リン=フリークスの冒険   作:夜桜百花

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異文化交流してみる【前編】

「でさ、この時のキルの髪見てよ、寝ぐせついてるの。くせっ毛だからわかりにくいけど、微妙に右後頭部の辺りがはねてるんだよね。で、それを指摘したら顔を真っ赤にして怒られちゃったけどそれも可愛いなって思わない?」

「…」

「これはダーツをしてる時のキル。なかなか様になってるよね。俺が教えたんだよ。恥ずかしそうに『イル兄、ダーツ教えてほしいんだけど…』って言ってきたときは感動したよ。あ、これがその時の写真」

 

 季節は春、ジャポンでは桜が舞い散り、視界の限りを桃色に染めている。

 風情溢れる和風な建物の中、クロロとイルミは長い脚を折りたたんで座敷に座っていた。

 

 二人とも育ちの環境からこういった形状の席には慣れていないが、郷に入っては郷に従えという。周囲の座り方を観察し、さも当然な顔をしてそれに倣っていた。

 

 傍らには抹茶とプリン善哉。善哉は初めて食べる代物だが、意外と悪くないと甘党のクロロは思う。好物の一つとして数えておこうと心に決めた。

 

 対照的にイルミは少しだけ食べるとあっさりと手を付けなくなった。どうやら口に合わなかったらしい。

 

「…ああ、これは天空闘技場に連れて行った時の写真だね。キルってば暗殺技術だけじゃなくて戦闘技術もピカイチだからさ。写真でもキレのいい手刀を出しているのがわかるよね。…早く帰ってこないかなあ」

 

 そして早々に器を端に追いやると、机の空いたスペースにどこから取り出したのかアルバムをどっかりとおいて語りだしたのだった。

 逆十字のコートを着た男と中華風の服を着た男。最近の漫画ブームにより異国人が増えているとはいえ、着物を着た人間が主流の街で二人の男は大いに浮いていた。

 

「…弟の話はまだ長いか?」

 

 話し出してから約二時間。クロロの相槌も必要とせず、イルミはノンストップで話を続けている。

 やんわり、できるかぎりやんわりと不満を伝えたが、目の前の友人は気にも留めていないようだ。

 

 イルミがブラコンである事は承知の上だったが、なかなか会えない弟に愛情が暴走しているらしい。後に予定を詰めておいて良かったとクロロは内心密かに思った。

 もしもこの後の自分がフリーならば、イルミの気が済むまでこの重たすぎる愛を聞かされ続けただろう。

 

「何?クロロも話したいの?兄弟いないじゃん」

 

 申し訳なさそうな素振りを微塵も見せず、次のページを捲りながらあっけらかんと的外れな返答をする。この返答は人によってはかなりイラっとするものだが、それを配慮するような人間でない事は、友人としてクロロが一番よく知っていた。

 

「いや、…少し長い」

 

 分かり切っていたがこの男には遠回しな言い方は通用しないようだ。小さくため息を一つつき、今度は直球で苦言を呈した。

 

「兄弟がいないクロロに弟の良さを知ってもらおうと思ったのに」

 

 メンタルが鋼のイルミには、直接的なクレームすら意味をなさないらしい。むしろこの修行のような時間は彼なりの善意だったようだ。

 

 自分も常識を語れる立場ではないが、常識からずれた感性を持つ友人にクロロはもう一度ため息をついた。

 

 兄弟の良さというものに興味がないわけではない。血縁者の居ないクロロには到底縁のないものだからだ。イルミの様子を見ていると、兄弟とはとても良いものらしい。ずっと観察していたくなる、今後の成長が気になるような存在のようだ。

 

 そう思ったところで、ふと一年ほど前に出会った少女の姿が頭をよぎった。

 

「血縁者は居ないが…少し前に妹のような存在はできた」

 

 予想外の返答に、イルミはほんの僅かに驚きのリアクションを示した。一般人には見分けがつかないレベルの表情筋の動きだったが。

 

(旅団のメンバーは家族や仲間と思っているが、兄弟と呼ばれるそれの感覚とは違う。ならばリンに対して感じる妙な親近感は妹と呼べるのかもしれない)

