ある意味予想外の収穫とも言えるが、プロハンターの印籠の下に
ゲンスルーを割と無理やりな方法で犯罪者に仕立て上げたが、そこはゲンスルーとて腕利きの念能力者。当然、簡単に掴まってはくれなかった。そこでノワールが『発』を使用した。
メンチの邸宅で作戦会議をした際に互いの念能力を初めて明かしたが、ノワールの念能力は具現化した三台のビデオカメラのレンズが捉えた相手の動きを止めるというもの。対象は能力の発動もできないが、制約として能力発動中のノワールは『絶』状態になる。
結果、ノワールは外に出ずに宿で待機して、残る二人で急ぎ最低三人分の脱出手段を探す必要が出てきた。ノワールとゲンスルー、そして護衛の分だ。
試しにリンとメンチが街中でNPC相手に思いつくキーワードで聞き込みをしていたところ、『リタイア』『諦める』という言葉で引っかかった。
弓の名手である男が天狗になっているので、その鼻っ柱をへし折ってほしいというものだ。キーワードといい内容といい、得られる報酬は望みのカードに関連している可能性が高い。
一種のクエストと理解してそれを引き受けると、少し歩いた先にある草原へと案内され、今に至る。
「この距離から的を射るのは、生まれた時から神童と言われた俺でも不可能だ」
500メートル先の的を目掛けて矢を放ち、的に当たれば勝ち。システム的に言うとそういうミニゲームらしい。ストーリー的には二人が弓矢の達人に勝負を挑んだ事になっているが。
(操作系の応用で矢にオーラを纏わせ、的に当てるって感じかな…結構面倒くさそう)
細かい作業が苦手なリンは早くもげんなりしている。イルミならできるのかもしれないが、リンは遠投するくらいなら直接走って攻撃する方が好きだ。
対照的にメンチは自信満々の様子だ。男の持つ弓に目をやり、指差した。
「それ、弓じゃないと駄目なの?」
「いや、的に当てる事ができれば弓じゃなくても構わないが…姉ちゃんら、遠くまで飛ぶモン持ってねぇだろ?」
「問題ないわ」
そう言うとメンチは腰に着けていた包丁を取り出し、大きく振りかぶって投げた。
風を斬る音と共に遠くでドスッという音が聴こえ、目を凝らすと遠くで的が倒れているのが見える。
(剛腕!かつやっべぇ命中率!!)
これにはリンも、青年も驚きを隠せなかった。明らかにゲーム開発者が想定していた攻略方法ではないだろう。
「流石メンチ…」
「ふふん、これくらいできないと美食ハンターやってらんないのよ」
(何それ美食ハンターロード険しくない?)
そう思ったが、何も言わずに拍手するに留めておく。メンチが凄いのは明らかだからだ。
「まさかこれほどの才能を持つ者がいるとは…俺の修行の日々は何だったんだ…」
男はそう言うとぼふんというゲームの効果音染みた音と共に煙に消え、後にはカードが残っていた。
「『挫折の弓』だってさ。これで10回
「本当に挫折してたわね」
ドライに感想を言い合うリンとメンチ。NPCとはいえ、青年の挫折を何だと思っているのだろうか。
「あ、ちょっと待って」
ノワールの下へ戻ろうとしたメンチを、リンが呼び止めた。メンチが振り向くと、リンはかなり真剣な表情でカードと睨めっこをしている。
「何?」
「これ、指定ポケットカードだわ。ついでに保存用も取っとこう」
かくして名もない弓矢の名手は二度の挫折を味わう事となった。
◇◇◇
「もしもし、ゴンが私に電話かけてなかった?」
メンチの屋敷でノワールが呼んだハンターを待ちながら、リンはゲームにいる間にかかってきていたらしい電話を折り返していた。
当初はノワールと付き添いの誰かがゲンスルーを連れて行くという予定だったが、嬉しい誤算で大量の
見張りは何人いても良い。それほどにゲンスルーの能力は脅威であり、『絶』状態のノワールは外界からの攻撃に弱い状態にある。
電話に出たミトにそう聞くと、ミトは少し申し訳なさそうに返した。
