リン=フリークスの冒険   作:夜桜百花

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星を流してみる【4】

 『波』で感知していた方角に向けて少し走ると、小さな山の様なシルエットが見えた。

 

 それが山などではなく生きた生物であると気づいたのはほんの数瞬後だ。

 近づくにつれて大きくなっていくそのサイズに冷や汗を流していると、リンの傍を弾丸の様な何かが通り過ぎた。

 それは少し離れた所に着地したらしく、同時に軽い地響きと衝撃音が起こる。

 

 こんなタイミングで隕石でも落ちてきたかと思ったがそんなわけはない。よくよく見てみれば、それはフィンクスであった。

 Tシャツも破けて逞しい上半身をあらわにしており、ジャージも破れこそしてはいないが泥だらけになっている。

 

「おう遅かったじゃねえかガキンチョ!」

 

 リンの姿に気づいたフィンクスが気軽な調子で声をかけた。まるでコンビニで偶然会った友人に声をかけるような口調だ。

 しかしその左腕は明らかに正しい方向を向いていないし、歩きながら血を吐き捨てている。リンがナックルと戦闘している間、彼らがどれだけ苦戦していたかは見て明らかだった。

 

「結構やばい感じ?」

「馬鹿言え。こっからだよ」

 

 そう言って腕を回しながら走るフィンクスに続き、リンも走る。遠目に見ても大きなシルエットは、近づくと更に大きくなっていく。

 

「でっか!!」

 

 思わずリンが叫んだのも無理はない。大き過ぎるからだ。

 

 人狼と言われたため、実際に見るまでは人間サイズの二足歩行狼の様な姿をイメージしていたリンだったが、その体長は10階建てのマンション近くある。

 

 身体の形状は人間に近いものの、体表にはびっしりと毛が生えており、鼻や耳などの主要感覚器官は人間と狼の中間の様なもの。なるほど確かに人間と狼の特徴を持つ『人狼』だ。

 

 大きなその生物はリンの体長以上もある目玉をぎょろりとリンに向け、唸るような声で言った。

 

『汝も今代の代表か』

「は?代表?」

 

 予想外にも、人狼の話す言語は共通語だった。クロロの傍まで来たところで立ち止まったリンに、コートも破けボロボロになったクロロが冷静に呟く。

 

「おとぎ話は本当だったらしいぞ」

「じゃあ、本当に暗黒大陸から来たって事?」

 

 サイレントウルフがリンに言葉を発したのはその一度のみだ。ウボォーやフィンクス、シャルナークをコバエの様に扱うその姿を眺めながら、リンは思わず呆然とする。

 

(これが暗黒大陸の標準サイズ…?こんなものが人類の住む区域の外側に居るの…?)

 

 勿論全ての生物がこの大きさというわけではないだろう。原作のキメラアントは人間と同じくらいのサイズだったし、五大厄災も新大陸紀行の記述ではそう大きすぎるものではなかった。

 

 しかし、『狼』とされるものがここまで大きいのならば、更に大きな生物が存在する事もまた想像に難くない。

 

(いや、考えるのは後だ。これを討伐できなければ明日すら来ない)

 

 息を整え、臨戦態勢に入る。クロロからは後衛の指示をされているためリン自身は肉弾戦にはならないが、ボロボロなクロロの様子を見るに用心した方が良いのは火を見るよりも明らかだった。

 

「私、援護しかできないわよ?一応負傷者なもんで」

「ああ、こっちで削る」

 

 ナックルとの戦闘は想定以上の被害をリンにもたらした。相変わらず頭部は血が流れ続けているし、細かい骨もいくつか折れており臓器にも傷がついている。致命傷を免れているのはある意味不幸中の幸いだ。

 

 垂れてくる血が目に入らないように拭いながら【死神は林檎しか食べない】(グリムリーパー)を発動する。

 

「盗賊の前で能力は晒したくないんじゃなかったのか?」

「ケースバイケース」

 

 こんな事態なのに相変わらず余裕めいた口調のクロロに軽く返しながら、目の前の敵に集中するリン。

 

 ウボォーの蹴りを防御態勢も取らずに足で受け止め、フィンクスの拳を難なく躱す。シャルナークは飛空艇の様な機械に乗り込んで頭上から攻撃しているが、それも効いている気配はない。

 

