リン=フリークスの冒険   作:夜桜百花

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読書をしよう!後編

 雇い主と言えど、リンが行なう作業は念能力による補助のみで後は全てマニュアルを基に現地の作業員たちが行なう。要するに、念能力を発動してさえいれば後は暇だった。

 そのため、リンは基本的にピラミッドの日陰で本を読んでいても全く問題ない。少し暑いのと作業による騒音が難点だが、思う存分オタ活ができるのはなかなか嬉しいリンである。

 

「ああ、ここに居たのか」

 

 そんなリンに声をかける人物は監督くらいのものだ。それにしては妙に若い男の声に、わかっていたが顔を上げる。そこには絶をした状態で食べ物と飲み物を入れた袋をぶら下げたクロロの姿があった。

 

「…服買ったんだ」

 

 リンとクロロは赤ピラミッドで待ち合わせする約束をして別行動をしていた。勿論本はリンが所持していたし、リンはこれから暫くピラミッドを離れられないとわかっているため、クロロも異論はなかった。リンにパンを渡しながら自分は水を一口飲み、クロロが答えた。

 

「暫くここに居座るなら、居心地がいい服を着ようと思っただけさ」

「その割には太陽光吸収しそうな色してるけど」

 

 数時間前と異なり、クロロが身に着けているのは真っ黒のガラベーヤであった。確かによく似合っているが、暑そうにしか見えないリンである。そして十中八九盗んできたであろう点には触れない事にした。

 

 当の本人はさして気にするでもなくリンの隣に座り壁にもたれかかった。同時にオーラを急に少量だけ絞るように垂れ流し始める。

 

「そのオーラ、何してるの?」

「偽装だ」

 

 クロロの返答はシンプルだった。リンが開いていたページを見て翻訳をかけながら、事も無げにそう答える。黒のガラベーヤを纏って片膝を立てながら本を持つクロロの姿は、妙に様になっている。それは言うまでもなく通りがかった観光客の女性の視線を釘付けにさせていた。

 

「何の役に立つの?」

「お前みたいに他の念能力者と遭遇してもばれにくい。これは大きなアドバンテージだ」

「…確かに」

 

 数日前、リンがクロロに尾行された際に気づかなかったのもそれのせいだろう。精孔を絶妙に閉じながら纏を上手く操作して垂れ流しのオーラを表現するクロロは、確かに傍から見れば非念能力者だ。

 

 理屈に納得したリンは、古文辞書を開いていた携帯を膝に置きクロロの真似をしてオーラ偽装を試してみる。暫くオーラの流れがごちゃついてはいたが、精孔の閉じ具合の感覚を掴めばあとは意外と簡単だった。

 

 今まで出会った念能力者は皆纏をしているか、そうでなくても一般人以上のオーラを垂れ流しているのが普通だったため、考えた事がなかった。…いや、リンが知らないだけでもしかしたら偽装した念能力者とも会っていたのかもしれないが。

 

 少し面倒だが、これ一つで様々なリスクが減るのは間違いない。突発的な攻撃に耐えにくくなるかもしれないが、その分先手を取りやすいのはかなり有効であった。それを当たり前のようにこなすクロロに、リンは素直に称賛の目を向けた。

 

「…流石熟練の能力者だね。勉強になる」

「聞かれたから答えただけだ」

 

 ページを捲りながら、しかしやや満更でもなさそうにクロロが言った。本当に表情に出ないくらいの僅かなものだったが、オーラの色の変化がそれを示唆している。リンが敢えてツッコみを入れないのは、ちょっとした優しさだ。

 

 そんなこんなで休憩を挟みながら、クロロとリンは数日間本を読み続けた。

 三分の一程解読したところでわかったのは、暗黒大陸で得られるリターンが人類に飛躍的進歩をもたらす事が予想される一方で、リスクが簡単に人類滅亡に追いやれるレベルだという事。

 

「噂の五大厄災というやつだろうな」

「それはあくまでAランクのものを定義しただけ。暗黒大陸ではこの世界でいうところの蟻程度の生物でも簡単に人間を殺すだろうから」

 

 原作のキメラアント編をぼんやり思い出しながらも、リンはクロロのぼやきに答えた。五大厄災はあくまで人類滅亡に追い込まれる可能性が高いものを総合評価して定義したに過ぎない。一個人を殺傷する程度の危険性ならばこの大陸の全ての生物が持っているだろう。

 

(ハンターとしてはいつか暗黒大陸も…って思っていたけど、やっぱり難しいか…?記述を見る限り、この世界は全てが大きすぎる)

 

