リン=フリークスの冒険   作:夜桜百花

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三次試験を受けよう!

 二次試験の合格者は二十八名。一日の間に連続して試験が続いたからか、今日はハンター協会が運営しているホテルで一泊する事になった。三次試験は翌日、ホテル一階のロビーにて行われるらしい。

 

「ルカス、ホテルの中見て回らない?なんか面白いものあるかも」

 

 大人びているとはいえリンもまだ子どもだ。普段見る事のない高級ホテルに好奇心を抑えられないらしい。年上のメンチやノワールに言ってお子様扱いされたくもないから、ルカスを誘う事にしたようだ。

 

「はぁ~?お前こんなんも見慣れてねぇの?ガキだな」

「ガキだし。気になるし」

「…ま、別にいいけど」

 

 悪態をつきつつもルカスは満更でもない様子でリンの後をついていく。なんなら少し歩き出せば、後はリンを抜かして率先して歩いている始末だ。

 (本当は行きたかったんだな)とメンチとノワールは苦笑した。

 

 そして一時間後。

 

「ルカスってさぁ、親軍人って言ってたけど、結構お金持ちの家?」

 

 支配人室を覗き(追い出された)、調理室を覗き(追い出された)、リラクゼーションルームやカラオケルーム、カジノなどを覗いた(すべて追い出された)辺りで探検に飽きた二人はレストランで食事をしていた。

 ハンター試験受験生には無償で食事が用意されるようになっているらしく、レストランでナンバープレートを見たウエイターに、丁重に案内されたのである。

 

 リンははっきり言って食事のマナーはからっきしだ。今日はハンター協会の貸し切りになっておりそんなマナーの無さを咎める人間は居ないが、何となく落ち着かずそわそわとしながらぎこちない手つきで肉を切っている。

 

 対称的にルカスは手慣れた手つきでステーキにナイフを通している。その振る舞いがまるで貴族のように見えて、思わずそう聞いたのだった。

 

 リンはコミュ障だが、ある程度の時間や経験を共にするとかなり話せるようになる方だ。所謂人見知りである。ルカスと接するのもかなり慣れてきたようで、自ら踏み込んだ話題に突っ込んだ。

 

「…まあ、金持ちだと思う。俺の親父、カキン国王の直属護衛兵だし」

「すご!超エリートじゃん」

 

 リンの中でカキン国王直属の軍人と言えば、ベンジャミン直属兵的なイメージだ。つまり、凄く忠誠心が高くて、凄く有能で、凄く地位が高い。

 

「そうでもねーよ。作法を厳しく躾けられたってだけ」

 

 そんな親を持っているならもっと誇らしくしても良いと思うのだが、ルカスはあまり面白くなさそうだ。まあ、リンだってプロハンターを父親に持つのに悪態つきまくりなので、何か事情があるのだろうと察した。

 

 そんなリンの様子を察したのだろう。ルカスは暫く言うかどうか悩んだ後、軽くため息をついて心の内を打ち明けてくれた。

 

「俺も軍人になるんだと思う。王子の直属兵に推薦されてるし。でも、その前に何か一つ自分の力で成し遂げたかった…だからハンター試験を受けてる。チャンスは後にも先にも今年一回きりだ。受かればハンター、受からなければ軍人だ」

 

 恐らく原作のキルアと同じ、『敷かれたレールに疑問を抱いている』タイプなのだろうとリンは思った。ただキルアと違うのは、それを受け入れつつもどこかで自分の力を試したいと思っているところなのだろう。思った以上に覚悟を背負って試験に臨んでいたルカスに、リンは素直に尊敬の念を抱いた。

 

「…凄いなぁ。私なんて親父殴るためだよ?」

「そういえば言ってたな。親父プロハンターなんだろ?すげえじゃん、なんでだよ」

 

 ルカスのその表情は、先程のリンと全く同じ事を考えていると容易に想像がついた。意外と自分とルカスは似た者同士なのかもしれないと親近感を覚え、笑いがこみ上げる。

 

「うちの親父、ハンター業最優先の育児放棄親父でさ。小さい頃から弟と一緒にずーっと親戚の家に預けられてて。むかつくから殴る」

「…お前も大概すげーよ」

 

