リン=フリークスの冒険   作:夜桜百花

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二次試験を見守り隊【前編】

 無事に二次試験会場に辿り着き待つ事十数分、目の前にはそびえたつ大きな建物。

 その大きさは、例えるならば体育館程度だろうか。受験生たちが容易に全員入りきれる規模だ。受験生たちは中から聴こえてくる猛獣の唸り声のようなものに警戒しながらも、試験開始の合図を待っている。

 

(まぁあれ、たぶんブハラの腹の音なんだけど)

 

 ブハラはメンチがシングルを取得した際に弟子として育成を始めたハンターだ。尤も、その大食漢故に基本はメンチの試作料理廃棄担当と化しているのだが。

 メンチが二次試験を担当する以上、この腹の音は十中八九ブハラだろう。ぐるぐるごろごろと鳴り止まない腹音、わかっているとなかなかに聞き苦しいものだとリンは密かに思う。キルアを連れたゴンが改めてこちらに歩いてくるも、彼らも同様に不審な表情をしていた。

 

「次の試験、なんだろーね?」

「ん~、あの変な音と関係あるんじゃないでしょうか?」

 

 リンの隣で木にもたれ掛かるゴンに話を振られ、曖昧に答えておく。いくらブラコンとはいえ、流石のリンも試験のネタバレをする気はない。それに、どうせすぐにわかる。

 この辺はヌメーレ湿原でも数少ない、霧が少ない地帯。ぼんやりと晴れ渡る空を眺めていると、湿原に在留するハンターたちのために作られた少し古びた扉が開き始めた。

 

 辺りに響く大きな音に、全員が固唾をのんで見守る。扉の先にはメンチとブハラが堂々と座っていた。

 

 ブハラとメンチは美食ハンター、特にメンチはシングルの星付きハンターだ。しかし美食と聞くと大抵の受験生は怪訝な顔をし、ある者は馬鹿にしたような目で見る。

 美食ハンターは下手なハンターよりもよっぽど猛獣などの野生動物と対峙する機会に溢れるのだが、雑誌などでは料理の方ばかりにフォーカスされるのでそこまでの知識を持つ人間はあまりいない。

 

「なんで俺が料理なんかしなきゃいけねぇんだ!」

 

 そう叫ぶのはイモコ扮する大男。設定としては賞金首(ブラックリスト)ハンター志望の悪ぶった男というところらしい。リンよりもよっぽど深く練っているあたり、ある種リン以上の情熱を感じる。

 内心では同じように思っていたらしい受験生たちの何割かが、イモコの一言に同調してそうだそうだと叫んだ。

 

(…イモコ、活き活きしてるなあ)

 

 こうして甘く見た受験生は油断して集団意識に飲まれ、正常な判断能力を欠くのだろう。遊び心の陽動にしてはイモコの性格の悪さが滲み出ており、なんとも言えない気持ちになる。

 

「料理なんてやった事もねぇぜ…なんで試験でそんな事しねぇといけないんだよ」

 

 そんな様子を眺めながら焦るように呟いたレオリオに、集団意識に一切飲まれないゴンが、自信満々に叫んだ。

 

「俺、料理できるよ!卵かけごはん!」

(自信満々に言う事じゃないわよゴン…でも可愛い)

 

 料理と言えない事もないが、そんな自信ありげに言う事でもない。しかしゴンが作る卵かけごはんはなぜか妙に美味いので、敢えて口出しもせずに黙っておく。

 大笑いするレオリオ達に不服そうにしながら、機会があれば作ると宣言するゴン。「じゃあ、そんときは頼むよ」と笑いを堪えながら言うレオリオは、少し年の離れた兄のようだ。

 

 そうこうしている間に、二次試験のテーマが提示される。まずはブハラからのようだ。

 

「二次試験は豚の丸焼き!」

 

 スタートの合図とともに受験生たちが行動を開始する。ある者は近辺の草の根を分けながら、ある者は木の高い所に登って周囲を見渡しながら『豚』を探す。

 