 ロマンのみを追い求めればいつか必ず暗黒大陸に行きつく。そう考えてはいたが、本を読む中で伝わってきた予想以上の危険性に臆している自分も居る。少なくとも、生半可な覚悟で向かえる場所ではなさそうだった。

 

(ハイリターンかつスーパーハイリスク。どれだけの準備をして行っても足りないか…)

 

 しかしハンターとしてどうしても行きたい場所だ。それは利益があるからではなくリスクがあるからでもなく、未知の世界があるからだった。そんなロマンに魅せられてしまったリンは、もうハンター世界の人間として染まり切ってしまったのだろう。

 

(そもそもこの書の中では人類は暗黒大陸から現在の大陸に逃げ込んできたとされている。門番は人類が暗黒大陸に向かうのを阻止する役割を持つとともに、暗黒大陸の生物が人類に危害を加えるのを防ぐ役割も持っている…今の大陸に逃げ込むまで、人類はどうやって暗黒大陸で生き延びてきたんだろう…人類が生き延びられた以上、あちらにも何かしらの救済措置があるのでは?例えば、番人のように人類に友好的な種族とか)

 

 新大陸紀行には現時点でそこまでの記述はなかった。この本はあくまで、メビウス湖沿岸の生態系と地形のみに言及している。

 

 つまり、こればかりは考えても仕方ない話だ。だが、考えるのを止められないのはリンの悪い癖でもある。クロロはそんなリンの様子を興味深そうに観察する。

 

「…何?」

「いや…自分も考えこんでいる時はこんな感じなのかなと」

 

 言われてみれば、クロロも考えこんでいる時はリンの声が耳に入らないようだった。今の自分もそんな感じだったのかと考えると少し気恥ずかしくなる。なるほど、確かに自分が思っている以上に自分とクロロは似ているのかもしれない。

 

「あの兄妹美形ね」

 

 そんな事を考えていると、観光客の声が耳に入った。工事中とはいえピラミッドは近くにもいくつかあるため、観光客が往来している。

 そんなところで地べたに座り込んで本を読みふけるリン達の姿は異質に映るのだろうが、その観光客達はそれよりも外見に注目した様だった。

 

「一緒に本読んでる!可愛い~!」

 

 念のため周囲を見回すが、兄妹に見えてかつ本を開いているのは当然リン達だけであった。確かに似たような民族衣装で共に本を読んでいると、傍からは仲の良い兄妹に見えなくもないだろう。少し年が離れているが、十分あり得る年齢差でありクロロが童顔である事も相まって、余計そのように見える。

 

 そして言うまでもないがそんな勘違いをされてリンの心は荒ぶっていた。

 

(あっあっやめてください畏れ多い!こんな顔面兵器レベルの美貌を持つクロロさんと兄妹に間違えられるなんて罪深過ぎて罰が当たってしまいます!こんなわたくしめは来世で蛆虫に生まれ変わらざるを得ない!!!)

 

 イケメンと兄妹に見られた事をネタにするほど図々しくもなければ、スルーして作業を続ける事も気恥ずかしく、何となく押し黙るリンである。

 どう考えても盗賊相手に出し抜いたり面白半分に休憩中の相手に殺気を飛ばす方が図々しいし命知らずなのだが、そこはリンの感覚の問題だ。

 

 そんなリンの表情を察したらしいクロロが面白そうに笑った。

 

「俺と兄妹に間違えられるのは嫌か?」

「別に…ちょっと予想外だっただけ」

 

 オタク根性であわよくば推しと関わりたいと思っていたとはいえ、ここまで親しくなるとは思っていなかったのだ。

 実際プリンも念も盗まれかけたし、半分はリンの自業自得とはいえ何度も殺されるかと思う程一触即発の空気になっているのだから当然ではある。

 

「…随分、ピラミッドに入った時と印象が違うね」

「あの時は『団長』として入っていたからな」

 

 それはリンにとってシンプルな疑問だ。確かに現実でも仕事とプライベートで顔を分けたりはするが、クロロのそれは最早役作りの域を超えていた。

 

「何が違うの?」

「…自分でもわからない。必要なものを演じ過ぎたんだろうな」

 

 クロロがなぜリンについて知りたがるのか、少しわかったような気がした。合わせ鏡という言葉も、全てはリンを通して自分を見つけようとしているのだろう。そしてクロロの振る舞いや生き方は、リン自身も見習うべきものであった。

 

(私にも必要だな。何が起きても動じない、最善策を見出す冷徹な顔…)

 

