仲間を募ってみる
心源流道場にて、ビスケに修行を付けてもらいながら念能力や体術に磨きをかけ数カ月を過ごした。
道場生との稽古でも徐々に勝ち星が増え、
ビスケやウイングをはじめ、道場生に礼を言って出発したリンだが、その時点では次の目的地は特に決めていなかった。
力を付け念能力者との戦いにも自信が出たため都市部にて高ランクの賞金首をハント…とも一瞬考えたが、お金は十分にあるため急いで行う必要もない。
賞金首のハントを小遣い稼ぎ感覚で考えているリンである。
そこで考えた結果、昔からもっともやりたかった事を進める事にした。今までとは少し異なる急な方針転換は、道場で過ごした経験が影響している。
心源流は一生をかけて修行に費やす門下生も多い。本道場ともなればその数は他よりも更に多かった。
何十年もの歳月を鍛錬に費やす道場生の姿を見て、ずっと持っている夢を本腰を入れて追いかけたいという気持ちになったのだ。
本当にやりたい事はいつだって早いうちから始めた方が良い。即ち、会社の設立だ。
ジャポンの出版社と組んで共通語をはじめとするあらゆる言語で漫画を出版し、文化を広める。いわば
勿論ミシャクーロやジンの情報収集も忘れたわけではない。ただ、先に社会的に力を付けた方が情報収集も楽になるのではないかと考えたのだ。これもまた、リンの方針を転換させる理由になった。
―ルカスがやりたかった事を全て網羅できるくらい、あらゆるものをハントしよう―
もしもメンチやノワールとあの時そう約束していなかったら、リンは心の余裕を持たずに生き急ぐ復讐者になっていたかもしれない。どこかで暴れまわって自滅していたかもしれない。
命や寿命を制約にする方が、時間をかけて修行するよりも手っ取り早く強さを手に入れる事ができるからだ。
共に罪を背負ってくれた仲間が、共に夢を追いかける仲間が居た事は、リンにとって救いであり、原作では復讐に生きていたクラピカとの大きな違いでもあった。
リンはそんな仲間が居てくれることに、心から感謝している。恥ずかしくてメンチとノワールには絶対に言わないが。
(ジャポン文化を広め、こんなに面白いものがあるんだって世界中に伝える…そしていつか腐教するんだ!そして世界中に情報網を作りあらゆる情報が入ってくるようにする!これぞ一石三鳥!)
ルカスのためにもあらゆるものをハントする…ルカスは少なくとも腐教を夢見ていたわけではないだろうが、細かい事は気にしてはいけない。
先日ノワールから革命が成功したという報告を受けた事もあり、リンは燃えに燃えていた。
そこからふと思い立ち、現在リンはゾルディック家の本邸に居る。
勿論予めミルキにアポイントメントは取っているし、ゴトーを通じてシルバの許可も貰っている。不法侵入ではなく、れっきとした招待客だ。
ミルキに会いに来た目的は単純明快、会社設立の仲間になってほしいと頼みに来た。あとついでに、置きっぱなしにしていた漫画を取りに来た。
「ミールキ君、あーそーぼー」
試しの門を最大まで開けられた事に喜びを感じつつ、本邸の客間にて待っていたのだが、事前に連絡していたにもかかわらずいつまで経ってもミルキが現れない。
ゴトーがミルキに連絡を入れた所『直接来てくれ』との許可を貰ったため、数年ぶりにミルキの部屋を訪れる事になった。ちなみに、運良く道中でキキョウに会う事はなかった。
そんなこんなで執事に案内されて部屋の前まで来たわけだが、部屋をノックしても肝心のミルキが出てこないのである。
新調したばかりのオレンジ色のフライトジャケットががさがさと大きめの音を立てるが、それが聴こえないくらいに強く叩いてもミルキは出てこない。
「ミルキくーんあそぼぉよー」
いくらリンでも、人の部屋に来て許可なくドアを開けるのは憚られる。
直接呼ばれた以上ミルキは中に居るのだろうが、返事はない。いや、中から物音が聴こえるので間違いなく居るのだが、ここまで返事がないと部屋を間違えているのかと自信がなくなってくる。
(実は間違っていてここがキキョウさんの部屋とかだったらどーしよ…)
流石にリンだって一年以上過ごした屋敷の間取りは覚えているし、そもそも執事に案内されて来たのだからそんなわけはない。
