クロロとの出来事から一週間後。
念入りに下調べをしたリンは、地下ピラミッドが埋まっていると噂されている赤ピラミッドの前に居た。
一週間と言っても、正確には調べるのに必要とした時間は三日。残りの四日は懺悔と生成されたばかりの黒歴史を思い出して悶えるのに使用された。
クロロという超次元級のイケメンに食欲のあまり拳を食らわせた事は、リンの人生史の中でもかなり上位の汚点に入る。存分に恥じらい、叫び、床を殴りまくり近辺の住人から怪奇現象の噂が流れたあたりでようやく冷静になったリンである。
(過ぎた事は仕方ない!前を向こう!前を…おぉおおぉぉ!!)
まだ心の傷は癒えていないらしい。
再びピラミッドの前で悶え、ピラミッド見学をしている観光客から存分に不審な目を向けられる事でようやく平静を取り戻したリン。
ハンターライセンスを提示し、一般客は禁止されている区域への探索許可を得る。そして同時に周辺の人払いも指示した。これから先に行う事は一般客に見られては都合が悪い上、危険も伴う。
今回の目的地は地下ピラミッド。そこへ通じる唯一の通路が赤ピラミッドの最奥にあるのだという。かなり厄介な仕掛けが施されているようだが、リンは自分の能力なら容易く突破できると確信していた。
満を持して足を踏み入れたピラミッド内部は、ひんやりとしていて妙に神秘的な空気を纏っていた。
下手に明かりをつけると、その周辺のみに意識が向いてしまう。そのため敢えて明かりをつけずに夜目を利かせながら、一歩ずつ慎重に進んでいく。
(あまり整備はされていないけど、観光客も入れるだけあってこの辺りは安全…かな)
コツコツとブーツの音を響かせながら少し歩くと、観光客立ち入り禁止のテープが張られている通路を発見した。間違いなくこの先であるため、躊躇なく潜り抜ける。
(…?)
ここからは罠に注意しなければいけないと思っていたのだが、予想は外れて罠は一つもなかった。…というより、全て起動して破壊された後だった。石を使った原始感溢れる、しかし強力なトラップは、どれも壁面から根こそぎ壊されている。どう考えても人間業ではない。
(誰かが既に来ている…?)
赤ピラミッドの地下にもう一つピラミッドが埋まっているという噂は、あまり広まってはいないとはいえ出る所には出回っている情報だ。そのためリンより先に入ったハンターによって罠が起動していてもおかしくはない。
しかし、見た所これらの罠は破壊されてそこまで時間が空いていない。
(この先に誰かがいる可能性があるかもしれない)
ピラミッドの内部は入り組んでいる上に自分の出した音が反響しやすいため、周囲の状況を探りづらい。そのせいで奥に居るかもしれない誰かの気配が掴めないのだ。
奥へと進めば進むほど砂埃が酷くなり思わずジャケットの袖で口元を押さえる。
(同業者だろうが盗賊だろうが、出会ってすぐに戦闘…なんて事はないと思うけど…)
罠が発動しないなら警戒してゆっくりと移動する必要も無いため、さっさと最奥まで行く事にしたリン。しかし、どこから攻撃が来てもいいように警戒は怠らない。
(やっぱり誰か居る、か…)
最奥に近づくにつれ、僅かながら話し声が聴こえるようになってきた。男、恐らく三人組だ。戻るかそのまま進むか、判断に迷う。
そこらのハンターでは地下ピラミッドのハントは不可能であるとリンは予測している。だが、万が一先を越されたとしたら?
ロマンを求めてここまで来たリンは財宝に酷く執着しているわけではないが、誰かが入った後に空っぽのピラミッドを探索するなんてつまらない展開は避けたいと思っている。
(もしも先を越されそうならいっそ即席の協定でも結ぶか…?)
