リン=フリークスの冒険   作:夜桜百花

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同業者と語ってみる

 飛行船と定期船を乗り継ぎ何日もかけて移動する間に、リンは14歳の誕生日を迎えた。

 

 旅行に行く家族とカップルに揉まれながらのニューイヤーボッチとバースデーボッチを達成したリン。

 ハンターになってからボッチ生活自体には慣れているので別に問題ないが、流石に家族とカップルに挟まれての年越しボッチは心に来るものがあった。

 

「ただいま…」

「リン!もう、連絡はもっと早く入れなさい!そしたら隣の島まで美味しいもの買いに行けたのに!」

 

 移動だけで満身創痍になりながら帰郷したリンを、ミトはグラスを拭きながら説教交じりに迎えた。

 店内はいつものように島の漁師で賑わっており、2年前と全く変わらない風景にリンは安心感を覚える。

 

 そして久しぶりの再会だが、リンがミトに説教されるのも無理はない。帰省すると連絡したのはついさっき、船の中からだからだ。

 

 先に連絡すればミトはいるか島で出来合いの御馳走を買ってくると予想し、手作りが食べたかったリンはわざとギリギリに連絡したのだった。

 

「ごめんって。それよりゴンは?」

 

 「おう、リン!帰ったのか!」という声や「また少し大きくなったな!」という声に返事をしつつ、ミトに笑いながら謝罪する。悪いとは思っているのだろうが、反省は全くしていないのが分かり、ミトは少し肩をすくめて笑った。

 

「それが、まだ帰ってきてないのよ。あなたがハンターになって家を出てから、毎日夜遅くまで森で遊んでるわ」

「え、今日みたいな天気でも?」

 

 ミトの言葉にリンは驚いて、自分が入ってきた扉を振り返った。

 扉の向こうは生ぬるい風が吹いて嵐の前触れを感じさせており、とてもではないが森に入る気分にはなれない天候だ。ゴンはそんな天候でも元気に遊びまわっているらしい。

 

「ええ、男の子ってそんなもんなのかしら…」

 

 リンも子どもの頃から森に行き来していたが、基本的に夜には家に帰って店の手伝いをしていた。たまに夜遅くなる事があっても、島の鳥に頼んでメッセージを届けてもらっていた。

 

 ミトの口ぶりではそれもしていないようで、自分が家を出てからの弟のやんちゃ具合に少し呆れる。

 

(電話ではそんな事言わないからなぁ…)

 

 成長してわんぱくになってきたのか、遊び相手が居なくて森に遊び相手を求めているのかはわからないが、リンが居なくなった影響は間違いなくあるだろう。

 

「うーん、寂しい思いさせちゃってるのかなぁ…」

「かもね。その分しばらく、遊んであげなさい」

「そうするわ。あ、お土産」

 

 そう言って道中でハントした戦利品を渡す。血抜きをしたうえでメイメイに預けていたため、数日経っていても新鮮な状態を保っている自慢の品だ。

 

「火吹き鳥の鶏肉。生でもいけるし、どう調理しても美味しいんだって友達が言ってた」

 

 こう見えてもメンチお墨付きの美食中の美食だ。入手難易度はGだが、一般人には到底得る事が出来ない珍味である。

 

 それを渡しながらなんて事ないようにリンが言うと、ミトは驚きつつも嬉しそうに受け取った。お金を送ろうとしても受け取ってくれないため、こういう事で少しでも親孝行をしておきたいと思うリンだ。

 

「あらそうなの。じゃあ、今日の晩御飯にしましょうか。大きいからお客さんにも出せそう」

「うん。火が通りにくいから焼くなら少し時間がかかるかも」

「はいはい」

 

 そう言ってミトは厨房へ引っ込んでいった。リンも自室に荷物を置き、手を洗って店の手伝いに入る。

 

 久しぶりに帰ってきたリンに客の酒も進んだが、二時間もすれば客足は落ち着き店を閉める運びになった。だが、それでもまだゴンは帰ってこない。

 

「そろそろ探しに行った方が良いわよね」

「そうね…お願いできる?」

 

 流石に心配になってきたリンとミトがそろそろ迎えに行こうかと話していた時、ようやく裏口のドアをノックする音が聴こえた。

 

 よっぽど心配だったのだろうミトが大急ぎで扉に向かう。何やら話をしていたようだったが、暫くしてゴンを伴ったミトが戻ってきた。

 

「あ、姉さん!おかえり!」

 

 この言葉にリンは内心激しく動揺した。いつの間にかリンを呼ぶ呼称が変わっていたからだ。

 

(姉さん…?この間まで姉ちゃん呼びだったのに…?弟の成長が嬉しい一方で寂しい!もどかしいどうしたらいいのこの気持ち!)