 そんな理由のために世界最高峰の命を懸けた試験に参加するのか、と若干呆れ顔のルカスだ。そうして食事をしていると、髪を下ろしたメンチがやってくるのが目に入った。メンチも気づいたようで、声をかけてくれる。

 

「あらあんたたち、戻ってきてたのね」

「メンチか。部屋に戻ったんじゃなかったのかよ」

 

 その声でルカスも気づき、返事をした。相変わらずぶっきらぼうだが、試験前と比べると心持ち態度が軟化しているようにも見える。それは協力した経験を通して、互いへの信頼度が増している事を示していた。

 

「シャワー浴びてたのよ。丁度ノワールと食事の約束してるとこ」

 

 さばさばと答えるメンチに、リンは少しぎくりとした。メンチがノワールに好感を持っている事をオーラの色で知っていたからだ。おずおずとメンチに耳打ちする。

 

「…もしかしてデートだった?」

「そんなんじゃないわ。試験を共にする仲間は作っておいた方が得だって、二次試験で思っただけ」

 

 リンの心配をよそに、メンチの答えはあっさりとしたものだった。リンの隣の席に座り、ウエイターに目配せする。それがかなり様になっており、憧れと尊敬の眼差しでメンチを見つめるリンだ。

 

「お待たせメンチ…ああ、リンとルカスもイショだったカ」

「ええ、偶然ね」

 

 そう言ってルカスが席に着くと、タイミング良くウエイターが料理を運んできた。内容はリンたちの物と同じで、どうやらメニューは固定されているのかと推察する。固定されているとはいえ、どう見ても高級品なのだが。流石高級ホテルと内心舌を巻く。

 そしてそれを食べる二人の姿は、ルカス同様で貴族のようだ。もしかして庶民は自分だけかと妙に焦りを覚えるリンである。

 

「ねぇ、二人は何でハンターになりたいの?」

 

 先に料理を全て平らげたルカスが、メンチとノワールに向けて尋ねた。ルカスの中ではメンチとノワールも『仲間』に認定されたようだ。少なくとも試験中の一時的な仲間には。

 それはメンチも同じらしく、あっさりとルカスの質問に答えた。

 

「私、美食ハンターになりたいのよ。世界中の珍味を探して駆け巡るの!そのためには入れないところへ入るための資格…ライセンスが要るってワケ」

「はぁ、どうりであんな重箱の隅つつくような問題に答えられるわけだ」

 

 リンも同意だ。メンチが記入していた解答欄は、少なくともリンにはてんで答えられないものばかりだった。二次試験の試験官ブンガクが言っていた「できるだけ異なるタイプの人間と組むように」というのは、こういったジャンルがタイプが違う人間と組んでも互いの長所を引き出せるかどうかを見る試験だったのかもしれないと思う。

 

 メンチの解答を聞くと、ルカスの眼はノワールに向けられた。しかしノワールはメンチとは異なり、少し話す事を躊躇っている様に見られた。言いたくなければ言わないでいいとリン達が言うと、ノワールは首を横に振って答えた。

 

「オレ、は革命の統率者なるため」

「革命?」

 

 思わず聞き返すリン。ノワールが言い淀んでいた理由が分かった。少なくとも革命を計画している事は、あまり広まってはいけない情報だろう。ノワールは軽く頷き続きを話す。

 

「オレの国カキンより北にある、内紛絶えず子ども達苦しむ。革命軍のリーダーしてるけど、今革命起こしても悲劇繰り返す。から、ハンターの資格と権力とお金、欲しい。仲間落ちた。俺も三回目、もう後がナイ」

 

 想像以上に重い理由に、リン達は誰も何も言えなかった。特にリンは、なんだか自分の志望動機が子どもっぽく思えて少し恥ずかしくなった。それを誤魔化すために、メイメイを利用した。

 

「凄いや…ね、メイメイ」

「キュ」

 

 リンのそんな心境すらも気づいていたのかもしれない。ノワールはリンに向けて微笑み、言った。

 

「理由なんて構わない。目的一緒だ」

「それもそうね」

 

 大事な秘密の話は、集団の結束力を高める。リン達の仲間意識は、間違いなくこの瞬間に芽生えていた。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 一夜明け、三次試験開始時刻になった。朝九時のホテルロビーだが、相変わらず揃っているのは爽やかさとはかけ離れた面々である。

 

 しかし、三十人弱まで絞られるとかなり個性的なメンツが浮き彫りになってきた。当然その中には試験の常連も多く、リンは興奮が止まらないでいる。

 

(トンパだ!トンパ!昨日も見たけど、改めて間近で見る生トンパ!)

