リン=フリークスの冒険   作:夜桜百花

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原作開始時点でのリンです。
イメージを膨らませるのにご使用ください。


【挿絵表示】



一次試験を見守り隊【前編】

 時が過ぎ、本日は287期ハンター試験当日。

 ザバン市はハンター試験受験者とそれらを試すために雇われた人間たちでごった返していた。喧騒が潮風に乗って沖まで届き、いつもと違う様子に驚いた動物たちは海中深くに潜っていく。

 

(うわ、親父そっくり。…ていうかむしろ幽助そっくり)

 

 リンは予め予約しておいた会場近くのホテル客室にて、鏡越しに自分自身と向き合っていた。目の前では若い頃のジンを彷彿させる容貌の男が、不服そうな表情でリンを見つめている。

 性別を変える事は変装する上で特に有効だ。そのためたった今、おおよそ試験終了までに必要とされる日数分のホルモンクッキーをドカ食いしたところ。不測の事態も考慮して、丁度最終試験が始まる頃合いには元に戻るくらいの数を食べた。

 つまり、今のリンには生えている。何って、ナニが。性転換タグを付けるべきかとうp主は一瞬迷ったが、数話だけだしこれくらいならいいかと判断した。

 

(どーせ同作品ならコスプレ予定の蔵馬似が良かったけど…まあ流石に贅沢ね)

 

 顔つきも男らしくなり、若い頃のジンを彷彿させる。作品を超えて表現するなら、見た目は完全に髪の長い浦飯幽助。

 ジンに似ている事実を受け入れたくないため、女に生まれてよかったと心底思うリン。だがぴろりと身に着けていたホテル備品のバスローブを捲って下半身を確認しておくことは忘れない。

 

(割とでかい(確信))

 

 そこで冷静になって今の自分が女ものの下着をつけている変態男状態だと気づき、黙って身に着けているものを取り払う。

 

(でもここまで似るなら幽助コスの方が良かったかしら)

 

 Lucidaの社員に幽遊白書の蔵馬コスがしたいと相談したところ、有志によってハイクオリティのものが即座に制作された。そのスピードと出来栄え、そして相談した時の食いつき方に少し慄いたのは今から一カ月ほど前の話。

 

(かなり良い生地使ってるし、これならどう見ても蔵馬コスプレイヤーね。ていうか何でジャストフィットで作れるの?)

 

 身体の大きさまで変化したのになぜかぴったりとフィットする学ランに袖を通し、オーラを具現化する事で髪色を赤く変化させた。形状変化によって髪型を弄るのも忘れない。

 ちなみにローズウィップも持とうかと考えたが、流石にふざけ過ぎだと断念した。付け焼き刃の武器を用いて四次試験までに不合格になったら、絶対に馬鹿にされる。

 鼻が利くゴンの対策として、香水もきつめのものを使用している。メイメイの具現化も解除し、傍目には全くの別人に見えるだろう。

 

(少し早いけど、遅刻するより良いしもう行っちゃおうかな!)

 

 かくして、蔵馬コスの潜入試験官はルンルン気分でホテルを出るのだった。

 

 試験会場すら到着してもらえなければ、流石に協会も困るため、ハンター協会からは一次試験の開始地点と合言葉のみ教えられている。

 少し早めに来て聞いていた合言葉を伝えると、番号札と共に奥に案内された。そう時間もかからないうちに分厚いステーキが運ばれ、ウエイターが出て行くと同時に部屋ごと真下へと動き出す。

 

(10番…やっぱ早すぎたな。てか思ったより自分の声低くなっててビビる…あ、ステーキうま)

 

 エレベーターを降りながらステーキを頬張りつつ、目的階への到着を待つ。相場おおよそ6万ジェニーくらいだろうか。

 

(あのお店、ハンター試験のためだけに建てられた偽装店だと思うんだけど…)

 

 相変わらず変なところで金払いの良いハンター協会。こんな事にお金を使うのなら、もう少し人道的な使い道が思いつかなくもない。

 

 半分くらい食べ終えたあたりでエレベーターが停止したため、慌てて残りの肉を口に突っ込み外に出る。案内された先はいかにも地下通路といった風体の広い空間だ。

 

