リン=フリークスの冒険   作:夜桜百花

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ゲームで遊んでみる【追伸】

「あそこまで顔が変わるなんて、面白いモン見れたわね」

 

『マッド博士の整形マシーン』と『魔女の若返り薬』を使用して、ミシャクーロの外見は面影も一切ない別人になった。今はツェズゲラに依頼してバッテラ邸に預けてある。

 イルミに裏ルートで戸籍の取得も依頼したため、彼は今後全く別の人間としての人生を送る事になるだろう。

 

「あいつ…どんな人生を送るのかしら」

「さあ。でも私の思う『真っ当』って、会社員して家庭を大切にして…そんなんだから、犯罪者にはならないんじゃない?」

 

 ともかく、リンは自分が考えうる限りの最適解を選んだ。何も思うところがないと言えば嘘になるが、敢えて情けを掛けてやったのだと思えば少しばかり留飲も下がる。

 別に善に目覚めたわけではない。ジンやネテロが用意した舞台で『殺してスッキリしました』だけでは何だか悔しいと思っただけだ…。そうリンは思うようにしているが、ルカスの手紙がリンの決断に影響しているのもまた否定できない事実だった。

 

「これで、俺達の禍根も潰えたな」

「ねえ!せっかくだし、このゲームクリアしちゃわない?もうカードもあと少しだし!」

 

 ツェズゲラとの同行も終わり、彼らにはミシャクーロを連れ帰ってバッテラの念能力指導に当たってもらっている。

 念能力の習得にはかなり時間がかかるだろうとの事だったが、それはリン達にとってはそこまで焦る必要のない事だ。

 

 全てを終わらせ、このゲーム内でやり残したことといえばカード集めくらい。ノワールが預かっていたカードをリンのバインダーに収めれば残り枚数はごく僅かと、ゲームクリアまで目前に迫っていた。

 

「…っと、もしかしてクリアのピースが来てくれたかしら」

 

 リンが頭上を見上げてそう呟いたのは、街を歩きながら今後の方針について話し合っている時だった。

 カード交換の交渉にしては明らかに大人数。そして誰もが切羽詰まった表情をしており、それが穏やかな話し合いをしようという目的で来たわけではないのは見て明らかだった。

 

「ニッケス…だったかしら。随分大人数で来たのね、何か用?」

 

 いわゆる『ハメ』組のメンバーたち。何かと言いつつも、何のためにここに来たかは、互いにわかり切っている。

 ノワールが腕を組んで厳しい表情を遠慮なく向ける。それに対して臆していないと言えば嘘なのだろうが、彼らも今更引けはしないらしく場の空気は静まり返っていた。

 

「バッテラの依頼はもう撤回されたと聞いたが」

「まぁな。だがこちらもじゃあやめた、とはいかない。ここまで下準備を重ねてきたんだから、クリアくらいはしておきたい」

「ゲームの報酬狙いってわけね」

 

 バッテラはクリア報酬も欲しがっていた。その依頼が撤回され違約金を貰えるということは、今クリアすればバッテラからの違約金は勿論、クリア報酬をも手にできるということになる。ある程度ゲームを進めているのならば確かに簡単にリタイアする気にはなれないだろう。

 …こんな大人数で、数枚しか持ち帰れないというクリア報酬をどうやって分けるのかは疑問だが。

 

呪文(スペル)カードはまだ独占できてないんじゃないの?」

「ああ…だが仕方ない。お前たちにクリアされては、それも意味がなくなるからな」

 

 予め作戦会議をしていたのだろう。ニッケスがそう言うのを合図に、リン達を取り囲んだハメ組の面々が口々に呪文を叫ぶ。

 更には死角に位置するところにも『絶』で人員を配置していたらしく、建物の影にも何人か人の気配が感じられるようになった。

 

 だが、カードに攻撃手段を頼っているような修行不足の人間に遅れは取らない。今にも唱えきられようとする呪文を、リンは全てその手から奪い取ることで防いだ。

 その動きも見えなかったらしく、一拍間を置いた後にニッケスたちは呆気にとられて自分たちの手元を見つめる。

 

「別に、力尽くでカードを奪ったりしようと思えばできるんだけどさ。流石にそれは私達としても嫌なのよね」

 

 今ので力量差ははっきりしている。だが、このまま何も言わずにカードの奪取に持ち込むのはあまり気分の良いものではない。

 これもまたリン達が予め相談をしていた結論だが、代表としてリンがニッケスに声をかけた。

 