 

 ねえちゃと呼んでくれていたあの頃を懐かしく思いながら、今はそんな事を言っている時でもなさそうなので心の奥に留めておく。腰に手を当て、姉としてゴンを軽く睨みつけた。

 

「おかえりじゃないわよ、何その傷!」

 

 二年間の間に一回り大きくなったゴンは、肩に切り傷を負っていた。服も破けており子どもの怪我としてはかなり痛々しいが、当の本人はけろりとしている。

 

「キツネグマの子どもを捕まえようとして、引っかかれちゃった。昔姉さんが捕まえてたみたいにしようと思ったんだけど、うまくいかないね」

「…」

 

 嘘をついている。リンだってプロハンターのはしくれだ、子どもの嘘程度が見抜けないわけがない。キツネグマの子どもが付けた傷にしては大きいし、背中の布が妙に擦り切れている。

 

 大方子どもを捕まえようとして、そこを成体に襲われたというところだろう。ひっかき傷が掠った程度で済んだのは本当にただの運だ。

 

 自然界は厳しい。くじら島の森も、いくつかのグループが縄張り争いをしている。シンが一時期統一していたようだったが、ゴンの様子を見るにその力が弱まってきているようだ。

 

(ゴン…一人でシン以外のキツネグマの縄張りに入ったな…)

 

 リンがゴンを連れて森に行く際は、基本的にシンの縄張りの中で遊ばせる事にしていた。ゴン自身もシン達とよく遊んでいた。

 

 もしかしたらそのせいで、キツネグマへの警戒心が薄れてしまっていたのかもしれない。もっと野生動物の怖さについて教えておけば良かったと後悔した。

 

 フリークス家の教育では、嘘はつかない事になっている。しかしリンは基本的に弟大好きのお姉ちゃんだ。ミトや祖母の前でそれを暴く程鬼畜ではない。

 

 よってゴンの手当てをし、ミトが腕によりをかけた料理に舌鼓を打ち、一緒に風呂に入ろうとゴンを誘ってすげなく断られた後、湯船を出たゴンがリンの部屋に遊びに来たところで意を決して尋ねた。

 

「ゴン、キツネグマの子どもに怪我させられたって、噓でしょ」

「え?急にどうしたの姉さん」

 

 ぎくりと一瞬肩を震わせたが、ゴンはあくまでも白を切った。リンもそれで見逃すつもりはなく、畳みかける。

 

「あの傷は子どもが付けられるものじゃない。かといって全て嘘って感じもしない。…本当は大人のキツネグマにやられたんじゃない?」

 

 リンの予想は図星だったらしい。ばつの悪そうな顔で俯くゴンを軽くデコピンする。勿論、子どもを相手にする程度のデコピンだ。

 

「ご飯の時も、急に親父の話をしてたけど、何があったの?」

 

 キツネグマの件も重要だが、ゴンの様子を見るにそれ以上の重大な事が起きたらしい事をリンは察している。

 

 帰ってきてからのゴンはずっと変だった。オーラの色もいつもより少し暗いし、しきりに父親の事を聞きたがる。

 当然ミトはいつものように嘘をついて誤魔化したが、その時のゴンの笑顔は無理しているようにしか見えなかった。

 

「…」

「ゆっくりでいいから、話してみて。姉ちゃん、ちゃんと聞くから」

 

 そう言って黙ってゴンを見つめていると、ゴンは何度か深呼吸をした後リンに目を向け、何かを堪えるように声を絞り出した。

 

「…姉さん、なんで父さんは死んだって嘘ついてたの?」

 