(さて、リアタイ見物…じゃない、受験生のチェックでもしようかしら)

 

 人もまだ少なく場所に余裕があるため、通路の端にしゃがみこみ受験生をチェックしやすい位置を陣取る。趣味に近いとはいえ、一応は仕事。決して、決して知っている人物を待ち伏せるためではない。

 

「見ない顔じゃねぇか。新人か?」

 

 スマホを弄りつつ入ってくる受験生たちをチェックする事数十分、リンのもとに小太りの中年…トンパが近づいてきた。十中八九新人狩りに来たのだろう。

 

「ええ。まぁそんなところです」

 

 現役の頃に一緒に試験を受けているため、トンパには特に用心しないといけない。そう思ったリンは、取り敢えず蔵馬を意識した猫を被り答えた。

 

(新人潰しのトンパ…プロハン界隈ではちょっとしたネタキャラでもあるけど、ゴン達の邪魔もするわよね絶対…どうしようかしら)

 

 現役の若い世代のハンターなら皆知ってる新人潰しのおじさん。話題に上る事はほぼないが、話を振れば全員がニヤッとするタイプの人物だ。

 周囲を見れば他の人間がニヤニヤとこちらを見ている点といい、冷静に観察すれば彼が新人潰しを生きがいにしている事を示す要素は沢山散りばめられている。だがわかったからといってルーキーにどうこうできるものではない。

 

「そうか。俺はトンパ。こう見えて35回も試験を受けているんだ。よろしくな」

(知ってるけど、ほんと逆に凄いな…)

 

 適当に返答をしたが、トンパが気分を害している様子はない。彼にとって、変装中のリンはいいカモにしか見えていないのだろう。

 

「まぁ、お近づきの印って事で、ジュースでもどうだ?」

 

 案の定下剤入りのジュースを渡された。リンが受験していた時もこれだったあたり、彼にとっては本当に挨拶のようなものなのかもしれない。あくまで新人潰しの、だが。

 リンは無言でトンパの顔を見つめた後、心の中で判決を下した。

 

(…不合格!!)

 

 ハンター試験を見守る立場としては、新人潰しをする人間の存在は才能の芽を潰しかねない。運も実力であると自身は思っているが、そういった人間を排除するのも今回の仕事の内だ。

 ワクワクドキドキの潜入試験官、リンは選別第一号に彼を選ぶ事にした。少し知っている人物にダル絡みしたかったとも言う。

 

「どうせなら乾杯しましょうよ!俺自分のジュース持ってますし!」

 

 そう言ってウエストポーチから先程自販機で買ったばかりの缶ジュースを取り出すと、あからさまに『げっ』と言いそうな表情をして後ずさられた。

 

(プロにはポーカーフェイスも必要よ?この程度で動揺するなんて、可愛いね~)

 

 微笑みながら悪代官気分でじりじりと詰め寄るリン。絵に描いたような悪役ムーブに、少し調子に乗っているケがある。周囲の人間がざわざわとどよめき始めた。

 

「い、いや俺は喉渇いてないから…」

「あ~そんな事言っちゃってぇ!さぁカンパーイ!ほらぐびっと!!!」

 

 無理やり乾杯をしてトンパの持つ缶ジュースを奪い取り、鼻をつまんで思いっきり相手の口に流し込む。

 新人の予想外の行動に目を白黒させながら飲み込んだトンパだが、相当に即効性の強い下剤だったらしく、その効果はすぐに現れた。

 

「お、お、おぉぉおおおおっぉぉおお!!」

 

 半径5メートルには聴こえそうなほどギュルギュルと腹を鳴らしながらトンパは何処かへ逃げて行った。それを見送りながらにこにこと手を振るリン。

 

(…そういえばここってトイレあるのかしら)

 

 遠くから漂ってくる便臭に鼻をつまみながら、素知らぬ顔でまたしゃがみこむ。社会的にも抹殺してしまったかもしれないが、特に罪悪感は抱いていない。

 

「ふぅん♥さっきの缶ジュース、下剤入りだって気づいてたの♣」

「…まぁ、新人潰しの噂は聞いていたので」

 

 新人潰し潰しをして一仕事した達成感を感じていると、いかにも変態チックな声で後ろから囁かれた。相手がヒソカである事に気づき即座に平静を装うが、リンの心は激しく動揺する。

 

(ヒソカが…私に普通に話しかけてくれるだと?)