「そこで提案、全カードを賭けて勝負しない?単純に戦闘不能になるか降参を宣言したら負け。勿論殺しはなしで全戦力を使う…どう?」

 

 リン達は三人、対してハメ組は20人近い大所帯だ。何よりカードの使用を止められてしまえば残る可能性はそれしか考えられない。

 リン達の目論見通り、ハンターとしては比較的善良とも言えるこの提案は渋々ながらも受け入れられた。

 

 数人程度の集団戦ならば念能力は存分に活かされるが、狭い空間でそれも数十人規模の戦闘になると『発』は殆ど意味を成さない。バトルロワイヤルならばともかく、大抵の『発』は味方も巻き込むものだからだ。

 一般的な戦争でも敵味方がわからず味方に殺されるパターンは多く存在するのに、そこに念能力が絡むと戦争は複雑を極める。

 メタ的に言うならばゲンスルーとサブ、バラの様に協力型の念を作る方法もあるが、ニッケスたちの様な烏合の衆ならば当然その可能性もない。よって、シンプルなオーラを操作した肉弾戦になる。

 

 よって、襲撃に適した場所であるアントキバの街を離れ、ゲーム開始地点の草原に場所を移動することになった。

 場所の指定はニッケスによるもの。事前の小細工は一切無し、正々堂々たる勝負だ。

 

 リンとノワールが構えを取る中、それらを制するようにしてメンチが一歩前へと進み出た。腰から二丁の包丁を抜き、両手でくるくると器用に回しながら勝気にリン達を振り返る。

 

「ここは私に任せて。腕が鈍るから、たまには能力使っときたいのよ」

「…そんな事言って、ヤムチャみたいにならないでよ?」

「ならないならない」

 

 メンチが油断するとは思っていないが絶妙にフラグめいた発言にリンが釘を刺し、そのネタを知っているメンチも笑いながら包丁を振った。

 敵は女一人になったのかと少し希望が見えるハメ組の表情変化には目を向けることなく、メンチは能力を使用して大きく跳ぶ。

 

 まずは二人。最前列に居た戦闘員が反応するよりも先に、通り過ぎざまにメンチは包丁を振るう。リーダーを守るように立っていた男たちは血を噴き出しながらあっけなく地に伏せた。

 後援がざわつき始めるよりも少し前、まだ反応が早い男がメンチに向かって歩みを進めようとしたが、それにもあっさりと足を引っかけた。男が転んだところでさくりと包丁を突き立てる。

 ここに来てようやく悲鳴が湧き起こり始めたが、死んでいないとわかっているメンチはどこ吹く風で次々に行動を仕掛けていく。

 

 メンチは強化系寄りの変化系だ。従って、能力もそれらの系統を使用したものになる。

『料理』、もしくは『調理』とも彼女が称する念能力の正式名称は【恐怖の天才シェフ】(カニバリッパー)。この能力を使用して負けた事はないと豪語する通り、その戦いぶりは圧巻そのものだ。

 

(うわ…美食ハンターだから強いだろうとは思っていたけど、流石ね)

 

 実のところ、ライセンスを取得しているプロの美食ハンターはその多くが肉体派だ。一般人が到底取りに行けないような珍味を求めて世界の果てまで駆けずり回り猛獣を相手にするのだから、当然身体能力や体術は下手なハンターのそれを大きく上回る。

 念能力者の戦闘に『絶対』はないとはいえ、もしメンチと戦ったら自分は勝てるだろうかと息を止めて戦況を真剣に見守る。思わずリンがそんな事を考えてしまうくらいには、その場の戦闘…もとい一方的な蹂躙は鮮やかなものだった。

 

 前方へ跳び、身を翻しながら首筋に沿って斬りつけ、一人。更に着地するタイミングでくるりと一回転し周囲の三人を解体。だが筋繊維の流れに沿って捌いているため、傷の治りは早いだろう。

 一種の芸術とすら思える手さばき。数分としないうちにリーダーのニッケスを除きすべてのメンバーが真っ赤な血を流して地に伏せていた。

 

 返り血すらつけずさも今来たばかりのような振る舞いでビッと包丁の切っ先を向け、メンチはチェックメイトとばかりに笑った。

 