『ごめんなさい、今日は私なの…』
「ううん。でも珍しいね、どうしたの?」
『うー、あのね…うん…』
自らかけてきた割には、ミトの言葉はかなりもごついたものだ。何か言おうとしてはため息をつき、一向に本題に触れない。
しかしその理由に心当たりがあるリンは敢えて直球で切り込んだ。
「もしかしてカイトの事?」
『ええっ、何か聞いてた?』
どうやら図星だったらしい。初めてミトに会った時の花が咲いた様なカイトのオーラを思い出しながら少し笑い、慌てた様子のミトに返事をする。
「何も。でもカイト、ミトさんに一目惚れしてたから」
リンがそう言うと、ミトは観念したらしかった。大きなため息をつき、情けない声で事情を説明する。電話の向こうで額に手を当て半べそ顔をしているのが目に浮かぶようだ。
『告白されたのよぉ…どうしたらいいかわからなくて、思わずリンに電話しちゃったの…ごめんなさいね』
くじら島には、ミトと同年代の女性は居ない。その上若い頃からリンとゴンを育ててきた事もあり、ミトの恋愛経験はかなり薄い。狙っている男は数多くいるが、互いに牽制し合い高嶺の花と化しているのが実情だ。
リンを我が子の様に思っているミトだが、恋愛の話を相談するにあたって他に適した相手を見つける事が出来なかったのだろう。リンとカイトが同業者であり、説明が簡単なのも理由かもしれない。
ミトの申し訳なさそうな謝罪に「大丈夫」と応じつつ、真剣に恋愛相談に乗る事にする。これでも転生者だ。同年代よりも多少は…本当に多少は、相談相手としての役目を果たせるだろう。
「ミトさんはカイトの事好きなの?」
『良い人だとは思うわ。…でも、ハンターなのが気になっちゃって』
尤もだとリンは思わず頷いた。リンやゴンがハンターを目指すのをあれ程に反対する人が、ハンターと交際するのに二の足を踏むのは当然とも言える。
(というかミトさん、ハンターは皆クソ親父みたいなのだと思ってるとこあるし)
カイトとしては心外だろう。ジンとカイトの師弟生活がどのようなものだったかは知らないが、カイトが一方的に振り回された事だけは容易に想像がつくからだ。
ジン=フリークス被害者の会仲間として、リンとしては是非ともカイトには幸せになってもらいたいところである。
「ミトさん、カイトは親父とは別の人間よ。それを踏まえてゆっくり考えてみてもいいんじゃない?」
『そうね…カイトさん、ジンを見つけたら付き合ってほしいって言ってたの。まだ時間もありそうだし、それまでゆっくり考えてみる』
「あー。…うん」
微妙な返事になりつつも返し、通話を切る。なんとも言えない気持ちで思わず天井を見上げた。
(カイト…ミトさんの事は応援するけど、無駄にフラグ染みた発言するのはやめてほしいかな…)
カイトは一級フラグ建築士だったか。キメラアント編の事もあるので言動には注意してほしいと思うリンだ。
それでも、ミトに春が来そうなのは純粋に嬉しい。カイトがハンターであるため頻繁にくじら島にいけないのは少々問題だが、カイトは良い男だとリンは思う。
そんなカイトの想像以上に純情な恋愛模様を想像して、思わず笑いが漏れた。
「リンー、護送してくれるハンター来たわよ」
くすくす笑っているとメンチに呼ばれ、玄関に顔を出す。丁度メンチとノワールも外に出た所だったらしく、三人揃って担当してくれるハンターと対面した。
(牛だ…)
(牛ね…)
誰もが思うであろう第一印象に、リンとメンチは無言で目配せした。礼儀上かはたまた慣れているのか、ノワールはいつも通りの口調で男に話しかける。
「ミザイさん、わざわざあなたが出向いてくださったんですか?」
ノワールが話しかけた男、ミザイストム=ナナは有名なダブルの
(あのジジイのためにこんなファッションしてるの?正気?あなたのアイデンティティ、本当にそれでいいの?)