どちらにせよ、先客の様子を伺わなければならないと判断し、最奥へ進む事に決める。念のため、どんな念能力が来ても対応できるように発の準備だけして。
王室の隠し部屋であったらしいそこは既に開いていたため、難なく侵入する事が出来た。やはり先客は男だったらしく、リンより数十センチは高い位置にある真っ黒な目と目が合う。相手もこちらに気づいていたようで、特に驚かれている様子はない。しかし、警戒していたにもかかわらずリンは動揺を隠せなかった。
(クククククロロルシルフル~!!)
そう、最奥に居た先客はA級賞金首の盗賊クロロ=ルシルフルであった。あの時とは違い、今日はオールバックヘアに真っ黒な逆十字のコートを着ている。
彼だけではなく少し後ろにはウボォーギンとノブナガも共に居り、二人とも『なんだこいつ』と言いたげな目でリンを見つめている。敵か否か、それを判断されているのだろう。
「…お前、この間の子どもか」
「ま…まままた会ったね」
先日のやらかしと黒歴史が噴出し、推しに会えた喜びと相まってリンは思いっきりどもった。それだけならいいが冷や汗だらだらの足がくがくで、子どもでなければ、いや子どもであっても怪しい人間だ。ましてやピラミッドの一般人禁止区域で出会っているのだから、怪しさ倍増である。
「おー!お前が例のガキか!」
クロロの呟きでリンが誰か見当がついたらしい。ウボォーが面白い玩具を見つけたような眼でリンに近づいてきた。
『例の』とは何か、クロロはどんな言い方で自分の黒歴史を二人に話したのかと内心恐怖するリン。しかしその一方で妙に好意的なウボォーに親しみやすさを感じなくもない。
「お前、団長に拳入れたんだってな!どうだ俺とも勝負してみねぇか?」
「やめとけガキ相手に…仕事中だ。それにこいつ特質系なんだろ?お前の馬鹿力には耐えられねぇよ」
「そんなのわかんねぇだろうが!なあ、どうだ?」
ノブナガのやんわりとした牽制にもかかわらず駄々を捏ねるウボォー。リンの年齢からみれば二人ともいい年をしたおっさんだが、言い合いをしているその姿は子どものようだ。
(あ、この感じ誰かに似てると思ったけど…ゴンか。戦いごっこねだる時のゴンそっくり)
元々人柄を知っているとはいえ、ウボォーの雰囲気は妙にとっつきやすい。それが我が儘を言う時の弟に似ているからだと気づき、そういえばウボォーはゴンと同じ強化系だったと思い出した。全然性格は違う二人だが、頑固者という根本は似ているのかもしれないと思う。
(推しではなく弟とその仲間達…って思ったらまだ話せなくもないかも)
その理論で言うなら正確にはゴン達も推しなので無意味に等しいのだが…無理やり自分に暗示をかける事によってそう思い込む事にする。でないと自分の脳が爆発してしまい、正直話が進まないからだ。
「ドンパチは嫌だけど…ちょっとした手合わせくらいならいいよ」
「お前もいいのかよ…」
嬉しそうにニッカリ笑うウボォーと、呆れ顔をリンに向けるノブナガ。それをスルーしながら、いい加減コミュ障を治さないといけないと密かに決心するリンである。
しかしクロロはそんな初対面たちの会話に入る事はなく、じっくりと観察するようにリンの事を眺めていた。流石にそこまで見られるとリンもそわそわして自分からクロロに話しかける。
「…何?」
「能力はまだ持ったままか?」
言うまでもなくクロロの言っている能力とは先日リンが使用した発の事だろう。なぜそんな事を聞いてくるのかは容易に想像がついた。
「もしかして、盗めなかったからびっくりしてる?」
「…なぜわかった」
「プリンと念の泥棒未遂には教えない」
殴ってしまったとはいえ、そもそも耐性の無いオタクにアポなしのちょっかいをかけてきたのはクロロだ。ちょっとした腹いせで舌を出すリン。
クロロはそれには返答せず、暫く考えこんだ後質問を変えた。
「…盗まれなかったという事は今も能力は使える、そうだな?」