 念能力は精神状態が大きく影響を及ぼす。そして感情任せに汚れ仕事をこなす事が自身に大きな傷を与える事は、かつての経験から嫌という程知っていた。ハンター試験の時ですら、平静を努めていても心に傷を負う事は避けられなかった。いちいち憔悴していたのでは、この先生きていけないだろう。

 

 ハンターの仕事が綺麗なものでない事はとっくに理解している。覚悟も出来ている。この先仕事をこなす中で、精神を揺るがすような出来事は山ほど起こるだろう。

 そんな世界でも揺ぎ無く生きていけるだけの『自分』が欲しい。思春期に入り自分を見つめ直す中でリンはそう考えていた。

 

 あと、少なくともそれができるようになればいちいち初対面の相手にどもる事はなくなるだろう。

 

「クロロのオーラ…いや、旅団のオーラって不思議だよね」

 

 急な話の転換に、クロロは目を瞬かせてリンを見た。一見話が飛んでいるように思えるが、リンにとってはきちんと繋がっている話だ。本人達は無意識だろうが、これもまた二人の共通点だった。

 

「皆刀みたいな色をしてる。内側には個性もあるけど、全員外側は刃物みたいな色」

「それは何を示しているんだ?」

「覚悟の色。死を恐れない色…だけど、血がついていないからそれを犠牲だとも思っていない、恐れがない…って感じかな」

 

 それはかつて見たルカスのオーラと似ているようで、本質的に異なるものだった。常日頃から死が来てもそれを受け入れる…いや、既に受け入れているような色だ。集団のためならば、誰かのためならば喜んで自分を殺す色だとリンは直感的に思った。

 

 それが自分の求める覚悟の最終形態なのだと、リンは薄っすら感じていた。クロロは特に驚くでもなく、ヘアバンドをずり上げながら「正解だな」と呟いた。

 

「俺達は皆、死を当たり前のものとして享受している。次の瞬間死んだとしても、何も後悔はない」

「集団のため?」

 

 リンと会話しながらも、クロロは本の解読作業の手を止めない。解読が終わった文章を読み上げた後、一言で肯定を済ませた。直後に「お前は違うのか?」という質問も付け加える。

 

「こんな仕事だし、恨みも買ってる。次の瞬間死んでも仕方ないとは思ってる。でも、可能な限り死にたくはない」

「…それが、俺が失ったものなんだろうな」

 

 同様に携帯を弄りながら翻訳作業を進めるリンの言葉を聞いて、クロロは新たな自分を見つけたとでも言うように空を見上げた。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 新大陸紀行の読破は、地下ピラミッドの修復が最低限完了するよりも少し早く完了した。本を閉じ、大きな冒険を終えたかのように息をつく二人。それは二人の奇妙な生活が終わる事も意味していた。

 

「概ねはリスクとリターンについて記されていたね」

「ああ。いつか手に入れたいものだ」

 

 そう言ってクロロはゆっくりと立ち上がった。用事が終わり、ここを立ち去るのだろう。リンは何も言わず、その大きな背中を見上げた。

 

「あの時、隠し事をしていただろ」

 

 クロロの言葉はあまりにも唐突かつ曖昧だった。しかし、思い当たる節が一つしか思いつかないリンも、曖昧かつ悪びれずに言葉を返す。

 

「え?包み隠さず言う方が変じゃない?」

「それもそうだが、可愛くないな」

 

 クロロとリンが言外に指しているのは、念能力についてであった。リンの言葉に思わず笑いながら、クロロは嫌味を言った。ほんの半月と少しの間に随分表情が柔らかくなったなと、リンはぼんやり思う。

 

 「地下ピラミッドでの話だ」と初めに定義した上で、説明を始めるクロロ。それが能力を盗めるか否かの話をした時の事だと理解して、リンは黙って耳を傾ける事にした。

 

「はっきり言って、『似た者同士だから』というだけで能力を推測するのは厳しい。となると、可能性は二つ。俺と似た能力者を知っているか、お前自身が俺と似た能力者かのどちらかだ」

 

 そう言いながらクロロは一般人の目に映らない場所で【盗賊の極意】(スキルハンター)を開いた。そんなに時間が経っていないにもかかわらず久々に見たような気がするそれは、やはりメイメイ同様にクロロ以外の念も纏っている。コピー&ペーストにやや改変を加えるリンと違い、相手の能力をそのまま奪うクロロの本はかなり他者の念が色濃いものだが。

 

「俺たちの能力には共通点がある。一つの具現化された物質に能力が集約されているところだ」

 

 リンがメイメイをパートナーとして扱っているため一見分かりづらいが、クロロの言っている事は正解だ。リンの能力は【私の家族】(メイメイ)を介して【狩人の覚悟】(ハンターライセンス)【スキル最適化】(二次創作)を他の能力達と繋げているというのがリンの見解であった。