 

 戦闘狂で目ぼしい人間の顔を忘れないヒソカだ。当然、数年前のあの一件を忘れてはいないだろう。

 それなのにわざわざ話しかけてくれるのかと感動したが、よく考えてみれば今のリンは変装をしている。オーラの偽装もしているとはいえ、ヒソカには念も使えない美味しそうな青い果実にしか見えていないのだろう。

 

「君…いいね♥」

 

 ヒソカは暫くにやにやと値踏みをするようにこちらを見ていたが、それ以上は何も言わなかった。くるりと背を向け、くねくねと去って行く。

 

(あ、受験生の足斬り飛ばしてる…。止めに入った方が良いかな…いやでもどうせあいつ、また来年も受けるしなぁ…)

 

 昨年ヒソカが試験官を負傷させて失格になったのは、当時も噂になっていた。

 腹だたしいが、ヒソカはハンターに必要な技量は十分に備えている。さっさと合格してもらえば毎年受験されるよりも被害が少なくて済むと考えると、ある程度は見逃した方が良いかもしれない。

 そう判断し、見て見ぬふりを決め込んでおく。試験の性質的にも匙加減が難しいところだ。

 

 トンパとのやり取り、ヒソカとのやり取りの間に、気づけば受験生がまた少し増えていた。その中にはかつて見たふわふわ銀髪の少年も混じっている。

 

(…あ、あれキルアじゃん!いやぁ大きくなったわね)

 

 気持ちは成長を見守る親戚のおばさん。だが親戚のおばさんはハンター技能を悪用してばれないように子どもを眺めたりはしない。

 

(針は…そのままみたいね)

 

 しかし、額から流れるキルアとは別の人間の色をしたオーラに思わず顔を顰めるリン。

 オーラの色からして愛情が激重なのがよくわかる。そして針を刺した主が幼馴染だと知っているので何とも言い難い。

 

(あ、ポックルだ。あとあの女の子は…スシズ?…違う、ポンズ?ポンズだ)

 

(…あの針男のオーラ、絶対イルミよね。ないわ~…センス最悪だわ~変装の何たるかを教えてやった方が良いかしら?)

 

 ハンゾー、ポックル、ポンズ、アモリ三兄弟、ギタラクルに扮したイルミなど、受験生たちを観察するうちに時間は過ぎていく。

 更に暫くすると、ゴン達3人が姿を現した。勿論リンの興奮はマックスだ。

 

(ああああ成長したねマイスイートブラザー!それに私があげた親父釣り竿もちゃんと持って来てるんだねかーわいいー!好き!愛しさ溢れる!聞いて皆、あの可愛い子私の弟なの!!)

 

 脳内でノンブレス咆哮をあげるリン。近くでヒソカがまた人の腕を斬り飛ばしているが、視界には入っていない。

 間違っても本人の前で醜態を晒さないように、目を閉じて精神統一をする。戦闘でも始まるのかという程の集中力だが、傍から見れば試験前に気持ちを整えるただの受験生だ。

 話しかけようかと立ち上がったところ、丁度サトツがハンター試験開始の合図を告げた。周囲がざわつき、あちこちで気合と殺気が迸る。

 

 さて、聖地巡礼…いや、お仕事をしよう。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 試験官であるサトツの指示に従い、ゆっくりと走り出す一同。プロには生ぬるいが受験生にはそこそこ、そんなスピードで地下通路を駆ける。

 

「走りながら失礼します。私は一次試験の試験官、サトツと申します。皆さんを二次試験の会場までご案内いたします」

 

 サトツは丁寧な物腰でそう自己紹介した。だが足取りは全く丁寧ではなく、歩くような調子で一般人のランニング程度のスピードを出している。傍から見ればそれも含めて不気味に映るだろう。

 

(ついて行くだけ…スピードも遅いしちょっと面倒ね。まあその分受験生を観察しやすいけど)