(シャルナークが漫画でも見た事ない能力を使ってるのは…クロロとのジョイント型かな。アンテナで操る能力だったと思うけど、それを使ってないところを見るに効果がなかったっぽいわね)

 

 ナックル同様にシャルナークの能力もうろ覚えのリンだが、操作系能力者であった事は覚えている。

 その能力ならサイレントウルフも操れるのではないかと思ったが、恐らく不発に終わったのだろう。暗黒大陸という規格外の地域に生息する生物だからか、シャルナークの能力が通用しない何かしらの理由があるのかはわからないが。

 

 リンが発動したオーラの死神は、がっしりとサイレントウルフの足を掴んだ。一度掴むと離さない念がしがみつき、その動きを止める。

 

(この大きさだと【透明な反射鏡】(ミラーミラージュ)で首を切断するのも難しい…それよりも避けられてウボォーさんたちに被害が及ぶ可能性が高いし)

 

 そもそも頭部自体が人間離れした視力でなければ見えない高さにある。目を凝らして人狼の大きさと自身が出せるガラス面の大きさを考えるが、かなり難しいであろう事だけはわかった。

 

 人狼の表皮が所々焦げていたり毛がむしられているのは、リンが居ない間に彼らが与えたダメージなのだろう。しかし決定打に欠けているのは明白だった。

 そして、『発』を使う気配はないが人狼のオーラは尋常じゃない程に溢れている。

 

 それは念能力を使いこなしているからではなく、単純なその生物の生命エネルギーなのだろう。

 

「っつ…!」

 

 もう片方の足も拘束できないかと死神を操作しようとするが、サイレントウルフの咆哮と共にその姿が搔き消えてしまった。

 規格外のオーラに具現化されていないただのオーラが押し負けてしまったらしい。個人の力量差が大き過ぎる。

 

「…これ、ジリ貧じゃない?辞世の句詠んだ方が良い?」

「何だそれは」

「…知らないならいいわ」

 

 ジャポン文化だと説明する元気もなく、ジョークも通じなかった事で無意味に精神を削られる。

 そんな事を言っている場合ではないのだが、自身の手札を通すには敵の規模があまりにも規格外だった。

 

(私が前線に立ったとしても…意味はないわね。少し注意を逸らす人間が増えるだけ。それならこうして足止めに回った方が現実的…)

 

 再び【死神は林檎しか食べない】(グリムリーパー)を発動させてサイレントウルフの動きを止めにかかるが、気休めにしかなっていないのは言うまでもなかった。オーラを操りながらも打開策を考える。

 

「…!何だこれ…デカすぎんだろオイ…!」

「ナックル!」

 

 交戦に夢中になっていたために周囲の気配に鈍感になっており気づかなかったが、いつの間にかナックルがすぐそばまで来ていた。

 隣にはイモコと呼ばれていた女性もおり、同様に愕然とした様子でただサイレントウルフを見上げている。

 

「…!こんな化け物だったなんて…!パリストン様は何を考えてるの?」

「こいつ、保護される気なんて更々ないわよ。むしろ試されてるのは私達。それでも邪魔する?」

 

 リンの言葉を肯定するように、サイレントウルフが咆哮をあげる。鼓膜が破れそうなほどの獣の叫びに、思わず耳を塞ぎながらイモコが叫んだ。

 

「無理よ!私達とは次元が違う!こんなのを保護だなんて、おこがましいにも程があるわ!」

 

 パリストンの命令とはいえ、ここに居る以上はイモコもナックル同様、自然生物系のハンターなのだろう。生物としての格の違いを思い知らされ、意思が折れたらしかった。

 

 しかし、彼らが仲間になった事で僅かながら勝機も見えた。ダメ元でもやらないよりはマシだと、やっつけの作戦を立てる。

 

「討伐か保護か…どっちにしても勝たなきゃいけないんだけどね…!ナックル!さっきの『発』をアレに打って!クロロ、私達で動きを止めるわよ!」

 

 クロロは聡い。ナックルに敗北したフランクリンの状態から、ナックルの念能力を瞬時に把握したらしかった。リンの言葉に軽く頷き、ウボォーたちに指示を与える。

 それを見たイモコも自分の役割を把握し、人狼の足から上へと登っていく。

 

【死神は林檎しか食べない】(グリムリーパー)