(豚…メンチも大概だけど、ブハラも結構いい性格してるわよね)

 

 ヌメーレ湿原に豚は一種しか居ないと知っているリンは少しあくびをしながら、一斉に走り出した集団からは少し遅れて歩き出した。常人離れした聴覚がぶひぶひという鳴き声をとらえた場所は、一カ所しかない。

 

 勘が冴えているのか、同じく豚の居場所を察知したのか、あるいは何となくリンに続いているだけなのか。自然とゴン達の足取りはリンと同じ方向へ向かい、ヒソカ、イルミ、ポックルと、見覚えのある面々も同様に続いていく。気づけばリンを先頭に数十名が同じ方向を歩いていた。

 逆に言えば、ここで運か実力を発揮できない人間はハンターになれないという事だ。

 

「お、居たぜあそこ!」

 

 人一倍身長が高く森の中でも遠くが見渡せるレオリオが叫んだ。全員が走り出して暫く進むと、ヌメーレ湿原唯一の豚であるグレイトスタンプの群れが見える。

 その大きさに驚いたり恐れ慄いたりと人それぞれの反応を見せる中、リンは内心小躍りしていた。

 

(美味しそう!)

 

 以前メンチにグレイトスタンプの丸焼きを一緒に食べさせてもらった経験があるリンは、その肉が非常に美味である事を知っている。当然、大きな鼻を盾にしたあまり可愛いとは言い難いフォルムに見惚れるよりもさっさと食べたいという気持ちの方が勝つ。

 テンションが上がるリンの気も知らず、獰猛な気質のグレイトスタンプは一斉にリンたちに向けて突進してきた。その巨体の猛攻を躱しきれない者は、湿原の大木に押し潰されて絶命する。

 

 早く捕まえたいとはいえ、リンの今回の仕事は試験官だ。近くの木に飛び移り、受験生たちの動向を見守る。悲鳴を上げて逃げ惑う者、避け切れずに豚の餌になる者、攻撃を躱しながら弱点を見極めようと動く者…。

 

(うん、ゴンやイルミたちはわかってたけど、他にも良い動きしてる受験生がいるわね。今年が駄目でも来年受かりそうなのも居る)

 

 念を知らず完全に個人の身体能力だけで自然生物と渡り合っている受験生たちを、リンは純粋に尊敬する。ジンの教育方針で培った倫理観と身体能力がなければ、自分はこんな場所に挑む気になれなかっただろうという自覚があるからだ。

 そんなわけで、将来有望そうな受験生に襲い掛かるグレイトスタンプに小石を投げて援護しつつ状況を観察する。

 

「皆!頭が弱点だよ!」

(そして何も考えず周りに答えを教えてあげるうちの弟、マジ天使)

 

 弱点に気づいたゴンが大声で叫び、それを聞いた周囲の人間たちは一斉に頭部への攻撃を始めた。

 観察するのはこれくらいでいいだろうと判断したリンも、リンを狙って大木に突進を続けていたグレイトスタンプ目掛けて一直線に飛び降りる。日頃からオーラによって鍛えられた肉体は、念を使わずとも指一本の『ちょん』でグレイトスタンプを気絶させた。

 

(あ、これ提出用の豚だしな…自分も食べたいしもう一匹取ってこよ)

 

 そうしてリンの両手には大きなグレイトスタンプが一匹ずつ乗せられる事になった。

 

「ニア…力持ちなのだな」

「皆も持ってるじゃないですか。大した事ないですよ」

 

 やや驚きながら言うクラピカに、猫を被りなおし平然と返すリン。今のリンには早く丸焼きを食べたい以外考えられない。

 会場に戻り、いつの間にか用意されていたキャンプファイヤーのような火事のような通常では見ない位に大きすぎる火でまんべんなく炙っていく。

 

「ぐぅおおおおぉおおぉ…」

「うわ、何の音だ!?」

「ごめん、俺の腹の音」

 

 焼き加減を教えてくれるブハラの腹の音。どよめく受験生たちに、照れ笑いするブハラ。そんなブハラにやや雑に丸焼きを提出し、さっさと自分の分を食べ始める。

 

(うっま!久しぶりに食べたけどやっぱうま!)