別にそれくらいなら答えるのに問題はない。無言で頷き肯定を示す。
場合によっては同盟を組むのもありかと思っていたが、先客はまさかの幻影旅団だった。同盟を組むのは難しそうだが、オタク的観点からここで引き返すのはもったいない気もする。それにクロロ達の事だ。最低限の対策は用意しているだろうから今引き返すとピラミッドのハントが無意味になる可能性が高い。
どうしたものかと考えていると、リンが最も欲しかった言葉をクロロはあっさりと言った。
「それなら丁度良い。お前、一緒にこのピラミッドの中に来い」
「…言われなくても入るつもりしてたけど、何で?」
願ってもない言葉だが、リンは今までの経験から基本的に大人を信用していない。特に旅団は仲間以外には容赦ない事を原作で知っている。そのため、自分をなぜ引き込もうとするのか理由を問う事を優先した。
「入るつもりだったなら知っているだろう。地下ピラミッドに入るためにお前の能力が最適だからだ」
当然、クロロも気づいていたらしい。その上でリンにこんな提案を持ちかけてくるという事は、クロロの能力で半ばゴリ押し気味に仕掛けを突破するつもりだったのだろう。それならば確かに、最適なリンの能力があってほしいはずだ。
「それって、私に何のメリットがあるの?」
「地下に潜っている間は俺たちがボディーガードになろう」
「別に要らない」
オタクとしては喜んで同行したいところだが、ハンターとしてのリンはこれをある種の取引と捉えた。だからこそ即答はせずに敢えて思わせぶりな返答をする。
そしてリンはそんなつもりはなかったが、この返答はノブナガとウボォーの笑いのツボを的確に刺激したらしい。リンの言葉を聞いた二人は大爆笑しながらクロロの背を叩いた。笑い声が壁に反響し、少し喧しく感じる。
「言われてるぜ団長!」
「自分のパンチを避けられない奴はあてにならんってよ!」
揶揄われて少しむすっとするクロロ。誰が見てもむくれているのは明白だ。
旅団の仲良しシーンを目の前で繰り広げられ内心感涙するリンだが、このシリアスな場面で子どもを前に弄られまくるクロロが流石に不憫になった。フォローのため、軽く咳ばらいをし、空気を戻す。
「嫌だって言ったら?」
「この場で殺す」
流れのせいであまり迫力は感じないが、クロロの言っている事は本気だと肌で感じた。今のクロロはあくまで個人ではなく団長として来ている。クロロが命じたなら、ウボォーとノブナガも躊躇なくリンを殺そうとするだろう。
「じゃ、ボディーガードでお願い。絶対守ってよ。宝は私の方が多く貰うからね」
リンの言葉に一瞬意味が分からないと言った様子でクロロは不思議そうな顔をした。脅されている側の、それも年端もいかない子どもがそんな上から目線で来るとは思わなかったのだろう。少し面白そうにくつくつと笑う。
「ほう、脅されている立場なのに随分と強気だな」
「殺されるくらいなら従うふりして地下に入った後、能力を解除して全員砂に沈める。そうはなりたくないでしょ?」
「面白い、形勢逆転されたわけだ」
「冗談、ちゃんとルールは守るよ」
かくして、一時的な同盟は組まれたわけだ。先に進もうとしてそういえば言い忘れていたルールの穴があったと思い当たり、念のため釘を刺しておく。先ほどのやり取りでクロロから敵意が消えたのを感じたから必要はないかもしれないが、あくまで念のためだ。
「言っておくけど、ピラミッドを出てから私を殺すとかもナシだから。私しつこいよ。化けて出ちゃう。死後の念になってしつこく憑くからね」
「それは嫌だな。やめておくとしよう」
団長の意向に従うらしい。ウボォーもノブナガも、それについて何も言いはしなかった。黙ってリンが能力を発動するのを待っている。
現在リン達が居る最奥の部屋は、四畳半程度の小さな小部屋だ。その中央には大きな水たまりのように穴が開いている。いや、穴と言うのは語弊があるだろう。そこは砂粒で満たされているのだから。
