「…思ったより普通の街なのね」
流星街の土を踏みしめ、辺りを見渡しながら何てことのないような口調でリンは言った。
口でこそそっけないが、心中は感動に打ち震え全米が涙を流している。夢にまで見た聖地巡礼をしているのだから、当然の事だろう。
そんなリンの言葉に、面白いものを見るような眼でクロロは言った。
「コレ、普通に見える?」
彼の言葉に同調するように風が吹き、二人の足元をいくつかのゴミが通り過ぎる。
建物が密集して景観こそ一つの街を形成しているものの、その建造物はどれもヒビが入り今にも倒壊しそうだ。
地面のあちらこちらには廃棄物が転がっており、ある程度恵まれた人生を歩んできた人間ならば『絵にかいたようなスラム街』と思うだろう。そうでなくても『治安が悪そうな町』と感じるのは必至だ。
「んー、なんて言うか…もっと武器と廃棄物で溢れかえって足場もない…みたいなイメージ持ってたのよね」
クロロはリンの言葉に堪え切れず「フハッ」と笑い、故郷の風景を改めて眺めまわした。
「ある意味じゃ間違っていないな。ここは居住区だからまだマシだけど、酷い所は見るに堪えないぜ」
実際、居住区を歩いている今は比較的見られる街といった様子だが、ここに来るまでに通った道は数十キロに渡る不法投棄物の山だった。それでもクロロが言うには最も通りやすいルートらしく、それよりも酷い場所があるのは想像に難くない。
公共交通機関もなく、タクシーを使って国境に限りなく近づけばあとはゴミの山をひたすら歩く。流星街への唯一の流入経路だ。
「その割には楽しそうに話すのね」
「故郷だからな」
その言葉にはリンも少し共感できるものがあった。リンにとって故郷とは、くじら島とG・Iだ。
「少しわかるかも」
G・Iはモンスターも発生するし人死にや殺し合い、裏切りも多い島だ。
それを忌み嫌う人も居るだろうし、ハンターサイトでは呪われたゲームと称されているのも知っているが、それでもリンにとってはジンと仲間達が作った夢溢れるゲームであり大切な故郷である。
見渡してみれば、一見人の住めない廃屋に見える建屋も住居だったり店舗だったりするらしく、入り口や屋内には沢山の人が居る。
それらの人々は誰もが清潔とは言えない服を着ているが、意外と活気はありそうだ。
ただし、通り過ぎる際には住民全員が品定めをするような眼で『よそ者』のリンを眺める。
「やっぱよそ者には厳しいのね。噂通り」
「まあ、こういう場所だからな」
そう言ってクロロは苦笑する。笑うと一段と幼く見える美麗なその青年の顔を、こっそりと盗み見た。
(オフモードだと本当に良く笑うのね)
何も知らなければ良いところの御子息にも見えるが、実際のところは流星街出身のA級盗賊団団長だ。人は見た目が100%という言葉がリンの頭を通過する。
当の御子息詐欺な青年は、いたずらでもするような笑みを浮かべてリンをにやりと見た。
「捨てられたって言えば受け入れてもらえるぜ?」
「悪いけど祖母も養母も弟も居るわ」
「ついでに私を捨てたクソ親父」と言うと、クロロはまた困ったように笑った。
暫く歩いた先にはひと際大きくひと際高い建物があり、それが長老の居住地であろう事は想像に難くなかった。
権力者はどこの世でも高い場所に住むのだなと思いながら見上げるリンの隣で、クロロが頭の包帯を外す。
「さて、じゃあ約束通り流星街の長老に繋いでやるよ」
ここからは団長モードという事らしい。纏う空気とオーラの色が変化していくのを眺めながら、リンは感心して思わず腕を組んだ。
「キャラだけじゃなくて一瞬でオーラまで変質させられるなら、役者の才能があったかもね」
「どういう事だ?」
ぐしゃりと髪を後ろに撫でつけながらクロロが言葉少なに問い返す。ワックスがないからできないが、本当はオールバックにしたいのだろう。
そんな関係ない事を考えつつ、見たままの光景を伝えた。
「色。『団長』の色にオーラが変わった」
「…ちゃんと演じられているのなら、それは僥倖だ」
そう言って口角を上げるクロロは、まだ完全に団長モードにはなり切れていないようだ。
寂しそうなその瞳は、過去を想っているのだろうか。
「ここからはお前だけで行け。俺は先に行ってる」
目で長老の居るであろう建物を示し、リンを置いて歩き出す。
(先に行ってる…?この後も共通の行先になるって事?)