「あとはあんただけね、おじさん」

「こっ殺さないって言ったじゃないか!」

「安心して、殺してないわ。こっちも料理人だもの、臓器を傷つけずに斬るくらいはお手のもんなのよ」

 

(絶対それ料理人の必須スキルじゃないけどね)

 

 心の中だけにそう留めるリン。流石にここでそれを言うのは野暮なツッコミだ。

 

「出血量も加減してる。死ぬ事はないわ…あ、でも後で血を少し頂戴ね」

 

 メンチの能力の制約は『能力を行使した対象の一部を1週間以内に調理する』こと。

 誓約には『破った場合味覚を失う』という神の舌を持つ料理人としては致命的な誓いまでしており、つまり何が言いたいかというと『発』を使用したメンチは向かうところ敵なしだ。

 だが、血液ジュースでも作るつもりかと想像してリンは何とも言えない気持ちになる。

 

 ニッケスが何か活路はないかと再び背後の仲間達に眼をやるも、誰もがぐったりと伸びている。数十人分の血液は地面に染みこみ、草原の雑草は新種かと思わせるほどに真っ赤に染まっていた。

 

「…参った。俺達の負けだ」

 

 そこからの話は早かった。リンが最寄りの街に救急車を呼びに行き、プレイヤー達は搬送されていく。流石リアル志向と言うべきかグリードアイランド内は一般的な範囲ならば医療設備も充実しているため、彼らはそう遠くない未来で問題なく全快するだろう。

 実際のところプレイヤー同士の対戦や殺し合いを経て病院のお世話になれる(・・・)方が稀なのだが。下手したら今回が初めてのケースかもしれない。

 

 道なき道を走っていく救急車を見送るリンの傍ら、ノワールがニッケスから受け取ったカードの選別をする。血液を謎の料理に仕立てているメンチをよそに、リンもノワールの手伝いに加わった。

 

『とあるプレイヤーが、指定ポケットカードを99枚集めました!』

 

 リンのバインダーに懐かしい99番の『メイドパンダ』をはめ込むと同時に、全プレイヤーに向けたアナウンスが高らかに響き渡った。最後の一枚を賭けて指定ポケットカードに関連するクイズ大会が行われるとの内容だ。

 

(いぇーい、エレナさんイータさん見てるぅ?)

 

 どこかにカメラがあるのではないかと空を見上げて軽く手を振る。クイズ大会とはいえ、リン達がカードを100枚集めてゲームクリアするのはここまでくればほぼ確実だ。

 

「おー、おこぼれ狙いが続々と来たわね」

 

 クイズ大会と聞いてリンのバインダーに入ったカードの概要を頭に叩き込んでいたメンチが、ふと空を見上げた。まさしくその通りで、磁力(マグネティックフォース)同行(アカンパニー)を使用したプレイヤーが続々と集まってくる。

 到着した男たちは、自分がクイズ大会に優勝したらカードを買い取ってくれと口々に言い、リン達も少し笑いながらそれに応じた。

 

 そんな形で、ゲーム開始地点でもある草原には未だかつてないほどにプレイヤーたちが集まっていた。暫くするとクイズ大会が開始され、ざわざわと賑やかな声は次第に静まっていく。

 

『No.043ギャンブラーの卵をくれた少年の年齢を答えよ。A、○歳。B、〇歳…』

 

『No.046金粉少女を取得する際に潜入する館の名前は?A、○○。B、○○…』

 

 宝籤(ロトリー)によって取得したカードもあり、全問正解するのは実質的に不可能。しかし、自分たちで取得したカードに加えてツェズゲラたちから譲り受けたカードの取得方法までも把握しているリン達三人の誰かが最も高い正答数を叩き出すのは想像に難くない。

 リン達もそれをわかっているため、冗談半分に誰が一位を取れるかと勝負しながらクイズに答える。

 

 100問全てを読み上げたアナウンスは、数十秒の間を置いて一位のプレイヤー名を告げた。

 

『プレイヤー名…ノワール選手です!』

「いぇい!!」

 

 自分達のうち誰かが勝てばいいと緩く捉えていたリンは少し悔しいながらもノワールの勝利にブイサインで喜び、割かし本気で勝負をしていたメンチは拳を振り回して悔しがる。得点数94点を叩き出したノワール本人は少し照れ笑いをしつつ頬を掻いた。

 