 

 流星街においては、血縁関係はあまり重要ではない。その代わり、誰から生まれたかよりも自分達が互いをどう認識しているかの方が重要視される。

 

 家族よりも濃く、他人よりも薄い関係。それが流星街における繋がりだ。

 

 そういう観点で考えるのなら、今まで会った誰に対しても当てはまらないこの感覚は、もしかすると妹に向ける感情の類なのかもしれないとクロロは思った。リンの思考には興味があるし、今後どう成長していくか気になる。

 

 いくら親近感を持とうとも通常は暫く共に過ごしただけの相手を兄妹と認識はしないのだが、その辺の常識的な感性は持ち合わせていないクロロだ。

 

 もっとも、正式な妹という比較対象がない以上、この感情の名前を確かめる術はないのだが。

 

「へぇ、そうなんだ」

 

 イルミの気が抜けた返事を流しながら、クロロは頭の中でリンの姿を思い浮かべる。

 

 身長はフェイタンよりも低く子どもの体格、だが内に秘めた筋力とオーラは凄まじいものがあった。念能力も特徴的かつ汎用性が高く、旅団に欲しい人材だ。

 とっくに成人済みのフェイタンと違い成長期であろうその身体は、1年経った今はかなり成長しているだろう。

 

 少し小さなオレンジ色のデニムブルゾンを着ていたあの少女が、どのような成長を遂げているか、そう思うといつの間にか、口角が持ち上がっていた。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 そんな会話が繰り広げられているとは露知らず、リンは飛行船を降りてジャポンの街並みをとぼとぼと歩いていた。

 

(やっちまいました…やっちまいましたよぉ私…あのヒソカ相手にすんげーセクハラかましちまいました…あの殺人ピエロがドン引きしてました……ハッ、また考えてしまってた…ああ~~~)

 

 会社を正式に設立して一カ月半。初めの一カ月程は会社を作ったばかりで不安定な個所を修正するなどに忙殺されたが、ようやくリン達の手が無くても会社が回るようになっていた。

 

 雇った仲間達はリンが準備している間にも各自言語学を学び主要漫画の翻訳をしてくれていたらしく、リンの財力も手伝って瞬く間に世界中に広がっている。少し検索すればトレンドのトップに躍り出ているくらいの騒がれ方だ。

 

 ここまで世界中に認知されたのならば、あとは時間の経過とともに広まっていくだろう。ジャポンのMANGA文化が浸透するのもそう遠くない話だ。

 

 しかし、自身の夢の第一歩を華々しく踏み出して浮かれているのかと思いきや、リンは終始一貫して暗い表情のままだった。それは言うまでもなく先日のやらかしが原因である。

 

 リンは泥酔しても記憶が飛ばないタイプらしい。必然、目を覚ましたホテルでトイレに顔を突っ込んでいるビスケをよそに枕を濡らしたのは言うまでもない。

 一方のビスケはすっきりした顔で全てを忘れているようで、一人で業を背負う事になったのであった。

 

(ていうか変態ピエロに変態扱いされるのってこう…傷に響くよね…)

 

 リンがかつて読んだハンターハンターの転生モノでは、転生キャラは大抵ヒソカに『面白い玩具…♥』とか『青い果実…♠』として目を付けられていた。

 

 しかし嫌われている人間は見た事がない。当然だろう。厨二全開で幼少期から念の修行に励む転生者がヒソカに好感を持たれないわけがない。リン以外は。

 

 おめでとう私、ヒソカ嫌われという二次創作でも初のジャンルをゲットしたよと自分を慰めてみるが、あまり効果はなかった。

 

(腐女子マナー第三十二条…公共の場で腐を叫ばない…誰か私に罰を課して…)

 

 マナーは守るものだ。たとえ相手が人前で全裸になり勃起する事を躊躇わない変態ピエロであっても。将来弟のケツを狙う事が確定しているショタコンであっても。

 

(…いかん。気を持ち直せ~!軽くハントでもすれば忘れるさ!そう、今まで引きずっているのはデスクワークが多かったから…!)