【透明な反射鏡】(ミラーミラージュ)

 

 オーラでサイレントウルフの足を掴むのに加え、ナックルの周囲に五枚、リンとクロロの正面斜め上に一枚のガラスを張る。

 ありったけの力で壊れないように具現化したそれは、他の防御は一切行わないという心持ちの覚悟でもあった。人によってはある種の縛りゲーにも見えるその行為は、誓約としてリンの念能力を一時的に引き上げる。

 

「絶対にこいつを離さないから!ナックルも守るから!安心して打ち込んで!」

 

 事実、リンは自分の持つオーラの全てを二つの能力につぎ込んでいる。自分自身は一切のオーラも纏わず、平面一枚の防御が崩れれば全ての攻撃が即死になる事は明らかだった。

 

 【天上天下唯我独損】(ハコワレ)によりポットクリンが発動する。全力の一撃により、小さな念獣は一気に等身大まで膨れ上がった。

 

「殴り続けりゃああぁああぁああぁ!!!!」

 

 通常ならばトリタテンに変化する条件達成までにどれほどの時間がかかるかわからないオーラ総量だが、ナックルはそこへ更に連撃を叩きこんだ。

 リン達がサイレントウルフを押さえつける中、永遠とも思えるナックルの猛攻が破壊音として響き渡る。

 

 再度、咆哮が響き渡った。全力を注いで死神が霧消しないように耐え抜くが、再三にわたる衝撃波による瓦礫と暴れ狂うサイレントウルフの腕が飛び交い、飛行機が墜落したような衝撃が具現化したガラスを通してリンの両手に伝わる。

 

(ナックルだけは絶対に守らないと!オーラの貸し借りである性質上、サイレントウルフの攻撃を受けてしまえば今までのナックルの攻撃が無駄になる!)

 

 クロロもリンと同様にサイレントウルフの動きを止めるのに注力している。その制約で行動を制限される事もあり、リン同様にこの場から動く気配はない。

 

 一際大きな瓦礫がリン達に飛んで来る。決してガードを破られないようにと力を入れたリンだったが、それは杞憂に終わった。

 

「団長命令だからね。あくまで君はついで」

 

リン達の前に立ちはだかったシャルナークが瓦礫を粉々に砕いたのだ。そのまま振り返り、「勘違いしないでね」と子どもの様に笑う。クロロが動かなかったのはシャルナークに自分たちを守るよう指示していたからだと察しがついた。

 

「シャル、そのまま頼む」

「アイサー!」

 

 リンとクロロが動きを止め、シャルナークが後衛組を守る。ウボォーとフィンクス、イモコが注意を逸らし、ナックルが能力を発動する。

 いくらかの時間が過ぎ、家一軒分くらいに膨れ上がったポットクリンが無機質な声で破産を告げた。同時にサイレントウルフから一切のオーラが消え失せる。

 

「イモコ今だ!アイツの注意を逸らせェ!!」

 

【箱庭の生物達】(アニメ―ガス)

 

 ナックルの叫びに呼応して、イモコが能力を発動した。人の大きさの巨大な鳩になったイモコは、空高く舞いサイレントウルフの目を突き刺す。

 痛みに声をあげた人狼を下から確認し、クロロが指示を出した。

 

「ウボォー、フィンクス!そいつを内側から破壊しろ!」

 

 どこからそんな力が出るんだという程にクロロが叫んだ。喉を傷めるのではないかと危惧する大きさの声は無事ウボォーたちに届いたらしく、数秒後には人狼の内側から異様な輝きが透けて見える程になった。

 

【超破壊拳】(ビックバンインパクト)

【廻天】(リッパー・サイクロトロン)

 

 身体を補強するオーラもなく筋肉による補強も期待できない内臓は、人間二人が行なった内側からの全力攻撃によってようやく破壊されたらしかった。

 

 皮膚こそ破壊されなかったものの口から滝の様な血を噴出し、満身創痍のリン達の頭上に降りかかる。

 避けるにも場所が見つからず、仕方なく目をガードしたリンだったが、気づけば空中に居た。

 

「あ、助けてくれたの?」

『…ここで見捨てたら寝覚めが悪いからね』

 