聞きたいところだが、今聞いたって教えてくれないのだろう。そんな気がしたため黙って後ろ姿を見送っていると、クロロは振り返り先程よりは心持ち親切な言い回しで付け加えた。
「中に入ると俺の連れが居る。そいつに長老の下へ案内してもらえ」
「了解。さんきゅー」
そう言ったクロロに手で返事をしながら、リンは敷地内に足を踏み入れた。
長老の住むという建物には、まるで門番のように大きな男が座っていた。
傷だらけの頬、縦にも横にも大きいが引き締まった肉体、感情を表に出さない瞳。
一瞬人造人間のような印象を受けたリンだが、よく見るとそれが間違いなく人間である事に気づく。
(フランクリンだ…やっぱでかいな)
感動は覚えるものの、イルミ、ミルキ、クロロ、ビスケ、メンチ…と立て続けに原作の人間と関わる事になり、流石に慣れてきたリンだ。
この世界に来て十数年経っている事を考えれば、遅過ぎるくらいだが。
『例のよそ者か…』
フランクリンはリンをちらりと一瞥すると、共通語ではない言語でぼそりと独り言を呟いた。
暫くこちらの地域に居たせいでうっかり使ってしまったのか、リンにわからない言葉をわざと使ったのか。
どちらにせよ、何となくムッとしたリンは同じ言語でフランクリンに言葉を返す。
『そんな邪険に扱わなくたっていいじゃん。クロロの紹介よ?私』
「お前…こっちの言葉がわかるのか」
驚いたフランクリンが、思わずといった様子でリンの目を見る。言葉は共通語になっていた。
「まあね。勉強したから」
「…はっ、こんなトコの言葉をわざわざ覚えるなんざ、酔狂なもんだな」
念獣を肩に乗せてふふんと得意気に言う少女を見据えながら、フランクリンは憐れむように笑った。
クロロの紹介でやってきた目の前の少女が、流星街の長老に会う事を目的としているのは既に把握している。
ゴマすりのためにわざわざ覚えてきたのなら感心するが、そんな事は意味をなさない。むしろその無意味な努力に少し同情するくらいだと彼は思った。
そんな嫌味が含まれる言葉にも、リンはさして気にせず答える。
「別にここだけじゃないわ。今使われてる言語だけなら、ほぼ全部覚えた」
「流石に古代語は無理だけど」と答えるリンに、フランクリンは今度こそあっけにとられた。
この世界で言語は200以上存在すると言われている。未開の地にはきっともっと沢山の民族と言葉が生きているだろう。
それをほぼ全て覚えるというのはフランクリンには不可能に思えたし、可能だとしても狂気の沙汰にしか思えなかった。思わず疑問が口から零れたのも仕方ないだろう。
「…なぜそこまでする?」
「夢があんの。私が好きな漫画文化を世界中に広める。そのために翻訳は必要だからね」
「これでも社長なのよ。トップが言語を知らなくてどうするの」と胸を張り答えるリンに、数秒の間を置き、フランクリンは小刻みに肩を揺らした。
「…なるほど。クロロが気になるわけだ。あいつが諦めたモンを持ってる」
肩を揺らし続けるフランクリンをじっと見つめる。彼の言葉の意味が少しだけわかったため、リンはその言葉には敢えて何も言わない。
クロロとリンの最大の共通点。それは夢への向き合い方だ。
夢の事を考えると楽しくて仕方なくて、手当たり次第に知識を吸収し、仲間を巻き込んでいく。それは紛れもなくかつてのクロロと現在のリンの共通点だ。クロロの姿を幼い頃から見てきたフランクリンだからこそ、いち早くそれに気づいたのだろう。
(私が夢のためにくじら島で言語の勉強をしていたように、クロロも何かしら夢を見ていたんだろうな)