地下ピラミッドが侵入者を阻む天然の仕掛けとは、これの事だ。地下に位置しているというだけあり、地下ピラミッドの内部は完全に砂で覆われている。規模も大きく、下手に砂を取り除こうとすればピラミッドが損傷し最悪生き埋めになる可能性もあるだろう。そのため、一般人では到底中に入る事は出来ない。
過去の文献から細々と地下ピラミッドの存在は示唆されていたが、侵入不可能である事から幻などとうたわれ噂に尾ひれがついたような状態になっているのだった。
「じゃあ、いくよ」
そんな来る者を阻む地下ピラミッドだが、侵入する事は不可能ではない。馬鹿みたいな話だが、ピラミッドを支えながら砂を取り除けばいいのだ。そして外部から侵入してくる砂も全て止めてしまえばいい。唯一それができるのが、リンの念能力であった。
「そろそろ、能力が盗めなかったわけを聞かせてくれないか」
砂を地下ピラミッドから赤ピラミッドの外まで出すのには時間がかかる。リンの作業を眺めながら、クロロがそう切り込んだ。リンも、同盟を組んだ以上はそれくらい話しても構わないと判断し、「少し長くなるけど」と前置きして口を開く。
「私の能力って複数あるんだけどさ、発現の経緯からか、全部の能力がこの子に繋がるようになってるの。念獣なんだけどね」
そう言ってメイメイを軽く指で示す。メイメイもクロロ達が自分に敵意を持っていないと判断したのか、比較的愛想よく鳴いた。
(そういえばノブナガが私の事特質系って言ってたけど…具現化能力と操作能力を併用してるからそう思ったのかな?)
そう判断したのはノブナガではなくクロロだろうが、実際正解だから特にそれについて何も言うつもりはない。
「で、少し話は変わるけど私、人のオーラが色付きで見えるの。念獣と術者は同じ色のオーラしてそうじゃん?実際普通はそうなんだけど、この子は違う。私とはオーラの色が違う、個性を持った念獣であり念獣でない別個の存在。つまり厳密には100%私の能力とは言い切れない。だから盗まれる対象に入らないと考えた。以上」
実際のところは、リンが他者の能力を取り入れる能力を発現した事によってリン以外の念がメイメイに取り込まれたのだと考えているが、そこまでクロロに話すつもりはない。
いくら推しとはいえ、簡単に能力を話して利用されるのは遠慮したいと考えている。
ウボォーはチンプンカンプンといった表情だったが、クロロとノブナガはある程度納得したように頷いた。ノブナガが髭を捩りながら呟く。
「ありゃま、クロロ泣かせの能力だなこりゃ」
確かにそうだった。しかし逆に言えば、リンがクロロの能力をコピーする事も出来ないだろう。先日クロロが本を出した際、メイメイと同じ様に様々な色のオーラが本を包んでいるのが見えたからだ。他人の能力の又貸しはできない…という事だとリンは解釈している。
「俺が能力を盗もうとしているのも、わかっていたのか」
「いや、…正直、盗まれそうになってからようやく気付いた」
原作で知っていたとはいえ、自分の能力が盗まれるものではないとわかっていたため油断していた事実は否めない。ついでに言うなら、推しが自分の能力を欲しがるなんて思っていなかったというのもある。
そしてこの後の質問が痛い所を突いてきそうな気がして、少し冷や汗が伝った。
「それでも、盗むという発想に至るのは疑問だ。あのやり取りだけならカウンター型の能力である可能性の方が高い。理由は?」
予想的中。流石に原作で知っていたからとは言えないリンである。やはりクロロは、気になった事は調べないと気が済まない性格のようだ。何か誤魔化せる手はないかと、砂を操作しながら脳もフル回転させる。
「別に、何となく。強いて言うなら同じ匂いがしたからかな」
咄嗟に出た言葉だったが、口にしてからあながち嘘でもないと気づいた。ウボォーがゴンに似ていると思ったが、クロロから出る雰囲気が何となく自分と似ているとも思ったのだ。特質系同士だからか、能力が似ているからか、理由はわからないが。