実際に口にはしないものの、そんな気持ちでいっぱいになるリン。
「ああ、『極悪な』痴漢だと聞いてな…こいつがそうか?」
『丑』を模したホルスタイン模様の服に牛の角を模した帽子。ギャグのようにも思えるファッションだが、当の本人は大真面目に腕組みをして犯罪者を見ている。メンチが手をひらひらさせながら説明を付け加えた。
「ええ。具体的には人を何十人も殺してるレベル」
「痴漢がか?それは確かに極悪だな」
絶妙に会話が嚙み合っていない。面倒なので詳しい説明は常識人のノワールに押し付ける事にしたリンだ。
どちらにせよ、念能力が知れれば
「ノワール、この人十二支んのミザイストムさんじゃん。どこで知り合ったの?」
「俺の念の師匠なんだよ。犯罪や法律にも詳しくて、国を建て直す時にかなりお世話になった」
そう言ったノワールに促され、メンチとリンはそれぞれ挨拶する。予想通りというか、リンのファミリーネームを聞いた瞬間、ミザイストムの眉がピクリと動いた。
「フリークス…って事は、君がプロハンターになったっていうジンの娘か」
「うちのクソ親父がいつも大変ご迷惑をおかけしています…」
十二支んともなればジンに迷惑をかけられた頻度は他のハンターの比ではないだろう。いつにも増して深々と頭を下げるリンだ。
「ああいや、君が謝る事はないよ。まあ迷惑をかけられているのは否定しないが、あのジンだからな…」
プロハンターの中でも上位に君臨する有名人にそう言われ、顔から火が出そうな程に恥ずかしい。今この瞬間、『ジンの娘なのが恥ずかしいレコード』の最高記録を更新した。
「だが娘の君がこんなにしっかりしている子で安心したよ。メンチも共に極悪犯逮捕に協力してくれて、感謝する。…君達の様なハンターが増えればいいんだけどね」
「いや、ミザイさん…この二人はその…」
あなたが思っている程この二人はまともじゃありませんよと言おうとするノワールだが、若きハンターの熱意に感動するミザイストムの耳には入らない。
メンチに肘鉄を入れられた事もあり、ノワールは目を閉じて何も考えない事にした。俺はただの傍観者、俺はただの傍観者…。
◇◇◇
恋愛都市アイアイ。出会いと恋の街だと銘打ってはいるが、リン達は純粋にカード集めと人物探しにここへきている。城の周りに浮かぶハート形の風船には顔が描かれており、生きているかのように謎の鳴き声を発していた。
「あいーんて。いや、あいーんて。どこから音鳴ってるのかしら」
ゲンスルーを引き渡して再度ゲームに入り直し数日。アントキバでさして有益な情報を得られなかったリン達は、拠点を移し捜索を続けている。
メンチが言う通り、あいーん、あいーんと謎の鳴き声の様なものが聴こえる街。歩けばベタベタに手垢の付いた恋愛フラグが立つ。その中でもさっきからノワールのフラグ率は異様だ。
「ねえお兄さん、今一人ですかぁ?」
「いや、見ての通り連れがいるが…」
「ええ~やだぁ、そんなのより私達と遊びましょうよぉ」
「そうそう!今男の人が足りなくて困ってるの!!」
曲がり角でぶつかる少女、眼鏡を探す少女、道に迷う少女…NPCだからと説得して何とかフラグ回避をしていたが、とうとう押しの強い逆ナンギャルに取り囲まれている。
「いや、その…」
やんわり拒否しようとするが女性たちの押しが強く、更に集まってきた女性たちによってノワールは城へと連れて行かれてしまった。
「イケメンは罪ね」
「連れて行かれた先におとなしい美少女がいて恋に落ちるパターンと見た」
唯一の男性がピーチ姫よろしくギャルに連れ去られる姿を冷静に眺めるリンとメンチ。
マリオになる気はさらさらない。放っておけばそのうち帰って来るだろう。
「す、すみませんお姉さん…その、俺、一目見てお姉さんの事良いなって思っちゃって…」
その声に二人が振り返ると、そこにはおどおどした子犬の様なイケメンが立っていた。明るめの茶髪に染めていて軟派な男なのかと思いきや、これ以上ないくらいに緊張した様子でメンチを見つめている。
(あ、ヤバ。こいつメンチのタイプだ)
メンチはわんこ系男子に弱い。特に年下に弱い。現にメンチのオーラは明るいピンク色に染まっている。うるうるとした目で上目遣いに見上げられれば、メンチの心臓にドスっと何かが刺さった音が聴こえた。
「連絡先、交換して貰えますか?」
「勿論!」
そう言ったメンチは、リンには目もくれず青年について行く。
後にはリン一人がぽつんと残された。仕方ないので、一人街をうろついて回る。
(恋愛の街ですら非モテとか…流石に落ち込むわ)
顔面補正でナンパされる確率が決められていたりするのだろうか?いや、曲がりなりにも主人公の姉だ。それなりに顔が整っている自覚はある。それならば溢れ出るオタクオーラとか?