「もー!絶対一位取れたと思ってたのに!!」

「敗因はアイアイでのカード獲得量ね」

「…それを言われると何も言えない!」

 

 空から両手に乗るほどの大きさの鳩が降り立ち、賞品をノワールに進呈した。

 善良なプレイヤーが多いのかカードを全て集めきったリン達には敵わないと思っているのか、密かにリンが心配していた襲撃も起こらず誰もが拍手と共に初のゲームクリアプレイヤー達を祝福する。

 

 ゲーム開始から約10年。初めてクリアプレイヤーが誕生した瞬間だった。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「本当に一緒に行かないの?」

「ええ。まだ味見できていない料理もあるしね」

「レイザーの時のように積もる話もあるだろう。ゆっくりしてこい」

 

 ゲーム内イベントらしいパレードに参加しパーティー会場での美味しい料理に舌鼓を打った後、NPCによって城の前に案内された。

 共に掴んだクリアだが二人はリンのために遠慮してくれ、リンも申し訳ない気持ちはあるがその言葉に甘えることにした。

 

 城の中には、昔少しだけ入った事がある。懐かしい記憶を辿りながら門を潜ると、そこにあったのは10年ぶりに見る育て親の一人の顔。

 

「リンちゃん、久しぶりですね」

「リスト!」

 

 年齢の割には幼い顔をしており、蝶ネクタイをつけたその姿も含めていいとこのお坊ちゃんにも見える。今ではリンの方が年上に見えなくもない。

 リストは少しそばかすの残る目を細めて微笑み、かつてドゥーンが過ごしていた部屋に向かって歩き出した。案内に従ってリンも少し古くなった気がしなくもない城内を見回しながら歩く。

 少し異臭のする部屋だとリストが苦い顔で謝罪しつつ扉を開けると、またしても懐かしい顔がリンを見て大きく片手をあげた。

 

「ドゥーン、久しぶりね!」

「おーうリン!えらく別嬪さんになったじゃねえか!ジンの娘とは思えねえな!」

 

 リストとは反対に、無精な生活をしているらしいドゥーンは年齢よりも少し老けて見える。いや、どちらかと言うとおっさん臭い。この二人の年が近いとは到底思えないリンだ。

 座る場所もないくらいに散らかった部屋のものを足で雑に除けるドゥーンの隣で、どこから持ってきたのかリストが高そうな食器と共にジュースを運んできてくれる。

 昔リンが大好きだった甘いオレンジジュースを飲みながら軽い挨拶をし、リンもずっと気になっていた質問をする。

 

「クリアしちゃったけど、このゲームどうなるの?できれば残しててほしいんだけど…」

「そりゃあ消したりはしないですよ。いくつか改良を加えて、早ければ一年後にでも再度プレイヤーを募ると思いますよ」

 

 数年にわたるプレイによっていくつか改善が必要な点も見られたとリストは笑いながら言う。技術的な心配はないが開発陣がどれもこれも癖のあるメンバーであるため、一番の問題はどのように改良するからしい。

 

「よかった!ゴンにもこのゲームで遊んでほしいもんね!」

「ゴンも大きくなっただろうな。念は教えたのか?」

「教えてない。まだ小さいのに念なんか教えたら碌な使い方しなさそうだし…」

「ま、お前のパンダもそうだしな!」

「うっせ、ちゃんと便利な能力として使えてますぅ~」

 

 ゲラゲラと笑うドゥーンの振る舞いは、少し遠慮のない親戚のおじさんそのものだ。しかしわしわしと雑に頭を撫でられ、悪い気はしない。

 

「ジンはもう見つけたのか?ん?」

「まだ。でも良い方法を思いついたのよね。…まあ取り敢えずは、今の依頼を完遂させてからかしら」

「お、そりゃ頼もしいな。応援してるぜ!」

「ていうか!私やゴンの事をハンター仲間に言いふらしたのドゥーンでしょ!」

「何でバレた?」

「わかるっつーの…」

 

 リン達は夜が明けるまで語り明かした。かつての時間を取り戻すかのように。

 

 そして一夜明け、ドゥーンとリストから受け取ったアイテムを手に、リンはメンチとノワールと合流した。

 クリア報酬は現実世界にカードを三枚だけ持って帰れるケース。指定ポケットカードに限られるものの、その範囲でならどのカードでも現実で使用可能だ。

 