 

 途中でメイメイが勝手に出てきたため、その姿を隠しながら貪る。丸焼きを提出し終えた銀髪の少年ことキルアが(先ほどゴンに紹介してもらったため名前を呼んでもおかしくない)呆れた目を向けた。

 

「あんた自分の分も取ってきたの?食い意地張ってない?」

「あんたじゃなくてニアです、キルア。昨日のステーキ定食からかなり時間も経ってるし、お腹がすくのは当然だと思いますよ?」

「確かにそうかも。俺にも分けてよ」

「勿論」

 

 料理は皆で食べる方が美味しいという理論を盾に、愛しの弟分の食事シーンを観察したいリンである。ひたすら食べて満足したメイメイが具現化を解除してくれた事もあり、ゴン達にも声をかける。

 

「うめぇ!こんなでかい豚のくせに、いい味してんじゃねぇか!」

「ああ、もたれない程度に程よく脂も乗っていて繊細な味がする。これが美食か…」

「おいしー!」

「まぁ、悪くないね」

 

 四者四様の感想。そして豚がデカすぎて食事を観察できないと心の中で涙するリン。

 

(いいんだ…君たちが笑ってくれれば、それだけで…)

 

 だが最も恐るべきは、5人でようやっと一匹を食べきるまでの時間にブハラが80頭強の丸焼きを食べきった事だ。

 腹をポンポンと叩き食べた豚全員が合格ラインだと告げるブハラに「美食ハンターがそれでいいのか」と、メンチが呆れ顔を向ける。そしてそれを見たクラピカが慄く。

 

「馬鹿な…明らかに体の体積よりも食べた体積の方が大きい!」

「…『目を逸ら』した方がいいですよ、クラピカ。深く考えたらダメです」

 

 二次試験ブハラ部門、グレイトスタンプを持ってきた八十数名が全員突破。しかしブハラよりもメンチの方が味にうるさい事をリンはよく知っているので、改めて気を引き締める。

 

「私のお題は寿司よ!寿司は寿司でも握り寿司しか認めないからね!」

 

 偶然聞いていたため知っているが、改めて口に出されると試験という実感が伴う。

 しかし気づいてしまった。調理用に取っておこうと思っていた豚肉を全て食べきってしまった事に。

 

(やっちゃった…!この辺の魚美味しくないし、グレイトスタンプでハンバーグ寿司とか作ろうと思ってたのに!)

 

 後悔先に立たず。既に食べつくしてしまった後である。今からもう一度グレイトスタンプを取りに行くのも考えたが、遠すぎて時間切れになる公算が高い。しかし、かといって下手なものを出せば、不合格どころか後でメンチにどつかれる。

 メンチの予想した通り、寿司を知っている人間は殆ど居ないらしかった。博識なクラピカなら知っているだろうとレオリオがクラピカに問いかけると、クラピカは首を捻りながら答える。

 

「スシ…文献で見た事がある。確かジャポンの郷土料理だ。…ニア、何か知らないか?」

「俺の故郷はジャポンといってもかなり北の方で、文化が違うんですよ。でも確か…切った魚を米に載せた料理…だったかな」

 

 ジャポン出身と答えた事がここで仇になった。答えをあっさり教えたら試験の意味がないので、取り敢えず曖昧にヒントだけ与える事にする。ハンゾーと話していた時もそうだったが、ここに来て本格的にニアが海淵峡出身という設定が生えてきた。

 ちなみにハンゾーは周りを見てプークスクスと自分だけが答えを知っている愉悦感にほくそ笑んでいる。周囲にはバレバレだが。

 

「魚ぁ!?ここは森だぞ!」

「川とかあるだろう!!!!」

 

