Iでキルアの兄であるゾルディックの長兄と対峙した時だって、リンは勝利して生き残った。ゴンにとってリンとは、大切な姉であり最高のハンターだ。

 

 しかし足はぴたりと止まり、自然と元居た場所へ引き返していた。不安からか、それとも虫の知らせなのか。言葉にできない焦燥感を胸に抱きながら。

 立ち去ったばかりの気まずさから、始めはゆっくりと、しかし近づくにつれてどんどん早まり、いつの間にか全速力で走る。階段を駆け上り、ほんの一分ほど前に出て来たばかりの空間へと。

 恐る恐る覗き込んだゴンの目に飛び込んだのは、人間が内包できる血液を全て出し切ったのではないかという血の海。そしてその中央に倒れる姉の姿と必死に能力を使用するレオリオ、隣で泣きそうな表情をしているキルアの姿だった。

 

「ね、え……さん?」

 

 意図せず口から零れ落ちた姉を呼ぶ声。しかし、いつもならすぐに返ってくる「なに、ゴン」という言葉は、どれだけ待っても紡がれない。今もなお血を流し続ける姉は、真っ白な顔をしてぴくりとも動かない。

 

「姉さん……姉さん! 姉さん! あああああああああ!!!!」

「ゴン、落ち着け!! リンはまだ生きてる!!」

 

 ピトーを前にした時とは比べ物にならないだけの、悲痛な叫び声。それを抑えつけるだけの力は、自身も動揺しているキルアにはなかった。もみ合うようにしてリンの下に倒れ込みそうになるゴンを、なんとかして留める。

 キルアがゴンの対応に追われたことで放出オーラが減ってしまう。今は余裕がないと、二人を押し込むほどの怒鳴り声でレオリオが叫んだ。

 

「お前ら落ち着け! ゴンも手伝え、俺やキルアのオーラだけじゃ足りねえ!!」

 

 G・Iの一件を経て、レオリオは能力の改良を施していた。制約を緩めにすることで曖昧にしていた箇所を確定したという方が正しいのかもしれない。

【俺に元気を分けてくれ】(エネルギーボール)は、周辺の生物のオーラを少しずつ集めて対象に付与することで、対象の治癒力を大幅に向上させる能力。それに加え、能力者であるレオリオ自身や他の者からのオーラも任意のオーラ量を分け与えることができるように設定した。致命的な怪我でも回復させられるように、と。

 

 だが、所詮は他者のオーラ。その百パーセントを対象のオーラとして使えるわけではない以上、回復力は落ちる。レオリオやキルアの莫大なオーラをもってしても、簡単に回復させることはできない。ゴンとキルアが我に返るほどにはレオリオの怒鳴り声は凄まじく、聞いたことがない類のものだった。

 

 ゴンも慌ててレオリオの傍にしゃがみこむ。キルアがやっているようにレオリオの身体に手を添えると、レオリオの右手からリンへ放出されるオーラは更に強まった。

 少しずつ、少しずつリンの傷口が塞がっていく。胸元から腰にかけてざっくりと切り裂かれたそれは、相手が死者の念であったことを考えると身体が二つに分断されなかっただけ幸運なのかもしれない。

 ネフェルピトーが治療していた少女……コムギは、今も少し離れた場所に横たわっている。止血はされているものの未だ身体が開かれているそれは、ゴン達にとっての優先順位を示している。少なくともゴンはそう思っていた。ゴンにとって、見知らぬ少女より死に瀕する姉の方が何十倍も大切なものだったから。

 いつものゴンならば、いくら姉といえど選ばれなかった方の命の重さに、もう少し迷っていただろう。だが、精神的に余裕のない状態では本当に優先するものが浮き彫りになる。この時、ゴンは無意識に残酷な二択を選び取っていたのだと考えられる。

 

「よし、もういい。あとは俺がなんとかする!」

 

 暫くオーラを注ぎ込んだところで、レオリオがそう言ってゴンとキルアの手を離した。だがリンは、今もなお真っ白な顔をして眠っている。

 そして、額に汗を浮かべるレオリオが相当に無理をしていることも察せられる。非戦闘員だからと、ゴンやキルアよりも自分のオーラを優先的に使っていたのは明白だった。

 

「でも……」

「……レオリオ、任せて大丈夫なんだな?」

「ああ、任せろ。絶対に死なせやしねえ。死なせてたまるかよ!」

 

 大切な友の命が、かかっている。心配そうに呟くゴン、冷静にレオリオを見据えるキルアに、レオリオは自分に言い聞かせるように強く頷いた。

 キルアはそれを確認すると、黙って立ち上がる。顎でゴンを促し、ゴンも迷いながら立ち上がった。オーラはまだ有り余っている。それを姉のために使ってもらった方が良いんじゃないかと。