「クリア報酬で現実世界にカードを持って帰れるのか」

「当初の目的が目的だったから、何が欲しいなんて考えてなかったわね…」

 

 リンの説明にノワールとメンチがそれぞれの感想を述べる。カードの選択も報酬の配分も相談していなかったが、持って帰れる枚数と人数が釣り合っているため揉める心配はないだろう。

 そう提案したリンに二人とも異論はなく、顔を寄せ合ってカードを選ぶ。

 

「じゃあ…俺は真実の剣にしよう。ベイベースで裁判所に寄付すれば役立ちそうだ」

「ん~、じゃあ酒生みの泉にしようかしら。美味い酒があればそれに合う料理のイメージも湧きそう」

「…程々にね」

 

 かつてビスケに潰された姿を知っているリンは、何とも言えない気持ちで忠告だけをしておいた。

 リンやビスケ程酒乱ではないが、メンチも寝落ちしてしまうまではそれなりに騒いでいたため、心配するのは仕方ない。ちなみにリンは、あれ以来酒は一滴も飲んでいない。

 

「リンはどうするんだ?」

 

 全てのカードを真剣に吟味していた二人に対して、リンは元々決めていたため時間をかけずにあっさりと選ぶ。手に取ったカードには『ホルモンクッキー』と記されていた。

 

「んじゃ、ホルモンクッキーで」

「へえ、どうしてそれを?」

 

 勿論、仲の良い二人の男の内片方を女にすれば恋が始まりやすいのではないかという妄想の下に選出された。女性になった時の友人が忘れられず、男の姿の友人にも恋慕を抱き始める…我ながら天才的な案だと自画自賛するリン。だが、ノワールにはそんな事言えない。

 リンの様子から薄々察したらしいメンチが、友人の底なしな煩悩に呆れた顔をした。

 

「…あんた碌な事考えてないわね」

「考えるだけ!実際に行動はしないから!!」

 

 絶対嘘だとメンチは思った。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 ゲーム世界をクリアしたその足で、リン達はカキンのとある墓地に来ていた。たった数日間しか共に過ごしていないが、生涯忘れる事の出来ない友人、ルカスの墓場だ。

 

 ハンター試験で死んだ人間は、疫害を防ぐためにある程度は回収されて共同墓地に埋められる。遺族の元へ遺体が返らないのもまた、ハンター試験の注意事項や同意事項に記載されている内容だ。そのため、ここにルカスの遺骨は眠っていない。

 しかし、息子の死を嘆いた両親が死後まもなくして個別の墓を建てた。魂の眠る場所が遺体の眠る場所だと思っていないリン達は、ルカスのためだけに用意されたその墓をひとまずのルカスの居場所として見なしている。

 

「これで…良かったんだよな、ルカス」

 

 簡単に掃除と供え物を終え、ノワールが正面にしゃがみこんで語り掛けた。

 まるで幼い子どもに話しかけるようなその仕草とは対照的に、メンチは立ったままでさばさばと言う。まるで自分自身にも誓うかのように。

 

「スッキリしたし、こっから更にばしばしハントしていくわよ。あんたを飽きさせやしないわ」

 

 各々言いたい事を言い、リンを見つめる。そもそもここに来たいと言い出したのはリンだ。報告と、ずっと借りていたものを返しに行きたいと。

 

「これ…返す。ずっと支えになってくれて、ありがと」

 

 そう言って、ずっと身に着けていたルカスのスカーフを十字架に掛ける。周囲の墓と大差なかった墓石は、オレンジ色の布地によって途端に印象を変える。

 それぞれが挨拶を終えると、三人揃って目を閉じた。馴染みの深い宗教により手を合わせたり指を組んだりとやり方は様々だが、友人へ向ける想いは共通している。

 

 そろそろ行くか、と三人は連れ立って歩き出す。最後にリンは振り返って墓を見つめ、そこに立っているであろう友人に軽く笑いかけた。

 

「じゃあね、ルカス。気が向いたらまた来るから」

 

 ところどころ色褪せたスカーフは、それでも鮮やかに風にはためいていた。

 




恐怖の天才シェフ(カニバリッパー)
強化系、変化系複合能力

自分の肉体と愛用包丁の切れ味を強化する能力
加えて、包丁はオーラの変化によってリーチを伸ばすことも可能

制約:能力を行使した対象の一部を1週間以内に調理する
誓約:制約を満たさなかった場合、味覚を永久的に失う
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