 その言葉にリンは思わず黙り込んだ。一言で全てを理解したからだ。

 

(あ~…そういう事か…)

 

 怪我をして帰ってくるゴンに妙な既視感を覚えていたが、今の言葉ではっきりと思い出したリン。どうやら今日が原作スタート地点らしい。

 

 つまり、キツネグマに襲われていたゴンが、カイトに会ってジンの事を聞いたという事だろう。

 そして嘘をつかれていた事に悲しみ、父親に捨てられたのではないかという思いに嘆いている。緩やかに天へと伸びるオーラの色も含め、全てに合点がいった。

 

「…ミトさんに口止めされてたの。ゴンには親父の事もハンターの事も気にせず、普通に幸せになってほしいってね」

「でも!姉さんはハンターになったじゃん!」

「そうね。だから私も試験を受ける時、ミトさんと話し合いになったわ」

 

 そう言うと、今度はゴンが黙り込む番だった。

 ゴンは聡い子だ。父親の存在を知っているリンはその分ハンターという仕事を目指すにあたってミトを納得させるのに苦労したであろう事が、想像がついたのだろう。

 

 リンが試験を受ける時は、複雑な顔をしつつもミトは応援してくれていた。

 だが、ゴンに対してはどうだろうと少し心配になるリンだ。あとでミトにもひと声かけておこうと決める。

 

(まったく…たまに帰省したらこれだもんな)

 

 あちこち回って仲介しなきゃいけないのだから長女は大変だ…なんてちょっと気取っている自分に内心少し笑いながらも、ちゃんと姉としての役割を果たす。

 

「まだ言えてない事、あるんでしょ?」

 

 今までの言葉も本心だろうが、本当に言いたい事はまだ言えてないのだろう。

 涙で瞳を潤ませるゴンをベッドに座らせ、ゆっくりと頭を撫でながら続きを話し始めるのを待つ。

 

 メイメイがゴンの膝に乗ってその涙を舐め取った時、堰を切ったように零れかけていた涙が溢れ出した。

 

「今日さ、カイトってハンターに会ったんだ。キツネグマに襲われかけた所を助けてくれた」

 

 “知っている”事はここでは何の意味も持たない。“ゴンから聞く”事が重要なのだ。黙って相槌を打ちながら、ゴンの続きの言葉を待つ。

 

「それで、親父の名前はって聞かれて、答えたら、お前の親父は生きていてハンターをしてるって…世界で最高のハンターだって…」

 

 ずっと死んだと思っていた肉親が生きていたと知らされた衝撃は相当のものだっただろう。口止めされていたとはいえ、嘘をついていたリンも共犯であり、心が痛む。

 

「でも、ミトさんは父さんが死んだって嘘ついた。…そこまでして隠したいのって、俺たちが捨てられたから…?」

 

 頭が痛い。予想は出来ていたけど。全く、ゴンにこんな思いをさせるなんて、本当にクソ親父だと思うリンだ。

 

 これならリンがかつてそうされていたようにG・Iに預けられていた方がまだ幸せだったのではないかとすら思う。

 基本放置でもたまに顔を出していた分、リンはゴンが持っている悩みを持つ事はなかった。もっとも、ジンが顔を出していたのはG・Iのシステム設計のためだとわかってはいるが。

 

「捨てられた、とは少し違うかな。親父は私たちにちゃんと愛情を持ってるよ」

「本当?」

 

 細い蜘蛛の糸に縋る罪人のように、ゴンがリンを見つめる。少しでもその気持ちを軽くしたいと思い、リンは何年も会っていない父親を必死に思い出そうとした。

 

「嘘じゃない。クソだし育児放棄だし、あちこちに預けたりするけどそれでも…あれ、やっぱクソだな」

「ど、どっち?!」

 

 自分で言っていて少し自信がなくなってきたリンである。愛する弟のため心を強く持たねば…と息を吐き、普段はクソ親父と軽蔑してやまない父親の良いところをどうにか捻りだす。

 

「親父の愛情はわかりにくくてさ。親である事よりもハンターである事を優先してるし、傍から見たら捨てられた、みたいなもんかもしれない。だけど、誰よりも私たちの事を気にかけてる」