 

 呆れ顔のメイメイと目を合わせないようにして、頬をぱちんと叩く。まだ会社の方の仕事も少々残っているが、ここで身体を動かしておかないとそろそろメンタルが崩壊しそうなリンなのであった。

 

 目的地は暫く歩いた先にあった。事前にマップで調べていた通り、抹茶のような色をした暖簾がよく目立つ。店の前に立つ頃には辛うじてハンターとしての仕事モードに入る事が出来ていた。

 

 暖簾をくぐり店員に連れが先に入っていると伝えると、笑顔で奥の席へと案内された。

 丁度ピークタイムであるらしく、店内はカップルや女性客で溢れている。

 

 改めて考えると、よくこんな所を待ち合わせ場所にしたなと思うが、店内の一押し商品がプリン善哉と書かれていたため全てを察したリンだ。

 

(お、久々の推しのご尊顔…と、誰だ?)

 

 中には最後に見た時からあまり変化のないクロロと、こちらに背を向けていてよく見えないが長髪の男性も居た。

 

(商談でもしてたのかな)

 

 先客がいるなら少し待とうかと思ったが、こちらに気づいたクロロが愛想良く手を挙げて合図した。そのため、手を振って軽く応じながら声をかける事にする。

 

「や、久しぶり」

「たった一年で随分大きくなったな」

 

 妙に様になる頬杖をつきながら、物珍しいものを見るようにリンの姿を眺めるクロロ。

 実際クロロの言う通り、13歳になってから急激に成長期を迎えたリンの身長は一気に伸びていた。

 記憶の中の父親の身長を思えばそこまで高くはならないだろうが、人並み程度には成長しそうで内心ほっとしているのは内緒の話だ。すらりと伸びた長い手を腰に当て、少しドヤ顔をしておく。

 

「まあね。成長期なの」

 

 そう答えながらどこに座るべきかと目をやった時、ようやく髪の長い男の顔が視界に入った。言うまでもなくそれはイルミの姿だ。しかし数年ぶりに会ったリンが少し驚くのは無理もない話だった。

 

「…あれ、イルミも居るの?」

「うん。クロロが雇ったのってリンだったんだ」

 

 リンの言葉にさらりと髪をかき上げながらイルミが答える。

 

 実際に顔を合わせるのは数年ぶりなのに、リンとイルミの口調は一切の緊張がない。

 それは時折通話しているのもそうだが、互いに遠慮が要らない相手だと認識しているのが大きい。軽く頷きながら、イルミの隣に腰を下ろす。

 

「何だ、知り合いか?」

 

 クロロが尋ねると、リンとイルミは同時に答えた。

 

「友達」

「金払いの良い顧客」

 

 沈黙が訪れた。沈黙の原因となった張本人は何食わぬ顔で瞳をぱちくりとさせている。

 

 ドライな返答をする幼馴染とも言える相手に対し、じっとりと睨みつけるが、精神的ダメージは一切通っていないらしい。いつもの事だからとため息をつき、流す事にした。

 

(金払い…ね)

 

 イルミの言葉は暗に依頼が遂行されている事を示している。ノワールかリンの家族か…恐らくノワールだろう。彼に暗殺依頼が入り、リンの依頼が履行されたのだと推察する。

 

(まあ、そのために依頼したんだしね)

 

「…随分と認識が違うんだな」

 

 クロロはやや呆れたような口調でそう言った。心なしかリンに同情の目を向けているようにも見える。話題を変えるため、リンは店員に声をかけて抹茶と串団子を注文した。

 

「…で、何でイルミがここに居るの?今回の件と関係ある?」

 

 リンがジャポンに来た理由がクロロにある事は、言うまでもないだろう。

 

 ネテロとのやり取りの後、リンはすぐにクロロにメッセージを送り依頼をしていた。即ち、流星街に恩を売るための懸け橋となる役目だ。

 

 それに対して、クロロからの返信には日時と場所しか書いていなかった。詳細を聞こうと電話しても敢えて着信拒否設定にしていたらしく、結局現地まで来ざるを得なかった。

 

