リン=フリークスの冒険   作:夜桜百花

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親父を探してみる【後編】

「うーわ…」

 

 リンは目の前の光景に思わず声を漏らした。

 

 リンだけが僅かに感じる程度の腐敗臭を辿って行きついたのは、雪山ながら美しい水が流れる洞窟の入り口。自然豊かな光景にはそぐわない虫が集った死体の山はそこにゴミを捨てるかのように放置されていた。

 

「これは酷いわね→下劣な行為」

 

 少し遅れて到着したチードルとカイトも同様に眉を顰める。近くまで来ると強烈に放たれる腐敗臭に大方の予想はしていたが、それでも実際に目にして気持ちの良いものではない。

 およそ数十名の遺体は、老若男女問わずに頭部が切断され山積みにされている。例えるならば産業廃棄物の処理場の様なそれ。だが、頭部はどこにもなく誰かに持ち去られた後らしい。

 

「何が目的だったんだ…?キユリノ族が管理していた遺物は全て残されているし…」

「髪」

 

 カイトの言う通り、道中で他の物品に手を付けられた様子はなかった。だが、リンの様に民族の特性に詳しい者からすればそれだけで目的は明らかだった。

 

「キユリノ族の髪…かなり高価なのよ。人体収集家のセレブには何億積んでも惜しくない逸品でしょうね。頭部だけが消えて他は残されているなら、その可能性が高いと思う」

 

 キユリノ族の身体的特徴については前述したとおりだ。だが、最も大きな特徴は真っ白の頭髪にある。

 

 髪色の様々な人種が生きるこの世界だが、一つだけ存在しない色がある。白だ。

 

 カイトやキルアの様に銀髪の人間は居ても、色素の抜けきった真っ白の髪を持つ人間は居ない。キユリノ族を除いて。

 それ故にキユリノ族の髪はコレクターの中でも伝説として語られている。クルタ族の眼とは違って伸びてくるものではあるが、ハンター協会の保護の下で隠れ住む種族であるためそもそも手に入らない。彼らの間では幻とも言える逸品だった。

 

「なるほどな…少数民族の希少な髪、しかも幻とされるなら金銭的価値も高いし、狙う奴も現れる…か」

「でも、わからないのは侵入経路なのよね。秘匿されている山が簡単に暴かれるとは思えないし」

「じゃあ、クルタ族の時同様に幻影旅団の仕業かしら→類似犯罪」

 

 チードルの推察は当然の流れだ。容易に入れない場所ならば、そこに侵入できる人間の能力値もまた高いものに限定される。そして他の民族に手を出した経歴がある旅団が疑われるのは自然な事だ。

 当然、リンもその可能性をはじめは疑った。お宝のジャンルに頓着せずどんな環境でも奪い取れるだけの力量を持つ集団で真っ先に思いつくのだから仕方ない。

 

「あ、それは違いますよ」

「どうして?」

「さっきクロロ…幻影旅団の団長に聞いたら『違う』って返信が来てました」

 

 リンの言葉にチードルが一瞬硬直した。数秒の間を置いて、烈火の如く怒りだす。やや離れた場所に居たカイトは辛うじて音が届く前に耳を塞ぎ、至近距離に居たリンはきーんと耳鳴りを起こす羽目になった。

 

「はぁ!?あなたA級盗賊とメル友なんですか!?→そいつ犯罪者!!!」

(メル友って…地味に言葉選び古いな…)

 

 原作の時間軸の弊害なのかそれともチードルが意外と若くないだけなのか、判断に迷うリン。

 プロハンターが犯罪者と一定の交流を持ったり自ら捕縛した犯罪者を雇う事は珍しくない。だが、清廉潔白をモットーとするチードルには理解できない部類のものなのだろう。

 ちなみに、クート盗賊団レベルの犯罪者を自ら仲間に引き込んだジンの行動はそんなプロハンター界隈の常識からも逸脱している。勿論A級盗賊団長と兄妹分でメル友のリンも。

 

「あなた誇り高きプロハンターでありながら犯罪者と親交があるの!?→やる事が亥と同レべ!!」

「う…そう言われると耳が痛いですけど…役立つ情報も持ってるんで…」

 

「今だってこの件の犯人じゃないってわかったでしょ?」とリンが言い返すと、チードルも「ぐ…」と口籠った。カイトが冷静に仲裁役に回る。

 

「…まあ、色々と推測をしても仕方ない。俺達の仕事は別にあるだろ」

「それもそうですね…→正論」

 

 そこからの作業はそう難航するものでもなかった。予め立てていたプラン通り、作業員を呼び彼らの安全を確保しながら現場の指揮を行うだけだ。

 嬉しい誤算として古代遺物が無傷だったため、カイトを指揮としてハンター協会お抱えの専門家が管理を引き継ぐ形となった。

 全ての作業が終わって解放されるまでに数日かかったが、この期間に特筆すべきことは何も起こらなかった。勿論盗賊が姿を現す事もなく、全ては事後だったが故に対処もしようがない。

 

「では、この件は協会でも調査しておきます→難航しそうですが」

 

 チードルの言う通り、調査はほぼ進むことがないだろう。状況から見てかなり日数が経っており、サイコメトリー系の能力でも足取りを追うのは難しい。協会でできるのは古代遺物の管理引継ぎくらいのものだ。

 だが、組織でも難しい調査となるとリンが介入する余地はない。後味は悪いが仕事もしたし、この一件はここで幕引きだ。

 