 レオリオとクラピカが大騒ぎしたせいでその場の全員が外へ出て行った。おそらく、川へ向けて。それに気づいたレオリオたちも慌てて後を追っていく。

 

「…行っちゃった」

 

 ぽつんと一人取り残されたリン。

 だが、あのヒソカやイルミまでもが慌てて大衆に揉まれ外に出て行くのを見るのは一興だった。世界を股にかけて人殺しをしている彼らでも、島国の食文化までは知らないらしい。

 

(そういえばゾルディック家、和食も多かったけど寿司は出た事ないな。シルバさん生食嫌いだったし)

 

 一番とれたて生でかぶりつきそうな人なのにと少々失礼な事を思いつつ、だがこのまま寿司を作れないのでは不合格待ったなしだ。メインのネタには何を使えばいいだろうかと一人思案する。

 本来ならクラピカ達に教えた通り魚を使用するのがベストだろう。しかし寿司は魚がメインだからこの試験でも川魚を獲ればいい、というのは少々安直だとリンは考える。

 そこらへんで取った川魚は基本的に泥を含んでいて美味しくない。それに、詐欺師の塒とも言われるヌメーレ湿原に近いこの森は、魚だって死に物狂いで生きている。つまり、毒や催眠作用のある体液を分泌する魚が多い。

 

(ま、メンチなら食っても死にゃしないだろーけど)

 

 流石に彼らもそれくらいはわかっているだろうが、処理をしたところで美味しくないのは簡単に想像がつく。…もしかしたらそれもわかっていないかもしれないが。

 

(確か電話した時、メンチは『寿司なんて知らない奴の方が多いからそこからどうするか見たい』って言ってたな)

 

 メンチと電話した時の内容を思い出すに、ハンターに必要とされる知識、判断力、独創性を、料理を通して知りたいという事だろう。

 つまり、通常の寿司の知識もしくはメンチの仕草を見て形状を予想できるだけの考察力を持った上で、握り寿司の条件に適合する料理を作る事が最低条件。その上で個人の発想を加え独創性のある料理を作るのが合格条件だろう。

 

(ていうか普通に川魚で劣化寿司とか作ったら絶対メンチに馬鹿にされる)

 

 メンチの舌の凄さを知っているので、メンチの前で極力料理はしたくないリンだ。

 

 受験生の後を追うようにして会場を離れ、森を歩きながらめぼしい食材はないか探し回る。五感を駆使して食材があると感じる方へ進む、プロハンターならではの探索法だ。

 そうして少し歩いた先に、茶色い影があるのを見つけた。

 

(ヌメーレミソリス…知能が高くなかなか姿を見られない。脳味噌が美味い)

 

 見つけたと同時にリスの尾を掴んで捕まえる。尻尾を引っ張って頸椎脱臼させ、取り敢えず食材ゲットだ。

 しかしヌメーレミソリスは美味だが肉が少ない。更にサイズも小ぶりなため、骨を取り除いている間に時間が来るだろう。

 

(…チタタプにするか)

 

 アイウ地方の郷土料理の一つ、チタタプ。骨を取り除くのならあまりにも時間がかかるが、骨ごと砕けば食べるのに問題はない。脳内の杉元が「わあ美味しそぉ~」と声をあげる。

 メインが決まった、と思った時、足元の野草に目がいった。野草には似合わず黄色い葉を持っているが、これが最も新鮮で美味しい状態だ。

 

(これはハルキビ草…香りが良く、他の食材にもよく合う)

 

 何本か簡単に摘んで、リスと一緒に手に持つ。最低限は材料がそろったと思い引き返す道で、小さなピンク色の輝きが木に吊り下がっている事に気が付いた。

 

(こ、これは…木に卵を吊るす習性のある川魚、トビザケの魚卵!小さくプチプチしていて見た目も明るくなる、そして毒性もなく何より美味!)