しかしシュレディンガーの猫というやつだ。ドアを開けるまでキキョウが出てくる可能性はある…とよくわからない事を考えるリン。
そんな焦りを吹き飛ばそうと、ノックする拳はどんどん強くなっていく。
比例するように声も大きくなっていき、終いには叫ぶレベルになっていた。
「ミーーールキくーーーーん!!生きてる!?!?生きてるなら返事してええ!!」
大丈夫、山一つ所有しているだけあってこの屋敷はとてつもなく広く、ちょっと叫んだくらいでは他の人間に聴こえはしないのだから。
「うるせえええぇぇぇええ!!!」
明らかにリンよりも大きな声で叫びつつミルキの開けた扉は、見事にリンの顔にクリーンヒットした。痛みのあまり鼻を押さえて蹲るリン。
オーラで防御しているなら痛くないだろう?ギャグの前では無意味なのだ。
そしてそんな事を気にしないミルキは、数年ぶりの対面にもかかわらずリンに向かって蔑むような視線を向けた。
「今良いところなんだよ!」
「…?」
顔を上げたリンの前にあったのは、明らかに最後に会った時よりも痩せた少年の姿だった。一瞬誰かと思ったが、よくよく見ればミルキの特徴をしっかりと残しており本人だとわかる。
「あ…その…痩せたね?」
リンがそう言うと、少しイルミに似ている釣り目の黒目が、機嫌悪そうにリンを睨みつけた。高身長のゾルディック家らしく身長はとっくにリンも抜いており、細く引き締まった肉体は当然原作とは似ても似つかない。
「数年ぶりに押しかけてきて第一声がそれかよ!」
「いや、驚きのあまりつい…」
リンもそれについてはミルキと同意見だが、もし時間を巻き戻して同じ事が起こったとしても、リンは同じ反応をするだろうと思う。
そして衝撃のあまり忘れかけていたが、リンもミルキに言いたい文句は山ほどあるのだった。
「…ていうか、ちゃんとアポ取ったでしょ。ゴトーさんを通じてシルバさんの了承も得てる。それでこんな山奥まで来たのに、自分が部屋に呼んどいて開けないはあんまり!」
「仕方ねぇだろ。今良いところだったんだから」
悪びれもせずにしれっというミルキ。相変わらずこいつら兄弟は謝る事を知らねぇな…と思いつつ、いちいち気にしていたら身が持たないのでスルーする。大声でドアを叩きまくった分と勝手に相殺することにした。
「さっきも言ってたわね。何が良いところだったの?」
「漫画のネーム」
なるほどそれなら仕方ない。あっさりと納得してしまったリンである。
ミルキに促され部屋の中に入ると、沢山のモニターの一つに美麗な絵のラフが描かれていた。
作業にはペンタブを使っているようで、最新のものがデスクに作業途中のまま置かれている。
「お前だって随分と雰囲気変わったんじゃねえの」
「男子三日会わざれば…ってね」
きょろきょろと様変わりした部屋を眺めながら返答する。モニターに映ったキャラを見るに、今はドラゴンボールにハマっているらしい。一枚のページだけでも、妙に色気のある悟空とベジータが高頻度で出てきている。
「お前女だろ」
冷めた目でツッコミを入れられたが、昔を思い出しこれはこれで悪くないと思うリンだ。かつての会話のテンポが思い起こされる。
この半年の間に、リンの話し方はメンチに近いものになった。
そこを指摘されると微妙に恥ずかしいところだが、ミルキが言っているのはそこではなく恐らくオーラの流れや質の事だろう。
考えれば、初めて人を殺したのも悪夢のようなハンター試験もA級盗賊と知り合いになったのも全てミルキと会わなくなってからの出来事だ。
ミルキから見れば、リンはミルキ以上に変貌を遂げているのだろうなとリンは思った。
だがそんな事を気にする様子もなく、ミルキはゲーミングチェアにどっかりと腰かけ、ポテチをバリバリと食べ始めた。リンもそこらへんに置いてあった椅子を勝手に拝借して座ったところで、ミルキが口を開く。
「で、何の用だよ」
「会社作るから手を貸して」
数年ぶりに対面して用件を告げる第一声としてはあまりにもざっくりとしたリンの一言に、その場の時間が止まった。
正確には、言葉の理解を優先するあまり、ミルキの中の時間が止まった。忘れかけていたが、これは13歳と12歳の会話である。そうでなくても意味不明だが。