興味深そうにクロロにオウム返しされ、具体的にどこが似ているのかを簡易的に分析してみる。
「やりたい事はやらないと気が済まない、そんな匂い」
「…気が合いそうだ」
少し考えこんだクロロの見解はリンと一致したらしい。同意の言葉を貰え、少しテンションが上がるリン。幻影旅団は仲間内では結構ふざける事も多いイメージだったが、まさか出会って早々に自分にもそれが向けられると思わなかったリンは更にオタクボルテージを高める。
「同感。出会い方が違ったらお兄ちゃんって呼べたかも」
「今から呼んでもいいぞ?」
「アリガトオニーチャン」
こうして話していると案外仲良くなりやすいのではと思ったが、よく考えれば出会いはプリンと念の泥棒だ。結果、初のお兄ちゃん呼びは片言も良いところ。それをわかっているクロロも楽し気に笑った。
「…お前ら急に仲良く話し込むじゃねえか」
「特質系はわからん」
若干呆れ顔のウボォーとノブナガ。ウボォーは深く考えずに誰に対しても同じような態度で接するタイプであるため、急に考え込んだり饒舌になるクロロ達が理解できないようだ。そしてどうやらノブナガは念能力系統の性格診断をある程度信じているらしい。
(あ、なんか思ったよりクロロとも話せそうな気がしてきた…そっか、似てるなら自分だと思えばいいんだ。私より高身長で年上でイケメンでコミュ力がある私に似た人…あれ?これ完全に上位互換では?)
これ以上考えると心に傷を負うので思考を停止する事にする。特にコミュ力に関して。
そんな冗談交じりの会話でケラケラと笑っている間に、砂をほぼ全て出す事に成功した。敢えて少量を残しておき、内壁を支える。こちらの操作に気を取られるため、確かに万が一のボディーガードは居て損はないなと今更になって気づいたリンだ。
ノブナガを先頭に、ピラミッド内部へ潜入する。階段一階分の高さを飛び降りると、赤ピラミッド内部よりも更にひんやりとした空気がリン達を包んだ。生命の存在しない、死者の世界であるような錯覚がリンを襲う。
じゃりじゃりと砂の残る地面を歩きながら、クロロが地下ピラミッドについての講釈を始めた。元々こういった事を調べたり説明するのが好きなのだろう。
「地下ピラミッドは地上の赤ピラミッドと対称になるよう設計されているという」
「物好きな権力者が居たもんだな」
そういった細工に興味がないウボォーが、つまらなそうに言った。少し笑いながらクロロが「いつの世も権力者は物好きなものさ」と返す。ハンターサイトで調べた内容と合致する事から、クロロがリンと同じ経緯でピラミッドを調べた事を推察した。
「きっと、アイデンティティを作りたかったんだろうね。他の王族とは違う、自分だけのピラミッド。それが人目に触れない物だとしても」
調べている中でリンが感じた個人的な感想だ。ピラミッドが作られた理由については諸説あるようだが。
「ピラミッドが古代王族の墓だという説は最近否定されつつあるがな」
「考古学は実在する物品を基に考察という名の妄想を繰り広げる学問だからね。実際はわからない」
「だがそこにはロマンがある」
「同感」
わからないもの、未知のものに惹かれるのはハンターの性だと思うリンだ。とはいえあまり考古学に傾倒するとジンリスペクト感があって嫌なので、敢えて避けているわけだが。
「一つだけ確実に言えるのは、このピラミッドの設計に念能力者が関わっているって事」
「そして天然の要塞と化したピラミッド内部にはお宝がある可能性が高い…財宝の噂が立つわけだ」
話しながらも一番端の部屋まで来た。入口とは違い、ここから下層に降りるには階段を使うらしい。ピラミッドは逆さになっているのに階段や壁画はそのままになっており、改めてこのピラミッドが元から地中に突き刺さるよう設計されていると感じるリンだ。
学問の発展にも繋がるだろうと丁重に写真に収めていく。リンは意外と仕事は真面目にこなすタイプなのだ。