「そうなの…かな…」

「いつかわかるわ。それに、私もハンターになって親父の気持ちが少しわかった。ハンターって、辛い事も沢山あるけど、それ以上に楽しくて仕方ない。…っと、あんまり言ったらミトさんに怒られちゃうかな」

 

 一人で話して一人で笑っているリンだが、話を聞いているうちにゴンは少しずつ元気を取り戻したようだった。

 リンを憧れの眼差しで見ながら、上目遣いでおずおずと気持ちを言葉にする。

 

「俺も…ハンターになれるかな」

「絶対になれる。ハンターになって親父を探して、それが終わったら姉ちゃんと一緒に冒険しよう。約束したでしょ?」

 

 リンがそう言うと、ゴンは偽りではない本当の笑顔で頷いた。そこでひとまず安心し、ぐしゃぐしゃと乱暴にゴンを撫でた後、部屋へと返す。

 

 ゴンが部屋へ戻ったのを確認した後、リンはクローゼットから近所を歩いても問題ない程度の服を探した。今日着ていた服は、もう洗濯に出してしまっている。

 

(推しにご対面…じゃなかった、恩人に挨拶くらいしとかないとね)

 

 ミトはリンがいつ帰ってきても大丈夫なように、成長に合わせた服を置いてくれているらしい。少しリンにはサイズが小さい服から、丁度良い服、まだ少し大きい服まで、様々なものが少しずつ揃えてあった。

 パジャマを脱いで見覚えのない大きな黒パーカーを頭からかぶり、動きやすいショートパンツを履く。

 

 流石に夜遅くの外出になるため、出がけにミトにひと声かけておくことにした。ついでにゴンの事も軽く報告しておく。

 

「どうして…っ!」

「ごめん。「捨てられたのかな」って言うゴンに嘘をつくのは私には無理だったわ」

 

 リンがゴンの事を伝えると、ミトは動揺したように肩を震わせた。あまり刺激しないように、落ち着いて謝罪する。

 

「そう…そうね。リン、あなたにも辛い役回りをさせちゃったわ」

 

 リンは俯くミトの隣に、静かに腰かけた。ミトがリンの事もゴンの事も大切に思ってくれている事は、ちゃんと伝わっている。

 

 自分はあちこち行くから殆ど確認できないと断っているのに、ハンター協会に設置している専用ポストにリン宛ての手紙を送ってくれるような人だ。試験から帰ってきたリンを全力で抱きしめてくれるような人だ。

 

「ちゃんとわかってるから、大丈夫」

 

 恥ずかしくて『何を』わかっているかまでははっきりと言わなかったが、ミトはリンに泣きそうな顔をしながら笑いかけ、抱きしめた。

 

 家を出た所で外はやはり嵐が来ていた。雨風で視界はかなり悪く、気持ち的にはあまり外に出たくないところだ。

 雨に濡れさせたくないためメイメイの具現化を解除し、フードを被りながらリンは森に入っていった。

 

 通常ならば島の大半を覆う広い森で一人の人間を探す事は困難。

 だが、リンは念能力者だ。加えて、幼少期よりも技術が発展している分探す事は容易であるため、リンはカイトを見つけられない心配は全くしていなかった。

 

 リンの現在の円の範囲は、半径約20メートル。だが、応用の仕方によっては半径数キロまで及ばせる事ができる。

 

 円を改良したリン独自の高等応用技、『波』。

 

 これは、作中でジンがオーラをエコーのように飛ばしていたところから着想を得た技術だ。

 

 元々、リンは円について改良の余地があると考えていた。ビルのような高層部から広げる分には効率的だが、上下前後左右と球状にオーラを広げるのはかなり無駄が多いからだ。

 

 ピトーのようにオーラを自在に操作して伸ばせれば良いのだが、円の形状操作は意外と難しく、リンにはできそうになかった。

 それにできたとしても、情報量が多すぎてその状態を維持できないだろう。リンはオーラを飛ばすのは得意だが、情報処理は苦手分野である。

 

 そのため、円に近い形状を維持したまま可能な限りオーラを変形させることにした。

 