 口を開きかけたところで、レオリオはそれを手で制した。そして「なあ、ゴン」と小さな声で呟く。

 

「あの蟻が護っていた女、既に命の危機は脱しているぞ」

「「!?」」

 

 レオリオがリンを優先してコムギを後回しにした理由。ゴン同様に、第一は共にミッションをこなす仲間だから、友人だからというものがあるだろう。だが、ゴンと違いレオリオは人の命をそこまで簡単に割り切れない。単純な重要性の優先順位の違いもあった。コムギはリンに比べて、明らかに緊急性が薄かったのだ。

 

「言ってる意味、わかるな? あいつが言ってたことは全部嘘っぱちだったんだよ」

 

 あの時、リンが遮らなければ自分はネフェルピトーがコムギを治療するのを待つつもりだった。もしもそうしていたら、どうなっていたのだろう?

 当然のように嘘をつき、王の命を守るためならばなんでもするキメラアント。自分はどうしていた? どうなっていた? そして仲間はどうなっていた?

 

「確かにお前はカイトを助けに来た。だが、それ以上にミッションを達成しに来た。プロとして、だ。そして全てを水の泡にするところだった。お前自身もヤケになってたかもしれねえ。言ってる意味は分かるよな?」

 

 考えられる先にあるのは、完全な敗北。もしくは頭に血が上った自分の、最高に向こう見ずな行動。再三注意されてきた『制約と誓約』を悪用しての、一瞬限りの全てを叩き潰す力。

 皮肉なことに、ゴンの熱を冷やしたのは瀕死のリンの姿だった。自分がたった一人置いて行かれる側に回り、初めて気づいたやるせなさと恐怖だった。

 

「……ごめん、レオリオ」

「俺に謝るのはちげーだろ。俺達の仕事自体は終わった。ここからは『お前が』ミッションのためにできる事をしてこい。リンは俺が助ける。だから仕事をしたうえで姉貴に堂々と謝れるようにしてこい」

 

 ゴンは黙って頷き、その場を後にした。ゴンの情緒の変化について行けないキルアは自らの怒りを一瞬だけ忘れ、少しの動揺を収めつつゴンの背中を追う。塔を後にし、向かうのはモントゥトゥユピーとナックル、シュートが戦闘している場所。

 今の精神状態で戦っても大丈夫なのか。そんな言葉は言えるわけがない。頑丈そうに見えて、力強そうに見えてこの親友は誰よりも脆い場所を心の中に持っていた。そこを何度も刺され、抉られ、潰された。大丈夫なわけがないのだから。

 

「キルア、俺は大丈夫。もう無茶しないから」

 

 だが、ゴンはそう言った。それが突拍子の無い行動はしないから心配するなという意味なのか、それとも本当にまだミッションを遂行できる精神状態だという意味なのか。はたまた両方なのか。いずれにせよ、それがやせ我慢であるのは明白だった。

 だが、ゴンは言った。力強く、自分に戒めを向けるように。

 

「姉さんと約束……したから」

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 暫く走った先、いくつもの衝撃音が響く箇所を見つけたゴンとキルア。だが、ここで非常事態……すなわち不測の事態が起こったのだということに気づく。

 モントゥトゥユピーと戦闘しているのは、シュートではなくナックル。シュートが戦闘不能になり、ナックルが出て行かざるを得なくなったのだろう。二人は即座にそう判断した。

 作戦通りに進んでいるならば、【天上天下唯我独損】(ハコワレ)を発動させているナックルと戦闘を交代するべきだろう。それを躊躇させるのは、ナックルの鬼気迫る表情だった。

 だが、そう思うゴンとは正反対に、キルアは戦闘に割り込む気しかなかった。ネフェルピトーとの邂逅を経て二人の感情には大きな広がりができている。この時点で、少なくとも外見とは異なりキルアはゴンよりも冷静ではなかったといえるだろう。

 

「ゴン、お前はそこで見てろ。あいつの適任はたぶん俺だ」

「キルア……?」

「キルアの言う通りだろうな。奴、そろそろやべーぜ。変に冷静だ」

 

 ゴンとキルアのぴりついたやり取りに割り込んできた声。同時に突如現れた気配に振り返ると、そこにはメレオロンの姿があった。相当焦っていたらしく、汗が滲んでいるのが分かる。

 

「メレオロン!」

「俺が行く。ゴンは後方からメレオロンと援護だ」

 

 そう言ってただ、ゴンに背を向けるキルア。あくまで平静を装っているものの、この時だけはキルアはゴンの顔を見ることができなかった。

 

【落雷】(ナルカミ)をぶつけてナックルを援護し、そこからは【疾風迅雷】によってただひたすらに殴る、殴る。電気によって制御された機械的な動きは、魔獣と混合されたキメラアントと言えども太刀打ちできない。