「かったりぃな。何回似たような道があるんだ」
「まあ、普通に考えりゃ最深部…赤ピラミッドの最上段へ上るのと同じくらいだろうな」
飽き始めたウボォーにノブナガが返事をした。地上の赤ピラミッドと対称に設計されているのなら、y軸の大きさも同じであると考えるのが自然だ。
先程と似たような道を歩きながら、ふと自己紹介していなかった事を思い出した。しかし今更普通に尋ねるのも少し恥ずかしく、変化球を投げる事にする。
「ねぇオニーチャン」
「本当に呼ぶのか」
「名前知らないし」
リンの一言でクロロもそういえば、と気づいたらしい。一時的にでも協定関係を結ぶのだから名前を知らないのは不便だ、と思うのは自然な発想だ。
「…クロロだ。でかいのがウボォーでちょんまげがノブナガ」
「リン。こっちはメイメイ」
「…巷で噂の掃除屋、か」
リンの言葉に思い当たる節がある、と言った風にクロロが呟いた。そんな噂を全く知らないリンは何も考えずに「何それ」とクロロに質問する。
「知らないのか?お前のあだ名だ」
(二つ名なんてついてたの?でもなんか微妙…)
万年厨二病患者のリンだ。二つ名がつけられていた事にテンションは上がるが、思ったより普通で少しがっかりする。掃除と言われて思い当たるのは片っ端から賞金首をハントして回った事くらいだから、そこから名付けられたのだろう。
「…もうちょっとおしゃれな二つ名が良かったな。何か新しく考えといてよ。幻影旅団みたいなかっこいいやつ」
ここまできたら別に知らないふりをする必要はないだろう、と蜘蛛の正式名称を口にした。掃除屋と呼ばれるほどの
「俺たちを捕まえないのか?」
「別に、賞金首は小遣い稼ぎのために捕まえてただけだし。…それに、下手に流星街に手を出したら後が怖いからね」
「ほう、よく知っているな」
別に原作知識だからというわけではなく、この世界で調べた情報だ。ある程度所持金が貯まった時にハンターサイトにアクセスし、殆どの推しの情報は調べつくしたリンである。ジンの情報は当然プロテクトされていたが。
そんな話をしながらも下へまた下へと降りていく。大きな建物だから階層ごとにデザインが変わるのかと予想していたが、そんな事はなかった。
しかし、最下層が近くなってきたところで部屋の風景が一変し、リン達は思わず立ち尽くす事になる。
「…王室って感じだな」
ノブナガの呟き通り、そこは王室のような絢爛な内装であった。砂に何千年も埋もれていたとは思えないほどに金銀宝石が散りばめられた壁面をはじめとし、ご丁寧に絨毯まで敷かれている。もっとも、長い歳月によってどれも薄汚れてはいるが。
「明らかに建設された時代より後のものも混じっているな」
「なんでだよ?」
宝石や絵画の状態を検分し、クロロが言った。ウボォーの疑問に答える形でリンが口を開く。
「たぶん、昔の盗賊か何かがここを宝物庫代わりにしていたんだろうね。古代エジプーシャには書物なんてないもん」
そう言って足元の本の山に視線を落とした。経年劣化により殆どは読めたものではないが、どれも相当な貴重品である事が伺える。その中でも比較的しっかりと文字が読み取れる一冊の本を手に取った。
「これは…?」
「新大陸紀行…数百年前に発行されたという幻の本だな」
しゃがみこみ文字を読むリンの後ろから、クロロがひょいと顔を出した。本好きのクロロらしく、読めそうな本は持ち帰りたいところなのだろう。そして辺りを見回し、冷静に分析した。
「いつの時代にも自然操作系能力者は一定数存在する。お前と同じような能力者が数百年前にここを根城にしていたんだろう」
つまり、このピラミッドには古今問わずお宝が眠っている可能性があるわけだ。ますます興味を惹かれながらも新大陸紀行をメイメイに預けようとしたリンの手は、クロロによってがっしりと掴まれた。
(ひえええええクロロさん近いです近すぎます推しの握手会とかそういうやつですか????)