 好奇心旺盛なリンの性格を理解していたのだろう。初めに依頼したのもリンの方であるため、ここまで来ざるを得なかった。

 

 つまり、来てはみたものの、目的は全く知らない。

 ただし呼び出した場所が流星街でなくジャポンであるという事は、リンの依頼を受ける前に何か頼みたい事があるのだろう。もっとも、自分に頼むような事ならライセンスが必要な事か念が必要な事、どちらにせよ荒事関係だろうとリンは踏んでいる。

 

 リンの質問を受け、クロロは簡単な説明をした。どうやらゾルディックのコネを使い、今回の目的地をイルミに下調べさせていたらしい。

 

 何となく予想はついていたが、ゾルディックじゃないと下調べすらできないような面倒ごとなのかと内心辟易するリンだ。

 

「ふぅん…大変そうね」

「ま、関わらない方が無難だね」

 

 クロロの簡単な説明を聞き終え、その間に運ばれてきていた団子をメイメイと頬張りながら感想を述べると、イルミがそう言った。話に飽きてきていたのか、ぼんやりと携帯を弄っている。横目に見えるのは言うまでもなくキルアの写真だ。

 

「というか、意外。殺し以外の依頼も受けるの?」

「普段はないよ。…こいつだから特別」

「仲が良いのね」

「金払いが良いんだよ、クロロは」

 

 自分の時と全く同じ事を言われたクロロに、にやりと目配せをするリン。

 当の本人は我関せずと無言で抹茶のお代わりを啜った。目を合わせると不利になると判断したらしい。

 

「まあ、大変だろうけど頑張ってね」

 

 言葉と態度がまるでかみ合わないノリで、イルミが言った。この場にまだ留まっているのだから、てっきり自分たちと共に来るのだろうと思っていたリンは思わず驚きをそのまま表情に出して言った。

 

「イルミは一緒に来ないのね」

 

 正座が面倒になってきたらしいイルミが、正面に人が居ないのを良い事に足を伸ばしながら退屈そうに返す。

 

「うん、ちょっとヒソカに頼まれごとしてるんだ」

 

 別にイルミがリンと共通の知り合いと認識したうえでヒソカの名を挙げたわけではない。どちらかと言えばクロロに対しての意図なのだろう。

 しかしリンにとってはヒソカも立派な知り合いだ。ヒソカにとっては認めたくないだろうが。そのため、抹茶を啜りながら口を挟んだ。

 

「ヒソカってあの変態ピエロでしょ?」

「知ってるのか」

 

 これにはむしろクロロの方が意外そうな表情をした。一方のイルミは興味なさげに両手を後ろに付き、だらしない姿勢になっている。その座り方だけなら退屈している小学生のようだ。そんなイルミを横目で眺めながら、リンは口直しに抹茶を啜った。

 

「こないだ一度会ったのよ」

「へぇ、ちょっかい出されただろ?」

 

 ヒソカの事だ、リンを見て戦闘意欲が湧かないわけがない、とクロロはにやり笑う。自分と同じ付け狙われる被害者が増えて嬉しくて仕方ないといった顔だ。しかし残念ながらクロロの願望通りの結果ではない。

 

「いや…たぶん嫌われた」

「「嫌われた?」」

 

 反射的にクロロとイルミがハモった。良い年をした男同士でそれをするのはあまり嬉しくないらしく、顔を見合わせて二人とも微妙な顔をする。本来のリンとしてはそれもまた美味しい展開なはずなのだが、先日のトラウマを再び思い出し、それどころではなかった。

 

「『こんなに美味しそうなのに食べたくない果実は初めてだよ♣』って言われた」

「何したらそうなるんだ」

 

 これはクロロに突っ込まれても仕方ない。ヒソカを知っている人間なら、誰だって同じような反応をするだろう。

 気まずさから目を逸らしつつ、真実を話しながらも上手く誤魔化す手立てを何とかして考える。

 

「あ~、その、酔っぱらってる時にダル絡みというか…」

 