「ん~、何かスッキリしないオチになっちゃったわね」

「まあ…犯罪の類は一朝一夕では解決しないからな。あの手口を見るに人為的なものなのは間違いない」

 

 気持ちを切り替えなければいけない。そもそも今回の仕事は除念師を紹介してもらう対価であり、ギブアンドテイクの依頼だ。詳細は本部で話すとして、去り際にふとリンはチードルに質問しておきたかったことがあると思い出した。

 

「…そうだ、うちの親父…ジン=フリークスについて、所在とか知りませんか?」

 

 チードルは十二支んでありジンの同僚だ。もしかしたら何か手掛かりを持っているかもしれないし、運が良ければ所在も知っているかもしれない。

 そう思ってダメ元で尋ねると、予想外にもカイトの方から返事が返ってきた。それは情報提供というよりは時効だから白状するといった雰囲気のものだったが。

 

「あー…ジンさん、こないだまで協会本部に居たらしいぞ。お前には言うなって口止めされていたから言わなかったが…もう遠くに行ってるだろうな」

「…マジ?」

「ついでに伝言も頼まれた。『お前、何回目と鼻の先で獲物逃がしてんだよばーか』…だとよ」

「…あんのクソ親父!!!」

 

 リンの怒りの叫びが山中に響き渡った。

 そしてリンは誓う。いい加減、ジンを見つけ出してやろうじゃないかと。…バッテラの件を終わらせた後で。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 1998年スワルダニシティ、ハンター協会本部。

 世界最高峰の職業と呼ばれるハンターたちを束ねる総本部。その業務は国政調査や国家レベルの賞金首の捕縛、ハンターへの業務斡旋など多岐に渡る。共通しているのは一般の民間企業には手に負えない業務を担当しているところだ。

 そんな協会本部最上階の会議室にて、最高幹部である十二支んは一挙に集っていた。

 

「随分とご無沙汰ですね→亥」

 

 彼らの視線を集めるのは、すました口調のチードルに片手をあげて応じる男。十二支ん全員が集う会議で会長を除いてのぶっちぎり遅刻であり重役出勤だ。

 帽子を軽く目元まで上げ、不愛想に辺りを軽く見回す。その先では誰もが男…ジン=フリークスに対して呆れた眼を向けていた。

 

「ジン、お前も十二支んとしての自覚をもう少し持て」

「絶対参加の会議にしか来ないもんね~」

 

 カンザイとピヨンのお叱りやら嫌味の言葉を華麗にスルーし、どっかりと定位置の椅子に腰かける。ミザイストムがちらりとそんなジンを見て言った。

 

「G・I、クリアされたらしいな」

「クリアしたのあんたの娘らしいじゃーん」

「ああ、聞いている」

 

 爪を弄りながら同調するクルック。それらにもぶっきらぼうに返事をするその口調は、興味がないともそれくらいとっくに知っているとも捉えることができる。そんなジンに、正面に座ったパリストンが早速と言わんばかりににこにこと笑いかけた。

 

「おやジンさん、まだリンさんにはお会いされてないのですか?」

「まーな」

「シングルになったって聞いてますよ。報告もされないなんて、ひょっとして嫌われちゃったとか?約束がどうとか仰ってましたけど、ジンさんに飽きたんですかね?」

「さーな」

 

 パリストンの口撃を適当に言葉であしらう。この程度のやり取りは日常茶飯事であるため、他メンバーも黙殺状態だ。下手に関わって矛先が自分に向くのが嫌なためであるのは言うまでもない。

 パリストンが更なる追撃を与えようとした時、部屋の奥の扉からネテロが姿を現した。

 

「ふぉっふぉ、諸君よく来てくれた。それでは会議を始めるかの…」

 

 その言葉に、全員が静かになる。そして内何名かの瞳には尊敬と敬愛の念すら浮かんだ。

 だが、それはそれとして仕事は真面目にこなす十二支んだ。…パリストンは邪魔もよくしているが。

 今回の議題はとある富豪からハンター協会直々に持ち込まれた依頼。それも幹部会議にかけて十二支んメンバーで担当してくれという注文付きだ。

 

「結構な大仕事になりそうだな」

 

 秘書として、唯一この場に居るのを許されるハンター以外の人間…ビーンズが資料を配る。ざっと書類に目を通したミザイストムがボソッと言ったその言葉に、異論は特に出ない。

 

「ハンターサイトにも既に情報が回っています。既に向かったプロハンター二名の死亡も確認されました→重要」

 

 ビーンズがスクリーンに映し、予め情報を共有していたらしいチードルが代表で資料を読み上げる。

 その内容は、依頼人が極秘で飼育していたV5指定危険動物である峨烙(がらく)が脱走したため、秘密裏に保護してほしいというものだ。体長50メートルに及ぶ超大型生物だが、幸いにも人の目が届きにくいプルス山脈に逃げたらしく、騒ぎには発展していない。だが峨烙はかなり獰猛な性格であるためプロですら死傷者が出てきているという面倒な事態だ。

 

 全員が状況を把握してさあどうするかと対策会議に乗り出しかけた時、扉の向こうからがやがやと声が聴こえてきた。

 何かを制止するような声とそれらを全て無視してツカツカと廊下を歩く足音。硬いヒールを利かせた足音はぴったりと会議室前で止まり、ノックもされずにガチャリと音を立てて扉が開いた。

 

「…ようやく見つけたわよ、お、と、う、さ、ん」

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