どういうわけか、アイアイに到着してから終始一貫して、リンに声をかけてくる異性は現れない。
それはゲームだろうが娘に恋愛をさせたくないジンが施したプロテクト機能なのだが、リンがそれを知ることはない。
(恋愛都市なのに男同士の恋が無いってどういう事よ…あ、でも攻略だからどの道自分が恋愛をしないと駄目か)
来ておいて何だが、根本的にこの街は自分には合わないと思うリン。じきに二人とも戻ってくるだろうし近くにプレイヤーも居ないため、近くの壁にもたれ掛かって時間を潰す事にした。
(オーラ操作の練習か、自分の能力考察か…今の気分は考察かな)
特に使わない能力は時間の経過とともに忘れている自分がいる。ここで一度、『発』の整理について考えておくのも悪くないだろう。
リンの能力の性質上、今後も使用する能力はどんどん増えていく。それらを全て管理、把握しやすい方法はないか。最近の悩みはそこにあった。
(あ、そうだ。能力データの可視化能力を作ればいいんだ)
かつてビスケに言われた通り、恐らくリンは新たな能力を発現させる事は出来ない。だが、現在所持している能力を発展させる形ならそこまで容量も大きくないはずだ。やっぱりいつもと違う環境で考えるのは効果的なのかもしれない。
イメージはクロロの具現化している本だ。能力に付随する機能として、似たようなものを任意でメイメイが取り出せるようにしたいところ。
「…よっと」
タブレット型の画面をフリップボードのように抱えるメイメイに少し笑いがこみ上げつつも、タッチパネルを指で操作する。
上から取得順に
あまり細部はイメージしていなかったが思った以上に使い勝手が良さそうだ。
(ん…?何、この『?????』って)
パネルを操作しても、『現在使用不可』としか表示されない。そんな欄が数十個もあれば、流石に不審にも思うというものだ。自然発生型能力であるという経緯から多少は自覚していない能力の特性があっても仕方ないと思っていたが、ここまでとは思わなかったリンである。
(ん~…我が能力ながらわからないところが多いわね。まあ、色々探っていくのがこの能力の醍醐味みたいなところもあるんだけど)
発見もあったが、謎も増えた。だが、戦闘に使える『発』も沢山あるため、焦る事はない。こういうのを考えるのもリンの楽しみの一つだ。
メイメイにタブレットを片付けさせたところで、隣で泣いている少女の存在に気づいた。今まで気づかなかったということは、少女は突然現れたことになり、ゲームのシステムということだ。だが泣いている少女を無視するのも気が咎め、何となく声をかける。
「…どうしたの?」
少女とは言ったが、見た目は中学生くらいだ。つまり、リンと年齢はほぼ同じくらい。しかし悲し気に睫毛を涙で彩る少女は、その見た目よりもずっと幼く、頼りなさげに見える。
少女は一瞬ちらりとリンを見て、自暴自棄半分という様子で小さく話し出した。
「私…好きな人が居るの。でも、その人は同性が好きな人で…だから私、男に生まれたかった…」
「…それは辛いわね」
ゲームキャラクターの台詞と言えども、現実でも起こりうる話だ。そのため、リンは実際の人間に対するように真剣に返した。ゲンスルーには向けられなかった優しさがNPCの少女に注がれる。
ちなみにその頃、ゲンスルーは念能力者専用の勾留所にてゲンスルーが痴漢魔だと信じているミザイストムに尋問されていた。
「どんな願いでも叶う神の泉に行ってお願いしたいと思ったんだけど、魔物が多くて行けないの。一緒についてきてくれない?」
(…ま、これをスルーするのもなんか悪い気がするし、いいか)
「いいわよ、少し時間が空いてるし」
二人が戻ってくるにはもう少し時間がありそうだと判断したリンは、クエストにも思えない少女の頼みを引き受けた。
そうして少女に連れられて歩く事30分。
なるほど、確かにクエストだ。案内された森の道のりには大量のモンスターが居た。リンは平然と倒すことができたが、そこら辺の使い手では苦戦しただろう。手に入れたモンスターのカードは、全てBランク以上だった。
神の泉に到着すると、少女は泉に駆け寄って願いを唱える。すると泉がまばゆく輝いて、少女は少年へと姿を変えた。
「お姉さん、ありがとう!お礼に、これをあげるね!」
いわゆるクエスト報酬というやつだ。リンが差し出された箱を受け取ると、箱はぼふんと音を立ててカードになる。
それを見届けた少年は、何処かへと走り去っていった。視界から消えた瞬間にワープしている、ゲームあるあるの機能なのだろう。
(…ま、良い事した気分かな)
そう思いながら手に入れたカードを見ると、そこにはホルモンクッキーと記載されていた。説明には性転換を一日だけできるとある。
ゲームだから仕方ない事だが、それでもリンは思わずにいられなかった。
(持ってんなら先にこれ使えよ!!)
こういったツッコミどころがあるのも、ゲームあるあるだろう。
映画泥棒の捕縛劇(キャプチャーオン)
具現化系能力
三台の具現化したビデオカメラで捉えた相手の動きを止める能力
一台だけで捉えれば相手の居場所を離れた所から捕捉する事も可能
制約:能力発動中は能力者が『絶』状態になる
誓約:特になし