リンは、正直戦闘はそこまで好きではない。
無意味に死ぬかもしれないリスクなんて取りたくはないし、それならオーラを使って新しい高等応用技を考えたりする方が好きだ。
しかし、ナックルとの戦いでどうしようもなく気分が高揚している自分がいる。
似た感覚をかつて感じた気がして記憶を探り、それがG・Iやゾルディック家、ジンと過ごした日々に感じたものと同じであると思い当たった。
どうすれば勝てる?どうすれば負けない?死なない?
そんな複雑な思考を瞬時に行い、相手の意表を突いて攻撃する。くじら島で過ごす間に忘れていた感覚が蘇ってくるようだ。
心源流道場でも修行はしていたが、それとは異なる本当の命のやり取りに、何処かぞくぞくしている自分が間違いなく存在する。
ナックルは明らかに手練れの能力者だ。体格差や男女差も相まって、気を抜いていてはすぐにやられてしまうだろう。『堅』をより強固にし、再び構えを取った。
複数の念弾を作り出し、空中に浮かべる。
それら一つ一つを操作してナックルの周囲に移動させ、一気に中央へと集めた。
そうすれば、ナックルも避ける事は出来ず、オーラを集めた拳で弾き返すしかない。飛び散る念弾の隙間を掻い潜り、死角から腹部に掌底を叩きこむ。
『雷』
オーラを電気に変化させた性質変化の高等応用技。
相手によっては一撃で動きを止める事もできるものだが、『堅』が強固なのかそれともナックルに電気耐性があるのか、その動きは鈍る様子がなかった。
カウンターを狙ったナックルの拳を反対の手で受け流し、その腕を取って投げ飛ばす。
筋肉質の肉体は地面に激突する直前でバランスを整え、辛うじて四肢で着地をした。
「そろそろ本気で行かせてもらうぜ…!」
軽く血を吐き捨て、ナックルがオーラを練る。
『雷』の効果はなかったものの、掌底で内臓にかなりのダメージがあったらしかった。リンに対する危険度の認識を自己の中で引き上げ、全身の神経を集中させる。
それを見たリンも、ナックルの危険度を更に数段階改めざるを得なかった。
一段階、いや二段階上昇したと思わせる程のスピードでナックルが眼前に迫る。
オーラを変化させる時間も腕でガードする時間もなく、反射的に
強力な一撃が当たる寸前、数ミリの距離で具現化されたガラスに拳が当たり、ヒビを入れる。
(一撃で具現化した壁を砕くほどの攻撃力!)
しかし時間稼ぎにはなった。
その隙を見逃さずに横に逸れ、足払いをかける。僅かによろめいた所に一回転して追撃の回し蹴りを加えた。
これで倒れ込むと思われたが、ナックルの精神力と体幹の方が上だった。
倒れ込みそうになる方向に足を出して踏ん張り、勢いそのままにリンの頭上から拳をぶつけようと振りかぶった。
リンも辛うじて後退し、ナックルの拳は地面に埋まる。その衝撃で周囲の廃材が木端微塵に吹き飛んだ。
距離を取る事で免れた粉砕。オーラを纏っているとはいえ、直撃していれば骨に損傷も出ていたかもしれない。
自分の身代わりになった廃材の破片が飛び散って来るのを避けながら、ナックルを倒すための算段を立てる。
(ナックルの戦闘スタイルは明らかに近接型…。ならば念能力もそれに付随している可能性が高い!)
リンはポットクリンの名称や効果は辛うじて覚えているが、
しかし明らかにナックルが近接戦闘を狙って来ている以上、そこに関連する能力であると考えていた。
(例えば、一定回数殴ると強制的に『絶』にされる能力とか)
フランクリンがナックルによって『絶』状態にされている以上、ナックルの能力が条件を満たした時に起こる効果は対象の『絶』で間違いない。
そしてその条件は高確率で何かしらの攻撃を加える事で発動するものだ。
相手を『絶』にするという効果を考えるとその条件もかなりハードルが高いだろう。
少し攻撃された程度で簡単に条件を満たされるとも思わないが、近接攻撃によってポットクリンが発動し最終的に『絶』にするものだと予想を付ける。
それはナックルも全く同じ事を考えていた。
(俺とステゴロでやれるって事は近接戦経験がかなり深い!っつー事は念能力も近接系の可能性が高い!さっきのガラスみたいな能力も、本来は近接用に足場として使う役割のものだろう。念獣を連れているところを見るに俺と同じタイプか…?)