 

 それはそれとして、時間がありそうなら一次試験のうちにゴン達と接触しておきたいところ。さささ…と近寄り、なけなしの勇気を振り絞って可能な限り自然な蔵馬スマイルで話しかける。

 

「見たところ年が近そうですね。君達も新人ですか?」

「うん、今年初めて受験するんだ!俺はゴン!君は?」

 

 想定通りではあるが、愛しい弟の明るい笑顔に尊さで灰になりそうなリン。オタク能力をフル活用してにやけるのを堪える。

 

「仲間ですね!俺はリ…じゃなくてニアと言います。よろしく」

「俺はレオリオってモンだ」

「クラピカという」

 

 予め決めていた偽名を名乗ると、クラピカとレオリオも自己紹介してくれた。聖地だ。ここに聖地がある。そして彼らは聖人だ。心の中で拝み倒す。

 自身を『ニア』と名乗ったリンは、都合よくゴンとレオリオの間に入って共に走り出した。同じタイミングで、男性化した自分の身長がレオリオより少し低いくらいである事に気づく。

 男性化した自分は、思ったよりも高身長らしい。今度低身長な親父を煽ってやろうと決心した。

 

「ニアはどこから来たの?俺はくじら島って島から!」

「あ~…ジャポンって島国から(そこまで考えてなかったわ)」

「ジャポンか…。遠い島国で独特の文化を築いていると文献で見た事がある。その服もか?」

「いや、これは別の国で買いました。民族衣装は動きにくくて」

 

 博識のクラピカだがサブカルについては疎いらしく、リンの服装がコスプレだと気づいている様子はない。そしてリン本人は蔵馬コスのつもりだが、赤髪で性転換ネタだとどちらかと言えばらんまである。殊更にパンダが居ないのが悔やまれるところ。

 

「ジャポンって、漫画で有名なところだよね!俺の姉さんが言ってたよ」

「ゴン、姉ちゃんがいるのかよ?」

 

 ゴンの言葉に女好きのレオリオが突っ込みを入れる。思わぬところで自分の話が出てきて思わず咽返しそうになるリン。

 

「うん。…言ってなかったっけ?」

「そういえば、船で言っていたな…」

「…船って?」

 

 パタパタと走りながらも思い出したように呟くクラピカに、つい口出ししてしまう。リンよ、プロのポーカーフェイスはどうした。

 

「船で来るとき、船長に志望動機を聞かれたんだ!俺、ハンターになって親父を探しだして、姉さんと冒険するのが夢なんだ。…そういえば船では『姉さんもプロハンターだ』って言ってなかったかも」

「凄いな…父親だけでなく姉までプロハンターなのか…」

 

(全世界の皆さん、見てください!この子、私の弟なんですよ!こんな可愛い事を言ってくれる子が!私の弟なんです!羨ましいでしょう!?)

 

 思わず口元を押さえ大粒の涙を流すリン。あくまで心の中で、だが。

 もちろん世界中の皆さんはリンの心の叫びに気づいていない。

 

 感動に全米のリンが涙していると後ろから、走っている音にしては不自然な車輪音が聴こえてきた。後ろを見ると、すいすいと他の受験者を追い越しながらスケボーに乗った少年がこちらへ近づいてくる。

 

(キターーーーーー!!キルア!メイン四人揃ったー!!!)

 

 もしも心を読める念能力者がこの場に居たならば、あまりの騒がしさに卒倒していただろう。

 

「おい!スケボーは反則だろう!」

「いや、試験官は『ついてくるように』としか言っていない。反則ではないだろう」

「そうだよ!」

 

 癖っ毛な髪、大きな猫目、先程とは違い正々堂々とガン見できる場を、リンが逃すわけはない。

 スケボーは不正に入るか否かを談義する四人。だが、ゴンに触発されてキルアも走る事にしたらしい。尊さを嚙みしめながらそんな姿を見つめるリンと目が合ったキルアは、今にも「うへぇ」と言いそうな顔をした。

 

「…お前、こんなとこでコスプレとかオタクかよ。似合ってねぇし」

「…」

 