 

 たまたま並んだ隣には小太りなおじさんもといハンター試験常連の筆頭が居た。今まで受験生が多かったために話すタイミングも無かったが、話しかけたくてうずうずしているリンだ。

 基本的にコミュ障であるため話しかける事も出来なければ、特に話題もないのだが。

 

「おお、お前さん、ルーキーか?珍しいなこんな可愛いお嬢ちゃんが居るのは」

 

 リンの熱視線に気づいたトンパが自ら近づいてきた。その目は優し気なものだが、裏では『今までこんなカモに声をかけ損ねていたか』と考えている。

 リンとしてはそれも公式からの供給なので非常に嬉しいのだが、もしもリンの事を知っている人間が―例えばゾルディック家の面々の様な―が居たら、トンパの事をこう思っただろう。『飛んで火にいる夏の虫』と。

 

「うん、リンです。こっちはメイメイ」

 

 流石に慣れてきた自己紹介は、スムーズに言う事が出来た。どもらなかった事に内心ガッツポーズをかます。

 トンパは気さくな笑顔を浮かべ、自己紹介を返してくれた。試験参加回数が29回である事にリアタイ感を感じるリンである。

 

「よかったら、これ飲むか?受験生に配ってたんだが、余っちまっててな」

 

(キター!!これが聞きたかった!むしろそのためだけに話しかけた!!)

 

 話しかけたのはトンパであって、リンではない。さりげなく自分の手柄にしようとするコミュ障の図だ。

 

 見た事あるようなオレンジジュースを差し出され、興奮が止まらないリン。

 「良いんですか!?」と今までで一番の笑顔を浮かべて下剤の入ったジュースを受け取り、あのトンパの良心を少し痛ませた。おわかりだろうか、あのトンパの良心をである。どれだけの笑顔だったか想像に難くない。

 

「ちょっとリン!やめなさい!そいつ、新人潰しで有名なトンパよ!」

 

 ジュースを飲もうとしたリンの手は、少し遅れて会場にやってきたメンチによって止められた。

 メンチに物凄い剣幕で睨まれたトンパは、じりじりと後ずさる。二次試験で声をかけて殴られたのもあるが、かつてルーキーだったメンチに下剤入りジュースを渡し、あまりの不味さに缶を投げつけられた事を思い出したのだ。

 

「うん!わかってる!それに私、毒とか効かないから大丈夫だよ!」

 

 これにはトンパどころかメンチも驚いた顔をした。目の前の少女が毒は効かないと平気な顔をして言う。しかもその上で、大喜びで飲みたがっているのだ。誰でも驚く事だろう。

 昨日の試験をクリアしている事もあり、リンをただの子どもではないと認識し始めたメンチだ。

 

 笑顔で缶ジュースを開け、ごくりと口に含む。豪快に一気飲みする姿を呆然と見守るトンパ。慌ててリンのもとへ駆けつけたルカスとノワールに、呆れ顔で説明するメンチ。

 

(ぶっちゃけ不味いし下剤の味しかしない!でも公式グッズだ!ありがたがらなければ罰が当たる!)

 

 にしても無理して飲む必要はないはずだが、リンに吐き出すという思考はない。というか、高級ホテルのロビーで吐き出して恥をかきたくもない。

 

 そそくさと逃げて行ったトンパは置いておいて、更に他の受験生を眺めて回る。昨日は二次試験合格者の顔を見る事がほとんどなかったため、興味津々なのだ。

 

(あ、アモリイモリウモリの三兄弟だ!どれがどれだかわからんけど本物だ!)