先程発動していた能力はどちらかと言えば補助的な役割のように見える。
一つの大きな能力と、それをサポートする能力を複数持つ能力者は多い。リンの戦い方を見るに、ガラスを具現化する能力は足場づくり及びガード等の補助能力。
勿論念である以上は別の効果を付与している可能性もあるが、念獣の方が明らかにコストが高い具現化であるため、メインはそちらなのだろう。
つまり、足場を作って近接戦に持ち込み、そこから肉弾戦もしくはカウンターを条件に発動する能力である可能性が高い。
ナックルの予想は間違っていない。実戦経験を豊富に積んだ念能力者の考え方だ。
唯一の誤算は、戦い方と念獣の有無からリンの能力が自分に近いものだと思い込んでしまった事。
リンが近接戦闘を進んで行うのは、能力の必要性からではない。父親の教育方針とリンの個人的な好みだ。
従って、必要ならば距離を取った戦闘も行う事ができる。これがナックルの能力とリンの能力の大きな相違点であった。
再び距離を詰めようとしたナックルに対し、先程までとは打って変わって距離を取るリン。必然、ナックルにも動揺が走った。
(急に逃げ腰になった!?近接型じゃねえのか!)
十数メートル離れた所で、リンが能力を発動させる。物質的質量を持たないために影は落ちないが、太陽を遮ってナックルの前に立ちはだかるそれは十分に存在感を感じさせた。
全長五メートルにも渡るオーラの塊。しかし黒衣でも纏っているように黒く色づき頭部にヤギの頭蓋骨を模した被り物をするその姿は、具現化能力なのかと見間違えそうになる。
だがその輪郭があやふやである事から、オーラで形成されていると気づくのはそう遅くない。むしろ輪郭がぼける事によってかえってそれらしく見えた。
数か月前に発現した数ある能力の一つ。リンの手とメイメイの手が同時に同じような動きを見せ、死神と化したオーラは動き出す。
リンと同じくらいに俊敏な動きを見せる巨大なオーラの塊。何とか避け続けるナックルだが、体格差の割に俊敏さがほぼ同じなのであればナックルには明らかに不利だ。
その場から一歩も動かず、しかし両手を動かす事で的確に追い詰めていく。
上から覆いかぶさるようにオーラを動かし、ナックルの逃げ場はどこにもなくなっていた。
そんな骨の形を模したオーラの両手が、ナックルの上半身を掴んだ。
(捉えた!)
完全に捉えたとリンは思った。あとはナックルに降参させるだけだ。しかしその読みは甘かった。
服を破り捨てたナックルが死神の拘束から脱出したからだ。瞬時に目の前から姿を消し、『絶』で居場所を探られないようにする。
(凄い気配の消し方!周囲を見渡しても土煙の動きさえ見つけられない!『円』を使うしかない!)
判断の鈍りは致命的な弱点となる。背後に迫る上裸になったナックルが、筋肉を隆起させオーラを瞬時に練った。
ナックルの裏拳がリンの後頭部に正確に当たった。同時に
廃棄物の上を何度かバウンドし、痛みに思わず唸る。
「痛…」
「その能力、大したもんだがでけぇ穴があるな?操作している間は動けねぇとかか?」
「…ま、正解ね」
リンがそう言うと同時に、ポットクリンが具現化されリンの傍に佇んだ。何かのマスコットを思わせるようなビジュアル、そして愛くるしい笑顔で宣告する。
「時間です、利息が付きます」
試しに軽く殴ってみるが、当然ポットクリンに効果はない。オーラで消し飛ばしてしまうかとも考えたが、意味はなさそうなのでやめておいた。
代わりにポットクリンの台詞から能力の考察をする。
(利息って事は金銭ではない。ここで考えられるのはオーラとか…あ、思い出した!)
ここでようやくナックルの能力を大方思い出したリン。
自分ばかり能力を当てられるのも悔しいので、判明したナックルの能力を言い当てる。
「そう言うナックルの能力は、殴った相手を一定時間で『絶』にするってとこかしら。オーラを貸して後は逃げ続けるのが定石の戦法ね」
「そういう事だ。だがお前が相手だとちっとばかし時間がかかりそうだからなぁ!トコトンやらせてもらうぜ!」
そう言って一気に距離を詰めるナックル。リンも再び
ああ言いつつも、その能力が最も活きるのがヒット&アウェイである以上ナックルはリンから距離を取ると思っていた。
しかし、ナックルは先程よりもより積極的にリンに攻撃を仕掛け始めた。それも足元を集中的に攻撃していく。
(的確に嫌なところを攻めてくる!)