腕組みをして暫く考えるもやっぱり理解できなかったらしく、ミルキからは「は?」の一文字だけが返ってくる。リンは同じような言葉であまり説明になっていない説明をした。
「だから、会社を設立するの。それに手を貸して」
「…色々と訳が分からねぇよお前。どうした?頭おかしくなったか?」
「至って正常」
クロロとの交流はリンにコミュ障を改善するという目標を見出させた。
ハンターと言えど女、それも子どもでは舐められてしまう。その対策にもなると考えたのだ。
しかしクロロのように自分と異なる別人格の顔を器用に演じる事などできない。
ならば開き直って舐められない程度に強気に、そしてある程度は横柄になってやろうとよくわからないところへ舵を切ったリンである。
ビスケの助言やメンチの口調を真似ることもそれを助長させ、結果として猪突猛進なオタク気質がやや表に出てくるようになったのであった。
まあ、要するにコミュ障や初対面でどもる癖を治す代償として多少強引になったという事だ。
リンとしては隠していた自分を表に出すようになっただけなのでむしろ生きやすくなった。
人によっては『ジンに似ている』と感じるリンの気質だが、本人は気づいていない。
「…会社って、お前忘れたのか?俺、暗殺一家の次男なんだけど。顔写真も億単位で取引されてるんだけど」
会社を設立するという事は名前や顔も出す必要があるのだろうと予想するミルキ。
実際、今後リンはコミケを開いたり直々に販売もする予定なので、ミルキの予想は間違っていない。それに対しリンはひらひら手を振りながら軽く答える。
「顔出さなければ良いじゃない。今時アイチューベで顔出し配信してる人いっぱいいるし、マスクすればだいじょーぶだいじょーぶ」
「殺し屋を顔出しアイチューバーと一緒にすんな」
完全に漫才のようなノリになり始め、ミルキは悟った。こいつ、昔はまだツッコミもやっていたのに、完全にボケ属性に変わってやがる…と。
このノリで行くと無駄に疲れるし、何より何の会社をどのように運営したいのかもまだ聞いていない。妥協したミルキは、先にリンの計画について詳しく聞く方を優先する事にした。
「…会社って何をするんだよ?肝心のそこ聞いてねーよ」
「翻訳会社。ジャポンの漫画を世界各国の言語に翻訳して発行する」
ミルキのポテチをつまみ食いしていると、執事が二人分の飲み物を持ってきた。ミルキの好みに合わせて入れられた黒い炭酸飲料のコップを受け取りながら、リンは簡単に説明をする。
「実は人はもう殆ど集まりつつある。ジャポンの出版社と提携してあらゆる言語に翻訳して発行するの。会社自体は私達の助けがなくても回るようにするし、初期の立ち上げに協力してくれればいいわ」
最近の携帯とは便利なもので、パドキアに来るまでの長い飛行船の道のりでも、ブログやネットを巡って人探しをする事が出来た。
やはり情報収集という観点ではPCには劣るが、そこで運良く新たに数名の人材を確保している。
世界中から多種多様な人材を募っているリンは、条件に合う人間のスキルを調べ上げ、自分が居なくても会社を運営できるよう人材配置を組んでいた。
目指すはリモートワークで福利厚生が充実した、ホワイトな会社だ。
渡された飲み物を一気飲みしながらミルキは腕を組み、床を見つめた。リンの意図が掴めずに考え込んでいるらしい。
(ま、ミルキの周りでこんな事言う人居なさそうだもんな)
そんな顔を眺めながら、なぜこいつはこんなに痩せたのだろうと関係ない事を考えるリン。菓子好きも引きこもり癖も直っていない様子なのに、やっぱり妙にスリムだ。
オタクじゃなければモテるだろうにと考えるが、完全にブーメランである。
「俺に何を求める?」
暫く考えこんでもミルキにはわからなかったらしい。大きく息を吐いてリンの顔を見据えた。
その表情はどちらかと言えば取引に応じる仕事人のような印象を与え、ミルキが心情的に仕事モードに入っているのが分かった。意図が分からない分、何かの取引の類だと考えたのだろう。
「求めるっていうか…同じ趣味を持つ仲間と楽しく一緒にやりたいだけよ?…あ、PC関連やシステムの整備を整えてくれると嬉しいけど」