 

 もちろん話しかける勇気はない。しかしリンのオタクゲージはブーストされていく。

 

(ポックルだポックル!うんこ帽子!)

 

 もはやテンションだけが加速している。当然話しかける事はしない。

 

(あれだ!ヒソカに殺されてた人!凄い!殺されてた人だ!)

 

 名前すら憶えていないのになぜそんなにテンションを上げられるのか。

 

 脳内興奮状態でメンチ達の声も届かなくなっていたリンは、メイメイに思いっきり殴られる事によって正気を取り戻した。

 念獣に殴られて世話を焼かれる術者がいるわけないとお思いだろうか?ここに居るのだ。そういった意味では、リンがメイメイを『発』として偶然作り出したのは人生最大の幸運だったと言える。

 

「あんた…よくわかんないけど、自分の世界に入ってる場合じゃないわよ。もう試験が始まるみたい」

 

 メンチの言った通り、試験が始まるようだった。少し落ち着いたリンが改めて正面を見れば、いつの間にか謎に派手なステージが設置されていた。ステージの周りはなぜか執事姿の美男子たちに囲まれており、パーパラッパーという音と共にステージに向けて跪いた。

 

 ステージは奈落になっていたらしく、下から人影が上ってくる。それと共にスモークがたかれ、顔まではよく見えない。

 

(試験官が顔出すだけなのにどんだけ労力と人員かけてんだよ…)

 

 リンを含め、その場の誰もが同じ事を思った。

 

 暫くしてスモークが晴れると、女性の姿が現れた。意外にも低身長、しかしその身体全体をギラギラとしたアクセサリーでコーディネートしており、メイクも同様にバチバチだ。

 

(あ、漫画で見た事あるかも。あんま覚えてないけど)

 

 うろ覚えな記憶を頼りにぼんやりとその姿を眺めるリン。他の受験生たちも(こんなのが試験官?)と言わんばかりの眼を向けている。

 仕上げとばかりにグロスをひと塗りし、三次試験の試験官はてらてらとした口を開いた。

 

「皆さん初めマシて!カワ美ハンターのキューティー=ビューティーですワ!」

 

 カワ美とは何なのか。それはハンターと言えるのか。そもそも目の前のこの人間自体、本当にハンターなのか。そんな心の声が聴こえる気がするリンである。ちらりと受験生たちを見回すと、全員のオーラが猜疑心の色をしていて思わず笑ってしまった。

 

 そんな受験生たちの心を知ってか知らずか、キューティーは堂々と三次試験の内容を口にする。

 

「三次試験はカワ美いモノをこの街から探してくる事デス!いい?私が『カワ美い』っていうモノじゃないとだめですからネ?」

 

 その言葉に周囲はざわつく。なんせ、受験生の9割以上は可愛いを意識した事のない筋骨隆々の男である。

 

「はぁ?そんなん人の好みだろ!」

 

 皆の心の声を代弁したかのように、ルカスが叫んだ。イライラと金色の髪をねじりながら貧乏ゆすりをしている。試験官を怒らせては面倒になると、慌ててノワールがそれを窘めた。キューティーはその姿を見て、微笑まし気に笑う。

 

(あ、あの人のオーラのピンクが強まった。ノワールモテモテだな…)

 

 元々ピンク色の濃いオーラだったが、更にその色が強まった。ノワールの人徳や女性を引き付ける魅力の溢れっぷりに変なところで感心してしまうリン。

 

「範囲はこの街一帯!制限時間は六時間でチャレンジは一人につき三回まで!私のティーブレイクまでには持って来てくださいネ!」

 

 キューティーがそう言い終えると同時に、周囲の男達がラッパを吹いた。今回の試験開始の合図はこれらしい。本当に無駄な人員配置だと思うリンたちである。

 

「カワ美い…ねぇ…」

「だから、そんなん人それぞれだろって!アイツの好みなんかわかるかよ!」

 

 考え込むように呟いたメンチに、ルカスが噛みつく。メンチに八つ当たりをしても仕方がないのはわかり切っているはずなのだが、そうでも言わないとやってられないのだろう。

 