 イルミの幽遊白書読み聞かせはちゃんと記憶に定着していたようだ。だがオムツを替えた事もある相手にそれを言われると、流石に傷つくリン。(人の感性は十人十色…)と心の中で呪文のように呟いて精神を保つ。

 キルアは不愛想にさっさと行ってしまったが、同年代らしきキルアに興味を惹かれたゴンがついて行ってしまった。

 

「おい、聴こえてたんだが、お前ジャポン出身なんだって?奇遇だな俺もなんだよ!お前ジャポンのどの辺?」

 

 言いたい放題言われて残った重たい空気の中リン達が黙り込んでいると、今度はハンゾーが乱入してきた。試験が退屈で会話相手を求めているらしく、今のリンには救いの手だ。

 

「かなり北の方ですよ。海淵峡より少し南くらい」

「あっちか!かなり寒いんだよなァ!俺グンマーなんだけどさ、あ、俺ハンゾーってんだ。これでも忍なんだぜ?」

 

 前言撤回。とめどなく話し続けるハンゾーは、先程までとは別の意味で疲れる。知識は深いとはいえ出身地ではないので、ボロが出ないかひやひやするのも神経を削るポイントだ。

 

「海淵峡っつったらあれだろ、ハンターライセンスがねぇと入れねぇでかい門と城があるとこ!お前行った事あるか?あ、名前何つーの?」

(めちゃめちゃ喋るじゃんこいつ)

 

 目の前の男と遠い親戚かもしれないのが少し嫌なリンである。

 

「ニアです。海淵峡には行った事があるけどかなりでかい城でしたよ。…あ、でも数年前に呪いが解けたとか聞いたかな」

「そーなんだよ!俺『隠者の書』って巻物を探すためにハンターになりたいんだけどよ、そこにあるって噂だったのに無くなっちまったもんだから一から探さねーといけねえの!全く誰だよもう!」

(目の前にいる奴だよ)

 

 ハンゾーは一通り話して満足すると、次の会話相手を求めてまた走っていってしまった。

 クラピカは自分から話すタイプでもないし、レオリオは話す余裕がない。必然、静寂がリン達を襲う。

 

 しかし元々はハンター試験、わざわざ話す必要があるわけでもない。

 

(少し汗かいてきたな…前髪鬱陶しい)

 

 そうして無言で走る事数時間経ち、走ることに飽きてきたリンは頭の中でレオ×クラの妄想をしていた。ハンター試験は彼らの濃密な絡みが見られる数少ないタイミングだ。今のうちに妄想で心の準備をしておいた方がいいだろう。

 

 レオリオの速度が落ち始めたのは、そんな時だった。

 

(…スタミナ切れか。ここで脱落されるのは本意じゃないんだけどな…)

 

 成長と共に前世の記憶が薄れたリンに、ハンター試験の詳細は記憶にない。そのため、レオリオがここで立ち止まるのが原作通りの展開なのかどうかが判別できない。

 実力が満たずに脱落するのは仕方ないが、レオリオには是非ともハンターになってほしいと思うリンだ。彼はハンターになるに十分なポテンシャルを秘めているのだから。

 

(というか、受かってもらわないと困る。オタクとして)

 

 従って、リンは何食わぬ顔でひょいとレオリオを米俵の様に担いだ。

 

「!?ニア、何しやがる!」

 

 暫く状況が掴めずにぼんやりしていたレオリオだったが、ようやっと理解したらしく息も絶え絶えに叫ぶ。

 

「何って…担いでます。こんなところで脱落してほしくないし」

「はぁ!?」

 

 片手にレオリオ、片手に彼の鞄を持ちながら平然と答えるリン。その姿にレオリオだけでなくクラピカも少し困惑している様子だ。無言ではあるがじっとリンの動向を見守る。

 

「俺が言うのもアレですけど、レオリオはハンターの資質があると思うんです。だから、ここで終わってほしくないんです」

「なんで…お前に何がっわかんだっ!」

「うーん、何となく?」

 

 顔だけちらりと振り返ってニコッと笑いかけると、レオリオは暫く呼吸を整えた上で勢い良く叫んだ。

 

「下ろせ…俺はっ!テメェの力で受かってやんだよ!!」

 