 大きな鳥に変化したイモコはその状態では会話ができないらしく、念字でリンに答えた。

 そのままウボォーとフィンクスも回収するようで、リン達を掴んだまま更に高度を上げる。大きな地響きと共に倒れ込むと思われたサイレントウルフの死骸だったが、どういうわけか二本足のまま直立していた。

 

『…正直驚いた。今代はかなりの粒揃いらしい』

 

 その声は今までの様に口から聴こえてくるのではなく、また別の、恐らく頭部から聴こえていた。声自体も肉声というよりはスピーカーの様な機械的なものを通している様に聴こえる。

 

「通信機?暗黒大陸から電波が届くなんてかなりの性能だね」

 

 二人を拾い、血の海が到達しない距離まで飛ぶ中でシャルナークが呑気に言った。本当に自分たちが死ぬ事は問題事項ではないのだと、わかってはいたがドン引きするリンだ。

 だがしかし何も言う必要はない。終わり良ければ総て良しという言葉もある。

 

(でも、暗黒大陸に一種の文明がある可能性はかなり高まったわね…人間に対する関係性が謎だけど)

 

 口に出さずとも、そんな事を考えている時点でリンの思考回路も似たようなものなのだが。

 

 少し離れた丘の上にイモコが降り立ち、全員が陸地に立つ。それを確認しているかの様に再びどこかから声がした。

 

『お前たちなら、いずれこちらに来る事もあるのだろう。歓迎する』

 

 それを最後にブツリと電源が切れるような音がした。同時に、ずっと立ち続けていた人狼が糸の切れたマリオネットの様に地面に倒れ込む。周囲には巨大地震かと思うような振動が起こった。

 

 それすらも落ち着いたところで、リンは思わず地面に座り込んだ。激しい戦闘により近辺の廃棄物は全て吹き飛んでいた。

 

「あ~生き延びたぁ…」

 

 今回ばかりは本当に死を覚悟したリン。常識を超える存在とはこんなにも恐ろしく…気分を高揚させるものなのだと思い知らされた。

 

「ご苦労だったな。…で、こいつらはどうするんだリン。通常は流星街に害を与えるものとして排除する事になるんだが」

 

 そう言ったクロロが横目でナックルとイモコを見る。そう言われるまで考えていなかったが、リンから見たナックル達とクロロから見たナックル達は全く別の人物として映っている事に気づいた。

 

 リンから見たナックル達はパリストンに使われてサイレントウルフの保護をしに来た存在。その目的から、偶然流星街及び彼らに雇われたリンと対立する事になった。

 一方で、クロロ達流星街の住民にとっては自分たちと対立する存在は等しく排除対象だ。そこには理由も志も存在しない。

 

 リンが口を開きかけた時、視界の端を白い鳥が横切った。

 

「おっ、何だこいつ」

 

 瞬間、クロロを狙って飛んできた一羽の鳩を野生的な勘でウボォーが捕らえた。片手を軽く開き、ばたばたと暴れる鳩を眺める。

 

「こんなんじゃ腹の足しにもなんねぇよ」

「あ、ウボォーさんそれたぶん食べちゃ駄目」

 

 リンの言葉に殺気のオーラが消えた鳩を確認し、クロロが頷く。渋々ウボォーが鳩を解放すると、そのままリンの頭に乗って喋り出した。

 

『姉さんを虐めないで!』

 

 鳩にちょっかいをかけたがるメイメイを胸に抱き、見えはしないが心持ち頭の上に視線をやる。イモコにそっくりな女性の声と話す内容からして、ナックル達の関係者だろうと予想をつけた。

 

「…あなたは?」

「ああ、イトコつって、俺達の仲間の一人だ」

 

 予想は正解だったらしい。どちらにせよリンの回答は決まっていたが、一息ついて立ち上がり、埃を掃いながらクロロに顔を向けた。

 

「クロロ、悪いけど長老にはこいつらの事、私の仲間だって言っておいてくれない?お互い無意味な揉め事は嫌でしょ」

 

 ここでクロロがナックル達の事を報告すれば、流星街とハンター協会及びマフィアを巻き込んだ大きな戦争になるだろう。

 クロロ達としてもそれは避けたかったらしく、一言肯定だけを返した。

 

 続いてイモコたちに歩み寄る。この場でリンが最も仲介に適した立場である以上、多少面倒だが最後まで始末をつける所存のリンだ。

 