 

 八つ当たりだ。ゴンが近くに居る手前、ミッションの手前言えない。今はまだ言う時ではない、心を乱す時ではない。

 辛かった。関係ないと言われ、悲しかった。アルカもナニカも大切だが、このミッションを前にして自分にとっての最優先事項はゴンと共に戦うこと、一点だった。人類最強と謳われるネテロよりも強いという護衛軍を相手にする。生きて帰れないと考えた方が自然な難易度のミッション。ある種、自分はゴンと共に心中する覚悟ですらいた。初めての友達にして、最高の相棒であるゴンと。

 だが、ゴンは違った。心のどこかではとっくにわかっていたことだ。だが、それを何度も、まざまざと見せつけられた。リンが実の弟よりもキルアを優先したこと、そしてゴンを殴り叱咤したことは、キルアに安堵を覚えさせると同時に、酷く惨めな気持ちにさせた。

 

 誰が悪いわけでもない。全員が、余裕がないだけだ。極限の状況下で命を懸けてミッションに挑む。己の命と仲間と矜持。これらが何も起こさずに淡々とミッションを終えさせてくれるわけがない。

 

(……ヤベッ、電気切れたか)

「このクソ野郎ぉぁああ!! ぶっ殺してやらぁぁあああ……がはっ!!」

 

 もう少し余裕をもって撤退する予定だったが、つい夢中になり過ぎた。目の前のモントゥトゥユピーが怒り狂う中、どこからか現れた巨大な念弾がその顔面を直撃した。同時に、キルアの気配もモントゥトゥユピーからは探知できなくなる。

 まんまと逃げられたことに再び怒る一方で、ユピーは戦闘時における冷静さを両立させつつあった。これが後に、モラウとナックルを原作通りの窮地に追い込むことになる。

 

 目くらましに使われた念弾は、ゴンの【ジャジャン拳】。攻撃直後にキルアの傍に走り寄るのも、ゴンの機動力がそれを可能にした。メレオロンの【神の共犯者】は二人同時に発動し、その場から撤退することに成功したのだった。

 

「助かった。俺は暫く充電する」

 

 安全な場所まで撤退した上で解除された能力。幾分スッキリとしたキルアは、ゴンを含めて礼を言うことにも多少の抵抗が無くなっていた。

 暫くは失ってしまった電気を補充することになる。時間もかかるし、ゴンとは別行動をした方が良いだろう。そう思い提案したキルアだったが、ゴンは首を横に振った。

 

「俺、先にキルアに謝らなきゃいけない」

「はあ?」

「……本当にごめん、キルア。俺、わけわかんなくなって酷いこと言った」

 

 キルアにとっては青天の霹靂だ。少なくとも、今のゴンからそんな言葉が出るとは思っていなかった。だからこそ八つ当たりでスッキリした後、全てを終わらせたら無理やりにでも謝らせようと思っていたのに。メレオロンの眼も構わず、ゴンは深く頭を下げていた。

 

「……なんだよ、さっき謝ってただろ。つーか今そんなタイミングじゃねーし」

「今言わないといけない気がするんだ。さっきのキルアの戦いを見て、キルアが凄く傷ついたんだってようやっとわかったから」

 

 熟達すれば、技術を見ることで精神状態すらも読むことができる。文武に限らず何においても言えることだ。キルアのモントゥトゥユピーへの攻撃は、ゴンに向けられた怒りと悲しさなのだと、ゴンが気づくには十分だった。それは、姉から受けた拳に近い痛みがあった。

 

「何も考えられていなかった。姉さんに言われた、プロ紛いって言葉も否定できない。全部が終わったらもう一度ちゃんと謝るから……今はそれだけ伝えさせて」

「……本当、勝手だよな」

 

 勝手に暴れて、勝手に冷静になって。振り回されるのはいつだって自分の方だ。だけど、それは今言うことではない。今言ってしまえば、心が壊れてしまいそうで。キルアはそれが恐ろしくもあった。

 

 全て終わらせてから、だ。躊躇いなく死を覚悟する一方で、絶対に死んでたまるかと決意できる。結局のところ、そういう人間が生き残っていく。心中する覚悟でいたキルアは、同時に生き残った後のことも考えていた。

 ひたすらに意地悪くゴンをつついてやろう。リンも一緒になって、半べそかいてもおかしくないくらいにねちねちと。リンのことだ、きっと乗ってくれる。そしてレオリオが笑いながらガシガシと頭を撫でて抱き締めてきて、自分はそれをウザがる素振りをするんだろう。

 

 イメージすると、それが現実に起こる気がしてきた。少しばかり余裕を取り戻したキルアが立ち上がる時、一人の影がゴンとキルア、そしてメレオロンに向かって伸びていた。

 

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