 クロロは不思議そうな表情だ。それくらいでヒソカがリン程の使い手を避けるとは思えないと、その眼が言っている。

 一方でイルミは何かを思い出したらしく、ポンと手を叩いて言った。

 

「あー、そういえばミルキが言ってたよ。「すげーやばい奴と遭遇したのにリンが平然と向かって行って逆にドン引きさせてた」って。あれがヒソカだったんだね」

 

 ミルキは優しい男だ。具体的にどのような内容を言ってドン引きさせたかまでは言わなかったらしい。できればその話自体をしないでほしかったと思うリンだが。

 

 しかし、イルミはミルキと違って優しくはない。天然かわざとかわからない目をリンに向け、地雷ど真ん中を踏みにかかった。

 

「ドン引きさせるって何言ったの?まあ想像つくけど。大方ミルキと一緒にやってるB…」

「わーーーーー!!!!!」

 

 羞恥のあまり反射的にイルミが着ているチャイナ服の垂れている布を引っ張るリン。破けこそしなかったものの、高級そうな布地がぶちぶちと嫌な音をたてた。引っ張られた衝撃で布が尻に食い込んだらしく、イルミが声にならない声を上げる。

 

 恨みの籠った目で無言でリンの目に針を刺そうとするイルミ。

 しかしそれを謝罪するどころではなく、攻撃を避けてばしばしと背中を叩きつつ誤魔化そうとするリン。がちゃがちゃと音を立てる食器類、服装も行動も怪しい三人を怪訝そうに見やる民衆。

 

「…一応店内だ。やめておけ」

「…はい」

 

 そういえばそうだったとおとなしくなるリンと、なおも針を刺そうとダーツをするような手つきで針を持つイルミ。

 この三人の中では最年長かつ少なからず常識も持つクロロは、少しため息をついてイルミを再度引き留めた。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「じゃ、俺は行くよ。またね」

 

 イルミは金にがめついわりに、金払いはざっくりとしている。クロロとリンの注文した分も含まれる伝票を持ち、そのまま手を振りながら会計へと向かって行った。

 

 一方で大金を持っているくせに数百円単位でケチりたくなる庶民精神も残っているリンが(ラッキー)と思った事は言うまでもない。ひらひらと手を振り、タダメシと化した団子をありがたそうに一口食べる。

 その様子を見ながら諸々を察したらしいクロロが少しだけ笑いを堪えながら、二人だけとなった場で会話を切り出した。

 

「にしても、本当に久しぶりだな。何か雰囲気が変わったか?」

「んーまあ…思春期なの」

 

 これは久しぶりに会った人間にはことごとく言われる定型文のようなものだ。それに対しての定番となってしまった言い訳をもごもごと団子の入った口で適当に答える。

 

「…で、依頼って何?」

 

 ごくんという音と共に仕事人の顔で聞いてきたリンに先程までの茶番は何だったのかと、我慢しきれずクロロは笑った。ひとしきり笑った後で落ち着いて本題に入る。

 

「仕事を一緒にしてほしい。ライセンス持ちにしか行けない国にあってな。場所的に一人ではやや心許ないんだ」

「私、泥棒は勘弁なんだけど」

 

 今更言うまでもないだろうと呆れた声で言うリンに、額の包帯を弄りながらクロロは平然と言った。イルミが客を減らしたのではないかと錯覚するくらいに、込み合っていた店内はピークを過ぎて人が減ってきていた。

 

「泥棒ではない。誰も住まない城の中に眠っているれっきとしたお宝のハントだ。…ライセンスを持っていて今動ける人間が俺しか居ない。丁度助っ人が欲しいと思っていたところだった」

「…で、対価として流星街に繋いでくれると」

 

 頬杖をつきながら行儀悪く団子を頬張るリンに、クロロはニッと笑う事で肯定した。

 

「よし、じゃあ行くか」

 

 そう言って残った抹茶を全て飲み干し、クロロは立ち上がった。リンも最後の一つを口に入れ、もぐもぐと口を動かしながら後に続く。

 