「パリストンは本当にサイレントウルフの保護をしたかったわけじゃないでしょうし、ここはこっちを優先してくれない?ていうかもう駆除しちゃったからどうしようもないけど」

「…ん。まあ今回の件で私もパリストン様を見る目が少し変わったし」

 

「あんなのが居る大陸には私行けないわ」とぼやくイモコだが、自分がかなりの重要情報を漏らしているのには気づいていないらしい。

 原作知識で知ってはいたリンだが、イモコのために敢えて聞かなかった事にしておく。

 

「んな簡単に意見曲げちまっていいのかよ?イトコの意見も聞かねえでよ」

 

 呆れたようにツッコミを入れるナックルに、イモコはその数倍は冷めた視線を向けた。

 

「お前が言うな。どうせイトコは部屋から出てこないし決定権は私」

 

 そりゃあ、勘違いを正すや簡単に寝返ったナックルには言われたくないだろう。

 リンからすればどっちもどっちだが、ここでの一番の被害者が知らない間に方針を決められたイトコという女性である事は間違いなかった。

 

『姉さん酷い!パリストンさんにだって姉さんが勝手に心酔してたのに!』

 

 姉とは時に横暴なものだ。自分も無意識にやっているのではないかと内心危惧するリン。今度くじら島に帰ったら愛情の押し売りをせず、ゴンに少し優しくしようと心に誓った。

 

 とはいえイトコはイモコの意見に反対ではないらしい。イモコを軽く突くのをやめ、イモコの頭に乗ってリンに顔を向けた。

 

『私の大事な友達を二度も逃がしてくれたんだから、この人は良い人です。だから、私は異論ありません』

「こっちが鳩の飼い主だったのね」

 

 ともかく、それならばもう何も問題はない。何か今回の件で問題が生じた時のためにナックル達と連絡先を交換だけしておく。

 

 ひとまず解散だ。これで今回の一件は収まりがつくだろう。

 そう思いながら安堵のため息をついていると、ナックルがリンを見てぼやいた。

 

「リン。お前、会長に信頼されてんだな」

 

 ナックルの言葉に、思わず吐き気で口元を押さえるリン。気分を治すためにパタパタと手で風を送りながら、軽くナックルを睨みつけた。

 

「まさか。私はすぐにでも死んでもらいたいわよあんなジジイ」

「好きと信頼はちげーよ。お前ェと会長の関係は知らねーが、協会内部の揉め事にお前を使ったって事は、お前ならうまくやれるって確信があったって事だろーがよ」

「どうだか。たまたま良い捨て石が転がり込んできたくらいにしか思ってないんじゃない?」

 

 うえーっと舌を出すリンの反応にナックルは何とも言えないような表情をした。触れると面倒な話題だと理解したらしい。

 

「ま、今回はこれで手打ちとしようや」

「そうね。じゃあまたどこかで」

 

 そう言ってナックル達は一足先に帰っていった。イモコの能力を使って空を飛んでいく二人と一匹に、どのようにしてナックルがフランクリンに勝ったのか何となく想像がついたリンだ。

 

(動物を操る能力と動物になる能力…かな?面白いモノ見れた)

 

 あとにはリンと幻影旅団だけが残された。

 

 サイレントウルフの死骸は流星街で回収するらしく、クロロ達と連れ立ってリンも来た道を戻る。周囲数十メートルに渡って一切の瓦礫がなくなった道を歩きながら、シャルナークがリンの顔を覗き込んだ。

 

「一緒に連れて帰って貰わなくてよかったの?」

「私の依頼主はここの長老だからね。報告してからゆっくり帰るわ」

 

 リンの言葉に、シャルナークは「そ」とだけ相槌を打った。

 

 あの長老にわざわざ報告する必要があるかは疑問だが、これでも仕事だ。義理は果たしておきたい。

 だがついでに軽く観光でもと思っているリンは、流星街を聖地としか思っていない。

 

「ま、何はともあれ一件落着って事だね」

 

 そう言うと記念に撮影でもと思ったらしく、シャルナークが携帯を内カメラにして自分たちに向けた。それに気づいたリンも反射的に両手でピースをする。

 

 全員がカメラ目線であってほしいとは思っていなかったらしく、旅団員の反応を待たずにあっさりとシャッターは切られた。

 