うっすらと原作は覚えているが、クロロ達はどこまで夢と希望を持っていたのだろう。その夢が潰えるその日まで。
クロロが失った夢、リンが恋い焦がれる夢(あまり美しくない物も含まれるが)、それらを想いながらもリンは話を逸らした。
「わざわざ『例の』ってつけたって事は、もう私の目的はわかってるって事?」
「ああ、お前の事は聞いていた。長老のところへ、だろ?俺がそこまでついて行く」
「わかった。…あ、あとコレ、子どもに配ってくれない?」
そう言うと、リンはメイメイの
ドスドスと唐突に現れて地面に積み上げられる箱たちを、念の知識故に驚きこそしないが目的が分からず、怪訝な目で見るフランクリンだ。
「…これは?」
「漫画文化を広めるのが夢だって言ったでしょ?こっちの言語に翻訳してあるから、子どもでも読める。私が押し付けるだけだから、気が向いたら読んでみて」
ネテロからの依頼にかかわらず、流星街にはいずれ来たいと思っていたリンだ。
言語を翻訳してもそれを届ける事が出来なければ意味がない。特に流星街のような治外法権の街にはリン自ら出向く必要があったため、今回の機会はリンにとって丁度良いタイミングでもあった。
あっけらかんと答えるリンに、フランクリンは何と言えばいいかわからず思ったままの感想だけを辛うじて絞り出した。
「…お前、変な奴なんだな」
「そう?…いきなり押し付けて迷惑だったかしら」
流星街独自の言語をわざわざ習得して、しかも翻訳した書物をわざわざ作り持ってくる人間は未だかつて現れた事がない。
そのためフランクリンが驚くのも無理はなかったが、リンはなぜそんなに驚かれるのかが分からなかった。自分がやりたい事をやっているだけだからだ。
本気でわからないといった顔できょとんとしているリンを見ているうちに、疑いの目を向けている自分が馬鹿馬鹿しくなってきたフランクリンは、笑いながら背を向けて階段を上がり始めた。
「来い。長老に会わせてやる」
「ありがと。お願い」
その言葉に応じながら、リンは自分の倍はありそうな身長の男を改めて見た。
(『絶』を使ってる…この環境では少し不用心な気がするけど、長老宅での礼儀かしら)
目の前の男からはオーラの一切が見受けられない。見た目こそインパクトがあるが、実際かなり影が薄い状態になっており、リンも近くに来るまで気づけなかったほどだ。
敢えて絶を使う事で攻撃する意思がないと示すマナーかと思いそれに倣うべきかと思ったが、フランクリンからは何も指示されていない。
そして流星街でそんなマナーがあるという話は聞いた事もないため、ひとまずそのまま垂れ流しのオーラ偽装を続ける事にする。
階段を抜けた先、ひと際街の様子がよく見えるように設計された部屋にて、長老たちは座っていた。
窓は大きく嵌め込まれ、外なのではないかと錯覚するほどに日の光が部屋に差し込んでくる。
しわがれた声の老人は、どこを見ているのかわからないように設計されたガスマスクを通してリンに話しかけた。
「我らに恩を売りたい餓鬼とはお前か」
最低限不敬にならない程度に目の前の人間を観察する。
奇妙な布とガスマスク、萎びた手で権力者のそれらしき杖をついている長老は、その取り巻きを含め怪しい集団以外の何者でもない。
こんな人間を長老として慕うのだから、流星街はわからないとリンは思った。
(いや…慕ってるかどうかなんてわからないわね)
権力者という人間は、多くの場合はその人望ではなく権力者になるべくして生まれてきたために権力者たりえる。政治家や王族と似たようなものだと考えると、目の前の人間がこの街の最高権力者である事はそうおかしくないのかもしれない。