 しかし、たしかにルカスの言う事は正しい。大体『可愛い』でも『美しい』でもなく『カワ美い』って何だ。

 他の受験生たちも、取り敢えず外に出て探し始める者、じっと考え込む者、キューティーを観察する者と様々だ。行動は違えど、全員の顔に同じような感想が文字として書かれているように見える。

 

「てことは、あの人の好みを推理して望み通りのものを持ってくればいいって事かな?」

 

 ルカスの言葉を受けて、リンが考えこみながらもそう言う。好みがわからないのなら、推測すればいい。そう言った洞察力や情報収集力を見る試験なのではないだろうかという意見だ。

 

「身に着けているものは大小様々なアクセサリー類、この事から装飾品を好んでいる事が想定されるネ」

 

 眼鏡をずり上げながら考察するノワール。彼もリンと同じ見解に辿り着いたらしい。

 

「つまり可愛いストラップとかを持ってくればいいんでしょ?ラクショーよ!」

 

 メンチは自信満々にそう言うと、ピュンと音が付きそうなスピードでロビーを出て行った。何だか嫌な予感がするが、これはあくまで個々の試験だ。様子を伺うのも良いだろう。

 

 リンがそう考えていると、ノワールがリンとルカスに声をかけた。

 

「リンとルカスはどうすル?」

「取り敢えず、もうちょいここに居て待ってみようかな。メンチが持ってくるものも気になるし、試験官の反応も気になる」

「あ~、確かにそれ良いかも。他の奴らの出方を伺うのは戦術の基本だしな」

 

 どうやらルカスとノワールも同じ意見に落ち着いたようだ。ソファに腰かけ、他の受験生たちの出方を見る。制限時間も長い事だし、問題はないだろう。

 

 それから待つ事二十分。メンチは思ったよりも早く帰ってきた。意気揚々と小包を取り出し、キューティーに見せつける。それは小さなサンドイッチのストラップだった。小ぶりながらもリアルな作りになっており、密かに欲しいと思うリンである。

 

「これよ!」

 

 メンチは自信に溢れている様子だ。しかし、キューティーは黙って首を横に振った。

 

「全然ダメ!カワ美さを理解してないデス!」

「あン?このサンドウィッチストラップの可愛さがわかんねーのかぼげがぁ!!」

「メンチ!落ち着いてー!」

 

 はっきりと却下され、メンチがブチ切れた。慌ててそれを取り押さえるリンだが、ロデオのように暴れまくるメンチに振り落とされそうになる。

 

(私念能力者だよ!?それをこんなに振り回すなんてメンチ…才能の塊!)

 

 流石21歳でシングルを取るだけあると振り回されながらも分析する。ノワールとルカスも間に入る事で何とか事なきを得たのだった。

 

「くっそ!この可愛さを理解してないなんて、ありえないわ!」

「メンチ聴こえるよ…私はそれ可愛いと思うよ。美味しそうだし」

 

 結果、メンチは憤慨しながらも一回目を失敗に終えたのだった。しかしメンチは納得がいかないらしく、イライラとしながらどこかに八つ当たり相手はいないかとその視線が探している。

 

「おーい、お前ら!俺も一緒に探させてくれよ」

 

 (居た)とリンは思った。ルカスとノワールも同じように思ったらしい。ホッと息をつく声が僅かにリンの耳に届いたからだ。

 

 声の主はトンパ。四人中二人が新人という事で、邪魔をしにかかってきたのだろう。当然この先の展開を予想できているリンたちは無視しているが、トンパはそれに気づくでもなく近づいてくる。

 

「うっせぇんだよボケナスが!次私らの周りうろついたらその汚え身体丸焼きに調理するからな!!」

 

 結果、予想通りトンパはメンチに吹っ飛ばされた。腰に着けていた包丁を抜かなかったのはせめてもの優しさだろうとリンは思った。何時間で目が覚めるかは知らないが。

 

 そんな茶番は置いておいて、改めて『カワ美い』について考えるリン。今までのやり取りの間にも他の受験生たちがアクセサリーや洋服などを持って来ていたが、すべて却下されていた。つまり、普通に思いつくものではだめだという事だ。

 

(まあ、あの人達が持って来てたの、趣味最悪だったけど)