 撮られた写真を確認しに近づいてきたウボォーを眺めながら、リンもポケットに仕舞っていた携帯を取り出す。

 

「写真欲しいから送って」

「いいよ、アドレス教えて」

 

 こうしてあっさりシャルナークの連絡先をゲットしたリンである。

 

 シャルナークは写真を撮り慣れているらしく、送られてきた写真を確認するとあんな急に撮ったのにもかかわらず全員がばっちり画面の中に納まっていた。

 誰もがボロボロで血を流し、ちょっとしたスプラッタな光景だがこれも記念だと納得する。

 

 人差し指を唇に当て、自分にできる精一杯の妖艶な顔でリンはシャルナークに顔を向けた。

 

「ありがと。お礼にチューしてあげる」

 

「ウボォーさんが」と付け加えると、ノリの良いウボォーがシャルナークに顔を近づけてくれた。

「やめろ!」という悲痛な叫び声を聴きながら、彼らをバックにリンも内カメラで写真を撮る。

 

 二人の騒ぎ声に今度はクロロとフィンクスも気づいたらしく、ゲラゲラと指差して笑うフィンクスも、静かにそれを見守るクロロもカメラ目線だ。

 登録されたばかりのアドレスに写真を送り、リンも同じように笑った。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「ドアホ!だから言っただろうがパリストンの言う事は真に受けるなって!!」

 

 本拠地に戻り、ナックルは早速師匠であるモラウ=マッカーナーシに叱られていた。本日三発目の拳骨を貰いながら潔く頭を下げる。

 

「すんません!師匠!!」

 

 ちなみに、一発目は帰った直後、二発目は流星街に行っていたと報告した直後だ。

 サイレントウルフの保護と銘打ったパリストンに踊らされる手駒の役割を果たしてしまったと説明したところで、当然ながら三発目の拳骨と相成った。

 

「…で?どうだったよ」

 

 何だかんだ言いながらもモラウはナックルの師匠だ。弟子がどんなハントをしたか、ハントを通してどの様に成長したかは非常に気になるところらしい。

 敬愛する師匠からの質問に、ナックルは堂々と答えた。

 

「良いダチができました!」

「馬鹿野郎、仕事の結果を聞いてんだよ!」

 

 四発目の拳骨を喰らったのは言うまでもない。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 その後、クロロに連れられてリンは流星街のはずれに位置する墓地に来ていた。

 墓地はそう街から離れた所にあるわけではなく、街が十分に見える距離にひっそりと佇んでいた。不法投棄物の街である流星街だが、この場所だけは綺麗に整えられている。

 

 この世界でも公の宗教として機能しているキリスト教は流星街でも一般的宗教らしく、墓地には簡素ながらも沢山の十字架が建てられている。

 

 その中の一つ、最近建てられたというにはかなり古い墓の前に立ち、クロロは静かにしゃがみこんだ。

 

「この墓は?」

 

 同じように隣にしゃがみこんで墓を眺める。

 墓石が小さいあまり遠目で見るとわからなかったが、墓には流星街の言語で小さく『サラサ』と刻まれていた。風化具合を見るに十年ほど前に刻まれたものだろう。

 

「古い知人の墓だ。ジャポンに憧れを持っていた」

 

 淡々と話すクロロのオーラは僅かにほの暗い色をしている。それだけを言うと、隠者の書を取り出して墓前に置いた。

 

 じっと眺めるクロロを横目で見ながら、何となく手を合わせ故人への祈りを捧げる。

 数分の間、どちらとも話す気にならず、無言で墓を見つめていた。

 

 暫くすると気が済んだらしく、クロロは置いていた巻物を持って立ち上がり、それをリンに向けて差し出した。

 

「さ、用は済んだ。よく働いてくれたし、これはやるよ」

 

 クロロの言っている意味が分からず、隠者の書を眺める。

 リンは助っ人として参加しただけであって、このハントはクロロのものだ。当然報酬もクロロに権利がある。

 

 不思議そうな表情を隠さずにいるリンに、クロロは静かに言った。

 

「『隠者の書に興味はなかったんじゃないか』と言っていたな。半分正解だ。俺が少し感傷に浸りたくなったからであって、別に無くても困るものじゃなかった」

 