 自身を中心にエコーのようにオーラを伸ばす事により、広げるオーラの無駄を削る。通過した一瞬しか感知できない分、円に比べるとかなり精度は落ちるが、代わりに感知範囲を飛躍的に広げる事に成功した。

 

 有り体に言うならば、円を波打つ絨毯の様に広げる技術だと思ってもらえれば良い。飛ばすオーラの強さによって感度が変化するため、目的に合わせて応用も利きやすい。

 

 そして今回感知する対象は、リンのオーラに対して反射的にオーラで反応してくる人間だ。よって、気づかれやすいように敢えて強めにオーラを飛ばす必要がある。

 

 森に入って暫く歩いた所で地面に手を付き、軽くコンコンと叩く。気持ち的にこの方が波のイメージを作りやすいからだ。リンを中心としてオーラが広がっていき、それは波のように周囲の障害物を飲み込んでいく。

 

(居た。私の波に対して反射的に念を使った人間)

 

 北東1800メートル先の森、かなり入り組んでいる場所で大きなオーラの反応があった。

 位置を一瞬で把握し、逃げられたりする前にそこまで走る。

 

 ごつごつする岩や木を避けて目的地まで行くと、嵐を上手く避けられる位置取りに陣取って、カイトは火に当たっていた。長い髪を靡かせながらリンを軽く睨む。

 

「あなたがカイトってハンター?」

「…驚いたな。こんな島に念能力者がいたとは」

 

 警戒はしている様子であるものの、武器を構える事はせず、臨戦態勢というわけではなさそうだ。

 

(初の生カイト…ええ顔してるしええ声してるのう…)

 

 そんな気持ちの悪い心の声が主張をしているが、あくまでリンは表情を変えない。

 

「一応こんな島でも実家なの、失礼よ。ここにはお礼を言いに来たの…うちの弟を助けてくれてありがとう」

 

 雨風を避けながら、リンは焚火を囲んでカイトの向こう側に腰かけた。少し風は当たってしまうが、いくらカイトとはいえ流石に初対面の人間の隣に腰かける気にはならない。

 

「じゃあ、ジンさんの娘か?」

 

 今のやり取りでリンがジンの関係者であると察しがついたらしい。先程までの警戒心がなりを潜め、カイトは驚いてリンの顔を見た。記憶の中の師匠の姿と似ている部分を探しているのだろう。

 

「リン=フリークスです。同じくプロハンター。うちのクソ親父がいつも本当にお世話になっています」

「そうか…いや、こちらこそ世話になっている」

 

 何度言ったかわからない定型文を口にして頭を下げると、カイトは少しぎくしゃくしながらも頭を下げる。こういった会話には慣れてないらしい。

 

「一応聞いておくが、ジンさんの居場所を知っていたりはしないよな?」

 

 そしてゴンとは違い初めからジンの存在を知っている事から、ジンの所在を知っているかもしれないと思ったらしかった。当然だが、リンはジンの所在など知らない。

 

「私も探しているところなの。お互い大変ね」

 

 リンがそう言うと、なんだかおかしくなってきて互いに少し笑い合う。

 ジンをよく知る存在という事は、彼がどれだけ凄いハンターか、そしてどれだけ迷惑をかける人間かを知っているという事だ。互いに苦労をしてきた身として、親近感が湧いたのだった。

 

「うちに泊まって行かない?何日か滞在するんでしょ?お礼もしたいし」

 

 ミトはハンターをあまり好ましく思っていないが、ゴンを助けてくれた相手を無下にするわけがない。リンがそう言うと、カイトは少し目深に帽子を被りなおした。

 

「いや…流石にこんな遅くに押しかけるのは申し訳ない」

 

 それだけで引くリンではない。なら今日でなければいいのだろうと敢えて解釈した。

 カイトも嫌がっているのではなく本当にただ遠慮している様子だったので、押せば折れるだろうと思ったのだ。

 

「じゃ、明日また迎えに来るわ。たぶんゴンが来たがるだろうしね」

 

 そう言いながらカイトの少し離れた所に横たわっているキツネグマの死体に目をやった。ゴンの性格上、埋葬したいと言い出す事だろう。

 