そしてそんな警戒されても逆に申し訳ないのだが、リンには隠した意図も裏の目的も何も無いため、あっけらかんと答える。
そんなリンを見てミルキは毒気を抜かれたような顔をした。
「将来的に薄い本…ミルキが描いていたみたいな漫画をファンの間で売るイベントとかもやりたいからさ。同志と会社を作りたいってずっと思ってたのよね!」
オタクは語りだすとテンションが上がってくる生き物だ。
きらきらと夢を語るリンに、ミルキは眩しいものを見るような、どうしようもない馬鹿を見るようななんとも言えない目を向ける。
とどめに「ファンだけで二次創作を見せ合ったり売り買いしたりするの!ミルキならトップスターになれるよ!」と笑顔で言ったところで、頭を抱えた。
さっきも言ったがミルキは暗殺者で闇に生きる人間だ。決して、決して表に出るタイプの人間ではない。
「だから俺暗殺一家…」
「ペンネームとか使えばいいじゃん。ミルキィ☆ホワイトとか」
「…」
何を言っているんだと言うようなリンの表情と言葉に、ミルキは己の敗北を悟った。
もう完全にリンのペースに呑まれてしまっている。イルミとはまた別の意味で話が通じない。
そして幼い頃から妙なところで頑固なこの女がここまで夢を語るという事は、きっとミルキがうんと言うまで帰らないだろうと思った。大正解だ。
「わかったよ…俺の負けだ。それに、正直面白そうだ」
家族に言った事はないが、ミルキは暗殺の仕事ばかりで正直飽きてしまっていた。
自分が暗殺一家の人間であるという自覚はしっかり持っているが、ミルキも遊び盛りの少年だ。針で矯正されたキルアのように友達が欲しいなんて馬鹿げた願望はないが、夢や楽しみくらい持ちたいというのが本音である。ちょっとした反抗期というやつだ。
そんなところにリンの持ちかけた話は、かなり魅力的だった。
家を出る必要があるわけでもなければ、会社というだけあってもしかしたら小遣いくらいは稼げるかもしれない。何より、自分の作ったものを誰かに見てもらえる機会ができるのが嬉しい。
「ただし!絶対に俺の身バレだけは避けろ。じゃないと殺すからな」
そんな気持ちを悟られないようにわざと目を吊り上げて言うミルキに、オーラの色で内心の喜びを察していたリンはにっこりと笑った。『計画通り』を限りなく純粋にした笑顔だ。もしも鏡で自分の顔を見たならば思わず笑ってしまうだろう。
(ミルキは絶対に直接話した方が良いって思ったのよね)
どんな連絡手段でも対面に勝る説得力を持つものはない。だがそういった理由からではなく、対面でゴリ押しした方がミルキには効果的であるとリンは思っていた。ミルキは何だかんだで面倒見が良いのだ。
思ったより乗り気なミルキの様子を見るに電話でもOKは貰えたかもしれないが、念には念を入れておいた方が良い。
リンのこういった馬鹿に見えて妙に冷静なところもジンに似ている要素なのだが、やはり本人に自覚は無い。
「あ、そういえば漫画、ここに置きっぱなしだったわよね。貰って行っていい?」
かなり強引な交渉も纏まったところで、そういえばここには漫画も取りに来ていたのだと思い出した。
ミルキに尋ねると、忘れた記憶を掘り起こそうと暫く空を見て考え込んだ後、ぽんと手を打つ。
「あー…あれ、アルカにやっちまったわ」
「マジか。イルミからちょっと聞いてたけど、妹だっけ?」
少し残念だが、ついで程度だったし今の財力と行動範囲なら余裕で現地の漫画を購入できるため、リンは割とあっさりと諦めた。数百冊の漫画くらいなら別に惜しくないし、それよりも共通の話題ができる人間が増える方が嬉しい。
「まあ、便宜上は弟なんだけどな…あ、やべ」
そこまで言った辺りでうっかり口が滑ったというようにミルキは自身の口を押さえた。辛うじて残っている原作知識から何となく察するが、敢えて知らないふりをしておく。
「何か問題あんの?」
「…まあ、元々存在はイル兄が言ってたんだし、いっか。簡単に言うとちょっとやばい能力が発現しててよ。うちのアンタッチャブルになった。…これ絶対に言うなよ。マジで殺されるから」
「ふーん…まあ、深入りはしない」