 だが、半分は間違いだ。クロロはハントで得られた報酬を、古い知人とやらに見せたかったのだろう。そんな大切な物を黙って貰う気にはなれず、差し出された巻物を片手で制した。

 

「悪いけど受け取れないわ。そのまま墓に埋めてやったら?」

 

 そう言えば引っ込めると思われた手は、変わらずにリンの前に差し出されている。

 

「埋めても土になるだけだし売り飛ばす気にもならない。それなら子孫かもしれない人間に渡すのが筋だろう」

「…そう」

 

 そこまで言われるともう断る理由が見つからない。

 一言礼を言い、隠者の書を受け取った。ただのハント報酬くらいに思っていた古い巻物だが、ずっしりと重く感じるのは気のせいではないだろう。

 

「クロロって墓参りとかするのね」

「俺は無神論者だが、死者の魂は信じているからな。古い仲間を慰める事ができたらと思っただけだ…まあ、ただの気まぐれさ」

 

 とても盗賊とは思えない言葉だ。友人への思いやりと慈愛に満ちている。

 何年も前に起きた仲間の死を今も引き摺るような人間が、この先起こる未来を受け入れられるとは思えない。

 そう思ったリンは、歩き出そうとするクロロを巻物片手に引き留めた。ここが二人で話せる最後のチャンスだった。

 

「やめた方が良いんじゃない?」

 

 リンの言葉にクロロはぴたりと足を止めた。脈絡のない唐突な一言に、意味が分からないといった表情だ。当然、その口からは疑問が出る。

 

「何をだ?」

「あちこちで恨み買うの。まあ、もう遅いかもだけど」

 

 そう言うリンの頭にあるのはクラピカの存在だ。彼は自らの命を差し出してでも復讐を成し遂げようとするだろう。

 そして、恨みを買ったわけではないがヒソカの存在もある。スイッチが入った殺人鬼は、情け容赦の一片もなくクロロの仲間を減らしていく。

 

「十数人もメンバー抱えて悪い事続けて、真っ当に死ねるわけないじゃない。後悔するわよ」

 

 クロロは黙っている。わざわざ盗賊にそんな忠告をする目の前の子どもの意図がわからない様子だった。それを気にせずにリンは言葉を続ける。

 

「仲間の死を悼む人間が、仲間の死に無関心でいられるわけがない。オーラの色に全部出てる。『団長』だって人間よ。役者だって人間なんだから」

「…そんな葛藤はとっくに乗り越えたさ。そもそも、悪党にそんな願いはない」

 

 必要ならば頭も切り捨てるのが団長としてのクロロの考え方だ。自然と、旅団の全員が同様の意思を持っていると考えている。

 それが間違っている事を、おぼろげながら原作を知るリンは知っている。だが、そんなものが無くても旅団員の振る舞いを見ていれば簡単にわかる事だった。

 

「私はウボォーさんたちしか知らないけど、彼らが冷酷な人間には見えないけどね」

 

 死を受け入れる事は出来るだろう。だが、仲間を救える選択肢がある時にそれを切り捨てられる程、旅団は冷酷になり切れない。互いに向けるオーラを視れば、リンには手に取るように分かった。

 

「随分な言いようだな」

「そう見えるんだから仕方ないわ。メジャーな社会においては異端でも、流星街のルールにおいて彼らは人道的よ」

 

 複数の根拠があるからこそ、クロロの文句にも平然と返す。

 

「…本当に、少し見ない間に随分と成長したんだな」

 

 嫌味なのかそれとも感嘆なのか、呟いたクロロにリンは小さく笑った。

 

「言ったでしょ、思春期なの。まだまだ伸び代は大きいわよ?」

 

 一つの物語を見終えた鳩が、何処かへと飛び去って行った。

 




箱庭の生物達(アニメ―ガス)
変化系能力

イモコの能力
予め定めたいくつかの動物の姿に自分を変化させる
感覚器官や運動器官は変化対象に依存する
大きさは人間サイズのまま

制約:一日二回までしか変身できない
定めた動物の一部を肌身離さず身に着けている事
誓約:なし


林檎を持つ者達(ホワイトスノウ)
操作系能力

イトコの能力
自身が使役する動物たちの五感及び行動権を自分のものとして使用する

制約:能力発動中、能力者は自室から出てはいけない
使役する動物たちのすべての世話をする
誓約:なし
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