 そこに視えるのは覚悟の色、そして気合の色だ。今まで見た誰よりも熱く純粋なそのオーラに、リンは無意識に口角が持ち上がる。サービスだ、鞄はそのまま預かっておいてやろう。

 

「じゃ、こんなところで脱落しないでくださいよ?」

 

 レオリオを下ろして少し皮肉っぽく鞄を肩にかけた。再び走り始めるレオリオの姿は、それだけハンター試験に向ける熱意があるのを示している。その後ろ姿に思わず本音が口から出た。

 

「…君の事、尊敬します」

「ハッ!フルチンになっても同じ事が言えるかぁ?」

 

 そう言って更にスピードを上げ、そして脱落寸前の受験生をぐんぐんと追い越し現れた階段も駆けあがっていく。フルチンには流石にならないようだが、シャツを脱いで汗だくの上半身を見せつけながら走るレオリオ。こんな空気なのに煩悩が少し首をもたげるリン。

 

「俺達も見習わないとですね」

「そうだな」

 

 気持ちを切り替えてリンがクラピカに言うと、クラピカも民族衣装を脱いで少し微笑んだ。気合を入れ直しスピードを上げるクラピカに続いて、リンも足を速める。

 

「私は、君にも尊敬の念を抱くよ。初対面の人間にそこまでの肩入れは普通出来ない。相手を間違えればそれは愚行でもあるが、あいつなら問題ないさ」

「別に?一目見て気に入った…それだけですよ。ちなみにクラピカやゴン達にも同じものを感じています」

「それは光栄だ」

 

 クラピカの回りくどい称賛にケロッとした顔でリンが返した辺りで、ようやくレオリオと横並びになった。

 ずっと気になっていたらしく、走るペースは落とさずにクラピカがレオリオに受験の目的を尋ねた。初めは金だ贅だと悪ぶっていたレオリオも、うっかり口を滑らせて渋々答える。

 

 医者になるため、同胞の復讐をするため。どこか聞いた事があるようなやり取りがなされる中、リンは複雑な気持ちでその会話を静聴していた。

 いつか感じたようなこの気持ちが、かつて自分が現役でハンター試験を受けた頃のそれと同じものだと気づいたからだ。

 自分には理解できないほどの悲しみと覚悟を背負ってライセンス取得を目指す。その姿はかつて共に試験を受けた友人たちと重なるものがあった。

 

(…ルカス)

 

 覚悟を背負って共に受験した仲間は、見事に悲願を達成してみせた。だが、彼は。彼だけはあの日の受験生の姿のまま、成長することなくその時間に留まっている。

 少し感傷的な気持ちになるリンを現実に引き戻したのは、クラピカだった。

 

「そういえば、ニアは?どうしてハンターになりたいんだ?」

「…会いたい人が居るんです。そのために、この試験をどうしても受けたかった(嘘は言っていない。聖地巡礼も推しの観察もしたいし、何よりゴン達に会いたかった)」

 

 流石にあなた達がBL的展開になるのを拝むのが夢ですとまでは言えない。ハンターになって早6年。嘘を息吐くようにつけるようになってしまったと思う今日この頃。

 

「…ゴンと似たような理由か。良い夢だな」

 

 そうこうしている内に長い階段を登り切り、降りそうになるシャッターを潜り抜ける。一見ゴールかと思われたが、そこに広がるのはだだっ広い沼地だった。

 ヌメーレ湿原…まだまだ試験は始まったばかりだ。

 




ひゃっはあああああああああ!!今まで頑張って積み上げに積み上げてきたオリネタの伏線がここから活きまくるぞおおおおおお!!!
ズンドコズンドコズンドコいぇーい!ズンドコズンドコズンドコポォーウ!!
(キチゲ解放)(初めは10話ちょっとで終わるつもりだった幼少期編)(なんと45話38万字)(初めはゴンとの姉弟ネタが書きたかっただけなのに)(ここまで殆ど出てこなかった主人公)(間違いなく拗らせた展開になるヨークシン編)(こんなにリンが旅団と仲良くなると思ってなかったんだもんどうしよう)(でもメインも旅団も好きだから死なないように頑張るたぶん)
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