 リンの強引さに父親の面影を見出したカイトは、呆れながらも少し笑い了承した。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 翌日、リンの予想通りゴンはキツネグマの埋葬をしに行くと主張して聞かなかった。この頑固さは間違いなく父親譲りだと呆れるが、それがブーメランである事には気づいていないリンである。

 別にそれを止めるつもりもないので、リンも当初の予定通りゴンと共に森まで出向き、カイトを迎えに行く。

 

 ゴンが『コン』と名付けたキツネグマの子どもは、ゴンに良く懐いた。子ども一匹で放置するわけにもいかないため、シンが統治する森に預ける事にした。

 シンならば敵対する同族の子どもでも分け隔てなく接してくれる。といっても、ゴンが毎日会いに来る事だろう。

 

 全ての作業を終え、リンの強引さにゴンの純真さも加われば、もはやカイトに断る術はなかった。ゴンに手を引かれながら家まで歩くカイトの顔は満更でもなかったと思うリンだ。

 

 そしていよいよ家に入った時、カイトが固まった。

 

 何もおかしな事は起きていない。事前に言っていたのでミトと祖母が出迎えてカイトに礼を言っただけだ。本当にそれだけである。

 

(おお…カイト、ミトさんがドストライクだったか)

 

 ゴンはよくわかっていないようだったが、オーラが見えるリンは一発でカイトの心情を察した。

 ミトを見た瞬間、カイトのオーラが開花したばかりの花のような桃色に染まったからだ。異性として好みだとかそういうのをすっ飛ばして、恋に落ちたような色をしている。

 

 念文字は、非念能力者が居る中でこっそり話をするには最適な技術だ。かつて無駄に練習した成果も相まって、リンの念文字はやたらと早い。

 

 控えめに指を立て、カイトに目配せする。

 

『ミトさん、今フリーよ』

 

 ここでは隠を使う必要が無いため、普通にオーラを形状変化させてカイトに示した。それを読んだカイトは苦い顔の典型例のような表情を見せる。

 

『大人を揶揄うもんじゃない』

『本気で言ってるわ。ピンクのオーラ駄々洩れ。一目惚れね』

 

 カイトにはオーラの色の話はしていない。そのため、リンの言った事は何かの比喩だと思ったのだろう。

 ニヤニヤとしながら文字を見せると、カイトはそこから暫くリンに目を合わせてくれなくなった。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 夜になり、ミトのもてなしを受けて腹も落ち着いた頃。

 カイトは閉店となった店のカウンターに腰かけ、酒を飲んでいた。

 

「ジンさんを探しているのなら、今はなぜここに?単なる帰郷か?」

 

 いつもはミトが立っているカウンターの向こう側には今日はリンが立っている。仕事の話を口実に、ミトの許可を得た上で二人だけがその空間を占拠しているのだった。

 

 実際、同期や師匠以外のハンターらしいハンターと関わる機会が今までなかったリンはカイトの仕事の話を聞きたくてしょうがなかった。嘘はついていない。

 

「まあ…ぶっちゃけると親父のハントは優先順位低め。今は自分の夢の方を優先してるの」

 

 手持ち無沙汰に濡れたグラスを拭きながら、リンはそう答えた。自分の飲み物も用意はしているが、黙って飲むのにジュースでは少し落ち着かない。

 

「夢…か」

 

 リンの口調から相当楽しんで準備をしている事が窺えたカイトは、黙って話を聞きながらも目を細めた。

 

 詳細を促すと、リンは嬉しそうに漫画文化を広める夢について仲間と計画している事を語る。それを聞いていると、心なしかジンと修行をしたあの頃を思い出すカイトだ。

 他人事ながら、その夢が叶ってほしいと感じた。

 

「夢はいい…俺にも夢がある。…ジンさんを見つけるのが先だがな」

 

 リンに触発されたらしいカイトは、そう言って少しだけ自分の半生を語った。

 リンの記憶からはもう消えてしまっていたが、それは原作にもあった話だ。

 

 カイトとその仲間達が守りたい景色をいつか自分も見てみたいとリンが言うと、カイトは満更でもない顔で了承した。

 

「ねえカイト…ミシャクーロってハンター、知ってる?」

 