 

 その食い意地故に食文化にも精通しており、美食ハンターとしての仕事も請け負う事が多いリンである。料理はそこまで得意ではないため、食材のハント専門だが。

 

 食材を持って戻ってくると、ゴン達が魚と包丁を片手に調理しようとしているところだった。料理経験が無いのは明らかで、そもそも包丁を持つ手がおぼつかない面々である。

 リンも作業を始めようとしたが、早速完成したらしいレオリオが自信満々にメンチの下へと歩いていくのを見て思わず手を止めた。あれだけ料理をした事がないと言っていたレオリオが作る料理は勿論、素人料理にメンチがどんなリアクションをするかも気になるところだ。

 

「これがレオリオスペシャルだ!!」

「食えるかぁ!!」

(あんなぴちぴちしてる謎の物体、よく提出できたわね…)

 

 提出料理第一号、米と魚の混ざり合った奇妙な物体を生成して撃沈するレオリオ。せめて魚の処理はしておいてほしい。あの魚は明らかにまだ生きている。

 

「次!俺の食べて!」

 

 皿をひっくり返されてキレるレオリオと入れ違いに、次はゴンが皿を持っていく。勢いよくクローシュを外した下には、レオリオほどではないものの米の衣を纏った小さな魚がパクパクと口を動かしていた。

 

(どこで学んだのそのセンス!!)

「あんたも403番と同じ!!」

 

 我が弟ながら壊滅的なセンスに泣きそうになるリン。レオリオなら素直に笑えたが、ゴンが同じことをやるとそれはただの身内の恥だ。

 レオリオと同じだと言われて落ち込むゴンをクラピカが慰めるが、結果的にレオリオを煽っている。そして情けなくてリンも内心泣きたくなる。

 

「スシのブルゴーニュ仕立て」

「気持ち悪いわ!!」

(それはそれでどこで学んだ!?)

 

 キルアが見た目だけは妙におしゃれな料理を持っていき、同じく皿を放り投げられた。

 

 ゴン達と異なるのは、放り投げられた料理をブハラが口でキャッチしたところ。流石はメンチの残飯処理をしているだけあると言いたいところだが、逆に言えばゴンとレオリオの料理はブハラすら食べるに値しなかったとも言える。

 そしてキルアがボツを出されたのを見て列に並びかけていたヒソカとイルミが無言で離れていったところを見るに、彼らが似たようなセンスをしていたのは想像に難くない。

 

「…できた!!これが寿司だ!」

 

 ギャグの様なゴン達の奇行を見つつもメンチを観察して思案していたクラピカだったが、ようやく正解に辿り着いたらしい。

 

「…お、ようやくそれっぽいのが来るかしら?」

 

 意気揚々と持ち込まれて少し期待したメンチが見たのは、「スシィ!」と喋る魚の姿。当然の如く米を纏い、ぴちぴちパクパクと口を動かしている。

 

「あんたも403番と一緒!!!」

(何でそれが正解と思ったの!?)

 

 逆にお前はそれを食べたいと思うのか?と真顔で問いたいところだが、レオリオと同レベルと評されたクラピカの落ち込みっぷりが哀れ過ぎて、思わずフォローに入るリン。

 

「クラピカ…そんな落ち込んでも仕方ないですよ。誰にでも得手不得手はあります(ぶっちゃけ不得手ってレベルじゃないけど)」

「その不得手がレオリオと同じレベルなのならば…もはや私に生きる価値はない」

「間接的に俺に死ねっつってるのかコラ!!」

 

 …とまあ、そんな茶番もあったが、笑って見ている場合ではない。リンもここでは審査される立場なのだから。

 同業者候補を眺めたり奇抜な試験内容を楽しむ。潜入試験官は意外と楽しく人気がある任務だが、同時に緊張感も走る仕事だ。なんせ、一度ライセンスを取得したプロハンターが、しかも念能力者が試験に落ちるなんて仲間に一瞬で広まって笑いの種になるから。

 

 採集した食材たちをまな板に並べ悩む。取り敢えずチタタプだけしておくかとリスの皮を剥いで肉をミンチにする。

 包丁をダンダンと叩くリンの姿はかなり異質で、人目をやたらと引いているのだが本人は気づいていない。

 

(いや、これらを乗せてただ寿司にするだけでは独創性に欠ける。何か、何かオリジナリティが欲しい)

 

 砕いた生肉を寿司にする時点でかなり独創的なのだが、リンの中で謎のスイッチが入っていた。

 

(…そうだ!カリフォルニアロールにしよう!)