…なんてことは口が裂けても言えないので、平静を努めてクロロの顔を見やる。あくまで可能な限りの平静、だが。
「何?」
「俺も興味がある」
クロロも新大陸紀行に興味があるらしい。しかしそれはリンも同じだ。原作でも出ていた暗黒大陸について書かれた唯一の書籍。そんなお宝を持って帰らない選択肢はリンにはない。
「私も読みたいんだけど。お宝は私優先だよね?」
「じゃあこうしよう。俺が先に読むから、読み終えたらお前に貸してやる」
「盗賊の『貸してやる』ってびっくりするほど信用がない言葉だね」
「それもそうだな」
平然と言ってのけるクロロ。貸したら間違いなく返ってこないタイプだ。本が損傷しないように細心の注意を払いながら、二人の問答はまだ続く。
「私が先に読んでから貸すのは?」
「お前が逃げないとも限らない」
「盗賊には言われたくないんだけど」
「ごちゃごちゃうるせぇよお前ら。先行こうぜ」
「本なんざ一緒に読んでろよ」
「「…」」
終わらない問答は二人の団員の手によってあっさりと幕を引いた。仕方なく口喧嘩をやめ、目で(帰ってから決めよう)と伝え合う。問題の先延ばしではあるが、今は念能力で無理に支えているピラミッドを探索する方が先決だった。
「この階には階段がないみたいだな…ここで終わりか?」
ノブナガの言う通り、王の間のような部屋を最後に階段は見当たらなかった。普通に考えれば、ここが最深部という事になる。
「う~ん…それはちょっと違和感がある。古代エジプーシャの宝が結局見つかってないし」
「そんなもん、数百年前に誰かが来ていたんならとっくに売っぱらってるかもしれねぇだろ」
「…いや、その『誰か』は見た所では宝を隠したがるタイプの人間だ。見つけてもそのままにしていた可能性が高い。ここを根城にするくらいなんだからな」
クロロの言う事にはリンも同意だった。実際、王室の絵画や壁面の宝石などは放置されているのだから、他の宝についても観賞用として残されている可能性は十分ある。
そして、このピラミッドを設計した王族にしても似たような事が言える。アイデンティティは欲するものの、それを地下に隠す程度には自己顕示欲は低い。それならば宝も見える場所ではなく隠れた所に仕舞い込んでいる可能性も考えられた。
地下ピラミッドを設計する程のこだわりを持つ古代の王族なら何かしらかの念の残留があってもおかしくないと、凝をして周辺を見て回る。
リンの予想通り、残留した念は残っていた。空間の中央、絨毯の下だ。そこを指さすと、クロロも理解したらしく、ウボォーに指示を出す。
力が有り余っていたらしいウボォーは喜び勇んで絨毯を思い切り捲り上げ、そのまま下にあった奇妙な溝が入った石板をひっぺがえした。あちこちに舞い散る砂埃にノブナガが苦情を言う。
圧巻の光景であった。それこそ絵や漫画で夢想するようなお宝…金銀財宝が最下層に敷き詰められていたのだ。先端になるにつれ尖っていくピラミッドの形状から見た目よりは量は少ないのだろうが、少なくともハンターライセンスを売るよりも億万長者になれるであろう価値がある事は明らかだ。
「すげえなこりゃ…盗賊冥利だ」
「ああ…だが一度最下層に降りないと宝を取る事はできないな」
ノブナガの呟きにクロロが答えた通り、宝は床下三メートル以上下にあった。誰かが一度宝の上に降りて受け渡しをしないと、入手する事はできないだろう。
そして
カチリ。
衝撃を最小限に抑えたリンだったが、飛び降りた瞬間に何かが作動するような音がした。そして足元…財宝より更に下にあるピラミッドの先端部分から、岩がずれるような不気味な物音が聴こえてくる。
(まずい!侵入者用トラップか!)