 

 可愛いを意識した事の無い人間が持ってくるのだから、ある程度は仕方ないだろう。ポックルが白とピンクのハートマークで満たされたセーターを持ってきたのには思わず吹いたが。

 

 チャンスは三回。メンチは一回失敗したので二回だ。落ち着いて考えなければいけない。ようやく落ち着いたメンチもソファに座り、作戦会議を開く。

 

「持ってこい言われたガ、そもそも金は渡されてナイ。ここから考えられるのは『購入するまでの資金集めも試験の一環』であるカ、『そもそも金銭が要らない物が対象』カのどちらか」

 

 会議の第一声はノワールだ。これには他の三人も同意したように頷く。二次試験の際にダントツで問題を解いていたのはノワールであり、その知性には全員が一目置いていたからだ。

 

(確かにノワールの言う通りだ。お金も渡されてないのに試験っていう時点でフェアではない。財力だけで勝てる試験にはしないだろうし…って事は、金銭を考慮する必要のない試験なのかも)

 

「ついでに言うなら、あいつの好みを知らないといけない。…っつー事は、あいつの経歴も調べた方がいいな」

 

 ルカスが口を開いた。流石王子直属兵に推薦されているだけある。これもまた、情報戦の基礎なのだろう。

 ルカスの言葉にノワールが携帯を使って調べ始める。リンはその様子を眺めながらも、改めてキューティーを観察する事にした。

 

(何回見てもギラギラして目が痛くなるな…ずっと鏡見てるし)

 

 そう、キューティーは試験が開始されてから、ずっと鏡を見つめている。勿論鏡はキラデコ仕様だ。初めはナルシストぶりに呆れていたが、これも試験のヒントなのではないかと思い始めた。

 

(例えば、自分を『カワ美い』と思ってるとか)

 

 鏡が好きな人間は、大抵の場合鏡に映る自分の姿を見るのが好きだ。つまり、キューティーはカワ美いものとして自分を認識している可能性がある。

 

(いや、もしくは…誰かに見てもらいたい?)

 

 そう考えるとキューティーの素振りはまるで恋する乙女の様に見えてきた。鏡を入念に覗き込み、ネイルによれがないかを確認し、髪の毛を何度も巻き直す。どちらかと言えばナルシストというよりはデート前の乙女のようだ。

 

「なんかあの人…恋してるみたいだよね」

「あ、わかるわそれ。ずっと鏡見てメイクしてるし」

 

 男性二人にはリンとメンチの言う事は理解できないようだが、それも貴重な情報だと黙って聞く。そのまま観察を続けていると、キューティーの経歴を調べ終えたノワールが携帯をしまいながら言った。

 

「キューティー=ビューティー…親パリストン派の筆頭として知られてイル」

 

 それを聞いて、リンはキューティーを原作のどこで見かけたか思い出した。選挙編だ。

 

「あ、私知ってるかも。金髪のイケメンでギラギラした笑顔の人」

「ソレ。ハンター協会でも有名人らしい。メディア露出も多イ」

 

 リンの言葉にノワールが同意する。それを聞いたメンチが口元に指を添えながら呟いた。

 

「じゃあ、パリストンって人の写真を持ってくるとか?」

「そこまで単純じゃねーだろうけど、近い事を要求されてる可能性はあるかもな」

 

 ルカスが答える。それにはリンも同意だった。パリストンならグッズ展開をしている可能性もある。

 

「じゃあ、パリストングッズ探してみよっか。駅前のオマールなら何かしら売ってそうだし」

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

そうしてリンたちは巨大ショッピングビルを探し回った。ビルを一階ずつ捜索し、階段で合流して次の階に向かう。それを繰り返してビル一つ丸ごと捜索したのだが、パリストングッズは見つからない。気づけば三時間経過しており、少し焦りが出てきた。

 

「うーん…間違いだったのかな?」

「ていうか、範囲が広すぎんのよ!お題もアバウトだし!もぉー!!」

 

 待ち合わせしていた階段横のベンチで地団駄を踏みながら叫ぶメンチ。昨日の試験と違い人払いはされていないので、道行く人たちが怪訝そうな目でメンチを見る。思わず、リンはジンと過ごした時の事を思い出した。