「ハンター協会から来ました、リン=フリークスです。初めまして」
礼儀として軽く頭を下げ挨拶したが、長老たちは微動だにしない。しかしクロロから話は通っているようで、すぐさま本題に入る事が出来た。
「…ゴミ掃除を頼みたい」
「ゴミ掃除?」
まさか、世界一ゴミが多いこの街で本当にゴミ掃除をしろなんて言うわけはない。マフィアからの支援物資のような、ゴミのふりをしたゴミでない物が紛れ込めなくなるからだ。
意味が分からないと言わんばかりな眼を向けるリンに、長老は相変わらずマスクを外す事もせずに言葉の続きを発した。静かな言葉とは裏腹に、オーラは激情的な色をしている。
「サイレントウルフ…静かなる人狼とも呼ばれる魔獣の一種だ。100年に一度、『外』からこの地にやって来ると言い伝えられている。それを全て駆除しろ」
「…情報はそれだけ?」
「そうだ。あとは『あいつら』と上手くやれ」
ようやくクロロの言っていた意味が分かった。旅団員と共に魔獣を討伐しろという事だろう。恐らくクロロ達は予め外部の人間と連携するように命令されていたに違いない。
(何か意外。幻影旅団でも流星街の命令を聞くんだ)
原作を知るリンにとって、幻影旅団とは異端な街の更に異端な存在。易々と命令を聞くとは思えなかった。しかしそれは逆に言えば、相手が流星街そのものを危機に晒すほどの敵である事を示している。
旅団メンバーが何人ここに居るかはわからないが、敵が『外』からやって来る以上猫の手も借りたいといったところだろうか。恐らくネテロはそこまで読んでいたのだろう。
(まったく…あのジジイ、どこまで知ってるのかしら)
リンの能力、クロロとの交友関係、もしかしたらそれらもお見通しなのかもしれないと冷たい汗が流れた。それをおくびにも出さず、了承の意を伝える。
「承知しました。…それで、
長老はそれには返事をしなかったが、元々返事を期待しての発言でもなかったため、気にせず退出しようと再度一礼した。それを見て何を思ったのか、枯れ木のような萎びた手がリンに伸びる。
長老は、リンの肩を叩こうと手を伸ばしたらしかった。一見するとそれは信頼や激励の表れだが、その手に妙なオーラを感知したリンは、反射的に身体を逸らす。
肩の上でメイメイが威嚇の唸り声をあげた。それを軽く手で制し、くるりと背を向けながら、顔だけで長老を見て不敵に笑いかける。
「ノータッチでお願いします。これでも年頃なの」
流星街は全てを受け入れる地だ。だが、よそ者には決して心を開く事はない。
長老はそれ以上何も言う事はなかった。
◇◇◇
「三分遅刻だぜフランクリン!」
階段を降りた先で待っていたフランクリンは、そのまま何も言わずリンを促し歩き出した。
先程同様に大きな背を追いかけながら着いた先は、長老宅とは比べ物にならない程に古びた廃屋。
野獣でも住んでいるのではないかと思わされるそこで、野獣のような低く大きな声を聴いたリンは、喜びのあまりフランクリンを追い越しその巨体に駆け寄った。
「ウボォーさん!」
リン的には少し悲しい理由とはいえ、共に冒険し自分を助けてくれた事もある相手だ。
かなり年も離れているため敬愛の意を込めて名を呼ぶと、ウボォーは驚いたようにリンの顔を見た。
「お、お前あの時のガキか」
「リン!リン=フリークス!」
一言目はウボォーに、そして二言目はフランクリンに自己紹介する意味も兼ねて言った。フランクリンもその意図を酌んだらしく、名前だけを簡潔に述べる。
「何だよ、今回の助っ人ってこいつか?」