このピラミッドを設計した主は、どうやら宝を他者に奪われるくらいなら砂に吞まれて紛失した方がましだと考えていたらしい。どういった仕掛けか、足元の宝が砂に呑まれ始めた。その砂はアリジゴクのように財宝ごとリンを呑みこもうとする。
反射的に足元にオーラを溜めて飛び上がり、脱出を試みる。ぎりぎりクロロ達の下まで届かなかったため、オーラを粘着性に変化させて壁面に張り付こうとした時、想定外の衝撃がリンを襲った。
「っと…危ないところだったな」
リンの身体はウボォーに抱えられ、宙ぶらりんに揺れていた。思わず頭上を見て自分を襲った衝撃がウボォーに抱えられた時のものだと気づき、リンの精神世界は感動の嵐が吹き荒れている。
(ウボォーさあああん!!!神!好き!愛してる!)
しかしそんな事を叫ぶわけにもいかないので、逞しい上腕二頭筋を眺めながら呟いた。小声になってしまったのは感動のあまり震え声になるのを押さえようとした結果だ。
「ありがと…正直意外だった」
「あ?」
「助けてくれると思わなかったから」
「お前が居ないとピラミッドが崩れるんだろ?」
「…」
感動の嵐は一瞬で止んだ。悲しみの雨が降り注ぎそうになったが、そもそもあの幻影旅団が自分を助けてくれるというだけでも十分貴重体験だと思い直し、心を晴れさせる事に成功する。
「しかし宝は…宝!?」
リンが助かっても一銭の得にもならない。残念そうにノブナガが言いかけた時、ウボォーが引き上げたリンが手に持っているものを見て驚愕の声に変わった。
「どうなってんだこれ」
「咄嗟にオーラを粘着性の袋状に変化させてお宝を包んだ。…いくつか取り逃したけど」
リンの左手にはオーラを変化させた袋が握られていた。袋は透明であるため、中には宝が大量に入っているのがクロロ達にも見える。
「それも発か?」
「いや、これは発じゃない。変化系と具現化系で応用しただけ」
「器用なモンだな。一朝一夕でできる芸当ではない」
「そうなの?」
誰でもできるものだと思っていたが、得意不得意があるのだろうかと思うリン。実際は所謂才能なのだが、それは本人のあずかり知らぬところだ。
ウボォーに無事引き上げられ、大量の宝と共に無事生還する。お宝をGETしピラミッドの探索もすべて終えた所で、ロマン溢れるハントfeat.旅団メンバーは幕を閉じた。
「宝はどうするんだ?」
約束通り互いの取り分を決めながら、クロロがリンに尋ねた。ロマンを求めていただけで特に考えていなかったリンは、手を顎に当てて考える。
「ん~、博物館にでも寄贈しようかな」
「ほう、金目当てじゃなかったのか」
意外そうな表情を見せるクロロ。お宝を見つけて次にする事の多くは換金だからだろう。
「お金なんて悪党捕まえてりゃいくらでも稼げる。それに、財宝を売って流れていく先はどうせ金持ちのジジイの所だもん。胸糞悪い」
「変わっているな」
「権力者のジジイが全般的に嫌いなの」
「やはり話が合う」
ともかく、仕事は終わった。寄贈する博物館を頭の中でピックアップしながら、リンは大きな荷物を