「クロロってジャポンに来るのは初めて?」

「そうだが」

「北の方はかなり寒いわよ。着こんだ方が良いと思う」

「そうするか」

「ていうか、半裸にコートの人のとなり歩きたくないし」

「…」

 

 もう一度言う、着物文化が主流で必要以上の露出をしないこの国において、部分的にと言えど裸の人間が浮いているのは言うまでもない。

 クロロは駅に向かっていた足を止め、黙って近くの服屋へと入って行った。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 海淵峡…それがクロロの言う目的地らしい。列車で三日ほどかけてジャポンの北端まで移動し、検問でライセンスを提示してようやく入れる所なのだとか。

 

 互いにライセンスを所持しているため交通費は無料で乗ったが、クロロが当たり前のようにハンターライセンスを使っているのに違和感を覚えるリンだ。

 

 三日も窮屈な座席に居るのは嫌なので、遠慮なく車両一つを貸し切ったホテルタイプの車両に乗り込む事にした。

 

(…イルミにもついてきてほしかったな。私とクロロの二人きりでもあんまり需要ないっていうか…)

 

 一つの列車につきホテル車両は一つだけだ。そのため、現在リンとクロロは同室で過ごしている。

 少し離れた場所で優雅に読書をするクロロを尻目に窓の景色を眺めるが、ジャポンの北側は開拓されていない地域も多く、代り映えのしない景色に飽きてしまっていた。

 

(なーんか、たらい回し感あるなぁー)

 

 そもそもクロロに頼んだのは流星街との場繋ぎだ。特に長老と面会する権利。

 それが必要なのは長老に恩を売る必要があるからで、なぜかと言えばネテロに依頼されたからで、それはミシャクーロの居場所を知るためで…。

 

 そう考えると、完全にたらい回しだ。このままでは主旨を忘れてしまうのではないかと不安になってくる。

 

「そういえば、肝心の何をハントするか聞いてなかったわね。引っ張ってないで詳細聞かせてくれる?」

 

 あくまで泥棒ではない事を強調するために敢えてハンター用語を使い尋ねる。ぺらりとページを捲りながら、しかし視線はリンに向けてクロロは話し出した。

 

「隠者の書って言うらしい。歴史から抹消されたという話だったけど、最近になって海淵峡の城に残されているって噂が立ってるんだよ」

 

元々詳細は移動途中に話すのが効率的だと思っていたのだろう。リンの質問に対する答えは思ったよりも具体的だった。

 

「また何で急にそんな噂が?」

「そこを管理していた子孫が手放す直前に吐いたんだとさ。流星街出身の俺が言えたもんじゃないが、あそこもちょっとした無法地帯だ。一度国に返還されたら管轄なんてあってないようなモンだから、お宝目当てに自称ハンターがうじゃうじゃ湧いたらしい」

 

 リンは何も言わず、黙ってクロロの話を聞いていた。ここまでは予想ができる内容だ。

 黙って話を聞くリンに、クロロはさして面白くもない冗談を言うような口調で、少し笑いながら続けた。

 

「だが誰も突破できなかった。亡霊が住み着いているからだそうだ」

 

「そしてそこに行くまでの道は厳重に封鎖されましたとさ。犠牲者が相当多かったらしく、多少ライセンスを偽装する程度では入れない。盗賊としては不本意だが、正々堂々と通過する必要がある。で、お前が要る」と、話は締めくくられた。

 

 クロロが亡霊などを真剣に語る性格ではないのはわかり切っている。そもそも、念能力者で死者の霊を信じる人間はいない。とすれば、答えは一つしかなかった。

 

「死者の念?」

「ご名答」

 

 ここまで言われれば後は簡単だ。死者の念をどうにかして、隠者の書を手に入れたいから手伝えという事だろう。あくびをするメイメイを膝に乗せながら、面倒ごとに巻き込まれたと眉間を軽く揉む。

 

「それって私じゃなくて除念師に頼むべきじゃない?」

「除念師を探す手間よりも力ずくで叩き潰す手間の方が小さい」

 

 事も無げにそう言われ、リンは大きくため息をついた。つまり、強大と言われる死者の念を叩き潰せという事だ。誰がそんな面倒な事をするか、リンしかいない。

 