 リンが思い出したようにそう切り出したのは、一通り語って親睦が深まったところだった。その頃にはリンもカイトの隣に移動しており、物理的にも互いに気を許していた。

 

「…まあ、名前くらいなら。あまり評判は良くないな」

 

 やや眉を顰めて言うカイトの評価に、リンは別段驚きはしなかった。復讐者を生み出すような人間の評判が良いわけはないだろう。

 

「居場所が知りたいの。ちょっと用件があってね」

「俺は知らないが…もしかしたら会長なら知っているんじゃないか?」

 

 ここまでかなり明け透けに答えていたリンの言葉が急に濁った事で、カイトはリンの目的を察した。

 

 しかしジンの娘であり、自分自身も会話する中で信頼できると感じた人間であるため、少し苦い気持ちになりながらもカイトは知っている情報を教えてやる。

 

 そして予想外の情報が飛び出してきた事に、リンは思わず前のめりになって尋ねた。

 

「なんで会長が?」

「ミシャクーロは心源流の人間だ。特に、会長直々に手ほどきされたと聞いた事がある。何かしらの繋がりがあるかもしれん」

 

 点と点が繋がりつつあった。思っていたよりも、この問題は身内の揉め事が派生した結果に過ぎないのかもしれない。

 

「…なるほどね」

 

 リンのオーラを見たカイトは、それ以上何も言わなかった。

 

 その二日後、カイトはくじら島を去って行った。ゴンにジンのハンターライセンスを渡し、リンとは連絡先の交換をして。

 

 こっそりとミトにも連絡先を渡していた事をリンは知っているが、敢えて追及はしないでおく事にした。本当に口説きにかかっているのなら、そこをつつくのは野暮だろう。

 

 カイトに今後のTSだけは避けてくれと願いながら、二人の幸せを応援するリンである。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 更に数日後。ゴンと森で遊んでいると、リンの携帯に着信が入った。

 

『はぁいリン!元気にしてるかしら?』

 

 電話の相手は尊敬してやまないハンター協会のお姉さんことビスケだ。

 

「久しぶり!今は故郷で情報収集ってところよ」

『ふふん、もしかして会社設立の人材集めかしら?』

 

 まさかビスケが知っていると思わなかったリンは、驚いて息を飲んだ。

 メイメイがゴンと遊んでいるためにあまり離れられず、十数メートル先で通話をしている。そのためリンの動揺はゴンにも伝わったのだろう。

 

 少し心配そうにこちらを振り向くゴンに手を振る事で問題ないとアピールしておく。

 

「何で知ってるの!?」

『師匠の情報網を舐めるんじゃないわさ。…面白そうな事やってるじゃない、私にも一枚噛ませなさいよ』

「良いけど…どうして?」

 

 リンが会社設立の話を持ち掛けた時のミルキもこんな気持ちだったのだろうか。

 ビスケの意図が分からず、考えても仕方ない事はわかっているので早々に答えを聞く。ビスケはいたずらっ子のように含み笑いをリンに聴かせ、返答までにかなり間を置いた。

 

『イイ男達の絡み合いが見たいからよ♥』

 

 たっぷりと溜めてから言われたその言葉で、リンは全てを察した。

 ビスケはリンの会社どころか、裏の目的まで把握しているらしい。ゴンに聴こえても問題ない言い方だったのは不幸中の幸いだ。

 

(こ れ は 盛 り 上 が っ て 参 り ま し た w)

 

 初の身内バレが同業者であり敬愛する師匠である。

 泣きたいを通り越して笑いが込み上げてきたリンだ。

 

 絶対にやらないが、気持ち的には大型掲示板サイトに書き込んでネタにしたい。

 タイトルは【初の腐バレは】腐女子募ってこっそり会社作ろうとしたらバレてた【師匠】あたりだろうか。

 

『実はあなたが探してる人材ももう見つけてるわさ。十分目標達成できる人数が居るけど?』

「…参りました、師匠。降参です」

 

 ゴンには申し訳ないが、くじら島での滞在はあまり長くできなさそうだ。

 




おかしいな…?
予定ではこの辺で原作軸に居る予定だったのに、まだ四年もあるぞ…?
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