ゾルディック家のアンタッチャブル…それは『可能な限り内外問わずに口に出すな』の意味を示す。それを理解しているため、リンは敢えてそれ以上は何も聞かなかった。
(やっぱ幽閉状態か…それなら、暇潰しに漫画を読んでくれると嬉しい)
正直アルカに思うところがないと言えば嘘になるが、あくまでよその家の事情に部外者が口を出すべきではないというのがリンの考えだ。
前世の世界でも他人の家によそ者が中々口出しできなかったように、この世界でもそれは憚られるものである。
旅団の犠牲になったクルタ族に対してもそうだったが、“そうなる”といった事実を知っているだけでは、二次創作のような救済はできない。
あくまでここは現実だし、一人の人間ができる事なんてたかが知れている。下手に首を突っ込み過ぎると本当に自分が大切なものまで失ってしまうだろう。
リンはもう、大切なものを失いたくないと思っている。優先順位を間違えたくないとも。
「ああ…あと、頼みがあるの。これはちゃんとした依頼」
用件が終わり立ち上がりかけた所で、もう一つミルキかイルミに頼もうと思っていた用件を思い出し、座り直した。
今日一日でリンに振り回されっぱなしのミルキだったが、これには相当驚いたらしく、細い目を見開いてリンを見る。当然だろう。依頼とは、ここでは殺人の依頼を指すのだから。
「何だよ、お前そんな事言うキャラだったか?」
ミルキの質問を軽く流し、リンは真剣な表情で言った。
「私の家族…フリークスの人間とノワール=エンゲローブに暗殺依頼が来た時、その依頼人を暗殺するようにしてほしい。勿論報酬は払う」
ジンは何でもこなすハンターというだけあって、賞金首にも躊躇なく手を出す。レイザーの件が代表的だろう。
そのため風の噂で聞いた分には、一部からはかなり恨みを買っている。
リンも賞金首狩りをしているため、家族に危害が及ぶ可能性もあるのではないかとふと気づいたのだ。
小さな島に住んでいる人間にわざわざ危害を及ぼす者が居るとは思えないが、念には念を入れたかった。
「まあ家族はわかるけど、そのノワール…って誰だ?」
「友達。この間ニュースで新国家を設立したって特集やってたし、たぶん暗殺者に依頼する奴が出てくるから」
基本的にアニメを見てばかりのミルキだが、意外にもニュースや新聞にはしっかりと目を通している。ニュースに出るような要人は暗殺依頼が入りやすいからだ。
そのためノワールの存在も知ってはいたが、リンの口から出るとは思わなかったため念のため確認した。知らない間に広がっている幼馴染の交友関係に、ミルキはただ驚くしかなかった。
「それじゃ、よろしく」と言い終えて手を振り部屋を出る。リンが扉に手をかけた所で、ミルキは最後の質問をした。
「お前自身に殺しの依頼があった場合はいいのか?」
こういうところがミルキの人間臭いところで、リンがミルキを好ましく思うところだ。
暗殺一族なだけあって倫理観はぶっ飛んでいるが、自分が知っている人間には少し律義な所を見せる。…本当に少しだけだが。
「その時はミルキがイルミにでも依頼を入れてよ。その依頼人を先に殺すようにって」
振り返っていたずらっ子のようにニヤッと笑うと、リンは今度こそ部屋を出た。
(…さて、メンチにも連絡しなきゃな。あいつならきっと二つ返事で引き受けてくれる)
山を降りながら頭の中のやる事リストにチェックを入れつつ、次の目的地について考える。
ハンターで所在の知れない上にほぼ確定で引き受けてくれるであろうメンチには、電話で連絡するつもりだ。そしてこの後はひたすらネットサーフィンになる以上、目的地はあってないようなものだった。
(…久しぶりに実家に顔を出すか)
思えばもう2年近く顔を見せていない。もうすぐ年越しだし、リンが帰ったらゴン達は喜んでくれるだろう。
帰る場所があるのもまた、リンが恵まれている要素の一つだ。帰る場所がなければ、今頃自分はどうしていたのだろうと考えかけ、頭を振って嫌な思考を追いやった。
道中で何かお土産をハントして帰ろうかなと思いつつ、元々の用件に加えてくじら島までの通り道にあるお勧めの美食を尋ねるため、リンはメンチの連絡先を開くのであった。