 そしてリン自身は負荷とも思っていないが、メイメイを介する事は能力の制約にもなっている。

 

「お前は念獣が自分とは色が違うから盗まれる対象には入らないと考えたと言っていた。あの言葉が俺の本にも適用されると仮定しよう。そうすると、他者の念が詰まっている俺の本が俺と違うオーラの色をしている事に違和感はない」

 

 そう言うと一息ついて、本の具現化を解除する。そして決定打を打ち込んだ。

 

「だが、そうなると逆説的にお前の念獣にも他者の念が詰まっている事になる。すなわち、お前も俺と似た念能力を持っている事になる。違うか?」

「…ちょっとこじつけ気味だね」

「結果が合っていれば、こじつけの過程も理路整然とした推理に変わる。…正解を知った俺を殺そうとするか?」

 

 リンの反応を見てクロロは自分の推理が合っていると認識したらしい。リンの表情はあくまで他者では感情の読み取れないものだった。それでもクロロが読み取れたのは、ただ自分だったらこんな反応をしただろうという推測に過ぎない。

 

「なんでそこまで話したがるの?黙って旅団員の中で共有した方が利益になるのに」

 

 リンとクロロの能力の相違点は、能力を知られても問題なく使用できるかどうかである。それでもむやみに能力を知られるのはあまり望ましくないが、バレてしまったものは仕方ない。

 どちらかと言えばリンはクロロがそこまでリンに親切にする方が疑問だった。

 

「…旅団でお前を狩る気はないからな。それに、これで互いに能力を知っていて条件はフェアだ。言うまでもないが、俺の能力を外部に漏らせばお前の能力も広めるし、お前自身も殺す」

「…オッケー。友好的に行こう、オニーチャン」

 

 目的は釘を刺す事にあったらしい。手を挙げて降参ポーズをとると、その隙を見たクロロはリンの手元のパンをひょいと食べた。カスタードが濃厚でかなり気に入っていたのにと内心歯噛みするリン。この数週間食料は全てクロロに運んでもらっていたという事実はこの際忘れる事にする。

 

「ああそうだ、お前が俺達にくれた財宝、あれ博物館に寄贈したから」

「は?なんで?」

「蜘蛛の事調べたなら知ってるだろ。俺達、たまに慈善活動もするんだぜ?」

 

 口に付いたカスタードを指で舐め取りながら、クロロはいたずらが成功したかのように笑った。それを聞いたリンは思わず脱力してしまった。

 

(最初から最後までこいつの手の平の上だったのか…)

 

 してやられた。

 それしか頭に浮かばなかった。どうやら自分はクロロの暇潰しに付き合わされたらしい。いつかお礼参りする人物リストにクロロの名前も入れておくことにしたリンである。

 

「最後に聞いておくが、幻影旅団に入る気はないか?」

「ない」

「だろうな」

 

 そう言って二人はくつくつと笑った。暫く共に過ごしてわかったのは、相容れない道を歩みつつも二人は似た者同士であるという事実だけだ。だが、それがリンには心地よかった。

 

(旅団ってもしかして結構仲良くなれたりするのかな?それともクロロが変に友好的なだけ?)

 

 そもそもなぜ旅団は恐れられていたのかというところから疑問に思い始めるリン。確かに恐ろしい集団なのだが、それ以上にクロロと言葉を交わした今は興味の方が勝っていた。

 

(旅団って原作でどんな感じで出てたっけ…あ…)

 

 ふと思い出した重要ワード。原作を日常で意識しない以上、こんな重要事項でも思い出す事はほぼない。そしてそんな重要事項がリンの頭に浮上してきたのはクロロがいよいよ去ろうとした時だった。

 

「最近幻影旅団で盗った大捕り物って何?」

「なぜそんな事が知りたい」

「個人的な興味から」

「そうだな…最近だと、クルタ族の緋の眼がかなりでかい収穫だったかな」

 

 現在リンは13歳、ゴンは7歳。原作のハンター試験から逆算すると約五年前に当たる時間だ。

 

(アウトー!!!!!)

 

 手をひらひら振りながら去っていくクロロを眺めながら、どうしようもなかったとはいえリンはクルタの民に心の中で手を合わせた。

 





皆の弟クーちゃんが自分を頼ってくる妹の存在に満更でもなかったらとてもいいと思います。
スキルハンターを使用して盗賊にこだわるクロロとハンターライセンスを使用して狩人にこだわるリン…自分で作っておいてその対比に自分で悶える。

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