ナックルの言う事はほぼ正解だ。
必然、足場が崩れたり攻撃を避けざるをえないならばオーラを動かす事ができない。
両足を地面に着ける事が出来ず、オーラの操作ができなくなったところを狙って腹部へ殴打を続けるナックル。このままではじり貧になるのは確実だ。
とどめとばかりにナックルの拳が地面に入り、周囲に地割れが起こった。
平坦な地面がなくなれば、
宙に跳び上がって回避したリンの姿は、土煙に混じって良く見えない。
足場を作って高いところまで飛んだのかと思いきや、上空にもリンの姿はなく、煙に混じって近くに居るのは確実だ。
しかし足場が不安定である以上、背後で静止している死神が動く事はないだろう。
「!?」
ずっと静止したままだった死神が動き出す。まさか足場があったのかと周囲を見るが、やはりどこも崩れた瓦礫だらけだ。
煙が晴れ、リンが姿を現した。その姿にナックルは思わず息を飲む。
ナックルが驚くのも無理はない。リンの身体が逆さまに、そして宙に浮いていたからだ。
蝙蝠のように逆さまに、しゃがみこんだ状態でぶら下がるリン。しかし肝心の足場がどこにもない。
(いや、よく見れば足場ができている!土煙の中で足場を作り、そこに小さくしゃがみこんでぶら下がったのか!ガラスに粘着する機能でもつけていたのか!?いや、そんな機能をつけたら制約が厳しくなるはずだ!だがあの足場能力にはそんな制約はなさそうだった!)
しかし考察をして種が分かったところで、その対策を考える時間はもうない。
オーラの死神が背後からナックルを捉えた。そのまま今度は決して離さないとでも言うように地面に倒れ込む。拘束するオーラが消えた時、眼前にはリンが居た。
仰向けに倒れたナックルにマウントポジションを取る。そして手をピストルの様な形にして、指先をナックルの喉元に突き付けた。
そこにはナックルに貸し付けられた分も加えた強力なオーラが含まれており、その気になれば簡単に喉元を貫くだろう。
「…参った」
硬直しながらもリンの手を見て、ナックルは絞り出すように呟いた。しかしまだリンの隣でポットクリンは飛び続けている。
「念を解除して」
「ああ」
それを聞いてリンもホッと息をつきナックルから離れた。ポットクリンも消え去り、完全に能力が解除されたらしい。
命の危機が去った事でナックルもむくりと身体を起こした。
ボロボロになったリンとは違い外傷はそこまで見当たらないが、口から血を流しているあたりダメージはかなりあったらしい。
そしてその瞳は何処か潤んでいる。リンはこめかみに垂れ続ける血を拭い、その顔を覗き込んだ。
「…泣いてる?」
「泣いてねぇ!!女に負けたくらいで泣くわけねぇだろが殺すぞコラぁ!!」
必死に涙を隠そうとしているナックルに、少しいたずら心が刺激されるリンである。
「そっか~泣いてないのかぁ~じゃあその目から出てるのは汗かなぁ?」
「ほざけぶっ飛ばすぞゴラァァ!!!…ぐすっ」
学生服を着てはいるが、ナックルは明らかにリンより年上だ。彼から見ればリンは確実に嫌なガキだろう。
しかしその言葉以上に責める事はなく、袖口でぐいと涙を拭くと覚悟を決めた眼でリンを見据えた。
「…殺せ。命乞いをする気はねぇ」
「いや…私別に殺人趣味ないし、結構です」
覚悟を決めてもらったところ悪いが、リンに人殺しの趣味はない。
必要なら躊躇うつもりはないが、少なくともここで必要とは到底思えなかった。
「やっぱりお前、良い奴だな」
リンがそう言うと、ナックルは呆れたように呟いた。別に自分を良い奴とも思っていないので、そんな称賛が痒いリンだ。
「…ハンター協会から来たって言ってたわよね?私、会長の依頼で流星街に来たんだけど、ナックル達は?」
しかし、勝ったのだから聞きたい事を教えてもらう権利くらいはあるだろうと思う。
ナックルの正面にある廃材に腰かけ、ずっと聞けなかった事を聞く。
戦闘前の会話では、どうやらナックルはリンが単独で流星街の依頼を受けたと思っているらしかった。
そんなリンの口から会長の名前が出てくるとは思わなかったようで、驚いてリンを見る。
「俺達も協会からの依頼だぜ?矛盾してんじゃねぇか」
「依頼主は?」
「確か…パリストン=ヒルっつってたな」
「…」
膝に頬杖をつきながら、じっと考える。何となく今回の全貌が見えてきた。
(なるほどなるほど…流星街と対立する形を取る事で会長に喧嘩を売りたいのね…)
ネテロの事だ。流星街の言い伝えや今起こっている事くらいは把握しているだろう。
リンが直接その助っ人を頼まれたわけでは無いが、あのタイミングで流星街に行けばサイレントウルフに関連する事を頼まれる公算は高い。