 

 具材が少なくてもシャリで量増ししやすいし、何より見た目が映える。思い立ったリンはすぐに行動に移した。

 しゃりを広げ上に海苔を乗せる。更に見た目を良くするためもう一段うっすらとしゃりを乗せ、最後に採集した具材を乗せていく。即席カリフォルニアロール、チタタプリンスペシャル!

 

 急ごしらえにしてはなかなかいいモノができた、と内心自画自賛する。列が空いた頃を見計らって堂々とメンチのもとへ料理を持って行く。

 正面に立ち素晴らしい高級品を見せるかのようにクローシュを開けると、メンチは目を丸くして言った。

 

「これ、巻き寿司じゃない。握り寿司じゃないからダメ」

「…忘れてた」

 

 せめて食べてほしいと思うが条件と異なるためそのまま皿を下げ、仕方ないので自分で食べる。意外と美味しい。

 しかし不合格は不合格だ、まだチャンスはあると言えどしょうもないミスをして落ち込むリンに、他の受験生に見えないようにオーラを文字にしてリンに見せつけるメンチ。

 

『っていうかあんたリンでしょ』

 

 一発で見抜かれて動揺するが、流石我が親友と同時に感心もする。

 

(よくわかったわね)

(コ・ス・プ・レ!蔵馬をチョイスしてるのは良い趣味ね)

 

 リン達レベルになれば、目で会話するのも内容が具体的になるのだ。ちなみに、これはハンター技能ではなく公衆の面前で腐を晒さないオタク技能である。

 そしてその目が「お前予めお題知っていたのに馬鹿か?」と言っている。リンも「ちゃんと独創性を発揮してやっただろうが文句あんのか」と目で返しておいた。完全に逆切れではあるが。

 

(ていうか405番、あんたの弟でしょ?何あの料理)

(あ、やっぱわかる?可愛さが桁違いでしょ)

(わかるわぁ!昔のあんたにクリソツじゃないの!)

(クリソツって死語使う人ひっさしぶりに見たわ)

(殺すぞボケが)

 

 目で暴言の吐き合いをしているが、これでも二人は親友だ。一応。

 がっくりと引き下がるリンと入れ替わりでハンゾーが皿を持って行く。そしてぶちきれたハンゾーによってスシの内容が全員に知れ渡り、誰もが似たような形状のものを持って行くことになってしまった。

 

(あー、駄目だ。メンチ完全に頭に血が上ってる…こりゃ全員不合格ね)

 

「おいニア!早く作らねぇと合格できねぇぞ!」

「頑張ったって無駄ですよ。試験官、もう合格者を出さないでしょうから」

 

 そう言ってリンはどっかりと壁にもたれかかった。ブハラの方を見ると、同様に呆れた表情をしている。たまたま目が合ったので、互いに労う視線を投げあっておいた。

 

(ああなっちゃったら、止まらないのよねメンチって)

 

 長い付き合いだ、それくらいの事はわかる。

 何十回と試食を繰り返してはダメ出しをし、最後にお茶を飲んでメンチは言った。

 

「わり!腹いっぱいになっちまった!」

(でしょうね…)

 

 二次試験、全員不合格。

 




今朝Xのトレンドでメカクシ完了があがっており、懐かしくなったので急遽連続投稿にしました。
夏の一挙放出祭り、一旦終焉です。
8月15日の午後12時半です。
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