「まあな。腕も確かだし、問題ないだろう」
オールバックにセットして完全に団長の仮面を被ったクロロが、使い勝手の良さそうな道具を紹介するようにリンを一瞥した。
随分と冷たい視線だがそれだけでもクロロの心境はウボォーに伝わったらしく、ニヤニヤと笑う。その表情の先に居るのは、勿論彼らの団長だ。
「なんだ、随分と可愛がってるんだな」
「先日の仕事に適任だったんだ。そのリターンとして今回の仕事を紹介した。一石二鳥だろ」
一見正論な意見だが、ウボォーには言い訳がましく聞こえたらしい。がははと豪快に笑い、その背中を音がするほどに強く叩いた。
「そう素っ気ない事言うなって!可愛がってた小娘ってのはいつの間にか生意気になって手元を離れてるもんだぜ、クロロよ」
ウボォーは誰かを思い出すかのように目を細めてリンを見、そのままクロロを見て笑った。リンを通して記憶の中の誰かを見ていたのは明白だ。
(そういえば、ウボォーさんって原作ではマチと昔馴染みだったっけ…?)
ウボォーの言う小娘とはマチだろうかと思いつつ、先日サイトで見かけた名前も同時に頭をよぎり何とも言えない気持ちになるリン。
(ウボォーさん、あなたの可愛がっていた小娘は今では重度の腐女子かもしれません)と心の中で呟いておく。あくまで心の中で、だ。
「…今は団長だ」
「おっと、そうだったな」
そう言いながらもさして悪びれた様子の無いウボォーに、クロロが小さくため息をついた。
当の本人は今の話など忘れたかのように、丁度新しく入ってきた二つの人影に目を向ける。
一見チンピラにも見える男と、それとは対照的な、しかし均整の取れた肉体を持つ優男。フィンクスとシャルナークだ。
「お前ら遅ェぞ!遅刻だ!!」
先程のように遅刻を責めるウボォー。かなり時間厳守に煩い性質ならしく、つけてもいない腕時計を指し示す様に自分の手首をバシバシと指で叩いた。
(これで全員かしら…旅団の中でも攻撃メンバー中心に集めた感じね)
「へーへー。助っ人とやらがいつ来るかわからんかったんだから、時間なんて別にいいだろ」
それを聞き飽きたとでも言わんばかりに耳をほじりながら返すフィンクス。ジャージと柄物の黒いTシャツを緩く着こなすその姿は、コンビニに買い物に来たチンピラにしか見えない。
「紹介するぜ、フィンクスとシャルナーク、うちのメンバーだ」
「リン=フリークスです」
意外と面倒見が良いらしいウボォーに促され、心持ち丁寧に挨拶をした。「よう」、「よろしく」と片手を上げる二人に、内心テンションが爆上げなリン。ゴンが試験を受けるまでに原作メンバー何人と会えるかが少し楽しみになってきた今日この頃だ。
「プロハンターだってね。主な功績は賞金首のハントらしいけど、俺達の事は捕まえないの?」
「知ってたの?」
リンの目線まで腰を曲げて頭を下げ、面白いものを見たと言いたげなシャルナークに、リンは驚いて言った。
シャルナークのその仕草は完全にリンを子ども扱いしているし少しばかり小馬鹿にしている気がしなくもないが、そこに悪意も感じない。恐らくは元々の癖なのだろう。
「これでも情報処理が担当なもんでね」
無邪気なオーラの色も、見た目と全く相違がない。
(団長の方針とはいえ、よくそんな奴を助っ人にしたわね…)
しかし誤解されても困るので、あるがままに答えておく。
「賞金首はただの小遣い稼ぎだし、明らかに勝てない相手に喧嘩を売る気はないわ。それにクロロとは持ちつ持たれつだし」
「へぇ、もっと義憤の強い子だと思ってた」
「そんなの強かったらA級盗賊と仲良くしてないわよ」
「あはは、確かに!」