パリストンはその邪魔をするためにハンターを送り込んだのだろうか。
(いや、きっと逆ね)
ネテロは『流星街との関係改善』を依頼としていた。
つまり、ハンター協会と流星街の仲が悪くなる何かがあったという事になる。恐らくはパリストンが流星街の邪魔をしにかかったのが先だ。
考えが纏まったあたりで再度ナックルに質問を投げる。
「その依頼、周りに反対されたんじゃない?」
原作知識ではあるが、ナックルが親会長派である事を知っているため、パリストンに簡単に味方するようには見えない。
リンの質問にナックルは「よくわかったな」と言った後に頭を掻きながら少し気まずそうに目を逸らす。
「まぁな。師匠にはげんこつくらった」
「師匠の名前は?」
「モラウ=マッカーナーシ」
モラウの事は原作知識なしでもわかる。公にパリストンを批判する親会長派として、ハンター仲間の間でも有名だからだ。
先日ノワールと電話をした際に噂として聞いたのを思い出した。
「…モラウって、親会長派のハンターじゃなかった?あのジジイの意向を邪魔するような事したら、モラウさんも立場がないんじゃない?」
「…あ」
「そこまで頭が回ってなかった」と言うナックルに、リンは思わずため息をついた。考えなしな弟子を持って、師匠の苦労が思いやられるところだ。
「絶対怒られるじゃん。なんで師匠の反対押し切ってまでわざわざ依頼を受けたの?」
モラウの怒り顔が想像できたらしく少し落ち込んでいたナックルだったが、そう聞かれると胸を張り答えた。
「そりゃあ、頭ごなしに魔獣討伐なんざ、許せねえからだよ。てめぇの常識から外れてるからって簡単に切り捨てて良いわけがねぇ」
「…ナックルの方が良い奴だと思うわよ」
これはリンの本心だ。同時にかなり損な性格をしているとも言える。
その善良さがパリストンに付け込まれたのだろう。
そう思っていると、何処かから声が響いた。
「ナックル!あんた勝手に敵に絆されてんじゃないわよ!」
同時に上空から風を切る音が聴こえ見上げると、背中に翼の生えた女性の姿があった。十中八九そういった念能力なのだろう。
リンよりも背の高いその影はナックルの傍へ降り立ち、怒り心頭と言った様子でナックルに詰め寄る。
「おうイモコか!」
「おうじゃねーわ!つっかえないわね!パリストン様に顔向けできないじゃない!」
さして反省している様子のないナックルに青筋を立てているが、元の顔が童顔なせいでさして迫力はない。しかし声には十分にドスが効いている。
「鳩の持ち主?」
女性の能力が鳥関係である事から、先程捕まえた鳩の飼い主かと予想する。しかしそう言うと、彼女は冷たい目でリンを一瞥してきつく言い放った。
「違うわ。あなたに教える気はないけど」
ナックルには一方的に捲し立てている一方で、リンとは慣れあう気はないらしい。少し傷つくリンである。
オーラの色は理知的な青。情熱的な色を持つナックルとは正反対のタイプだ。
恐らく騙されてパリストンに従っているわけではない、根っからのパリストン派といったところだろうか。
リンがこのままサイレントウルフの討伐に向かおうとするならば、容赦なく邪魔をするだろう。
(んー、ここでは沈んでもらった方が早いかな…能力二ついっぺんに使っちゃったし、あの組み合わせだと一時間はクールタイムがありそう…)
武闘派のナックルとは違い、体格も良いわけでなければオーラ総量もそこまで多いわけではない。恐らく諜報員だ。
よって、リンの能力を使うよりも物理的に意識を飛ばした方が早い。
そう思い手刀の構えを取ったリンだったが、それよりもナックルがイモコを羽交い締めにする方が早かった。
「ここは俺が止める!先に行け!!」
ナックルは元々味方だったっけか?一変して行動が変わったナックルに、思わず疑問をぶつける。
「そんな簡単に寝返っちゃっていいの?」
「討伐はさせねぇよ!だが師匠の顔に泥も塗れねぇ!俺は俺の筋を通すだけだ!」
(やっぱ好きだわ、愛すべき馬鹿…!)
ナックルに軽く礼を言い、リンは走り出す。数十分前に感じた大きな生物の下へと。
死神は林檎しか食べない(グリムリーパー)
放出・操作系能力
体長約5メートルの死神を模したオーラを操作する能力
その両手に一度掴まれると、能力が解除されるまで離れる事はない
制約:発現には念獣の具現化をしていなければならない
操作には両足を面に着けている必要がある
誓約:特になし
本当はメイメイに死神コスチュームを着せたかったけど、念獣の服装で次に使う能力がばれたら能力沢山持ってる意味ないだろと思い泣く泣くボツになりました。
伯爵コスとか女神コスとかしてる所見たかった…。