 

「パリストングッズ、それもお金が要らない物だよね?もしかして、ここにはないとか?」

「いや、それはナイ。範囲はこの街言っていた。だから必ず、ここにあるはず」

「じゃあ虱潰しに探し回るしかないのかな…」

「そんなの、日が暮れちゃうわよ」

 

 リン達が話していると、ルカスが少し疲れた様子で歩いてきた。成果を問うと首を横に振られたが、携帯片手に歩いてくるその様子は、何かに対して確信を持っているようにも見える。何か発見したのかとリンが考えていると、ルカスが小さな口を開いた。

 

「おい…ついてこい。見つけたぞ」

「うそ!どこに!?」

 

 歓声を上げて喜ぶメンチだが、ルカスの顔は複雑だ。ビルを出て、言われるがままについてきて辿り着いたのは、外装からギラギラしたネイルサロンだった。ストーンを屋根にあしらっており、それが烏避けかというくらいに太陽を反射している。はっきり言ってあまり入りたくはない。

 

 店の扉を開くと、リン達があれだけ探しても見つからなかったパリストングッズは入り口から店の奥まで山ほどあった。パリストン写真集、パリストンマグカップ、パリストン抱き枕…他にも数十種類のグッズが並べられている。もはやネイルサロンなのかどうかも怪しいほどに。

 そしてそれらのすべてが『本日限定無料配布』という看板と共に、煌びやかに飾り付けられていた。意外と客も多く入っており、若い女中心にきゃっきゃとグッズを見ている。

 

(すげーデコデコしい…ていうか逆にこんな派手にしていいのか?)

 

 ここまでラインストーンであしらわれた商品棚を、リンは前世でも今世でも初めて見た。これでは商品に目がいかない気がする。しかし、恐らくこれが正解の品である事は予想がついた。

 

「凄いデス、ルカス。どうやって見つけた?」

「別に…この街の『パリストングッズ』とか『ハンター協会無料配布』とかで調べただけだよ」

 

 ルカスがむっつりとしながら言った。試験でもなければルカスはこんな店には好んで入らないだろう。先ほどから微妙な表情をしていた理由が分かったリンだ。

 そしてさっきから女の子たちがルカスとノワールをチラ見してはきゃいきゃいと騒いでいる。ミルキが見たら殺しにかかるだろうな、と関係ない事を考える。イケメンは大変だ。

 

「私は写真集にしよっかな」

「んじゃ俺、この可動式フィギュア」

 

 リンとルカスがさっさと決めるが、メンチは不服そうだ。恐らくサンドイッチストラップがこれらに負ける事が納得いかないのだろう。

 

「こんなののどこが可愛いのよ?カワ美ハンターって見る目がないのね」

「メンチ、あまり言わない方がいいよ。ハンターは皆、自分の仕事に誇りを持っているんだから」

 

 こんなんでも、れっきとしたハント対象だ。そう…こんなんでも。

 

 ノワールとぶすくれながらグッズを選ぶメンチを眺めながら、ルカスがリンにぼそりと言った。

 

「…これで、二次試験の借りは返したからな」

 

 リンには全く思い当たるところがない。少し考えても全く分からなかったため、ルカスに聞き直す。

 

「借りって?」

「…なんでもねぇよ!」

 

 ルカスはそう言うとむすっとして背を向けてしまった。何度も聞いたのだが、それ以上は何も教えてくれないのだった。首を傾げるも、メンチとノワールが選び終わった事でリンはその事をあっさり忘れてしまった。

 

 結果、三次試験は四人とも合格だった。どうやらキューティーの答えはあれで正解だったらしい。パリストングッズに囲まれながらお茶を飲むキューティーを辟易しながら眺める四人だったが、ともかく合格したのは喜ばしい事だと皆で笑いあった。

 

 ちなみに、トンパとポックルの姿は見えなかった。三次試験で落ちたらしい。

 

 




今更ですが、リンの姿はゴン女体化で目つきをジンっぽくした感じにしたら大体合ってます。前髪は生え際広めのセンター分けな感じで、髪は肩につくくらい。
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