リンの返答に、シャルナークは屈託のない笑顔で腹を抱えて笑った。ウボォーとはまた違った開けっ広げ感に、初対面だが少し好感を覚えるリン。
尤も、蜘蛛の参謀として働く瞬間、その表情とオーラは一瞬で変貌するのだろうが。
そして確かに現時点でのリンの経歴だけを見ると、正義感溢れるハンターに見えなくもないだろう。何となく癪なので、早く会社を大きくして功績を増やそうと決意する。
「団長、別に俺らだけでもいいんじゃねえの?」
そんなリンを値踏みするようにじろじろと眺めながら、フィンクスは明け透けに団長に文句を言った。クロロはさして動じるでもなく、淡々と言葉を返す。
「数は多い方が良いし、捨て駒はあって損がないからな」
「うわ酷ェ」
ストレートな言い分にフィンクスが軽く引いた声を出した。その顔には『お前の知り合いじゃねえのかよ』と書いてある。
盗賊の頭としては賢明な判断だが、さっきから酷い言われようだ。
そう言うのは旅団としては当然だし理解できるが、少々腹が立ったのでクロロの脛を蹴り飛ばすリン。戯れ程度だったため他の団員から咎められる事はなかったが、団長に害をなす者かという緊張感が一瞬走った。
「そういえば聞きたかったんだけど…フランクリン」
「何だ」
痛みに少しばかり眉を顰めるクロロを無視し、フランクリンに話しかける。本題に入る前に聞いておきたい事があったからだ。
「ずっと『絶』をしているのは、あなたの趣味か何か?」
「おっそうだ。俺も気になってたんだよ」
フィンクスの合いの手のおかげで先程の空気が一気に和んだ。クロロ以外の全員が事情を知らないらしく、リンの他ウボォー、フィンクス、シャルナークの視線がフランクリンに集中する。
「生憎だが望むべくしてなっているものではない」
そう言うフランクリンの陰から、一匹の念獣が飛び出した。
何処に隠れていたのかさっきまでは気づかなかったが、真っ黒な小悪魔を模したその念獣は明らかにフランクリンに取り憑いている様に見える。
「…何、これ。誰かに付けられたの?」
「そういう事だ。こいつのせいで念を使えない状態になっている」
「そういうわけで、俺は今回は参加できない」とフランクリンは軽く手を上げながら廃屋を出て行った。理由を求めるようにクロロを見ると、廃材に軽く腰かけ小さく口を開く。
「今回の目的はサイレントウルフの排除だが、それを邪魔する奴がいる。フランクリンはその中の一人にやられた」
「何だあいつ負けたのかよ!」
ウボォーを筆頭にゲラゲラと笑うクロロ以外の男性陣。これを察していたためフランクリンは何も言わずに戻ったのだろう。
一応仕事前の作戦会議中なのに、いい歳をした大人が子どもっぽく笑う。廃屋に響き渡る笑い声に軽く耳を塞ぎながら、リンは呆れ顔で彼らを見回した。
「聞いた話では、持久力も高く相当な実力者だ。リン、お前が相手をしろ」
「ハイハイ」
ひとしきり笑い旅団員が落ち着いた頃を見計らって、クロロが命令を出した。
旅団本拠地でもある流星街ではクロロの指示に従うのが無難だろう。しかし明らかに面倒どころを押し付けられていると辟易しながら、ため息とともに返事をする。
「サイレントウルフは流星街の西部から南部にかけてを壊滅させた。そのまま中心であるこちらにゆっくり向かって来ているとの事だから、そこを叩くぞ。ウボォーとフィンクスが前衛、シャルは俺と後衛だ。リンは能力者を潰した後俺達の所へ合流しろ。以上だ」
それぞれが個性溢れる返事をしながら立ち上がる。作戦会議はこれで終わりらしい。軽く伸びをしてメイメイを撫でながらリンも続いて建物を出た。