「亡霊と言われてはいるが、鎧を被って斬りかかってくるらしい。つまり、物理攻撃が通用する。何とかなるだろう」

「暗に何とかしろって言ってるわよねそれ…」

「そうだな」

 

 そう言うとまたクロロは笑った。仕事の説明も終わったところで、ずっと引っかかっていた違和感に思い当たり、リンはまた眉を顰める。

 

「クロロ。…なんかキャラ変わってきてない?そんなんだっけ」

 

 今日初めに会った時よりもフランクというか、話し方や接し方が違う。何なら、初めてあった頃とも。オーラの色も、内面が少し変質していた。

 

(まあ…クロロのオーラはかなり異質だけど)

 

 念能力者のオーラは一般人よりも多く、垂れ流しの状態でも数センチは身体を纏っているため偽装していない状態ならば見分けやすい。

 

 以前クロロと会った時のオーラは、表面に鉄色を纏い中は空洞という妙なものだった。オーラを偽装して数ミリまで絞ればそれもかなりわかりにくくなっていたが、リンはあんなオーラをクロロ以外に見た事はない。つまり、オーラが透明…限りなく見えづらい。

 

 リンの疑問の原因に心当たりがあるらしいクロロは、少し気まずそうに本に目をやった。

 

「まあ…団長らしさと俺らしさは違うって事さ。たまに区別がつかなくなる」

 

 そう言いながら困ったように笑うクロロを見て、リンは原作のやり取りを少しだけ思い出した。

 

 旅団結成秘話。当時はかなり話題になり、クロロは旅団団長という『役』になり切っているのではないかという考察もいくつかあった気がする。

 

(前に会った時は区別がごっちゃになってた…て事かしら)

 

 考えてみれば、最後に会った時のクロロは団長の口調なのに妙にフランクで、どちらなのかわからないところがあった。もしかしたら、団長からクロロに戻るのには少しラグがあるのかもしれない。

 

 黙り込み、思考の世界に入り込んだリンを見て必要な会話は終わったと判断したらしい。いつの間にか、クロロは再び本を読み始めていた。

 リンもこれ以上聞きたい事は特になかったため、再び静寂が二人の間に横たわる。

 

(…わかってたけど、本当に顔良いなこいつ…)

 

 幻影旅団の長であるクロロは、原作の立派な準レギュラーキャラだ。神のお気に入り効果もあり、そんな人間が才色兼備じゃないわけがない。にしても、本当に整った顔立ちをしているなと改めて横顔を眺める。

 

(うーん攻めか受けか…なかなか難しいのよね…クラピカ相手なら攻め確定なんだけど、ヒソカだったら私はヒソクロ派…ていうかヒソカが攻め力強すぎて…)

 

「…何か?」

「別に」

 

 ぼんやりと隠すことなく眺められる視線に気づかないわけもなくクロロが顔を上げる。リンも特に理由はなく、神に愛された造形を観察しているだけだったので適当に返す。

 

 そんなリンに何か攻撃を思い付いたらしく、クロロは好青年の代表のような微笑をリンに向けた。

 

「もしかして、俺の横顔に見惚れてた?」

 

 それは明らかに年下を揶揄う口調になっており、少しムカッとするリン。

 

 これでも転生分考えたらお前より年上だぞ…と一瞬思ったが、精神面が年相応になっているのを加味すると、それはむしろ馬鹿にされる要素でしかないので考えるのを辞めた。

 

 攻めか受けかと考えていたとはいえ、それはクロロが魅力的であるからで、見惚れていたと言えなくもない。

 そのため、ここで愛する弟なら「うん!」とか答えるのだろう。そんな純粋さは持っているわけがなく、しかし腹だたしいのでリンは聴こえなかった事にして窓際にもたれ目を閉じた。

 




The Stage2、観に行きました。
最高でした。神でした。
三次元ハンターハンターの解像度上がりました。
観客の中に変装クラピカのレイヤーさんがいらっしゃって、感動のあまり写真撮ってもらいました。
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